【私の高校生活】(2)
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(C)Eriko Kawaguchi 1998.3.03
●1年生7月
その後は普通通り男子高校生として1学期を無事すごし、夏休みで自宅に戻ってから一週間後、みんなでキャンプに行くことになっていましたので、3日間の下着の替えを持って指示されていた体操服を着て、集合場所の校門前に行きました。私がついた時はうちのクラスはもう半分くらいの人たちが集まっていました。
「あ、来た来た」と妙にみんなが騒ぎます。
「因幡君はどうして体操服着てるの?」と級長の村上さんが聞きます。そういえばみんな普段着を着ていて、体操服は私だけです。
「え、でもホームルームでそういう指示があった......と思ったのだけど」
「それはいけませんねぇ。きっと聞き違いよ」と村上さんがいいますと、みんながどっと笑います。どうもはめられたようだと私は気付きましたが、その先まではその時点では想像がつきませんでした。
「一人だけその格好じゃ困るもんね。ちょうどいい具合に因幡君の体にちょうど合う服が用意してあるの。行って着替えましょう。私も手伝うから」と村上さんが言うと
「私も手伝う」と相田さん、鈴木さん、横田さんがいいます。
「まさか....」とその時になって初めて、私は彼女らの計画に気付きました。
「4月に測った時から体型が変わってなかったら、ちょうどいいはずだよ」と相田さん。
「やはり、あれですか?」
「分かったみたいね、直美ちゃん」
私は抵抗したものの結局4人に連れられて校舎の中に連れて行かれ、全部裸にされて、また女の子の下着を付けられ、可愛いライトグリーンのポロシャツと緑と青のチェックのスカートをはかされてしまいました。
「やっぱり可愛い!」と4人は嬉しそうです。
「着替えは毎日あるから楽しみにしててね」と相田さんがいいます。
「これも毎年の恒例行事なんですか?」
「ううん。初めてじゃない。でも可愛いからいいじゃん。中島先生には許可取ってるから」と村上さんがいいます。私の許可は?と言おうとしましたが、その前に
「ほらほら、見て見て」と鈴木さんが私を鏡の前に連れていきました。
そこにはほんとに可愛い少女がいました。これが私? 私はつい我を忘れて見入ってしまいました。4月に女装させられた時は怖くて鏡は見ていませんでした。女の子になった自分の姿を見るのは初めてです。
「直美ちゃん、もしかして、けっこう気に入った?」と横田さんが声をかけます。
私はつい「うん」と言ってしまってから「ううん」と激しく首を横にふりました。
4人と一緒に集合場所に戻りますと、クラスのみんなの歓声があがります。
「かわいいー」
「美人コンテストやったら優勝するかも」
さてキャンプをやる山までは電車で行きます。4月の時は教室の中がほとんとでちょっと廊下を歩いたくらいでしたが、今度は大勢人のいるところを女の子の格好で歩くのは、すごくドキドキしました。そこで相田さんたちからできるだけ離れないようにし、最初ちょっと猫背気味にして内股で歩いていたところ、鈴木さんが
「もっと背筋のばしなよ」と言って背中を押しました。
「うん、そうそう。直美ちゃんは女の子にしか見えないから自信を持って」
と言ってくれたので、少し落ち着き、楽に歩けるようになりました。
でもスカートで歩くのはなんだか不思議な感覚です。ちょっと頼りないような感じですが、ウェストだけ締め付けてその下が自由なので独特の開放感があります。膝下がスースーするのも夏の暑さの中では気持ちいい感じです。そしてなによりも自分がほんとうに女の子であるような気分にさせてくれました。
