【私の高校生活】(8)

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(C)Eriko Kawaguchi 1998.3.22
 
そうしていよいよ本番がやってきました。お芝居は順調に進んでいます。私の声の使い分けには観客の人たちがほんとうにびっくりしているかのようで「男の子の声は口パクかな?ずれないようにうまくやってるね」などというささやき声もあったようです。舞台は進行して最終局面へ進んでいきます。
 
■第二幕第4場■
 
舞台の照明を一時落として下手にスポットライト。語り手(相田裕子)登場。
 
語り手:さて、このあとの2時間ほどの間に実は森の中で大変なことが起きるのですが、一方のお城の方でも実は動きが起きておりました。自分の兄のモンド公爵、オーランド、ロザリンドがみんなアーデンの森にいて、何やらやっているという噂を聞いたフレデリックはいてもたってもいられなくなります。彼らが再起して自分を倒しに来る前に先手必勝に出ようと考えたフレデリックは、直ちに兵隊を集めて、アーデンの森を目指していました。そういった諸々のことがどうなるのか、とりあえずは時間を2時間半ほど後へ進めてみましょう。
 
スポットライト消えて語り手下がる。舞台の照明を入れて、上手からロザリンドとシーリア登場。
 
ロザリンド:(女声)全く、一体どういうことなの!? もう2時間はとっくに過ぎたわ! あの人ってこんなにいい加減な人なの!?
シーリア :きっと、あの人は恋に焦がれるあまり時間感覚が消滅してしまって、時の狭間に浮かんでいるのよ。もう少し待ってあげましょう。
 
下手からシルヴィアス(山本宏)登場。
 
シルヴィアス:ガニメーデ様! 丁度よかった。フィービから貴方様へ手紙を預かって来ました。中身は知りませんが、何やら難しい顔をして書いておりましたので、角の立つ内容でしたら、本人に改めて来させますので。
ロザリンド:(手紙を受け取って目を通し、難しい顔をして男声で)角が立つだと?立つも何も、こんな手紙をもらって怒らない者がいたら驚きだ。全く侮辱している。おい、女をなぐる訳にも行かぬから代わりにお前をなぐってやろうか?
シルヴィアス:お待ちを。フィービはあれで田舎育ちなものですから、ちゃんとした文章の書き方を知らないので御座います。どうかお許しを。
ロザリンド:いや待て。そもそも女にこんな文章が書ける訳がない。これはお前の差し金で書かせたものなんだろう?
シルヴィアス:とんでもない。確かにこれはフィービが自分で書いたものでございます。でも、一体なんと書いてあるのでしょうか?
ロザリンド:よし分かった。読んでやろう。『私の愛しいガニメーデ様。貴方はきっと天使の生まれ変わりなのではないでしょうか』 全く何という侮辱だ。私は人間ではないと言っている。こんなひどい言葉は女では思いつかないぞ。
シルヴィアス:は?それが侮辱なのでございますか?
ロザリンド:更にこう続いておる。『あなたを一目見て以来、私の心は乱れに乱れ、心臓がドキドキと痛んで、もう死にそうな気分です。あなたの目の色、あなたの声の響き、全てが私を夢中にさせます。どうかこの私の心を静めるために私に会いに来て下さい。そしてもしこの恋が叶わぬものならば、いっそのこと私をあなたの手で殺して下さいませ』要するに、私がいることで気持ちが不安になり、目障りで邪魔だから自分の近くに来るなということだ。これが喧嘩を売る言葉でなくて何だろうか?
シルヴィアス:あのぉ、喧嘩を売っているようには聞こえないのですが。。。
 
ロザリンド:私に同情してそんなことを言っているのか? だったらあの女の所に行って僕の言葉を伝えろ。お前が私のことを愛しているというのなら、私はお前にこう命令する。シルヴィアスを愛してやれ、とな。いいか? シルヴィアス、僕は君が僕に頼まない限りはフィービを相手にはしない。さぁ、行ってこい。もし君がフィービを愛しているのならね。さぁ。
 
