【女子中学生・夏祭り】(1)

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7月3日(日) 健康づくり早朝大遠足が、留萌ゴールデンビーチから増毛町暑寒公園の15km程のコースで行われた。P神社の常連はまとめてこれに参加することになり、いつもP神社にいるメンツで中学生以上は早朝ゴールデンビーチに集まりあるいは神社からまとめてゴールデンビーチに運んでウォーキングをした。
 
例によって、恵香や美都などは「きつーい」と言いながら歩き、留実子・千里(*1)・沙苗・公世などは走ってるのと大差ない速度で歩く。留実子たちが第1グループを形成し2時間ほどで完歩した。昨日留萌に来たばかりの高木姉妹の内、姉は「パス」と言って見学したが、妹は玲羅などと一緒に歩き、2時間半で完歩した。この付近までは完歩者への振る舞い、海鮮汁にありつくことができた、貞美は
 
「留萌のお魚美味しーい」
と喜んでいた。
 
(*1) 千里Yが「15kmなんてきつーい」と言って勝手に消えてしまったのでRが参加した。
 

なお留萌に来たばかりなので、貞美は玲羅が千里の妹とは知らない。単に同じ学年というので仲良くなっただけである。
 
4時間ほど掛けて息も絶え絶えに辿り着いた恵香や雅海などは
「疲れたぁ。海鮮汁は?」
といったが
「もう売り切れた」
と聞き
「海鮮汁食べたかったぁー。折角最後まで歩いたのにぃ」
と泣いて!いた。
 
でも神社に帰ってから花絵さんが海鮮汁をおごってくれた。増毛で海鮮汁にありついた人や見学者、小学生以下の子も含めて、みんなもりもり食べていた。
 

7月3日(日)の夜。
 
司は「また明日は水泳の授業だから、ブレストフォーム貼り付けなきゃ」と思い、部屋の換気扇(冬にストーブを焚くので付いている)を作動させてから胸に接着しようとしていた。
 
そこに貴子が現れるので思わず
「きゃっ」
と言って腕で胸を隠す(←行動パターンが既に女子になっているぞ)。
 
「えーっと、なんでしたっけ?」
「あんたそろそろ生理だから女の子の身体に戻しとくね」
「えっと・・・生理の出てくる穴はあるみたいなんですけど」
「穴自体は存在するけど、それ狭いからそのままじゃ詰まっちゃうのよ(嘘)」
「詰まるのは困るかも」
「だから普通の女の子に変えてあげる」
「えっと生理が終わったら男に戻してもらえるのでしょうか」
「取り敢えず修学旅行まではそのままでいいんじゃない?」
 
「え〜!?全道大会もあるのにぃ」
「じゃね」
と言って、貴子さんは司にタッチしてから消えた。
 
司は何とかパジャマの上を着て布団に潜り込むと、そのまま深い眠りに落ちていった。
 

しかしおかげで7月4日(月)の水泳の授業で、司は問題無く女子水着を着けることができた。しかもプレストフォームではなく本物の胸なので思いっきり身体を動かすことができ、同じ上級者グループに入っている公世ちゃんから
「今日は凄く調子いいみたいね」
と言われた。
 

7月7日(木).
 
この日は小春の(設定)誕生日である。
 
先日の小糸の誕生日と同様、千里Rはコリンにケーキを買ってもらっておき、部活が終わってから小春の家に行ってケーキを渡し、小春・小糸・コリンと一緒にケーキを食べた。
 
一方千里Yは学校の授業が終わった所でS町バス停に出現し、自転車で町に出てケーキを買い、そのまま自転車でP神社まで行く。そして勉強会のあと小町を連れて小春の家に行って、ケーキを渡した。このケーキは翌日食べられることになる。
 
小糸もどうやら千里は複数いるようだと認識することになる。
 

7月7日(木).
 
雅海と司は3度目の生理を経験した。しかし3度目になると、もうかなり慣れてきて、2人とも日常生活の一部として処理できた、司は生理期間中は朝のジョギングを休んだ。
 
由紀は司より数日前に生理が来たようだった。それで由紀が生理がだいたい終わってジョギングに復帰するのと司が生理で休むのがちょうど入れ替わりになった。
 
公世は「ぼくも女の子になったら生理来るのかなあ」と少し不安に思った。
 
(公世ちゃんもそろそろ生理が来ていい頃だよね)
 

2005年7月9日(土).
 
中学剣道の留萌支庁大会が苫前町スポーツセンターおよび隣接する苫前町社会体育館で行われる。昨年夏も使った場所だが、ここが選ばれたのは実は今回の女子の参加チームの数の問題があった。
 
今回団体戦の参加校は男子12,女子9てある。
 
昨年は夏の大会には10校参加していたものの、どうしても5人揃えられなくて団体戦を見送った学校が出て9になった。9校というのはブラケット(組合せ表)を作るにはとても困る数である。結局3校ずつ3組に分け、予選ラウンド総当たり、勝ち上がった3校で決勝ラウンド総当たりということになった。
 
そうなると女子の試合の数が多いため、1つの会場で実施しようとすると朝8時に始めなければならない。そうなると遠い地区から参加する選手は辛い。それで体育館が2つ並ぶ場所を使用し分散して試合をすることになってここが選ばれた。最初は小平町(おびらちょう)のB&G海洋センターを使うつもりだったが、そこでは最も近い小平小学校へも1.2kmあり不都合が生じるのである。
 
留萌の市民体育館と隣の勤労体育センターでも同様のことができるが参加校数が確定した時にはもう空いてなかった。
 

それでスケジュールはこのようになった。
 
男子団体戦(スポーツセンター)
9:00 1 round (4)
9:30 QF (4)
10:00 SF (2)
10:30 3rd place (1)
11:00 final (1)
 
女子団体戦(社会体育館)
9:00 heat (3)
9:25 heat (3)
9:50 heat (3)
10:15 final (1)
10:40 final (1)
11:05 final (1)
 
しかし弱い学校にとっては最低2試合することができる!
 

