【黄金の流星】(6)

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語り手「エレクトラを移転することになったので、作業班は準備作業として、27日の夜中0時、グリーンランド時間で26日21時から、エレクトラの解体作業を始めました」
 
「ゼフィラン、ミレイユ、セルジュは、その間マイアの方に移動していました。作業班は3時頃までに解体を終えますが、一方で数人のメンバーは海から移動目的地に至る長いホースを設置していました」
 
「このホースには海岸近くにエンジンで動かすポンプが取り付けてあり、海水を汲み上げて移動目的地付近に流します。これで目的地の気温を下げることができます」
 
「エレクトラの解体が終わると、作業班は銀色の防護服に身を包み、小屋の材料を目的地に移動します。そして4時頃から組み立てを始めました。彼らは長時間移転地に居ないように交替で作業します。30分くらい作業したらマイアの位置まで戻ってきて休憩するようにして進めました」
 
「そして9時頃、現地時間の朝6時頃までに新しいエレクトラの建築を終えました。念のため、小屋の西側に防熱壁も設置しました」
 
エレクトラは↓の位置に移動された。

(小屋の左側にあるのが防熱壁)
 

作業班が“マイア”に戻り、銀色の防護服を着けた、ゼフィラン・ミレイユ・セルジュの3人が“新・エレクトラ”に移動した。
 
小屋の中に入ってから防護服を脱ぐ。
 
「思ったほど熱くない」
「ここはアルミのカーテンが引いてあって断熱しているし。作業班のヴァンサンの発案で、ポンプで汲み上げた海水を屋根から流しているから、それで結構冷える」
 
「うまいね。ポンプとかあったんだね」
「船に浸水したような場合のために3機積んでた。その内の1つを使った」
「なるほどー」
「最初はタンクを設置してそこに水を入れておいて少しずつ流すというアイデアだった」
「それ水が無くなったら?」
「何時間かおきに補給する」
「大変そうだ」
「賭けに負けた人が水を汲んでくる」
「楽しそうだ」
「彼らにも娯楽が無くちゃね」
「1サンチーム(25円)を越える賭け金は禁止している」
 

「トランプで負けた人が女装とかもやってたね」
「見ないようにしてた」
「確かに観賞には堪えない」
「ブリスの女装がいちばん気持ち悪かった」
「射殺したい気分だった」
 
「セシルはよく女装させられている」
「彼は可愛い。そのまま女の子にしてあげたいくらい」
「女の制服を渡しておいた」
「渡したんだ!」
 
「まそれで、結局トランプでいちばん負けていたヴァンサンが、ポンプを使う手を思いついた」
「切実だったんだ」
「いちばん女装させられていたし」
「その内、目覚めたりして」
 

「でもさすがにここまでは観光客は来ませんね」
とセルジュが言う。
「おかげで安眠できる」
とミレイユ。
「ちょっと熱いけど、タヒチに来た気分で」
とセルジュ。
 
語り手「ゼフィランたちが、見物客が近寄れないような場所に移動したので、代わりにマイアに居る作業員たちが観光客にあれこれ尋ねられるようになりました」
 
画面は、リーダー(新田金鯱)が、アフタヌーンドレスを着た女性客(川崎ゆりこ!)に笑顔で色々教えてあげている図。
 

語り手「隕石地上落下の報せを世界に打電してきたアンドロメダは8月29日の夕方戻ってきました。他の船に分乗していたアンドロメダの乗客は自分たちの部屋に戻ることができました」
 
語り手「しかし、アンドロメダが戻る前の8月28日朝、一隻の軍艦がウペルニヴィク南東の港に来航し、停泊しました。星条旗を掲げています。そして船からは准尉の肩章をつけた隊長に率いられた20名の兵士が上陸。島の東岸を通って隕石の見える所まで来ました。グリーンランド兵たちが緊張します」
 
グリーンランド側の小隊長(横川光照):少尉がアメリカの隊長に穏やかな笑顔で来意を問うと
 
「命令されたので来ただけで何かする予定はありません。単に警戒しろとだけ言われて来ました」
と准尉(Steven Brown)も笑顔で穏やかに答える。
 
「ああ、警戒ですね」
 
しかしアメリカ軍の兵士を見てシュナク(揚浜フラフラ)は、とても不安そうな顔をしていた。
 

語り手「アメリカ軍の数時間後には連合王国(通称イギリス)の軍艦が到着。その後、フランスの軍艦、ロシアの軍艦、日本の軍艦と続きます。日本から航海して来る時間は無かったはずなので、恐らく友好国イギリスに来ていた船がやってきたのでしょう。更にイタリア、ドイツ、アルゼンチン、スペイン、チリ、ポルトガル、オランダ、と続きます」
 
「シュナクが物凄く不安になっていた時、29日の夕方にグリーンランドの旧宗主国であるデンマークの軍艦がやってきたので、シュナクは少しだけホッとしました。結局30日のお昼頃までに唯一の味方と思われるデンマークも含めて16ヶ国の軍艦、300-400人の兵士がこの小さな島に集結したのです」
 

語り手「シュナク大臣も大いに不安になっていましたが、ゼフィラン・ジルダルは激怒していました」
 
「あの軍隊は何なんだよ!ぼくの隕石なのに、なんでみんな勝手なことしてるんだよ!」
 
ミレイユがなだめます。
 
「ゼフィラン・ジルダル、君は理解しなければいけない」
 
語り手「こういう場面で相手のフルネームを呼ぶのは、厳しいことを言う場合です。例えば親が子供を叱る時、子供のフルネームを呼びます」
 
ミレイユは彼に言う。
 
「シュナクが言った通りなんだよ。こんな巨大な金塊を個人が独占することは許されない。下手すればこれの取り合いで戦争が起きて大勢の命が失われるかも知れない。この金塊に関しては、私に任せてくれない?私、フランス首相(*101) にも、アメリカ大統領にも顔が利くからさ。隕石を、恐らく組織されると思う国際委員会に寄贈して、私たちはその見返りに、いくばくかの謝礼をもらうという方向で話を付けてあげるから」
 
