【夏の日の想い出・赤い服】(6)

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アクアは3月から7月上旬にかけて2本続けて映画制作をした後、7月4-6日だけ(編曲の仕上がりを待つ間)お休みを頂いて八王子の家で過ごした。そのあと7月6日から8月5日まで掛けてアルバムの制作をした。
 
それで8月6-7日はお休みにしてもらい2人とも八王子の家で死んだように眠った。彩佳と理史も6日は八王子の家に行ったものの龍虎たちは寝ている。それで彩佳は、桐絵と宏恵も呼び寄せて(りっちゃんが迎えに行ってくれた)、理史君と4人で適当におやつなど食べながらおしゃべりしたり、囲碁とかオセロとかしながら1日過ごした。
 
2人の龍虎はトイレに行ったり水分補給したりする以外はひたすら眠り続けて、8月7日の昼近くになって、やっとFが目覚めた。
 
「おはよう」
「最初自分がどこに居るのか分からなかった」
「よく寝てたね」
「みちおはまだ寝てるの?」
「みちお??」
 

「ああ、ぼくたちミドルネーム使うことにしたから」
「へー!」
「F・Mの頭文字になるものを考えて、ぼくは田代ふじえ龍虎、Mは田代みちお龍虎」
 
「どっから、ふじえとかみちおとか」
「対になるもので名前付けようと話し合ったんだよ。それで最初太陽と月って考えたけど、太陽と月のどちらが男でどちらが女か分からないということになった」
「ああ」
「ギリシャ神話では太陽が男で月が女、日本神話では太陽が女で月が男、それに月って自分で光ってるわけじゃなくて、太陽の光を反射してるだけじゃん。主従が無くて対等なものがいいよねと話し合った」
 
「北と南というのも考えたけど、ウルトラマンAで、みなみは月に帰ってしまう」
「何だっけそれ?」
「左と右というのも考えたけど、英語では右と正しいが同じ right, 左には概して劣ってるとか下手(へた)という意味がある」
「セロ弾きのゴーシュとか」
 
(ゴーシュはフランス語で左を表し、同時に下手糞という意味がある)
 

「それで1月と7月というのを考えたんだよ」
「ああ」
「睦月(むつき)と文月(ふづき)。うまい具合に頭文字がMとFなんだよね」
「うまくできてるね」
「ところが“ふづき”と“むつき”は音で聞いて紛らわしいという話になって」
「確かに紛らわしい」
「更に文月は女性の名前として使うけど、睦月はあまり男には使わない」
「うん」
「それで音をひとつずつずらして“みちか”にしてみた」
「更に女っぽくなった」
「それで少し変形して“みちお”にした」
「なるほどー」
「でも片方だけ音をずらすのはアンフェアじゃん」
「うん」
「それでぼくも音をずらして“ふじか”にして最後の音を同様に変化させて“ふじえ”にした」
 
「よく分からないけど、それをどう使うの?」
「みんながぼくたちを呼ぶ時にどちらも龍虎じゃ紛らわしいから、ふじえとかみちおとか呼んでいいよ」
 
「ああ、それは使わせてもらうかも」
「私たちのためのものなのね」
「そそ。名前というものは自分のものなのに主として他人が使う」
「そういうなぞなぞがあったな」
 
なお、Nのミドルネームは“長月(ながつき)”から“なぎさ”に決めた。“なぎさ”は男でも女でもありえる名前だ。
 

彩佳がMの様子を見てきたが熟睡しているようであった。
 
「あれなら寝てる内に性転換手術されても気付かないな」
などと彩佳は言っていた。
 
「Mちゃんは既に性転換したという情報もあるのだが」
と弘恵。
「ちんちんが無くなっておしっこが前では無く下に出るようになり、ヴァギナができただけだから性転換した訳ではない」
と彩佳。
「それはもう完全に女だという気がする」
と桐絵。
 
お昼過ぎにやっとM(みちお)が起きてきたので、りっちゃんも居間に呼んで7人で一緒にお昼を食べた。お昼は、お肉を解凍してホットプレートも2個出して焼肉をした。
 
「お肉美味しい」
「オージービーフだけどね」
「そういう所で龍たちって贅沢しないよね」
「野菜も美味しい」
「“らでぃっしゅぼーや”だよ」
「あれ?代々木の方はビオ・マルシェだっけ?」
「あちらは“大地を守る会”」
「代々木で受け取ったのは私たちで消費してた。八王子のはここ数ヶ月は浦和の千里さんとこに《りっちゃん》に持ってってもらってた」
「なるほどー」
 
「まあ郵便物も代々木は私が、八王子は《りっちゃん》がチェックしてたし」
「というか、彩佳、ほぼ代々木に住んでたし」
「大学には代々木からのほうが近いからね」
「私もここに住んでます」
 
「りっちゃんには毎日、ここと越谷を往復してもらってた」
「大変そう」
「大変なのは龍虎さんたちです!」
「確かに。いくら2人でもきついよね」
「10人くらい居たら何とかなるのに」
「変なこと言わないで。作者が親切心起こしたら困る」
 

お昼を終えた後、少し休んでいたら九重(徳都)がやってくる。
 
「おい龍、帰ってきたのなら道路案内してやる」
「道路?」
「ああ。なんか作ってたね。完成したんだ?」
と《りっちゃん》。
 
「東に青龍棲む清流あり、北に玄武棲む丘陵あり、南に朱雀棲む湖沼あり、西に白虎棲む大道あり。その大道がまだ無かったからな。作ってた」
と九重。
 
「とうとう作ったのか」
とF(ふじえ)。
 
「ま、案内してやるから、みんな乗った乗った」
と九重は言っている。
 
「私お留守番してていいよね?」
と言って《りっちゃん》は残り、他の6人は九重が持って来たセレナ(8人乗り)に乗った。
 

いつの間にか、ガレージ(北の対)の向こう側(西側)にゲートができているので、そのゲートをリモコンで開けて道路に出る。
 
道路はすぐにゲートを通ってトンネルに入る。
 
「このトンネルはカルバート工法(*54) だから簡単にできた」
と九重は言っている。
 
トンネル内の灯りはセンサー式のようで車が近づくと点灯する。このトンネルを5分くらい走ると、ゲートが自動的に開いて、林道か何かに出た。
 
「トンネルのゲートは入る時は開けないといけないけど、出る時は自動で開く。この林道は80km/hくらいまでは出せると思う」
 
「いや、ここはせいぜい40km/hまでだと思うなあ」
と龍虎(みちお)は言う。
 
要するにこの林道に出る道を作ってくれたのな?とこの時、龍虎は思った。
 
九重は50km/hほどの速度でその曲がりくねった道を走っていく。道路は普通車がギリギリすれ違える程度の幅だが、一応両側にガードレールとデリネーターがある。4-5分走った所に製材所?があり、大量の木が積み上げられている。
 