 
ロザリンド、シルヴィアスの背を押すようにして向こうへやる。シルヴィアス下手に退場。代わってオリヴァー(中村和彦)登場。 オリヴァー:もし、ちょっとお尋ねします。この辺りにオリーヴに囲まれた羊飼小屋があると聞いたのですが、ご存じありませんか? 若い兄と妹が住んでいるということなのですが。
ロザリンド:(男声で)ここから西の方に少し行った所の谷間にありますよ。でも今は二人とも出払っていて誰もいませんよ。
オリヴァー:いや、耳で聞いたことが目の助けとなるのなら、あなた方のことに違いない。兄はきびきびとした身のこなしだが、色白でセンスが洗練されていて、不思議と優しい雰囲気を持っている。妹の方はやや背が低く、少し日焼けしているがまだ少女のようなあどけなさを残している。あなた方がその羊飼小屋の主ではありませんか?
ロザリンド:否定する必要は全くありませんな。
オリヴァー:オーランドからあなた方によろしくとのことです。そしてあれが愛するロザリンドと呼んでいる若者に、このハンカチを渡して欲しいと言われました。あなたですね?それは。
ロザリンド:如何にも。しかし、これは血? なにがあったのです。
オリヴァー:私にとっては全く恥ずべきことなのですが、ご説明せねばなりますまい。
ロザリンド:お願いします。
オリヴァー:オーランドはあなた方と別れる時、2時間後には戻るからと約束し、甘辛い恋の味をかみしめながら森の中を歩いておりました。その時ふと横を見たら、そこにとんでもない光景があったのです。そこには木の下にボロボロの服を着て髪もひげも伸び放題のみじめな男が一人座ったまま死んだように眠っており、そのそばに一頭の虎が忍び寄ろうとしていたのです。虎は森の王者だけあって死んだものには手を出しません。その時虎はその男が死んでいるかどうか判断しかねている様子でした。しかしオーランドはその男の顔に見覚えがありました。それは彼の兄のオリヴァーだったのです。
ロザリンド:聞いたことがあります。しかし不実な人で彼を殺そうとしたのだと。
オリヴァー:その通りなんです。ひどい兄もいたものですよ。
ロザリンド:それで、オーランドはそのまま兄を見捨てて去ったのですか?復讐するために。
オリヴァー:そうしても当然のことなのですが。そしてオーランドも実際何度かそのまま行きかけたのだそうですが、やはりその復讐の念より彼の優しさの方が勝ってしまったのです。彼は剣を抜いて虎に忍びより、一気に急所に剣を突き刺しました。その騒ぎでやっと私は目を覚ましたのです。
シーリア :あなたがそのお兄さまだったのですか?
ロザリンド:(青ざめた様子で)それでそのハンカチは?
オリヴァー:本人もその時は気付いてなかったようなのですが、落ち着いてから服を脱いでみたら、腕のこの辺りが虎の爪で引き裂かれて、凄い血が流れていました。それを見てオーランドも初めて痛みを感じたようで気を失ったのですが、その気を失う瞬間にロザリンドという叫びが唇から出ました。(ロザリンド、気を失って倒れる。)
シーリア :きゃっ。しっかりして。ガニメーデ、ガニメーデ。
オリヴァー:よくあることです。血を見たら誰でも気分が悪くなる。
シーリア :ね、しっかりしてよ。ロザリンド、ロザリンド。
オリヴァー:気付いたようですね。
ロザリンド:(女声でかすれたような声で)あの、それでオーランドは?オリヴァー:手当を受けて、もう意識も回復しました。ですがまだすぐには立ち上がれない様子でしたので、代わりに私に弟がいつもロザリンドと呼んでいる牧場主に約束を守れなかったことを詫びてきて欲しいと頼まれ、、その証拠にと血に染まったこのハンカチを持ってきたという訳なのです。
ロザリンド:(女声のまま)ちょっと家に帰って休みたい。
シーリア :連れてってあげる。−−−−お願い、そちらの腕を抱えてくださらない?
オリヴァー:しっかりなさい。男でしょう?まるでどこかに金玉を忘れてきたかのようですよ。
ロザリンド:そうなんです。正直に言えば。。。。。(男声に戻して)オリヴァーさん、オーランドにお伝え下さい。私がどんなにうまく演技をしたかと。
 