語り手「実はミレイユは最初からそのつもりで、その交渉の下準備もしていたのです」
 
「なんで寄贈しないといけないんだよ!?ぼくの隕石なのに!」
とゼフィランは全く聞く耳を持たない。
 

ミレイユの心の声「全くダダっ子だな。遊んでいたオモチャを取り上げられそうになってわめいている子供だよ。いや、ゼフにとって、あの隕石は楽しいおもちゃだったんだろうな」
 
「ゼフはあの隕石に6兆フランの価値があるというその6兆フランという“数字”は理解しているけど、その“意味”を全く理解してない。彼は『どうだ。この隕石、ぼくが捕まえたんだぞ。すごいだろ?』と自慢したいだけ。彼にとってはクワガタか蝶々を捕まえたのと同じ感覚なんだ」
 
ミレイユは“マイア”で待機している作業員たちの所に行き
「君たちは、アトランティスに引き上げなさい」
と指示した。血の気の多い彼らが万が一にも各国の兵士たちとトラブルを起こしたりしないようにするためである。
 
(*101) 当時のフランスは普仏戦争(1870-1871) に敗れた後、パリコミューンなどを経て成立した第3共和政の下にあった。大統領は象徴的な国家元首で、実際の執政は首相が行っていた。
 

ミレイユが“マイア”に行っている間にゼフィランは表に出て行った。そこではシュナクが連合王国(イギリス)の分隊長(演:William Seagull)とフランスの分隊長(演:Henri Lerond)と3人で立ち話をしていた。
 
「隕石落下の報せを聞いて、このあと更にここに見物に来る人たちもあるでしょうから、秩序維持は大変だと思います。連合王国はその秩序維持にご協力しますから、ご安心ください」
 
「わがフランスも秩序維持に協力します。この金塊がきちんと管理されるようになるまで、しっかり守りますから」
 
シュナクの心の声「まずい方向だな。これではこの金塊はみんなに奪われてしまう。へたすると、グリーンランドの取り分はほとんど無くなるぞ」
 
そう思いながらもシュナクは笑顔で両分隊長と談話している。
 
(イギリスとフランスの隊長を演じているのは日本在住のイギリス人・フランス人の俳優さん。3人は普通に日本語で話した。英語版も3人が英語で台詞を入れた。揚浜フラフラは簡単な英語はできる)
 

するとそこに突然、フロックコートを着た紳士が飛び出してきた。
 
「みなさん、ありがとうございます。しっかり守って頂けたら、私の権利も保証されるというものです」
 
「えっと、あなたどなたですか?」
とイギリス軍分隊長。
 
「私はこの隕石の発見者であり、正当な所有者であるディーン・フォーサイスです」
 
フォーサイスがそう言うと、そこに別のフロックコートを着た人物が飛び出してくる。
 
「何を馬鹿なこことを言っているんだ?この隕石は私が発見したものであり、私こそが正当な所有者だ」
 
「あんた誰?」
とフランスの分隊長。
 
「私はこの隕石の発見者であり所有者のシドニー・ハデルスンです」
 

これまでの経緯を知らない、ふたりの分隊長は、なんか頭のおかしい人が2人居るなあと思って顔を見合わせていた。
 
ゼフィラン(アクア)もその2人を知らなかったので、近くにいた白いビジネススーツの男性に尋ねる。
「あの2人は何ですかね?」
 
「自分が先に天体を発見したと言い争っている、フォーサイス氏とハデルスン博士ですよ」
とセス・スタンフォート(七浜宇菜)は答えた。
 
「まさか自分が最初に見たから自分のものだと言ってるの?」
「そうなんですよ」
 
「そんな馬鹿な。見ただけで自分のものになる訳ないじゃん」
とゼフィラン(アクア)。
 
「ですよね〜」
とセス(宇菜)。
 

そこに若い男女が飛び出してくる。
 
「叔父さん、やめてください。もうこの問題は叔父さんたちの手を離れたんです」
と言ってフランシスはフォーサイスの手を引いて戻そうとする。
 
「お父さん、やめて。もうこの後は、偉い人たちの話し合いに任せるしかないのよ」
と言って、ジェニーもハデルスンの手を引いて戻そうとする。
 
ゼフィランは訊いた。
「あの若い2人は?」
 
「あれはフォーサイス氏の甥のフランシスと、ハデルスンの娘のジェニーです。元々フォーサイス氏とハデルスン博士は仲が良かったし、あの2人もみんなに祝福されて結婚する予定になっていたんですよ。ところが天体を巡ってふたりが争い始めたから、可哀想に結婚式が挙げられない状態になってるんですよ」
 
とアルケイディア(アクア!)は簡単に説明する。
 
「それは酷い。自分たちが喧嘩していても、子供の結婚くらい認めてあげなきゃ」
とゼフィラン。
 
「全くそうですよ。あの2人少しおかしくなってますよ」
とアルケイディア。
「いっそ、天体が無くなっちゃったら、争いをやめるかも知れないですけどね」
とセス(宇菜)は言った。
 
ゼフィランはその言葉を聞きながら、腕を組んでしばらく考えていた。彼の視野に展開している数百人の兵士たちが見える(*102).
 
「よし」
と声を出すと、彼は“エレクトラ”まで引き返した。
 
(*102) 前述のように兵士たちはCGである! グリーンランド兵だけが信濃町ガールズ。観光客もCGである!!
 

