【女子中学生・春ランラン】(5)

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司が、今日の水泳の授業見学しようかなあ・・・などと思いながら学校に出て行く。
 
司は「そろそろ生理だから」と言われて女の子の身体に変えられたあと、6月6日以降は、バストが目立たない大きめのブラウスと(女子用)スラックスという格好で通学していたのだが、それとの“連続性”の問題で司は結局普段着けてるCカップのブラジャーの上にいつものぶかぶかのブラウスとスラックスという格好で出て行った。
 
1時間目の後の休み、(1組の)雅海が(3組の)司を廊下に呼び出す。
 
2人は突然異空間のような場所に来た。
 
「何ここ?」
と司は驚く。
 
「分からないけど多分大きな問題は無い」
と雅海。
 

「ねえ司ちゃん、誰かがぼくの夢の中でこれを司ちゃんに渡してあげてと言ったような気がしたから持って来てみたんだけど」
と言う。
「これなあに?」
「ブレストフォーム。これ接着してるとまるで胸があるように見えるんだよ」
「雅海ちゃんは使わないの?」
「ぼく昨夜貴子さんに女の子に戻してもらった」
「ぼくは昨夜、男の子に変えてもらった!」
「なんでわざわざ」
「だってぼく男の子という建前で野球やってるから男子水着で参加しなくちゃと思ったんだもん」
「それもう今更無理だよ」
「そうかも。今朝お母ちゃんに叱られて男子水着は没収された。女の子は胸が隠れる水着を着なきゃいけませんと言われて女子用スクール水着渡された」
「当然だと思うけど。これ接着してれば水着なら誤魔化せるよ」
「肌に粘着するか何か?」
「接着剤でくっつける」
「わぁ」
「専用の接着剤を使う。これあまり肌を傷めないらしい。外す時はエナメルリムーバーとかで外せる」
「わかった」
「これひとりひとりの肌の色に合わせたオーダーメイドみたいなんだよ。ぼく用を司ちゃんの肌に貼り付けると白すぎて付け乳くっつけてるのが一目でばれる。でも水着に隠れてたら分からないよ」
「なるほどー」
 
それで司はこのブレストフォームをこの空間で接着した。ついでに女子用スクール水着もここで着けちゃった!
 
そして「どなたか分かりませんが、用事は済みました。ありがとうございます」
と言うと、学校の廊下に戻った。どうもリアルの時間は全く経ってないようである。
 
(この空間を作り出したのはP大神から依頼されたA大神。S中はP大神の神圏の外にある。Q神社の神圏からも外れた空白地帯)
 

でも司は思った。
 
「貴子さんがちんちんは無くしてくれてて良かったぁ。ちんちん付いてたら女子用水着を着られなかったよ」
 
それで午後の水泳の授業では司は女子用水着姿を3年生全員に披露することになったのである。なお着替えは広沢先生に声を掛けてもらって女子教師用の更衣室で着替えたが
 
「ああ、最初から水着を着てたのね」
と言われた。
 
「でも水着を脱ぐ時もここに来なさいね」
「一応着替え用バスタオルは持って来ましたけど」
「そんなの外されて“解剖”されるに決まってるじゃん」
「こっわぁ!」
 

プールサイドに行くとクラスメイトの女子に
「司ちゃん可愛いよ」
と言われて、たくさん胸にも触られた!
 
これ先生の目が無いと絶対解剖されそうと司は思った。
 
女子たちは何も突起物が無い司のお股にもさりげない視線をやっていた。
 
司はバスト偽装がバレないかドキドキしていたので、この日は野球部の男子数人が司(の魅力的な水着姿)に熱い視線を送っていることには気付かなかった。
 

司は泳ぎ自体は得意なので、最上級のクラスに入り、ひたすら長距離を通いでいた。このクラスに来た“女子”(女子水着を着た生徒)は、司と、千里・玖美子・留実子・前河杏子にあと1人(後述)の合計6人である。なんかこのメンツなら女子水着姿を曝しててもあまり恥ずかしくない気がした。千里ちゃんとも杏子ちゃんとも親しいし、留実子ちゃんは性別微妙な感じがするし。
 
なお千里Yは30mルールにより、このプールには出現できない。
 

雅海は昨年の水泳の授業でも女子水着姿を披露しているのでクラスメイト女子から
「おっぱい大きくなったね」
「やはり生理が来たから成長してきたんだよ」
などと言われてたくさん触られていた!
 
去年は平らな胸に女子水着を着けている状態を女子たちに見られていたので
「今年はぼくおっぱいあって良かったぁ」
と思った。
 
セナと沙苗は普通に女子扱いなので普通に泳いでいた。沙苗は中級クラスであるが、セナはなかなかバタ足クラスから卒業できない。優美絵ちゃんたちと一緒にバタ足やビート板をひたすらやっていた。ゆみちゃんは昔はビート板を使っても沈んでいたのが、去年辺りからは何とか沈まなくなったので
「少しずつ進化してる」
と言われていた。
 

ところで公世であるが・・・・
 
トランクス型水着を持って学校には出掛けたものの、昼休みに広沢先生が3年1組の教室まで来て、公世を廊下に呼び出して小さい声で訊く。
 
「きみよちゃん、うっかりしてたけど今日あなた水着どうするの?」
「え?普通に水着持って来ましたけど」
「女子用水着よね?」
「そんなの着ません。トランクス型水着です」
「そんなの女子が着けられるわけ無いじゃん!」
「でもぼくは男子ですけど」
「建前は建前、実態は実態。念のためこれ用意してたから今日はこれを着けなさい」
と言われて女子用水着を渡された!
 
女子用スクール水着に近いが、パレオ付きなので、男性器があったとしても目立たない。
 
「こんなの着けられませんよー」
「だって女子の胸を曝したら校長先生が逮捕されるから。くれぐれも男子水着など着ないように。あなたの着替えは女子教員用の更衣室を使っていいから」
と言って同じクラスの雅海を呼ぶ。
 
「雅海ちゃん、公世ちゃんと一緒に女子教員用更衣室で着替えてくれる?」
「分かりました」
 
ということで先生は行ってしまった。
 
「僕、男なのにこんな水着とか着れないよぉ」
と公世は困惑したが、雅海は
「きみよちゃん、恥ずかしがらなくていいよ。胸が小さくたって平気だから。ぼくも去年は胸が全然無い状態で女子水着を着けたんだよ」
と言った。
 

そういうわけで公世はめでたく女子水着デビューすることになった。
 
実際には公世はアンダーショーツで男性器を押さえたので、パレオ無しでも男性器が付いているようには見えなかった。着替えの時雅海から
「きみよちゃん、女子用ショーツ着けててブラ跡もあるなら男子更衣室では着替えられなかった」
と指摘されて
「しまった!」
と思った。公世は最近ショーツを着けるのが普通になってたので、そのことは何も意識していなかった。ブラジャーは土日に早川ラボで練習する時に姉に言われて着けているせいだが、その感覚に少しやみつきになりつつある。(かなり危ない傾向:多分あと1歩くらいで不帰点を越える。今は男に戻れるギリギリくらいの所)
 
公世は女子水着なんて恥ずかしくてたまらなかったが、だれも公世の水着姿には突っ込まなかったので、ごく普通に公世は水泳の授業を受けた。
 
彼はさすがに最上級クラスに行き、何百メートルも泳ぎ続けた。
 
でもみんなは公世の居ないところで
「やはり公世ちゃん(工藤さん)は女の子になったのね」
「胸はまだAカップくらいなのね」
「でも体型は完全に女子の体型」
と噂していた!
 
