【女子中学生・春ランラン】(4)

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6月1日(水).
 
この日から中高生は衣替えである。ただし北海道の6月はまだ雪が降ったりするので6月いっぱいは冬服を着てもいいことになっている。また男女とも合服としてこれにベストを着てもよい。むろん男女でベストのボタンの付き方は逆である!
 
沙苗・セナは普通にブラウスとスカートで出て行った。少し寒い気がしたのでベスト(もちろん女子用)を着て行った。
 
公世は普通に?ブラウスと(女子用)スラックスで出て行った。彼は男子トイレの個室を使っており、着替えは保健室である。彼はいまだに自分が着ているのがワイシャツではなくブラウスであることに気付いていない(なぜ気付かないのかは筆者も分からない)。女子用スラックスを穿くのは体型が変わってしまい、男子用が合わないからである。
 
潮尾由紀も普通に?ブラウスと女子用スラックスに女子用ベストで出て行ったが、クラスメイトから「もうゆきちゃんの服装は女子制服とみなせる。トイレは女子トイレを使うこと」と言われ、トイレに行く時は手をつないでもらった。着替えは女子のクラスメイトが女子更衣室に連れ込もうとしたが「女子更衣室なんて無理〜」と言うので、結局、公世や司と同様、保健室での着替えになった。
 
(女子更衣室に行くと解剖されると思うから逃げて正解)
 
「早朝ジョギングとかしてるんですか?」
と由紀は着替えの時一緒になった公世と司に訊いた。
 
「うん。ゆきちゃんも来ない?」
「行ってみようかなあ」
「自転車で並走してくれる人、お姉さんか誰かを頼んでね。ゆきちゃんが遅れてもぼくたちは置いてくから」
「分かりました!」
 
それで由紀はお姉さん(高校生でやはり剣道をしている)に伴走してもらって朝のジョギングをするようになった。
 

雅海はブラウスとスラックスに女子用ベストで出て行った。実は学生服では胸が苦しかったのでそれを脱いでブラウスとベストになりとても楽になった。
 
「雅海ちゃんはこれで完全に女子ということでいいね」
「秋に冬服に戻る時は普通にセーラー服を着るように」
と言われていた。雅海は女子トイレ・女子更衣室を使用している。
 
司はブラウスとスラックスに“男子用ベスト”で出ていった。
「司ちゃんはそろそろ女子更衣室に来ようか」
「女子更衣室なんて無理〜」
と本人が言うので、結局更衣室は今まで通り保健室着替えとなる。司はトイレは女子トイレを使用している。
 

6月4-5日(土日).
 
野球の夏大会留萌地区予選がおこなわれた。強飯監督はもちろんこの試合の指揮を執った。司ももちろん参加する。試合は1回戦ではH中と対戦した。
 
「なんで向こうは女がマスクかぶってるの?」
「さあ。でもS中はここ1年で物凄く強くなってる。その中で先発メンバーに指名されたのなら女ではあっても多分凄い選手だと思う。甘く見ないほうがいいぞ」
 
(賢明だね)
 
H中は昨年夏の大会でも司を見ているのだが、その頃は司はまだ男にも見えたのである。彼の容姿は新人戦の頃から女子にしか見えないようになってきた。
 
(きっと卵巣がお仕事始めたせい)
 
試合ではH中は司の凄い牽制球を目にし、実際牽制死が相次ぐと
 
「このキャッチャーがいると、リードは短めにしないと危ない」
という認識になる。
 
試合はS中の1年生小森君が好投し、攻めては前川君のソロホームランで1−0で勝利した。
 

翌日の準決勝はT中とである。T中は昨年の新人戦で司を見ており、警戒していた。牽制死しないようあまり塁から離れないようにする。T中は昨年同様、前川君の多彩な変化球にうまくミートできず、ゴロが多い。時々ランナーは出るものの、なかなか塁を進められない。
 
一方でこの日は1年・柳田君がヒットで出塁した後、相手ボークで2塁に進み、バントと犠牲フライで生還して1点をあげた。前川は制球を乱しながらも何とかこの1点を守り切って勝った。
 

この日の夜、司の自宅の部屋に貴子さんが出現した。
 
「あ、貴子さん、いい所へ」
「どうかした?」
「雅海が早く男の子に戻りたいと言ってるんですが、彼の所にも行ってあげてもらえません?」
 
「ああ。でもあの子はそろそろ生理のはず」
「ありゃあ」
「だから戻すにしても生理が終わってからだね」
「仕方ないですね」
 
「あんたもそろそろ生理だから女の子にしておくね」
「え〜〜!?」
 
「目が覚めたら素敵な女の子だよ」
と言って貴子さんは司にタッチしてから姿を消す。
 
「ちょっとぉ!」
 

6月6日(月).
 
千里Rは部活を終えて18:00ジャストに校門を出ると学校前の長い坂を下る。S町バス停で待っている間にコリンが買い物袋(マイバッグ)と白い箱の入った袋を渡すので
 
「さんきゅ」
と言って受け取る。その内、部活を終えた?玲羅が降りて来るので手を振る。玲羅は卓球部で、剣道部の隣のエリア(体育館のステージの上!)で練習している。剣道部より先に上がった。千里たちが女子更衣室に行った時はもう着替え終わっておしゃべりしていた。千里たちが更衣室を出る時もまだおしゃべりしていた。多分先生に追い出されたのだろう。
 
「玲羅、この買物先に家に持って帰って」
「いいけどお姉ちゃんは?」
「小春んちに寄ってくる」
「神社じゃないんだ?」
 
18:20の羽幌行きバスに乗り、C町で降りる。そして四つ辻で玲羅と別れて小春の家に行く。このC町バス停から小春の家への道はP神社から30m以内を微妙に通らないのがミソである。
 

 

「小糸、ハッピーバースデイ」
と言って、小糸の“お母さん”である小春に黄金屋のケーキの箱を渡す。
 
「わあありがとうございます!」
と小糸が喜んでいる。
 
ケーキは、6個である。小糸・小春・コリン・小町・千里で6つ。数がおかしい気がするのはきっと気のせい。
 
それでその場に居る小糸・小春・千里(R)の3人でケーキを食べ(小町は神社に居る)、千里(R)は
 
「じゃごはん作らないといけないから帰るね」
と言って帰った。
 
それでRは自宅に戻り、玲羅が一応冷蔵庫に入れてくれていた材料を使って晩御飯を作り、玲羅と母に食べさせた。
 
もちろん先に帰った玲羅が御飯を作ってくれているなどということはない!玲羅は漫画を読んでるだけである。
 

普段は遅くまで神社で仕事をしている千里(Y)がこの日は20時であがり、小町を連れて小春の家にやってきた。
 
「小糸、ハッピーバースデイ」
と言って、ボンヌ・ドゥースのケーキの箱を渡す。
 
「あ、ありがとうございます」
と言いながらも小糸は戸惑っている。小春はおかしさをこらえながらも
「千里ごめーん。今日は私もケーキ買っといたんだよ」
「あっそうなんだ?」
「千里が買って来てくれた分は冷蔵庫に入れといて明日食べよう」
とコリンが言う。
 
