【黄金の流星】(5)

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振袖姿の語り手(元原マミ)が登場して経過を語る。
 
「フォーサイス・ハデルスン天体がグリーンランドに落下する31日前の7月18日、ゼフィラン・ジルダルやミレイユ・ルクールらは、落下予定地点のウペルニヴィク島に到着しました。ところが現地に来てみて“落下予定地点”が海の上であることに気付いてしまいました」
 
画面が分割され、右側に元原マミが映り、左側にゼフィランたちの様子が映る。
 
「それでどうすんの?わざわざグリーンランドまで来て金玉を海に落として帰るの?」
とミレイユが怒っている。
 
(アクアが「え〜?再現映像にこれ使うんですか?」と言っていた。監督は金玉が好きなようだ)
 
ゼフィランは
 
「難しいけどやってやろうじゃん」
と言って、天体の軌道を修正して、ちゃんと地面の上に落とすと答えた。
 

語り手「彼らは島に上陸し、小さなテントのような小屋を建てて、そこで天体への操作をしました」
 
映像は、小屋とその隣の櫓に乗った天体観測台を映す。ゼフィランは天体を観測したり、機械を操作したり、長い桁数の計算をしたりしている。
 
「現在の予定地点が北岸から251mで、土地の南北長が1249mだから、落下予定地点から251m+1249m÷2 = 875.5m 移動させられたら理想かな」
とミレイユが暗算で数字を言うので、ゼフィランは感心している。
 
(ミレイユは1250を暗算で半分にして625とし、それに251を足して876という数字を出した上で、0.5を引いた。算数ができる人には難しくない計算だが、小学校で計算を徹底的に鍛えられている日本人と違い、概して欧米にはこのレベルの計算ができない人が多い)
 
「そこまで移動させられたら理想だけど、多分岸のぎりぎりくらいになると思う」
とゼフィランは答えた。
 
語り手「しかし初日には落下地点を46mほど南に移動させることができました」
 
「凄いじゃん。1日で46m移動させられるなら30日で1380m移動させられる。そこまでいったら、今度は南に飛び出しちゃうけど」
とミレイユ。
 
「移動させられる量は日々小さくなると思う」
とゼフィランは答えた。
 
語り手「実際翌日は39mしか移動させられませんでした」
 

語り手「ゼフィランの作業はこの島の北側に張り出すようにしている半島の北岸に建てた小屋の中で行われていました。小屋の中に泊まり込んでいるのはゼフィランとミレイユにセルジュです。毎日朝と晩に、2等航海士のセシル(演:津島啓太)がアルジャンに乗って船から食料と水を持って来てくれました」
 
「食料は元々たくさん積んできていますし、作業班の人たちがレクリエーションも兼ねて、釣りや狩猟をしているようです。先日は北極熊を捕まえたと言って、大騒ぎしていました。また水は淡水化装置を積んでいるので、不足しない程度には生産することができます」
 
「石炭だけは無くなると困るので、実は一度まだ余裕がある内に、ディスコ島のゴッドハウン(Godhavn. 現在のケケルタルスアク Qeqertarsuaq)まで行って、買ってきています。この当時のゴッドハウンは準首都として機能していた大きな町でした」
 
その日ボードで食料と水を持って来たセシルに、セルジュは言った。
 
「今日は可愛いね」
「あまり見ないで下さい!」
 
セシルはピンクのチュニックに、白いロングスカートを穿いていた。
 

「セシル、女子用航海士制服を支給しようか?」
「勘弁して下さい」
「また負けたの?」
「バックギャモン(*88) 大会で最下位になったら、これ着せられました」
 
「ああ、セシルがバックギャモンに弱いの分かってて、誘ってるよね」
「ぼく、しないと言うのにぃ」
「セシルにこの服を着せることが目的化している」
「ヴァンサンさんといつも最下位争いしてます」
「ああ、ヴァンサンがスカート穿いてるのも見たことある」
「私は彼のスカート姿は見ないようにしている」
「あそこまでスカートが似合わない人も珍しい」
 
(セシルの出番は最初この場面と後述の測量の場面だけの予定が、この女装があまりに可愛かったので、彼の出番は大いに増えることになった)
 
(*88) バックギャモンは西洋ではポピュラーなボードゲームである。日本でも平安時代には双六(すごろく)の名前でよく遊ばれていて、囲碁と並ぶ、平安貴族の嗜みだった。囲碁がその後もずっと遊ばれていたのに対して、双六の文化は消えてしまった。江戸時代以降“双六”と呼ばれるようになったゲームは古くは“絵双六”と呼ばれ区別されていた。
 

語り手「7月も下旬になるとゼフィランもかなりメドが立って来たようでした」
 
「このペースで行くと、海岸から40-60mくらいの地点に着地しそう」
とゼフィラン。
「ギリギリじゃん。もっと南にはできない?」
とミレイユ。
 
「いや、これでいいんだよ。隕石は落下した所で止まるわけではない。勢いがあるから、そこから滑走して地面との摩擦で止まる」
 
「あ、そうか」
 
「この半島には小さな山があるから、これがブレーキになると思うけど、海岸ぎりぎりくらいに落とさないと、山を突き抜けて国有地に飛び込む可能性が出てくる」
「難しいね」
 
「海岸に到達しないと、フィヨルドの底に沈んでいくけどね」
「それは困る」
「まあ風もあるから北にずれることはないと思うよ」
「ああ。北風がかなり強いよね」
 
「あと大気中で燃えてどうしても一部は失われるからね」
「どのくらい失われる?」
「予測できないけど、3分の1から、ひょっとすると半分くらい」
「半分でも相当なものだから、それはいいよ。でも燃えた金(きん)はどうなるの?」
「小さな塵になって、隕石の落下経路に降ると思う」
「ふーん・・・」
 

語り手「ゼフィランの操作は落下予定日前日8月17日の朝まで続けられました」
 
「やはり海岸から40-50mくらいの場所に落ちそうだよ」
「順調に来たね」
 
「さあ、撤収しよう」
とゼフィランは言う。
 
「撤収するの?天体落下をそばで見ないの?」
とミレイユ。
 
「天体が落下すると、周囲1km以内は1000度以上の高温になるし、そもそも衝突の衝撃で、このあたりの土地がまるごと地上2-3kmの高さまで吹き飛ぶと思うけど」
とゼフィラン。
 