「実はこの道路を作るのにたくさん木を“抜いた”から、その木の一部をここに積み上げた。大半はまだ現地で葉枯らし(自然乾燥)させてる」
「へー」
 
車はその木材置き場?の手前を左に曲がり走って行く。
 

ここからはアスファルト舗装されている。センターラインにはキャッツアイが埋め込まれていて、両側にはガードレールがあり、デリネーターも立っている。これなら夜間でも走れそうだ。
 
「街灯は立ててない。灯りを点けてると動物が寄ってきて、結果的に多数の“犠牲”が出るから」
「ぼくも動物さんたち轢きたくないです」
 
「でも新しいですね」
と彩佳が言う。
 
「昨日(8/6)竣工したばかりだからな」
「へー」
 
「この道路が今回作った道路の本体だ。龍の家のすぐ裏手に造りたかったけど、上空から目立って、そこから、お前の家の所在がバレてしまうから、わざわざ自宅から離れた場所までトンネルと林道っぽい取り付け道路を作った」
 
(*54) トンネル部品を並べて設置し、その上に土を掛けて結果的にトンネルにするのをカルバート工法という。その土の上に別の道路が通ったりする。今回の場合は上空から空撮されても龍虎の家と林道がつながっているのが分からないようにカモフラージュするためトンネルを作った。トンネルの上にはわざわざ木まで植えている。
 

九重の車は、ひたすら走っていく。彼はどんどん速度をあげて100km/hを越える。
 
「じゅうちゃん、スピード出しすぎ」
と2列目に乗っているM(みちお)が言う。
 
「大丈夫だ。この道路は一部を除いて時速250kmで走れる。この車は150km/hくらいしか出ないからこの程度が限界だけどな」
と九重。
 
「質問です」
と彩佳が言った。
 
「この道は全長何キロですか?」
「正確には測ってないけど120kmくらいかなあ」
 
「120!?」
 
「この道、いったいどこまで続いてるのよ?」
と龍虎Fが呆れるように訊く。
 
八王子から西に120kmも走ると静岡市付近まで到達するはずである。
 
「いや単に山を登るだけだよ」
 
と言って九重は、その先にあった分岐を右に行った。それはY字路というより東名高速が左右に分かれる所のような緩やかな分岐だった。
 

森の中の快走路が続くが、線形はずっと右曲がりである。
 
「山の周りをぐるっと周回する。それで頂上まで5周だったか6周だったかすると50kmくらいの長さになる」
 
彩佳は大雑把な暗算をした。直径6kmくらいの山の周りを1周すると約18kmだ。山の頂上まで周回しながら登って行くなら、50÷(18/2)=5.5で、確かに5-6周すると上まで行けそうだ。
 
「だから50km走って山の上まで行って、50km走って降りて、前後の道路も入れると120km近くになる。これを往復してくれば240km」
 
「それってわざわざ山に2回登るの?」
と彩佳が訊く。
 
「帰りはまっすぐ帰ってくるか一周だけして帰れば150kmくらいの旅だな。一周だけした場合、この道路で唯一の信号を通る」
 
↓九重道路?のイメージ図(実際はもっと回数巻いている)

 
「あ、さっき信号があったね」
「感応式だけどな」
「定周期式にする意味は無いと思う」
「あそこを信号にしたのは、間違って進入すると山に登れずに1周しただけで抜けてしまうからだ」
 
(上図参照。右手の信号の所を右折すると山裙を一周しただけで上野原方面に抜ける)
 
「なるほど。信号を右折すれば、山に登らなくて済む訳だ」
 

「でもこんな長い道路を勝手に作っていいわけ?」
 
「この山を丸ごと買ったから大丈夫。だからこの道路は私有地の中を走る私道になる。道路交通法が適用されないから、いくらスピード出してもいいし、免許持ってなくても運転できる」
 
「日本一長い私道だったりして」
「多分そうだと思う。宇部興産専用道路が32kmくらいだから」
 
ここまでの会話は九重と彩佳でしており、龍虎は呆れて聞いていた。
 

「で、いくら掛かった訳〜?」
と龍虎は訊く。
 
「山は1億円しかしなかったよ。まあ取付道路作るのに買った山も入れて2億円かな」
「“しか”ねぇ」
 
「で道路の建築費は?」
「50億円くらいかな」
「一般的な相場の10分の1くらいだね」
と彩佳。
 
「道路作るのに金が掛かるのは人件費が大きいからな。人間は非力だから、多人数掛かるし時間もかかる。俺たちは工作機械もほとんど使わない。木を“抜いて”地面を踏み固めて、その上にアスファルト敷いただけ。だからこの道路は10人くらいで1ヶ月ほどで作った。1人10kmくらいずつ割り当てて競争で作らせて優勝した奴にはヒグマ10頭と日本酒10樽プレゼント」
 
「秀吉方式か」
 
「でも山買った代金も、道路の建設費も千里さんが出したんだよ」
「え?そうなの?」
と龍虎。
 
「自分が走りたいからって」
「そうか!千里さん、自動車レースの趣味もあったんだった」
「毎年レースやラリーに出てるみたい。よくやるよなあ」
「ほんと忙しいのに」
 
「道路は名目上は、朱雀林業の木材運搬用道路」
「ああ」
「じゃ朱雀林業の人たちも使うの?」
「使わん。あいつらみんな木材は手で抱えて飛んで運ぶ」
「ああ」
「さっきあった製材所が朱雀林業か」
「そそ。朱雀林業八王子営業所(ということにした)」
 

ガードレールの色が時々変化するが、担当した建設者ごとに違う色のガードレールを使わせたからだと言う。でも変化があっていいなと龍虎は思った。
 
九重の運転するセレナは30分ほどで山の頂上まで到達した。山の上付近は道路が赤いアスファルトになっていてそこは80km/h制限だと言う。最後の一周はコンクリートでそこは50km/h制限と言っていた。
 
頂上に30台ほど駐められる駐車場があり建物があって、中に自販機!も置かれている。
 
「ここの自販機を使う人があるわけ?」
「無いと寂しいからと千里さんが」
「確かにね〜」
 
「ここ全部100円なんだ!」
と桐絵が驚いている。
 
「お釣りが面倒くさいじゃん」
と九重。
 
「あ、おしることかコーンスープがある」
「ラーメンやおでんまである」
「カレースープって初めて見た!」
「できるだけ変なのを集めてみた」
と九重は得意そうである。
 
