【夏の日の想い出・日日是好日】(4)

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それでティップは木馬を川の水の中に入れ、ティップはそれに乗ります。そして南瓜男は木馬の尻尾を掴んで泳ぎました。一行は徐々に川を向こうの方へ進んでいきます。ただし川の流れがあるので結構流されます。しかし頑張って泳いでいる内に何とか向こう岸に辿り着くことが出来ました。
 
「渡れた!」
「でもかなり流されましたね」
「煉瓦の道に戻ろう」
 
それで一行は頑張って川岸を遡り、元の道に復帰します。
 
「でもだいぶ濡れちゃったね」
「歩いてる内に乾きますよ」
「そうだね」
と言って、ティップは南瓜男を木馬に乗せてやります。そして自分は馬と一緒に走ろうと思いました。木馬に乗ってるよりその方が早く乾く気がしました。それでそのまま馬をスタートさせます。
 
ところが馬の速度があまりに速く、南瓜男を乗せた木馬は先に行ってしまい、ティップは置いてけぼりになってしまいました。
 
走り疲れたティップは座り込んでしまいましたが、やがて気を取り直して道を歩き始めました。
「この道はエメラルドシティの門の所で終わってるはず。そこで合流できるだろう」
とティップは思ったのです。
 

さてジャックの方はティップが付いてきてないというのには全く気付かず、エメラルドシティの門まで来てしまいました。そこで馬を停め、下馬した所でやっとティップが居ないことに気付きます。
「困ったなあ」
と思っていたら門番(黒山明)が声を掛けます。
 
「私はエメラルドシティの門番です。お名前と来訪の趣旨をお聞きしたい」
「えっと私は南瓜頭のジャックと申しますが、来訪の趣旨って何だろう?」
「用事が分からないのですか!?」
「実は主人とバラバラになってしまいました。主人が来れば用事は分かるのですが」
「なるほど取り敢えず中にご案内しますがこのサングラスを掛けてください」
と言って緑色のサングラスを渡します。南瓜男は頑張ってそのサングラスを掛けました。
 
それで中に入ると緑色のガイド:ソフィー・グリーンウッド(宮里夢美 13)(*21) がジャックと木馬を案内します。
 
それでジャックはかかし王(倉橋礼次郎 33)に会いましたが、かかしと南瓜の対話は何だか訳の分からないものになりました、でも取り敢えず2人は仲良くなりました。そして2人で輪投げをして遊び始めました。
 

(*21) 昨年の『オズの魔法使い』では小牧が演じた役である。小牧とできるだけ近い雰囲気の男子中学生で小牧より下の学年ということで彼が選ばれた。彼は膝丈スカートとタイツ(ガーターベルト留め)を履いている。昨年小牧はスカートを拒否してショートパンツを穿いたが、宮里は何も考えずに渡されたスカートを穿いた。
 
「へー。スカートなんですか」
「昔は男性もスカートを穿いたんだよ」
「そうなんですか」
「男性はショートスカート、女性はロングスカート」
「今とまるで逆ですね。ロングスカートの男の子よく見るもん」
「昔は女性が足を見せるなんてとんでもないという考えかた」
「なるほどー。だったらこれはショートで男性用なんですね」
「もちろんだよ」
 
この物語は放送順としては『星の銀貨』の後なので、視聴者の大半は彼が一応男性であること知っている。でもスカートを穿いているので
「ああ、今回は女の子役だったのね」
「男の子役をする必要無いよね」
などと言っていた。
 

一方のティップは歩いてエメラルドシティへの道を歩いていました。やがて彼はひとりの少女(白鳥リズム)に会いました。
 
少女は制服のようなものを着ています。エメラルドグリーンのブラウスにスカートは4色で前面が青、左が黄色、背面が赤で右が紫です。スカートは女性にしては珍しい膝丈で、その下に緑色のタイツを履いています。
またブラウスを留めるボタンは、上から青・黄・赤・紫です。
 
ティップはつい彼女のほうを眺めていました(ほぼ変質者)。少女は座って食事をしているようでした。片手にサンドイッチ、片手に固ゆで卵を持って食べています。やがて少女は立ち上がりました。そしてティップを見ると言いました。
 
「ねえ、この荷物を持ってくれない?そしたら中のサンドイッチもひとつあげるから」
「うん」
 
それでティップは彼女の荷物を持ち、サンドイッチもひとつもらい、歩きながら食べます。しかし彼女の歩く速度が速いので付いていくのが大変でした。それでも頑張って付いていきながらサンドイッチを完食します。
 

「サンドイッチありがとう。名前を訊いてもいい?」
とティップは小走りに歩きながら聞きます。
 
「私はジンジャー将軍です」
と彼女は答えました。
 
「へー。女の子で将軍って凄いね。どんな仕事をしてるの」
「今度の戦争で革命軍を率います」
「今度の?今戦争が起きてたなんて知らなかった」
「これから起きるのよ。知らなくて当然。計画は秘密の内に進めていたから。それに私たちは全員女性なの。だから動きは知られにくかった」
「確かに女性の動きはあまり注目されないかも」
 
「私たちは密かに連絡を取り合い、賛同者を募り、今日集結することにしていた。今日私たちはエメラルドシティに進軍し、かかしを玉座から引き摺り降ろす」
「なんで?」
「この国はずっと人間が治めていた。かかしが国王だなんてふざけてる」
「そんなことしようとしてもきっとみんな殺されるよ。都は国王直属の親衛隊が防衛しているはず」
「国軍は長い平和の時代が続いてだらけきっている。親衛隊長はあの長い髭(ひげ)を維持するためにその労力の大半を使っている。そんな調子だから親衛隊で真面目な人ほど辞めてしまっている。でもオズの魔法使いがエメラルドシティを支配していた時はみんなオズが怖いから従っていたけど、今は誰もかかしなど怖がっていない」
 
ティップはジンジャーが熱い口調で語るのを感心して聴いていました。
 
「あなたも革命軍に加わらない?」
「女の子だけで構成してるんじゃなかったの?」
「ティップちゃん可愛いから、女の子に変えてあげてもいいけど」
「女の子に変えられるの?」
「ちょっと男の子の印を切り落とせば。あれが無ければ女の子と同じ扱いでいいよ」
「10年考えさせてください」
 

やがてジンジャーとティップはエメラルドシティ近くの広場に至ります。そこには50-60人の女の子が集まっていました。(革命軍:信濃町ガールズ(*23))
 
全員制服を着ていますが4種類あるようです。スカートの前身頃が青の子、赤の子、黄色の子、紫の子がいて、ブラウスの第1ボタンもスカートの前身頃の色と同じです。どうも青の子は東の国から、赤の子は南の国から、黄色の子は西の国から、紫の子は北の国から来たようです。
 