「それはさすがに逃げないとやばいね」
 

セルジュが赤色の花火を打ち上げる。それで“アルジャン”に乗って、作業班のリーダー(新田金鯱)がやってくるので、ミレイユは
「小屋と櫓を片付けて撤退するよ」
と言った。
 
語り手「このボートの帰りで天体望遠鏡と軌道変更機を持ったゼフィラン、タイプライターを持ったミレイユに、食材や寝具を持ったセルジュがアトランティスに移動します。その後、作業班が上陸して、小屋と櫓を2時間ほどで分解し、アトランティスに回収しました」
 
「どのくらい離れていれば安全?」
とミレイユが訊く。
 
「島影なら20kmでもいい」
とゼフィラン。
 
「ではサジク島の北岸のフィヨルド内に行きましょう。それなら間にタルク島とハヤマ島があるし、フィヨルド内は水深が深いから津波の影響が小さいです」
とダカール船長。
 
「朝4時頃、天体に関する最後の操作をする。その時は再度上陸させて。その後、その退避場所に移動しよう」
とゼフィラン。
 
「分かった。あんたを島に降ろしたら私たちは退避すればいいね」
とミレイユ。
 
「ぼくも連れてってよ。まだ死にたくないから」
「あんたが死ねば遺産は従姉の私が相続するから黄金の流星も私の物になって問題無い」
「遺体が見付からないと死亡届けが出せないと思うけど」
「仕方ないな。回収してやるよ」
 
ダカール船長とセルジュが呆れて会話を聞いていた。
 

語り手「それでゼフィランとシャルル1等航海士(坂口芳治)がその作業のために仮眠します。2人は8月18日午前3時半(グリニッジ時間)頃、“アルジャン”に乗って、ウペルニヴィク島に再上陸しました。海岸に機械を設置します。天体は4時すぎに北西の空に現れ、満月よりも明るく輝いていました」
 
「凄い輝きですね」
とシャルルが少し怖そうに言う。
 
「今回は落ちないよ。これから降下軌道に入れるから地球を1周回って6時頃にこの付近に落下するはず」
「1時間半で地球を一周するんですか!」
「そうだよ」
「とんでもないスピードですね」
「時速27000kmくらいだね」
「すごーい!」
 
「時計の秒数を読んで」
「はい」
 
シャルルがクロノメーターの秒数を読む。ゼフィランはそれに合わせて操作をした。
 
「よし。これでOK。撤退しよう」
「はい」
 
語り手「それで2人はアルジャンに乗って島を離れ、アトランティスに戻りました。アトランティスはすぐに発進し、フィヨルドを下って、バフィン湾に面したサジク島の北岸沖に停泊しました」
 
「6時頃操舵室に居るのは誰?」
「私とローランにエミルです」
とダカール船長。
 
「機関室に居るのは?」
「私とスーです」
と機関長。
 
「どちらも大火球が見えたら全員床に座って。立っていたらたぶん倒れる」
「分かりました」
 

語り手「大火球は5:40頃に北の空に現れました。物凄い明るさです。この北の地では太陽は昇っても低い所にしか居ないのですが、突然南国の昼間のような明るさになりました。起きているクルーたちにはサングラスが配られます」
 
「あと15分くらい」
とゼフィランは時計を見ながら言う。。
 
火球がどんどん近づいてくるので、船のクルーたちの間に悲鳴にも似た声があがる。
 
「ここにはぶつからないから心配しないで」
とゼフィラン。
 
ミレイユは腕を組んでその火球を見ている。
 
「あと5分」
 
火球が近づいてくるが音は比較的静かである。みんな映画でも見ているかのように(*89) その大火球を見ていた。
 
「あ、分裂してる」
とゼフィランが言う。
 
「どうなるの?」
「多分問題無い」
 

(*89) 映画は1895年、リュミエール兄弟により発明された。むろん当時はサイレント映画である。トーキーは1923年に開発された。それ以前にも音声付きの映画は存在した。例えばリュミエール兄弟自身が指揮して1900年のパリ万博で上映された映画は音声付きだったが、この頃は映画のフィルムとは別にレコードを用意して掛けていたので、映像と音声の同期は困難だった。
 

「ぶつかる」
とゼフィランが言った次の瞬間、東のほうで物凄い爆発音のようなものが2つ続けて起きる。次の瞬間、物凄い波が来て、船はその波に持ち上げられたが、そのまま降りて行った。全員ふわっと浮くような感覚を覚えた。
 
そして東の方に巨大なキノコ雲ができた。
 
「何あれ?」
「何ですか?あれは」
「あんな雲見たこと無い」
と多数の声。
 
「隕石の衝突の衝撃でできたんだよ。凄い勢いでぶつかったから、その付近の土砂を吹き飛ばして、ああいう形の雲ができたんだと思う」
 
「なんで一番上は平らなんですか?」
「よく分からないけど、押しのけられた空気の抵抗だと思う」
 

ミレイユは訊いた。
 
「地面に落ちたよね?」
「たぷん。今の音は水に落ちた音ではないと思う」
とゼフィランが答える。
 
「見に行こう」
「1時間ほど待て。これから雨が降ってくる。それが収まるまで待たないと危険だ」
「雨?」
とミレイユが言う間もなく、真っ黒な雨が降り出した。
 
6:13 日出になったはずだが、真っ黒い雨が降っているのでよく分からない。雨は結局2時間ほど降ってから収まった。
 
「船が真っ黒」
「洗えばいいさ」
「見に行こう」
「うん」
 
それでアトランティスは発進し、ウペルニヴィクに向かうが、途中で停船する。
 
「これ以上近づくのは無理です。熱すぎます」
とダカール船長。
 
「待って」
ゼフィランは、天体望遠鏡を組み立て、島に向ける。
 
「天体望遠鏡って、地上を見るのにも使えるんですか?」
とダカールが感心している。
「遠くから彼女の様子を伺うのにも使えるよ」
とゼフィランが言うと
「やってみたいな」
とダカールが言う。するとミレイユがダカールを睨んだ。
 
この程度のジョークで怒らなくてもいいのにとゼフィランは思う。
 

接眼レンズを頷きながら方角を調整する。そしてミレイユに
「見てごらん」
と言って、見せる。
 
「天体だ!金の塊だ!」
「ちゃんと地上に落ちたね」
「でも海岸に近すぎない?」
とミレイユは文句を言う。
 
落ちた天体は島の西岸からすぐの所にある。(*90)
 