「千里と小町の分も買っといたから食べてかない?」
と小春が言うと小町が嬉しそうに
「食べる」
と言うので、コリンが紅茶を入れてあげて、千里と小町はコリンと一緒にケーキを食べていた。
 
「そうだ、これも買ってきた」
と言って稲荷寿司も出すので
「わーい」
と言って小糸は稲荷寿司をおいしそうに食べていた。
 
この後、小町はコリンが神社まで送っていき、千里は自宅に戻ろうとしたが、もちろん途中で消滅した!
 
小春と養女の小糸はこの家に、小町は神社に住んでいる。小町のフィアンセである源次は小春の家のお隣、鈿女神社の社務所に住んでいる。御飯は小春が持って行ってあげている。彼は今年中には小町と結婚させてもらえる予定。彼は小町が妊娠したら去勢される運命であることをまだ知らない!
 

6月9日(木).
 
雅海と司は2度目の生理を経験した。
 
「これ辛いけど1度目ほどではない気がする」
 
「司ちゃん、生理中の練習は大変じゃない?」
「朝のジョギングは公世ちゃんに言われて生理中は休んでる。部活の練習の時は生理用ショーツ着けてないとかなりやばい」
「大変だね」
「由紀ちゃんも生理中はジョギングお休み」
「あの子生理あるの?」
「あるみたいよ」
「うーん・・・」
 
「お母ちゃんからタンポン使ってみる?と言われたけどちょっと怖い」
「ああ」
 
「でも次の試合までには収まってると思うから何とかかな」
「生理に試合がぶつかると辛いね」
「うん。女子選手って大変だよ」
 

ところで、村山家はC町の古い市営住宅に住んでいるのだが、ここはスケソウダラの漁がかなり盛んだった1960年代に建てられたもので、かなり老朽化している。元は50棟(100世帯)ほどあったのだが、海側の2/3くらいが取り壊されており、現在は15棟(30世帯)しか残っていない。市営住宅が取り壊された後は民間に払い下げられ、そこに(原田)沙苗の家や鞠古君の家などが建つ。
 
村山家は市営住宅群の中でもいちばん上の列にあり、利便性が悪いので民間への払い下げの対象にならず古いまま残されている。ここの道は途中から細くなり、留実子の家のある付近あたりから車のすれちがいが困難な道になる。
 
そして村山家の所より先は車の通れない細い道になる(この道がどこに通じているのかは住人の間でも意見が分かれる!つまり誰も通ってないようなので恐らく途中で通行不能になってる)。
 
細い道は村山家の前から海岸側へも続いており、この細い道を降りきった右手(神社側)に(原田)沙苗の家がある。
 
(再掲)

 

千里は毎朝この細い道を駆け下りると沙苗に声を掛け一緒にジョギングをする。そして留実子の家の前を通るところで彼女にも声を掛け、3人で一緒に走る。この一周はだいたい300mくらいあり、3人は毎朝ここを15-20周(5-6km)を走っている。ただしかなり傾斜のある道を走るので負荷的には10km分くらいに相当する。沙苗はだいたい10周くらいでへばるので離脱。毎日15-20周しているのは千里と留実子だけである。
 
でも3人が走っていると近所の人たちは
「男の子1人と女の子2人で走ってるのね」
「男の子がガード兼任だね」
「あそこの坂道は人通りがなくて寂しいもんね」
と言って見ている。
 
もちろん“男の子”というのは丸刈り!の留実子のことである。
 
この細い道は千里の小学生時代は冬には雪に覆われて通行不能になっていたが、今は千里が眷属に除雪させるので毎朝走ることができる。また夏は女装もとい除草させている。
 
しかし千里が走る前、夜中の2〜3時に除雪作業を行う眷属さんもご苦労様である。(ご褒美は清酒1升)
 

中学の3年間で1度だけヒグマに遭遇した。
 
先頭を走っていた留実子がギョッとしたように止まり
 
「刺激しないように」
「後ずさりで後退」
と小さな声で言う。
 
千里が無言で前に出る。
 
ヒグマはとうもタヌキを食べていたようだ。千里が熊に向かって歩いて行くと熊がこちらに気付き向かってくる。
 
「千里ー!」
と留実子が思わず大きな声を出す。
 
5mくらいのところでエネルギー弾を頭頂にぶつけて瞬殺。
 
留実子と沙苗がおそるおそる近づいてくる。
 
「脳を瞬間的に破壊したから苦しまなかったはず」
と千里は言う。
 

「さ、気にしないでジョギングの続き続き」
と千里が言うのでおそるおそる熊の死体を避けて向こう側へ行く。
 
「警察に通報したほうがいいのでは?」
と留実子が言うが
 
「ヒグマの1頭くらいで大げさな」
と千里は言ってジョギングを続ける。
「るみちゃん、早川ラボではこんな感じで月に2〜3頭ヒグマが出没してる。エゾシカも来る、私もなんか慣れっこになっちゃった」
と沙苗。
 
「なんつーワイルドな環境で練習してるの?」
「応援団もあそこで練習する?いくら大きな声出しても苦情来ないよ。今剣道部と野球部が練習してるけど」
「そんなところでやってたら、ひとりずつ食べられていって“そして誰もいなくなった”になりそうだ」
 
留実子にしてはなかなか気の利いたジョークだった。恐らくショックを忘れようと焦っている。
 
3人が一周してきた時はもう熊の死体は無い。
 
「まだ生きてたのかな」
「カラスか何かが食べたんじゃない?」
 
もちろん九重に命じて早川ラボに持っていき血抜きしている最中である。
 

さて、今年(2005年)6月の上旬、千里が細い道を走り降りたら、左手の家がどうも空き家になった風であった。沙苗に訊いてみると、
 
「ああ、小野さんはこの付近が寂しいからってL町に新しい家を建てて引っ越したんだよ」
と言う。
「へー、L町付近に家建てる人多いね」
「道路沿いにどんどん新しい家ができてるみたい。あの道路は市が除雪してくれるし」
「ああ。C町なんて除雪は後回しだから4-5日身動きできないことあるもんね」
 