キャンプ地では、私は女の子扱いなので薪割りなどはせずに、他の女の子たちと一緒に料理作りを手伝いました。調理場には他のクラスの子たちもいます。私は米をといだり、野菜や肉を切ったりしましたが、慣れた手つきなので、みんな感心したようです。「お嫁さんに欲しい」と相田さんが冗談をいいました。
ちょっと手が空いて他の子たちの作業を見ていたら、一人の先生が「そこの手空いてる女子、ちょっとこれ手伝って」と声をかけてきました。「女子」と言われたので最初はピンと来なかったのですが「何してるの。早く来て。これ重いんだから」とこちらを見ていうので、やっと自分のことと分かり、ちょっと恥ずかしくなったのでできるだけ女の子らしい声で「はい」と言って、鍋をあける仕事の手伝いをしました。ちょうどそこに担任の中島先生がやってきて「おお、まじめに女の子らしく仕事してるな。感心感心」と言います。そして
「田代先生、この子、男の子なんですよ。そう見えないでしょう?」と、私を呼んだ先生に語りかけました。
「え?全然気付かなかった。へえー、そういう趣味の子なの?」
「違います」と私は小さな声でいいましたが、元々声のトーンが高いので女の子の声に聞こえたようです。
「あら、やはり女の子なんでしょう?もう、中島先生ったらからかって」と田代先生は言って軽く中島先生の肩を手で打ちます。 私はすっかり赤くなってしまいましたが、それを見て、田代先生はますます私が正真正銘の女生徒だと確信してしまったようでした。
キャンプの間中、トイレも難題でした。もちろん女子トイレに入らなければならないのですが、やはり抵抗があります。4月に女装させられた時にも女子トイレは数回入りましたが、今度は学校の中ではなく、一般のキャンプ地で大勢の人がいます。不安だったので、最初の2回くらいは同じクラスの女の子についてってもらいましたが、3回目は「一度、一人で行っておいで」と冷たく追いやられてしまいました。
テントは相田裕子さん、鈴木絵里さん、横田みどりさんと一緒でした。
「いいんですか?夜這いしたらどうします?」
「平気よ。もう私たち直美のあそこ見てるからね」
そうでした。着替えの時に裸にされているので、しっかり全部見られています。私はかぁーっと赤くなってしまいました。
「直美って、ほんとに女の子らしいよね」
「そうそう。料理もうまいし。ほんとに女の子になりたいって思ったことないの?」
「別に。あ、でも小学校の1年の頃、半分女の子扱いされてた記憶があるんだけど、どうしてだかは覚えてない」
「肌白いしさぁ、ねぇほら見て。きめ細かでしょう」
「そうだ。今度は化粧品買っておいて、お化粧させちゃおうよ」
「今度っていつですか?」
「また、機会があるわよ。ねぇ?」
「うんうん。冬スキーにまた2泊3日で行くらしいから、その時なんかどう?」
「えー!?」
どうも、今後も機会ある度に女装させられることになるようです。
「直美、スキースーツは持ってるの?」
「ううん。スキーしたことないから」
「じゃぁ、さあ。買う時一緒に行こうよ。可愛いの選んであげるよ」
確かにどうせ着せられるのだったら、自分で選んだのを着た方がいいかも知れません。 「うん。それじゃその時は」
そんな話をして1日目の夜はふけていきました。
2日目着せられた服はブルーのワンピースでした。これはまたスカートとは違った開放感があります。その日は5キロほどの距離にある滝を見に行って昼食です。朝からご飯をたいておにぎりを作り、それを持って行くのですが、弁当の運搬は男子の仕事なので私は手ぶらで済みました。もちろんご飯作りはやっているのですが、山道荷物を持っていくのに比べたら楽です。こうしてみると女の子をやっているのもいいもんかな、と少し思いました。
滝を見てご飯を食べ休んでみんなとおしゃべりしていると、「ねぇー、君たちちょっといい」と声を掛けてきた男の人がいました。
「ぼくはカメラマンなんだけど、ちょっと被写体になってくれない?」
「いいですよぉ」
というと男の人は