オリヴァー:いや芝居ではない。その証拠にまだそんなに顔色が悪いではないですか。
ロザリンド:いえ、確かに芝居です。
オリヴァー:でしたら、しっかり男の役を演じることですな。とにかくお手伝いしましょう。それに私は貴方からお返事をもらわなければならない。弟を許してもらえるかどうかの。
ロザリンド:考えておきましょう。それより私がしっかり演技をしたことはちゃんとお伝え下さい。
 
 
ロザリンド、シーリアとオリヴァーに両脇を抱えられて一緒に上手に退場。
 
■第二幕第5場■
 
舞台の照明を一時落として下手にスポットライト。語り手(相田裕子)登場。その間に舞台にはオーランド(高橋克也)とオリヴァー(中村和彦)が出てきて並んで座る。
 
語り手:さて、オーランドの怪我も大したことはなかったようで、ロザリンドの方も少し休むと元気を回復し、この物語の大団円のために今度はなにやら色々と準備を始めたようです。物語の語り手である私もロザリンドに頼まれて、ちょっとした役をする羽目になりそうです。ともかくも一夜が明けて、物語は翌日になります。
 
スポットライト消えて語り手下がる。舞台の照明を入れる。
 
オーランド:そんなことってあるのかい?兄さん。だってまだ1度会っただけなんだろう?
オリヴァー:あるのさ。この世にはそういうことが。俺はエイリーナと明日結婚式をあげる。確かにあれは身分の低い娘だが、そんなことはどうでもいい。俺はローランドの名を捨てるから、お前が次のローランドになれ。俺はあの娘といっしょにここで一生羊飼いとして暮らすつもりだ。そのことをお前に同意して欲しい。
 
 
ロザリンド(因幡直美,むろん男装)上手から登場。
 
オーランド:もちろん僕が反対する理由など全くない。式にはモンド公爵たちも招待しよう。さぁ、兄さんのエイリーナにそのことを知らせに行ってあげなよ。そら、僕のロザリンドもやってきた。
ロザリンド:(男声で)お元気でなによりです。
オリヴァー:あなたこそ。(すれ違って上手に退場)
ロザリンド:(女声で)ああ、わが愛しのオーランド、胸がはりさけそう。あなたの胸に包帯が巻いてあるのを見ると。
オーランド:包帯は腕だよ。
ロザリンド:虎の爪で心臓に傷を受けたのかと思ったわ。
オーランド:傷は受けているけど、それはさる女性のまなざしのせいです。ロザリンド:お兄さんから聞きましたか?私がショックで気を失う芝居をしたこと。
オーランド:うん。でも、もっとびっくりする話も聞いた。
ロザリンド:私もびっくりしちゃった。でも、あの二人完全に本気だわ。オーランド:もう明日には結婚式ですよ。昨日出会ったばっかりだというのに。モンド公爵たちもお呼びしに行かなければならない。しかし他人の幸せを見ているだけというのは辛いね。
ロザリンド:おや、貴方にだって、ここに愛しのロザリンドがいるではありませんか?
オーランド:もう想像だけでは生きてゆけなくなった。
ロザリンド:では、どうでしょう? 私の妹とあなたのお兄さんが結婚する時に、どこかから本物のロザリンドが現れてあなたと結婚できるようにしてあげましょう。
オーランド:そんな魔法のようなことができるの?
ロザリンド:もちろん。ですから明日はエイリーナとお兄さんの結婚式と同時に、あなたと本物のロザリンドの結婚式です。ちゃんと晴れ着を着て下さいね。
 