一応コーラやお茶にコーヒーもある。
 
「女性ホルモン剤って何?」
「女性ホルモンは男龍虎に飲ませるためのものだな。女は飲まない方がいい。生理が乱れるから」
「断る」
とM(みちお)。
 
「よし。欺して飲ませよう」
 

建物の中にはテーブルと椅子が置いてあり休憩できるスペースがあるので、一同は自販機で買った飲み物を飲んで休憩する。
 
ここの奥にはドアがあり、そこを九重がカードキーで開けると部屋が並んでいた。
 
「この部屋は事務室?」
「仮眠室だよ。鍵を渡しておくな」
と言って九重は龍虎に3枚カードを渡した。
 
「夜中に走ってて眠くなったらここで寝ればいいよ。左側の“3つ”が龍虎用だから」
「ありがとう」
 
3つというのは、1つはNの分である。
 
「中にはダブルベッド置いてるから彼氏と“2人で一緒に”寝ればいい」
「そうさせてもらう」
と龍虎は平気な顔で返したが、理史がドキドキした顔をしていた。
 

山を登る時はずっと右カーブだったが、山を降りていく時は、ずっと左カーブである。
 
「登る時と降りる時は曲がり方が逆なんだね」
「人間は左に曲がるほうが安心できるから、降りる時に左曲がりの方がいいと千里さんは言ってた」
「なるほどー」
 
降りきった先に直線があり、その先の分岐を左に行って自宅に帰還したが、右に行けば上野原市の小さな家の裏手に出ると九重は説明した。
 
「その小さな家にも3つ部屋があるから休憩に使えばいいよ」
「了解。ありがとう」
 
(↑龍虎は“小さな家”と言われたので3LDK程度の家を想像している)
 

さて湯谷薫の姉・紡は、コスモスの所に行き、ビデオガールコンテストに弟を参加させたことを謝罪したのだが、その時
 
「お姉さんもタレントになる気無い?」
とコスモスから勧誘されてしまった。
 
それで取り敢えず夏休みの間だけでも、あけぼのテレビに出演することになったのである。
 
あけぼのテレビは普段は夕方から深夜までの放送だが、夏休みの期間中は放送時間を拡大し、12時から16時の4時間も放送する。そこに湯谷紡の番組『楽しく剣道』というのを入れたのである。月曜から金曜まで毎日30分である。
 
師範は、千里の古い友人という木里清香六段である。普段は姫路市に住んでいるのだが、この番組のために約1ヶ月間東京に滞在して出演してくれる。師範代となってくれるのは東京の女子大生2人でどちらも四段である。
 
生徒役は下記7名である。信濃町ガールズの長身メンバーたちである。
 
品川ありさ(23 176cm)
夕波もえこ(中3 172cm)
月城たみよ(中2 172cm) (*55)
花貝パール(高1 168cm)
甲斐絵代子(中3 166cm)
山本コリン(高2 164cm)
美崎ジョナ(高1 164cm)
 
(*55) “月城たみよ”は新人の松崎典佳にコスモスが付けた芸名。
 
品川ありさ・夕波もえこ・月城たみよ、は“女子トイレで悲鳴をあげられた”回数自慢をして、意気投合していた。
 

そして司会者を湯谷紡(芸名:川泉スピン)が務める。司会をしながら、練習や試合もする。
 
生徒役の中で剣道の経験者は夕波もえこ(初段)だけだが、練習で三段の紡が相手すると結構頑張って掛かってくるので、紡もわりとマジで対戦しないといけなかった。また剣道は未経験であるが、月城たみよはバレー選手だけあって上達が早く、この番組放送中に初段を取得した。他に花貝パール・山本コリンも初段を取った。
 
甲斐絵代子は“頑張らない子”の代表で出てきてるな、と紡は思った。
 
紡は番組の司会なんて全く初体験だが、持ち前の度胸で何とかしていく。また困った時はあけぼのテレビNo.2キャスターである夕波もえこが助けてくれるので結構何とかなった。
 
紡は実際にこの番組をする内、タレントになってもいいかな?という気がしてきた。高校を出て青森か八戸に出ても、大した仕事は無いし。電話オペレーターとか、プログラマーとかセールスとかの仕事をするくらいなら、安定性は低いけどタレントというのは、結構良い選択肢という気がしたのである。
 
一応信濃町ガールズになるかどうかは夏休みが終わるまでに決めればよいと言われている。
 

8月6日(土).
 
昔話シリーズ第八弾『アリババと40人くらいの盗賊』が夏休み特別3時間枠で放送された。
 
アリババを演じたのはケンネル。カシムは相棒のチャンネルである。アリババの奧さんはめろでぇずのロック、カシムの奧さんはめろでぇずのジャズが演じ、男女のお笑いコンビが2組の夫婦を演じた。
 
準主役となるモルジアナを演じたのは白鳥リズムである。彼女は剣の扱いもうまいし、乗馬とかもできるので(このドラマで乗るのはロバとラバだが)、格好良いモルジアナになっていた。男召使いのアブドゥラーはスルガワンブギ(元大相撲の駿河海)、モルジアナの部下の女召使いラーニヤにリズムと同じ事務所の左倉まみ。他にも数人、中学生の信濃町ガールズが起用されている。
 
カシムの息子(ラストでモルジアナと結婚する)は斎藤良実(高3:リズムと同い年)である。また靴屋は広川大助さんが演じた。
 
ドラマの成否の鍵を握る盗賊の頭(かしら)には左座浪源太郎。元大相撲のプロレスラーなので、同様の立場のスルガワンブギが大先輩の前でかしこまっていた。盗賊の中で最初にアリババの家を見付ける者にキャロル前田、2番目に見付ける者に同じバンドのスーザン高橋。
 
そして盗賊たちとして、利根川32のメンバーが全員起用されている(男装)。人数がよく分からないので“40人くらいの盗賊”というタイトルになった。実際問題として、利根川32の事務所でも撮影当日何人参加できるか分からないと言った。放送後、録画を分析した人は
 
「洞窟のシーンで出て来たのはアリババが来た時に36人、カシムが来た時に38人、お頭と謀議する時の1回目と2回目が43人、3回目が41人、アリババの家に行き1回目空振りする時が36人、2回目が35人、最後にモルジアナに殺されたのは42人」
 
と報告、各々の場面に出て来たメンバーのリストまで上げていた。
 
全くどうでもいいことにお疲れさん!(全員の顔を識別できるのが凄い気がする)
 
放送局は撮影当日に居たメンバーに1人1万円ずつ毎回配っただけである。同じ日に撮影したのに人数が違う場面は多分トイレに行ってて撮影時に居なかった子のせい!
 