貴司の家もL町である。L町の中では比較的古い住人になるようだ。
 
「バス路線は無いから車があること前提だけどね」
「まあこの付近もバスがあるといっても1時間に1〜2本だからなあ」
 
「実際使ってるのは学生とお年寄りだけだよね。乗客が私1人で申し訳無い気分になることもある」
「乗客が居ないよりマシ」
「そうだよね!」
 

千里はコリンに小野さんの引越先に行ってもらった。
 
「こんにちは、私C町の住人で米沢と申します」
「はいはい。C町のどの付近におられましたかね?」
「鈿女(うずめ)神社の隣の古い文化住宅を改造した家に住んでるんですよ」
「ああ、あそこに家が建ってましたね!」
「あそこ昔は文化住宅が30軒くらい並んでいたらしいんですが、今は私とお隣の深草さんだけで」
「へー」
 
「それで小野さんのC町のおうちなんですが、何か使うあてはあります?」
「いえ。可能なら売りに出したいくらいなのですが、不動産屋さんに訊いたらあの場所を買う人があるとは思えないと言われて取次の登録も断られたんですよ」
 
「それでしたら私に売っていただけません?」
「いいですよ!」
 
ということで、コリンは御主人が帰宅する夕方の時間に再度小野家を訪問し家の売却の交渉をまとめた。奧さんは100万円くらいならと言っていたのでコリンは120万円の現金を用意していたものの、御主人はあんな古くて狭い家にそこまで価値は無いと言い、住宅は無価値、土地代だけで、30坪の土地を坪単価2万円として60万円で譲渡することで合意した。
 

それでコリンはその場で現金で60万円(+消費税3万円)払い、更にお孫さん(4歳と2歳)のおやつ代と称して2万円押しつけた。
 
(ここは50代の夫婦、最近東京から戻って来た27-28歳の娘さんとお孫さん2人の家庭。この孫たちを育てるために夫婦は新しい家を建てた。娘さんの夫を見ないが、色々あったらしいと沙苗が言っていた。←田舎の噂は怖い:きっとそれもあって新しい環境に移動したかったのだろう)
 
登記の変更のための委任状を翌々日には郵送してもらえたので法務局に行って、この物件を入手した。
 
千里はボイラーの機械を新しいものに更新させ、お風呂もシャワー付きの広い浴槽のものに交換させた。またトイレも洋式便座に変更した。そして畳の表替えとふすま紙の交換もした。エアコンも取り付けた。更に玄関のドアが古いシリンダー錠だったのをカードキーに交換しドアホンとモニターも取り付けさせた。これらの改造は6月中に完了した。改造費は100万円くらいである。
 
手続きは全て米沢湖鈴名義で進めたので、ここの土地と家も米沢湖鈴名義となった。
 
千里(R)は自分で指示していて、なぜ自分がこの物件を入手したのか理由は分かっていない。
 

さて留萌北部の海岸線を走る国道232号からL町方面へ分岐する道(S中の校内マラソンのコースにもなっている)の分岐してすぐのところに1960年代から続くそば屋があった。スケソウダラ漁の盛んな時期は店も大きくて従業員も多かったが、留萌が寂れてくると客も減り、店も1980年代と数年前と2回建て替えて、建て替える度に小さくなっていった。
 
現在は家族だけで経営している。メニューは、にしんそば、スケソウダラそば。ほたてそば、いかそば、など海産物を載せたそばがメインだが、とろろそば、月見そば、山菜そば、油揚げそば、など安いメニューもある。
 
貴司はL町の自宅から町中のQ神社まで土日にはジョギングで往復するのが常であるが(神社の倉庫部屋でオナニーのついでに漫画を読む。たまに手の空いた千里とバスケの1on1をする:実際に応じているのはG)。そして帰りのジョギングではいつもこの店に寄って、にしん・すけそうだら・ほたて・いか総載せそば(950円+消費税47円)を頼むのが楽しみになっている。
 

6月中旬のある日、S中の広沢先生がこの店を訪れた。
 
「いらしゃーい」
と言って、可愛いエプロンドレス姿の少女が応対に出るが入ってきた人物を認識すると「きゃっ!」と声を挙げて顔の下半分を手で抑えた。
 
「恥ずかしがることはないよ、ゆきちゃん。私はただのお客」
と広沢先生は笑顔で潮尾由紀に言った。
 
広沢先生は“にしんそば”を注文して美味しく頂いたあと、由紀の母と少し話した。それで月末に予定されている、2年生の夏季教室について打ち合わせたのである。
 

6月11日(土).
 
野球の留萌地区決勝が行われた。相手はR中である。先発の山園は丁寧なピッチングで相手打線を抑え、攻めては阪井君が二塁打で出たのを前川君がタイムリーヒットで返すという効率のいい点の取り方で1点取りこれを山園君が守り切った。
 
司はこの試合で牽制で5人も刺し、R中の選手たちが天を仰いでいた。
 
これに勝ってS中は新人戦・春の大会に続いて3回連続で北北海道大会に進出した。
 
しかしS中は留萌地区大会の3試合を全て1−0で勝った。
 
「もっと打撃力を上げないといかんなあ」
と菅原キャプテンは呟いた。
 

6月11日(土).
 
雅海の所に貴子さんが出現する。
 
「もう男の娘には戻らず、このままずっと女の子でいいよね?」
「男の子に戻してください」
 
(きーちゃんは「生理が終わったら雅海を男の子に戻す」という約束を果たすためにきた。もっとも言われたのはひとつ前の生理の最中だったが)
 
「じゃ不本意だけど戻してあげるよ」
「ありがとうございます」
 
それで雅海はいったん!男の娘に戻してもらえた。
 

6月12日(日)には、バスケットフェアが行われた。女子バスケット部は波頭由紀まで入れた5人(交替要員無し)で参加し、1回戦は勝った。2回戦は雪子が限界で
「君は立ってるだけでいいから」
と言って4人で戦ったがギリギリで勝てた。
「私たち4人で勝てるって凄い」
 
そして3回戦でR中の3軍!に大敗して消えた。
 
しかし3軍の試合なのにこの試合をコーチと(フェアに参加しない)1軍メンバーがじっと見ていた。特に雪子の動きはかなりチェックしていたようである。
 
R中はS中の留実子と千里の動向について調べ、留実子が応援団、千里が剣道部で活躍中であることを知った。そして2人が夏の大会で各々の部を引退し、秋のバスケの大会には参戦してくるのではと考えた。バスケは3年生の引退時期が他の部活に比べて遅いのである。
 

6月11-12日(土日).
 
