【女子中学生・春ランラン】(3)
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5月9日(月).
昼休みに雅海と司は少し深刻そうに話していた。
「この状態で性別検査受けさせられたってのはやばいね」
「ぼく、女子だから男子選手としては登録できませんって言われたらどうしよう」
「うーん」
と雅海も悩む。
「あの検査は信用できない。もっと大きな病院で再度しっかり検査してくれって言うしかないと思う。貴子さんと何とか連絡取って男の子の身体に戻してもらってそれで再検査してもらう。それで男と証明されれば出場させてもらえると思う」
「やはりそれだよなあ」
「でもなんか貴子さんと連絡が取れないんだよ」
「貴子さんとは千里ちゃんも連絡できると思う。千里ちゃんに頼んでみよう」
「千里ちゃんか。あの子に頼むと何か全て解決できる気もする」
「何か色々な手駒とコネを持ってるみたい」
そんなことを言ってたら当の千里が来る。
「あ、いたいた。2人まとめてだと楽だ」
と言って千里は2人にひとつずつ黒いビニール袋が入った紙袋を渡した。
「よく分からないけど、誰かがそれ買って司ちゃん雅海ちゃんに渡してと言った気がしたから買って来た」
(言ったのはA大神)
ふたりがそっとビニール袋の中を覗いてみるとナプキンである!センターインで先日雅海が買ったのと同じブランドの品である。
「ナプキンとかどうするの?」
と司が訊く。
雅海が言う。
「さっきから気になってたんだけど、司ちゃん、お腹を手で押さえてるよね」
「うん。何かお腹が痛くて。寝冷えかなあ」
「それ生理の前兆、PMSだと思う」
「え〜〜!?」
「ぼくお姉ちゃんに見てもらって買ったナプキン昨夜からお股に当ててる。司ちゃんも当てといたほうがいいよ」
「まさか生理が来るの〜?」
と司は困惑している。
千里が言う。
「まだ初潮来てなかったの?お腹の下の方が痛かったらそろそろ生理が来る予兆だから着けとくといいよ」
「せ、せいりって・・・・」
と司はまだ混乱している。
「ごめん、これいくらした?」
と雅海が千里に訊く。
「2人分で700円くらいだったかな。何かのついでの時でいいよ」
「いや分からなくなっちゃうから払っとく」
と言って雅海は千里に700円渡した。
「サンキュ。じゃお大事にね〜」
と言って千里は行こうとする。
「あ、待って」
と言って雅海は千里を呼び止める。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど」
「ふーん。深刻な相談みたいね。だったら2人とも今日は早退しない?」
「あ、うん」
それで雅海と司は担任の先生に
「体調が悪いので早退したい」
と言った。
千里がタクシーを呼んで2人を乗せる。千里はタクシーでW町の病院跡に行った。
「去年の6月にここに連れて来られた」
と司が言う。
「ぼくは去年の5月にこんな感じのシチュエーションでN町の家に連れて行かれたことある」
「ここは病院跡で病院の施設がまだ生きてるからね。ふたりとも邪魔なちんちんを切り取ってあげてもいいよ。ちんちん切るくらいなら傷も一週間で治るよ」
「簡単に言うなあ」
「でもぼくたち今ちんちん無いんだよ」
「なあんだ。もうちんちん取っちゃったんだ?」
「それがちょっと問題で」
居間(診察室?)に入ってから、千里は最初に言った。
「司ちゃん、トイレでナプキン付けてきなよ」
「そうする!」
と言って、トイレに入り、司はナプキンを付けてきた。
(司はショーツを着けているのでナプキンが装着できる)
千里は紅茶を入れ、クッキーを勧めた。
それをいただきながら主として雅海が今回の問題を千里に話した。
千里は言った。
「貴子さんとの連絡を取ることは可能」
「ほんと?」
「でも取り敢えず2人とも生理が終わるまでは待ったほうがいい。男の身体では生理の出てくるところが無いから」
「ああ」
「だったら再検査を申し入れるのもその後か」
「でもこの問題は多分再検査を受けなくても何とかなると思う」
「ほんと?」
「問題は恐らく今週中に解決する。だから司ちゃん、ちゃんと北北海道大会に出場できるよ」
と千里は言った。
千里ちゃんが言うなら、本当にそうなるかも、と2人は思った。
千里はきーちゃんに電話した。きーちゃんも千里からの電話では出るしかない。それで2人を生理が終わった時点で男の娘に“いったん”戻してあげることにきーちゃんは同意した。
(ここで2人と話したのはもちろん千里Gである。雅海と司が早退の手続きをしている間に入れ替わった)
5月9日(月).
中体連・剣道部門の本部(東京)!から文書が届いた。
「工藤公世選手は性別検査の結果、中性であり、男子部門・女子部門のどちらに出てもよい状態であることが確認されましたので、本人が男子部門への出場を希望するということから、2005年度いっぱい男子の部への出場を認めます」
とある。
(昨年の全国大会での簡易な検査では「性別が曖昧」という診断か出ていたので、精密検査で中性であるという結果が出たのはそれと連続性がある、また春の検査でも「睾丸が無く小さな卵巣がある。しかし股間形状は男子に近い」という検査結果で今回の検査とだいたい似ていた)
またこの件で剣道連盟の人から岩永先生に電話があり“口頭で”
「工藤公世(きみよ)選手について、男子としての剣道連盟の登録証は暫定的に有効とします。ただ工藤選手は男子を選択することで、今年度いっぱいは女子の大会には出られませんから」
と言われた!
「それともし将来的に女子部門に転向するつもりがあったら、毎月彼女に病院でホルモン濃度の検査を受けて記録を提出してほしいのです。男性ホルモン優位の状態が続いたりした場合、あるいは検査結果が無い場合、女子部門への出場を拒否される可能性がありますから」
「分かりました。それは受けさせます」
岩永先生は、ホルモン濃度の検査は、潮尾由紀にも受けさせておいたほうがいいなと思った。
岩永先生から話を聞いた公世は
「ぼくほんとに高校に行ったら女子の部に出てねと言われるかも」
と不安に思った。
「そして制服も女子制服着てねと言われたりして・・・」
と少し妄想した。
女子制服で通学するとか恥ずかしいよー。(←嫌ではないんだ?)