千里たちは保護者の車数台に相乗りして苫前町に入る。そして予選ラウンドをもちろん2勝で勝ち上がって決勝ラウンドに進む。決勝ラウンドに出てきたのは2強のR中・S中ともう1つはM中であった。
 
そして決勝ラウンドの第1試合M−RはR中の勝ち、第2試合M−SはS中の勝ち。どちらの試合も最初の3人で決着が付き、座り大将・座り副将であった。そして決勝ラウンド最終戦S中−R中を迎える。両者のオーダーはこうなった。
 
先鋒:ノラン・エイジス(1級)1年
次鋒:羽内如月(初段)2年
中堅:原田沙苗(二段)3年
副将:沢田玖美子(初段)3年
大将:村山千里(二段)3年
 
先鋒:中村桃実(1級)1年
次鋒:金沢美恵(1級)2年
中堅:田詩歌(1級)2年
副将:前田柔良(初段)3年
大将:木里清香(二段)3年
 

こちらの先鋒は月野聖乃・ノラン・御厨真南・清水好花、の4人で“代表決定戦”をやらせ、最後はノランと御厨真南で延長にもつれ込むいい勝負の末、ノランが勝って初代表の権利を得た。
 
しかしR中の安藤先生が頭を抱えていたので、どうもまたこちらのオーダーを読み違えたようである。R中とS中は実力が伯仲しているのでオーダー次第でかなり結果が異なる。多分向こうは中村を如月にぶつけたかった。その場合大将戦の前に決着が付く可能性があった。
 
しかしこのオーダーでは最初の3つの勝負の結果があまりにも明白だった。先鋒戦ではR中の中村が勝つが、次鋒戦ではS中の如月が勝つ。中堅戦では沙苗がまた例によって田詩歌に1本取らせた上で1−2で勝った。
 
「また相手を教育してやってる」
と玖美子に言われていた。
 
沙苗はあまり強すぎると自分の性別が再度問題にされる可能性があるので、女子の部に出続けられるように試合では力をセーブしている傾向がある。田詩歌が勝負の後で首をひねっていたが、普段の練習での手合わせほど強くない気がしたからだろう。
 

1−2になったので、R中は優勝するには柔良と清香で2勝する必要がある。
 
副将戦が始まる。
 
が!
 
ここでいきなり柔良は滑って転んでしまった。もちろん玖美子が面を1本取る。試合が中断して床の拭き掃除が行われる。試合が再開される。
 
いい勝負が続く。時間切れかと思った所で柔良が最後の面を取りに来る。玖美子も面を取りに行く。微妙な勝負だったが旗は赤である。玖美子の面が有効と見なされた。これで玖美子が勝ち、団体戦はS中の勝ちとなってS中は初めて団体で北海道大会に行くことになった、
 
例によって千里も木里清香も不満そうな顔である。もちろん勝敗の問題ではなく、自分達が勝負できなかったから不満なのである!
 

なお隣のスポーツセンターで行われていた男子団体戦でS中は準々決勝からである。例によって
 
「なんでそちらは女子ばかりなんですか」
と言われたものの登録証や生徒手帳を見て男子であることを確認してから試合が始まる。
 
準々決勝は3人で準決勝は4人で決着して公世は座り大将である。決勝戦はR中とである。両者のオーダーはこのようになっていた。
 
S中
吉原翔太(2)/佐藤学(3)/潮尾由紀(2)/竹田治昭(3)/工藤公世(3)
 
R中
片岡明(1)/河村暢隆(2)/見沼貞弘(3)/所沢和志(3)/木梨洋介(3)
 
木梨君は中学になってから初めての団体戦出場で大将に据えられた。早い話が捨て駒である!留萌地区では公世の力が圧倒的で誰も勝てないのでここは最初から捨てたのである。春の大会もR中の大将にはそれまで出場経験の無かった3年生・大橋君が据えられたが、彼は一度も対戦せず最後まで座り大将だった(単に名前だけ)
 
今回の大会でもR中は準々決勝は3人、準決勝も4人で勝って木梨君は座り大将だったので春の大会の大橋君と同様対戦無しかなあと思っていた。
 
R中のメンツは“丸刈り頭が隠れていると女に見える”佐藤君も、“女子なのになぜか男子の部に出ている”由紀も男と変わらない?強さを持っていることを知っているので、手加減しない。全力である。
 

さて試合だが、先鋒戦は延長戦にもつれる接戦の末、吉原君が時間ギリギリに小手で1本取り勝った。次鋒戦は双方1本ずつ取った後、河村君が時間ギリギリに佐藤の面打ちを交わして返し胴で1本取り勝つ。これで1−1となり道大会進出は「中堅戦」に掛かる。(何故かはこの後の説明を読むと分かる)
 
R中の見沼君とS中の由紀との戦いが始まる。開始早々
「面ー!」
という高い声が響いて由紀の面が決まる。すれ違いざまに女性特有の甘い香りを感じてうっと思う。
 
やはりこいつ女だよな?でも実力は男並みなんだから頑張ろうと思い直す。こちらから攻めて行くがこちらの攻撃は全部交わされる。“彼女”は向こうの大将の工藤さんや。こちらの女子の木里さん・前田さんと同様フットワークを使い常に動き回っているのでこちらの攻撃は全部空を切る。そして相手の攻撃のタイミングが全く読めない。
 
と思っている内に瞬間的な踏み込みから小手が来る。
 
1本取られて試合が決まる。
 

これで中堅戦は由紀が勝ち、S中男子の道大会進出が事実上決まった。
 
実際、副将戦はR中の所沢君がS中の竹田君との接戦を制して2−2に持ち込んだものの大将戦ではS中の公世が6秒!でR中の木梨君から2本取り、優勝を決めた。
 
木梨君(2級)は「何もできなかった。あっという間に負けた。1本取られたことも分からなかった」と“初めての団体戦出場”を語った。
 
(公世は“当て止め”をするので全く衝撃も無く、1本取られた側はある程度の腕を持ってないと、取られたことも認識できない)
 
つまり大将戦の結果が最初から明らかだったので、中堅戦まででR中は最低2勝しておかないと、優勝できなかったのである。
 

午後からは個人戦となる。男子はそのままスポーツセンター、女子はそのまま社会体育館で個人戦に移る。
 
「これなら男女離れた会場でやっても同じでは」
「いやスタッフが兼任だったり、兄と妹が出ている保護者とかいるから」
「ああ」
「それに2つ隣り合ってればトイレが倍使える」
「それは助かるな」
 
「ちなみに由紀ちゃんは『君、女子は隣の社会体育館だよ』と言われたらしい」
「あの子。きっと新人戦あたりからは女子の部に回されるよ」
「そんな気もする」
「あの娘、生理が来たという噂ありますよ」
「生理があってもおかしくない気がする」
 