千里Rは今月の旭川行きをした。フルート・ピアノ・龍笛・剣道のレッスンを受け、天子のアパートにも寄った。
 
12日はバスケットフェアもあっていたのだが、この千里は特にバスケットには興味が無い。そもそもバスケットフェアには強い選手は出ないことになってるので数子も千里に声を掛けなかった。強い選手を出さないというのでは本当は雪子も出したくないところだったが、雪子も入れないと人数が足りないのでやむを得なかった。
 

6月12日(日).
 
司は早朝ジョギングをした後、朝御飯を食べてからソフト部の前河杏子と公民館で会った。ここでもまた3km一緒にジョギングし、公民館の庭で投球練習をした。お互いに1球ずつ投げる。ボールは硬球を使う。杏子は硬球をウィンドミルで投げてくる。
 
一方、菅原君・前川君・阪井君は司−公世のコネで借りた早川ラボの庭で、ピッチングマシンでひたすらバッティング練習をしていた。学校でやると部活とみなされるが、ピッチングマシンが強飯先生の私物であるのをいいことに、菅原君のお父さんの軽トラに載せて早川ラボに持ち込み、練習をしている。
 
一応周囲には塀があるが、ボールが塀を越えて外に行かないように庭全体にネットを張っている。これはここのラボのスタッフさん?か数人でやってくれたが、凄い手際が良かったので感心して見ていた。
 
ここは猛獣侵入防止のため、建物も周囲を取り囲む塀も丈夫にできているので打球が激突しても全く問題無いという。なお、早川ラボの館内では千里・沙苗・公世・弓枝の4人が剣道の練習をしている。
 
千里は菅原君たちに
「ここは自由に使っていいけど私がいる時にしてね。ヒグマが現れた時に私がいないと、管理人の須賀(秀美)さんだけでは対処できないから」
と言っていた。
 
村山さんがいると、ヒグマを木刀か何かで叩きのめすのかなあ、などと菅原君たちは思っていた。ここのところ土日には菅原君たちはここでバッティング練習をしているが、今の所ヒグマには遭遇していない。
 
一方、公民館で練習していた司は、夕方帰宅するとシャワーを浴びごはんを食べて「お休みなさーい」と言って部屋に行き寝る。そして眠りに落ちていきながら思っていた。
 
「貴子さんまだ来てくれないのかなあ。生理だいぶ落ち着いてきたのに」
 
夜間はまだ念のためナプキンを当てているが今日の昼間はパンティライナーだけで済んでいた。
 

6月13日(月).
 
朝起きてからトイレに行った雅海は1ヶ月半ぶりに見たちんちんに違和感を覚えた。
 
「こんな変なもの無ければいいのに」
 
(だから「ずっと女の子のままでいいよね?」と訊かれたのに)
 
そして排尿すると思う。
 
「おしっこの出方が変だ!」
 
更に部屋に帰ってから着替えていて当惑する。
 
「なんでこんなに胸が無いの〜?」
 
(男の子にはバストはありません)
 
「これじゃ体育の着替えの時に困るよ〜」
 
(だから女の子のままでいれば良かったのに)
 

困っていたら唐突に部屋の中に女の子が出現する。
 
「村山さん!?・・・の妹さん?」
 
女の子は千里に似ているが背丈が低い。小学2-3年に見える。
 
「ぼくは“男の娘の味方・魔女っ子千里ちゃん”だよ」
「村山さんなの?」
 
「村山千里は本来小学1年生の時に死亡する予定だった。だからその本来の寿命の時に千里の身体はいったん死亡して3つに別れて再生した。それが千里α、千里β、千里γと名付けられた。ぼくはそのうちの千里γだよ。ぼくは肉体が無いから成長が遅いんだよ」
 
「あ、やはり村山さんって何人かいるよね?」
「ぼくにも何人いるか分からないけど多分10人以上は居る」
「いるかも知れない気がする」
 
「お困りのことがあったらお手伝いするよ。ちんちん切ってあげてもいいよ」
「ちんちんはどうでもいいんだけど(←やはりどうでもいいのか)おっぱいが無いのに困ってるんだよ」
 
「ああ、だったらおっぱいあげるよ」
と言って、魔女っ子千里ちゃん(千里γ)は“おっぱい”を出してくれる。
 

「これを胸に接着剤で貼り付けるといいよ」
「ありがとう!これなら何日か誤魔化せると思う」
 
「完全な女の子に変えてあげてもいいけど、大手術だから半日かかる。回復にも半年かかるし」
「手術は今は勘弁して〜。学校に遅刻するし(そういう問題か?)」
 
「それ胸をアルコールティッシュとかできれいに拭いてから付けないと炎症起こすから」
「そうする」
「あと剥がす時はエナメルリムーバー使ってね」
「分かったありがとう」
 
それで雅海はしばらく胸はブレストフォーム、お股はタックで乗り切ることになる。
 
しかしタックしているとおしっこの出る位置は女の子になっている時と近いものの出方が“まどろっこしい”感じだったし、ブレストフォームは偽装がバレないかひやひやで
「本当の女の子に戻りたーい」
と雅海は思った。
 
(だから女の子のままにしてもらったらよかったのに)
 

6月18-19日(土日)には旭川で野球の北北海道大会が開かれた。
 
S中は春のリベンジに燃え、部員たちに加えて応援団、チア部、吹奏楽部をバス2台で旭川に送り込んだ。
 
司は女子マネの水野尚美と隣り合う席で(*17) 旭川に向かったが
「3年生は最後の大会だし、今度こそ優勝したいね」
などと語った。
「司先輩は卒業したらどこの高校に行くんですか?」
 
(尚美や1年生マネージャーの飛鳥(あすか)ちゃん・美甘(みかん)ちゃんは司を“福川先輩”ではなく“司(つかさ)先輩”と呼ぶ。ちなみに3年生の男子部員たちは司を“福川君”ではなく“福川さん”と呼ぶ)
 
「ぼく勉強もできないし、S高校かU高校に行くつもりだったんだけどね。生駒先輩から札幌SY高校に来ないかと誘われてるんだよ」
「あそこいいですよね。私もあそこか入れなかったら夕張V高校に行きたいんです」
 
「夕張にも女子野球部のある高校があるんだ?」
「はい。でも札幌SY高校のほうが強いし練習環境もいいんです」
 
「ああ。でも水野さんは高校の女子野球で充分戦力になると思うよ。100km/hくらい出てるもん」
 
(*17) 旭川にバスで向かう時、昨年は司は生駒優と隣の席だった。今年は毎回水野尚美と隣の席である。いつも女子マネと隣の席になっていることについて司は特に何も考えていない!
 