「ジンジャー、その子は?」
とひとりの女子(川泉スピン)が訊きます。彼女はペッパー大佐といいました。
 
「大丈夫。行動には加わらないけど味方だから」
「だったら制服を着てもらおう」
「制服って?」
「ブラウスにスカートだよ。君、どちらの地方の出身?」
「北のギリキンです。でもスカートは勘弁して」
「なんで?ふだん何着てるのよ?」
「ぼく男の子ですー」
「嘘!?」
 
ということでティップはグリーンのブラウスに前身頃が紫のショートパンツ(*22)を穿かせられてしまいました。ブラウスの第1ボタンも紫です。
 
(視聴者の声「スカートでいいのに」)
 

(*22) スカートの中央を縫い合わせただけなので、キュロットスカートに見えるが気にしない。ちゃんと他の子と同じ緑色のタイツも履いている。なおこの時代にファスナーは無い。ファスナー付きのズボンが生まれたのは1940年。
 
(*23) 革命軍の役をわざわざ単価の高い信濃町ガールズで構成したのは何といっても秘密保持のためである。これが1人1日1万円程度で使える富士川32などだと撮影後にメンバーが「小牧ちゃんと『オズの虹の国』の撮影したんだよ」などとブログとかツイッターに書いてしまうような事故を防ぐのが難しい。わりと規律のしっかりした解決ゾローズでも鳥山局長は信用しきれなかった。
 
このドラマではたったひとりの軽率な行動が全てを台無しにしかねない。
 
それでプロ意識が高く絶対に守秘義務を守ってくれる信濃町ガールズ本部生を使ったのである。このドラマの成功の可否は最後のエピソードまでティップの“正体”を隠しておくことにある。ギャラは高かったが、おかげで実際小牧と一緒に何のドラマを制作したかについて一切の情報漏れが無かった。
 
なお原文では革命軍は100人と書いているが人数の都合で50-60人にした。また原文は revolt 反乱と書いているが、本人たちが自分で反乱と名乗るわけがないので革命(revolution)と超訳した。
 
原作ではエメラルド・シティに多数存在する宝石も奪うと言っているが、そうなると窃盗団にすぎないので、これはカットした。また美人だけで構成したと言っているのもカットした。原作はかなりの女性蔑視思想で書かれている。
 

それで革命軍は行進を始めました。出身地方別=制服の配色別に4列になって進軍します。ティップはみんなの荷物を積んだ荷車を牽いて後ろから付いていきました。この時ティップは革命軍のみんなが武器を何も持っていないことに気がつきます。武器も持たずにどうやって都を制圧するつもりなんだろう?とティップは疑問を持ちました。
 
やがて一行はエメラルドシティのゲートの所まで来ます。緑の門番(黒山明)が出て来ます。
 
「えー、皆さんのご用件は?」
「かかしの王を玉座から引き下ろしに来た。おとなしく私たちを通過させなさい」
「面白いことを言うね、君たち。良い子はおうちに帰ってお母さんの手伝いをしなさい(*24). 変なことをしようとすると怖いことになるよ」
 
「私たちは怖くないよ」
とジンジャーは言って1歩前に出ます。門番は本能的に怖くなり、緑の兵士を呼ぶためのベルを鳴らしました。しかし彼は女子の集団に取り囲まれ、拘束されて縛り上げられてしまいました。門の鍵も無防備に首から下げていたので奪われてしまいます。
 
(*24) 原文は milk the cows and bake the bread.乳を搾ってパンを焼きなさい。女性蔑視が酷すぎるので緩和して訳した。以下も女性蔑視の酷い箇所は緩和している。
 

それで一行は門を通りました。ティップもそれに続いて門を通ります。
 
「あれ〜?噂に聞いてたのと違う.全然緑じゃない」
とティップが疑問を言います。
 
「都の中ではみんな緑色のサングラスを掛けるからね。だから緑に見えるだけ」
とジンジャーが言います。
「そうだったのか」
 
向こうから長い髭を伸ばした緑の親衛隊長(山奥深夜 49)が駆けつけて来ます。
 
「止まれ!君たちは何だ?なぜサングラスを掛けてない?」
 
しかし女性兵士の一団は止まりません。
 
「止まらないと撃つぞ」
と言って長い銃を彼女たちに向けます。
 
銃口を向けられてさすがに止まる者もありますが、ジンジャーは止まりませんでした。銃口の真ん前まで行って言いました。
 
「私たちは何も武器を持っていませんよ。それでもあなたは私たちを撃ちますか?」
 
ジンジャーの堂々とした態度に親衛隊長は気合負けして銃口を下げました。
 
「悪かった。この銃は弾(たま)が入ってないんだ。暴発が怖いから」
 
それで親衛隊長はその銃を取り上げられ、縛り上げられてしまいました。
 
親衛隊長が降伏したので、他の兵士たち(リダンダンシー・リダンジョッシー)も何もしません。一部は逃げ出してしまいました。
 
それで革命軍はエメラルドシティを無血制圧したのです。
 

ティップは革命軍の一行とは離れ、南瓜男たちを探していました。宮殿の中庭に行ってみますと、かかし王と南瓜男が輪投げをして遊んでいます。
 
「お父さん!やっと会えた」
と南瓜男が言います。
「そちらは?」
とティップは訊きます。
「この国の王様ですよ」
 
「あなたが王様ですか?エメラルドシティは革命軍に制圧されましたよ。じきにこの王宮も制圧され国王も拘束されますよ」
 
「何?それはけしからん。親衛隊に言ってそいつらを止めさせなければ」
「親衛隊も全て降伏しましたけど」
「え〜?そんなぁ」
「革命軍はあなたを王位から引きずり降ろすのが目的です」
「王位など私はたまたま国王になっただけだし、王冠は重たくて疲れるし」
「国王をやめてもいいのなら、拘束される前に逃げたほうがいいと思うけど」
「逃げないとどうなる?」
「かかしさんの中身を取りだして敷物にしようなんて言ってたよ」
「いやだー!逃げる」
とかかしは言っています。どうもこの人は元々国王などする柄では無かったようだなとティップは思いました。きっとドロシーという大魔女が凄かっただけで部下は大したことなかったんだ。
 

ティップは木馬を連れてきました。そして革命軍の制服を脱いで元の服に着替えます。そして木馬にかかしを乗せ、南瓜男も乗せると自分も乗って一気に駈け抜けて王宮、そしてエメラルドシティを脱出しました。そしてそのまま木馬は掛けて、西の国まで行きました。そしてこの国の王様になっている錫の木こりにかくまってくれと頼んだのです。
 