「工藤さん女の子になっちゃったら剣道はどうなるのかな」
「中学生の内は男子の部に出てもいいけど、高校からはちゃんと女子の部に出てくださいと言われたらしいよ」
 
公世は胸の筋肉もあるのでAカップ程度のバストがあるようにも見える。更に実は何度も性転換された後遺症で乳首が大きい。ただし今日着た水着はカップ付きなので乳首は目立たなかった。もっともカップ付きなのでよけい胸があるように見えた!
 

6月23日(木)は母の誕生日だった。千里Rはコリンに頼んでケーキを買ってもらいそれを持ち帰って母の誕生祝いをした。
 
(買物中にRとYが鉢合わせして消える事故を防ぐため、コリンと小春は千里たちに買物をさせず、Rの買物はコリンがYの買物は小春がしている)
 
「誕生日なんて忘れてた」
と母は言っていた。
「ああ、誕生日なんて忘れたいよね」
などと玲羅は余計なことを言っていた。
 
ちなみに千里Yもケーキを買ったのに30mルールで自宅に戻れないので持ち帰れなかった。A大神が千里Gに託したので、Gは翌日の帰り、玲羅に託した。
 
「これ“別の私”が昨日持って帰ろうとして“消えちゃって”持ち帰れなかったもの。玲羅が持って帰って」
「了解了解。でも“緑”のお姉ちゃんは初めて見た」
と玲羅は千里の腕時計を見て言った。
「私って多分10人くらい居るから」
「うん、そんな気がする」
 
それで村山家は2日続けて母の誕生祝いをしたのである。
 
「何か2つ年を取ったみたい」
などと津気子は言っていた。
 

6月25日(土)は野球の北北海道大会決勝が旭川で行われた。
 
野球部は“ベンチ入り予定の選手”16名と引率の強飯先生、および水野尚美マネージャーが前日金曜日、通常の練習が終わった後、夕方旭川に行って前泊した。夕食は途中のジンギスカン屋さんで食べたが、練習の後なのでみんな凄い量食べていた。今回の宿泊先は安いビジネスホテルである。
 
今回の部屋割
907 水野尚美・福川司
501 強飯監督・菅原主将・前川・小林
502 加藤・東野(以上3年)・山園・宇川
503 橋坂・阪井・田中・梶屋(以上2年)
504 柳田・工藤・小森・飛内(以上1年)
 
今回は前回宿泊しなかった小森君が入り、代わりに松阪君が外れた。
 
「松阪君、もし性転換して女の子になれば女子部屋に泊められるけど」
「性転換したら女子更衣室も女湯も入りたい邦題」
「チンコ無くしたら女の裸見てもオナニーできないからパスで」
「松阪は性転換してもレディスフロアに入れてもらえない気がする」
 
ということで今回、水野尚美と司が泊まる部屋はレディスフロアに取られている。普通のツインルームである。男性陣が泊まる部屋は普通のツインルームにエクストラベッドを2つ入れて無理矢理4人泊まれるようにしたもので(修学旅行仕様)部屋がベッドで埋まっていた!
 

「また同じ部屋ですね。よろしくお願いします」
「うん。またよろしくー」
 
今回はホテルなので部屋にお風呂が付いている。司は良かったぁと思った。大浴場ではブレストフォームがバレちゃうよと思う。
 
でも部屋のバスルームで汗を流しながら司は思った。
 
「どっちみち、ちんちん無いのなら、おっぱいあってもいい気がする」
 
(そろそろ完全な女の子になろうか)
 
しかし尚美は前回一緒にお風呂に入ったことでこちらを“普通の女の子”と思い気を許してるようで、司の目の前で着替えるし、下着姿のまま涼んでる!
 
「尚美ちゃん服着て」
「だって暑いんだもん、司先輩も下着で過ごすといいですよ」
 

なお現在司の性別軸は120度くらいに設定されていて、胸は無いが、お股には男性器は無く陰裂があってクリトリスもある。
 
(再掲)

 
卵巣があるがとても機能が弱い。弱くても生理サイクルは継続中のはずである。司の生理は6月9日にあった。つまり現在は排卵期のはずで一時的に女性ホルモンが弱くなり男性ホルモンが強くなる時期(これ重要)。
 

ベンチ入り以外の部員、1年の女子マネージャー、また応援団・チア部・吹奏楽部は土曜日の午前中に旭川に出て来た。
 
そして12:00に決勝戦は始まる。相手は旭川T中である。
 
ジャンケンで勝ったT中は先攻めを取った。この試合の先発は(左投げの)山園だったが・・・1番打者は右打者である。立ち上がり、コントロールがやや不安定な山園からいきなりホームランを打った。
 
T中が1点先制する。
 
司が山園の所に走り寄り
「どんまい、どんまい。ランナーは残らなかったんだからこれから試合開始と思おう」
と言う。
「うん。その気持ちで行く」
と彼も答えた。
 
そして2番打者も右打者である。でも気を取り直した山園がこれを三振に取る。
 
でも3番の右打者にはレフト前ヒットを打たれた。キャプテンの菅原君が山園の所に寄り「どんまい、どんまい。守っていくから思いきって投げて」と声を掛けた。
 
一塁ランナーは司の肩を警戒してリードをあまり大きく取らない。
 
4番打者も右打者である。ネクストバッターズサークルに入った5番も右打者である。
 

このあたりでT中の意図が分かった。T中はスタメン全員右打者を揃えたのである!
 