バラバラにされたカシムは、チャンネルそっくりの人形で撮影しているが、繋ぎ合わせる時に
「首が無いぞ」
「あれ、首だったのか。サッカーボールかと思って蹴って遊んでた」
とか
「ちんちんが見当たらないけどどうする?」
「無くてもいんじゃない?ちんちん無かったら女用の天国に行って、女に囲まれてあいつも幸せになれる」
とか無茶苦茶言っていた。
 

モルジアナが盗賊たちを殺す方法は、電気ショック!となっていた。銅線を盗賊の入っている皮袋に巻き付けて行き、避雷針に結びつける。すると避雷針に落雷すると盗賊たち全員が一気に感電死する。
 
「原作のように高温の油を注ぐ方法では即死させられないし、先に殺された者の断末魔を聞いて他の盗賊が飛び出してくるので、実行不可能です」
 
と、後から白鳥リズムが解説していた。つまり盗賊たちは一気に殺す必要がある。
 
「なぜラバたちは無事だったのだ?」
という突っ込みがあっていたが、リズムは
「盗賊たちは刀を持っていたからでは」
と返事していた。確かにありえるかも?
 
また盗賊の遺体は庭に埋めるのではなく、ラバたちをそのまま山に連れて行き、奥深い谷に捨てて来た。ラバたちは帰りにあちこちで解き放った。これもリズムは
 
「40人もの遺体を庭に埋めるなんて作業的にも不可能ですし、絶対に他の使用人に見られるし、死臭が凄まじいです」
と解説していた。
 
また最後に盗賊の頭(かしら)を殺すのも、原作のように宴席で刺し殺すのではなく、深夜に頭(かしら)がアリババを殺そうと部屋に忍んで来た所を、盆の窪(首の後ろの部分。頸椎がある)にボウガンを撃ち込んで殺害している。
 
白鳥リズム曰く。
「盗賊の頭(かしら)をいくら不意打ちしても、接近戦で殺せる訳ないです。女に簡単に殺される程度なら、荒くれ者の頭(かしら)など務まりません。だから頭(かしら)を殺すには飛び道具の一択です。また宴席で殺したら騒ぎになって、お役人が来ますよ。こっそり殺すしかないです」
 

今回のドラマでは、千葉のΛΛテレビのスタジオに大規模なセットを作って撮影しており、40人くらいの盗賊が入れる広い洞窟のセット、似たような家が並ぶ街並み、22頭のラバが並ぶ庭など、予算を掛けたセットで撮影しており、映画並みの造りになっていた。
 
役者さんたちもほんとに演技できる人が出ており(演技できない利根川32はほとんどエキストラ扱い)、質の高いドラマに仕上がっていた。ネルネル、白鳥リズム、そして先日のアクア事件で注目された左座浪が出るということて注目度は高く、高い視聴率になった。
 
白鳥リズムはファン層がほぼ男女同数なのもプラスに作用した。
 
次回はアクア主演というのが予告され、一体いつ撮影したんだ?やはりアクアは7人くらい居るから、などと言われていた。
 

このドラマの主題歌・挿入歌は白鳥リズムが歌って7月27日(水)に発売している。8月3日ではなく前週の7月27日になったのは、8月3日は舞音のシングルが出るからである。リズムのシングルはこのように構成になっていた。
 
『ペルシアン・ロマンス』(川中舞王作詞・寺入霧作曲)
『みんなでマークされれば怖くない』(加賀鐵子作詞・寺入霧作曲)
『Rain』(マリ&ケイ作詞作曲)
 

『ペルシアン・ロマンス』は実は最初『アラビアン・ロマンス』のタイトルだったが、気がついた花ちゃんが
 
「この物語の舞台はアラビアではなくペルシャ」
と指摘して制作者グループも誤りに気付き、楽曲のタイトルが修正された。一部台本も修正された。作詞者の川中さんも、鳥山プロデューサーも
 
「違いが分かってませんでした。不勉強でした」
とこちらからの指摘に感謝していた。
 
アラブとペルシャの関係は、中国と日本の関係に置き換えると、わりと分かりやすい。文化も言語も全く違う。アリババの物語の舞台は、ペルシャでも東部の、現在のトルクメンの地域“ホラーサン”(日出る処)である。
 
衣裳の担当者は『アリババと40人の盗賊』の本の挿絵を参考に衣裳を作っていたので、ちゃんとトルクメン風になっていた。
 
『みんなでマークされれば怖くない』はチョークの目印を付けられたのを近所中に同じ印を付けて回るエピソードで流れる曲である。
 
作詞者としてクレジットされている“加賀鐵子”はリズムがよく使うペンネームである。出身地の弟子屈町(てしかがちょう)から、鉄子(てっし)加賀(かが)となって、上下を入れ換え加賀鉄子と人間の名前っぽくしたもの。ただし“鉄”は“金を失う”で縁起が悪い、と米本愛心から言われ、旧字体の“鐵”を使うことにしている。
 

『Rain』はラストの結婚式シーンで流れる。この曲は後述ローズ+リリーの曲のカバーである。雨の中ドライブしていたら色々な人が乗ってきて車が満杯になる話である。
 
実は最初ローズ+リリーの曲のMVにリズムが出演する話があり、それで
「この曲楽しいからカバーしてもいいですか?」
「いいよ、いいよ、カバーして」
ということで、カバーすることになった。
 
ところがリズムの仕事が立て込んで、結局リズムはローズ+リリーのMVには出られなかった。でもカバーの方はそのまま出してよいということだったので、このシングルに入れることにした。結果的には本家より先にカバー曲をリリースすることになった。
 
ローズ+リリーのシングルのMVには結局、アクアのそっくりさんが出演したのだが、リズムのシングルのMVには、水谷姉妹、甲斐姉妹、直江姉妹、それに姫路スピカと従姉の竹中花絵(*56) に出演してもらい、車に乗ってくるのは8人になった。それでローズ+リリー版に比べてスタンツァがひとつ追加されている。車はハイエースの10人乗りを使用している(本家のほうは8人乗りエルグランド)。
 
白鳥リズムのMVに出た8人は『アリババ』の結婚式シーンにも出演している。
 
但しリズムはまだ18歳になっておらず車が運転できないので、実際にMVで車を運転したのは石川ポルカである。リズムは助手席に乗っている。
 
(*56) 姫路スピカと竹中花絵(地元でモデルをしている)、それに姻戚関係は無いが、南田容子の3人は顔立ちが似ており、過去に三つ子の役もしたことがある。
 

8月8日(月).
 
アメリカのセミプロ女子バスケットボールリーグWBDAに参加していた千里1はこの日帰国した。浦和の家に滞在して、予定日が来月に迫る千里2Aをサポートする。
 

8月10日(水).
 