「お帰り。何してたの?シュナクさんたちに変なこと言ってないよね?」
とミレイユ(アクア)が心配する。
 
ゼフィラン(アクア)は
「もう怒った!」
と言う。
 
(このシーン、「アクアだらけだ!」という声多数:ここで実際にはゼフィランを演じたのがMで、アルケイディアとミレイユはFが掛け持ち演技)
 
「ちょっと待って。何する気?」
とミレイユが焦って訊く。
 
「あの隕石を海に叩き込む」
 
「え〜〜〜!?」
とミレイユは声を挙げる。
 
「待って。考え直して」
 
「だって我慢ならないよ。ぼくの隕石なのに毎日たくさん人が来て勝手にぼくの土地に入ってくるし、あの隕石を巡って戦争が起きて大勢の人が死ぬかも知れないというし。あの隕石は人々の不和と争いを生み出している。結婚式を挙げようとしていたカップルまで引き裂いているし」
 
ミレイユは彼の言葉の最後のほうは理解不能である。
 
「だから海の底に叩き込んでやる」
「待って。お願いだから少し考え直して」
とミレイユはゼフィランを何とか停めようとしたが、突然「ハッ」とした。
 
ミレイユを演じるアクアの突然何かを思い付いたような表情。
 
(この映画の成否を握る、ひらめきの表情)
 

ミレイユの心の声「私、思い付いちゃった!物凄いこと思い付いちゃった!!」
 
ミレイユはゼフィランに言った。
 
「ねぇ。ゼフ、もう停めない。隕石を海に落としてもいいけど、5日、せめて4日くらい待ってくれない?」
 
「機械の改造するのに3日は掛かると思う」
 
「じゃ操作は9月3日くらいまで待ってもらえる?」
「うん。どっちみちそのくらいになると思う」
 
ミレイユは小屋を出ると東岸に停泊しているアトランティスに向けて手を振る。アルジャンに乗って、アールヌーボー風のドレスを着てお化粧もしたセシルが迎えに来る。彼の服装は気にせずに一緒にアトランティスに戻る。ミレイユはダカール(松田理史)に重大な指令を出した。ここは音声は聞こえないものの、ダカールの顔が青ざめているのが分かる。
 
そしてミレイユはその場で、副頭取への手紙を書いた。乱数表を渡す。
「これで変換してから電信を送って」
「分かりました」
 
「じゃお願いね」
と言って、ミレイユ(アクア)はダカール(松田理史)にキスした。
 
(また観客の悲鳴)
 
語り手の元原マミが3秒だけ登場して
「フランスではキスは日本の握手程度の挨拶です」
と言った。
 
(宇菜やMからは「仕事にかこつけてたくさんキスしてる」と言われる)
 

語り手「アルジャンに多数の食料・水、ポンプ用の燃料油を積み、ミレイユ、セシルに作業班のメンバー数人が乗って島に渡ります。燃料油は「どうせここで使うから」ということで、ポンプ近くの岩陰に置き、食料や水は“マイア”に置きました。ミレイユ以外は船に帰ります。セシルたちが戻ったらアトランティスは発進しました。つまり、アルジャンも持って行きました。島に残るのは、ゼフィラン、ミレイユ、セルジュの3人です」
 
「そしてアトランティスはバフィン湾に出ると夜間に出せる限界の速度で南下しました。これが 8月30日の18時 GMT頃でした。この日は月齢4です。月は沈んだまま9月9日くらいまでは出て来ません。どうしても先日の南下の時ほどは速度が出せませんが、太陽が沈むのは夜中の0時近くですし、その後日が昇るまで7-8時間ずっと薄明の状態は継続します」
 

バフィン湾を南下するアトランティスの船内で、1等航海士のシャルル(坂口芳治)と女性航海士の制服を着た3等航海士のセシル(津島啓太)が難しいパズルに挑戦していた。
 
「照合してみよう」
と言って、2人は数字とアルファベットが並んだ意味不明のものを照らし合わせている。
 
「ここが違う」
「再計算してみよう」
「あ、ぼくのが間違っていた」
 
「乱数表を使った暗号って難しい」
「でもオーナーの銀行の運命が掛かってるから」
「うん。頑張ろう」
 
語り手「彼らは銀行の社員ではなく、ミレイユに直接雇用されている立場です。しかしそれだけに、ミレイユへの忠誠心も高いのです」
 

語り手「アトランティスは可能な限りの速度で航行し、グリニッジ時刻で9月2日朝6時にニューファンドランド島のセントジョンズに到着しました。現地時間で同日午前2時半です。そして航海中に作成した暗号電文をダカール船長(松田理史)が、電信局に持ち込み、ルクール銀行副頭取当てに打電しました」
 
「ダカールは3倍の料金を払い、電信局の技師に同じ電文を3度送信してもらいました。意味不明の数字・アルファベットの羅列なので、送信ミスがないようにするためです」
 

豪華な調度の部屋。
 
語り手「副頭取(稲本亨)は長い長い電信文を予め用意していた乱数表を元に平文に変換していきました。大変な作業ですが、絶対に他人には頼めない作業です。電文は3つあり、ほぼ同じなのですが、何ヶ所か異なる部分もあります。そういう箇所は3つの電文の多数決で文字を決めて行きました。作業は1時間ほど掛かりましたが、内容に彼は青ざめます」
 
「本当だろうか」
と彼は猜疑心を持つ。
 
「いやしかし、合い言葉の『白鳥はゆっくり泳ぐ』(Le cygne nage lentement) も入っている。これは確かにミレイユ様の言葉だ」
 
背景に常滑舞音が詠う『白鳥』が流れる。サンサーンスの『白鳥』にオリジナル歌詞を載せたものである。白鳥のコスプレをしてバレエのアラベスクのポーズをする舞音の姿も映る。
 
「私はロベール様(ミレイユの父)に助けてもらった恩義がある。ロベール様があの時私をかばってくれなかったら、今の私は居ない。たとえこのことで私の責任が問われても私はミレイユ様と一緒に逝こう」
 
そう呟くと彼は腹をくくって証券部長を呼び出した。
 

語り手「それからルクール銀行は。全世界の株式市場で金鉱株をひたすら買いまくりました」
 
「黄金でできた隕石が地上に落下したことは全世界に知れ渡っているので、今や誰も金鉱株を買う人は居ません、金鉱自体操業を停止していて、金鉱の経営者、社員、坑内労働者たちも将来に不安を持っていました」
 
「金鉱株は、どこの国の株式市場でも価格は最低価格になっています。むしろ売り注文は出ているものの、書い手が居ないので取引が成立しないままになっています。そこにルクール銀行は大量の買い注文を入れました」
 
