【私の高校生活】(5)
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(C)Eriko Kawaguchi 1998.3.22
その日、夕食が終わっていつものようにお風呂にも行き、私は部屋に戻って宿題をやっていました。
「直美、いる〜?」
と部屋には行って来たのは鈴木さんでした。
「ああ、絵里。今日もお疲れさま。私もうお風呂行っちゃったよ」
「だいぶ慣れたみたいね」
「お陰様で。トイレも女子用に自然と入ってしまうし。文化祭が終わってから男の子にもどってこのくせが出ちゃったらどうしよう?なんて思っちゃうこともあるよ」
「そしたら、いっそそのまま女の子でいればいい」
「いやだよぉ。」
「あれ、今日は川口さんは?」
と辺りを見回します。
「ああ、おうちの都合で3日ほど実家に行ってるの。ひいおばあちゃんの一周忌らしいよ」
「ふーん。じゃ今夜ここで寝ていい?」
「いいけど、どうして?」
「へへ。私も今夜一人なんだ。さみしいじゃん」
「襲われたって知らないよ」
「川口さんを襲ったことある?」
「ないよぉ」
「どうして?美人なのに」
「だって、そんなことしちゃいけないじゃん。それに私、ここには女の子としているんだから」
「じゃ、私と一緒でも平気よね」
「まぁね」
「でも、直美はもっと女の子になれてもいいと思うなぁ」
「まだやっぱり不自然かなぁ」
「ううん、直美自身はもう完璧に女の子だと思うよ。でも女の子と一緒にいる状態になれていいと思うんだ」
「そう?」
「だから、私が慣れさせてあげるよ」
そういうと突然鈴木さんは私に抱きついて来ました。
「あ。。。」
「私のからだ自由に触っていいから」
「いや、でも。。」
「そして今夜は同じベッドに寝ましょ。私たち仲のいい従姉妹同士だから」
「それは劇の上での話で」
「練習。練習」
という訳で、その日から3晩私は鈴木さんと一緒に寝ることになったのです。もちろん何もしないつもりだったのですが、鈴木さんは時々体をピタっとくっつけて来ます。
「ちょっと、ちょっと」
「いいじゃん。従姉妹なんだから」
「やばいよぉ」
「どうして?」
「だって。。。」
「私のこときらい?」
「ううん」
「じゃ、いいじゃん。もしもそういうことになっちゃったら、お嫁さんにしてよ。それでいいでしょ?」
「する。する。だから今は少し離れて」
「OK。じゃおやすみなさい」
といって、やっと離れてくれました。
「でも、本気でさ、あたし直美のこと好きだよ」
「え?」
「ふふ。おやすみ。また時々一緒に寝ようね」
「うん」
それが鈴木さんのことを少し意識するようになった最初の日でした。
10月は劇の練習で明け暮れた感じでしたが、色々と細かいできごとは日々起きていました。
中旬頃、相田さん宛てにぶ厚い封筒に入った郵便が届きました。差出人は南真一郎と書いてありました。
「誰かからラブレター?裕子」
と横田さんがいいます。例によって私と鈴木さんも一緒でした。この4人は基本的にグループとして固まりつつありました。
「そうかもね。私を狙ってる男の子は多いから」
などと軽く流して封を開けますと、中からは大量の写真が出てきました。
「ああ、キャンプの時に滝の所で映した写真」
「忘れずに送ってくれたのね。あとで幸子も呼んでこよう」
「わぁ、きれいに撮れてるぅ」
「やっぱりプロのカメラマンだったのね。うまいもん」
「プロのカメラマンじゃなかったら何?」
「プロのナンパ師かな。プロのナンパ師って、落としたその日にホテルまで行ってとかは焦らずに、最初は好印象をもたれるようにだけして、少しずつその気にさせていくらしいよ」
「そういえば、直美と絵里はもう他人ではない関係になったとか?」
「そうなの。私たちあそこまで許しあった仲なの」
「あそこって?」
「ちょっと誤解されるような言い方しないでよ」
「でも、直美は私をお嫁さんにしてくれるって言ったよ」
「おぉ、凄い。その話詳しく聞きたいなぁ」
「それはもしそうなったら、ということで」
「だけど直美の方がお嫁さんじゃないの?家事は直美の方がうまいよ」
「もちろん私も直美も二人ともウェディングドレスよ」
「ああ、そういうのって好き。結婚式には招待してね。世間の偏見に負けちゃダメよ。女の子同士で結婚したっていいんだから」
「私、一応男の子なんだけど。。。」
「そんなの手術して直しちゃえば平気よ」
「うーん。何といったらいいのか。あ、お手紙入ってるよ」
「あ、ほんとだ。どれどれ。『いい写真が撮れました。ありがとう。今度のコンテストにこのうちの何枚か出すつもりです。入選したらまたお知らせします』だって。どれが入選するかなぁ」
「これ、いいんじゃい」
といって横田さんが選んだのは、鈴木さんが写っているものです。
「ああ、格好いいよね、やはり絵里って」
「うん、元気いっぱい。夏少女という感じ」
「これもいいと思うな」
と相田さんが取り上げたのは私が写っているものです。
「そうね。このアンニュイな雰囲気、すごくいいよね。髪とワンピースが風にながれて、時の瞬間を切り出した感じ。ちょっと新鮮なイメージだなぁ」
「普通のモデルじゃこんな雰囲気でないよね」
「まぁ、直美は普通じゃない部分があるからね、洋服の下に」