 
フィービ(野口由美)とシルヴィアス(山本宏)が一緒に登場。
 
フィービ :ガニメーデ様。ひどいお方ね。私の手紙をひとに見せるなんて。
 
ロザリンド:(男声で)見せてもどうということはない。僕はことさらに君をじゃけんにし、からかっているだけだ。それより君にはちゃんと君に忠実な羊飼いがついてきているではないか?
フィービ :シルヴィアス、恋って何なの?
シルヴィアス:それはため息と涙だよ、フィービ。
フィービ :ガニメーデ様を思う私の心もそうよ。
シルヴィアス:フィービを思う僕の心もそうだよ。
ロザリンド:私はどんな女をも愛する気にはならない。
シルヴィアス:恋は誠実と奉仕だ。フィービを慕う僕の心がそれです。フィービ :ガニメーデ様を慕う私の心もそう。
オーランド:ロザリンドを慕う僕の心もそう。
ロザリンド:私はどんな女をも愛する気にはならない。
フィービ :(ロザリンドに)どうしてあなたを恋してはいけないのです?シルヴィアス:(フィービに)どうして君を恋してはいけなんだ?
オーランド:どうして君を恋してはいけないのだ?
ロザリンド:(オーランドに)誰に言っているの?
オーランド:(いたづらっぽく)ここに居ないある人に。
ロザリンド:それじゃまるで狼の遠吠えね。さて(立ち上がり、シルヴィアスに)できるだけ君の力になってあげよう。(フィービに)できることなら君を愛してあげたいところだ。明日は必ず来てくれ。この私が女と結婚するなら必ず君と結婚しよう。そして私は明日結婚する。(オーランドに)あなたの望みは叶う。で、あなたは明日結婚するでしょう。(シルヴィアスに)君が自分に気に入ったもので満足するなら私が君を満足させてあげよう。明日君は結婚するだろう。(オーランドに)あなたがロザリンドを愛しているなら明日必ず来て下さい。(シルヴィアス)君がフィービを愛しているなら明日来て下さい。さて、私はどの女も愛していない。だから私は明日来ます。それでは皆さんごきげんよう。皆さん、よろしいですか。
シルヴィアス:いいです。必ず来ます。
フィービ :私も。
オーランド:私も。
全員、ばらばらに退場。
 
■第二幕第6場■
 
いったん照明を落とし、その間にモンド公爵(永田毅)とオーランド(高橋克也)スタンバイ。照明オン
 
モンド公爵:それではその若者が言うには、ロザリンドが今日現れるというのかね?君はそれを信じているのか?
オーランド:はい。そのことは必ず叶うという予感がしております。
 
 
ロザリンド(因幡直美,男装,後述)上手から登場。フィービ(野口由美)とシルヴィアス(山本宏)下手から登場。
 
ロザリンド:(男声で)今しばらくのご猶予を。色々と確かめたいことがございますので。まず公爵様。私がロザリンドをここにお連れしましたら、確かこのオーランドとの結婚を認めるとか?
モンド公爵:その通り。そしてオーランドを私の跡継ぎにしたいところだ。ロザリンド:ではオーランド、あなたは私がロザリンドをここに連れてくれば結婚しますね?
オーランド:もちろん。そしてその結果生じることは全て受け入れるでしょう。
ロザリンド:フィービ、君は僕と結婚したいというのだね、僕にその気があれば?
フィービ :ええ。その一時間後に死んでしまおうとも。
ロザリンド:しかし僕と結婚することが不可能だと納得できたら、そこにいる君に忠実な羊飼いに身を捧げるかい?
フィービ :ええ。いいわ。でも納得することはないとは思うけど。
ロザリンド:シルヴィアス、君はフィービさえそのつもりになれば、フィービと結婚したいね?
シルヴィアス:ええ。たとえその結果死ぬことになろうとも。
ロザリンド:私は以上の問題を丸くおさめて見せるとお約束しました。ですから皆様もお言葉は必ずお守り下さい。公爵様は、姫君を必ずオーランドにお与え下さい。オーランドはロザリンドを必ず妻にして下さい。フィービ、君も私と結婚するかそれが不可能と納得できたらこのシルヴィアスと結婚するという約束を守らなければならない。シルヴィアスはフィービが私とは結婚できないと言い出したら、彼女を必ず妻にしなければならない。よいですか?
一同   :はい。(公爵は「うむ」)
ロザリンド:今全ての望みは叶います。
 
ロザリンド、舞台中央に出て、まず髪を留めていたピンを外す。長い髪が肩にたれる。公爵が何?という声。続いて上着を脱ぐ。下には純白の衣装。シルヴィアスのえ?という声。そしてズボンを脱ぐと、その下は純白のフレアースカート。ボーンで裾が広がる。フィービのそんな!という声。
 
オーランド:ロザリンド!本物だったんだね?
ロザリンド:(以下は女声で)公爵様、お久しうございます。ロザリンドが参上致しました。
モンド公爵:見間違えはしない。確かにお前は私の娘だ。
ロザリンド:オーランド様。この身は貴方様のものでございます。
オーランド:ああ、私の愛しいロザリンド。(手を握る)
 
※裕子:ここキス入れる?
※克也&直美:入れない!
※裕子:じゃせめて抱き合うとか?
※克也&直美:しない!
 