(公世が黙っていたので由紀が“生理の間”早朝ジョギングを休んだことは女子剣道部には伝わっていない)
 
「ちなみにトイレは私が手をつないであげて一緒に女子トイレに入りました」
「まあ男子トイレには入れないだろうな」
「公世先輩も女子トイレだったみたいです」
「公世は当然」
 
(公世は女子1〜2年からは“公世先輩”と呼ばれており“工藤先輩”とは呼ばれない。3年男子は“工藤さん”と呼ぶ。最近は弟からまで“きみ姉ちゃん”と呼ばれている)
 

ということで個人戦が始まる。個人戦参加者は男子143名、女子89名である。
 
参加人数 89
12:00 1r 50->25 (89->64)
12:49 2r 64->32
13:45 3r 32->16
14:13 4r 16->8
14:27 QF 8->4
14:37 SF 4->2
14:52 3rd place
15;07 Final 2->1
 
今回団体戦が終わった後個人戦が始まるまで30分程度しかなく慌ただしいが団体の決勝に出たような人は大抵2回戦からなので大きな問題は無い。S中女子は全員参加である。
 
1回戦敗退:高山世那、白石真由奈、エヴリーヌ、カレン
1回勝2回負:棚橋揺子、佐倉美比奈
2回負;丸橋五月
3回負(best32)月野聖乃、御厨真南
4回負(best16)清水好花、ノラン
 
4回戦を勝ち準々決勝に残ったのは下記4人である。
村山千里、沢田玖美子、原田沙苗、羽内如月
 
Best8にS中が4人残ってるが、如月は「組み合わせの運が良かっただけ」と言っていた。(春の大会のR中中村さんと同様の弁)
 

そして準々決勝はこうなった。
 
千里S○−×桜井F
前田R○−×原田S(延長)
沢田S○−×吉田M
木里R○−×羽内S
 
この4人が留萌支庁代表として道大会に出場する。留萌ではこの4人の実力が際立っている。
 
ただし前田−原田は本割りで1本ずつ取り、延長で前田柔良が1本取って勝った。沢田−吉田も1対1から時間切れ間際に玖美子がもう1本取った。
 
そして準決勝では千里と清香が勝ち、2004年1月以来、6回連続でこの2人による決勝戦となった。
 

先に3位決定戦が行われ、判定にもつれ込んだが玖美子がかろうじて勝利した。この2人の戦いもイーブンが続いている。
 
2003新 前田×−○沢田
2004春 前田△−△沢田
2004夏 前田×−○沢田
2004新 前田○−×沢田
2005春 前田○−×沢田
2005夏 前田×−○沢田
 
そして決勝戦である。ここまでの2人の成績はこうである。
 
2003新 木里×−○村山
2004春 木里×−○村山
2004夏 木里○−×村山
2004新 木里×−○村山
2005春 木里○−×村山
2005夏 木里 − 村山
 

お互い知り尽くしている2人の対戦である。激しい攻防が続く。男子の試合を見に行っていた人も女子の決勝というのでこちらを見に来て凄いギャラリーである。
 
「なんか中学生の試合じゃないよね。高校生同士って感じ」
「このまま道大会決勝も全国大会決勝もこの2人だったりして」
「多分この2人、同じ町に居たからお互い切磋琢磨してこんなに強くなったのだと思う」
「1年生の頃から2人とも目立ったけど、かなり成長してる」
「なんか土日はこの2人で手合わせしてるらしい」
「凄い。成長するわけだ」
「去年は全国大会の3位同士だからね」
「今年はほんとに全国大会の決勝でやるかも」
 
試合はお互い1本ずつ取って延長に行く。延長の終了間際お互いに最後の勝負とばかりに面打ちに行く。
 
が「面あり」の声は掛からない。恐らく相打ちと見なされたのだろう。
 
結局時間切れで判定となる。「判定」の声で旗は白1−赤2。
 
また旗が割れた。
 
(副審の1人が白を揚げかけて赤をあげた←厳重注意をくらった)
 
が赤の清香の勝ちである。両者礼をして下がる。
 
退場してから千里は「負けちゃったぁ」と言って伸びをしたが、清香は「納得いかん」と言っていた。本人は自分が負けていると思っていたようである。
 

しかしこれで清香は留萌地区大会で春夏連覇を遂げた。
 
今回団体戦は男女ともS中が制したが、個人戦は男子はS中の公世、女子はR中の清香と、2校が優勝を分け合った。
 
男子のベスト4(道大会進出)は、1.公世(S) 2.所沢(R) 3.権藤(H) 4.竹田(S) となった。竹田君は初めての道大会進出である。なお、吉原君がbest8, 佐藤君がbest16に入ったが、春の大会でbest8に入る好成績を残した由紀は4回戦で所沢君と当たってしまいbest32に留まった。でも所沢君から1本取って所沢君が俄然本気モードになっていた。
 
公世の弟、工藤大樹も1回戦・2回戦・3回戦と勝ってBest32まで行った。
 
「やはりお姉さん2人が強いもんねー」
「新人戦では団体戦メンバーになるかもね」
「でも大樹(ひろき)君も女子にならないか心配」
「俺は女にはならねー!!」
 
ちなみに“大樹”は“ひろき”ではなく“だいじゅ”と読む。彼は身長が姉?の公世より高い172cmあり、ちんちんも大きい。毎日オナニーに励んでいるので結構立派なサイズになっている。よくちんちんをぶらぶらさせて家の中を歩いているので(なんで男の子ってちんちんを見せるの?)弓枝から
 
「そんなにぶらぶらさせてるとチョン切るぞ」
と言われている。
 
彼は今の所、顔は女装が行ける程度に可愛いが、きっと今後は残念なことに!男っぽくなっていくものと思われる。
 

翌日、7月10日には剣道の級位・段位審査が行われた。
 
沢田玖美子・前田柔良、そしてM中の吉田さん、F中の桜井さんが二段に合格した。これで留萌の二段も随分増えた。
 
月野聖乃と田詩歌は初段に合格した。
 
如月は1月に初段になったばかりなのでまだ次に行けない。
 
男子では公世と竹田君が二段に合格した。また吉原君が初段に合格した。工藤大樹も1級になった。
 
佐藤君や由紀などは1月に1級になったばかりなのでまだ初段は受けられない。
 

ところで7月9日(土)には、千里Yの方はまた家のお祓いを頼まれた。金曜日に宮司さんが来て
「千里ちゃん、明日予定ある?家のお祓いを頼まれているんだけど」
と言い、千里が
「明日ならいいですよ」
と答えるので、セナは
「あれ〜。明日の剣道大会どうするんだろう?」
と思ったものの、あまり深く考えないことにした!
 