春の大会でも右打者の多い打線を組んでいたのだが、今回は徹底していた。
 
ストライクゾーンのギリギリを突く山園の投球に対してバッターは際どい所の球をひたすらカットして粘る。ついに20球目。根負けした感じの山園のボールはアウトサイドに外れる球。これを選んでバッターは4ボールで出塁した。
 
1アウト12塁である。
 
内野が集まる。
 
「右打者相手に投げにくいかも知れないけど強力な左打線が売物のチームで出て来た右打者は、いわば2軍みたいなもの」
と菅原君が指摘する。
「あっそうですよね!」
と山園君も今気付いたように言う。
 
「それに右打者は左打者より一塁まで走らないといけない距離が長いから、殺しやすい」
「なるほどー」
「だから思い切って行け。みんなで守るから」
と言い、山園君も
「分かりました。頑張ります」
と言う。
 

それで次の5番にはまた粘られたものの何とかライトフライに打ち取った。
 
2アウト13塁と変わる。
 
右の6番打者が出てくる。ネクストバッターズサークルに入った7番でピッチャーの近藤君も右打者である。
 
この6番打者がまた粘りに粘った。
 
そして4ボールを選ばれる。
 
司がマウンドに行き「2アウトで1人殺せばいいんだから、ランナーは気にせず打者に集中しよう」と声を掛ける。
 
2アウト満塁で7番の右打ち・ピッチャーの近藤君を迎える。
 
初球だった。
 
失投気味の山園のボールはド真ん中に来る絶好球。近藤君はフルスイングして、ボールは大きく飛ぶ。
 
スタンドの中段に飛び込む特大ホームランだった。
 

満塁一掃で4点が入り5−0となる。多くの人がこれでもう勝敗は決したと思った。
 
監督が選手交代を告げる。複雑なのでメモに書いて渡した!
 
監督から聞いて司は仰天した。場内アナウンスはこう告げた。
 
「センター柳田君に代わりましてレフト橋坂君、ピッチャー山園君はレフト、キャッチャー福川君がピッチャーに回り、キャッチャーは宇川君。1番センター橋坂君、2番キャチャー宇川君、8番ピッチャー福川君、9番レフト山園君。以上に代わります」
 
つまり山園を外野に回しておいて、司がピッチャーをすることになったのである。
 
司は準決勝でも完投しているが一週間経っているので連投規定に掛からない。
 
強力なT中打線相手に前川君や小森君のボールは通用しない(女子マネの水野尚美なら行けたりして。尚美ちゃん度胸もあるし)。それで山園君が打たれたら、投げる人は司しかいなかった。
 
山園は念のため外野に回した。相手が左打者の代打を出してきた時の用心である。逆に左打者の代打を使うなら山園をまた出すぞと相手を牽制することになる。
 
ここでライトにはクリーンナップの一角を打つ前川が入っているのでセンターの1年生・柳田を下げた。結果的に柳田君は1度も打席に立たないうちに交代で退いた!
 

司はプロテクターとレガースを外し、キャッチャーズミットをピッチャーズグラブに交換し、マスクをかぶった宇川君相手に軽く投球練習をした。
 
「プレイ」という球審の声。司はまずは8番打者をセカンドゴロに打ち取って、この回を終えた。
 
そして1回裏、S中の攻撃。満塁ホームランを打って気を良くした近藤君は剛速球を投げてくる。1番の橋坂君、2番の宇川君と連続三振に取る。
 
そして3番の菅原君になる。
 
近藤君にとっては今季初失点(取り消しになったけど)を取られた相手である。近藤君はリベンジに燃えて
「打てんだろう」
という感じの全力投球をド真ん中に投げ込んだ。
 
ところが菅原君はこの“コース的には”絶好球をジャストミート。スタンドに運んでしまったのである。
 
呆然とする近藤君。
 
つまり近藤君としては自分の球速に自信があるのでわざとド真ん中に剛速球投げ込んだ。普通のバッターなら、いくらド真ん中でもこんな速い球は打てない。でも菅原・阪井・前川のクリーンナップ3人はここ1ヶ月ピッチングマシンで彼の球速の球を打つ練習をしてきた。
 
だから“絶好球”を打ったのである。
 
これで近藤君は自信が崩れ、菅原君に苦手意識を感じてしまった。今季2本もホームランを打たれた相手である。この苦手意識は高校に行ってからも続くことになる。
 
菅原君がダイヤモンドを一周してホームイン。5−1と1点返した。
 

気を取り直して次の4番阪井君と相対する。少し警戒して両サイドに散らす。でもアウトサイドの球を打たれて阪井君はライト前ヒットで出塁する。
 
5番前川君と対峙する。右中間に転がる長打コース!
 
阪井君が全力疾走する。ホームでクロスプレイになったものの判定はセーフ。これで5−2。その間に打った前川君は三塁へ。
 
6番小林君が出ていく。小林君はファウルで粘る。そして7球目、低めの球をキャッチャーが後逸した!
 
前川君がホームインして5−3。
 
試合の行方は全く分からなくなった。
 

ついに向こうの監督が動く。近藤君をライトに回して2番手として原岡君がマウンドに登った。昨年の新人戦で山園君と投げ合ったピッチャーである。
 
原岡君は冷静に小林君をセカンドゴロに打ち取り、1回裏を終わらせた。
 

1回の表裏を終えて5−3というのは、この試合打撃戦を予想させた。
 
しかし2回表のマウンドに登った司は120km/h程度の速球とカーブ、そして時折見せるチェンジアップで向こうの9番・1番・2番を連続三振に取った。
 
「福川さんの直球って先週見た時も思ったけど山園君より速いよね」
「いやうちの原岡と、いい勝負の速球だと思う」
「華奢な身体なのによくあのスピードが出るね」
「彼女は物凄く身体が柔らかい。全身のバネを使って投げてくるんだよ」
 
「でもそういう投げ方って球質が軽くなりがちですよね。でも彼女準決勝では外野に届く当たりは3本しか打たれてませんよ。G中結構打撃力あるのに」
「意識的にボールの回転を減らしてるのかなあ」
 
「それに彼女のボールって手元で微妙に変化しない?」
 
「ムービング・ファストボールだと思う」
「・・・・・」
 
「俺も先週スタンドから見てた時は自信が無かったんだけど、ここで見てて確信した。彼女の球は直球(ストレート)ではなく速球(ファストボール)だ。アメリカではこれ投げるピッチャー多いけど日本では少ない」
 
「それで打ちにくいのか」
「芯で捉えるのが難しい。彼女みたいに体重の軽いピッチャーの球は軽くなりがちだけど、多分女の身体で男にも打たれにくい重い球にするのにあの投げ方をマスターしたのだと思う」
 
「だとすると彼女の速球は普通のストレート(直球)を打つつもりでは打てんな」
 
「彼女を先発させなかったのは、やはりうちが左打者打線で来ると思ってたからだろうなあ」
 
(普通に「彼女」と言われている)
 