「風に煽られて西にずれたんだと思う。それでも海岸から70mくらいあると思うけど」
「私には10m程度にしか見えない」
「中心点から測れば70mあるよ」
「10mと70mでは違う」
とミレイユはまだ文句を言っている。
 
「でも半径が大きい気がする」
「降下中に2つに分裂していた。だから衝撃音は2回続けて聞こえた。後から激突したものはその分風に煽られて、より西にずれて落ちた」
「ああ。あれは2つの塊なのか」
「一体化してるけどね。でも2つに別れたおかげで衝撃は半分になったはず。ただしそれが2度起きたけど」
「2回払いだな」
 

(*90) このシーンは実際の隕石のセットを本当に海上2kmの所から撮影している。揺れる海の上でしっかり隕石に望遠鏡を向けるのに苦労し、わずか2秒の映像を撮影するのに30分掛かった。
 
今回の映画は基本的には春日部の屋内スタジオに様々なセットを組んで撮影しているが、この隕石の様子は、千里が所有!している北海道沿岸の小さな島の海岸に、実際に1km×2kmのスペースを確保して、実物大・直径50mの隕石の模型を設置して撮影している。3月の北海道なので、かなりの雪があり、本当にグリーンランドで撮影しているかのような映像になった。撮影場所の1km×2kmの範囲は全て除雪して撮影した。(この除雪作業の一部の映像を後述のシーンに転用している)
 
隕石の模型は材木でおおまかな形を作り、その上にいったんビニールのシートを掛け、更に赤銅の薄い箔(はく)を乗せている。内部に3色のLEDがセットしてあり。様々な色に発光できる。しかし発光させなくても、赤銅が熱した金(きん)の雰囲気を出してくれた。使用した銅箔は約2000m2で、価格は1000万円ほどである。これがもし金箔を使ったら多分100億円掛かっている。しかし金属箔を使用したことで、かなり本物っぽくなった。
 

「あれ、島の東岸とかには上陸できないよね?」
とミレイユは訊くが
「まだ無理です。そもそも島に近づけません」
とダカールが言う。
 
しかしセルジュが考えるようにして言った。
「直接は接近できないですけど、ハヤマ島の南側から回り込んで南東にある港に入れませんかね」
「やってみよう」
とダカールが言い、自ら操船してハヤマ島の南側から回り込んでみた。
 
(一般に船長が自ら操船するのは、概して危険な場所での運航)
 
「暑い」
「我慢してください。これは単に暑いのレベルです」、
 
語り手「ダカールはアトランティスをウペルニヴィクの南東の港に停泊させました。ここは島の中央に高い山があるため、北岸の熱気が直接は伝わってこないようです。それで雪が融けずに積もっていますが、気温はかなり高いようです」
 
銀色の作業服を着た作業班が、アルジャンに資材を乗せ、“手漕ぎ”でボートを動かして岸まで運ぶ。
 
「あの服は?」
「表面がアルミでできている。高熱の環境に耐えられる特別な服なんだよ」
「なぜエンジン使わずに手で漕ぐの?」
「燃料が爆発するからね」
「高温対策なのか」
「ついでにボートが銀色なのも。実はそのため」
「耐熱ボートだったのか!」
 

2時間ほど掛けて資材を降ろすと、最後はゼフィラン・ミレイユ・セルジュに3等航海士のセシル(津島啓太)が、作業班と同様の銀色の防護服を着てアルジャンに乗り込む。
 
「じゃ、エトワール、連絡よろしく」
と言って、ミレイユはダカールにキスする。
 
(観客の悲鳴)
 
語り手の元原マミが3秒だけ登場して
「フランスではキスは日本の握手程度の挨拶です」
と言った。
 

「分かりました。お気を付けて」
とダカールが言う。
 
語り手「ゼフィランやミレイユの乗ったアルジャンが作業班の漕ぎ手により岸に到着するとアトランティスは発進します。船はハヤマ島の南側を通って、バフィン湾に向かいます。多数の見物客が来ているナヴィク島の北岸を回り、西岸を眺めながら南下。ここからは全速力でニューファンドランド島のセントジョンズ(*92)(*93) に向かいました」
 
「アトランティスが出発したのは、8月18日の10時頃で、ニューファンドランドまで最高速度で走り、8月20日16:00頃、現地時間で同日12時半頃にセントジョンズに到着しました。グリーンランドからカナダに向かう場合、グリーンランドの南端付近までは追い風にもなるので、本来の最高速度以上の速度が出ています。そしてダカールは電信局に飛び込み、本国のルクール銀行副頭取宛に『黒鷲は降りた』という電文を打電してもらいました」
 
「アトランティスにとって運が良かったのは、18-19日は晴れていて、しかも夏なので高緯度地方では太陽は沈んでも薄明が残っています。月齢も21-22日で月が1日中出ていて沈まないので、比較的海が見やすかったこと、また風が強く波が高かったことでした。波があると氷山近くの波が白くなるので氷山に気付きやすいのです。この夜は氷山に備えるのに良い条件だったおかげで夜間でも結構な速度を出すことができました」
 
「タイタニックの事故は北緯41度なので太陽はしっかり沈む上に、当時は月齢26日で闇夜に近い夜に起きています。しかも鏡面のように波の無い凪(なぎ)の海でした」
 

豪華な調度の部屋の椅子に座っている副頭取(演:脚本家の稲本亨!)が映る。電信文を見て呟く。
 
「やはりワシは降りたか」
 
それで副頭取は電話を取った。
 
ここの背景には常滑舞音が歌う『黒い鷲(l'aigle noir)』(*91)が流れる。歌詞は日本語に訳してある。舞音は歌詞に合わせて、ルビーの指輪とブルーダイヤ(本物!)の指輪を着けている。また“黄金の流星”にちなんで、全身金色の衣裳を着けていた。
 
語り手「この電文は「天体は地上に落ちた。売れ」という意味で、これを受取ったルクール銀行では、金鉱株を売れるだけ売りまくることになります。ちなみに天体が海に落ちてしまった場合は「白鴎は遊ぶ」という電文を打つことになっていました。その場合は金鉱株をひたすら買うことになっていました」
 
(*91) 『黒い鷲(l'aigle noir レーグル・ノワール)』はバルバラが1970年に出した曲で世界的な大ヒットになった。彼女のお父さんのことを歌った歌では?と言われる。ミレド・ミファソソソレレ、ファ↓ラレ・ファミレ・ラミミ、といった感じの単純なパターンのメロディーが繰り返され、わりと中毒性のある曲。
 