「そうですか。もっとボールの速度をあげたいんです。司先輩みたいに男子並みの速度まで出なくても110km/hくらい出せるようになりたいんですが、やはりたくさん投げ込みした方がいいんでしょうかね」
 
と水野さんは言ったが
 
「むしろ走るといいと思う」
と司は言う。
 
水野尚美がワインドアップから投げ下ろすボールは前川君のボールより速い。ここの野球部の女子マネに「格好いい男の子たちのサポートをしたい」という子は居ない。このチームでは雑用はレギュラーに入ってない男子の1年生部員がする。女子マネたちはみんな「自分が野球をしたい」という子ばかりである。紅白戦ではチームに入ってプレイしている。
 

「走るんですか!」
と尚美は驚いたように言う。
 
「ボールは腕で投げるんじゃない。身体全体で投げるもの。腕だけで投げてる人は絶対そのうち肩を壊す」
「ああ」
 

小学校の時の自分がそうだったよなあと司はあらためて思う。5年生の時までの自分は腕だけで投げていた。それで肩を壊してピッチャーができなくなり、キャッチャーに転向した、でも去年の春までの自分は肩に激痛を感じながらキャッチャーをしていた。腰痛も抱えていた。椅子に座るのが辛かった。今思えばあのままだったら中学卒業する頃にはもう野球自体できなくなっていたであろう。それどころか体育の授業程度の運動をするのも辛い状態まで行ってたかも。
 
この1年ほどのできごとって、思えば貴子さんが見せてくれた夢かも知れない。
 
女の子に性転換してもらった副作用で身体が作り直されて腕や肩の痛みも腰痛も消え、またスピードボールが投げられるようになった。
 
またそもそも女の骨格になったことで腰が安定し、走塁などがしやすくなった気がする。女の身体は塁を回る時の方向転換がしやすい。男性時代は足で走っていたのが今は腰で走ってる感じだ。
 
もっとも男子野球選手として出場できるのはこの大会が最後かも!
 
男の身体が壊れちゃったから健康な女の身体に交換してもらったようなもの?(秋本治「Mr.クリス」の世界?)
 
強飯先生が頑張ってくれたおかげで、とにかく今季は男子チームに参加できるけど、高校では無理だろうなという気がする。ぼくどんどん女性化している気がするし。ぼく自身女装にハマっちゃったし、1年前は女の子になるとか思いもしなかったけど(*18)、今はむしろ女の子になるのもいいなあという気がしている。
 
司は水野さんと色々おしゃべりしながら、そんなことを考えていた。
 
(*18) 嘘はよくないなあ。これが嘘であることはすぐにバレることになっている。
 

18日の1回戦。相手チームは例によって
 
「なんで向こうは女がキャッチャーしてるの?」
「キャッチャーは女房役というからピッチャーの彼女じゃないの?」
「だったらお前も橋本と結婚しないといけないぞ」
「え〜!?」
「結婚式の前日に性転換手術」
「あら素敵じゃない?」
「あなた女の子になる素質あるわよ」
「ちょっと待ってぇー」
などと軽口を叩いている。
 
しかし1回例によって立ち上がりは制球が定まらない小森君から4ボールを選んだ選手が「キャッチャー女だし」と思って大きめのリードを取っていたら司が矢のような牽制球で1塁走者を刺す。
 
この送球を見て向こうの選手の顔色が変わった。
 
「何つう凄い球投げるんだ?」
「あいつピッチャーへの返球は緩い球なのに」
「女とは思えん」
と驚いてた。(本人は男だと主張しているんですが)
 
「男でもあそこまで凄い球投げるキャッチャー居ないぞ」
「むしろあいつピッチャーになるべきでは」
 

小森君も1アウトを取れたことで自分を取り戻し、後続を三振と内野ゴロに打ち取って1回表を終える。
 
その裏、1・2番は倒れたものの、3番菅原君は相手エース橋本君の初球を打ってレフト前ヒット。4番阪井君は右中間の深い所にヒット。13塁となったところで5番前川君はレフトポールに直接当たるホームランであっという間に3点取った。更に6番小林君は4ボール、7番加藤君も連続4ボールで、ここでエースを引き摺りおろした。
 
2回以降こちらの小森君は調子を取り戻して相手打線を抑えていく。たまにランナーを出しても司の牽制球ですぐ殺される。
 
こちらの攻撃では相手の2番手・3番手・4番手・5番手・6番手!の投手をどんどん打ち崩し、毎回得点で5回コールド14-0で勝った。
 

試合が終わったのは14時半頃であった。選手たちは着替えた後、木原光知校長のおごりでマクドナルドに行き好きなだけ!食べさせてもらう(かなりお金が掛かった気がする)。
 
その後腹ごなし?にジョギング!で市内の公営球場に移動し(せっかく着替えてもまた汗を掻いたりして)、ここで16時半から18時まで軽〜く練習をした。投手たちの肩に負荷を掛けないように、紅白戦は女子マネの水野尚美と山口飛鳥が登板したが、水野は100km/hくらい、山口も90km/h以上の速度が出ており、
「水野さんの球は前川より速い」
と言われていた。
 
司は1年生の女子マネ佐々木美甘に(自分の)キャッチャーミットを持ってもらい、防具も着けてもらって軽く20-30球投げた他はジョギングと腕立伏せ・腹筋・柔軟体操程度に留める。柔軟体操で背中を押す役、腹筋で足を押さえる役も美甘がしてくれた。美甘は司の背中を押す時、司の身体の感触が女子であることを確認する。ブラジャーしてるのも触って分かるし!
 

この後“明日の試合に出る野球部員”は旭川市郊外の旅館に入った。試合に出ない野球部員と2人の1年生マネージャーは校長先生の運転するワゴン車で留萌に帰った。なお応援団・チア・吹奏楽部および今日登板した小森君は試合終了直後にバスで留萌に戻っている。彼らはまた明日午前中に出てくる。
 
2日目の試合に出場する選手も新人戦・春の大会の時は留萌に帰ったのだが、今回は宿泊することになった。実は春の大会の時に一部のチア部員・吹奏楽部員から声が出たのである。
 
「留萌から寿司詰めのバスで旭川まで行って2時間踊り続けて(吹き続けて)また留萌に戻り、翌日またそれを繰り返すって身体がきついよね」
 
応援団の子たちは頑丈なので平気である!
 