「高木姉妹を連れて行っていいですか」
と千里が訊くと、宮司は一瞬考えてから
「うん、まあいいよ」
と答えた。
 

それで7月9日(土)は宮司の車に、花絵さん、千里、高木姉妹が乗って小平町の古い民家を訪れた。鰊御殿(にしん・ごてん)とまではいかないが、結構大きく古い民家である。多分昭和初期の家ではないかと思った、
 
「わぁ、うようよ居ますねー」
と貞美が言っているが
「その手のことをあまり言わないように。相手を刺激するから」
と注意する。
「分かりましたぁ」
 
姉の紀美のほうはこの手のものが分からないようである。
 
白虎と六合を召喚して、高木姉妹をガードさせた。宮司・花絵さん・千里は自分の身は自分で守れる。
 
玄関で挨拶して中に通される。花絵さんが「家守りさんが居ない」と小さな声で言っていた。
 
千里たちは神棚のある居間に通されたが、千里はこの居間の中にいる雑霊を一瞬で消滅させた。花絵さんが呆れた顔をしている。貞美はびっくりしている。神職はポーカーフェイスである。紀美は何も分からない風だ。
 
千里としては御主人たちからお話を聞くのに邪魔だから消しただけである。
 
それでお話を聞くと、このようなことである。
 
・元々この家はポルターガイストの類いが多かった。古い家だから色々あるのだろうと思って気にしないようにしていた。
 
・しかし5年前に母が亡くなった頃から、何か重圧を感じるようになった。御主人が肝臓が悪いと言われ酒を断ち、もらった薬を飲んでいる。奧さんも大腸癌と言われ内視鏡による手術をした。しかし2人とも病状が全く改善されない。
 
・長女が受験に失敗し、現在旭川の予備校に行っているが、長女は旭川にきてから、もの凄く体調がよくなった。やはりその家自体に問題があるのではと言っている。その下にも女の子1人と男の子2人いるし、子供たちによくない影響が出る前に何とかしたい。
 

取り敢えず祈祷をしようとするが、神棚の米・塩・水が多分5年以上交換されていないようである。榊も無い。それで新しいものに交換してもらい、持参した御神酒(おみき)と榊を供えてもらった。
 
それで千里が笛を吹き、花絵さんが太鼓を叩いて、神職が祝詞をあげる。千里の笛の音に紀美も貞美も驚いた様子である。
 
たぶん「正しい」笛の吹き方をしているのを聞いたことが無かったのだろう。龍笛という楽器は“間違った吹き方”をしている巫女さんがとても多く、その間違った吹き方の人が後輩に教えるから、ますます間違った吹き方が広まっているという困った状態にある。本当の龍笛は龍が鳴いているようにパワフルに吹くのだが、蛇やミミズが寄ってきそうな弱い笛の吹き方をする人が多い。特に篠笛やファイフから来た人が篠笛と同じような吹き方をしたりしているのも困ったものである。
 
本当の龍笛の吹き方には強い息の力が必要である。肺活量も要求する。平安時代、基本的に男性が吹く楽器とされていたのも道理である。
 
そしてその龍が鳴くような千里の龍笛の音が家の隅々まで響いていくと家の中に棲んでいた雑霊や妖怪たちがどんどん消滅していく。花絵にはおなじみの光景だが、貞美は「すごーい」という感じで眺めているようである。でも紀美には分からないようである。
 

祝詞が終わった所で千里が宮司に目でサインを送る。宮司も頷く。宮司は
 
「語祈祷をしていてちょっと気になるところがあったのですが」
「はい」
 
それで宮司や千里が向かったのはこの居間の隣にある仏間である。仏檀横の床の間に何か像がある。
 
「御主人、この像は何ですか」
「それは宗教やってる叔母が押しつけて行ったんですよ」
 
宮司と千里は目を合わせた。
 
一方花絵は、この像が既に“力を失っている”ことから『千里、笛を吹いているうちに何かしたな?』と思った。
 
(実際には昨夜の内に千里GとVが来て、この家の妖怪たちの元締め及びその取巻きの眷属たちを処分した。子牙の術を使わなければならないほどの大物だった)
 

「この像はよくないです。処分させてもらえませんか?」
「もしかしてこの像が害悪を?」
 
千里が言った。
「この像自体は悪いことしていません。でも悪い霊を集めるんです」
「ああ」
 
「この像が良くないのか。処分した方がいいのか」
と紀美が訊く。
「うん」
「だったら私が処分してやろう」
と紀美。
 
「こちらは?」
「この子の曾祖父さんが凄い人だったんですよ」
と千里は言う。
 
「へー」
「でも本人は霊感ゼロで」
「うん。私は霊とかお化けとか全然見えない」
と本人も言う。
「でも色々な儀式の次第を伝授されているから、それでこういうのの処分法は分かる」
「へー」
 
「いわば熟練のコンピューター・オペレーターみたいなものですね。コンピュータの動作原理は全然分からないけど、色々な使い方を知っている」
 
「うん。私は熟練の素人」
と本人も言っている。
 
「なるほどー。だったらお任せします」
 

それで千里が出してくれた“保冷バッグ”に紀美はこの像を入れた。
 
「なんか理由は分からないけど、この手のものを入れるのに保冷バッグは使えるらしいんです。曾祖母ちゃん(恵雨)もお祖母ちゃん(藤子)も使ってた」
と紀美が言うと
「保冷バッグはアルミでできてるから静電遮蔽されるんですよ」
と花絵さんが言う。
「なるほどー。静電遮蔽か」
と御主人は納得している。
 