ロザリンド:フィービ、私はどんな女とも結婚しません。相手があなたでない限り。
フィービ :ああ、なんてことなのでしょう。ガニメーデにはもう会えないのね。シルヴィアス、約束は破りません。私はあなたのものです。これはきっと、あなたの真心が私を引き留めてくれたのだわ。今までごめんなさいね。シルヴィアス:愛してるよ、フィービ。(手を握る)
 
結婚行進曲が鳴り響く。結婚の神ハイメン(相田裕子)上手から登場。それに続いて、新郎新婦の衣装のオリヴァー(中村和彦)とシーリア(鈴木絵里)登場。
 
モンド公爵:おや、あれは私の姪ではないか。
 
ロザリンドとオーランド、フィービとシルヴィアスも手をつないだまま、ハイメンに会釈する。
 
ハイメン :ハイメン! これより糸のもつれをときほぐさん。世にも不思議なこの成り行きも、結末をつけるのはわが役目。ここに並ぶ6名の若者たちを今、ハイメンの名により夫婦の契りを交わさせよう。オーランドとロザリンドよ。そなたたちはいかなる苦難をも乗り越えたが、今ひとつの心に結ばれる。オリヴァーとシーリアよ。そなたたちは燃え上がった愛の炎をそのまま燃やし続け互いをいつまでも慈しみ合うように。シルヴィアスとフィービよ、そなたたちは冬と嵐の間柄。互いに不満のある所は遠慮せずにぶっつけ合え。それでもそなたたちの出会いの不思議はそれを丸くおさめてくれるであろう。今や大いなる女神ジュノーの恵みのもとに、ここに婚礼がとりおこなわれ、夫婦の道により町に民は増えていくであろう。ハイメン!今讃えよ!婚礼を!
 
ジェイキス、下手から走って登場。
 
ジェイキス:どうぞ、お聞き下さい。実はフレデリック殿が、みなさんがこの森に集まっていることを聞きつけて、軍備を整え、兄君を亡き者にしようとこの森へと進軍してこられました。ところが森の入口の付近でフレデリック殿は徳の高い坊さんに出会い、まる2日、色々なことをお話し合いになられたのです。そしてその結果いままでの自分の行いを深く悔い改められ、全ての企てを中止なさったのです。そして公爵の地位は兄君にお返しになり、自分の方が世捨て人になると申されました。そして兄君とともに追放された方々の所領も全てお返しになるとのことでございます。以上、命に代えましても嘘偽りはございません。
 
モンド公爵:なんとフレデリックが世捨て人になってしまったのか? 私もここ3年気楽な暮らしが出来ていたのにな。しかし仕方ない。それでは城に戻るしかあるまいな。しかし今日はまだ世捨て人の身分じゃ。そして、めでたい結婚の儀が3つも重なった。今日は誰も彼も身分の差もない。心からの宴会にしよう。さぁ音楽を。シャンパンを持て!
 
再び結婚行進曲の音楽。シャンパンが抜かれる。拍手の中、幕が降りる。その幕の間から衣装のままのロザリンド登場。スポットライト。
 
ロザリンド:(女声)最後の口上は私がしろと言われて出て参りました。本来は座長がする所、私などがしてよいのかと言ったのですが、よい芝居にはよい後口上をつけるが、それなりの芝居にはそれなりの後口上でよいのだ、などと言われました。しかしこの格好ではかしこまって正座して低頭するのも変ですし、まぁなるようにやるしかございません。とにかくも「お気に召すまま」というタイトル。これはお気に召すままにそれぞれのたのしみ方で楽しんで下さいますのが、一番でございます。まずは女性の方々、皆様が男性によせる恋のような感じでこの芝居がお気に召しましたでしょうか?。それから男性の方々、皆様が女性に向ける愛のような感じでこのお芝居がお気に召しましたでしょうか?。そして相思相愛のカップルの方々は、一緒にこのお芝居がお気に召しましたでしょうか? お気に召して下さいました方々には、私がもし本当の女でありましたら、全員に心を込めてお礼のキスをさせて頂きたいと思います。それでは最後までご観覧、ありがとうございました。
 
ロザリンド、おじきをして幕の間に消える。[完]
 
 
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