木こり(森原准太 33)は
「王位を略奪するとは許せない。奪還すべきだ」
と主張しました。気弱になっていたかかし(倉橋礼次郎 33)もやはり勝手に王位を奪われるのは納得できないと思い直します。
 
取り敢えず一行は“メンテ”をされます。かかしの“外皮”はきちんと洗濯され、中身も新しいわらを詰めてもらいます。南瓜男は手足をしっかりとした木材で作り直してもらいました。木馬も傷んでいる所をきれいに補修してもらいました。
 
それで木こり・かかし・南瓜男・木馬とティップはエメラルドシティを目指したのです。
 

かかし前王が旧友の木こりの所に逃げ込み、きこりは西の国の軍隊を連れてエメラルドシティを奪還しに来るかも知れないという情報はジンジャー将軍を不安にさせました。エメラルドシティの住人たちも今はまだ自分たちの支配を受け入れてくれた訳ではありません。
 
そこに北の国の魔女モンビが来て言いました。
「私が君たちに協力してあげよう」
 
モンビは“命の粉”を取り戻し、ティップにおしおきをしてやろうと思っていたのです。
 

エメラルドシティに向かっていたはずの木こりたちの一行は歩みを止めました。
 
「これはおかしい。我々は同じ所をぐるぐる回っている気がする」
「だいたいエメラルドシティへの道にこんなひまわり畑とかあったっけ?」
 
どうも一行は巧みにこのひまわり畑に誘い込まれ、ここで同じ所をぐるぐる歩かされていたのです。
 
「これは魔法だ」
とティップは言いました。
 
「このひまわりに幻惑されている。このひまわりを見ないように、目を瞑って歩いてみてはどうだろう?」
 
「目を閉じるといっても僕の目は閉じられるように作られていない」
とかかしが言います。
 
「みんな色々身体の構造が違うからなあ。木馬の目なんてただの木の節だし」
「だったら木馬君はひまわりに幻惑されないよね。だから木馬君が先頭を歩いて、他のみんなは木馬君の尻尾に捉まっていこう」
とティップが提案しました。
 
それで木馬が先頭にたち、みんなそれに繋がって歩いて行くと、何とかひまわり畑を抜けることができました。
 
少し行った所で、今度は木馬の足がウサギの巣穴に填まってしまいました。みんなで穴から引き出しますが、足が折れています。
 
「どうしよう?このあたりに森は無いし」
 

その時、かかしが言いました。
 
「ジャック、君の足を1本木馬君にあげてくれない?そしてジャックは木馬君に乗っていけばいいんだよ」
「なるほどその手があったか!」
 
南瓜男が足をあげることに同意したので、木馬は彼の足をもらって歩けるようになりました。
 

一行が歩いて行くと、目の前に急流がありました。しかしティップ
 
「これは誰かが魔法で見せた偽の川だよ」
 
と言って見えるものなど気にせず“急流”を歩いて横切ります。他の者も続きましたが、水など全くありませんでした。
 
そしてティップにはこの魔法を掛けているのが誰か分かってしまいました。
『モンビの魔法を物心付く頃から見てきた僕を簡単には騙せないよ』
 
目の前に高い崖が見えました。しかしティップは全く気にせず“崖”を歩いて通り抜けます。一行も続きましたが、全く何の障害もありませんでした。
 
目の前に40本の分かれ道がありました。しかしティップは
「こちらだよ」
と言って指さして正しい道を進みました。一行もそれに続きました。
 
「どうして正しい道が分かるの?」
「この程度の魔法、僕には効かないよ」
「すごーい!」
 
モンビは最後に一行の前に多数の炎を見せました。しかしティップは
「平気平気。みんな僕に付いてきて」
と言って火を避けて進みます。みんなティップに付いていくと、無事に向こうへ到達することができました。
 

一行はエメラルドシティの入口まで辿り着きました。革命軍の兵士が2人門のところに立っていました(山口暢香・高島瑞絵)が、木こりの金属のボディと斧を見ると抵抗せずに通しました。都のあちこちに革命軍の女性兵士がいましたが、やはり木こりを見ると抵抗しませんでした。一行は王宮に入ります。
 
「おかしい。こんなに簡単に通れるなんて。もしかして私たちは罠にはまっているのでは」
と、かかしは不安を感じました。
 
「何も心配することはない愚かな革命軍の連中はもう私たちに敗れてるよ」
と明るく木こりは言います。
 
玉座に行ってみると、そこにはジンジャー将軍が座っていました。
 
かかしは言います。
「勝手に玉座に座るのか。お前は反逆罪だぞ」
 

ジンジャーは笑って答えます。
「今は私たちがこの国の支配者です。あなたが言った通り、あなたたちが反逆罪になりますね」
 
「あれ〜?そうなるんだっけ?」
とかかし、
「うーん。法律的なことを言われると私も分からん」
と木こり。
 
やはり、こいつらダメだなとティップは思いました。
 
「ティップ、あんたこいつらの味方するの?」
とジンジャーが訊きます。
「そういう訳じゃ無いけど、ぼくは平和に解決して欲しいだけ。かかし前王を処刑するのはやめてほしい」
「ふーん」
とジンジャーは面白そうにティップを見ました。
 

その時、後ろから音も立てずに近づいたひとりの女性兵士・ナツメグ中尉(月城たみよ)が木こりの斧を奪ってしまいました。
 
「あっ、しまった」
 
斧が無くなると彼らはほぼ無力になってしまいます。
 
「全員捕らえろ」
とジンジャーが命じると多数の兵士が寄ってきて一行を捕らえようとします。しかしティップが持っていた、かんしゃく玉を投げますと爆発音に兵士たちが一瞬ひるみます。その隙に一行は逃げ出します。兵士たちに追われて一行はひとつの部屋に逃げこみました。兵士たちは無理せず、その部屋のドアを釘で打ち付け出られなくします。
 
「取り敢えず逃げた方がいいと思う」
とティップは提案します。
 
「でも閉じ込められたよ」
と南瓜男。
 
「うーん」
とティップは考えます。
 

かかしは頭に縫い付けてある王冠が重たくて頭が働かないから王冠を頭から外してくれと言いました。それでティップはかかしま頭に縫い付けてある王冠を外し、部屋の中に起きました。そして部屋の中のマホガニー製センターテーブルの足を使って南瓜男の足をまた作ってあげました。
 
ティップは2つのソファを並べて胴体とし、壁に飾ってあった鹿(antler)の首を頭とし、4枚の椰子の葉を羽根とし、箒(ほうき)を尻尾とした鳥?を組み立てました、これを物干し用ロープで縛って固定します。
 