「でも千里ちゃん、いつも保冷バッグ持ち歩いてるの?」
と貞美が訊く。
「いつも持ってる訳じゃ無いけど、今日は必要になる気がしたから持って来た」
「へー」
 
「この子はその日必要になるものが全部分かるんですよ。この子が傘持っていけと言ったら、朝どんなに晴れてても雨が降りますから」
と花絵さんが言う。
 
「それは凄い巫女さんだ」
と御主人は感嘆していた。
 

このあと、部屋祓いと称して、千里は各々の部屋に御守りの塩を素焼きの皿に載せて置いていった。
「一週間たったら処分していいですから」
「分かりました」
 
家族は全員下腹部にトラブルを抱えていた。千里は白虎に命じて可能な限り治療させた。どうしても霊障は生殖器に絡んで起きやすいようである。高校生の次女さんも中学生の長男さんも生理不順を抱えていたので卵巣の動きを正常にしてあげるよう白虎に言った、
 
小学生の次男さんは睾丸の調子が悪いようだったので睾丸を活性化してあげるように言った。今はスカート穿いたら女の子でも通りそうな中性的な顔つきだが、きっとこの子はこの後男らしくなる。長男さんの方は卵巣の働きを強化したからきっと女の子らしくなりそう、と千里は思った。
 
千里(特にY)は視力があまりないので、見える物より感じるもので行動している。だからこの長男さんは“女性器を活性化すべき”と思った。
 
ちなみに千里はここにいる子供は(旭川に出ている長女を除いて)女の子1人、男の子2人と思ったが、千里以外の人は女の子2人と男の子1人と思った。だって千里が“長男”と思った人(他の人は“三女”と思った)の部屋はミニーマウスのカーテン、花柄のベッドカバーで本棚にも少女漫画が並んでおり、クマのぬいぐるみなどもあって、女の子の部屋と思えた。本人もロングヘアの可愛い顔立ちで可愛い声で話していた。花絵だけが、彼女のビニールロッカーの中に学生服がかかっているのに気付いた。
 
ちなみに千里から「この子の卵巣を活性化させて」と言われた白虎は彼女のアロマターゼを活性化し、彼女の睾丸が生み出す男性ホルモンが全部、女性ホルモンに転化されるようにした。また喉の骨が変形仕掛けていたのを元に戻してあげた。ついでに彼女の机の引き出しにエステミックスが入っているのに気づき、追加してあげた!彼女はたぶん年末頃までには少し胸が膨らんでくるだろう。来年くらいには生理が来たりして?
 

神社に戻ってから、紀美は千里に訊いた。
 
「白膠木(ぬるで)ある?」
「ある」
と言って倉庫の奥から(実はさっき六合に取って来させた)白膠木を取りだしてきた。
 
紀美はそれで千里の指定した場所(ここ悪霊の逃げ場がない!と貞美が感心してた)に護摩壇を作り、火を点けてから保冷バッグの中身を取り出し火に投じた。そして真言を唱えている。
 
この手の儀式的なものの良い所は、手順をきちんと守り正しい真言なり祝詞を唱えれば、本人の霊的な力と無関係に効果を発揮することである。
 
火が消えてから千里に訊いた。
「浄化したと思う?」
「うん。大丈夫だよ」
「良かった。私霊感とか無いから結果を確認できないのよね」
「でも貞美ちゃんは分かったでしょ?」
「断末魔みたいなのが聞こえた」
 
「これって***教だよね」
「うん。たまたまあそこの家の霊的環境との相互作用で邪霊を引き寄せる力を発揮したのだと思う。普通の家ではここまで酷くならない」
 
とずっと見守っていた花絵さんが言った。でも貞美ははっきり言う。
 
「そもそもあそこの神様はタヌキか****って気がするけど」
 
「まあそういう所多いよね」
と花絵さんも笑っていた。
 

S中は今年は7月15日が終業式だった。本来は7月20日が終業式なのだが、今年は7月16-18日が連休である。そして体育祭の代休を7月19日に持って来た。そして文化祭(まだしてないけど)の代休を7月20日に持ってきた。
 
例によってS中は夏休み中の部活は原則禁止であるが、剣道部は男女とも北海道大会に進出したので特例で週3回の練習ができることになった。(お陰で普段より広く練習場が使える)
 
但し、千里・玖美子・沙苗・公世の4人はこれに参加せず、早川ラボで集中練習(準合宿)をすることにした。早川ラボの練習には、R中の木里清香・前田柔良も参加する。
 

7月16-17日には市内のP神社・Q神社・R神社で例祭が行われた。
 
P神社では千里Yがこれに参加する。Q神社ではVがBの代行をする。
 

P神社の例祭はこのように進行した。
 
1日目
早朝神輿と宮司が船で沖合に出る。
日出(4:04)とともに神降ろしの神事
神輿が港に戻り、町内を練り歩き午前9時に神社に戻る。
巫女舞が奉納される(純代(高3)と広海(高1))。
町内会長の玉串奉奠。
 
10時 小さい女の子たちの巫女舞(いつもテレビ局が取材に来る)
11時 小さい男の子たちによる漁獲物の奉納
12時 甘酒の振る舞い
 
12時・14時・16時 中学生巫女による巫女舞
(穂花:リーダー、蓮菜・沙苗・結花(中2)・玲羅(中1))、恵香:笛係
縁起物の頒布
 
日没(19:13)〜20時頃 大人の氏子さんによる神楽
 
この神楽を花絵・純代・千里の3人が見守り、その後帰宅。高木姉妹はこれを観客として見守りそれから帰宅した。多くの巫女は16時の巫女舞が終わった所で帰宅している。
 

2日呂。
 
神輿が町内を巡行。
純代と広海の巫女舞。
 
午後からは芸能
・雅楽演奏(旭川A神社のグループ)
・留萌黒潮太鼓
・留萌尺八合奏団
・留萌人形浄瑠璃
・地元幼稚園児の楽器演奏
・N小吹奏楽部の演奏
・N小合唱サークルの演奏
・有志による民謡や舞踊など
・ソーラン節の大合唱と踊り
 
中学生5人による巫女舞
木遣り歌の奉納
宮司の祝詞奏上(太鼓:梨花、笛:恵香)
 
神輿が沖合に運ばれ日没(19:12)と同時に神上げの神事。
 
ボランティアによる境内清掃
 
21:50から宮司・梨花・純代・花絵・千里・広海・セナの7人だけで秘密の神事。こういう神事が存在することも非公開である。広海とセナがこれに加わるのは初めてだが、確実に来年も留萌に居ると思われる人に伝統伝授のため参加してもらった。
 
花絵は秋には結婚して札幌に行ってしまうし、千里は来春に多分旭川か札幌の高校に行く。純代も旭川の大学に行く可能性がある(大学に落ちても専門学校に行くかも)。セナは旭川の高校に入る頭が無いので留萌に残る可能性が高い。広海は来年高校2年生なのでまだ留萌に居る可能性が高い。
 