でもそれでチア部の部長と吹奏楽部の部長が協同で顧問を通して教頭先生に意見を出したのである。
 
「留萌と旭川の往復だけでもかなり体力を消耗します。私たちは応援だから頑張りますけど、試合に出る選手たちはそれで体力使って旭川の地元中学より絶対不利になりますよ。出場選手だけでも宿泊させることは考えられませんか」
 
それで結局、教頭がPTA会長と話し合い、PTAから補助を出して翌日の試合に出る選手だけでも宿泊させる(食費分だけ自費)ことを決めたのである。
 
(*19) 中学生は連投禁止規定により今日完投した小森君は明日は投げられない。2日間で10回以上は投げられない規定なので、新人戦の旭川T中・近藤君のように準決勝の最後に出て来て1/3投げただけの場合は翌日の決勝戦でも7回完投できる。
 
投手の少ないチームなら完投した投手を翌日リリーフに使うようなこともあるが、S中には現在ピッチャーが5人(前川・福川・山園・小森・工藤)いるので、明日小森君を出す可能性は無い。念のためベンチには入れるが。
 
ということで小森君は旭川に泊まらず、(身体を休めるため)夕方の練習にも参加せず、いったん留萌に戻ってまた明日出てくることになった。
 

旅館に泊まるメンバーは旅館に到着すると、そのまま食堂に食事に行く。全員疲れているのでどんどん食べる。メニューは焼き肉の食べ放題なので、みんなもりもり食べていた。これ旅館が赤字にならないか?と少し心配した。
 
食事をしている最中、強飯監督が各自に部屋番号を配っていた。司は301と書いた紙をもらった。旅館なので鍵は無い。貴重品(主として財布)は各部屋の金庫に入れるようにと注意があった。
 

さてこの日宿泊したのは下記18名である。
 
強飯監督
3年生(6)菅原(主将)・前川・小林・加藤・東野・福川
2年生(6)橋坂・阪井・宇川・田中・山園・梶屋
1年生(4)柳田・松阪・工藤・飛内
マネージャー:水野尚美
 
ベンチ入りしてスコアを付けるマネージャーはプレイする訳ではないが体力を考慮して宿泊組に入れる。
 
そして部屋割はこうなる。
301 水野尚美・福川司!
302 強飯監督・菅原主将・前川・小林
303 加藤・東野(以上3年)・山園・宇川
304 橋坂・阪井・田中・梶屋(以上2年)
305 柳田・松阪・工藤・飛内(以上1年)
 
4人部屋(8畳)4つと2人部屋(6畳)1つできれいに収まる。
 
不宿泊:小森・田口・西谷・長山/山口飛鳥・佐々木美甘
 

司は301の札をもらっていたので荷物を持って301に入った。
 
6畳の部屋でトイレは付いているがお風呂は無い。大浴場に行く方式のようである。司は困ったなあと思った。6月5日の夜に貴子さんから
「そろそろ生理だから」
と言われて女の子の身体に変えられた後そのままなので、今男湯に入ることができない。
 
(女湯に入ればいいと思うが?これまで何度も入ったくせに。それに司が男湯に入ろうとしても従業員さんが飛んできて女湯に誘導されると思うぞ)
 

取り敢えず
「疲れたぁ」
と言って横になり海老さんのポーズで目を瞑って少しウトウトしていた。
 
誰か入ってくる気配があるので上半身を起こして見ると、水野尚美である!
 
「水野さん何か用事だっけ?」
「司先輩と同室ですから、よろしくお願いします」
「え?ちょっと待って」
と言って司は、隣の部屋に行き、強飯監督に言った。
 
「先生、ぼくと水野さんが“間違って”同じ部屋になってるようなんですが」
「何も間違ってないよ。“女子”を同じ部屋にしただけだよ」
と先生は言う。隣にいた菅原君も
「宿泊するメンバーで女子は福川さんと水野さんだけだから同じ部屋にするのは当然」
などと言う。
 
「ぼく男子なんですが・・・」
「うん、建て前、建て前。でも実際は女子なのはみんな分かってるから」
と小林君。
 
「今日は女性同士安心してぐっすり寝て明日は頼むよ」
と前川君。
 
ということで司は不本意にも水野さんと同室になったのであった!
 

「なんかぼくは女子だから水野さんと同室でというんだよ。水野さんには絶対変なことはしないから、ごめん。今晩は同じ部屋で寝せて」
と司は301に戻ってから尚美に言った。
 
「女同士ですから、リラックスしてくださいね。司先輩の裸を見ても誰にも先輩の性別のことは言いませんから、安心してください」
などと尚美は言っている!
 
なんかぼく完全に女子として扱われてる?
 
(何を今更)
 

結局尚美の布団を窓側に敷き、司の布団を入口側に敷いて、間に荷物を置いた。
 
「私夜中に司先輩を襲ったりしないのに」
と尚美は笑っていた。
 
襲うって何???
 
「水野さん、お風呂行って来たら?」
「今の時間は混むから少し後で行きます」
「ああ、それがいいかもね」
 
それで司は自分はお風呂どうしよう?と思いながらも入口側の布団で眠ってしまった。
 

「司先輩」
と言って揺り起こされる。
 
「あれ?朝だっけ?」
「今は23時過ぎです」
と尚美ちゃん。
 
「どうかしたの?」
「今から一緒にお風呂に行きません?」
「えーっと」
「だって先輩、明日は登板なのにお風呂に入ってぐっすり寝ないと疲れが残りますよ。もし多少の不都合があったとしても知り合いの女子と一緒ならきっと何とかなります。それに私さっきも言いましたけど、司先輩の裸を見ても、性別のことは誰にも言いませんよ」
 
司は考えた。確かに彼女と一緒にお風呂に行くというのがいちばん上手い方法のような気がする。
 
「一緒に行こうか」
「はい」
 

それで司はお風呂セットと着替え、部屋に用意されていたタオル、バスタオルを持ち、水野尚美と一緒にお風呂に行ったのである。
 
地下まで降りて、目の前には今どき珍しい遊戯室がある。後で加藤君たちに聞いたのでは、エアーホッケーとかスマートボール!とかクレーンゲームとかが並んでいたらしい。(一応ここで遊ぶことは禁止と言われている)
 
ここから左手に行くと男湯、右手に行くと女湯である。司は
「もうぼく男湯に入ることはないかも知れないな」
と思いながら、尚美と一緒に右手の女湯のほうに行った。
 
夜中なので人が少ない。20代の女性が数人いる。でも司は気にせず、尚美と並びのロッカーを選び、服を脱いだ。司の下着姿があらわになる。でも尚美は特に変な顔もせず、自分も服を脱ぐ。司がブラジャー(試合中はスポーツブラを着けていたが終了後普通のブラに交換した)を外しショーツを脱いでも特に何も言わずに自分もブラジャーとショーツを脱いだ。さすがに彼女のバストは直接見ないようにする。
 