「じゃ、そこに立って。滝を背景にするからね。」
といっていろいろポーズに注文をつけて、パシャパシャと10枚くらい写真を撮ります。私は最初はちょっととまどいがありましたが、だんだん開き直ってできるだけ笑顔にしていました。
「一人ずつの絵も欲しいんだけどいいかなぁ」
といって、今度は別々に撮り始めます。相田さんはすましてお嬢様風に写っていました。鈴木さんはスポーツ少女なので元気のいい感じ。横田さんはまだあどけなさが残る感じで乙女風、田村さんは大人びた雰囲気を出していました。
「はい、最後ワンピースの子」
私はどういう感じにしたらいいのか分からず、ちょっと顔を赤らめながら、ただ言われた通りのポーズをとってうつっていましたが、どんな写真になったのでしょうか。
撮影が終わると、横田さんが
「その写真、もらえるんですか?」
と聞きます。するとカメラマンは「うーん。じゃあ送ってあげるよ。住所書いて」
といいますので、横田さんは渡された手帳に学校の寮の住所を書いた上で、名前を相田裕子・鈴木絵里・横田みどり・田村幸子、と書いた上でいたづらっぽくこちらを見て因幡直美と書きました。私はちょっと恥ずかしくなって、また少し赤くなりました。
「これ、名前は撮影した順です」
「ありがとう。そうそう、これぼくの名刺ね。今ずっと撮影旅行の最中で、自宅に戻るのは秋頃のつもりだから10月になっても届かなかったら忘れてるかも知れないんで、連絡してね。じゃあ」
といって、また別の女の子の集団に声をかけにいってしまいました。
「滝が目的?女の子が目的?」
「やはり女の子でしょう」
私たちはまたとめどもなく雑談へと流れていきました。
その夜は肝試し大会です。男女一人ずつのペアになって、キャンプ地のとなりの墓地の奥にある無縁仏の供養塔の所でスタンプを押して帰ってこなければなりません。私は同じクラスで野球部の高橋克也君とペアになりました。
「えー、やっぱり男の子と組むの?」
「当然、当然。それに高橋君は希望者が多かったからね。誰にしても不平が出るから、直美だったら安心だし。直美は別に男の子には興味ないでしょう?」
どうも都合良く男とみなされたり女とみなされたりしているようです。
一応ペアなので手をつないで暗い道を歩いていきます。
「いやぁ、因幡と一緒で助かったよ。俺女の子にしがみつかれたりするの、あまり慣れてないから」
「私もしがみつくかもよ」
「おいおい、冗談はやめてくれよ。でもすっかり女の子らしくなっちゃって」
「ごめんなさい。何だか頭の中が女の子モードになってしまったみたいで。男の子モードに戻した方がいい?」
「別にいいよ、どちらでも。そのくらい可愛いかったら構わないよ」
「高橋君も格好いいよ。」
「ちょっと、ちょっと、これじゃ愛の告白みたいじゃん。お前、男の子が好きなの?」
「ううん、ふざけてるだけ」
もちろん、私はホモではないので男の子には興味ありませんが、女の子をするのにも少し快感を感じ始めていました。
最終日の衣装は、オフホワイトのワークシャツに、デニムのフレアースカートでした。この日は朝御飯のあとテントの解体や後片づけです。もちろん私は女子扱いなので、テントの解体の方には行かず、残ったご飯でお昼用のおにぎりを作ったり、鍋などを洗ったりする作業をしました。
お昼には残ったたきぎを使って小さなキャンプファイヤーをし、回りでフォークダンスを踊りました。もちろん私は女子の方です。ずっと相手が変わっていくのですが、他のクラスの男子とペアになった時に
「可愛いね。クラスは?」
などと聞かれてとまどったりしました。すぐにまた相手が変わったので助かりましたが。
「ねぇ、私の服、いつ返してくれるの?」
と私は相田さんに聞きました。もうそろそろキャンプ地を出発、電車にのったら後は自由解散です。
「あ、そうか。忘れてた。そのままでもいいんじゃない?」