「てもどこに逃げるの?」
「南の魔女・グリンダの所へ。助けてくれるかも知れない」
 
ティップはこの“ガンプ”に命の粉を振り掛けて生きている鳥にしました。そしてみんなでこれに乗って窓から飛び出し王宮から脱出したのです。
 

“ガンプ(Gump)”はどんどん南に向かって飛んでいきます。
 
ティップは脱出できたのでホッとして“命の粉”の瓶をそのあたりに転がしました。
 
「ティップ、大事な瓶が」
「あ、ごめんごめん,取って」
「はい。あれ?この瓶、底が二重になってる」
「え?」
 
確かに瓶の底の部分にも何か入れるところがあります。ティップはよく見えるようにランプを点けると、そっとそこの引出しを開けてみました。
 
丸薬が3つと、説明書が入っていました。
 
ニキディク博士の願い薬 (DR. NIKIDIK'S CELEBRATED WISHING PILLS)
 
使い方:
1錠飲む
17まで2ずつ数える
願い事を言う。
 
願い事はすぐ叶えられるであろう。
 
「2ずつ数えたら17にならないじゃん。17は奇数なんだから」
 
とかかしが言いました。これに対してティップは答えました。
 
「いや奇数だから到達できる。ふつう物を数える時は1から数え始める。だから 1,3,5,7,9, 11,13,15,17 で17に到達する」
 
「え?すごーい」
とかかしも木こりも感心しています。なんでこんな単純なことに感心するんだ?とティップは思いました。
 
(算数の勉強をしている人と何も教わってない人の差だと思う)
 

ガンプはどんどん飛んで行きましたが、なんだか見慣れぬ風景なども見ます。
 
「もしかしてオズの国の外に飛び出してない?」
「でもグリンダの住む場所はとても遠いですよ」
「でもこの子の飛ぶ速度も速いよ」
 
ティップは命じました。
「君が何かを見たらそこで止まれ」
 
するとガンプは両側に切り立つ崖のある平らな岩の上で停止しました。停止のショックで全員外に放り出されました。しかしかかしがクッションになったお陰で他の人は怪我をせずに済みました。でもガンプは岩に衝突して壊れてしまいました。
 
ここはコクマルガラス(黒丸鴉 jackdaw)の集団営巣地のようでした。かかしの身体はみんなを守ったために酷い状態になっていました。わらも飛び散っています。しかし、ちょうどカラスたちが留守だったのをいいことに巣作りに使用されていた多数の紙片を詰め込み、何とかかかしを修復しました。
 

「ガンプを修理しよう」
「どうやって?」
「願い事の薬を使う」
 
それでティップは願い事の薬を飲み
「1,3,5,7,9, 11,13,15,17」
と数えて
「ガンプの身体を元に戻して」
と願いました。
 
するとガンプの身体は修復され、また飛べるようになりました。
 
明らかに南に来すぎて、オズの国の外に飛び出してしまっていたので、ガンプに北に飛ぶように言いました。するとガンプは多数の街を越え、やがて何も無い砂漠地帯をひたすら飛びます。
 
「ここは多分オズの国・外縁にある広い砂漠地帯だと思う」
 
そしてやがて砂漠が終わると全てが赤い世界が現れました。
 
「やった!クアドリングスまで戻れた」
 
それでここからは木こりが道案内し、ガンプはグリンダの宮殿に着陸することができました。今度は2度目なのでガンプもソフトに降りることが出来ました。
 

ティップたちがガンプから降りると、グリンダ配下の兵士たちが彼らを取り囲みます。彼女らも全員女性です(グリンダの兵士:別記(*26))。
 
彼女たちのリーダー(川井唯 26)はすぐに、かかしと木こりを認識しました。それで彼らを宮殿に案内します。
 
「グリンダ様、お邪魔します」
と木こりが言います。
「ようこそ。あなたたちが来るのは分かっていましたよ」
とグリンダ(仁田友里 28 (*25))が言います。
 
それでグリンダはお茶を用意し、一行に勧めます。でも飲めるのはティップと木こりだけ!
 
(かかしは口が絵なので飲めない、南瓜男には飲食物を取る機構が無い)
 

(*25) 仁田友里は前回は北の魔女と南の魔女の1人2人をした。実は東の魔女(足しか映らない)と西の魔女もキャロル前田の1人2役だった。
 
(*26) グリンダの女性兵士を演じたのは下記28名である。
 
エレメントガード(4)槍田湖寿絵1986、望田寿子1999、宮城海夏1994、川井唯1996
ナイスエンジェルズ(4)樋口照実、佐原朋希、山本小夜、溝口初恵
フィフティースリー(4)横山一子、美波五月、樺島典江、仁藤由希
乙女地区(4)島本璃久1990、鹿本菜美1995、佐竹遙花1999、宮田輝代1997
白雪1200km(5)十勝萌子1989、五和真希1990、四谷恵美1991、三嶋道代1991、二見睦子1992
愛の十字架(4)鷹木礼子、真鍋亜矢、冨田瀬梨花、喜納満里
招き猫(3)平田留美1997、木下宏紀2002、谷口翼1998
 
招き猫の篠原君は女装が似合わないので免除。
 
自分たちの失敗は各々のサポートしているアーティストの責任になるので無茶苦茶モラールが高く信頼できた。ただし演技力は微妙なのでセリフや動きの少ないグリンダ兵に回ってもらった。
 

「でしたら話が早いです。エメラルド・シティが小娘の集団に占拠されたのです。そして私の王位も奪われました。取り返すのを手伝っていただけませんか?」
 
グリンダは落ち着いた声で言いました。
「エメラルド・シティは現在ジンジャー将軍たちのグループにより支配されています、彼女がエメラルドシティの統治者です。そこに私が介入する正当な理由はありませんよ」
 
「でもジンジャーは私から王位を簒奪したのですよ」
「あなたはどうして王位を手に入れたのですか」
「オズの魔法使いが居なくなってしまったからエメラルドシティの人たちに王になってくれるよう要請されました」
 
「オズの魔法使いはなぜエメラルドシティを統治していたのですか」
「先代の魔法使いが亡くなり、その後を頼まれたと言っていました」
「先代のオズの魔法使いはどうやって支配者になったのですか?」
「それ以前の王パストリア(Pastoria) から譲られたと聞いています」(*27)
 
「それが譲られた訳ではなかったようです。ですから王位の所有者はあなたでもジンジャーでもなく、 パストリアにあったのです」
 

「そういうことなら、確かにそうなのでしょう。でもパストリア王は亡くなっているから、誰かが王位を継承しなければなりません」
 
「パストリア王にはまだ幼い女の子がいたのです。その子こそが正当な王位の継承者です」
 
「その子が生きているなら本当にそうでしょう。私は王様をやってるのも辛かった。その子が出てくれば私はもちろん喜んで彼女を支援します。ジンジャーじゃなければいいですよ。それでその子の行方は?名前は?」
 