「しかし打ちにくさ以前にこの速度で投げてこられること自体で今日の打線では厳しいぞ」
 

実際菅原君にも指摘されたが、今日のスタメンは一軍半なのである。しかしここで全員左打者に入れ換えると、山園君が戻ってきて抑えられるのが目に見えている。だからT中としても安易に代打を出せない。
 
実際、この後、2〜4回はどちらも三者凡退という、一転して緊迫した投手戦になったのである。(緊縛ではない←コラコラ)
 
S中としても近藤君の超高校級の140km/hボールが打てるなら、それより緩い120km/hの原岡君のボールも打てそうなものだが、原岡君は近藤君より制球力があるし、カーブも持っているので、キャッチャーの巧みなリードでS中の打者を打ち取っていく。
 
5回も両者無得点に終わり、6回表、T中は3番の所に本来の三番打者である左打者を代打で出してきた。
 
司は“普通の”速球とアウトサイドからストライクゾーンに“入ってくる”カーブで2ストライクを取った後、アウトサイドに今度は115km/h程度の遅い球を投げる。打者は見送って1−2。そして次の球、司は内角低めギリギリに全力投球130km/h超の速球を投げ込んだ。
 
空振り三振!
 
アウトになった打者が「嘘だろ?」という顔をしていた。
 

「何だ?今の球は?」
「あんな速球、先週のG中戦では見せてなかったぞ」
「あれが彼女の本当の決め球か!」
 
(実を言うとあの試合では司は女性体だったので120km/hが限界だった)
 
4番に本来の4番打者の左打者が代打で出てくる。彼は目の前で130km/hの速球を見たので、その球を打ってやるという気持ちで出て行く。
 
しかし司の初球は外角ぎりぎりに“入ってくる”緩いカーブである。
 
2球目。司が速球の腕の振りで投げてくる。
 
バットをフルスイング。
 
でもチェンジアップで空振り!
 
追い込まれたのでバッターは微妙な球はカットする態勢である。
 
1球外角に今度は外すボールで1−2。そして次の球は速球の腕の振りである。
 
バットをフルスイング。
 
でもチェンジアップで空振り!三振!!
 
4番打者が物凄く打ち気だったのでチェンジアップが効いた。
 

5番に本来の5番打者の左打者が代打で出てくる。
 
いきなり内角低め、外れてもいい感じでに130km/hの剛速球。アンパイヤの判定はストライク。
 
「凄い球だ。本当に女とは思えん。それに確かに今微妙に変化した。これは相当気合入れないと芯には当てられんぞ」
と思う。
 
しかし次のボールはチェンジアップである。空振り!
 
「これはとんでもないピッチャーだ。色んな速度で投げてくるからタイミング取るのが難しい」
と彼は思った。
 
そして外角一杯への速球で三振!
 
こうして司はT中の本来のクリーンナップを三者三振に取った。
 

6回裏、先頭の2番宇川君は三振したが、3番・菅原君が少し疲れの見えてきた原岡君からレフト前ヒットを打って出塁する。続く4番阪井君もライト前ヒットで1アウト12塁である。
 
近藤君がマウンドに戻ってくる。
 
近藤君は名誉挽回とばかり気合が入っていた。
 
しかし5番前川君は近藤君の140km/hの直球を左中間に運び菅原君が生還する。5−4と1点差に迫る。
 
結局近藤君は直球以外の球種が無いので、この速度にさえ慣れることができたら結構打てるのである。それをS中の打者たちはここ1ヶ月ずっと練習してきた。
 
6番小林君が出ていく。粘って粘って4ボールを選ぶ。これで1アウト満塁。
 
キャッチャーが近藤君のところに行くが「いい。分かってる」という感じで追い返す。
 
そして7番加藤を三振に取る。これで2アウト満塁。
 
「8番ピッチャー福川君」
という場内アナウンスで司が出ていく。近藤君は
「こいつ女とは思えん凄い球投げるけど、俺は女に負けるわけにはいかん」
とむっちゃ気合が入っていた。
 
近藤君が全力投球で投げ込んでくる。司はフルスイングした。
 

ボールは大きな放物線の軌跡を描いて・・・スタンドに飛び込む。
 
近藤君が呆然としている。
 
阪井君、前川君、小林君、そして司がホームインして、球審はセーフのポーズ。
 
この満塁ホームランで5−8とS中は土壇場で大逆転した。
 
ピッチャーは3番手の1年生ピッチャー北野君が出てくる。近藤はベンチに下げられた。ベンチでも彼は呆然とした顔をしていた。
 
しかし北野君が9番山園を打ち取ってこの回終了。
 

7回表、T中は左打者の代打を次から次へと出して来るが司は6回に出て来た3人ほどではない気がした。
 
130km/hの速いファストボールを使うまでもなく120km/hの速球とカーブ、そしてチェンジアップだけで3人の左打者を打ち取りゲームセット。
 
結局130km/hの速い速球は2回しか使わなかった。
 
両軍整列挨拶して試合が完全に終了する。近藤君はまだ呆然としていた。しかし彼が司に握手を求めるように近づいてくる。司も握手しようと右手を出す。しかし近藤君は握手ではなく司をハグした。それは問題無い?司も抱きしめ返す。司の柔らかいバストが近藤君の厚い胸と接触して圧力を感じる。
 
そして近藤君は言った。
「福川さん好きだ」
 
司はびっくりしたものの言った。
「ぼくは今野球にしか興味ないから。だからお互いがんばろう」
「うん。がんばろう」
と言って2人は再度握手した。“女の子”の柔らかい手と握手した近藤君は頬を赤らめていた。
 
球審は近藤君が司を抱きしめた時は「ん?」と思ったものの、2人が友好的に握手するのを見て、まあいいかと思った。
 
でも司は男の子に告白されてドキドキしていた。
 

ベンチを片付けて球場を出たところで、スーツ姿に着替えた球審さんが強飯監督に声を掛ける。それで強飯さんも笑顔で球審さんと握手した。それで2人の間にはこれ以上わだかまりは残らなかった。(本当はこのような馴れ合いのようなことをしてはいけない)
 
あの事件はこの球審さんにとってもずっと心の重荷になっていたのだろう。だから今回の試合もやらせてくれと申し出、照会された強飯監督もOKOKと応じたのでこの試合をジャッジすることになった。
 
S中の選手たちは「またあの球審かよ?」と文句を言っていたが。
 
しかしこれでS中は北北海道大会に優勝して、とうとう全道大会に駒を進めた(30年ぶりくらいらしい:スケソウダラと炭鉱で留萌に人があふれていた頃以来)。
 

6月26日に開かれた中学硬式野球の北海道理事会において、来年度から夏の大会の支庁予選は6月からではなく7月頭から開始することを決定した。
 
春の大会と夏の大会の間が間隔が短すぎるという意見は以前からあったのだが春の北北海道大会決勝のコールド問題で、同大会の大会長が
「翌週再試合にすると道大会直前になるし翌週晴れるとも限らないと思ってコールドを認めてしまった」
と発言したことから、もっと日程に余裕を持たせるべきという意見が相次いだ。
 
