【夏の日の想い出・赤い服】(1)

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春の昇格組の中で最後まで芸名が決まっていなかった、長岡飛鳥の芸名は、“早幡そら”(はやはた・そら)と決まり、本人に通知して名刺を渡した。
 
「何かパイロットっぽい名前がお父さんが喜ぶかなと思ってね。それと君が女の子になっちゃっても使える名前がいいかなと思って」
とコスモスは言った。
 
「ありがとうございます。“そら”って名前は男も女もいますもんね。でも花や小鳥が鏤められていて可愛い名刺ですね」
「うん。信濃町ガールズの名刺は可愛いデザインになってる」
 
本当は男の子用のデザインもあるけどね(篠原君が昨年春まで使っていた。立山煌もデビュー前に使っていた)。まあこの子なら女子用デザインでいいだろうとコスモスは、セーラー服姿の彼を見ながら思った。
 

「君はまだ中学生なんだけど、わりと大人びて見えるからさ、『青空高校の午後』に出てみない?」
「わあ。地上波に出られるんですか?」
「当面はセリフ無し。たまに“全員で”というところで『はーい』とか『賛成!』とか言う程度。ギャラもとっても安い」
「でも出られるんなら、ぜひやらせてください」
「うん。じゃ先方に連絡して、収録日時をあとで連絡するよ。だいたいこの番組の収録は土日祝に行われる」
「ああ、そうでしょぅね」
 
「それで、男子生徒役で出る?それとも女子生徒役で出る?」
「言われたらどちらでもしますけど、選べるなら女子生徒役をさせて下さい」
「うん。じゃそれで連絡するね」
と言いながら、コスモスはわざわざ性別は確認する必要も無かったなと思った。
 

その日、私は雨の降るショッピングセンターの駐車場で、政子が買物してくるのを待っていた。政子の買物はだいたい時間が掛かることが多い。本人が何を買うか忘れてしまうことも多い! ただ今日は竜木梨沙マネージャーが付き添っているので、“気がついたら北海道に居た”!?なんてことは無いだろう。
 
ぼんやりと外を眺めていたら、ウェルシア(ドラッグストア)から赤いワンピースを着たアクアが高村友香マネージャーと一緒に出てくるのを見た。アクアが一般の店で買い物してるのをファンが見たらサイン求める行列ができて大変だぞと思う。
 
ところが、今度はカインズ(ホームセンター)から緑川志穂マネージャーと一緒にオレンジのチュニックとロングスカートを着たアクアが出てくるのを見る。まずい。複数のアクアを人に見られたらと私は焦った。
 
ところが今度はジュンク堂(本屋さん)から山城寛菜マネージャーと一緒の黄色いカーデガンと膝丈スカートを着たアクアが出てくる、嘘!?アクアってまた3人に戻ったの?と思う。
 
それを考えていたら今度はしまむら(衣料品店)から山村勾美マネージャーと一緒でグリーンのレディススーツを着たアクアが出てくるのを見る。え〜〜!?アクアって4人になったの?と思う。
 
更に今度はヤマダ電機(家電量販店)から鹿島香取マネージャーと一緒で青いセーラー服のアクアが出て来るのを見る。なんでこんなにアクアがたくさん居るの〜?と思う。
 
そして今度は映画館から南川彩佳と手を繋いだ藍色のメンズスーツを着たアクアが出てくるのを見る。なんでこんな白昼堂々とデートしてるの〜〜?と思う。
 
そして更にブライダルセンターから松田理史と腕を組んだスミレ色のロリータドレスを着たアクアが出てくるのを見る。アクアの左手薬指には大粒のダイヤの指輪が輝いている。アクアもう結婚式あげるの〜?と思った。
 

そこで目が覚めた。
 
「夢かぁ!」
と思って、私は脱力した。政子を待っている内に眠ってしまっていたようだ。
 
とにかく忙しいからなあ。身体が2つほしいよ・・・と一瞬思ってから、そんなこと考えていると作者が親切心起こして私を2人にしちゃうぞと思って警戒する(10人にしたりして)。
 
とこで今の夢、結局何人アクアが出て来たんだっけ?と私は指折り数えてみた。
 
しかし政子はなかなか出てこないなあ。どこ行ってるんだ?
 

その日、常滑舞音はΛΛテレビの歌番組で、近々公開される映画『黄金の流星』のトレーラーでも流れている曲『愛しのクレメンタイン・隕石水没版』を歌った。
 
In a cavern, in a canyon, excavating for a mine,
Dwelt a miner, nineteen eighter, and his pretty toy Golden ball.
 
Oh my darling, oh my darling, oh my darling, Golden ball.
You are sunk and gone forever, dreadful sorry, billion franc.
 