「次々と金鉱株の取引が最低価格で成立して行きます。日本市場でいえば、以前は100円、つまり現代の100万円くらいしていたものが1厘、現代の10円くらいで買える状態でした」
 
「それでルクール銀行は、多数の金鉱で、発行株式のほとんどを買い占める結果になりました。むろん1株1株の値段は安くても、これだけ大量買いをすると、その投入資金は凄まじいものです。まさに社運を賭けた大取引でした」
 
「9月2日水曜日にルクール銀行が金鉱株の大量買いを始めたたことは、多くの証券マンや投資家に波紋を呼びました。大半の投資家は単なる“釣り”ではないかと思いました。自分で値段を吊り上げておいて売り抜けるのはよくある手法です」
 
「しかし何かあるかも知れないと思った投資家たちも多くありました。ルクール銀行は先日隕石が落下した時も、その情報をいち早く掴んでいた形跡がありました」
 
「彼らは取引時間のずれているアメリカ市場で、更には9月3日木曜日に取引時間の早い日本市場やオーストラリア市場で、自分たちも金鉱株を買います」
 
「それで金鉱株は世界的にかなり高騰しました。しかし、その時点でルクール銀行は世界中の金鉱の半分ほどの株を買い占め大量の金鉱を支配できる大株主になっていたのです」
 

語り手「ウペルニヴィクでは、作業班がアトランティスに引き上げてしまったので、無人になった“マイア”にセルジュが行き、見物人たちの案内人をしてあげていました」
 
映像では、振袖!を着た女性(演:撮影者の矢本かえで)に、セルジュ(七浜宇菜)が案内をしてあげている所が映る。
 
語り手「“マイア”は“エレクトラ”ほど熱くないのはいいのですが、うるさくて眠れない!のが問題点でした」
 
「周囲がかなりの高温という中に建つ“エレクトラ”では、ゼフィランがひたすら機械の改造作業し、ミレイユはひたすら寝ていました。かなりの防熱処理をしているとはいえ基本が熱いのでどうしても居るだけで体力を消耗してしまいます」
 
「マイアのほうに行ってればいいのに」
「いや、ここであんたを監視する。それに向こうはうるさくて安眠できない」
「それはあるよね」
 
語り手「イギリス軍の分隊長が言ったように、隕石落下の報せを聞いて、イギリスやアイスランド、フランス、カナダ、アメリカ東海岸などから“豪華さ”は劣るものの、速力のある船に乗って観光客がやってきました」
 
「小さなウペルニヴィクの港には9月2日までに、元から居た観光船12隻、グリーンランド軍のものを含めて軍艦20隻、そして新たに来た観光船8隻が加わり、40隻もの船がひしめきあっていました」
 
「グリーンランド政府は運搬船を何隻も持って来て、これらの船に水・石炭・食料などの補給をしてあげていました。石炭や食料は、デンマークも運搬船を派遣してくれていたので助かりました。グリーンランドの首相もこちらに来て、シュナク大臣と話し合い、多数の国相手にどう対処していくか協議していました」
 
「そして9月3日朝までに来た観光船の客は、隕石を見ることができたのです。すっかり案内人と化したセルジュは大忙しでした。トイレには長蛇の列ができていました」
 

字幕:9月3日15時(GMT)、現地時間の正午。
 
「完成した」
とゼフィランは言った。
 
「行ける?」
 
ゼフィランは、まるでそこに大聴衆がいるかのように語り始めた。
 
「これまでぼくは天体を引っ張ってきたんだけど、今度は押さなければならない。だから元の回路のこの信号線とこの信号線をクロスさせた」
 
「ぼくの機械は、別に不可思議なものでも魔法でもない。これは単なる変換器なんだよ。金属でできた物体が持っている電気的な性質を感知して、それにより強い振動を与えてやる。このバルブを回せば発動して、この隕石が宇宙空間にあった時も特定方向に移動する力を作用させていた」
 
「波動はここに入れている結晶、ぼくはジルダリウム(Xirdalium) と名付けたんだけど、これの作用でコヒーレントになり、このパラボナアンテナでその力の作用する向きを決め、またパワーを集中させる。ぼくはこれに螺旋中性電流という名前を付けてるんだけどね。その名の通り、この機械の作用はまるで回転するスクリューのような力の作用を及ぼす」
 
「そしてその回転する円筒形の空間の中は真空になる、ミル、真空って分かるかい?ぼくらが普通に空のコップを持っていても、実はそのコップの中には見えないけど物質が存在する」
 
「でもこのスクリューが回転している時、そこは本当に何もない真空になるんだよ。すると通常地球に囚われている強烈なエネルギーが波となって流れ込んで来るんだ。だからぼくがすることは、物体を押さえているものを解放することなんだよ」
 
ミレイユの心の声「さっぱり分からん!!」
 

しかしゼフィランは気持ち良さそうに、ミレイユを相手にこの機械の原理と作用を語っていた。
 
「この場所は天体の中心から500m48cmだ。ここからこのパワーで働きかければ隕石は動くはずだ」
 
「でもその前にアルミの断熱シートを取り外さなきゃ」
「セルジュを呼んでくる」
 
それでミレイユがセルジュを呼んできて、3人で防護服を着て小屋内部の断熱シート、防熱壁の断熱シートを外した。
 
「断熱シート外すと結構暑い」
「でもここに移転してきた時ほどの暑さじゃないね」
「だいぶ隕石も冷えてきている」
「たぶん今800℃くらいだと思う。融点より下になって隕石は固体になってる。だからこの機械で操作できる」
 

ゼフィランはセルジュに手伝ってもらい、小屋の外で隕石の正確な方向を方位磁針と水準器で再測定した。3人で小屋の中に入る。小屋の壁は木なので、電波を通す。ゼフィランは今測定した方角に機械のパラボナアンテナを正確に向けた、
 