セナが巫女さんのリーダーなら不安が大きいが、広海もいれば安心である。P大神は千里の後任にはセナを考えているようだが、本当にこの子で大丈夫か?沙苗なら安心なのだが。
 

朝8:00、千里Vは青い髪ゴム・青い腕時計を着けて千里Bを装い、龍笛“織姫”(No.200)とサブの龍笛 Tes.No 224 を持って、夏制服姿でQ神社に姿を現す。そして巫女服に着替えてから打合せをする。
 
9時、境内で神下ろしの神事。
神輿が旧市街地を一周して神社に戻る。
龍笛と太鼓が鳴り響く中、巫女舞が奉納される。
ここで千里はNo.224の龍笛を吹いた。
 
宮司が海産物を奉納。映子が龍笛を吹いて祝詞奏上。
神社庁からの献幣使が献幣を行い、祭詞を奏上する。
御神楽の奉納
旭川Q神社の雅楽団による演奏
宮司と献幣使の玉串奉奠。
 
午後からは芸能の奉納
・留萌黒潮太鼓
・留萌尺八合奏団
・留萌人形浄瑠璃(この3つは翌日はP神社で奉納)
・素人カラオケ大会!
 
千里たち中学生の巫女は夕方で解放される。
 
22時頃、御神輿が御旅所まで運行される。龍笛は京子が吹く。
 

2日目。
 
朝8:30千里Bを装った千里Vが御旅所に姿を表す。
9:00 千里が吹く“織姫”の調べに合わせて宮司の祝詞が奏上される。
 
9:20 神輿は御旅所を出発し、旧市街を回って神社に戻る。
千里の織姫の音(ね)が響く中、巫女舞が奉納される。
雅楽の奉納
宮司の祝詞
 
お酒のふるまい
縁起物の頒布
様々なものの奉納
・弓道の模範演技
・剣道の演舞
。アイヌ舞踊の奉納
・J小剣道部の児童たちによる剣道試合
・ちびっこ相撲大会
・浴衣の女の子たちによるカルタ大会
 
千里たち中学生の巫女は夕方の神事の前に解放される。
 
夕方
巫女舞奉納(笛:京子)
神上げの儀式
 

7月16-18日(土日祝)、函館で野球の全道大会が行われた。この大会は8月に東京のジャイアンツ球場(川崎市・よみうりランド内)その他で開催される全日本中学野球選手権大会の予選も兼ねている。
 
今回の大会は北北海道、中北海道、南北海道、そして札幌市代表の4チームでリーグ戦を行う。だから1日1試合で3日掛けることになる。そして上位2チームが全国大会に進出する。
 
それで強飯監督は15日、出発前のミーティングで部員たちに
「2勝1敗を狙おうと思う」
と言った。
 
「札幌代表は無茶苦茶強い。だからこれに負けるのは仕方ない。でもあと2つを何とか勝てば全国大会に行ける可能性がある」
 
つまり札幌市代表は凄く強いので多分3勝するだろう。そして残りの3チームは2勝1敗、1勝2敗。0勝3敗となる。だから2勝1敗なら全国大会に行けるのではないかということなのである。
 
「そううまく行くかなあ」
と司は疑問を感じて言葉を漏らした。
 
「そうだよね。札幌代表が3勝して、うちが2勝1敗だとしても他にも3勝のチームがあったら、全国行けないよね」
と小林君。
 
「いや3勝のチームが2つ出ることは無い」
と司。
「そうだっけ?」
 
「だって3勝のチームが2つあったら、その2チームの対戦はどっちが勝ったのさ?」
「あ、そうか」
 
(という話を聞いてもまだ分からない子もいる!)
 

今回派遣されるのは、S中野球部24名(ベンチに入らないメンバー、強飯監督、女子マネ3名を含む)および、S中応援団選抜14名と顧問の先生1名、チア部選抜7名とチア引率の先生1名、合計47名である。彼らは前日の15日(金)、終業式のあとで、貸し切りバスで函館まで移動した。
 

 
バスの座席は、女子マネ3名と司がひとまとまりの席を使っている。司の隣は水野尚美である。チア部8名もひとまとまりの席を使う。また補助席には丈夫な!応援団員が座っている。留実子は応援団の最前列、河合団長の隣である。念のため留実子に女子たちの隣の席に行く?と訊いたが「女と長時間一緒だとムラムラくるから勘弁して」と言っていた。やはり留実子は睾丸があるのでは?
 

到着してから全員で焼き肉屋さんに食べに行き、思いっきり食べてから宿舎に入る。野球部員の宿は主催者側で確保されているが、応援団員・チア部は学校で確保したビジネスホテルに入った。通常シングル1泊3000円!という安い宿である。
 
「都会には安い宿があるんだねー」
 
ここのツイン部屋にエクストラベッドを入れてもらい、ツイン部屋に4人泊めることで、4人部屋1万円で泊めてもらう。
 
チア部8名(顧問を含む)は4人部屋を2つ使う。応援団のほうは、このような部屋割になった。
4人部屋×3+(顧問+河合団長+花和旗手)
 
顧問の部屋は窓際に留実子、真ん中に顧問、入口側に河合団長である。しかも留実子と顧問の先生の間に、ホテルから借りた移動黒板を置いた。
 

「やはり花和君、いくら男らしくても他の男子と同じ部屋というわけにはいかないもんね。でも顧問の先生たちと同じ部屋で大丈夫?」
 
と食事の時、留実子のそばに座ったチア部・部長の柴田知枝が言う。
 
「いや、ぼくが団員の金玉を握り潰す事故を団長は心配した」
「は!?」
 
要するに、留実子を一般の男子部員と同じ部屋に泊めた場合、何かの気の迷いで夜中に留実子を襲おうとした男子は間違い無く留実子に金玉を握り潰され、男を廃業することになる。そういう事故を防止するため、留実子は分けたのだという。
 
「ぼくに金玉を握り潰されて男を廃業した元・男子が過去に10人いるという噂が立ってる」
「はあ・・・・・」
 
ほんとにありそうだと知枝は一瞬思った。
 
「ぼくは男を廃業に追い込んだ覚えはないんだけどね。ぼくを襲おうとする男はまず居ないよ」
「そんな気がする!花和君に腕力でかなう男なんてまず居ないもん!」
と柴田知枝は言った。
 