それで浴室に移動し、各々洗い場で身体を洗う。
 

やはり疲れた後はお風呂だなあと思った。汗と共に疲れが流れ落ちていく感じである。髪を洗い、顔を洗い、豊かなCカップのバストを洗い、腕を洗い、お腹を洗い、お股を丁寧に洗う。そして足を洗い、指先まできれいに洗った。
 
全身にシャワーを掛けてから浴槽に入る。司が浴槽に入ってから1〜2分して尚美が入ってきて、近くまで来る。
 
「ちょっとだけ触らせてください」
と言って尚美は司の胸に触った。
 
「Cカップですよね?」
「去年の春頃はAだったけど、腕立伏せとかしてたら大きくなった気がする」
「やはり腕立伏せって効くんですね!」
「水野さんも頑張るといいよ!」
「はい」
「ただし試合中はスポーツブラが必要」
「そうですよね!」
「でないと胸の筋を痛めると思う。今日は下着メーカーの5000円くらいのスポーツブラ着けたけど明日はスポーツ用品メーカーの8000円くらいのスポーツブラ着ける」
「ああ。凄い」
 
その後はごく普通の話題を話した。NEWSやKAT-TUNの話とか、一部で流行り始めていた目の周りを真っ黒に塗るパンダみたいなメイク、ドラえもんの新声優陣の話、などなど。司も乗っていき、1時間くらいおしゃべりしたところでアクビが出た。
 
「あ、ごめんなさい。疲れてますよね」
「そうだね。そろそろあがろうか」
「はい」
 

それで2人はお風呂からあがり、身体をバスタオルで拭いて新しい下着を着けた。司はポカリスウェットを自販機で2本買い、1本は尚美に
「おごり」
と言って渡した。
「ありがとうございます!」
 
そして部屋に戻ると
「私寝るね〜」
と言って、布団に潜り込んでぐっすり寝た。1日たくさん運動してお風呂に1時間入ったので、夢も見ないほど完璧に熟睡した。
 

翌日朝起きた時に、凄く身体が軽い気がした。トイレに行くとたくさんおしっこが出た。
「このおしっこの出方が普通になっちゃったなぁ」
 
尚美と一緒に朝食に行き、部屋に戻ってから1時間くらい目を瞑ってイメージトレーニングする。10時頃、バスで会場に入った。
 
準決勝が行われる。相手は春の大会で1回戦で当たったG中である。もちろん彼らは司を馬鹿にしたりしない。しかしこの試合には司が先発したので
 
「あの女子、キャッチャーだけじゃなくてピッチャーもするのか」
と感心していた。
 
司は
「女の身体では今一(いまいち)スピードが出ないなあ」
と思いながらも丁寧なピッチングで相手を押さえていった。
 
司は現在女の身体ではあるが、120km/h近いスピードボールなら出る。これは男子の高校生チームでも一応ピッチャーができる速度である。元々彼は小学校の時パワフルなエースだった。
 

G中は春の大会で最後にトリプルプレイを食らって負けたリベンジに燃えていた。特にその三重殺打を打ってしまった相手エース・丸井君は無茶苦茶気合が入っていた。しかし気合が入りすぎて球筋が定まらない。
 
初回いきなり先頭の橋坂君にデッドボールを与えてしまう。続く柳田君のバントを丸井君自らが捕って・・・二塁に投げた!
 
すると俊足の橋坂君は二塁に滑り込んでセーフ。二塁手から一塁手に送球したらこれを一塁手が捕れない!
 
結局、ノーアウト23塁になってしまう(投手の野選と二塁手のエラーが記録される:中高生の試合ではわりとありがち)。
 
そして迎えるバッターは春の大会で丸井君からサヨナラ本塁打を打っている菅原君である。初球はレフトへの巨大飛球だがわずかに逸れてファウルとなる。内野手が集まる。ベンチから伝令が走る。丸井君は何度も首を振っていたが最後は受け入れた。でも不満そうである。
 
結局菅原君は敬遠の4ボールとなる。
 
塁が埋まる。
 

そして4番の阪井君を迎える。
 
いきなりデッドボール!
 
押し出しでS中は1点を先制した。
 
G中は丸井君をライトに回し、2年生の谷口君をマウンドにあげた。谷口君は前川君に内安打を打たれて2点目を失ったものの、小林君を三振、加藤君をインフィールドフライ、宇川君をショートゴロに打ち取りピンチを切り抜けた。
 
2回以降は司と谷口君の投げ合いが続く。谷口君はスピードはあまり無いもののナックルなどというS中の打者が経験したことのない決め球を持っており、打てそうでなかなか打てない。毎回ランナーは出るものの後続を断つ。ただコントロールが微妙でキャッチャーが捕れない投球も多かった。(元々ナックルは捕球しにくい)
 

しかし6回裏、先頭の加藤君が振り逃げで一塁に生き、宇川君がバントできっちり送って1アウト二塁となる。バッターは司である。
 
相手は内角へのストレートで1ストライク、外角へのカーブがぎりぎり入って更にストライクを取り、0−2と追い込む。次はボールで打ち気を外すかなと思ったら飛んできた球は微妙に揺れ動く。ナックルだと思う。司は「当てようと思っても当たらないからタイミングだけ合わせよう」と思いバットを振った。
 
そしたら当たった!
 
ただ元々球速が遅いからあまり飛ばない。
 
打った感触はスタンドまで行きそうな気がしたのだが、打球は1バウンドしてからスタンドに入った。
 
エンタイトルド・ツーベースである。
 
二塁の加藤君が生還する。司は二塁まで安全に進塁する。これで0−3。
 

谷口君は点を失ったことより得意のナックルを打たれたことがショックだったようである。次の東野君にフォアボールを与えてしまう。
 
ここでライトに入っていた丸井君が戻ってきて、柳田君を三振。そして因縁の菅原君をピッチャーゴロに打ち取ってこの回を終わらせた。
 
そして7回表、相手は左打者の代打を出してきた。外角低めの外す球に無理矢理バットを伸ばして当ててテキサスヒットとなる。しかし司は冷静である。次の打者がバントを試みたのをダッシュして捕球。矢のような球を二塁に送ってランナーを殺し、更に二塁から一塁に送られて打者走者もアウトになる。
 
そしてまた出て来た代打の左打者を司は120km/hのスピードボールで三振に取ってゲームセットである。それでS中は春の大会に続き、北北海道大会の決勝に進出した。
 
決勝は次の土曜日に行われる。
 
なおこの試合を旭川T中の監督と選手たちがじっと見ていた。この日は第1試合でT中が決勝進出を決めており、留萌S中は第2試合だった。それで自分たちの試合が終わったT中の部員たちがこの試合を偵察したのである。
 

S中では6月20-22日(月火水)、期末テストが行われた。千里Yと千里Rはまた例によって分担して試験を受けた。
 
R:国語・英語・社会・美術
Y:数学・理科・保健・音楽
 
ただYは理科の試験を受けている最中に難しい問題で考えている内に“消えちゃった”!びっくりした千里GはそこにVを即転送した!
 