「そんなの手術して直しちゃえば平気よ」
「なんで、そういう話になるの〜?」
私はふと、卒業まで男の子の体を維持することができるんだろうか、と少し不安を覚えたのでした。
20日過ぎになって私の声は突然元に戻りました。ちょっとした拍子に本来の声の出し方が分かってしまったのです。お陰でちょっと頭の中のモードを切り替えるだけで、男の子の声も女の子の声も自由に出し分けることができるようになりました。このことはすぐに職員室内でも広まり、国語の牟田先生や英語の三浦先生は私に声の使い分けで教科書の一節を朗読させたりして、非常に喜んでいました。
その頃から劇の方は実際の衣装をつけての練習も始まりました。中世風の衣装は相田さんと田村さんがデザインして、製図の得意なフィービ役の野口由美さんが型紙を作り、ミシンの得意な横田さんと私が縫い上げました。それから鈴木さんが通販で頼んでいたシリコン製付け胸も届きました。早速つけてみることになります。
「ちょっと重たい。大きさは絵里の胸と同じくらいだね。絵里って常時こんな重たいものをつけてるんだ。外したくなることってない?」
「直美だって、あそこにけっこう重たいものをぶらさげてるでしょう? はずしたくなることってない?」
「今のところない。でもこれ柔らかいね。本物の胸の感触と似てる気がする」
「シリコンだからね。以前はこの素材を豊胸手術に使ってたくらいだから。今は中で万一破裂した時に危険だってんで食塩水になっちゃったけどね。」
「食塩水?じゃ針でついたら水が吹き出ておっぱいがしぼんじゃう訳?」
「普通、針ではつかないと思うな」
「それはそうだ」
その日、鈴木さんが唐突に切り出しました。私は鈴木さんの部屋に遊びに行っていました。
「直美、お願いがあるんだけど」
「なあに、改まって」
「直美の精子が欲しいの」
「へ?」
「精子バンクって知ってる?」
「聞いたことはあるけど」
「そこに直美の精子をあずけてくれないかな?」
「なんでまた?」
「そうしておけば将来直美が手術してほんとの女の子になっても子供が作れるじゃない」
「ええっと、私は別にその手の手術を受けるつもりは毛頭ないけど」
「でも私が直美を誘拐して無理矢理手術しちゃうかも知れないじゃん」
「うそ」
「なんか時々衝動にかられるのよね。だって直美は今はとてもきれいな美少女だけど、このままにしておいたらいつか男っぽい体になってしまうんじゃないかって。そんなもったいないこと犯罪に近いもん。だったらいっそ誘拐して強制的に女の子に改造しちゃおうかって」
「うーん。怖いですねぇ」
「でも手術しちゃうと直美子供を作れない体になっちゃうもんね。それは直美に悪いし。それに...」
「それに?」
「ほんとに私と直美が結婚するかも知れないじゃん。その時、病院の跡継ぎが作れないとやばいからね」
「結婚....」
私の頭の中に突然色々な思考が走り回りました。一瞬ぼーっとしてしまい、はっと気付いて絵里を見ると顔を赤らめています。私は何か言葉にならない言葉を発しようとして口がうまく動かず、そのまま絵里の顔をのぞきこむような形になりました。絵里もこちらを向き、しばし二人で見つめ合う感じになってしまいました。
その時は二人の間で時間が止まっていたかのようでした。私は頭の中のどこかから聞こえてきた「動きなさい」という命令で我を取り戻し、唇を衝き出して......絵里の頬に軽くキスをしました。そして立ち上がるとはっきりとこう言いました。
「私も、絵里のこと好きだよ」
そして、くるっと絵里の方を向き直って改めて言いました。
「もし、私がずっと絵里のこと好きで、絵里も私のことずっと好きだったら、二人とも20歳になった時に結婚しよう」
「うん」
絵里はまだ赤い顔のままそう言いました。
「精子は結婚したら、たぶん直接絵里にあげるけど、今欲しいならあげるよ」
「直接....えへ。まだそれはちょっと怖いから。今は試験管にちょうだい。冷凍保存しておくから」
「うん。いつ取るの?」
「毎週水曜と土曜にもらえれば」
「へ?毎週?1回だけじゃなかったの?」
「うーんと、今年いっぱいくらいは続けようよ。それで20本くらいたまるから」
「まぁ、いいや。で...どうやって取るの?注射か何かで吸い取られるんだっけ? あまり痛いのは好きじゃないんだけど」
「ううん。自然に排出したものを採取するのよ。ちょっと手を使って」
「あははははは。そうなの。あははははは。でも絵里って直接的な言葉を平気で使うんだよね」
「まぁ産婦人科の娘ですから。それから採取する前日、できれば2日前くらいから禁欲しておいて欲しいんだけど。液が薄くならないように」
「うーん。努力してみる」
「努力が必要なものなの?」
「一応男の子ですから。で、どこで取るの?お部屋の中?」
「ううん。トイレの中で一人でやってね。何本か道具を渡しとくから、出た時に私の所まで持ってきて」
「わかった」
こうして私と絵里は急速に特別な関係になってしまったのですが、このことは相田さんたちにも内緒で、二人だけの秘密になりました。しかし相田さんはその勘の良さで私たちの関係が何か進展していることを感じ取っていたようでした。
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