留実子は男子としてもかなり頑強な体格で、応援団のどの男子よりがっちりした体格である。アメフトのラインマンができる感じ。女子が彼と2人きりになったら恐怖感を覚えるくらいだ。彼を襲う気になる男は、まず居ないだろう。
 

実際問題として顧問の先生にしても河合団長にしても留実子は実際にはペニスくらいあるだろうと思っている。だって毎日オナニーしてると言ってるし!だから留実子を自分たちと同じ部屋にした。それでも念のため、同室になるのは顧問・団長のみにしたのである。
 
このホテルは安いだけあり、部屋に風呂が付いていない。浴場に行く方式である。留実子は夜中にお風呂に行ったようだが、留実子が男湯・女湯のどちらに入ったのかは誰も知らない。でも団長たちは多分男湯に入ったのだろうと思った。ただペニスを他の団員に見られないように夜中に入ったのだろう。実際丸刈りの中学生が女湯に入れるとは思えない。(作者もそう思うぞ)
 

一方、主催者側で確保された野球部員の宿舎は、引率者・コーチなど含めて最大28名まで泊まることができる。スコアラー・コーチなどに女性がいる場合も多いので女性部屋を1室確保できるようになっている。S中は全部で24人だから1部屋少なくていいと連絡した上で女性部屋に“女性4人”を泊めることにした。
 
403(4)福川司・水野尚美・山口飛鳥・佐々木美甘
201(4)強飯監督・菅原主将・前川・小林・
202(4)加藤・東野(以上3年)山園・宇川・
203(4)橋坂・阪井・田中・梶屋(以上2年)
204(4)柳田・小森・松阪・工藤
205(4)飛内・田口・西谷・長山(以上1年)
 
ここは日本旅館で部屋に鍵が掛からないが、4階は女性専用フロアになっている。
 

女子マネ3人と一緒に“女性部屋”に入れられた司は
「まあいいか。ぼく今女の子だし」
と思った。
 
でも尚美が
「ほうら司先輩にはこんなに柔らかなおっぱいがある。触ってごらん、Cサイズだよ(*3)」
と言って、1年生の女子マネ2人も
「どれどれ」
と言って、司のバストを触っていた。
 
「でも司先輩どうやって性別誤魔化してるんですか。私が男子制服着て出て行っても『着替えて来い』と言われそう」
 
「ソフト部の某女子から聞いたのではね、小学3年生の時に女子ソフト部に入ったけど、野球部が8人しかいなくて大会に出られないって困ってた時にソフト部から“もしかしたら男に見えるかも”と言われて借りたらしいよ。でもそれで他の選手と接触の少ないピッチャーやらせたら、相手のバッターをバッタバッタと三振に取ったから『ぜひ野球部に来て』と言われてそちに移籍して、それが続いてるらしい」
 
「へー。やはり最初は女子ソフト部にいたんだ」
 
なんか勝手な噂が流れてるなあと司は思った。でも司は小学3年生でなぜ野球を始めたのか実は自分で記憶が無い。
 
(ほんとに女子ソフト部から移籍したんだったりして)
 

(*3) どうでもいいが「触ってごらんウールだよ」(1982年・ウールマークのCM:広告主は国際羊毛事務局)へのオマージュ。割とパロディが多く、もはや元ネタが分からないまま発せられていることもある。
 

「でもよく男子のバッターを打ち取りますね。男の子たちパワーあるのに」
「それが司先輩のボールの握り方に秘密があるんだよ。私、教えてもらった」
と尚美が言うので、司はまたボールの握り方講座をすることになった。
 
「これが普通の直球の握り方。これを身体全体を使い、手首のスナップも利かせて投げ込むといわゆる伸びのある球になる。特に右打者には手元で急に速くなるような気がするから振り遅れやすい。でもこのボールの欠点は球質が軽いことなんだよ。打たれると外野に持っていかれる。ホームランを浴びやすい。実を言うと物理的な理論では速い球ほど遠くへ飛ぶ。運動量保存の法則。でも直球の握り方にはもうひとつ、こういう握り方もある」
 
といって別の握り方を示す。
 
「これ実はソフト部の杏子ちゃんに教えてもらった。彼女も高校では野球やりたいといって、女子の身体でも簡単には男に負けないようなボールを覚えようと思ってこの握り方を研究してたんだって」
 
「へー」
 
「アメリカでは速球というとたいていのピッチャーがこの握り方らしいんだよ。日本の多くのピッチャーの直球に比べて伸びが無いから簡単に打てそうなんだけど実は打ちにくい。ボールがバットを避けるような動きをすると杏子ちゃんは言う」
 
「ボールがバットを避けるんですか!?」
 
「日本ではより速い球が評価されるからこの球は日本ではあまり評価されない。でもアメリカでは早いカウントで相手に打たせて取り、ピッチャーがあまり消耗しなくて済むやり方が、うまい投球の仕方と言われる。それで速度的に劣るかも知れないけど、芯に当たりにくいこの球が重宝されるらしい」
 
「その方が楽な気がする」
 

「ナックルとは違うんですよね」
という質問が出る。
 
「ナックルの握り方はこう」
と言って司は握り方を示す。
 
「ただナックルってコントロールするのが難しいから、これでストライク取れるようになるには相当の練習が必要だと思う。ナックル練習するよりはこのアメリカ式速球を覚えたほうがいいと思う」
 
「確かに」
 
それで司はこのボールの握り方を女子マネたちに教え、ついでにチェンジアップの握り方も指導してあげた。(いづれS中に女子野球部ができたりして)
 

なおお風呂には22時頃4人で一緒に行った。1年生の飛鳥と美甘がキャッキャ言って司の胸に触り、あまり騒ぐから27-28歳の女性に注意され
「ごめんなさい」
と司が代表で謝った。(騒いだのは飛鳥と美甘なのに)
 
しかし司が完全に女子の身体であることはしっかり女子マネ全員の知る所となった。
 
「ぼくもう男には戻れなくなった気がする」
と司は思った。
 
(何を今更)
 