(大意)
洞窟の中に、谷間の奥に、鉱脈を探して
住み込んでる鉱山掘りの1908年者、そして彼の楽しいおもちゃ、金の玉
愛しの、愛しの、愛しの金の玉
君は沈んじゃって永遠に居なくなった。なんて可哀想な超フラン。
 
ただテレビの歌番組では英語歌詞だけでは寂しいので、舞音はその後、この歌の有名な替え歌である『雪山讃歌』を歌った。「雪よ岩よ我らが宿り」というものである(作詞は西堀栄三郎(1903-1989)ほか多数の山男たち)。この日招き猫バンドは電気楽器で伴奏している。但し大崎忍はアコスティック・ヴァイオリンである。これは映画では公開されてないバージョンである。
 

歌い終わってから、司会者のブリックリンと少しおしゃべりする。
 
「歌詞の中で何かゴールデンボールって歌ってたけど、金玉じゃないよね?」
 
(↑20時台の番組でこんなこと言っていいのか?)
 
「金玉です。アクアちゃんが映画の中でハッキリ言ってます」
と木下君!が答えた。
 
多分万一この発言が上のほうの人に咎められても舞音が出入り禁止になったりしないように自分が答えたのだろう。
 
「アクアちゃんが金玉って言ってるの?それは映画見なきゃ。やはり金玉落っことして探すけど見付からなくて、ぼくの金玉無くなっちゃったよぉとアクアが泣く話?」
 
「ネタバレになるけど、それ割と合ってますよ」
と木下君。
 
多分このやりとりで映画見ようという人が5万人は増えた。
 

それで司会者が
「次は赤いトマトの皆さんです」
と言ってファンファーレが鳴ったのだが、
 
出てこない!
 
生番組ならではのハプニングである。
 
「おいどうした?赤いトマトどこ行ったの?」
と司会者が焦っている。ディレクターさんも焦っている。何人かADさんが走っている。電話している人もいる。
 
「その辺に居ないみたいです」
とADさんの声。
 
「どこ行ったんだ〜?」
と司会者。
 
そして司会者は言った。
 
「舞音ちゃん、1〜2分、場を持たせといて」
といって司会者まで探しに行く。
 

舞音はびっくりしたものの「はい!」と返事して、すぐ対応する。
 
舞音は招き猫のメンバーに『演奏位置について』と言った。バンドメンバーが走って行って位置に付く。PAさんが急ぎそちらの楽器の音が鳴るようにする。
 
「では今『雪山讃歌』歌ったので、これと並ぶ替歌の山の歌『アルプス一万尺』(*1)」
と舞音が言うと招き猫バンドが前奏をする(バンプ2小節)。それに続いて歌う。
 
舞音「アルプス一万尺、小槍の上でアルペン踊りを踊りましょ」
木下「へい!」
谷口・平田「ラーンラランラ・ランランランラン・ラーンラランラ・ランランランラーンラランラ・ランランランラン・ランランランラン・ラン」
 
(篠原君はドラムスなので声を出すゆとりが無い。忍はヴァイオリンなので歌えない)
 
谷口たちとのコーラスに合わせて舞音が“アルペン踊り”っぽい踊りを踊っている。
 
舞音「隣のじっちゃん・ばっちゃん、芋食って屁こいて、パンツに穴開いて空を飛ぶ(*2)」
木下「へい!(屁!?)」
谷口・平田「(コーラス)」
 
舞音は両手を横に広げて、飛行機のポーズで空を飛ぶように走る。
 
舞音「親父の頭に沢庵(たくあん)載せて、これがホントの親孝行(お香香)」
(舞音は木下君の頭に箸で摘まんで沢庵を載せるような仕草をする)
 
木下「へい!」
谷口・平田「(コーラス)」
 
舞音「親父の頭に雑巾(ぞうきん)載せて、これがホントの親不幸(拭こう)」
(舞音は木下君の頭を雑巾で拭く仕草をする)
 
木下「へい!」
谷口・平田「(コーラス)」
 

(*1) 『アルプス一万尺』の元歌は、アメリカの独立戦争の時のことを歌った歌『Yankee Doodle』である。元歌の
 
Yankee Doodle keep it up
Yankee Doodle dandy.
Mind the music and the step
And with the girls be handy
 
という部分が「ランラランラ・ランランランラン・・・」になっている。
 
(*2) とってもどうでもいいが「隣のじっちゃん・ばっちゃん」を「田舎の」と歌うバリエーション、また「芋食って」を「地獄で」と歌うバリエーションもある。
 

ここで赤いトマトたちが司会者と一緒に走り込んでくるのが見える。それで歌う。
 
舞音「赤と緑と黄色・オレンジのトマトをまぁるく並べりゃ、真輪(まわ(あ))っかトマト」
木下「へい!」
谷口・平田「(コーラス)」
 
招き猫は舞音が自分のパートを歌い終わったところで伴奏をやめ伴奏無しで「ランラランラン」を歌いながら引き上げる。赤いトマトが歌う曲『可愛い花束』の前奏カラオケが鳴り出す。そして舞音が赤いトマトのメインボーカル・香奈絵ちゃんにマイクを渡す。
 
「ごめんなさい」
と言って彼女が受け取る。それで赤いトマトの歌が始まった。
 
口パクだけど!
 