ローズ+リリー35枚目のシングル『Rain/赤い服』が発売された。
 
下記の曲を収録する。
『Rain』(マリ&ケイ作詞作曲)
『赤い服』(マリ&ケイ作詞作曲)
『夜12時の女の子』(マリ&ケイ作詞作曲)
 
『Rain』は私が夢で見た内容を歌にしたもので、雨の中をドライブしていたら虹の七色の服を着ていた人たちが雨に濡れていたので乗せてあげたという話である。やや童話タッチの曲。
 
赤い服の消防士さん
オレンジの服のフライトアテンダントさん
黄色い服の看護師さん
グリーンの学生服の男子中学生
青いセーラー服の女子中学生
紺色の服の花婿さん
すみれ色の服の花嫁さん
 
そしてて7人が全員同じ顔だった!という趣向である。
 
元々私の夢の中ではアクアが7人出て来たし、マリもアクアでMVを撮りたいと言ったが、アクアはとても時間が取れないので、今回のモデルをお願いしたのは、アクアのそっくりさんとして知られる尾崎鞠矢(まりや)である。彼女はけっこう男装も行けるし、もともと未成熟っぽい感じがあったので、まだまだ学生服・セーラー服が行けた。
 
彼女は172cmの長身なので、撮影時には、女子バスケットのチーム白鳩のメンバーがボディダブルを務めてくれた。車はエルグランド8人乗りを使用した。
 
この曲はアクアが無理ならということで白鳥リズムにモデルをお願いする話もあったのだが、彼女も結構多忙なので、結局、尾崎鞠矢になった。でもその話があったので、白鳥リズムがこの曲をカバーする話もできて、こちらは実行された。7月27日に出たリズムのシングルに含まれており、本家より先にリリースすることになった。また『アリババと40人くらいの盗賊』にも使用された。
 

『赤い服』は政子が歌った替え歌ではなく、私があらために詩を書き、曲を付けたものである。赤い服を着たかった女の子の赤い服への思いを綴ったノスタルジックな歌になっている。
 
小さい頃、お母さんに赤い服を買ってもらった。物凄く嬉しかったので、大事大事にしていて、めったに着なかった。すると母は「あんたあの服着ないね。赤は嫌い?」と言ってその後、赤を買ってくれなくなった。
 
でも本当は赤い服を着たかった。
 
そして中学生になり、高校生になり、大人になって
自分で赤いワンピースを買い、身に付けた。
15年ぶりくらいに着た赤い服を鏡に映して涙が出た。
 
それでお出掛けしたら、幼なじみの男の子に出会った。
「君、赤い服着てるの初めて見た。凄く似合うね」
 
そのような歌である。聴いていて涙が出たという声が多かった。
 
シングルはこの2曲を両A面にしている。
 

政子は
「この物語、実は男の娘の話じゃないの?小さい頃可愛い服を買ってもらって凄く嬉しかったけど、男の子に親はあまり可愛い服を買ってくれない。それでおとなになってから自分で可愛い服を買うようになる」
などと言っていた。
 
「なんでわざわざそういう解釈をする?」
 

MVでは、信濃町ガールズ関東の岩旗雪華(ゆきか)・月恵(つきえ)・良美(よしみ/よしはる)の三姉妹(三姉弟)に、幼い頃、少し大きくなった所、中学生になった所を演じてもらっている。3人はわりと顔立ちが似ているので、1人の女の子が成長していく様のように結構見える。大人になった姿を演じたのは、3人のお母さん!である。
 
お母さんは33歳だが、物凄く若いので20歳の女性を演じてもそんなに違和感が無かった。また若い頃劇団に居たということで、演技もうまかった。成人式に振袖で出た後、赤いワンピースを買い、それで男の子に声を掛けられる様子を撮影している。幼なじみの男の子を演じたのは、西宮ネオン(23)である。撮影の時、お母さんはネオンのファンだと言ってサインをもらっていた。
 
ところで、幼い頃の女の子を演じた岩旗良美君は本当は男の子!なので
 
「え〜?スカート穿くんですか?」
と抵抗したが
「お芝居、お芝居」
と言って着せてしまった。
 
「その服あげるよ」
「もらっても困ります」
「こっそり着てればいいんだよ」
と言って押しつけた(男の娘教育)。
 

幼い女の子を演じたのが実は男の子だというのは、政子には内緒である。女性ホルモンをプレゼントしたりしかねない!
 

3曲目の『夜12時の女の子』も童話っぽい作品である。
 
それは夜の12時になったら、子供の部屋に現れる魔法使いの女の子の物語である。散らかっている部屋を魔法で片付けてあげたり、やってない宿題をやってくれたり、買ってもらえなかった本を読んでくれたりする。
 
朝になったら居なくなってるけど、部屋はちゃんと片付いててお母さんに褒められるし、宿題はちゃんと出来てて先生に褒められる。読んでもらった本は残ってないけど、記憶は残っているから友だちと話が合う。
 
シンデレラとか『ニッキニャッキ』系統の夢物語である。
 
MVでは、信濃町ガールズ関西の準特待生・雪枝一美ちゃんが助けてもらう子供を演じ、信濃町ガールズ本部生の春野わかなが魔法使いの女の子を演じている。お母さんは高崎ひろか、学校の先生は品川ありさが演じている。
 

以上の3曲構成で、今回はメルヘン&ノスタルジーの作品となった。
 
今回の発売記者会見には、八雲課長と私だけが出席した。マリは臨月なので欠席と説明した。実は自分が出産したことをまだ発表しないでくれと言ったのである。なぜわさわざ隠すのだろうと私は疑問を感じた。
 
記者会見の時、記者さんから
「RainのMVに出てるのってアクアちゃんじゃないですよね?」
と質問がある。
 
「アクアは7人くらい居るらしいので1人くらい都合つかない?と声を掛けてみたのですが、全員日程が詰まっていて、1人も空かないらしいです」
と言うと、記者たちから笑い声が出ていた。
 
「それで今回のビデオに出てもらったのは、アクアのそっくりさんの尾崎鞠矢ちゃんです。彼女結構演技うまいですね」
と私が言うと
「ああ」
という声が多数あがっていた。名前を記憶してた人が多かった。
 

尾崎鞠矢は2020年頃は、アクアのそっくりさんとして、結構バラエティなどに出ていたのだが、ここ1年くらいは動向を知られていなかった。彼女はどこかの事務所と契約もしていた訳ではないので、連絡方法が無かったのだが、地元のテレビ局が、音楽教室の先生をしている彼女を見付けてインタビューし、ローカル番組で報道した。地元では“アクアそっくりのビアノの先生”として、わりと知られていたらしい。
 
「はい、ローズ+リリーさんのMVは久しぶりの芸能的なお仕事をしました。カメラに映されるのは何か楽しかったですね」
「これを機会に芸能活動再開するご予定は?」
「さすがに無理だと思います。私、歌もうまくないし、お笑いのセンスも無いし、私くらいの年齢の女優さんとか、うまい人がたくさん居て、私の入り込む隙間は無いですし」
と彼女は答える。
 

「映画『黄金の流星』でアクアちゃんのボディタブルをしたのではという噂も立っているのですが」
 
「その映画は公開されるまで知りませんでしたし、私はアクアちゃんと身長が違いすぎるのでボディダブルとか無理です」
「ああ、それはあるかもね」
 
「それにボディダブルする女優さんは相当演技が上手い人でないと無理です。特にアクアちゃんは上手いから彼女のボディダブルができる人は限られると思いますよ。私はかいわれ大根役者ですから」
 