「名前はオズマ姫です。私もかなり探したのですが見付けきれませんでした。ただ彼女は巧妙に隠されているようなのです。パストリアから初代オズの魔法使いが王位を奪った時、魔法使いが彼女を隠したものと思われます」
 
「グリンダ様でさえ分からないというのは凄いですね」
 
「私はこれらに関する文献をもう一度注意深く読んでみます。それまでみなさんはここで少し休んでいてください」
 

(*27) 原作では物凄く能力の高い魔法使いがパストリア王から王位を簒奪して(恐らく国王夫妻を処刑して(*28))、その魔法使いがその後エメラルドシティを支配し、ドロシー事件で気球によりオズの国を去ったということになっている。これは第一巻でのオズの姿と著しく乖離している。この設定については当時の読者からもかなりの批判があったらしい。
 
今回の翻案ではパストリア王から王位を奪った魔法使いが何らかの理由で居なくなった後、第一巻に出て来た男が魔法使いの振りをしていたということに設定変更した。
 
(*28) 『オズの魔法使い』の初期の演劇(1902)ではパストリアは国外に追放され、路面電車の運転手になって Trixie Tryfle というウェイトレスをしている女性と結婚したとされている。これは『オズの不思議な国』が執筆される前である。この劇ではオズマの母については言及が無い。
 
しかし国王を国外追放するならオズマも一緒に追放すればよいはずで、王女だけモンビに預けた理由が分からない。
 
1902年の劇ではパストリアは後にオズの国に戻って、オズの魔法使い・ドロシー・かかし・木こり・ライオンを反逆罪で処刑するよう命じる。むろん全員逃亡する。
 
オズシリーズの第4巻『ドロシーとオズの国の魔法使い』(ハヤカワ文庫の邦題は『オズと不思議な地下の国』)ではオズの国の支配者は男性はオズ、女性はオズマという名前であるとするが、そうなるとパストリアが本当に王であったのか疑問が出てくる。なお、他の作家が書いたオズ本『The Magical Mimics in Oz』ではオズマ姫は妖精の子供であるとしているが、それだとオズマに正当な王位継承権があったのか疑問である。
 
パストリアという名前がどう見ても女性名に見えるのはよく分からない。
 

翌朝、グリンダは一行の前に現れて言いました。
 
「文献を色々検討していて3ヶ所で気になる点を見付けました。ひとつはオズの魔法使い(初代)は豆を食べるのにナイフを使っていたということ、ひとつは彼がモンビの所を3度訪れていること、彼が左足を軽くびっこ引いていたこと」
 
「モンビ!?」
とティップが声をあげます。
 
「どうもオズマ姫の行方の鍵をモンビが握っているようなのです。おそらくオズの魔法使いがオズマ姫を隠すのにモンビに手伝わせたのです」
 
「モンビは今エメラルド・シティに滞在しています。ジンジャーの参謀を務めているようです」
とティップは言います。
 
「でしたら私はエメラルド・シティに行かなければなりません。そしてモンビをジンジャーから引き渡してもらうのです」
 

それでグリンダは300人ほどの親衛隊を連れてエメラルドシティに向かったのです。ティップたちはガンプに乗って一緒に向かいます。
 
映像は多数の女性騎兵(*30)を連れ、馬車でエメラルドシティに向かうグリンダ(*29)そしてガンプに乗るティップたち。
 
(*29) 原作では12人の召使いが担ぐ輿(こし)に乗っているとされているが、何のためにそんな時間のかかる乗り物に乗るのか理解不能である。グリンダの都はエメラルドシティからかなりの距離があったはずなのに、翌朝には到着しているというのも、こんなのんびりした乗り物で行くには計算が合わない。そこでこのドラマではグリンダは普通に馬車に乗ったことにした。
 
(*30) この女性騎馬兵たちはCGである。ただし出演者の中で馬に乗れる人には乗ってもらい、その映像も使用している。28人の出演者の中で8人が馬に乗った。この映像を隊列の先頭に使用している。これ以外に320人の兵士をCG生成した。
 

グリンダたちは明け方エメラルド・シティに到着しました。門番の革命軍兵士(佐藤ゆか・南田容子)を拘束し、すみやかにシティ内に展開。革命軍兵士を20名ほど拘束しました。ジンジャーも気付いて王宮の塔から外を見ますが、圧倒的な兵力に町を占拠されているのを見て驚きます。
 
ティップが「僕に使者をさせてください」と言って、交渉役を買って出ます。
 
革命軍からペッパー大佐(川泉スピン)が出て来てくれたので彼女とティップは話します。
 
「ペッパー、グリンダは君たちが特に抵抗しなければ君たちに危害は加えないと言っている。こちらが欲しいのはモンビの身柄なんだ。モンビに尋ねたいことがある。だからジンジャーに伝えてくれないか?モンビを出してくれって。モンビについてもこちらの質問にちゃんと答えてくれるなら危害は加えないと言ってる。ぼく自身がモンビの身の安全は守るよ。エメラルドシティの門を警備していた兵士と町中に展開していた兵士22名をこちらで預かっている。モンビと交換しないかって」
 
「分かった、ティップ。ジンジャーに伝える」
と言ってペッパー大佐はジンジャー将軍に伝えに行きました。
 

ジンジャーはモンビを呼びます。
「グリンダが君に訊きたいことがあるらしい」
「グリンダの所なんかに行ったら私は殺される。今やグリンダの力は私の力を大きく上回っている」
「しかしティップが君の身の安全は守ると言ってる」
「ティップは私が彼を殺そうとしたと思い込んでいる。絶対仕返しされる」
「でも君が10年以上掛けて育てた子なんだろ?ティップの性格として育ててくれた恩を忘れるような子ではないよ」
 
「あのぉ・・・・身代わりを立てたらダメですか?」
「ん?」
 
それでオズの魔法使いの王宮に仕えていて、ジンジャーの征服後も何となくそのまま居座っていた、ジェリア・ジャム (Jellia Jamb/七石プリム 13) が呼ばれます。
 

「お前ちょっと私の身代わりにグリンダに会ってこい」
「え〜?でも私まだ13ですよ。お婆ちゃんの身代わりなんてできません」
「大丈夫。老人にしてあげるから」
「いやだぁ!」
 
そけでモンビが魔法を掛けて、彼女はモンビと同じ姿(モンビ役の沢村キック2役)に変身してしまいました。
 
「いやぁ、こんなしわくちゃだらけの格好」
 
それでジンジャーは「人質交換」と称してクアドリングス軍に拘束されていた22名の兵士とモンビに化けたジェリアを王宮の門のところで交換したのです。
 
クアドリングスの兵士は“モンビ”に
「あなたの安全は保証する」
と言って、キャンプに連れて行き、グリンダに会わせます。
 
「なんだお前は?」
とグリンダは言います。
 
「え、えっとマンピ(だったかな)と申します」
「お前モンビに魔法を掛けられたな」
「ごめんなさい、ごめんなさい。どうか命だけは助けてください」
「別に君を殺したりはしないよ」
「だったらついでに元の姿に戻してもらえませんか?」
「それは魔法を掛けたモンビ自身にしかできない」
「そんなぁ」
 