「じゃ行くよ」
 
と言ってゼフィランはスイッチを入れた。
 

「何も起きないじゃん」
とミレイユは文句を言った。
 
「いや作用してる。少し待て」
とゼフィランは答える。
 

その時、隕石の見物客は200-300人居た。彼らは隕石がかなり冷えてきているので、ゼフィランたちの居る小屋“エレクトラ”の近くまで寄ってきていた。その近くまで来ている見物客がその音を聞いた。
 
「何?今のピキッて音?」
「ピキピキと言った」
「何か起きようとしている」
 
(演じたのは、花ちゃん、原町カペラ、石川ポルカ)
 

この音をゼフィランたちも聞いた。
「ほら動いてる」
とゼフィランは得意そう。
 
「ほんとに動いてるみたいね」
とミレイユも言った。
 
セルジュがハッとした顔をする。
「隕石が海に落ちたら凄い蒸気が出ますよね」
「火山の爆発並みの衝撃があるかもね」
 
「ここは危険です。逃げましょう」
とセルジュ。
「その方がいいかもね。ゼフ、その機械を持って私たちも退避しよう」
とミレイユ。
「いや、この機械は動かせない。今持ち去ると隕石の動きは止まってしまう」
とゼフィラン。
 
「だったら、その機械を置いて逃げるしかない」
とミレイユは即断する。
 
「でもこの機械、せっかく作ったのに!ジルダリウムのこのサイズの結晶作るのは2年掛かるのに!」
 
「機械より、命が大事よ」
 

ゼフィランはミレイユとセルジュに連行されるようにしてエレクトラを出た。彼女たちはその近くにいる見物人に呼びかける。
 
「隕石が転落しそうです。危険なので退避してください」
とセルジュ。
「逃げないと爆発に巻き込まれますよ」
とミレイユ。
 
それで見物客たちの間に悲鳴が上がり、全員、フェンスの向こうまで逃げた。ミレイユたちは、隕石からは陰になる東岸のポンプの傍まで降りた。ポンプのエンジンも停止させる。
 

見物客たちが遠くから見ている中、確かに隕石は動いているようだった。隕石が動くのに合わせて崖崩れなども起きているような音がする。
 
警備兵たちの傍に居たシュナク大臣(揚浜フラフラ)は悪夢でも見たかのようなふらふらと隕石のほうに行こうとして、警備兵たちに抱きとめられる。
 
「閣下、危険です。行ってはいけません」
と彼を抱き留めた小隊長(横川光照)。
 
「黄金が!我が国を豊かにしてくれるはずだった黄金が!」
と大臣は絶叫する。
 

その場に来ていたフォーサイスとハデルスンは呆然として今にも海に転落しそうな金色の隕石を眺めていた。
 
ハデルスンが警備兵たちの列を突破して隕石の方に走り寄る。しかし彼は隕石から300mほどのところで倒れてしまった。あまりにも熱すぎるのである。
 
ジェニーが「お父さん!」と絶叫している。フランシスが助けに行こうとして警備兵に停められる。
「行っては、いけません。あなたまで死にます」
「それでも行かなきゃ。放して」
 
とフランシスは警備兵ともみ合いになる。しかしその時、フォーサイスが警備兵の列から飛び出した。彼は熱さにもめげず、ライバルの元に駆け寄った。猛烈に熱いが、彼はかつての親友のためにその熱さに耐えた。
 
「シドニー、大丈夫か?危険だ。逃げよう」
とフォーサイス(ケンネル)。
 
「ディーン。すまん」
とハデルスン(チャンネル)。
 
それでフォーサイスがハデルスンを助け起こし、こちらに戻ってこようとするが、途中でふたりとも倒れてしまう。
 
フランシス(鈴本信彦)が警備兵を振り切って走って行く。それを見て、セス・スタンフォート(七浜宇菜)が彼の後を追った。すると、アルケイディア・ウォーカー(アクア)もそれに続いた。
 

隕石は確実に海に向かって移動する。崖崩れが多数起きている。物凄い音がする。ついに、隕石の一部が海に接触し、爆発音がして激しい蒸気が吹き上げてきた。フランシスは何とかフォーサイスとハデルスンの所に辿り着いたものの隕石転落による凄まじい水しぶきが掛かって流されそうになる。
 
セスがフランシスの手をつかみ、何とか流されるのは免れる。アルケイディアもその場に到達し、5人で助け合ってフェンスの方に行こうとする。ところがその時隕石の別の塊が海に落ちたようで、大きな爆発音がする。蒸気が吹き上げるとともに、大きな波もやってくる。
 
「流される!」
とフランシスが声をあげた時、アルケイディアは、手裏剣!?でハデルスンのフロックコートを地面に固定した。
 
この処置で何とか全員流されずに済んだ。
 
それで5人は命からがらフェンスの所まで辿りついた。最後の50mくらいは多数の見物客が駆け寄って、自分たちの服が汚れるのも顧みずに5人を助けてくれた。全員フェンスの所まで来ると、見物客たちの中から大きな拍手が湧いた。ジェニーがフランシスに抱きついてキスをした。
 
(ビンゴアキのファンから悲鳴!鈴本君、殺されなければいいが!?)
 

字幕:そして隕石は、全て海に転落してしまった。深さ1300mのフィヨルドの底に。
 
常滑舞音 with スイスイが歌う『愛しのクレメンタイン』が流れる。少し前に歌った時とはまた少し歌詞が変更されている。
 
In a cavern, in a canyon, excavating for a mine,
Dwelt a miner, nineteen eighter, and his pretty toy Golden ball.
 
Oh my darling, oh my darling, oh my darling, Golden ball.
You are sunk and gone forever, dreadful sorry, billion franc.
 