でもホルモン濃度の検査を毎月受けることは同意した。
岩永先生は“卵巣が存在し睾丸は存在しない”というのは、多分本人も意識しているだろうと思ったので公世には敢えて言わなかった。
翌日の部活の時間、女子剣道部で公世の性別検査の件が話題になる。公世は男子剣道部内にまともに練習相手になる選手が居ないためいつも女子剣道部に来て、沙苗や玖美子と対戦している。
「公世ちゃん、抜き打ち性別検査受けさせられたんだって?」
「全く参ったよ。女のお医者さんに裸を観察されて恥ずかしかった。ちんちんが本物かどうか確認するのに触られたし」
「触られたって、回転運動掛けても勃起しないことを確認されたの?」
「突然針を挿されて痛がったのを確認されただけだよ」
(取り敢えず勃起しないことはここでは言わない。女性医師に触られても勃起しないので針を刺された)
「それでちんちんは偽物で、性別は間違いなく女子と判定された?」
「間違いなく男子と判定されたよ!ちんちんも本物と認められたし」
(本当は検査結果を聞かされていないので男子女子どちらの判定だったのか知らない。男子の部に出てよいと言われただけで満足している。公世は卵巣が発見されたことも聞いていない)
「それはおかしい。きみちゃんは間違いなく可愛い女の子なのに」
「でも中学の間は男子の部への出場認めるけど、高校からは女子の部に出てくださいと言われたらしいよ」
と白石真由奈(女子の間で高速に広まる噂についてはとても詳しい)。
「やはりねー」
「そんなこと言われてないよ!ぼくは高校でも男子の部に出るよ(そう希望すれば出られるはずだし)」
「きみちゃんはうまく誤魔化したみたいだけど性別検査を受けさせられたらやばいのはゆっこ(潮尾由紀)ちゃんだろうね」
と玖美子。
「あの子は“間違いなく女子”と診断されそう。おっぱいもだいぶ大きいし。男子たちによるといつも個室使ってるらしいから、ちんちん無いのは確実ですよ」
と彼女を小学校の時から見ている御厨真南。
「あの子白い道着を使う理由、訊かれる度に違うこと言うから、本当は自分で白を指定して買ってるんですよ」
「春の大会の会場では女子トイレ使ってましたね」
(↑実際は男子トイレに入れてもらえなかったので女子トイレを使った)
「ゆっこちゃんは天野道場には女子制服で来てましたよ」
と如月。
「ほほお」
「大会に出る時はスポーツブラ着けるよう勧めておきました」
「それ着けたら成績上がるかもね」
公世が玖美子(女子剣道部部長)に言った。
「もしあの子が女子剣道部に入れてと言ったら入れてあげてよ」
「ああ、それは全然問題無い。大会の時だけ男子に出ればいい」
と玖美子も答えた。
「大会も女子の部に出てと言われたりして」
「あり得る」
「女子に来たら成績さがるだろうけどね」
「なんで?」
「男子部門に出てると相手は女と思って無意識に手加減してしまう。でも女子に来たらみんな本気で相手するからね」
「ああ」
「ヒデカちゃんもやばいよね」
「だから先月の大会では、なんでそちら女子が3人入ってるんです?と言われた」
と公世自身が言っている。
「男の娘剣道部を作るべきかなあ」
「きみよちゃんに部長になってもらって」
「ぼくは普通の男子だよ!」
(公世には卵巣があるという診断結果が出たらしいという噂は既にこの学校の全女子に伝わっている。男子でも半数くらいが知っている。本人も聞いてないのに!)
5月10日(火)
中体連・野球部門から福川選手の選手登録取り消しの通知があった。
強飯先生は不服の申し立てをした。中体連の事務局に乗りこみ、留萌支庁の理事さんと話すと
「それは中央の決定なので自分では何とも」
と言う。すると
「だったら中央と話すから、誰と話せばいいか教えてくれ」
と要求する。理事さんは強飯先生の勢いに負けて、東京の中体連野球部門と連絡を取り、部長さんが会ってくれることになった。
強飯先生はその日の最終飛行機で東京に向かった。
留萌1812-1909深川1918-2020札幌2028-2054千歳2103-2110新千歳2145-2320羽田
5月11日(水)。
強飯先生は中体連野球部門の本部に乗りこみ、部長さんと直談判した。
最初に強飯先生は今回の“抜き打ち検査”は未成年の選手を保護者の同意も取らず、しかも顧問の自分も居なかった日に強引に連れ出して検査を受けさせたもので、その手続きが違法であると指摘した。確かにそれを指摘されると向こうは謝るしかない。大会でのドーピング検査なども未成年選手については全て事前に保護者の同意書を取っている。今回はそのような手続きも無かった。
そして強飯先生は違法な手続きにより収拾された情報は無効であるから、福川が女であるという検査結果自体が無効であると主張した。
(部長さんが法務部門に確認すると、強飯さんの主張が正しいと認めた。法務部の弁護士さんは「それ暴行罪と誘拐罪が成立する可能性ありますよ」と苦言を呈した)
強飯先生は検査が必要ならあらためて別の日付に第三者が選んだ病院で再度検査をさせてほしいと言った。先生には日付を指定して検査をやり直せば彼女が男という診断結果が出るだろうという確信があった。多分彼女は物凄く巧みに性別を誤魔化している。
強飯先生は更に、そもそも選手から女子を締め出す現在の規定そのものが、違法である可能性が高いと指摘する。実際サッカーでは“女子”と“一般”というカテゴリー分けであり、女子選手が“一般”部門に出てよいし実際男子に混じってプレイしている女子選手もいる。アメフトのような野球より遙かに激しい競技にも男子に混じって活躍する女子QBなどがいる(アイシールド21の小泉花梨のモデルになった人)。野球だけ女子を排除するのはおかしいと強飯先生は主張する。
部長さんもアメフトに女子選手がいるのは知らなかったようで念のため確認して事実と分かると「あんな激しいスポーツでよくやるねー」と感心していた。