ジンジャーが人質交換で嘘をついたので報復としてグリンダはクアドリングス軍を城内にまで侵攻させました。王宮自体を制圧します。そして親衛隊長(川井唯)がジンジャーに直接会って本物のモンビを出すように要求しました。
 
「済まなかった。モンビはどこ?」
と近くに居るシナモン少佐(三田雪代)に訊きます。
 
「あれ?ついさっきまでその辺に居たのですが」
 
実はモンビは「絶対捕まる〜殺される〜」と思って薔薇の花に姿を変えていたのです。
 
クアドリングス兵が多数でモンビを探します。ティップや木こりなども探します。
 
モンビの探索をしているティップの所にジンジャー(白鳥リズム)が来て言いました。
 
「ティップ、モンビが言っていたけど、“人を大理石にする薬”なんてのは嘘で、君をさんざん怖がらせて真面目に仕事するようにさせるつもりだったと」
 
「そんなことだろうとは思ったんだけどね。ほんとに大理石に変えられたらたまんないから逃げ出した」
とティップ(羽田小牧)。
 
「今回の事件が落ち着いたらまた2人で暮らすといいよ」
「うん。考えとく」
 
「私はかかし以外の“人間”が王位に就くのであれば退いても構わない」
「それがパストリア王の遺児の女の子が生きてるみたいなんだよ。モンビがその子の行方を知っている可能性があるんで探している」
「そうだったのか!パストリア王の王女であれば王位を返すのに異論は無い」
「ありがとう」
 
それで革命軍の兵士たちもモンビの探索に加わってくれました。
 

王宮の隅々まで探したもののモンビの行方は分かりません。日が暮れて来たのでクアドリングス軍は王宮の秩序維持(革命軍の監視)に当たる30名ほどを残してキャンプに引き上げます。この時木こりはふと薔薇の花が一輪咲いているのを見て、綺麗な花だなあと思って手折りました。トゲがあっても金属の身体の木こりには関係ありません。
 
モンビはぎゃっと思いました。
『木こり君、私は美味しくないよ』
などと念を送ります。
 
結局木こりはその薔薇を食べたりはせずそのままグリンダのキャンプに持ち帰ります。モンビは夜みんなが寝静まった頃、そっと逃げだそうとしますが、そこをグリンダに見付かってしまいます。
 
モンビはグリフィン(Griffin)に変身して逃げました。グリンダは木馬に飛び乗るとモンビを追いかけます。ティップたちはガンプに乗り、2人を追います。この3者の真夜中の追いかけっこがドラマ上は3分も続きます(原作では1時間続いたと記述されている)。
 
しかしついにモンビは力尽き(1時間も全力飛行すれば疲れる)、オズの国・外縁の砂漠の端で降下してしまいました。グリンダが彼女の身体の上に金の糸を掛けるとモンビの魔力は失われてグリフィンの姿はモンビの姿に戻ります。
 

「私はあなたを捕らえました。抵抗してもムダです」
「私をどうするんだ?」
「今は少し休んでいていいですよ。そのあと私のキャンプに連れ帰ります」
 
「どうして私を捕まえようとするのです?私があなたに何をしたというんです?」
とモンビは荒い息の中で尋ねました。
 
「あなたは私には何もしていません。ただ私はあなたに尋ねたいことがあるのです」
 
そこにティップたちの乗るガンプが到着します。それで全員ガンプでグリンダのキャンプに戻ることにしました。こんな砂漠の上では落ち着いて話もできません。それで木馬をガンプに放り込み、グリンダがモンビをガンプの上によじ登らせます。その時、ティップがモンビの手を引いてあげました。
 
10年以上育てた我が子のような存在であるティップに手を引かれて、モンビは感銘を受けたようでした。
 
「モンビ、大丈夫だよ。グリンダは君を殺したりしないから知ってることを教えてよ」
とティップは言いました。
 

ガンプがエメラルド・シティに戻るまでの1時間ほどの時間、モンビはグリンダの魔法の糸に拘束されていましたが、ティップはずっとモンビの手を握ってあげていました。モンビは何かずっと考えているようでした。
 
「ティップ、お前家を出たあと着替えてないのか?」
「あ、そういえば着替えるような暇が無かった」
「着替えを用意しておいたから着替えなさい」
と言ってモンビはいつも持っている肩掛けカバンの中から服を取りだして渡します。
 
「ありがとう」
と言ってティップは受け取りました。それで着替えようとするのですが・・・
 
「これ女の子のドレスじゃん!」
「似合うと思うけどなぁ」
 
(視聴者の声「うん。似合うと思う」)
 
「全くこんな状況でジョークをするモンビに呆れるよ」
 
「お前たちいいコンビのようだな」
とグリンダも呆れて笑っています。
 
ドレスはモンビに返し、モンビは微笑んでそれをバッグに戻しました。
 

やがて一行はエメラルド・シティに設営したグリンダのキャンプに到着します。グリンダは言いました。
 
「モンビ、話に入る前に、あなたの身代わりにされた可哀想な少女の魔法を解いてあげてもらえませんか」
 
「そいつはうざくてあまり可哀想でもないのだが、その姿では嫁にも行けんだろうし、解いてやるよ」
と言って、モンビの姿のジェリア・ジャムを呼ぶと何か呪文を唱えました。ジェリアが少女の姿(七石プリム)に戻ります。
 
「やったぁ。嬉しー」
と言っているので少女が余計なことを言ってモンビを怒らせる前に、グリンダは彼女を連れて行かせました。グリンダも彼女の性格が分かっているようです。
 

「モンビ、ありがとう」
とグリンダはお礼を言います。
 
「それで本題に入るのですが、あなたに尋ねたいのです」
とグリンダは言う。
 
「初代オズの魔法使いが、あなたの許を3回訪れた理由。そして幼いオズマをどこに隠したのか、教えて欲しいのです」
 
モンビは沈黙しています。グリンダが色々尋ねるのですがモンビは一切口を訊きません。
 
「困りましたね。あなたがどうしても何も言わなければ、私はあなたを処刑するしありません」
 
「ちょっと待って、グリンダ。約束が違う」
とティップが抗議します。
 
「最後まで聞いて、ティップ。そしてモンビ、私はあなたを処刑したりはしません。なぜなら、あなたは喜んでそのことを話してくれるからです」
 

モンビは尋ねました。
「私があんたの知りたがっていることを話したら、あんたは私に何をする?」
 
グリンダは答えました。
「あなたがこれまで色々良くないことを魔法を使ってして来たことの罪は問いません。全て免責にしましょう。しかしあなたが知っている全ての魔法を忘れてもらいます。その上で解放します」
 