Vは顔を洗っている最中を転送されてギョッとする!
 
千里の後ろの席に座っていた蓮菜は
「今千里が一瞬消えた気がするけど、多分気にしない方がいいよね」
と思った。
 
教室内を巡回していた先生は千里を見てびっくりする。
「村山さん、なんで顔がずぶ濡れなの?」
「すみみませーん、考えても分からないから水でもかぶったら分かるかなと思って」
 
試験中なのに教室中が爆笑する。
 
「でも顔は拭いてから試験解いたほうがいいね」
「そうします」
と言って千里(V)はハンカチで顔を拭き、私入浴中でなくて良かったあと思いながら、試験問題に取り組んだ。
 
ということで理科は半分くらいVが解いた。
 

技術・家庭・美術の実技は普段の授業の状況で評価すると言われた。音楽の実技はY、体育の実技はRが受けて、そこそこの評価を取った。
 
Yは
「今日は調子が悪いみたいね」
と言われたが
「左右の卵巣が同時に生理になったからかも」
と言って、また笑われていた。
 
でもYにはIPS細胞から作った卵巣と、小春の卵巣があり、卵巣を4つ持っている。もっとも小春の卵巣はもう既にほぼ機能喪失しているが。
 

千里(R)は、映子から声を掛けられた。
 
「千里ちゃん今年も吹奏楽の大会に出てくんない?」
「いつあるの?」
「8月6日土曜日」
「うーん。微妙な日程だな」
 
Rは千里Gに直信して訊く。
『ねね、私8月6日は留萌に居る?』
『居るよ。7日から旭川に移動する』
とGは即答する。
 
「6日は居るみたい。私が居なかったら多分別の千里が代理する」
 
Gが苦笑している。その時はVにやらせようと思っている。
 
「じゃお願い。これ楽譜。これのフルート2を頼みたいの」
 
実際譜面のフルート2の所にマーカーで印が付けてある。
 
「OKOK。でも練習には出られないと思う」
「本番でちゃんと吹いてくれたらいいよ」
「じゃそういうことて」
 

その日の夕方、千里Rは部活を休むとタクシーでW町まで行く。そしてGに直信する。
 
『私の居る場所たぶん分かるよね?星子ちゃんをちょっとこちらに寄越してくれない?』
『了解』
 
それでGの指示で星子が出ていく。
 
「久しぶり〜。この楽譜、“私”に渡しといて」
「分かりました」
「じゃねー」
 
それでRは軽くジョギングして駅前まで戻った。
 
Vが訊いた。
「Rはこの付近だろうという所まで突き止めたのかな」
「いやこの場所は分かったと思うよ。ただ自分が30mルールでここに到達できないのも分かったから星子を使ったのだと思う」
とGは言った。
 
星子は翌日学校に行くと
「これ楽譜のコピー取りましたから」
と言ってコピーを1部Rに渡した。
「サンキュー。お疲れ様」
 

貴子さんは楽しそうに言った。
「あんたとうとう女の子になりたくなったのね。よしよし。可愛い女の子に変えてあげるからね」
 
「明日水泳の授業があるんです。男の身体ではやばいので女の子になりたいんです」
と雅海は言う。
 
なおブレストフォームは既に取り外している。
 
「そのまま永遠に女の子でいいよね?」
「取り敢えず、修学旅行が終わるまででお願いします」
「遠慮することないのに。このままずっと女の子ライフを楽しみなよ」
「後のことはまた後で少し考えさせてください」
「分かった。取り敢えず少し眠りなさい。目が覚めた時はもう醜いちんちんも無くなって、可愛い割れ目ちゃん、気持ちいいクリトリス、お嫁さんになるために必要なヴァギナができて、おしっこも楽に出来るようになって、素敵なバストができて、君はもう女の子だよ」
 
それで雅海は眠りに落ちて行った。
 

貴子は不快そうに言った。
「どうして男の娘に戻りたいのよ。女の子のままでいいじゃん」
「明日水泳の授業があるんです。女の子のままでは水着になれないので」
と司は言う。
 
「可愛い女子水着着ければいいじゃん」
「ぼく男子選手ということになってるのにそんなことできません」
「面倒くさいね。でもその内女の子になりたいよね?」
 
「後のことはゆっくり考えますけど、取り敢えず今は男に戻してください」
「まあいいや。じゃ少し寝ててね。目が覚めた時は残念だけど男の娘だよ」
「お願いします」
 
「でもちんちんは無くてもいいよね」
「え〜〜!?」
と言いながら司は眠りに落ちて行った。
 

6月23日(木).
 
今日はS中の体育館1階にあるプールで3年生の水泳の授業が行われる。
 
沙苗・セナは女子生徒なので普通に女子用スクール水着を持って出掛けた。
 
公世は「女子用スクール水着用意しておいたよ」と姉から言われたものの「ぼくは男の子だから」と言って普通にトランクス型の男子用水着を持ってでかけていった。
 
雅海は女の子の身体に変えてもらったので安心して女子用スクール水着を着て出て行った。
 
留実子は不本意ながらも女子用スクール水着を持って行った。
 
鞠古君は女子用スクール水着と男子用トランクス型水着を持って行った。これを重ね着するのである。バストがあるのでトランクス型水着だけではまずい。ちんちんが付いてるので女子水着だけでもまずい。
 

さて司の場合はこうであった。
 
彼はもちろん男子用のトランクス型水着を着るつもりで用意していた。そのために男の娘?に戻してもらった。
 
朝起きてみたらバストは消失して男のような胸になっていたもののお股は女の子の形でちんちんは無く、割れ目ちゃんがあったのは気にしないことにした。取り敢えずバストが無ければ男子水着になれる・・・と司は思った。
 
ところが・・・・・
 
朝母が入ってくる。
 
「つかちゃん、あんたの水着買っておいたよ」
と言って女子用スクール水着を渡す。
 
「ぼくそんなの着ないよ。これ着るよ」
と言ってトランクス型水着を見せるが、叱られる!
 
「つかちゃん!女の子がこんな水着を着れるわけないでしょ!おっぱい曝したら警察に捕まるわよ!ちゃんと女子用水着を着なさい」
と言って、トランクス型水着は没収された!
 
(当然!)
 
「うっそー。今日はおっぱい無いのに女子用水着なんて着られないよぉ!」
と司は困った!
 
 
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【女子中学生・春ランラン】(4)