そして強飯先生は、福川が普通の男性と同様の強健な身体を持ち、10kmのロードを40分で一気に走り、水泳でも1600mなど平気で泳ぎ、野球では時速130kmの剛速球を投げる選手であること、捕手として出場している場合も強肩のキャッチャーであることをビデオ(昨夜ホテルで編集した)を見せながら部長さんに説明する。
それで5時間にわたる激論の末、部長は福川司を男子チームに選手登録することを認めてくれたのである。
今回の“抜き打ち検査”の違法性・無効性については曖昧にした。しかし結果的には4月頭に受けた性別検査を活すことにした。その検査では司は男子であると出ている。
陰嚢はあるが中に睾丸は無い。卵巣や子宮らしきものはあるがとても小さい。基本的には半陰陽と思われる。ホルモン的には女性ホルモン優位である。しかし陰茎が存在し、股間の形状は男子に近いので、本人が希望するなら、男子に分類してよい。
となっていた。(トマムから戻った時、こういう状態にされていた)
部長は内心、この検査の後で陰茎を除去して陰唇を形成したのかもしれないと思った。でも手術によって女性になった選手なら出場を認めてもよいかと思ったのである(とりいかずよし「ミスターマドンナ」の世界?)。
それにそもそも半陰陽の選手の場合はケースバイケースで判定される。しかし半陰陽だから(疑似)男性器があっても女性的な外見だったのだろうという気もした。
しかし司は少なくとも“中体連”主催の野球大会に男子チームの一員として出場できるという部長裁定を獲得した(来年度になると高体連の管理になるので高校での出場資格については高体連の判断に従うことになる)。
そして新たな登録証を発行して、その場で強飯先生に手渡してくれた。
ただ部長は言った。
「中学では女子のチームが極端に少ないという事情もあるので今回は認めますけど、高校には女子の野球リーグとかもあるので、高校進学後はそちらに転向することを考えてほしい」
「まあ本人には伝えますよ」
と強飯先生は明言を避けた。
ともかくもそれで司は目前に迫る北北海道大会に選手として出場できることになったのである。
強飯先生はその日の内に北海道に戻ってきた。とんでもないハード日程である。59歳(終戦前日の8.14に生まれたのでギリギリ戦中派らしい。でも情熱とハッタリの獅子座!)という年齢なのによくやるものである。
羽田21:00-22:30新千歳(息子さんに迎えに来てもらい25時頃留萌着)
強飯先生が持ち帰った司の新しい登録票には「福川司・性別:*」と記され、性別の記述が無い!所属は「留萌市立S中学校男子野球部」登録種別「選手」となっていた。
実は部長さんは
「彼女が将来女子野球にも行けるように性別不記載にしたい」
と言い、強飯先生も
「うちのチームに選手登録できるならそれでもいい」
と言って、両者が妥協した結果である。
(システムの出力内容をPDFに出力してPDFを直接修正した!裏面に部長がサインしている)
女子マネの水野尚美(2年)などは「性別:女」と明記され、所属が「留萌市立S中学校男子野球部」ではあるが登録種別は「マネージャー」となっている。ベンチには入れるが試合中にベンチを出てグラウンドに入ることは(緊急時以外)許されない。
でもチームメイトはみんな思った。
「福川さんが実は女子なのに今まで性別を誤魔化していたことがはっきりして何か安心した」
そして何人かは思っていた。
「福川さんと恋人になりたいな」
と。
強飯先生が東京に行っていた5月11日(水)、司と雅海は初めての生理を体験した。雅海は日曜から、司も雅海の助言で月曜からナプキンをお股に当てておいたので、来た時に下着を汚さずに済んだ。
「でもこれ辛いよー」
と2人とも思った。
毎月これを経験している女子は偉いよとも思った。
ただ司はナプキンの交換場所に困った。それで同じクラスで、女子ソフトボール部の麦美ちゃんに相談した。
「ああ、司ちゃんは女子トイレ使ってもいいからおいで」
と言って手を握って一緒に女子トイレに入ってくれた。お陰で無事、ナプキンの交換をすることができた。
「でも司ちゃんももう男子トイレ使うのやめて女子トイレにおいでよ」
「恥ずかしいよぉ」
「恥ずかしかったら、私でも尚子ちゃんや数子ちゃんでもいいから声を掛けなよ。一緒に入ってあげるから」
「ありがとう」
でも司に生理が来たというのは翌日までには3年の全女子に伝わっていた!
「雅海ちゃんも生理来たらしいよ」
「2人ともこれで完全な女の子だね」
そして翌日から司は男子トイレの使用を拒否されるようになった!
「女の子は女子トイレを使うように」
「えーん」
それで司は雅海同様、男子制服を着ているものの女子トイレを使うという状況になったのである。
つまり司は強飯先生の努力で男子選手に留まることができたものの、校内ではもうほぼ女子扱いになってしまった!
5月12日(木)には実力テストが行われた。勉強会グループの成績は下記である(1年春→夏→冬→2年春→夏→冬→今回)。
玖美子1-1-1/1-1-1/1 蓮菜2-3-2/3-2-2/3 田代3-2-3/2-3-3/2 美那22-14-12/10-9-8/7 穂花25-16-11/9-8-7/6 千里40-26-22/16-14-12/10 恵香43-32-28/22-18-16/12 沙苗65-41-36/32-31-30/28 留実子74-58-47/44-40-36/30 セナ78-81-68/69-60-64/72
玖美子は不動の1位、蓮菜と田代君は例によって2位と3位を交替で取り、それ以外のメンツはセナを除いて!全員成績を上げている。千里はとうとうBEST10に入った。花絵さんから渡されて頑張って解いていたドリルの成果である。
セナの成績が悪いのを見て、P大神は
「これならこの子は中学卒業後、旭川や札幌の高校に進学することは無いな」
と嬉しそうにしていた。
5月13日(金).