「かいわれ?」
「まだ大根に育つにも時間が掛かる状態ですね」
「ああ」
 

このインタビューは後日、本人の許可を得て、全国放送でも流され、結構話題になった。中央の番組に出ないかというお話も何件かあったものの
 
「ローズ+リリーのMVは、とてもお世話になったマリさんからのお話だったので出ましたが、基本的に芸能界は引退した身なので」
と言ってお断りしていた。
 
しかし先割れフォークの事務所社長さんがわざわざ秋田まで来て話をし、彼女の都合のいい日に収録するからとまで言ったので、マリヤは出て行くことにした。
 

「久しぶりやね」
と先割れフォークのマツ也が明るく言う。
 
「その節は色々お世話になりました」
「でもアクアちゃんの『黄金の流星』はアクアが3役してたから、3人の内の1人は尾崎マリヤで、1人は姉ちゃんの尾崎珠里ちゃんかと思ったぞ」
 
「姉のことまで覚えてて頂いてありがとうございます。でも私演技力無いし、身長がアクアちゃんと違いすぎるから身代わりが務まらないんですよ」
 
「ああ、確かにあんた背が高いもんな」
「一度実際に並んだことありますけど、彼女の頭頂が私の鼻くらいの高さになるんですよね」
「だったら、マリヤの鼻から上を切断すればちょうど同じくらいの背丈になるんじゃね?」
とスキ也。
 
「顔を半分切ったら、アクアちゃんとそっくりじゃなくなるじゃないですか!」
とマリヤ。
 

このやりとりに関しては
 
「そういう問題か?」
というツッコミ多数。
 
「だいたい普通は下を切ったらと発想する」
「それを上を切ったらと発想するのがなかなか凄い」
「でもマリヤがマジに返したから笑いが取れた」
 

「ところで、マリヤ性転換した?」
とマツ也が訊いた。
 
「はい。2年くらい前にたくさんテレビに出して頂いて、たくさんギャラも頂いたので、そのお金で昨年性転換手術を受けて女の子に生まれ変わりました」
 
「おお、それはおめでとう」
 
視聴者からも「おめでとう」という声多数。
 
「ありがとうございます。だからもう戸籍上も女の子になったんですよ」
と言って彼女は性別が女性になったマイナンバーカードをテレビカメラに見せていた。
 
「おかげで、私、女子として大学を卒業できたし、女性として今の音楽教室に雇ってもらったんです」
 
「良かったな」
 
それでアクアの『お気に召すまま』の歌を歌っていたが
 
「歌がうまくなってる」
と言われていた。
 

彼女はテレビで性転換したことを明かして、生徒たちが辞めたり他の先生のレッスンに変えてくれと言わないか、不安があったらしいが、かえって「尾崎先生のレッスンを受けたい」という生徒が増えて、それまで週に12時間ほど担当していたのが、週に24時間くらい担当しないと生徒をさばききれなくなったらしい。
 
また彼女のツイッターアカウントに
「性転換おめでとう」
のメッセージが大量に来て、本人もびっくりしたらしい。
 

政子は出産の5日後、8月8日に退院して小平市の実家に戻った。退院の時、私は政子から頼まれて、かえでを抱いた。
 
政子の母は
「大輔さんに連絡しなくていいの?」
と言ったが、
 
「別に関係無いし、連絡する必要は無い」
と政子が言ったので、母は喧嘩でもしたのかなと思ったようである。
 

8月10日(水).
 
この日、日独合作映画『お気に召すまま』が全世界で公開された。この日公開されたのは、日本語・ドイツ語・英語・フランス語のバージョンで、それ以外の言語のものは順次調整中である。
 
例によって時差の関係で最初に公開されるのはニュージーランドになるのでオーストラリアからわざわざニュージーランドに行って、最初の公開を観た人たちもあったようである。
 
シェイクスピア作品の中では『ロミオとジュリエット』『ベニスの商人』、『ハムレット』『リア王』『マクベス』『夏の夜の夢』などに比べると知名度はやや落ちる。しかし色々対立があったのが、最後は全員仲直りして、何組ものカップルが誕生するという展開は、死人も出ないし(*57), 安心して観られる映画として、評価が高かった。
 
(*57) 最初のほうでシャンジュ(原作ではチャールズ)に殺されるレスラーたちは忘れられている。ただ映画はその“殺された”レスラーたちが楽屋で雑談している様子も映しているので、あの試合がデスマッチであったことは多くの観客に認識されていない。
 

原作を読んでいた人は、元の物語で唯一可哀想なことになるウィリアムにちゃんと恋人候補の女の子が提示されていて、原作よりハッピーになっていると言われた。(可哀想といえばオリバー牧師もだが彼はわりとどうでもいい)
 
アクアが男装して女役をするシーンは、1度見ただけでは状況が把握出来なかった人も多くあったようで、3回くらい見てから
「やっと分かった、アクア姉弟すごい」
などと言っていた人も結構居た。
 
シェイクスピアの時代でも1度だけでは分からなかった観客が結構居たのではないかと思う。
 
「これは男同士のラブシーンか?」
と誤解して怒った宗教指導者などもいたらしいが、映画会社の社長がきちんと説明すると
「ああ、男と女なら問題無い」
と理解してくれたらしい。
 

映画のサウンドトラックも同日発売された。
 
『お気に召すまま』アクア・ヒロシ
『緑の森の木の下で』ヒロシ
『吹けよ吹け冬の風よ』ヒロシ
『愛しのオリバー』マルティン・グローツァー
『私を口説いて』アクア
『鹿仕留めたら何もらう?』松田理史
『それは彼女と彼でした』金平糖
『ごめんね。私女の子だったの』アクア
『アーデンのカノン』アーデンの森アンサンブル
『婚礼は大ジュノーの栄誉』金平糖 with アーデンの森アンサンブル
『お気に召すまま』坂出モナ with 金平糖
『チェルシカの天使』アクア
 

劇中で様々な人が歌を歌っていて映画はミュージカル的な仕立てにもなっている。松田理史の歌というのは、あまり披露されたことがないが
「松田君、結構うまいんだ」
と驚かれていた。
 
「今までなんでCD出したこと無かったの?」
と訊かれた彼は
「あまり目立つ役もしたことないし、そういうお話が無かったので」
と言っていた。
 
昨年、初主役をした『大工と鬼六』では、主題歌は大工の妹役として2-3シーンにだけ映っている(ほぼカメオ出演)宮村尚子が歌っている。松田に歌わせるというのは、最初から誰も考えていなかった!
 