(大意)
洞窟の中に、谷間の奥に、鉱脈を探して
住み込んでる鉱山掘りの1908年者、そして彼の楽しいおもちゃ、金の玉
愛しの、愛しの、愛しの金の玉
君は沈んじゃって永遠に居なくなった。なんて可哀想な超フラン。
 
こちらの歌詞のほうがオリジナルに近い。"billion franc"は“兆フラン”の意味。十億フランではない。(*103)
 

(*103) 大きな数の数え方には昔から2つの流儀があり、欧米人たちの間でも混乱がある。日本で言う万進法と万万進法である。法律上も「こちらに統一しろ」という統一先がフラフラと改訂されて混乱に拍車を掛けている、
 
現代的な数え方はこうである。
 
"short scale"
103:thousand (mille)
106:million
109:billion
1012:trillion
1015:quadrillion
1018:quintillion
 
しかし20世紀初頭のヨーロッパでは“フランス以外”は↓の流儀だった。
 
"long scale"
103:thousand (mille)
106:million
109:milliard (thousand million)
1012:billion (thousand milliard/mille milliard)
1015:thousand billion
1018:trillion
 
つまり103ではなく106単位でmillion, billion, trillion が使用され、その間の103単位は thousand million, thousand billion, thousand trillion と言うのである。
 
この小説もlong scale で書かれている、
 
フランスとそれに倣ったアメリカは(当時は)ショートスケールだったが、ヨーロッパ内の他の国の多くが long scale だったのでヴェルヌはフランスも近い内に他の国に合わせるのではと思っていたのかも知れない。それで billion は現代的な解釈では10億だが、昔の流儀では兆になるのである、
 
20世紀中に起きた更なる大混乱については書くと読者を混乱させるだけなので説明を割愛する。
 

字幕:翌日9月4日(金).
 
語り手「多数の見物客が、隕石の消えていった海岸を探索していました」
 
「隕石の海中転落による爆発は、半島の半分くらいを崩壊させてしまいました。元々隕石落下の際の衝撃で、かなり地盤が弱くなっていたのでしょう。ゼフィランの土地はますます狭くなりました」
 
「お、ここに少し落ちてた」
とフォーサイス。
「あ、ここにも小さなかけらが」
とハデルスン、
 
語り手「見物客たちは、黄金の隕石のかけらが残ってないか探し回っていました。しかし誰も大した量の金(きん)は見付けることができませんでした。フォーサイスとハデルスンが拾った金(きん)も、合わせてもカフスボタンにも足りない量でした。でも拾った人たちにとっては、充分良い記念になりました」
 
字幕:取り敢えずここがゼフィランの土地であることは無視されている。
 
「しかしフォーサイス天体を失ったことはつくづく惜しかった」
とハデルスン博士。
 
「いや、ハデルスン天体を失ったことは本当に残念です」
とハデルスン。
 
ふたりが仲よさそうに話しているのを見て、フランシスとジェニーは呆れていた。
 

「そうしいえばお前たちなんで船室を別にしてるの?夫婦なんだからひとつの船室にすればいいのに」
とハデルスンが後ろを歩く2人を振り返って言う。
 
「お父さんたちが私たちの結婚に反対するから、結婚式をあげられなかったんじゃん」
「俺がフランシス君との結婚に反対する訳が無い」
とハデルスン(チャンネル)。
「お前もさっさとジェニーさんを嫁さんにしてやれよ。ジェニーさんは本当にいい子だよ」
とフォーサイス(ケンネル)。
 
どうも2人は対立していたこと自体を忘れているようである。
 
フランシスの心の声「ミッツが正しい。きっと叔父さんも、博士も悪魔に取り憑かれていたんだ。金色の悪魔に」
 
ここで常滑舞音が歌う『悲しい悪魔』(Pobre diablo 1979年フリオ・イグレシアスのワールド・ヒット:日本では郷ひろみがカバーした)の曲が背景に流れる。金色の悪魔のコスプレをした舞音の姿も映る(このコスプレ映像は、宗教規律の厳しい国バージョンでは、金色のボールを眺める黒い服の舞音の映像に差し替えられた)。
 
「私が許すから、ジェニー、帰りの船ではお前、フランシスの部屋で一緒に過ごしなさい」
 
「え〜〜?」
 
「お義父さん、結婚式を挙げる前なのに、まずいですよ」
とフランシスは言った。
 
(このあたりが1908年が舞台の物語)
 

字幕:帰りのモジーク号船内
 
アルケイディア(アクア)とセス(七浜宇菜)がベッドの上に並んで身体をくっつけて腰掛けている。
 
(「離れろ!」という声多数)
 
こちらの2人は1908年でも関係ない!
 
「セス、昨日は頑張ったね」
「アルカも昨日は頑張ったね」
 
「でもフォーサイスさんとハデルスンさんは熱さで倒れたみたたいだったけど、私もセスもわりと平気だった気がする」
「着ていた服の違いだと思う」
「何か違ってた?」
「フォーサイスさんとハデルスンさんは。どちらも黒いフロックコートを着ていた。黒い服は熱を集めるんだよ」
「へー」
「ぼくもアルカも白っぽい服だった。白い服は熱さに強い」
「そういえば夏の暑い時に白いドレス着るよね」
「あれも熱さを和らげる効果があるんだよ」
「そうだったのか」
 
2人はキスした。
 
(悲鳴多数)
 

「していいよね?」
とセス。
 
「私たち今結婚してないけど」
「後から結婚すれば問題なし」
 
「私男の身体だけど」
「そんなこと気にしないよ。君でさえあるなら、別に男とか女とか関係無い」
 
それで2人は再度キスして、一緒にベッドの中に潜り込む、
 
(アクアと宇菜のベッドシーン!多数の悲鳴!)
 