バルバラ(Barbara, 1930-1997) はフランスのシャンソン歌手。類似名のロシアのエスノ・ポップス歌手バルバラ(Варвара 1973-)とは別人。
 
舞音は日本語版では日本語訳詞で歌ったが、フランス語版、英語版、ドイツ語版も自ら歌っており、特にフランス語版では原歌詞で歌った。千里が各言語版を模範歌唱したので、舞音はそれを音で覚えて歌唱した。このあたりは舞音の記憶力の良さが出ている。
 

(*92) 原作では、単に「電信が打てる所まで」と書いてあるが、行ったのはアメリカのニューファンドランド(1500海里)だと思う。ヨーロッパのアイスランド(1700海里)・アイルランド(2200海里)はもっと遠い。遠回りに見えるアメリカ大陸の方が情報伝達時間としては早くなるのである。またアイスランドに行くには氷山が多いので全速力航行は難しいという問題もある。
 
大西洋横断海底ケーブルは幾度もの失敗の末、1866年に敷設に成功している。ドーバーの海底ケーブルは1850年にできていて、それを背景に1851年ロイター通信社が設立された。アイスランドは1906年にはヨーロッパ本土との間に通信ケーブルが敷設された(GN社)ことが確認できたが、グリーンランドにいつ海底ケーブルが来たかは分からなかった。1960年に1本通っているのは分かった(敷設会社不明)がそれ以前が分からない(これが最初だったりして?)。
 
しかし海底ケーブルを待たなくても1910年代前半には世界的な通信網が“無線”により成立していたはずである。無線通信の父ともいうべきマルコーニの無線会社が1907年10月にアイルランドとニューファンドランドに基地局を作って営業開始している。この会社は初期の段階ではかなり苦労しているのだが、1912年のタイタニックの事故で、マルコーニ社の無線システムにより、SOS信号が打電され続け、これに応じて多数の船が救援に駆け付けて、710名もの救出を成し遂げている。これによって無線の有用性が広く認識され、無線普及のきっかけになった。
 
ヴェルヌ父は、この物語を執筆時期の10-20年後に想定していたふしもあるが、無線というものが広まったので、この物語は1912年以降に設定したら成り立たなかったのである。
 

(*93) とても紛らわしいのだが、ニューファンドランドのラブラドール州都はセントジョンズ(St.John's) で、近くのニューブランズウィック州にある都市はセントジョン(St.John) である。フランス語ではどちらもサンジャン (Saint-Jean) となるのでニューファンドランドの方は Saint-Jean de Terre-Neuve という。Terre-Neuve (テール・ヌーヴ)はニューファンドランドのフランス語名である。
 
なお“ニューファンドランド”は Newfoundland と書くが読み方は“ニューファウンドランド”ではなく“ニューファンドランド”である。"ou"の所はアクセントが無いので“曖昧なア”(ə)の音になる。
 

語り手「一方、島に上陸したゼフィランたちと作業班は、港に仮の小屋を建て、気温が下がるのを待ちました。周囲は雪だらけなのに空気は熱いのです。小屋は時間が無いので小さなものを建てており、中は超密集していますが、屋外にいるのは危険なのでやむを得ません。作業員たちが周囲にある雪を持って来て小屋の中央に積むと少しは涼しい気がしました。作業員たちは暇なのでバックギャモンやリバーシ(*94) にトランプゲームなどをしていました」
 
「グリーンランドは太陽が昇っていても沈んでいてもあまり変わらない感じなので、アトランティス船内同様、ここはグリニッジ時間で動いています(*95). 夕方?18時には夕食を取って寝ることにしました。諸事情?でミレイユ(アクア)、ゼフィラン(アクア)、セルジュ(七浜宇菜)は分離することにします。広さ5m2(3畳)ほどの簡易な中2階を作り、そこにその3人が寝て(*96)、残りの男性たちは床に寝ましたが、朝にはかなり混沌としたようです」
 
「朝起きた時、セシルとヴァンサンが女の服を着ていたのは、ミレイユたちは気にしないことにしました」
 
カメラは女装のセシルは映すが、ヴァンサンは映さない。これは映すのは監督の美意識が許さないためである!(結局女装のさせられ損)宇菜まで顔をしかめていた。
 

(*94) リバーシは1883年(明治16年)にイギリスのルイス・ウォーターマンが考案した。日本にも輸入されて“源平碁”の名前で販売されている。“オセロ”は第二次世界大戦後に、日本国内の玩具メーカーが、このゲームに新たな名前を付けて発売したものである。“オセロ”という名前は日本のみで通用する。
 

(*95) 1908年8月18-19日のこの土地の日出・日没の時間は下記(太陽の沈み方がとても浅いので、10分程度ずれている可能性はある)。時刻はグリニッジ時刻(GMT).
 
8/18 6:05 25:24
8/19 6:13 25:17
 
月は多分8月16日に登った後、26日まで沈まなかったと思う。上手い具合にアトランティスの往復の間、ずっと出ていた。
 
シュナクたちが、落下地点を見に行こうとして島から3kmほどの地点で引き返したのは現地時間の10時= GMT:13時頃で、その時点での隕石本体の温度は3700℃程度、3km離れた地点の気温は100℃くらいである。
 
ミレイユたちが上陸した時(8/18 10:00 GMT)は、隕石温度はまだ4600℃ほどで5km地点の気温は120℃くらいになるが、山陰になる部分で、しかも風上になる。それで実際の気温はせいぜい40℃くらいなので上陸が可能だった。シュナクたちは“隕石を確認しようと”何も遮るものが無い海上を風下から近付いている。更にフロックコートや軍服など“黒い”服を着ていた。
 

(*96) この3人を分けるのは当然、と日本の多くの観覧者の声。「貞操の危機を感じる」と言ったのは、きっとセシル役の津島啓太くん。宇菜が「津島君、こちらで寝る?」と声を掛けたが「いや、いい」と言っていた。さすがに女の子たちと寝るのはまずい、と彼は“この日は”思った。前門の虎・後門の狼?彼は『少年探偵団』でも数回女装させられているが、美形なので、これが撮影じゃなかったらきっとレイプされてる!
 
そういう事情で、小屋の移転後のシーンでは、彼は男性作業員たちとは離れてゼフィランやミレイユたちと一緒に過ごすようにシナリオが変更された。でないと彼の“安全”を保証できない!
 