元々は春の大会は地区大会のみだったのが春も全道大会まではしたいという意見があり、日程が詰め込まれた経緯があった。7月に全道大会をしても8月下旬の全日本選手権に間に合うのである。それに7月から始めた場合、各ブロック大会・全道大会を夏休みに設定できて日程に柔軟性を持たせられる。
 

しかし今回の敗戦は近藤君にとって本当にいい薬となった。人は挫折から学ぶものなのである。彼は制球力を洗練するため下半身強化に取り組み、毎日10kmのジョギングを自分に課した。そして狙った所に正確にボールを投げる練習に取り組む。更には自慢の剛速球を活かすためにもカーブを練習し、高校では一回り成長した姿を見せることになる。
 
彼は翌年、高校に入ってから1年目、2つ上のエースが故障したこともあり、3年生のもうひとりのピッチャー(青沼晋治:千里の元彼)と1試合交代で投げて甲子園まで行く。そして甲子園でもBEST8まで勝ち進んでプロ球団から注目されることになる。
 
(近藤君と交代で投げた晋治も日本ハムから声を掛けられた)
 
彼が練習の時ずっと着けているロケットの中に“ある女性”の写真が入っているのを知っていたのはその晋治くらいである。
 

2005年6月25-26日、留萌本線(深川−増毛)で“SLすずらん号”(C11機関車)が運転された。
 
1999年の連続テレビ小説『すずらん』を記念したものである。このドラマではヒロインは留萌地方の“明日萌(あしもい)駅”に捨てられていた孤児で、その駅の駅長さんに育てられたという設定だった。この列車はドラマが放送された1999年から毎年運行されている。(2006年まで運行)
 
明日萌駅の設定で撮影に使用されたのは実際には恵比島駅である。古くは留萌鉄道(恵比島−昭和)との分岐駅であった。留萌鉄道は1913年に開業した軽便鉄道(けいべんてつどう)を前身として1930年に開業。当時この辺りで営業していた炭鉱から石炭を運ぶのに使用された。しかし炭鉱の廃業に伴い存在意義が無くなって1969年留萌鉄道休止(1971廃止)。
 
すずらんのヒロインは大正末期の生まれの設定。炭鉱もニシン漁も盛んな時期なので、こういう捨て子も結構いたかも。今回のイベントでは乗務員が昭和初期の格好をしている。もちろんすずらん号は恵比島駅に停車する。
 
この駅は前述の峠下駅から深川方面にひとつ行った駅である。だから実はあまり“留萌地方”っぽくない。札幌付近から続く盆地の北端付近に位置する。留萌に行くにも旭川に行くにも峠を越える。ここを選んだのは撮影のしやすさの都合か?
 
“SLすずらん号”は8/27-28 9/10-11にも運行される。
 

6月25日(土).
 
土曜日なので星子が千里Bの代理でQ神社でご奉仕していると、貴司がやってくる。
 
「あ、細川さん、こんにちは」
「ほ、“ほそかわさん”?」
 
やっべー。また怒らせたかな。あの子とのことがバレたかな、いやあの子かなと考えるが、思い当たることが多すぎて分からない。
 
「あ、いや忘れてること無いかなぁと思って」
「なんでしょう?」
と星子は悩んでる。
 
そのうち、香取巫女長が
「千里ちゃーん、占いのお客様」
と呼びかける。
「はーい行きます。じゃ細川さん、また」
と言って星子は向こうに行ってしまう。
 
「千里〜やはり凄く怒ってる?」
と貴司は情けない顔をした。
 

貴司がいつもの倉庫部屋に戻り、ちんちんをいじりながら漫画を読んでいたら部屋のドアがあく。誰かな?と思ったら千里である!慌ててファスナーを閉める。
 
(実は千里G)
 
「貴司これお誕生日のプレゼント」
と言って洋菓子の箱を渡す(実はさっき気付いて慌てて買ってきた)。
 
「わぁありがとう(心がばら色になる)」
 
「ハッピーバースデイ」
と言って額にキスするので
「サンキュー」
と言ってドキドキしている。
 
「でもあまり浮気しないでね。**ちゃんとか$$ちゃんとか」
 
げー、全部バレてると焦る。
 
「ごめんごめん。でも本当は千里のことが好きだから」
「あんまり浮気してると、ちんちん切っちゃうぞ」
と言って千里はいきなり貴司のちんちんをズボンの上から人差し指と中指ではさむようにする。
 
「ひっ」
と貴司が声を挙げる。
 

「ん?ほんとに切ってほしいの?」
「いや切るのは無し」
「なんだ触ってほしいのか」
と言って千里は貴司のズボンのファスナーを下げると中に左手を突っ込み、貴司の生ちんちんを掴む。
 
「ひゃー」
 
「掴まれるの嫌だった?」
「いや掴んでほしい」
「じゃ掴む」
と言って思いっきり掴む。(折れたかも)
「ひぃー」
 
「強すぎた?私のも触ってもいいよ」
 
ドキっとする。そういえば千里のちんちんって触ったことないけど。
 
千里が右手で貴司の右手を取り、巫女服の下から入れて自分のお股に触らせた。
 
え?
 
ちんちんは無い?これって割れ目ちゃん?
 
「やっぱ、千里もしかして性転換手術済みなの?」
 
(貴司がこの頃は千里のことを男の娘と思ってたという設定を作者も忘れてしまいそうです)
 
「セックスして確かめる?避妊具は持ってるよ」
 

貴司はほんとにセックスしようかと思った。セックスってしたことないけど、多分やり方は分かる。千里は避妊具持ってると言ってるし。
 
でも・・・
 
「こんな所でしてるの見付かったらただじゃ済まないよぉ」
「あはは。でもしたくなったらいつでもしていいんだからね」
と言って千里は唇にキスする。千里のバストが貴司の身体を圧迫する。女性特有の甘い香りを強く感じる。貴司は閾値(しきいち)を超えた。
 
うっ。
 
逝っちゃった!
 
「ああ、する前に逝っちゃうなんて」
「ごめん」
 
すると千里は液の付いた自分の手を舐めてる!
 