「魔法を全部忘れたら、私はただのみすぼらしい婆さんになってしまう!」
「でも生きていられますよ」
 
するとティップが言いました。
「モンビ、君の面倒は僕が一生見るよ。北の国のあの家に帰って一緒に暮らそう。僕が頑張って畑耕して、木も伐ってきたりするからさ」
 
モンビはしばらく考えていました。
「ティップ、お前は真実が明らかになることを望むか?」
「もちろんだよ」
「それがどんなにショッキングなことでも受け入れるか?」
「僕は割と物事に動じないたちだよ」
 

モンビは言った。
「グリンダ、あんたの質問に答えよう」
 
「あなたはそうすると思いましたよ。あなたは基本は悪い人ではありません」
とグリンダは答える。
 
「なぜオズは3回あなたの許を訪れたのですか」
「1回目は何でも無い訪問だった。紅茶クッキーの作り方の話をしただけだ。多分それで私の性格を見たのだと思う。彼は他にも数人の魔女に同様のことをしたかも知れない」
 
「なるほど」
 
「2度目の訪問でオズは驚くべき計画を打ち明けた。私が同意すると彼は自分の知る全ての魔法を私に伝えてくれた。まあ同意しなかったら殺されていたと思うけど」
 
「ああ、それであなたは物凄い魔法を使うようになったのか」
 
「そして多分これがいちばんあんたの知りたいことだろう。3回目の訪問の時、オズは生まれて間もない女の子を連れて来た。きっとオズは赤ん坊を殺すのは忍びなかったのだと思う。彼はこの子を誰にも見付からないように隠して欲しいと言った」
 
「その子の行方は?」
 
モンビはちらっとティップを見ました。その場に居る全員がモンビの答えに注目しています。
 
「私はその子に魔法をかけた」
「どんな魔法を?」
「私はその子を変身させた」
「何に?」
 
ここでモンビは少しためらいました。もう一度ティップを見ます。そして小さな声で言いました。
 
「男の子に」
 

この瞬間、全員がティップを見ました。
 
「え?」
と当のティップ(羽田小牧)は戸惑っています。
 
みんなティップが幼い頃からモンビに育てられてきたことを知っています。
 
「だからパストリア王から王位を奪った初代オズの魔法使いが私の所に連れてきた赤ん坊のオズマ王女、エメラルド・シティの正当な統治者というのが君だ」
 
とモンビ(沢村キック)は言ってまっすぐティップを指差します。
 
「僕?僕がオズマ姫だとか、だって僕は女の子じゃないよ」
とティップは混乱しています。
 
グリンダ(仁田友里)はティップの小さな手を優しく包んで言いました。
 
「あなたは確かに今は女の子ではない。モンビがあなたを男の子に変えたから。でもあなたは本来は女の子なのよ。そしてあなたがオズマ姫。あなたは本来の姿に戻ってエメラルドシティの女王にならなくちゃ」
 
「いやだ!女王の座はジンジャーにあげるよ。僕はこのまま男の子で居たい。女の子になんてなりたくないよー」(*31)
 

木こりが言いました。
「心配しなくていいよ、君が女の子になっても、みんな友だちのままだよ。僕は女の子のほうが素敵だと思ってたよ(*32)」
 
「女の子も男の子と同じように素敵なものだよ」
とかかしはティップの頭を撫でながらいいます。
 
ただ南瓜男は嘆きます。
「あなたが女になってしまったら僕のお父さんがいなくなっちゃう」
 
「お父さんがお母さんになるんじゃない?」
「あ、そうか!お母さんというのもいいなあ」
 
ティップはみんなの反応を見ながら言いました。
「ごめん。1時間くらいひとりにして。少し考えさせて」
「うん。いいよ」
と言ってグリンダはティップに個室を用意してあげました。
 

ティップは実際には30分でその個室から出てきました。そしてトイレに行ってきました!それから言いました。
 
「分かりました。僕を女の子にしてみてください。でもどうしても女の子は嫌だと思ったら、グリンダさん僕を男の子に戻してもらえませんか?」
 
「それはできない。性別を変えるというのは私の力では不可能なこと。ここはモンビに13年前に掛けた魔法を解いてもらう以外に無い。そしてそれがモンビが魔法を使う最後になるでしょう」
 
ティップは「少し考えさせて」と言ってその場で目を瞑って考えました。
 
「分かりました。仕方ありません。みんながオズマ姫を必要としています。もう男の子に戻れなくてもいいです。僕を女の子に変えてください」
 

(*31) 原文 I want to stay a boy,(中略) I don't want to be a girl!
 
(*32) 原文 I've always considered girls nicer than boys.
 

ティップは自分が女になっても、モンビの面倒は一生見ると再度約束しました。
 
「ティップありがとう。済まないね。これまで結構こき使ってたのに」
「ううん。モンビからは色々なことを教えてもらったもん」
 
モンビはティップの両手を握り、涙を流しながら感謝しました。この時モンビから波のようなものが流れ込んでくるのは何だろうとティップは思いました。
 
それで魔法は実行されることになりました。
 
モンビはグリンダに魔法壇を作るために特別なトネリコの木と幾つかのハーブ、それに炭を用意してくれるよう頼みました。グリンダは羽猿(銀色アルゼンチン・銀色ナイゼンチン)に命じて取って来させました。
 
待っている間にもモンビはティップの手を握っていました。そしてずっとモンビからティップに何かが流れ込んでくる感覚がありました。ティップは女の子になるために必要な準備かなと思いました。僕の体液を女の子のものに変えているとか?男と女では体液の性質も違いそうだもんね。
 

羽猿たちが戻って来ます。
 
他の人の目に触れないようにカーテンが引かれます。中にはモンビとティップ、グリンダだけが入りました(*33).
 