校内マラソン大会が行われる。
公世は広沢先生から「女子の3kmを走る?」と訊かれたが「ぼくは男子だから5kmを走ります」と言って男子の部に出て、優勝した。最後は陸上部のエースと1kmほどに及ぶデッドヒートを繰り広げ、最後はわずか3秒差だった。
留美子は「ぼく男子に出てもいいですか?」と広沢先生に訊いたが「一応女子の部に出なさい」と言われ、女子の部に出て優勝した。こちらも陸上部女子とトップ争いをしたが残り500mで振り切った。
「男女とも優勝者には性別疑惑がある」
とみんなに言われた、
潮尾由紀、春女秀香はいづれも「女子のほうに出てもいいよ」と言われたが「一応男子として登録されていますから男子に出ます」と言って男子に出てしっかり完走した。この2人は充分な体力があるので、広沢先生も男女どちらに出るかは本人たちに任せた。
特に潮尾由紀は男子20位の好成績だった。彼女はスポーツブラを着けていた。
沙苗と世那はどちらも普通に女子に出た。沙苗はほどほどの成績だったが、世那は、優美絵、千里(Y)、恵香、小春などと一緒に女子完走者の最後でゴールした。優美絵は体力は無いが3km程度の完走は可能である。
千里(R)の方は、玖美子・蓮菜などと一緒に上位のほうでゴールした。
雪子は「あなたには無理」と広沢先生が言って見学させた。雪子は昨年も途中で走れなくなって座り込み、棄権している。(その後、病院に運ばれた!)
雅海と司については、各々のクラスの保健委員が「生理来たばかりで大丈夫?」と尋ねたが「もう3日目だから大丈夫」と言って2人とも男子の5kmを完走した。司は12位に入る健闘だった。やはり3月から始めた早朝ジョギングが効いているのだろう。彼は女子のゴール票を渡されそうになったが
「ぼく男子です」
と申告し、広沢先生がゴール係の生徒(生理などで見学に回った生徒)に指示して、ちゃんと男子のゴール票をもらうことができた。
(生理中でなく、“男の身体”だったら5位くらいだったかも)
雅海は最後付近でセナに声を掛けられて、恵香や千里たちと一緒にラストでゴールした。このラストゴール者にはゴール係の生徒が“時間はギリギリだったけど頑張ったね。完走おめでとう”と印刷されたゴール票を配った。恵香たちの後は、まだゴールしてない生徒を全員先生たちが車で回収した。棄権扱いになる。
雅海も“完走おめでとう”のゴール票を受け取ったが、このゴール票は実は女子(3km)用である!5km走ったのに。でも男子のゴール時間は過ぎていたから雅海が男子なら棄権扱いでゴール票をもらえないはずだった。本人は自分が女子用ゴール票をもらったこと自体に気付いていない。
(見た目女子でバストもある生徒が帰ってきたらゴール係も女子生徒と思う)
5月13日の夜、司の部屋に貴子が出現した。
貴子は言った。
「どうしても男の娘に戻りたいの?」
「お願いします」
「でもあんた女の子になりたくない?可愛い女の子になれると思うけど」
「なってもいい気もするけど、今はいったん男の子にしてください」
「あんたがどうしてもというのなら仕方ないね。じゃ眠ってて。目が覚めた時は残念だけど男の娘だよ」
それで司は眠りに落ちて行った。司は当然貴子さんは雅海の部屋にも行ってくれるだろうと思ったのだが、実際は貴子は雅海の所には行かなかった!
(千里が司を男の娘にいったん戻すようにきーちゃんに命じたのは実は今回の決勝戦の天候問題があった。女の身体では今回の決勝戦はさすがに辛かった。ただ千里自身はなぜ司だけ戻すように命じたのか分かっていない)
千里(千里R)は太陰(忌部繭子)から
「市街地の外れに土地を見付けたんですけど」
と言われて行ってみた。
場所は留萌市街地の東側にあり、R中にわりと近い。早川ラボには現在S中の生徒が多く来ているが、ここに道場を移転するとR中の生徒が多く来るようになるかも知れないなあとは思った。でもS中の生徒の住むS町・C町などからは留萌駅行きまたは市民病院行きのバスで近くまで来れるから交通の便はわりと良いと思った。
(バス停からは800mほど離れている。千里的感覚では“軽いジョギングですぐ辿り着ける”から「近く」。セナ的感覚なら“バス停から道場まで電車が欲しい”)
地目は畑で実際畑として使っていたものと思われる。ただ多分10年くらい放置されていたようで、現在はジャングル化している。でも千里の眷属たちの手に掛かれば、1日で更地にできるだろう。法的な規制の無い地区なので地目変更は簡単にできるらしい。固定資産税は高くなるけど。
「早川ラボより広いよね?」
「正確に測量はしてないですけど、早川ラボがだいたい11間×18間(198坪)、ここはゼンリンの地図上で測ったのでは10間×30間(300坪)くらいで面積は広くても幅が狭いです。でも早川ラボの建物自体は9間×14間くらいなので、千里さんが言ってたようにあちらの建物をひょいと運んできてポンと置くことは可能だということです」
「じゃ行けるね」
「ただ問題はこの傾斜なんですけどね」
この土地が300坪もあるのに僅か210万円(坪単価7000円)という破格値なのはここが傾斜地であるという問題がある。他に立地環境もよくないのだが、一般の人が住宅地として使うのでなければ大きな問題は無い。悪霊は既に処分しちゃったし!(まだ買う前なのに!(*10))
ここは山裾にはなるが、市街地に張り出した丘の裙に当たるので、ヒグマが出没する可能性は低い。また市街地でジョギングできるから、車には気をつける必要はあるが、ジョギング中にヒグマに遭遇する可能性も低い。
(*10) 落ち着いて下見できないので、まず親玉を瞬殺。そのあと雑魚も一瞬で全消去した。それを見て太陰も
「千里さん凄ーい」
と思った。
「土地を平らに整備させてから建てればいいですかね」
と太陰は言った。
傾斜地を平らな土地に変更するには多分支庁の許可が必要である。しかしこんな場所で不許可になるとは思えない。
千里は言った。
「むしろ土地に合わせて建てればいい」
「ああ」
つまり↓のようにするのである。
微妙な斜めの半地下部分には“秘密の倉庫”を作る魂胆である。
「じゃすぐにも移転できますね。買い取ったらすぐ作業させましょうか。勾陳たちの作業なら夏の合宿に間に合いますよ」
と太陰は言ったが、千里は
「移転は私たちが全国大会に行った後」
と言う。
「なぜ?」
「今のラボが不便な場所にあるから」
「便利でなくていいんですか?」
「いかにも山籠もりして頑張ってる感じになって気合が入るじゃん」
「はあ」
太陰は千里の考えがいまいち分からないようであった!