「ちょっとぉ!」
 
「じゃまたねー」
と言って千里は行ってしまった。
 
貴司はしばらく呆然としていた。(ああトランクス自分で洗わなきゃとも思ってる。なんか握られた所が痛いとも思ってる←ほんとに折れてたりして。千里はスティール缶を握り潰せる)
 

「大胆だね」
とVが呆れて言う。
 
「これで一週間くらいは浮気しないでしょ」
と言いながらGは石鹸でよく手を洗った。
 
「精液って何かきれいに落ちにくいね。まだベタベタする」
「誤って妊娠しないように」
 

6月27日(月)、S中では球技大会が開かれた。
 
千里は優美絵と一緒に1年の時はテニス、2年の時は卓球に出たが今年は再度テニスに出た。そしてゼロ負けで、千里は運動神経がいいのにこの系統の競技には才能が無いことを示した。
 
千里はバスケも上手いしソフトボールも上手いのにテニスや卓球だと球が全然思ったところに飛ばないという変な人である。
 
なお実際に出たのは千里Yである。Rは剣道の練習疲れで寝ていた。
 
沙苗とセナは卓球に出たが、こちらもラブゲームで負けている。
 
雅海は昨年同様(男女混成の)ソフトボールに出たが、全打席三振、3エラーでスポーツが苦手であることをあらためて証明した。ダンスは上手いのに。
 
3組の留実子も男女混成競技のソフトに出た。この競技大会は部活でやっている競技には出ないというルールなので、ピッチャーをした留実子の球が打てる子が(男子にも)おらず優勝している。
 

同じく3組の司は女子のバスケットに入れられそうになったが
「ぼく男子ですー」
と強く主張して男子テニスに入れられた。男子のバスケットを本人は希望したが試合中に身体の接触が生じた場合に問題があるとしてテニスに回された。ついでに「これユニフォームね」と言われてスコートを渡され、なーんにも考えずにそのまま穿いて出た。
 
つまりスコートを穿いて男子テニスに出た!
 
(本人が気付かないようにみんなで黙っていた)
 
司は佐藤君と組んで1回戦・準決勝を勝ち上がり、決勝で負けて準優勝であった。
 
「あのペア凄いね。女子同士のペアで男子の部・準優勝とか」
「でもあの丸刈りの女子誰だっけ?」
 
などと言われていた。
 
佐藤君は
「なんでぼく女子に見えるんだろう?」
と悩んでいた。
 
(佐藤君はショートパンツを穿いてる。彼にもスコートを渡したが彼は拒否してショートパンツを穿いた。スコートを渡されて変に思わない司がおかしい)
 

「でも司ちゃんは元々の性別に戻った感じだよね」
と司と小学校6年間のうち4学年で一緒のクラスだった、木村美那が言う。
 
「ぼく、何か変だったっけ?」
「だって小学1年の時はいつもスカート穿いてたじゃん」
「ほほぉ」
「え〜?そうだっけ」
と本人。
「スカート穿いてるから女子かと思ってたら『男子集合』というのに集まるから男の子なのか女の子なのかよく分からないと思ってた」
「やはり小さい頃から女の子になりたかったんだ」
 
「そんなの全然覚えてない」
 
「スカート穿いてるから女の子と思われて市のイベントの時女子更衣室に入れられて、それで女子みんなの前で着替えたらちゃんと女の子パンティ穿いてたしちんちんのあるような膨らみも無かったから『やっぱり司ちゃん女の子なんだ』とみんなで噂してた」
 
「凄い重要な証言を聞いてる気がする」
「でも小学3年生で野球部に入ってそれから少し男っぽくなったのよねー」
「ふむふむ」
「だから性転換して男の子になっちゃったのかなあと思ってたけど実は女の子であることを隠してたのね」
「ああ、そういう人は時々ある」
 
「隠れ女子というやつだよね。表面的には普通の男子を装ってるけど実は女の子。だから大人になってから自分が女装する代わりに女装する可愛い男の娘を恋人にしたりする」
 
「そんなこと無いよ。ぼくは普通の男の子が好きだよ」
と司は言った。
 
みんな納得したような顔をしたが、司は自分の発言の意味を理解していない。
 
この発言をたまたま聞いた同じクラスの野球部某男子は、やはり道大会終わったら福川さんに告白しようと思ったのであった!
 

(1組の)公世は女子の卓球に入れられそうになったが
「ぼくは男子」
と主張して、男子の卓球に入れられた。それで上原君とのペアで優勝したが
「すごいな女同士のペアで男子で優勝するなんて」
と言われていた。
 
「上原君もそろそろ『ぼく本当は女の子になりたいの』と告白しよう」
「別に女の子にはなりたくなーい」
「じゃ単なる女装趣味?」
「・・・・・・」
 
「やはり雅海ちゃんの次に性転換するのは上原君かな」
「卒業記念アルバムにはセーラー服姿の写真入れとくね」
「あ、その写真どこから持って来たの〜?」
「3年女子は全員見ている」
「ひぃーー」
 
これは上原君のお姉さんが撮ってあげた写真らしい。セーラー服を着ているがとても可愛い。撮影場所は旭川の平和通りっぽい。高校から流れて来た。見てないのは多分女子では留実子だけ。。
 

なお卒業アルバムには振袖姿の中山君の写真も入れられる予定だが、これは中山君は笑って承諾してくれた(と編集委員は判断した)。中山君のお母さんは日本舞踊の先生なので、彼も振袖を着てお稽古をさせられている。発表会にも度々出ている。
 
「お姉さんも上手だけど、妹さんの方が更に上手ですね」
などと言われている。姉まで
「派の代表とかかったるいから、あんたが母ちゃんの後を継いでよ」
などと言っている。
「だって女でないと代表になれないのに」
「ちょっと簡単な手術を受ければいいじゃん」
 
母まで「性転換手術受けるなら費用は出してあげるよ」と(冗談で:と信じたい)言っているが、今の所断っている。
 
彼は振袖を着ている時も「ぼくは男の子だから」男子トイレを使うと言っている。でも中山君がスカート穿いて歩いているのを見たとか婦人服売場に居るのを見たという証言も多数ある!
 

6月29-30(水木).
 