モンビは調達してもらった木を壇に組み、その上に磁器の皿を置いてハーブを入れます。ハーブを入れる皿にはグリンダが調達してくれた物の他に自分の持つ肩掛けカバンから取り出したスパイスも入れました。モンビはティップが自宅から逃亡していった時、おそらく近い内にこの魔法を使うことになると思って用意していたのです。
 
壇の中に炭を入れます。壇の反対側にはティップを座らせました。グリンダは横で見守ります。
 
「女の子になるのって痛い?」
「さあ自分がなってみたことはないから分からんなあ」
「不安だなあ。まあ少しくらいの痛みは我慢するけど」
「よしよし」
 
モンビは炭に火を点けました。熱せられたハーブとスパイスはすみれ色の煙を生み、それがカーテンの内部に満ちていきます。
 
「モンビ、ぼくだけじゃなくてモンビやグリンダまで性別変わったりしないよね?」
「私はもうこの年だし、女でも男でも大差無いぞ」
「まあ男魔女になるのもいいかな」
 
モンビは呪文を唱え始めます。それはグリンダにも理解できない言葉でした。それを繰り返し唱え、モンビは火に向かって身体を7回前後させました。そして最後に「ヨーワ(Yeowa)!」と叫びました
 

(*33) 原作ではみんなが見ている前で変身させている。それはあまりにも女性に対して配慮の無さすぎである。このドラマではモンビ・グリンダだけにした。
 

「終わったぞ」
とモンビは言った。
 
「え?ぼく女の子になったの?」
「自分の身体を確かめてみるといい」
 
ティップは恐る恐る自分の身体を触ってみます。
 
「なんか胸がある」
「お前は13歳だ。13歳の娘にはおっばいくらいあるもんだ」
 
ティップは恐る恐るお股に触ってみます。
 
「やだー!ちんちん無くなってる」
「女にはちんちんは無いからな」
 
「これを着なさい」
と言ってモンビはさっきガンプの中で渡そうとしたドレスを渡しました。
 
「ジョークじゃなくてマジでこれを着るのか」
「女の普通の服だ」
「やだなー」
「慣れるしかないです」
 

それでティップは男の服を脱ぎました。鏡があります。その中には美しい娘の裸体が映っていました(この部分ナレーションのみ。小牧の身体は映さない)。「きれーい!」と思いました。女の子の身体ってこんなにきれいだったのか。
 
ティップは姉妹とかが居なかったので女の子の身体を見たことがありませんでした。こんな美しい身体が自分のものだなんて夢じゃなかろうかと思います。彼いや彼女はすっかりこの身体が気に入りました。
 
モンビから渡されたドレスを身に付けます。
 
モンビは髪を整えてくれました。
「近くこうなりそうな気がしてたから、お前の髪はここ1年くらい切ってない。髪型次第ではなんとか女に見える」
 
「オズマ姫、お化粧をしましょう」
「え〜〜〜?ぼくお化粧とかしていいの?」
「だって女の子になったし」
「そうだよね。女の子はお化粧してもいいよね」
 
グリンダはオズマの顔を化粧水で拭くと、きれいにメイクアップしてくれました。
 
「なんか自分の顔じゃないみたい。美しーい」
「お化粧いいでしょ?」
「うん」
 

それでモンビが手を引いて、素敵なドレスのオズマはみんなの前に姿を現しました。
 
「おお、美しい!」
「正当な君主、オズマ女王様だ!」
「なんて美人なんだ」
「みんな何言ってるの?顔は何も変わってないよ」
「そういえばティップの顔だ」
「でも女性になった分美しくなった気がする」
「ティップと何も変わらないのに。ちょっと性別が変わっただけだよ」
とオズマは言いました。
 
「確かに性別が変わった以外は何も変わらないかもね」
「でも性別が変わるのはかなり大したことのような気がする」
 

オズマ姫はグリンダと一緒に王宮に入り、ジンジャーに会います。
 
「ティップ?なんて格好してるの?まるで女の子みたいなドレス着て、お化粧までして」
「ジンジャー、モンビが告白したんだ。ぼくがオズマ姫だったんだって」
とオズマは言います。
「そんな馬鹿な。オズマ姫が男のわけがない」
「魔法で男の子に変えられていたんだよ。モンビが魔法を解いたから、ぼく女の子になっちゃった」
 
「ちょっと身体に触らせろ」
と言ってジンジャーはオズマの身体を触ります。
 
「胸がある。男の印が無くなって女の印が出来てる」
「うん。ぼくもびっくりしたけど完全に女の子になっちゃった」
「この人がオズマであるという証拠はありますか?」
とジンジャーはグリンダに訊きました。
「モンビがそれを証言しています。そして左の二の腕にあるドラゴンの形のあざ。同じようなあざが今は亡きパストリア王にもありました。遺伝だと思います」
と言ってオズマの左の袖をめくり、あざを見せます。
 
「これ不思議なんだよ。男の子だった頃はこんなの無かったのに女の子になったらこんなのが現れた」
 

「ティップが嘘を言うとは思えない。君がオズマだと認める。正当な“人間”の後継者が出てきたのであれば、私たちの目的は達せられた。革命軍も解散しよう。君がこの国の女王だ」
とジンジャーは言いました。
 
「僕、女王なの〜?」
とオズマは不安そうに言いました。
 
「女だから」
 
「それにしても言葉遣いとかが男っぽい」
とジンジャーは指摘します。
 
「なんかこの子に女の子としての教育が必要ですね」
とグリンダも笑って言いました。
 
「やはりお姫様ならそれなりの教養も必要だし、楽器などもできてほしい」
「ぼく小さい頃から読み書き算数、地理と歴史、物理学・化学、それに絵を描いたり、歌やフルート、ピアノとかも習ってた」
 
「それはかなり凄い教養だぞ」
とジンジャーが言う。
 
「モンビはいづれこの子が女王になると思って、女王にふさわしい教育を施していたんでしょうね」
とグリンダは言いました。
 

グリンダとジンジャー・かかしの3人によりオズマ姫が市民にお披露目されるとその美しい姿に大きな拍手が沸き起こりました、オズマは
 
「挨拶代わりに」
 
と言って銀のフルートを演奏しました。グリンダ(仁田友里)がピアノ伴奏します。このオズマのフルート演奏に再度大きな拍手があり、オズマは市民たちに受け入れられました。
 
それでオズマはこの国の新しい女王に就任したのです。
 
放送上はオズマが吹くフルートのメロディーに歌が入る。羽田小牧(オズマ:アルト(*34))・白鳥リズム(ジンジャー:ソプラノ)・森原准太(木こり:バリトン)が歌う『5色の旗』である。
 
(この音源は実際には三田雪代(シナモン少佐)のピアノに月城たみよ(ナツメグ中尉)がフルートを入れ、小牧・リズム・森原准太で歌ったもの。仁田さんもピアノは弾くがあまりうまくはない)
 

(*34) 羽田小牧の声域は“公称”テノールだが実際には F3-E5 くらいであり、どう見てもアルト。本人は声変わりしたと主張しているが、甚だ疑問というのが多くの意見である。実はファルセットを使うと C6まで出るので、ソプラノの曲がほとんど歌える。バラエティでうまく乗せられて歌ってみせたこともある。
 
 
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【夏の日の想い出・日日是好日】(4)