「だって、この格好じゃうちに帰れないから」
「それもそうねぇ。でもテントもう片づけちゃったから着替えるところがないよね」
「あ、じゃうちに来ない?」と言ったのは鈴木さんです。
「そうね、じゃ寄ってこうか」
ということで、私は相田さんといっしょに鈴木さんのうちに寄っていき、そこで着替えさせてもらうことにしました。
鈴木絵里さんのおうちは産婦人科の病院です。
5階建ての立派なビルでしたが、おうちはその隣の古風な広い平屋建てのお屋敷でした。
「わぁ、凄いお屋敷ね。病院も立派だし」
「古いだけでねぇ。すきま風は入るし。でも、病院の方は5年くらい前に建て直したばっかりだから、赤ちゃん産む時はどうぞ」
「当面産む予定ないわ」と相田さん。
「私は多分一生産まないと思う」と私。
「ただいまぁ」と言って鈴木さんが入っていくと、奥から「お帰りぃ」という声が返ってきました。
「あ、ママいるんだ。まだお昼休みかな」
と鈴木さんが言う間もなく、中からすっきりした体型の女の人が出てきました。まだ30歳くらいにしか見えませんが、これが鈴木さんのお母さんなのでしょう。
「あら、お友達なのね。入って入って。暑かったでしょう。今ジュースでも出すから」
「ママ、病院は?」
「朝からお産が5件あったから、今休んでるのよ」
「わー、お疲れさま」
「うちは病院の都合でお産はしないからね。全部自然任せだから、重なるとなかなかしんどくて」
私たちは奥の居間へ通されました。立派な和室で床の間に品のいい掛け軸がかかっています。
そこへお母さんがジュースを運んできました。
「さぁ、どうぞ」
「紹介するね、これがうちの母の鈴木和歌子。鈴木産婦人科の副院長」
「よろしくね」
「こちらは相田裕子さん。」
「よろしくお願いします」
「こちらは因幡直美さん」
「よろしくお願いします」
「直美さんは男の子なんだよ」
「えー!?ほんとに? 女の子にしか見えないのに」
「でしょう?」
「いつも、そういう格好なの?」
「普段は普通の男の子の格好だけど、今日は私たちの趣味で可愛い服着てもらってるの」
「まぁ、それはご迷惑かけて」
「いえ、たまにはこういうのも面白いですからいいです」
「声のトーンも高いしね。十分女の子で通用するよね。なんなら手術してほんとの女の子にしてあげようか?」
「いえ、結構です。そんなことしたら親に叱られます」
「あら、親の気持ちなんてどうでもいいのよ。要は本人が女性でありたいと思うかどうかが大切なの。手術するんなら今くらいの年齢がいいんだけどな。20歳過ぎてからだとねぇ。その気になったらいらっしゃい。玉だけでも抜いてあげるから」
「いえ、ほんとにいいですから」
と私は少し焦り気味に鈴木さんのお母さんの申し出を断りました。
お母さんがそろそろ病院に戻らなければといって出かけてから、やっと私は家を出たときに来ていた体操服と男物の下着の替えを返してもらいました。
「女物の着替えの方は気にしないでね。直美ちゃんが持って帰ったら下着泥棒でもしたかと思われるだろうから、私が洗濯しとくから」と相田さんがいいます。
「ごめんね」
「で、新学期に渡すからね」
「いや別に渡されても困るんだけど」
「だけど絵里のママ、性転換手術なんてやるの?」
「しないよ。冗談だと思うけど。でもアメリカに留学してた時に手術の助手したことあるっていつか言ってた。一度自分でやってみたいのかも知れないな」
「よかったね、直美、手術してくれる病院探すの大変なのに」
「いや、別に手術するつもりはないから」
「直美だったらしてもいいと思うなぁ」
「じゃあ、私は今日はこれで」
私はだんだん身の危険を感じてきたので、その場は逃げだし、帰りの電車の中で必死に頭の中を男の子モードに戻すよう思考回路を切り替えていました。
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