ちなみに小屋のセットは前面の壁が簡単に取り外せるようになっていて、小屋の外での撮影、内部の撮影で使い分ける。
 
なお“セシル”という名前は、Cecil と書くと男性名、Cecile と書くと女性名だが、たまに Cecil と書く女性も居る。
 

語り手「翌8月19日、ゼフィランの温度低下予測では12時頃になったら2kmくらいまでは近寄れるかも、ということだったのですが、朝5時頃偵察に行ってきた作業班のメンバーが『防護服着てれば何とかなる気がする』と言うので、作業を開始します」
 
「気温自体はだいぶ下がっていますし、島の東岸は風上なので、もうエンジンを使ってもいいだろうということで、アルジャンにまずは資材を少しずつ乗せて島の北東に運びました。これに3時間ほど掛かりましたが、運搬と同時に現地で小屋の建築を始めます。最初の便に3等航海士のセシルとゼフィランが乗って現地に行き、まだ見えている金星などの明るい星を頼りに、土地の境界線を確定させます」
 
「土地の形が全く変わっている」
とセシル(津島啓太)。
「山がきれいに無くなってるね」
とゼフィラン(アクア)。
「海岸自体が後退してません?」
「海岸付近の土地も全部吹き飛んだんだろうね」
 
「恐ろしいパワーだ。こんなのが都会に落ちたら数千人死にますよね?」
「数万人だろうね」
「ひゃー」
「だから人間が行ける範囲で、できるだけ人の住んでない場所に落とすことにしたんだよ」
「なるほどー」
 

※華麗なるBefore/After
 
↓使用前

↓使用後

 
語り手「実は航海士のセシルが残ったのは正確に緯度を計測するるためでした(*97). 彼らはここに取り敢えず100mおきに20本ほどの杭(くい)を打ちました。西側は隕石にかなり近づくのですが、隕石の衝突のためにできた丘の陰になるので、何とか測量と杭打ちができました」
 
「やはり土地が半分くらい消滅してる」
「隕石は元の土地の北岸から700mくらいの所で停まったんだけど、それより北側の土地が消滅して、結果的に西側にも北側にもぎりぎりの場所になってしまった。ミレイユが怒りそうだ」
 
「どうしても隕石の落下経路の下に衝撃が来ますよね」
「そうそう。分かってるじゃん。隕石の前方への衝撃は小さいんだよ」
「音よりも本体のほうが速いですからね」
 
「そうなんだよ。だから今の自動車はせいぜい時速100kmくらいだけど、多分50年後くらいには時速1000kmを越える自動車ができる。その時、我々は音の壁を越えるための新たな技術を考えないと行けないだろうね」
「時速1000kmの自動車かぁ。ぼくが生きてる内に乗れるかな」
「70-80歳まで生きると多分乗れる」
 
語り手「実際にはこの物語の67年後にコンコルドが就航して、音の壁を越える旅行が実現しました。ゼフィランは90歳、セシルは86歳でしたが、2人ともこの飛行機に乗りました。ゼフィランは時速1000kmの自動車を想像しましたが、実際にはそれは飛行機で実現しました」
 
「しかし暑い」
「風上でこれだからね〜」
 

(*97) 3等航海士のセシルが不在でも、船は船長、1等航海士(シャルル)、2等航海士(レオン)の3人で動かせる。基本的に24時間動かす船は3人の航海士が4時間ずつ交替で動かす(但し“ドッグタイム”を入れて毎日時間をずらしていく)ので、多くの大型船では船長以外に3人の航海士が乗務することになっている。しかしアトランティスは微妙なサイズの船なので、船長自らブリッジに立つことで、船長以外には2人航海士があれば足りる。
 
しかしアトランティスは“後述”の理由により、通常の運行では船長以外に航海士が3人必要である。
 
ちなみに物凄く大きな外洋客船などでは、船長、航海士長(chjief mate), 1等航海士(first mate), 2等航海士(second mate), 3等航海士(third mate) と5人体制の船もある。また見習いの航海士(4等航海士)が乗って補助的な作業をする船もある。そういう巨大船以外の多くの船では chief mate, first mate は同義語である。同じランクの航海士が複数いる場合は、 senior, junior と呼び分ける。
 
24時間走行する船ではだいたいクルーを3組に分けて交代制で作業をおこなう。アトランティスでは下記のようなメンバーで1チームを組んでいる。
 
航海士・操舵手・見張り、甲板手、機関手、機関員
 
甲板手のひとりが甲板長(ボースン bosun)、機関手のひとりが機関長。機関員というのは要するに火夫(fireman):石炭をボイラーに放り込む仕事!
 
つまり6人×3組で船を動かしている。中型以下の船では航海士が見張り役(watch officer) を兼任することが多いが、ソナー航法の無い時代、ミレイユは航海士と見張り役の2人で氷山の監視をさせていた。それで、氷だらけの海を夜間でもかなりの速度で航行することができた。
 
このほかに、パーサーが2名、事務員1名、船医1名、司厨長と司厨手(料理人)2名が乗務している。更に今回は作業班を12名連れてきていたので、ミレイユとゼフィランまで入れると、 2 + 6×3 + 6 + 12 = 38名も乗っていた。
 

語り手「土地の境界が確定したところで、隕石落下地点からできるだけ遠い、土地の東岸近くに小屋を建てることにしました。この小屋は壁をしっかり丸太を組んで作り、内側にアルミシートのカーテンを取り付けました。これで隕石からの放射熱を防ぎます。小屋が完成した所でミレイユとセルジュを連れて来ました」
 
「土地の形が全然変わってる」
とミレイユ。
 
「ここにあった小さな山はまるごと吹き飛んだみたいだよ」
とゼフィラン。
 
「なんで隕石は北の海岸からもギリギリなのよ?」
「隕石が“停止”した地点より北側の土地を全て吹き飛ばしたんだよ」
「きゃー」
「まあ、前の小屋の中にいたら、ぼくたちも“黒い雨”になってるね」
 
「ああ怖い。でもこれ転落しないよね?」
「まだ高温で液体化してて流動性があるけど、岩にめり込む形で停まったから岩のポットの中にあるような状態。あの辺の土地が崩れない限りは大丈夫と思う」
 
(「偉大なるバーナムの森がダシンシナンの丘まで動いてこない限り、お前は倒されない」とマクベスは言われた!)
 