翌日、大会初日、朝食が終わった後で、強飯(こわい)監督は司に言った。
 
「福川さん、今日の先発頼むね」
「え〜〜〜!?」
と司は驚きの声を挙げて訊いた。
「なんで山園君じゃないんですか」
 
「実は明日当たる札幌C学院が左打者の多いラインナップなんだよ。だから山園君を明日の試合に温存したい」
「分かりました」
と司は答えた。
 

「今回は小森君と前川君と山園君でいけるだろうから、ぼくはキャッチャーやってればいいと思ってたのに」
と司は思った。
 
一方強飯監督は思った。
「あの子、自分がエースだとは思わない方が気楽に投げられるだろうからね」
 
3日連続試合があるなら、1試合目に投げるピッチャーは多くの場合、そのチームのエースであり、3試合目にも投げることが多い。
 
むろん福川司の背番号は“正捕手”の番号2番である。
 

そういう訳で、司は7月16日(土)の第1試合、S中vs苫小牧K中(南北海道代表)に登板することになったのである。
 
相手K中のエース浜崎広栄(こうえい)君は相手チームが背番号2を付けた“女子”がマウンドに立ち投球練習しているのを見て不快に思った。短期決戦でピッチャーのやりくりが大変なのは分かる。きっとS中は明日の札幌代表C学院との試合にエース(1番は前川が付けている)を使いたいのだろう。しかし10番(山園が付けている)とか11番(小森が付けている)が出てくるのならまだしも、2番ってキャッチャーだろ?この試合はキャッチャーで充分というのか?しかもあいつ女じゃん。ふざけやがって。
 
それで浜崎は「こんなふざけた奴ら、1人も塁に出さん」
と思ってマウンドに立った。
 
最初から自慢の130km/hのストレートを投げ込んでくる。それで相手S中の1番・2番を連続三振に取る。そして迎えた3番の菅原。
 
全力投球の球をド真ん中に投げ込む。
 
菅原君がジャストミート。
 
球はぐいぐい伸びてスタンドに飛び込む。
 

菅原君がダイヤモンドを一周するのを、浜崎はぽかーんと見ていた。ピッチャー交替が告げられる。ライトに回されて、控えの1年生投手田村(背番号11)が出ていく。田村は4番阪井に内安打を打たれたが、5番前川をセンターフライに打ち取り、1回表を終えた。
 
1回裏、K中の攻撃。1番打者は
「なんで女が投げてるのさ?試合前の投球練習では100km/hくらいのストレート投げてたから女にしては速いと思うけど、俺たちの敵ではないな」
と思って出て行った。
 
ところがいきなり内角低めに125km/hくらいの速球。
 
「嘘!?」
 
思わず見送った彼は信じがたい思いでマウンド上の相手投手を見る。あいつ女のくせにこんなとんでもないスピードボールを投げるのか?
 
2球目。何とかタイミングを合わせる。しかしボールは芯には当たらずボテボテのゴロである。セカンドが取って1塁送球でアウト。
 
司はそのまま2番打者をピッチャーゴロ、3番打者をサードゴロに打ち取り1回裏の攻撃を3人で終わらせた。
 

試合はそのまま司と田村君が投げ合い、5回まで両者無得点が続く。6回裏、K中は左打者の代打を出してきたが、司が110km/h程度と125km/h程度の2種類の速度のスピードボールとカーブとを使い分けるのでなかなか打てない。それで結局3人で攻撃を終える。
 
7回表、疲れてきた田村君が打たれ、1アウト満塁になったところで浜崎君がマウンドに戻ってくる。バッターは今日は9番に入っている司である。
 
「こいつ俺のボールに近いほどの速い球を投げる。しかもこいつの球は当たっても飛ばない。凄く重く感じる。いったいどういう投げ方をしたらあんな球が生まれるんだ」
などと思いながら司に相対した。
 
まずはインコース低めに全力投球の130km/hのストレートを投げ込む。司が振り遅れた感じの空振り。
 
「やはりこのボールは打てんだろう」
と思う。
 
続けて今度はカーブで外角ギリギリに放り込んで0−2と追い込む。
 
「まあ俺のこのボールを女に打たれたら、俺は男を辞めなきゃな。どうだ。これが男の球だぞ」
などと思いながら全力投球で1球目と同じ内角低めに剛速球を投げ込む。
 
ジャストミート。
 
打球は高く上がり・・・・フェンス際でセンターが取った。
 
これが犠牲フライとなって2点目を失う。
 

浜崎はまた呆然としていた。
 
「俺、女に打たれちまった。俺、男辞めなきゃ・・・・」
と浜崎は考えていた。
 
結局浜崎はベンチに下げられ、3人目・2年生の井上(背番号10・明日先発予定)が出て行き後続を断つ。
 
7回裏最後の攻撃。K中はまた左打者を次々と代打に出してくるが、司の2種類の速球にタイミングが合わず打っても内野ゴロにしかならずケームセット。
 
これでS中はリーグ戦の初戦に0−2で勝利し、全国大会に向けて好調なスタートを切った。なおこの日の第2試合では札幌市代表のC学院が中北海道代表のH中学を1−0で破っていた。
 

この日のK中の宿舎、ひとりの少女が部員の泊まっている部屋に入ってくるので、中に居た上野が言った。
 
「君、どこの部屋?ここはK中学の選手が泊まっている部屋なんだけど」
「私、K中の生徒だから」
と“男”の声。
 
「お前まさか浜崎〜!?」
 
「私、女に負けたから男を辞めることにしたの」
「そ、そうなのか」
「病院に行って、睾丸を取ってくださいと言ったら、私未成年だから保護者の承諾が無いと手術できないと言われた」
「まあそうだろうな」
 
常識的な病院で良かったと上野は思った。
 
「だから取り敢えず女の子の下着とスカートとブラウスと買ってきた」
 
よくこいつが女の下着売場で商品を見ていて通報されなかったもんだと思った。
 
「取り敢えず男の服から女の服に変えたの」
「その髪は?」
「これかつら〜」
「そうだろうな。丸刈りの頭が突然その長さまで髪が伸びるわけない」
「でもこれで私女の子よ。ちゃんと女子トイレも使ったんだから」
 
よく逮捕されなかったもんだ。
 
「でもお前、明後日のC学院戦にも投げてもらわないといけないんだけど」
「私頑張る」
「まあ頑張ってくれるならいいけど」
 
いいのか?
 
結局この日、浜崎は女装のままこの部屋で寝たのである!
 
(ところでこの日、浜崎君は男湯・女湯のどちらに入ったのでしょう?)
 
 
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【女子中学生・夏祭り】(1)