5月14-15日(土日).
旭川で中体連野球の北北海道大会が行われた。
S中はシードという訳ではないのだが、昨年死闘を演じたT中とは別の山に入れられており、対戦する場合は決勝戦という位置に置かれていた。
14日午前中には旭川市内4つの会場に分かれて1回戦が行われた。
「そちらのキャッチャーは女じゃないんですか?」
「男子チームの一員として参加が認められているそうです」
「何かやりにくいなあ」
などと言っていたが、すぐに司の力を思い知る。
S中は小森君が先発した。立ち上がりに制球が乱れ、4ボール→送りバント→内安打でワンナウト13塁となった所から相手4番打者の巨大レフトフライ(フェンス際で捕球した:ホームランかと思った)が犠牲フライとなり1点を失う。
なおもツーアウト2塁の場面。5番打者(左打者)は2ボール2ストライクからの5球目の変化球を空振りした。しかしこのボールはアウトサイド(3塁側)に大きく逸れ、さすがの司もキャッチできなかった。
すぐさま追いかけてボールを押さえる。バッター(左打者)は1塁へ走っている。司は剛速球を1塁に送球。振り逃げになる所を潰した。
「すげー。女とは思えない肩だ」
と向こうの選手たちが驚いていた。
これでピンチを1失点だけで切り抜けた。
小森君も2回からは本来の調子を取り戻す。ランナーを出しながらも司の牽制球など堅い守備に守られて無得点に抑えた。
5回からは3年の前川君に代わる。彼の多彩な変化球で相手打線は翻弄される。こちらの攻撃では、6回に代打の梶屋君がデッドボールで出て、すかさず盗塁。橋坂君のバントで3塁に進み、柳田君の犠牲フライで生還して1点を取り追い付いた。この回はなんとノーヒットで1点取っている。
そして同点で迎えた最終回の7回、前川君は制球を乱しノーアウト満塁のピンチを迎えた。ここで次のバッターは向こうのエースピッチャーだったが、彼の打球はピッチャー前に転がるゴロであった。
前川君が司にトス。司はホームベースを踏んで剛速球を三塁・小林に送る。小林は三塁を踏んだままキャッチしてすぐさまセカンド阪井に送る。
1-2-5-4のトリプルプレイが成立。
あっという間にスリーアウト。
(フォースプレイでタッチ不要なのでできた:満塁は点が入りにくいという好例)
そして7回裏はショックを受けている相手投手から、先頭打者・菅原君が初球をフルスイング。打球はスタンドに入りサヨナラ。
S中が劇的な逆転勝ちをおさめた。
午後は休憩時間だったので、みんな着替えた後、休憩場所に指定された教室でぐっすり眠っていた。司は監督から呼ばれて別の教室で休ませてもらった。(ここでは監督と司のほか、水野マネージャー、応援団の留実子が休んだ)
夕方から準決勝が行われた。対戦相手の帯広B中は3年前の夏の大会では優勝して全道大会まで行っている強豪校である。この試合は司が先発した。
「なんで向こうのピッチャーは女なんですか?」
「男子チームへの参加が認められているそうです」
「何かやりにくいなあ」
などと言っていたが、試合が始まるとすぐ彼らは思い知る。
司の玉を打てないのである。
司は130km/hを越える速球を投げるが、このクラスのピッチャーは上位チームにはたまに居るので、その速度自体はB中の選手にとっては脅威ではない。しかし司とキャッチャー宇川君の配給は絶妙で、しかもストライクかボールか判断に悩むような所に丁寧に投げてくる。それで司のボールを打てない。それでも打ち気に行っていたら、そこをチェンジアップでタイミングを外され空振りしてしまう。
それで相手はなかなかランナーを出せず、ランナーが出てもすぐ司の牽制球に刺されてしまう。相手チームの得点は0の行進となる。
こちらの攻撃では5回に阪井君がショートの奥深い所に飛ぶ内安打で出塁後、パスボールで2塁に進み、前川君のエンタイトルド・ツーベースで帰ってきて貴重な1点を取った。
あとは司がこの1点を守り抜いてこの強豪に勝利した。
この日はいったん留萌に帰り、また翌日旭川に出る。
そして旭川T中との決勝戦となる。
さて昨日は晴れていたのにこの日は雨模様である(*11).
応援団・チア部と吹奏楽部は昨日は全員で来てくれたのだが、この日は吹奏楽部は楽器を傷めるため派遣中止。チア部も女子は風邪を引いてはいけないということで、応援部のみの派遣となった。彼らは激しく雨が降る中、必死に応援してくれた。むろん留実子は豪雨の中、旗手として、濡れて重くなった応援団旗を全力で掲げ続けた。
10:00開始予定が1時間以上遅れた。
(*11) 2005.5.14が晴れで15日が雨だったのは史実。ただし以下に書くほどの大雨だったかまでは不明。
11:10の試合開始。
S中は左腕2年の山園君、T中は昨年の新人戦では最後に出て来てこちらを沈黙させた近藤君が先発した。
T中のメンバーはこちらのキャッチャーが女であっても軽口を叩いたりはしない。司が男子と変わらない実力を持つ選手であることを認識している。
T中は右打者を多く起用した“対左腕”打線を組んでいた。それでも山園は司ほどではないがわりと制球がいいし、司が巧みにリードするのでT中はなかなか山園を打てない。しかも今年の山園にはチェンジアップがある。
一方S中もT中のエース近藤君の剛速球を全く打てない。かすりもしない。
緊張した試合が続く。
しかし4回の裏、T中の3番・右打者の後藤君が山園の制球ミスで真ん中寄りに来た球をジャストミート。これがホームランとなってT中は貴重な1点を挙げた。
試合は5回に入るが、先頭の菅原君が、雨で足が滑った感じの近藤君の失投気味緩い球を打ち、これが外野の奥深くに飛んでランニング・ホームラン!(雨で足元がぬかるんで生まれたとても珍しいプレイ)を打つ。これでS中は追いついてゲームを振り出しに戻す。近藤君が物凄く悔しそうだった。実は彼の今季初失点だったらしい。
ところがここで強雨のため試合は中断する。
中断は続く。雨脚は強くなり、この球場から避難しなければ危険とも思える状態になる。両校の応援団を含む観客に退避指示が出る。
雨脚は更に強くなる。グラウンド内に川が出来ている。既に大雨警報か発令されている。
審判団が協議する。
中断から1時間半経ったとこでコールドゲームが宣言される。
この場合5回に入ってからの菅原君の得点は無効(近藤君の初失点も無効)で4回までの点数で勝敗が決することになる。つまり1−0でT中の勝利となる。
S中は追いついていたのに!!