語り手「ミレイユたちがこちらに移動してきた後、作業班は港に仮に作った小屋を解体し、こちらに持って来て、材木は取り敢えず小屋の西側に積み上げました。また100mおきに打った杭の間に補間する杭を打ち、杭の間隔を5mおきにしました。そして杭の間にロープを渡し、フェンス状にします」
 
「100mの間に5mおきに杭を打つなら、植木算で杭は19本必要なはずですが、実際には20本になったり18本になったりしたのは愛嬌!」
 
「フェンスができたら、予め印刷して用意していた《私有地に付き立入禁止》という紙をたくさん貼っていきました」
 
「この日シュナクたちは島から3kmほどの海上で引き返しています」
 
「ゼフィランたちのほうは、フェンス作りまで終わったのが19日の18時頃でした。それでこの日は昨日同様、壁に横板を取り付けて中2階を作り、ミレイユたちはそこに寝て、作業員たちは床で寝ました。セシルは最初は床で寝ていたものの夜中に「ジルダルさん助けて下さい」と言って中2階に来たので、ゼフィランの隣で朝まで寝ました」
 

語り手「翌8月20日は今度はこの小屋の北側にもうひとつ小屋を建てます。これは港に仮に建てた小屋を再現する形になりました。ミレイユは昨日建てた小屋に《エレクトラ》、今日建てた小屋に《マイア》と命名しました」
 
「プレアデス姉妹か」(*99)
「そそ。アトラスの娘たちだよね」
 
ここでバックには常滑舞音 with スイスイが歌う『昴』(谷村新司のヒット曲)が流れる。今回の映画の挿入歌は懐メロだらけである。短時間で製作したので、楽曲を充分準備できなかったのもある。最近の曲は許諾を取るのが大変だが、昔の歌は比較的許諾を取りやすい。古屋あらたが「目を閉じたら何も見えない気がします」と言って首を傾げていた!
 

「だけど先に建てたほうが妹のエレクトラなんだ?」
「マイアは先に18日に港に建ててるから」
「なるほどー」
 
語り手「それでマイアを作業員たちが、エレクトラをゼフィランたちが使うことにしました」
 
「セシル、どちらで寝る?」
とゼフィラン(アクア)が訊く。
「あのぉ、ジルダル様たちと一緒でいいですか?」
とセシル(津島啓太)。
 
「そのほうがいいよ。あんた、私たちの目が無いところであいつらと一緒になったら確実にまわされちゃうよ」
とセルジュ(七浜宇菜)も言う。
 
「ま、回すって何を回すんですか?」
とセシルは物凄く不安そう!
 
もうこのあたりは、演技とリアルが混線している!
 
語り手「そういう訳でこの日からは、セシルはミレイユたちと一緒の小屋で寝ることにしました」
 
「エレクトラの床の一部は掘り下げられていて、そこでミレイユとセルジュ、ゼフィランとセシルが2つの区間に各々寝るようにします(*98). 地下室を作ったのは、隕石落下前の小屋では寒さ対策でしたが、この小屋では逆に暑さ対策です」
 
「この日シュナクたちは島の南東の港に上陸しましたが、暑さに阻まれて北岸までは到達できませんでした。彼らはシュナクたちも兵士たちも黒っぽい服を着ているので、どうしても熱くなりやすいのです」
 

(*98) ミレイユとセルジュ、ゼフィランとセシルを分離したのは、物語的には性別で分けたものだが、本当はアクアがミレイユとゼフィランの2人を演じているので撮影の都合という方が大きい。合成しやすいのである。でもセシル役の津島君は「女の子の傍で横になるのは緊張する」と言っていた!
 
セルジュの性別については後述。
 

(*99) プレアデス星団(すばる)に名を残すプレアデス7姉妹は、アトラスとプレーイオネーの間の子供たち。“アトランティス”の語源がアトラスなのでそこからの発想でミレイユは命名したものと思われる。
 
ここに出てくるエレクトラ(Elektra) は、“エレクトラ・コンプレックス”のエレクトラとは同名別人。あちらはミケーネ王アガメムノーンと、王妃のクリュタイムネーストラーの間の娘。父を殺した母を復讐で殺害する(白雪姫の原形のひとつ、とよく言われる)。
 
こちらのエレクトラは、ゼウスとの間にイーアシオーンとダルダノスを産んでいる。ダルダノスはトロイア王家の祖である。イーアシオーンはデーメーテルと愛し合って、豊穣の神プルートスを設けた。プルートスは冥界の女王ペルセフォネと異父姉弟ということになる(双方の父親が親子!)。
 

字幕:8月21日(金).
 
語り手「ミレイユたちは作業が一段落したので、取り敢えず隕石が冷えるのを待つことにします。ゼフィランの予測では、あの隕石が触(さわ)れるくらいまで冷えるのは恐らく9月中旬くらいだろうということでした」
 
「私既に1ヶ月以上留守にしてるから、あまり長く留守を続ける訳にもいかない。アトランティスが戻って来たら、私はいったん帰ろうかな」
とミレイユが言う。
 
「それがいいかもね。その後でこの金(きん)を運べる輸送船を持ってきてよ」
「確かにあれはちょいと乗せて運べるもんじゃないからね。かなり大きな輸送船が必要だ」
とミレイユ。
 
「でもゼフ、あの金(きん)を持ち帰った後、どうするの?」
「そうだなあ。別にお金には困ってないし、あれを飾れるようなサイズの家を買って庭に置こうかな。それで博物館みたいにして、みんなに見学してもらう」
「いいと思うよー」
とミレイユも言う。
 
「あれを置くなら、7000-8000m2くらいの土地が必要かな」
「そんなものかもね」
 
ミレイユはメモしていた!!
 