「脱がせてもいい?」
「いいよ」
 
それでセスはベッドの中でアルケイディアの服を脱がせる(という設定)。
 
「あれ?」
「どうした?」
「アルカ女の子になってる」
「嘘!?」
 
それでアルケイディアは自分の身体をチェックしている。
 
「ほんとだ!私いつの間に女の子になったんだろう」
「好都合だから、このまましちゃうね」
「うん。でもまた女の子になれてうれしーい」
 
と言って2人はベッドの中で再度キスをした。
 
(こいつら絶対本当にキスしてる、という冷静な観覧者の声多数)
 

語り手「人々は潮が引くようにこの島を立ち去りました。実際何も無い島に長く留まるのは意味も無いし、また不可能でもありました。9月4日の午後には軍艦を含めて全ての船が退去しました」
 
映像は、ゼフィラン、ミレイユ、セルジュの3人が並んでいる所の顔だけが映る。首から下は黒いシート?で隠されて見えない。
 
「アトランティス、夕方くらいまでには戻って来てくれるかなあ」
とミレイユ。
「裸で2晩過ごすのは辛いですね」
とセルジュ。
 
「全部流されちゃったからね」
とミレイユ。
 
「どこかに予備の服とか置いてなかったの?」
とゼフィラン。
 
「エレクトラだけじゃなくてマイアまで流されちゃったし」
とミレイユ。
 
「爆発のエネルギーは凄まじいですね」
とセルジュ。
 
「まあ北極で濡れた服で過ごすよりは裸のほうがまだマシというので裸になっているわけだけど」
 
↑説明的な台詞!
 

「ポンプのエンジンを動かしてるので、少しは暖かいですね」
「この燃料が無くなったらどうしよう?」
「それまでにはアトランティスが来てくれることを祈りたい」
「燃料、マイアまで持って行くの面倒くさがって、ここに置いてて良かったですね」
「概して手抜きは良い結果をもたらす」
「ただの偶然じゃないの?」
 
字幕で「3人は裸になっているという設定で、実際には着衣で演技しています。またこのシーンを撮影しているのは女性の撮影者です」と表示された。これも規律の厳しい国用の配慮である。実際には、そういう国でも「女優3人の演技だから問題無い」と言われた所が多かった。撮影したのも美高鏡子である。
 

振袖姿の元原マミが登場し、経過を語る。
 
「隕石が海に転落してしまったことは、9月6日の夕方、高速航行が可能なアメリカの軍艦からの報せにより、アメリカ政府がグリーンランド政府のメッセージを代理で世界に発信して、知れ渡りました」
 
「世界中の全ての金鉱が操業を再開しましたが、この時点で金鉱のほとんどがルクール銀行によって株式を独占されていました。そしてルクール銀行は、そこから上がる莫大な利益をは受け取ることになりました」
 
「そもそも株で最も正しい儲け方は売買ではなく配当で儲けることである、つまりキャピタルゲインより、インカムゲインというのが、多くのまともな証券マンの意見です」
 
「結局ミレイユは天空の金(きん)は手に入れられなかったものの、地上の金(きん)を入手したのです」
 

語り手「9月18日にモジーク号はチャールストンに帰ってきました。帰国した5人の顔をみて、ミッツもフローラもルーも、全てが解決したことを知りました」
 
モジークがチャールストンに着いて5人が降りてくる映像、彼らが列車でワストンに到着した映像が流れる。
 
語り手「9月30日、フランシスとジェニーはセント・アンドリュー教会にて、オガース牧師により結婚式を挙げました」(*104)
 
2人の結婚式の映像が流れる。
 

タキシードを着たフランシス(鈴本信彦)が先に前方まで行き、その後、フロックコートを着たハデルスン博士(チャンネル)にエスコートされたウェディングドレス姿のジェニー(ビンゴアキ)がヴァージンロードを進む。博士がジェニーをフランシスに引き渡す。
 
オガース牧師(藤原中臣)が定型句を言う。(*106)
 
「フランシス・ゴードン。あなたはこのジェニー・ハデルスンを妻とし、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時も、健やかなる時も病める時も、ふたりが生きている間中、共に過ごし、慈しみ合うことを誓いますか」
 
「誓います」
とフランシスは答える。
 
「ジェニー・ハデルスン。あなたはこのフランシス・ゴードンを夫とし、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時も、健やかなる時も病める時も、ふたりが生きている間中、共に過ごし、慈しみ合うことを誓いますか」
 
「誓います」
とジェニーも答える。
 
「結婚は成立しました」
と牧師は宣言する。
 
そして
「神の恩みのあらんことを」
と言って十字を切る。
 
参列者も十字を切った。この後、オガース牧師が結婚証明書を作成し、フランシスとジェニーが署名して、法的に2人は夫婦になった。
 

(*104) アメリカでは結婚式をおこなうことが結婚の要件であり、日本のように届けだけ出して式を挙げないということはできない。法律上有効な結婚式を挙行できるのは、裁判官および(認定された)牧師や司祭(*105)などである。
 
日本人がアメリカの教会で結婚式を挙げたいという場合、教会により、“未婚でなければ挙式をしない”教会と、海外で結婚したカップルに追認でセレモニーだけしてくれる教会がある。
 
どちらであるかによって、事前に日本国内では婚姻届けを出してはいけない場合と、予め婚姻届を出して婚姻届受理証明書をもらっておかなければならない場合があるので、注意が必要である。
 
前者では未婚の状態で渡米し、教会で法的な結婚式を挙げた上で、結婚証明書を持ち帰り、日本の役場に提出する。戸籍には「婚姻の方式:アメリカ合衆国の方式」などと記載される。また結婚式前には、ホテルで同室に泊まることを拒否される場合もある。
 

(*105) カトリックの聖職者は司祭(Priest) であり、“神父”(Father) は、司祭への呼びかけの言葉である。“教師”に“先生”と呼びかけるようなもの。プロテスタントの多くは万人司祭の立場を取り、牧師は信者の代表のようなもの。この“牧師”は宗派により、様々な呼称がある。一般的には Pastor というのが多いが、前述のようにオガース牧師は reverend である。アメリカのルター教会などがこの名称を使用する。
 
(*106) この式の様子は宗教色を弱めている。出演者のほとんどが非キリスト教徒なので、キリスト教色を強くすると演技に抵抗を感じる人も多いということから、宗教色の強い部分を回避したもの。これはキリスト教以外の宗教が支配的である国への配慮でもある。「父なる神、イエス・キリスト、聖霊の名において」ということばを省略し、「アーメン」も発音しなかった。
 