(これが2−0で負けていて5回表に1点返して2−1になったところでコールドになった場合はこの1点は認められて2−1でホームチームの勝ちとなる。つまり勝敗に影響しない得点は認められるが勝敗に影響する得点は無効となる)
このルールを認識していたのは、菅原君や前川君など一部の部員のみで、大半の部員はここまで細かいルールを知らず「なぜこちらの1点が認められないのだ?審判はおかしい」と怒っていた。
強飯監督が審判に抗議したが決定は覆らなかった。
むろん強飯監督はこのルールを知ってはいるが、こんな微妙なところでコールドにされたのに納得しなかったのである。
それでこの大会は、T中の優勝となった。
強飯監督は準優勝の賞状の受け取りを拒否し、選手を帰してしまった。
女子マネの水野さんは司の身体を心配した。
「ずぶ濡れですけど大丈夫ですか?」
「平気平気」
「すぐ着替えましょう。女子更衣室に来ません?」
「ぼく男なのにそんな所に入れないよ。トイレで着替えてくる」
「あ、そうですよね」
と言いながら水野はさりげなく司の胸に触る。
あれ〜。なんでバストを感じないんだろう。ナベシャツ着てるのかな?と水野は思った。
でも男子更衣室ではなくトイレで着替えるというのは、やはり男子に見られてはいけない身体なんだろうなと水野は考えた。
(実は生理はだいたい終わったもののまだパンティライナーを着けていたので、それを人に見られたくなかったし、汚物入れもある場所で着替えたかった:男の子の身体に戻してもらったのに下り物があるのは何故だろうと思っていた)
5月17日(火).
帯広の田中音香(27)は元気な女の赤ちゃんを出産した。結婚5年にしてやっと産まれた初めての子供で、これまで音香にあれこれ辛く当たっていた義母が歓喜し
「おとちゃん、よくやった。頑張ったね」
と言ってくれたので、音香はとても嬉しかった。実際このあと、義母は人が変わったように音香に優しくしてくれるようになるのである。
この出産には音香の母(小登愛や玲央美の父の姉)も来てくれて“初孫”の誕生を喜んでくれたが音香は「お母ちゃんには悪いな」と思っていた。「でも次はお母ちゃんの孫を産むからね」と思う。
実を言うとこの子供は、2003年12月に死亡した佐藤小登愛の卵子が保存されていたのを音香の夫の精子と受精させ、音香が産んだものである。
音香自身は卵管閉塞のため自然妊娠できない。それで小登愛の“孫”を作りたい天野貴子と取引したのである。
(1) 小登愛の卵子と、音香の夫の精子を受精させ、音香が妊娠して子供を産む。
(2) 2年後、今度は音香自身の卵子を採取して夫の精子と受精させ、再度妊娠して子供を産む。
貴子はこの“代理母”をしてくれる報酬として2000万円払うと言ったが
「まとめてもらうと絶対使い込む!」
と音香は言って今回は500万だけもらい、次の自分の子供の妊娠の時にあらためて1500万もらうことにしている。
このことは音香と貴子だけの秘密てある。今回の子供も、夫や義母には自分の卵子を採取して夫の精子と受精させたと説明している。
(子供の本当の母親は、母だけが知っている!)
だからこの子供は義母にとっては本当に初孫だが、自分の母にとっては実は姪孫(姪の子)(*12) なのである。ただ、小登愛と音香は元々容姿が似ていたし血液型も同じなので、まずバレることはない。
それに音香は2年後には今度は自分の卵子を使って子供を産むつもりである。
(*12) ことばが似ているが、従姪はいとこの娘、姪孫は甥・姪の子。
甥・姪の子供は性別によらず姪孫と呼ばれる。つまり甥孫という言葉は“あまり”使用されない。
貴子としては今回生まれた子供が大人になって結婚して子供を産んだ時、その子に強い霊的素質が備わっているのではと期待しているのである。霊的な素質は隔世遺伝する(*13).