そんなことを話していたら外で何やら多数の人の声がする。
 
「なんだろう?」
とゼフィランは小さな声で言うと、小屋のドアを開けて外に出てみる。すると何十人もの人が勝手にフェンスを越えて土地内に侵入し、わいわい騒いでいるのを見る。ゼフィランは思わず言った。
 
「君たち、何してるんだ?ここは私の私有地だぞ」
 
するとこちらに歩いて来ていた群衆はいったん停まる。そして集団の後ろの方に居た、フロックコートの男性が先頭に出て来て言った。
 
「こんにちは、この土地の所有者さんですか?私はこの国の資源大臣でエヴァルト・デ・シュナクと申します」
 
「ゼフィラン・ジルダルです。しかし一体何の騒ぎです?私有地に付き立入禁止という表示が見えませんでしたか?」
 
「確かにそれは見たのですが、緊急事態ですので、入らせて頂きました」
と言いながらも、少し後ろめたい。自分や兵士は、いいとして見物人の侵入までは説明できない。
 

「緊急事態ってどんな?」
「ワストン大隕石が落ちたので」
「それは知ってます。でも隕石落下は別に緊急事態でもないですよ」
「それが金(きん)でできていても?」
「金(きん)だろうと何だろうと、ただの隕石です」
 
「しかし私は職務を果たさなければなりません」
「どういう職務です?」
「この隕石はグリーンランドの国土に落ちたので、政府の管理下に置き、保護する必要があります」
 
「それはおかしい。この隕石はグリーンランドの国有地に落ちたのではなく、私の私有地に落ちたのです。それを国が勝手に管理下に置くいわれはないはずです」
 
「しかし・・・天体は誰の物でもないので」
「いえ。私のものです。私が実際に天体を動かして自分の土地に落ちるようにしました。このことは、天体の所有権に関する国際会議にもお伝えしていたのですけどね」
「そうですか?私はその会議に出席していましたが、そんな話は聞いていませんが」
 
語り手「ゼフィランは会議の議長宛に打った電報のことを言っているのですが、シュナクは、その時、他の出席者と話していたので、この電報のことを認識していません」(*100)
 

(*100) 原作はシュナクが耳が遠かったためにこの件を聞き漏らしたとあるが、ここで潮力の弱いことを理由にするのは妥当ではないと考え、別の理由にした。だいたい議長の声が聞こえないのなら、会議に出席していても意味が無い。
 

「あなた、まさか何億もの金(きん)を独占するつもりですか?」
「億だろうと兆だろうと京だろうと関係無いと思いますが。私の土地にあるものは私のものです」
「だって人類が持っている金(きん)の何百倍もの金(きん)なんですよ。そんな状態にあなたが耐えられる訳が無い」
 
語り手「シュナク自身も他国を無視してグリーンランドが独占しようとしていることを棚に上げています。そして、実際、グリーンランドが独占できないものであることをシュナクは数日後に思い知ることになります」
 
語り手「ゼフィラン・ジルダルとシュナク大臣の議論は平行線を辿りますが、シュナクは、取り敢えず所有権問題は棚上げにして、隕石を見せて欲しいと申し入れます。しかしゼフィランがそれに答える前に群衆は動き出してしまいました」
 

群衆はほぼゼフィランを無視して隕石に近づこうとする。
 
ゼフィランはその群衆を憮然として見ていた。
 
しかし彼らは、小屋のある付近から少し先でみんな停まってしまう。熱くてそれ以上近寄れないのである。フォーサイスとハデルスンが、かなり無理して近づこうとしたが、フランシスとジェニーに引き戻されることになる。
 
「さすがにこれはもう少し冷えるまではどうにもならん」
とシュナクも諦めざるを得なかった。
 
フランシスは隕石を見て呟いた。
「あと少しずれて海に落ちれば良かったのに」
 
アルケイディアがセスに訊く。
「あれって何時間かしたら冷えると思う?」
セスは答えた。
「時(じ)じゃなくて日(にち)の問題だろうね。40-50日掛かる気がする」
 
「じゃ冷えて政府が運び出す所までは見られないか」
「それまで居たら、バフィン湾が凍って春まで帰れなくなるね」
 
(↑誰もゼフィランのものになるとは思っていない!)
 

語り手「名残惜しそうに遠くから隕石を見ている人たちはいましたが、ここにずっといると食事もできないので、いったん戻ることにします。それで全員、港まで戻り、フリゲート艦に乗り込んでナヴィク島に戻りました。シュナクは兵士たちに命じて、ウペルニヴィクの東岸の道で崖崩れしている所に橋を架けるよう言いました。これはその日の内に実行されました」
 
語り手「また、ここに来ている他国の何人かの政治家がシュナク大臣に、隕石が地上に落下したことを世界に報せるべきだと申し入れました。それで話し合った結果、来ている客船の中で最も小さなアンドロメダ号の乗客に一時的に他の船に移ってもらい、アンドロメダ号が世界に向けて電信を打つため、ニューファンドランド島まで行くことになりました」
 
「乗客たちは夕方までに移動。グリーンランド時間の20時(= 8/21 23:00 GMT 月齢24) にアンドロメダ号は出発しました。そして同船は90時間ほどの航海を経て8月25日(月齢28)の夕方、ニューファンドランド島のセントジョンズに到着します。そして南北アメリカとヨーロッパ各地、日本や中国、オーストラリアなどにも打電をしました。これで翌26日の全世界の市場で金鉱株は大暴落します。実際問題として買う人が居ないので、気配値(けはいね)だけで、多くの取引が成立しませんでした。ルクール銀行はここで先に空売りしていた株を買い戻して莫大な利益を確定させました」
 
「アトランティス号が隕石地上落下をルクール銀行副頭取に報せたのは、アンドロメダが全世界に打電する5日も前の8/20 16:00頃でした。この差は、両者の速力差もありましたし、アンドロメダの航行は月齢が24-27日で月自体は1日中出ているものの月が細くなって月明かりは弱くなるのもあります」
 
「また大きな船は夜間無理ができませんでした。アトランティスのような小さな船は小回りが利き、回避能力も高くなります。またここに来ている多くの船が蒸気船(SS) だったのに対して、アトランティスは最新鋭のタービン船で、エンジンの停止や反転が比較的高速にできるのもありました」
 
「しかし何よりもミレイユたちは落下してすぐに天体望遠鏡を使った観察で隕石が確かに地上に落ちたことを確認できたのが決定的な差になりました」
 

語り手「翌8月22日から、観光船は全てウペルニヴィク南東の港沖合に移動しました。そして道が細いので、観光船同士で話し合い、交替で客を上陸させ、隕石見物に行かせました。しかしみんな隕石が熱いため、一定距離よりは近寄れず、誰も隕石のそばまで行くことはできませんでした」
 
(でも彼らはわざわざグリーンランドまで来た価値が充分あったと思う)
 
人々が我先を争うように島の道を歩いて金の隕石を見に行く映像。
 
群衆を演じたのは北海道の複数のテレビ局の社員さんたちである。“暑い場所”という設定なので、軽装をさせることができ、20世紀初頭の服装でなく、男性はワイシャツにズボン、女性もブラウスにズボンという服装で済んだ。
 
ショートヘアーの女性にはロングのウィッグをつけてもらった。さすがに20世紀初頭にショートヘアーはあり得ない。女性比率が少ないので、男性でも希望者はロングのウィッグを付けてブラウスを着て下さいと言ったら、自薦・他薦!で20人ほどの男性が女性の服装をしてくれた。バストパッドも入れ、ついでに眉毛を細くカットして、口紅まで塗っていた!なんか楽しそうにしていた!
 