劇中で純粋に主役のアクアが歌った曲は『私を口説いて』『ごめんね。私女の子だったの』の2つ、そしてエンドロールに使用された『チェルシカの天使』である。
 
『ごめんね。私女の子だったの』については
 
「とうとうアクアが性別をカムアウトした」
などと言ってネットでは騒がれていた。
 

8月11-12日(木金).
 
宮城県仙台市のゼビオアリーナ仙台で、バスケット日本女子代表(14名) は、ラトビアの遠征チームを迎えて、三井不動産カップ2022 (宮城大会) を行った。
 
この大会をもって第4次合宿を終了し、1名代表落ちを告げられた。次の合宿は13名で行われることになった。
 
キャプテンを務めている千里は、確かに今回の壮行試合で調子が悪かったもののオリンピックで随分活躍した夏井を外したことに不安を感じ、率直に彼女が居ないのは不安だと監督に言った。
 

8月11日(木・祝・たつ).
 
地方信濃町ガールズの組織再編・第3弾として、関東・関西・東海に次いで入団試験がハイレベルになっている北陸、それと北海道ほどではないが面積が広い九州、そして沖縄についても支部と§§ミュージック音楽教室との2段階組織に再編することにした。
 
信濃町ガールズ北陸
富山県富山市(呉東)・富山県高岡市(呉西)・岐阜県高山市(飛騨)・石川県津幡町(北陸支部)・石川県七尾市(能登)・石川県白山市(加賀)・福井県福井市(嶺北)・福井県敦賀市(嶺南)
 
信濃町ガールズ九州
福岡県北九州市小倉北区・福岡県福岡市早良区・佐賀県鳥栖市(九州支部)・佐賀県唐津市・長崎県長崎市・長崎県佐世保市・長崎県壱岐市・長崎県対馬市・長崎県平戸市・長崎県五島市・熊本県熊本市・熊本県天草市・大分県大分市・大分県日田市・宮崎県宮崎市・宮崎県都城市・宮崎県日南市・鹿児島県鹿児島市・鹿児島県奄美市・鹿児島県徳之島町・鹿児島県与論町・鹿児島県和泊町(沖永良部島)
 
信濃町ガールズ沖縄
沖縄県恩納村(沖縄支部)・沖縄県宮古島市・沖縄県久米島町・沖縄県石垣市・沖縄県与那国町・沖縄県南大東村
 

主として交通の便とガールズの在籍人数を考えて教室を設置しているので、地域区分などとは必ずしも対応していない。アクセス困難な地域がある所はどうしても教室数が増えている。
 
またここまでの関東・関西・東海での運営状況とガールズたちの意見から、月1回の特待生レッスンも9月以降は物理的に集まらず、北海道同様、ネットで回線をつないだリモート方式とする方針に転換することにした。
 
久米島教室・石垣島教室・与那国島教室・与論島教室・沖永良部教室は、ダンスフロアとネット機器を設置しただけのリモート教室で、レッスンは沖縄教室・宮古島教室・奄美教室と一緒におこなう分室扱いである。
 
七尾教室・天草教室・日田教室・宮古島教室・対馬教室・平戸教室・五島教室には先生が1人常駐するが、レッスンの半分は津幡教室・熊本教室・大分教室・沖縄教室・壱岐教室・佐世保教室と一緒に受ける。この形のリモート分室・リモート教室は今後増やしていく方針である。これらの教室は実は大手音楽教室と同じ場所を共用しており、そこの教室の一部または全部を借りる形を取っている。
 
南大東島教室は現地でピアノ教室をしている人が、海浜ひまわりの知人であったことから、その経営を支援して“§§ミュージック音楽教室”の看板をかげることにした、委託契約教室である。普通の生徒はそこの先生が指導するが、信濃町メイトのレッスンはリモートで行う。委託契約は今回初の試みであるが、今後この方式も増やす可能性がある。
 

8月17日(水).
 
アクア7枚目のアルバム『空の上の天使』が発売された。アルバムは結局14曲入りの大サービスである。
 
『シドレミ』水野歌絵作詞・岡原加奈作曲
『お気に召すまま』加糖珈琲作詞・琴沢幸穂作曲
『緑の天使たち』森之和泉作詞・水沢歌月作曲
『夢の余韻』波斯魔琴作詞・北沢晶菜作曲
『光の舞』伊勢真珠作詞・南海妃呂作曲
『気まぐれな天使』春野水星作詞・大宮万葉作曲
『Walk on the wall』火見紅鶴作詞・南海妃呂作曲
『白い雲』春日井戸作詞作曲
『金色の太陽』翔太&リル子作詞・醍醐春海作曲
『Secret Date』波斯魔琴作詞作曲
『私を口説いて』阿木結紀作詞作曲(映画挿入歌)
『ごめんね。私女の子だったの』夢倉香緒梨作詞作曲
『沖に娘だ』未来居住作詞・琴沢幸穂作曲
『チェルシカの天使』大宮万葉作詞作曲
 

『シドレミ』水野歌絵作詞・岡原加奈作曲
 
アルバムのタイトル『空の上の天使』にちなんで「ソラ」の上には「シドレミ」があるという、音楽関係ではおなじみのダジャレである。
 
この曲はアルバムの完成が見えてきた7月31日の朝、アクア(多分F)が青葉に連絡して来て
「お忙しい所、大変申し訳ないのですが、唐突にこんなの思いついたんですけど」
と言って、歌詞を送って来たものである。
 
東京に来ている青葉(青葉R)は伏木に残っている青葉Lに連絡して、この曲を松本花子に作曲させた。曲は昼過ぎにできてそれをLが調整してこちらに送って来たのが16時頃である。それでアクアに歌わせ、楽曲は完成した。
 
これを冒頭に入れることにしたので、タイトル曲はアルバムの3番目に置かれることとなった。
 

『お気に召すまま』加糖珈琲作詞・琴沢幸穂作曲
 
先週公開されたばかりの同名映画の主題歌である。向こうはアコスティック楽器で演奏しているが、この版は電気楽器で演奏している。
 
『緑の天使たち』森之和泉作詞・水沢歌月作曲
 
アルバムの実質タイトル曲である。森の中で見かける可愛い天使たちを歌ったもの。本来先頭に置くべき所だが、営業的な問題で映画主題歌の次に置かれた。
 
『夢の余韻』波斯魔琴作詞・北沢晶菜作曲
 
ビールのCMで流れている曲である。アクアは以前はこのメーカーの清涼飲料水のCMに出ていたが、昨年20歳になったのを機会に、そちらは常滑舞音に譲り、アクアはビールのCMになった。
 
『光の舞』伊勢真珠作詞・南海妃呂作曲
 
青葉のドライバーを務めている真珠ちゃんが書いた詩に松本花子の南海妃呂が曲を付けたものである。
 
“伊勢真珠”については
「本名をそのまま出していいの?」
と訊いたが
「平気です。この名前見たら99.9%の人がペンネームと思います」
などと本人は言っていた。
 
『気まぐれな天使』春野水星作詞・大宮万葉作曲
 
春野水星は青葉の親友・石井美由紀のペンネームである。彼女が勤めているアート工房の表側にはボッティチェッリの『プリマヴェーラ』(春という意味)の絵が描かれている。

 
ただこの絵の登場人物の顔がこの工房の社員の顔になっている。美由紀は左端のメルクリウスの顔に描かれているので“水星”である。つまり“プリマヴェーラのメルクリウス”を翻訳!して“春の水星”になったのである。
 

『Walk on the wall』火見紅鶴作詞・南海妃呂作曲
 
“塀の上を歩く”とは、大人と子供の境界の、塀の上を歩いていて、まだ大人になる勇気が無いという意味だが、この曲を聴いた多くの人がアクアが男と女の境界線上を歩いているという意味に解釈した!
 