貴子は“千里が寿命で死んだ後は”その子で遊ぼうと思っていた。
(*13) 確か藤子不二雄だったが言っていたと思うのだが霊的な感覚というのは普通の人には備わっている大事な感覚が欠けているから、それを補うために発現する。
だから霊的感覚は結果的に劣性遺伝になる。子供の世代は優性のほうが現れるから霊感を使う必要が無い。
霊感の強い人には目の悪い人とかがよくいる。普通に見える人は霊感で補う必要が無いのである。
強飯監督が北北海道大会で準優勝の賞状を受け取らずに選手を帰した件は連盟から厳しい注意を受けたが、強飯監督は謝罪も拒否した。それで連盟は強飯監督に対して向こう3ヶ月の指揮停止という重い処分を課す。その場合、夏の大会で強飯先生は監督になれない。
ところが追いつかれていたのにコールドで思わぬ優勝を手にしたT中の監督と校長が「あのコールドは自分たちも納得がいかない。試合はあの時点でイーブンだったのだから、どうしても継続不能なら翌週再試合にすべきだった。強飯さんの行動は当然だ。自分が彼の立場でも準優勝の賞状を拒否する」と強飯さんへの処分に対して抗議した。
全道大会の期日が迫る中、結局北海道連盟の理事長の裁定で、コールドゲームは有効でT中の優勝も有効だが、今後決勝戦ではコールドゲームの宣言には慎重を期し、再試合のオプションも考えるということになり、強飯監督への処分は撤回されることになった。
今後コールドゲームの適用を慎重にするという理事長の意見で強飯先生も裁定を受け入れた。でも準優勝の賞状はS中の校長が受け取ってきた。
しかし強飯監督はおかげで6月からの夏の大会でも指揮を執ることができるようになった。
雅海はいつまでたたっても貴子さんがきてくれず、ずっと女の子の身体のままなので
「貴子さん何かで忙しいのかなあ」
などと思いながら、毎日女の子の身体に男子制服を身につけて登校していた。
学生服の胸が苦しいなあと思っていたが母に言うと
「だからセーラー服にすればいい」
と言われる。
(ほんとに君は女子制服にしたほうがいいと思うぞ)
強飯監督が軽トラに載せて運んできた機械を見て部員たちは驚いた。
「ピッチングマシンですか?」
「そうそう。君たち近藤君の球にかすりもしなかったろ?でも君たちはあの速度を体験した。体験しただけでも貴重なことだと思う。あんな凄いピッチャーと対戦できる機会なんてめったに無いから。経験したら後はあの記憶を思い出しながら、技術的に打てるようになるだけだよ。このマシンで近藤君並みの剛速球に慣れて打てるようになろう」
それでボールの速度を140kmに設定してみんなで打ってみるが誰も打てない。
「でもこれ毎日やってればその内打てるようになりますよね」
と菅原君が言う。
「そうそう。特に菅原君は近藤君からホームラン打ったじゃん」
「そうですよね!」
「だから頑張ろう」
前川君が言う。
「でもよくこんな高いマシン学校は買ってくれましたね」
(多分50万円くらいする)
「いや僕のポケットマネー」
「大丈夫ですかぁ?」
「女房には内緒で」
なお強飯先生の先日の東京行きの費用は先生は自腹のつもりだったが校長が業務上の出張として認めてくれて全額学校から出ている。
5月21-22日(土日).
千里Rは旭川に行き、フルート・ピアノ・龍笛・剣道のレッスンを受けた。いつもは夕方、天子のアパートにも寄るのだが、剣道の指導をしてくれる越智さんがこの日は都合があって遅れたので、稽古が遅くまでに及び、Rは越智さんから連絡があった後、14時くらいに天子に電話し
「今日は行けないみたい。ごめんね」
と言っておいた。
5月22日(日)には、いつもの不動産屋さんのCMの撮影もあり、これは千里Gが代理で出て行った。(司令室のお留守番をするVが不安そうな顔をする)
5月21日は雨模様だったのだが、22日は良い天気に恵まれた。
(goo過去の天気によると2005.5.21の旭川は雨のち晴れ、22は晴れのち曇)
共演者は中学1年生の女子・響姫ちゃん、と男の娘!の“仮名”花子ちゃんである。花子ちゃんはセーラー服を可愛く着こなしている。Gは親切心を起こしたくなったがVから「余計な親切をしないように」という直信が飛んできたので、やめとくことにした。花子ちゃんは実はディレクターさんの息子で
「お前、セーラー服で通学するなら睾丸取るか?」
と(きっとジョークで)言うと
「それ絶対嫌」
と言ったらしいので、女性指向は無いようである。Gは今なら可愛い女の子になれるのにもったいないと思った。
この日は景勝地・神居古潭で撮影したあと、旭川郊外の大きな家にお邪魔した。
広い敷地である。そして千里や共演者が驚いたのが、家を取り囲む“トラック”である。3人は唐突に陸上競技っぽいランニングとショートパンツという格好に着替えさせられる。花子ちゃんは千里・響姫とは別の部屋で着替えたが、ちゃんと胸がある。
「ブラジャー着けさせられた。恥ずかしー」
と言っていた。足に毛が無いのはそもそもセーラー服を着るために剃られたらしい。
それでスターティングブロックを設置し、ディレクターさんがスターターを務めてスターティングピストルを鳴らす。それでトラック1周!するところを撮影された(カメラは先行して走る軽トラに載せている)。
千里と響姫ちゃんは平気だったが、花子ちゃんは息が上がってた。
この土地は約40m×80mの3200m
2(約1000坪) でその土地の外周に3レーンのトラックを作っている。これが一周200mになっているのである(*14).
(*14) トラックの円周部分を半径20m, 直線部分を40mとすると、一周は(2πr+2h) = (40×3.14 + 80) = 205.6m になる。これを所有者さんは正確に200mになるようにトラックを作った。土地の面積は 2r×(2r+h) = 40×(40+40) = 3200m
2= 970坪 となる。
「所有者さんも息子さん・娘さんも毎日ここを30周するそうです」
「200m×30 で6km ですか」
「中学生の皆さんは6kmくらい一気でしょう」
「運動部に入っている人なら一気でしょうね」
「私吹奏楽部」
と響姫ちゃん。
「運動部ですね」
「部活で毎日ジョギング3kmと坂道ダッシュ30本やってます」
「多分吹奏楽部は運動部の中でも最もハードな部活」
「私は剣道部」
と千里は言う。
「毎日5km走ってますよ」
「ああ」
「へー、剣道ですか。うちの兄が剣道やるんですよ」
と御主人は言っていた。
「この家の掃除するの、実は兄一家にも手伝ってもらいました」
「広い家は掃除も大変ですよね!」
「やはり運動部の人なら200m走っても走った内に入りませんね」
「ぼく放送部」
と花子ちゃん。
「朗読するのに肺活量を鍛えるため運動しよう」
「運動苦手〜」
「ああ。それは身体付きを見れば分かる」
「やはり将来性転換して女の子になるために筋肉付けないようにしてるんでしょ?」
などと響姫ちゃんが言う
「性転換手術ってむっちゃ痛そうだからパス」
と花子ちゃんは言う。
「痛くなければ女の子になってみたい?」
「あまり真剣に訊かないで〜」
(Vから「くれぐれも余計な親切はしないように」と直信がある)
「ところで花子ちゃんの本名は?」
「花道なんだけどね」
「お父さんはスラムダンクのファンか!」
「だったらどっちみち“花ちゃん”でいいね」
「花ちゃん・・・・」
ここの所有者さんは国体出場経験もある陸上選手らしい。でも息子さんは水泳部で娘さんはバスケット部らしく
「息子も娘も陸上をやってくれない」
と文句を言っておられた。
でも運動一家だけあって、親子とも均整のとれた身体付きをしていた。奧さんはテニス選手だったらしい(この家にはテニスコートもある)。ほんとに運動一家である。
千里たちはここのトラックにハードルを置き、そこに腰掛けてフルートを吹いた。また邸内体育館!では鉄棒の上に腰掛けてフルートを吹いた。この鉄棒の上に乗ったのは千里と響姫ちゃんである。花子ちゃんは鉄棒の上に行けなかった。
しかし今回はちょっと異色構成のCMになった。
でもこんなに運動施設のあるおうちはいいなあと千里(G)は思った。
撮影が15時頃終わったのでGは美輪子に送ってもらって天子のアパートに行った。美輪子もついでに寄らせてもらう。
「あら、津気子ちゃんの妹さんだったね。いらっしゃい」
と(目の見えない)天子が歓迎した。
目が見えなくても勘で分かっちゃうのがこの人の凄い所だ。
「でも千里ちゃん、予定が変わったのね。ほんの1時間ほど前に今日は都合が付かないから行けないって連絡あったのに」
「まあそういうこともあるかもね〜」
と千里Gは言っておいた。
美輪子が買ってきたお寿司なども摘まんで瑞恵と4人で楽しくおしゃべりし、天子の笛の練習なども見てあげた。
それで18時頃、千里Gは美輪子の車で旭川駅まで送ってもらい別れた。
一方18時頃まで越智さんに稽古を付けてもらった千里Rは、きーちゃんの車で送ってもらい18時半頃、天子のアパートを訪れた!