2年生は泊まりがけの夏季教室に行ってきた。潮尾由紀は女子水着姿でプールに参加し、
「やはりもう女の子の身体になってたのね」
とみんなから言われていた。
 
「ゆきちゃん、今度からは水泳の授業にも参加しなよ」
「そうしようかな」
と由紀もかなりその気になっていた。一度女子水着姿を見られたら次からはきっと平気。広沢先生は「着替えは女性職員用更衣室使っていいから」と言っている。
 
入浴は大浴場には行かず、生理にぶつかった女性用の個室シャワーを使った。また、宿泊は女性教師の部屋に泊めた。
 

7月2日(土)留萌駅。
 
12:04の留萌本線留萌行の列車から、中学生っぽい姉妹が降り立った。
 
2人は実はこのようなルートで留萌に辿り着いた。
 
7/01 大阪0:32(サンライズ出雲:サンライズツイン) 7:08東京
この日は皇居に行った後、上野動物園で昼過ぎまで遊ぶ。上野動物園に“お上りさん”っぽい中学生がいても誰も怪しまない。
 
同日 上野16:20(カシオペア:カシオペアスイート)7/2 8:54札幌(*22) 札幌10:00(スーパーホワイトアロー7号)11:02深川11:08(留萌行)12:04
 
(*22) 7/1(金)に札幌行きカシオペアが少なくとも運行予定であったことは2005年7月版乗換案内で確認。カシオペアは通常は火金日に札幌行が運行されていたが多忙期には曜日を無視して隔日運行された。7/1が通常期か多忙期か微妙な気がしたので当時の乗換案内で確認した。
 

2人は留萌駅近くにあったマクドナルドで姉はダブルバーガーのセット、妹はフィレオフィッシュのセットを食べる。
 
「たまにはこういう庶民的なものもいいね」
と姉。
「私は毎日マクドでもいい」
と妹。
「そう?あんた牛丼も好きって言ってたね」
「うん、あれは美味しい。私は松屋のが好み」
「ああ、松屋とか杉屋とかあるんだっけ?」
「すき家!」
「難しい」
「お姉ちゃんそういうの全然分からないよね。でもカレー粉はバーモントカレーだよね」
「だって美味しいじゃん」
「お姉ちゃん、あまり外食しないもんね」
「私ももっとそういう食べ物に慣れるべきかなあ」
などと姉は言っている。
 

食事が終わった後、駅前まで戻りタクシーに乗って「C町のP神社まで」と言った。
 
「お客さんたち関西の方ですか?」
と老齢の運転手さんが訊く。
「ええ、三重から」
「もしかして2人だけで?」
「友人を訪ねてきたので」
「ああ、こちらにお友達がいるんですね」
 
運転手さんはひょっとして家出娘ではないかと心配したのである。しかし行き先が(お祭りの時以外は)どう考えても観光客など行きそうもないP神社と聞き、そこにお友達がいるというのであれば大丈夫だろう。宮司さんのお孫さんのお友達か何かかなと思った。
 
でも実は家出娘だったのである!!!
 

姉が料金を払い、妹が「ありがとうございました」と言って2人はタクシーを降りる。そしてP神社の拝殿でお参りしてから御札授与所に居た女子中生に声を掛けた。
 
「村山千里ちゃん居る?」
「はい、えっとそちら様は・・・」
と言っていたら、当の千里が出て来た。
 
「紀美ちゃん、貞美ちゃん、いらっしゃい」
と笑顔で言う。
 
「千里ちゃん、久しぶり」
 
(このやりとりを見てから運転手さんは安心して帰って行った)
 
「あがってあがって」
と言って社務所の部屋に通す。祈祷を待つ人を入れる部屋だが、この神社で“祈祷を待つ”という事態は年末年始や例祭の時以外ではめったに発生しない。
 
小町がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「あ、これ結構美味しい」
「旭川のお菓子なんだけどね。ちょうど昨日行ってきた人が居たから」
「へー、私たち今朝札幌から旭川行きに乗った」
「50年くらい前は札幌から留萌への直通列車もあったらしいんだけど(*23)今は全部深川乗り換えなのよねー」
 
(*23) 札幌−増毛間の急行「ましけ」が廃止されたのは1980年10月なので現在(2005年)からは25年前である。
 

「札幌まではカシオペアに乗って来た」
と紀美。
「おっすごーい」
「展望室スイートだったよ」
「よく取れたねー」
 
展望室スイートは1列車に1室しかないので物凄く競争率が高い。昨年千里が乗ったのは同じスイートでもメゾネット型。これは6室あるので少しだけ取りやすい。
 
「親しくしてる旅行代理店の人が頑張ってくれた。6月3日の金曜日から始めて1ヶ月間、予約のボタンをクリックし続けて12回目での成功」
「すごーい!」
「東京まではサンライズ出雲で」
「へー。今紀美ちゃんたち出雲に居るの?」
「内緒」
「うん、いいよ」
 
(実は家出して来たので目下住所不定!)
 

「それでさ、千里ちゃんジャンケンしない?」
「ジャンケン?何の?」
「いいから」
「うん」
 
それでジャンケンすると、紀美がパーで千里はチョキである。
 
「負けたぁ」
と言って紀美は悔しがっている。
 
「負けたから潔く教主の地位は千里ちゃんに譲るわ」
「理数協会の?私はそんなものには興味無いよ」
「そうなの?じゃ貞美が継ぐ?」
 
「かったるーい。そんなのより私パイロットになりたいな」
「パイロットとか凄いね」
「ボーイング767ジャンボを操縦してみたい」
「ジャンボは747だけど」
「あ〜れ〜」
 
この姉妹なかなかいいコンビだなと思った。
 

「じゃ教主は**ちゃんとかが継ぐのかなあ」
 
例の光辞を恵雨さんが書写させてみた人だ。一度会っているが、典型的な巫女タイプの人だと思った。ある程度の霊的な力がありそうだった。
 
「やりたい人がやればいいんじゃない?紀美ちゃんが継ぐのかと思った」
 
この子そういうのが好きそうだし。この子が教祖を名乗れば多分1000人はすぐに信者が付く。
 
「千里ちゃんにジャンケンで負けたから継がない」
「ふーん」
「だって曾祖母ちゃん無茶苦茶ジャンケン強いんだよ。私どうしても勝てない」
「ああ強いだろうね」
「私**ちゃんにも##ちゃんにもジャンケンで勝てるのに」
 
「ジャンケンで決まるのか」
と貞美が呆れている。
 

「ねね、ここに“光辞”がフルセットあるんでしょ?見せてくれない?」
「いいよ」
と千里は言うと奥の部屋に案内する。桐の箪笥があり、その中に光辞の“写し”は納められていた。光辞は和紙に書かれている。
 
「すごーい!でもこれ私にはチンプンカンプン」
「意味が分かって読めるのは恵雨さんだけだと思う。私は読むけど意味が分からない」
「へー」
と言って紀美はその記号の列を眺めていた。
 
(これは“写し”ではなく“コピー”なのだが、和紙にインクジェットで印刷されたものなので、コピーであることが分かりにくい。本物の写しは実は物置きに置かれている)
 

「紀美ちゃんたち明日帰るの?」
と千里は何気無く訊いた。
 
「ううん」
「まさか日帰り?」
「いやずっとここに居ようかと思って」
「ああ、もう夏休み?」
「いやここに住もうかなと」
「え?お母さんは?」
「母ちゃんが集会に行ってる隙に出て来た」
 
千里は少し考えた。
 
「まさか家出〜〜!?」
 
「私は付添い。お姉ちゃんが1人で旅したら絶対目的地に着けない。留萌に行くつもりできっと鴨居(神奈川県)か雲井(滋賀県)、へたすると中国の廈門(あもい:福建省)に行っちゃう」
と貞美。
 
北海道の留萌(るもい)に行こうとして間違って中国のアモイに着くなんてことは・・・紀美ならあり得るかも!?
 