火見紅鶴は青葉の友人、奥村春貴のペンネームである。これは彼女が高校のバスケット部の顧問をしており、その練習をしている場所が、火牛氷見体育館のフラミンゴなので、火牛氷見→火見、フラミンゴ→紅鶴、らしい。
 
ちなみに“南海妃呂”をメンテしているのは春貴自身である。だからこれは彼女が自分で作詞作曲したに等しい曲である。
 
『白い雲』春日井戸作詞作曲
 
春日井戸は青葉の友人・杉本美滝の常用しているペンネームである。滝→cascade→春日井戸らしい。読み方が少し苦しくないか?
 

『金色の太陽』翔太&リル子作詞・醍醐春海作曲
 
アクアがCMしているK製作所の太陽光パネルのCM曲である。翔太&リル子はアクアのよく使うペンネームである。田代龍虎 tasiro ryuko をアナグラムしてsyota riruko になる。でもこのペンネーム自体、アクアが男女2人であることを表しているのでは?と随分言われた。
 
「やはり、リル子がお姉さんで、翔太が弟さんなんでしょ?」
などとテレピ局から出て来たアクアを捉まえて訊いた記者がいたが
 
「逆ですよ。ぼくが翔太で、弟がリル子ですよ」
と答え、記者が
「え〜!?」
と驚いている内に、スカート姿のアクアは高村マネージャーの車に乗り走り去った。
 
MVはCMで流れている映像のフルバージョンに、なっている。
 
天照大神(あまてらす・おおみかみ)に扮したアクアが、太陽光パネルが作り出した電力でホットプレートを点け焼肉パーティーをしている。
 
出席者は、天宇受売(あめのうずめ)に扮した七尾ロマン、天手力男(あめのたぢからお)に扮した夕波もえこ、豊受大神(とようけのおおかみ)に扮した今井葉月である。そこに、罔象女神(みずはのめのかみ)に扮した恋珠ルビーがやってきて、差し入れのウィンナーを出し、パーティーは続く。
 
換気の良い環境でやっていることを示すため、風神・雷神に扮したセレン・クロムが大きな団扇(うちわ)で風を送っている所も描かれる。ちなみに恋珠ルビーはウィンナーのCMに出ている!
 

『Secret Date』波斯魔琴作詞作曲
 
青葉の友人で、高校時代には一緒に“フライング・ソーバー”というバンドをやっていた清原空帆が提供してくれた曲。空帆は最近、薬王みなみのメインライターになりつつある。
 
『私を口説いて』阿木結紀作詞作曲
 
映画『お気に召すまま』の挿入歌である。映画の中では伴奏がアコスティック楽器だが、アルバム版は電気楽器主体の演奏になっている。
 
『ごめんね。私女の子だったの』夢倉香緒梨作詞作曲
 
夢倉香緒梨は、花ちゃん・海浜ひまわり・米本愛心の3人を中心とした、クリエイター集団の名前である。§§ミュージックの多くのアーティストに楽曲を提供している。この曲は主として、米本愛心が書いた。愛心曰く
 
「アクアもそろそろ『ぼくは女の子でした。ごめんなさい』と性別をカムアウトすべき」
 

『沖に娘だ』未来居住作詞・琴沢幸穂作曲
 
映画の主題歌『お気に召すまま』の替え歌。常滑舞音が歌った替え歌バージョンを逆カバーしたもの。前述のように、MVには高崎三姉妹が出演している。
 
『チェルシカの天使』大宮万葉作詞作曲
 
アルバムの最後を締めくくる曲として制作されたが、映画『お気に召すまま』でもエンドロールに使用された。
 

8月17日(水).
 
§§ミュージック音楽教室のレッスンはお盆を避けて、14日(日)のレッスンがこの日に振替になった。
 
発足したばかりの富山教室に、先日ビデオガールコンテストの本選まで進出したが上位6名に入れなかった上原加奈が、コスモス社長名のインビテーション証書を提示して特待生として入会した。
 
「さっすが本選進出者!君うまいね!」
と褒められ、レッスンに励んだ。でも自分より上手いんじゃないかと思う生徒が数人いるので、
「すごーい。ここは精鋭の集まりだ」
と思い、身が引き締まる思いだった。
 

津幡教室には、川崎ゆりこ副社長名のインビテーション状を持った梨原可能(槇原歌音)がセーラー姿姿で現れ“聴講生”登録をした。
 
「見学だけ?レッスンは受けないの?」
「私、音痴なので」
「へー」
「でもトークとかダンスだけでも勉強になるよと言われて」
「しゃダンスとトークのレッスンに参加しよう」
「はい」
 
それで歌音は歌のレッスンは本当に見学していたが
「この子たち凄い上手い」
と感心していた。
 
やがてダンスの時間になるので歌音もレオタード姿になって参加する。
 
「君、凄くダンス上手いね」
と何人かの生徒から声を掛けられたが、いやこの子たちこそマジ上手いと歌音は思った。
 
「私身体動かすのはわりと好きだから」
「あれ?もしかして、『お気に召すまま』でハイメンの役した子?」
「出させてもらいました」
「この子、男の子?女の子?とよく分からなかったけど女の子だったのね」
 
歌音は性別の件はすぐバレると思って自白した。
 
「ごめんなさい。私男の子ですー」
「うっそー!?」
 
「でも既にちんちんは取ってるのね」
と、彼のお股のフォルムを確認して言う。
 

1人彼の素性を知っている子がいた。
 
「墓場劇団のカノンちゃんだよね?」
「はい、そうです」
 
「この子、戸籍上男の子ではあっても、ほとんど女の子だよね。おっぱいもあるし声も女の子だし。劇団でも常に女の子役で出てるんだよ。女の子の服を着て撮った写真集も出てるよ」
 
「マジ?誰か持ってる子探して見せてもらおう」
「見ていいよ」
と言って、歌音は1冊出して見せる。
「かっあいい!」
と声があがり、この写真集は、教室生たちに回覧された!
 
 
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【夏の日の想い出・赤い服】(6)