彼らはお弁当をもらっただけでギャラはもらえなかったらしい!!テレビ局はあまり予算が無いようだ。でもアクア・宇菜と一緒に記念写真に写り喜んでいた!
 

この映像のバックに常滑舞音 with スイスイが歌う『愛しのクレメンタイン』が流れる。ただし歌詞が少し変更されている。
 
通常の歌詞:
In a cavern, in a canyon, excavating for a mine,
Dwelt a miner, forty-niner, and his daughter Clementine.
 
Oh my darling, oh my darling, oh my darling, Clementine.
You are lost and gone forever, dreadful sorry, Clementine.
 
(大意)
洞窟の中に、谷間の奥に、鉱脈を探して
住み込んでる鉱山掘りの49年者、そして彼の娘のクレメンタイン
愛しの、愛しの、愛しのクレメンタイン
君は亡くなって永遠に居なくなった。なんて可哀想なクレメンタイン。
 
最後は全然可哀想でないように明るく歌うのが流儀である!
 
歌詞の中でforty-ninerとはアメリカンフットボールのチーム名にもなっているが、1849年のゴールドラッシュで西部にやってきた人たちのことてある。
 
この映画では、歌詞をこのように変えている。
In a cavern, in a canyon, excavating for a mine,
Dwelt a miner, nineteen eighter, and his pretty toy Golden ball.
 
Oh my darling, oh my darling, oh my darling, Golden ball.
You are fallen and never go sky, dreadful sorry, Golden ball.
 
"nineteen eighter"は1908年者、ということで1908年にこの島にやってきて我先にと金の隕石へと殺到する人たちを歌っている。舞音が“Dwelt a miner”と歌う所で、ゼフィランとミレイユの映像が流れている。最後の行は「君は落ちてしまって2度と天には行けない。なんて可哀想な金の玉」。
 

語り手「自治大臣は警備兵50人の内48人をウペルニヴィクに移動させ、ゼフィランの土地入口の所に3分の1ずつ交替で立たせました。見物客が多いので、不測の事態に備えるためです。また南東の港近くに3日がかりで営舎を建設し、見張りに立つ時以外はそこで休憩させました」
 
「人数が多いので隕石を見に行く順番は2日に1度くらいしか回ってきません。フォーサイスとハデルスンは順番が回ってくる度に見に行きました」
 
「毎日朝から晩まで大量の見物客が“自分の土地”に勝手に侵入して黄金の隕石を見て行くので、ゼフィランは極めて不機嫌な顔をしていてミレイユにグチを言っていました。でもミレイユは『見るくらいいいじゃん。あんたも博物館にして見学させようかとか言ってたじゃん』と言って笑っていました。むろんミレイユは、こうなることを充分想像していました」
 

セス・スタンフォート(七浜宇菜)はモジーク号のチーフパーサーに尋ねてみた。
「うちの妹が、偶然にも別の船でこちらに来てるんですよ。もしこの船に空きがあったら、1室確保できませんか?できたら1等船室で」
 
「1等は満室だったんですが、実はこの船に乗ってきたグリーンランドのシュナク大臣は帰りの便にはお乗りにならないので、その分1等船室が1部屋空いているんですよ」
とチーフパーサー(演:河村貞治監督!)。
 
「その部屋をお願いします」
「ミスター・スタンフォートのお部屋とは離れていますが、よろしいですか?」
「問題ありません」
 
それでアルケイディア(アクア)がオレゴンから、こちらに移動して来るのが映った。
 
アルケイディアは乗船者名簿には“アルケイディア・スタンフォート”と署名し、住所もセスの自宅住所をスラスラと書いた。
 

語り手「ミレイユたちのアトランティス号は8月23日に戻って来て、島の北東岸に停泊しました。セシルは船に戻りましたが、作業員たちはまだマイアに置いておきました。彼らも狭い船室より外の小屋の方が気楽だったようです。またミレイユは、何かの場合の護衛としても考えていました」
 

ゼフィランは叫んだ。
「うるさーい!!!」
 
それは8月26日の夜中だった。
 
「確かにうるさいね」
とミレイユ。
 
「昼も夜も無く見物客が来ますからね」
とセルジュ。
 
「私たち、ガイドさんと思われてるよね」
「なんか隕石についてあれこれ訊かれるし」
「トイレ貸してという客が多いからとうとうトイレ小屋まで建ててあげたし」
「まあ、その辺でやられると迷惑だし」
「女性客はさすがに、その辺ではできないし」
「私たちも親切ですよね」
などと、ミレイユとセルジュは会話している。
 
なお見物客用のトイレ小屋は、セフィランたちの小屋の西側に建てている。トイレは住居の風下に置かないと臭くてたまらない。
 
「うるさくて眠れない」
とゼフィラン。
 
「それでイライラしてるのね」
「ぼくが怒ってるのはそんな問題じゃない」
 

セルジュが言った。
「この小屋をもっと隕石の近くに移動したらどうでしょう?見物客が来られないほどの熱さの所に」
「それって私たちまで熱くない?」
「この小屋なら何とかなる気がします。断熱構造だし」
「相談してみよう」
 
それでミレイユが作業班のリーダー(新田金鯱)と話し合う。
 
「ゼフ。今の段階で何mの所まで近寄れる?」
とミレイユは尋ねた。
 
「待って」
 
ゼフィランはセシルを船から呼んで、2人で一緒に銀色の防護服を着て温度計を持ち、隕石に近づける所まで近づいた。三角法により距離を測る。
 
小屋に戻る。
 
「熱かったぁ」
「どうだった?」
「観光客は1kmくらいの所までしか近づいてないみたいだけど、ぼくたちは防護服を着ていたから650mまで近づけた。明日の昼くらいまで待てば、防護服を着ていたら500mまでいけると思う」
 
「でしたら明日の朝くらいに移築しましょう。この土地の時間で3時から6時、私たちの時計で6時から9時くらいってわりと見物客が少ないから、その時間帯を使いましょう」
と作業班リーダーは言った。
 
「じゃよろしく」
 
 
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【黄金の流星】(5)