語り手「アトランティスは9月4日の20時(GMT)頃にウペルニヴィクに戻って来ました」
 
ダカール船長はゼフィランの土地の半分くらいが消失しているのを見て青くなったものの、こちらに向かって手を振る3人の姿を認識してホッとした。
 
すぐに近くに停泊し、セシル(津島啓太)がアルジャンで迎えに行く。
 
セシルはガウンを3枚持って来ており、3人に渡したので3人はそれを羽織った。3人が裸だったのでダカールの指示で持って来たのである。ここから3人の全身が映る。
 
「お疲れ様です。ご無事で良かった」
「いや身ぐるみ剥がされたってこういうことだね」
「なぜ裸に?」
「ずぶ濡れになったからね。北極で濡れた服を着てたら死んじゃう」
「確かに裸のほうがマシかも知れません」
「お腹も空いた」
 
「取り敢えずスープでもお持ちします」
と言ってセシルは、ボートがアトランテススに戻るとキッチンに飛んで行った。
 
ダカール船長自身が3人の服を持って来てくれた。実はダカールだけがミレイユの部屋の鍵を持っている(理由は“後述”)。
 

「ぼくこの服を着るの?」
とゼフィラン。
「ジルダル様の服が見当たりませんでしたので」
とダカール。
「確かにぼくは着替え全部持って島に上陸した」
「ということは女の服を着るか裸で過ごすかだね」
「え〜〜?」
「特別に私の服を貸してあげるよ」
とミレイユ。
 
「これミルの服?」
「ここは私の別荘みたいなものだからね」
「分かった。ミルの服を貸してください」
「はいはい」
「でもスカートとか恥ずかしい」
と言いながらその屈を着る。
 
「でもジルダル様、似合ってますよ」
とセルジュが言っている。
「セルジュもスカート穿いてると印象がかなり違う」
「私は男名前を付けられて男として育てられたんで、スカート穿いてると女装している気分になります」
「ぼくも女装している気分だよ」
 

「しかし2ヶ月も留守にしたら、仕事が溜まってるだろうなあ」
とミレイユは言っている。
 
「ミルもたまには気分転換するべきだね」
「ゼフも時々性転換するといいかもよ」
「やだ」
 

語り手「アトランティスは9月10日・木曜日の朝ルアーブル港に帰着しました。7月6日にこの港を出て以来、2ヶ月ぶりのフランス本土でした。しかし・・・」
 
画面はベッドで熟睡しているふうのゼフィランを映す。
 
(アクアは本当に眠ってしまったので起きるまで3時間ほど放置して、その間撮影陣は他の場面を撮影していた)
 
「あれ?」
 
彼は目を覚ました。(アクアの本当の寝起き)
 
船は停泊しているようである。
 
ゼフィランがサロンに出て行くとセルジュが居る。
 
「おはようございます、ゼフィラン様」
「もしかしてフランスに着いた?」
 
「はい、ルアーブルです。ミレイユ様はもう銀行にお戻りになりました」
「忙しい子だなあ。ぼくはぐっすり寝てた。ごめーん」
「いえ。私たちは航海中は日曜もありませんが、いったん港に戻るとひたすらお休みですから」
 
「何もすることないの?」
「普段ミレイユ様は毎週日曜にいらっしゃるんです。それで近海をクルーズして息抜きをしておられます」
「贅沢な生活だなあ」
「平日のお仕事が大変そうですから」
「あの子もよくやるよ」
 
「御自宅までお送りします」
「助かる」
 

それでゼフィランはスカート姿のまま!やはりスカート姿のセルジュと一緒に船を下りた。駐車場に駐めた Peugeot Lion Phaeton (*107) に乗り込む。セルジュが運転して車を出す。
 
「わりとゆっくりした車だね」
「Type91は高級車ですが フェートンは普及車ですから」
「へー」
 
「パリまでは時間がかかりますから寝ててください」
とセルジュは言う。
 
「確かに時間かかりそうだね」
と言って、ゼフィランは本当に寝てしまった。
 

(*107) プジョー・リオン・フェートンは、プジョーが路線上の対立からプジョー兄弟社とプジョー自動車に分裂していた時代に、プジョー兄弟社が出した普及型の自動車である。
 
プジョー家は鍛冶職人の家柄で、古くは貴婦人のスカートが釣り鐘型に広がる型などを作っていたが、やがて自転車でひとつの時代を作った。
 
その頃、アルマン・プジョー (Armand Peugeot 1849-1915) は、若き発明家のダイムラーと意気投合し、自動車というものに将来性を感じる。そしてダイムラーが発明したエンジンを乗せた自動車を積極的に製造販売していこうと考えた。しかし社長で従兄のユージーヌ (Eugene Peugeot 1844-1907) は自動車とか流行らないと思っており、うちの会社は自転車の製作でやっていくと言った。
 
2人は決裂し、アルマンは 1896年4月2日“プジョー自動車”(Automobiles Peugeot) を設立した。一方、ユージーヌの息子たち3人は父親に反してやはりこれからは自動車の時代だと思っていた。それで1907年(父が亡くなった年!)に Peugeot Freres の名前で、このリオン・フェートンを製作したのである。プジョーのライオン・マークはこの時から始まる。
 
フェートンは非力だが安かったので当時としては驚異的な1000台ものセールスをあげた。785ccの1気筒エンジンで最高速度は35km/hである。フェートンとは馬車の一種の名称。
 
自動車というのは、基本的に馬無しでも走る馬車である!
 
先に出て来た Peugeot Type91 はアルマンの会社 Automobiles Peugeot から同じ1907年に発売されており、こちらは2207cc 4気筒、最高速度は70km/hであった。こちらも339台も売るヒット商品となった。
 
この2つの会社は1910年2月に合併している。この背景にはユージーヌの息子たちが、自分が心血注いできた自動車を推してくれていたことと、アルマンには娘だけで、息子が居なかったこともあった。
 
なお、撮影に使用したLion Phaeton はレプリカであり、実は普通のミラを魔改造したものである!マニアにはエンジン音からミラであることがバレると思う。
 
 
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【黄金の流星】(6)