(Vが「あ〜あ」と思いながらも「まあいいや」と放置した)
「あら何か忘れ物?」
と天子が言う。
「ううん。これ今日は急用ができて来れなかったからお土産だけ置いて帰るね」
と千里Rは言って洋菓子の箱を渡した。
「今日は来れなかったって、お前3時半頃来てついさっきまでここに居たじゃん」
「あ〜れ〜!?」
千里の平常運転であった。
5月の後半、S中では体育祭の練習が熱心に行われていた。2年・3年は3クラスを赤白青に分けるが、2クラスしかない1年については各クラスの内部で出席番号を3で割った余りで3つに分けて、組分けをした。
女子生徒は全員チア要員となって赤白青とその組の色のスカートを穿き、ボンボンを持って踊る。もちろん男子でもやりたい人は参加してよい。女子でも希望者は詰め襟を着て応援団に加わってもよい。
留実子は元々応援団なので体育祭でも当然詰め襟で応援団である。いつものように太鼓係を務めた。
鞠古君は「チア面白そうだから僕もしようかな」と言ってチアの衣裳をもらってスカートを穿き(*15)、ボンボンを持って踊った。長身の前河杏子は「私応援団していい?」と言う。「杏子ちゃん似合いそうだね」と言われ、鞠古君の詰め衿を借りて応援団に加わった。
セナと沙苗はふつうにチアに加わった。雅海も
「雅海ちゃんは当然こっちよね」
と言われてチアの衣裳を渡され、ボンボンを持って踊った。
公世と司は「ぼくは男の子だよ」と言って詰め襟で応援団に加わった。
潮尾由紀(よしのり)は
「ゆきちゃんチアしなよ」
と言われて恥ずかしがりながらもチアのスカートを穿いてボンボンを持って踊った。
(*15) 鞠古君はスカートを穿くこと自体は好きだが女の子になりたいわけではない。彼にとってスカートは日常の服であり(龍虎などの感覚に近い)自宅ではわりとスカートを穿いている。
「スカートはオナニーしやすい」
などと危ないことも言っている。
ただ普段人前では留実子に殴られるから!穿かないだけである。
5月28日(土)は体育祭が行われた。3年1組女子はこのように競技に出た。
100m 萌花、優美絵、美都、穂花
200m 世那、佐奈恵、小春、恵香
800m 雅海、沙苗
1500m 千里、玖美子
クラス対抗リレー(200m) 蓮菜
スウェーデンリレー(400m) 絵梨
「私、今年も1500走るの〜?」
「千里君なら1500は一気だろ?」
「私マラソンは20位だったよー」
「それも優勝できる癖に」
「え?ぼく女子の種目に出るの?」
「当然当然。雅海ちゃんは可愛い女の子」
「でも800mなの〜?」
「去年も走ったでしょ?」
去年は男子の800mを走り“女子並みのタイム”を出している。
千里の出た1500mでは、1位が留実子、2位が陸上部の子で3位が玖美子、千里は6位だった。
「手抜きが酷い」
と玖美子に言われた。
雅海は女子800m最下位で“最弱の証明”をした。でも彼女は800mを走る体力だけはある。
公世は男子3000mで圧倒的1位だった。毎日20km走っている公世にとっては3000mは一気である。マラソンの時と同様、陸上部の子と最初は競ったが、途中から大きく引き離した。
司は男子800mに出て3位だった。
潮尾由紀は「女子の1500に出てよ」と言われるのから逃げて男子に出してくださいと言ったら男子の3000mに入れられ、それでも16人中8位でまあまあの成績だった。
3年生の変形リレーはスプーンリレーだった。また集団演技はマスゲームであった。千里はよく分からないものの前の人の動きに合わせて行動していた。千里が2人入ってた気がするのは、きっと気のせい。
部活対抗リレー、女子は剣道部が、ノラン→如月→千里→玖美子とつないで優勝した。男子でも剣道部が、秀香→由紀→竹田→公世とつないで優勝した。
「剣道部すげー。ほぼ女子で男子の部にも出て優勝するとか」
「竹田君も性転換すれば全員女子」
「俺は女にはならねー」
「でも竹田君が性転換手術受けても、女子の部への出場は拒否されそう」
「だから性転換とかしないって」
でも剣道部の“一部女子”が男子のリレーに出ていたのを見て留実子が
「あ、ぼくも男子応援団に出ればよかった」
と言っていた。
応援団女子が留実子ひとりなので今年は部活対抗リレーには出なかったのである。旗手という立場上、兼部しているバスケ部にも出なかった。
でも組対抗リレーではしっかり優勝した。例によって
「女子の部に男子が出るのずるい」
と言われていたが。
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【女子中学生・春ランラン】(3)