「ねぇ、取り敢えず今夜泊まるとこどこか無いかな」
と紀美は言う。
 
千里は腕を組んで考えた(*24).
 
「お母さんにちゃんと連絡するなら斡旋(あっせん)してもいい」
「まあ母ちゃんには連絡しないと叱られるかな」
と紀美も言う。
 
それで紀美は自分の携帯から母(真理)の携帯に掛けた。
 
怒声が聞こえる。かなり叱られているようだ。しかししばらく話している内にどうも向こうは落ち着いて来たようである。
 
「母ちゃんが千里ちゃんに代わってって」
「OKOK」
 
それで千里が代わると真理は最初に光辞の作業が中途半端で終わったことを詫びた。その件では千里が、夏休みに河洛邑に行って作業の残りをすることで恵雨さんと話が付いたことを述べた。その上で紀美たちについて夏休み中だけでも、適当な所に泊めてやってくれないかと頼まれた。費用は全部出すからというので了承した。
 
「じゃ案内するよ」
と言って千里は紀美・貞美と一緒に出掛ける。
 
(*24) 千里Yが考えている内にGと入れ替わった。だから紀美たちを沙苗の家の隣(正確には1軒及び道を挟んで隣)に案内したのは千里Gである。
 
┏━━┓┏━━┓細┏━━┓
┃原田┃┃斉藤┃い┃★★┃
┗━━┛┗━━┛道┗━━┛

 

神社から150mほど離れる。
 
「この家を自由に使って」
「ここは?」
「私の別宅みたいなもの。今何にも使ってないから取り敢えず夏休みが終わるまで紀美ちゃんたちが使っていいよ。布団とか最低限の食料はあとで持って来させる」
 
「ありがとう」
 
「電気と水道は来てるから何とか暮らせると思う」
「電気と水があれば何とかなるかな」
「あ、そうそう。下水道は無いから台所やお風呂の排水は家の前の溝にそのまま流れるから」
「トイレは?」
と貞美が訊く。
「汲取り(くみとり)」
「つみとりって何だっけ?」(*25)
 
(*25) 紀美たちは生まれた時から下水のある所で暮らしているのでバキュームカーを見たことがない。1960年代頃からバキュームカーが登場する以前はほんとに作業員さんが桶で汲み取って屎尿運搬車まで運んでいた。前後に2つの桶が付いた天秤のようなものを使っていた。
 

千里はA大神の指示でW町の家に用意していた寝具を星子に頼んでライフで持って来てもらった。
 
千里Gも大神からは「お客様が2人来るから」とだけ聞いていて紀美たちとは思いもよらなかつた。
 
ついでに基本的な鍋と調理器具、炊飯器、ケトル、食器もジャスコで買って運び込ませた。また簡単にできるものとして、カレーの材料とお米2kgを買って来た。
 
ここで星子はいつものくせでバーモントカレーを買ってきたが紀美は
「あ。私の好きなバーモント・カレー甘口だ」
と喜んでいた。それでこの家のカレーも以降バーモントカレー甘口になる。
 
「毎日P神社で夕方から勉強会してるから、紀美ちゃんと貞美ちゃんも来るといいよ。同年代の女の子がたくさんいて、話も結構合うと思う」
と千里は言う。
 
「女の子だけなの?」
「男の子は女装するなら参加してもいい」
「面白ーい!私女装して参加しよう」
「紀美ちゃんなら性別ばれないと思うよ。でも女装男を射殺するというのはやめたんだ?」
「心が女だから女の服を着てるという子はOK。心が男のくせに女装している変態野郎は射殺してやる」
「ほほぉ」
 
田代君、射殺されなきゃいいけど、と千里は心配した。
 

「そうだ。紀美ちゃんお金大丈夫?何なら少し貸そうか?」
「あ、それは大丈夫。持ってきたから」
と言って旅行バッグを見せる。
 
「まさかそれ着替えとかじゃなくて現金なの〜?」
 
逆にこの2人は着替えをあまり持っていなかったので、白虎と南田兄に留守番をさせておき、星子が今度は姉妹を連れてジャスコに行き、少し買物させた。
 
千里は現金を大量に持っておくのは危険といって地元の銀行に口座を作らせ、そこに入金することにした。真理さんに委任状を送ってもらい、コリンが付いていって(南田兄に銀行前まで護衛させた)地元のS銀行に口座を作る。
 
(南田兄が行内に入らないのは銀行強盗と誤認!?されないため)
 

「口座を作りたいんですけど」
「はい、ありがとうございます」
 
「友人の子供でしばらく留萌に滞在するんですけど、夏休み中多額の現金を持ち歩くのも不用心だし、地元の銀行の口座使うと、こちらでは引出し手数料がもったいないのでこちらの銀行に口座を作らせて頂こうと」
 
「分かりました。御本人の保護者さんが一緒でない場合は委任状か何かが欲しいのですが」
「持って来ました。それとこれ本人の住基カードです」
「了解です。これでお作りします。本日はいくらかご入金なさいますか」
「はい。これお願いします」
と紀美はカバンをカウンターに置く。
 
「あのできたらカバンから出して頂けないかと」
「出すのが大変なので」
「と言いますと・・・」
と窓口の係の女性は戸惑っている。
 
「お姉さん、中見たら分かる」
とコリン。
「はい?」
と言って窓口のお姉さんは笑顔でカバンの中を覗いた。
 
ギョッとする。
 
こんな田舎の支店でこんな量の現金を目にすることはなかなか無い。
 

結局行員が5人掛かりで1時間かけて数え何度も確かめて、2億9430万円あることが分かった。数えている間、コリンと紀美は支店長が応対し、極上の紅茶とケーキを頂いていた。
 
「この金額でよろしいでしょうか」
「そちらで数えてそうならそれでいいと思います。箪笥の中から適当な額をカバンに移して持って来たから(←ふつうそれを窃盗と言う)」
「はあ、箪笥の中ですか」
 
支店長は、この家は無造作に何億円もの現金が箪笥に入っているのか、凄い家だと思った。
 
(ちなみに真理は現金が3億円ほど無くなっていることに気付いてない)
 
とにかくそれでこの銀行の通帳とカードを発行してもらった。
 
「ちなみにいくらか定期にしていただくことは」
「じゃ切りのいいところて2億円分は定期に」
「はい。すぐ移動させていただきます」
 
 
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【女子中学生・春ランラン】(5)