(歌い出す前に近眼の香奈絵がマイクに目を近づけるようにしてスイッチを切ったのがしっかり映っていた!)
 

(以下は本放送に流れてない(*3)、赤いトマト歌唱中(歌唱してるふりしている最中)の会話)
 
「助かったよ。ありがとね」
と司会者のブリックリン。
 
「いえいえ。屁こいてとか歌っていいかなと一瞬思ったけど」
「構へん。俺が金玉言うくらいだから」
「お出入り禁止食らわないかなあ」
 
「大丈夫大丈夫。でも、そいえば“親拭こう”とかやってた。懐かしい」
とブリックリン。
 
「ハプニングに乗じて視聴者を楽しませるのが芸人だって、よく社長から言われてます」
と舞音。
「ああ、あんたん所の社長はそれが上手かった」
と先に歌っていた大岩新吾(元カレーブレッド)。
 
「俺コスモスちゃんのライブ行ったことあるけど、歌は歌わずにひたすら観客を笑わせてた」
とブリックリン。
 
「JASRACへの支払いが少なくて済みますね」
「ほんまやね!」
 
(*3) 本放送では流れなかったが、後日スペシャル版で流された。
 

舞音はこの番組の常連で同じ日に2曲歌うことも多いので、ブリックリンは舞音の対応能力を信頼していた。それで任せたのだろう。この日既に舞音は『いきなりキナリ、シルキーなり』と『愛しのクレメンタイン』と2曲歌っていたのと、長さの調整が利く曲として『アルプス一万尺』を歌ったが本家の歌を立山煌が歌っていたので、舞音は替え歌で歌った。
 
でもこの歌も音源化してほしいという声があったので、後日立山煌のCDに収録する方向で考えることになった。
 
この件は後でプロデューサーからコスモスにもお礼の電話があった。赤いトマトの事務所社長からはお詫びと感謝の電話があった。完璧に出番の時刻を勘違いしていたらしい。でもテレビ局の楽屋係の人も厳重注意をくらった(可哀想に)。彼女は4月に入社したばかりの人で、赤いトマトに声を掛けようとしたら居ないので焦って探していたらしい。
 
視聴者からは
「タトゥーばりのドタキャンかと思った」
という声があった。
 
赤いトマトの公式ツイッター・アカウントからは
「ご迷惑かけてごめんなさい」
とい謝罪のツイートがあった。
 

「赤い服着ていた男の娘〜♪」(*4)
と唐突に政子は歌い始めた。
 
「ヒジュラーさんに連れられて行っちゃった」
「いーまでは女の子になっちゃって〜」
「ヒジュラさんのお国に居るんだろう♪」
 
私は言った。
「その歌、“ひいしいさんに連れられて”と覚えてる人は時々いるけど、ヒジュラ(*5)が出てきたのは初めて聞いた」
 
「元は何だっけ?」
「異人(いじん)さん、だよ」
「イジンって偉い人?」
「外国人という意味の異人。エイリアン(alien)を直訳した感じたね」
「なるほどー」
 
「でもヒジュラ集団ってあちこち旅をして回っているから、行く先々で“素質のある子”を実際にスカウトしてるらしいよ。女の子の服着てる男の子がいたらきっとスカウトしてる」
 
「へー」
「私がインドで生まれてたら多分スカウトされてる」
「そんなことはない」
「そう?」
「だって女の子をスカウトする訳無い」
「うむむ」
 

(*4) 元歌『赤い靴』(1922) 野口雨情(1882-1945)作詞・本居長世(1885-1945)作曲。元歌詞:−
赤い靴はいてた女の子、異人さんにつれられて行っちゃった。
横浜の埠頭から船に乗って、異人さんにつれられて行っちゃった。
今では青い目になっちゃって、異人さんのお国にいるんだろ。
赤い靴見るたび考える。異人さんに逢うたび考える。
 
(*5) このシリーズの読者には多分説明の必要は無いとは思うが、ヒジュラはインドの中性ダンサーの集団。インドの結婚式にはヒジュラの祝福の踊りが不可欠である。半陰陽の人も含まれるが多くは女装者で、睾丸を除去する(非正規の)手術を受けている人も含まれている。
 
マハーバーラタで、アルジュナ王子は去勢された後アルジュニーヤという女性名を名乗り、女踊りを習得する。この伝説がヒジュラにつながっているかも知れない。
 

「でも昔はアメリカに行くのも凄い時間掛かってるよね」
「20世紀初頭の頃で半月くらいかかってる」
「あ、意外と速いんだ!」
「運賃は今の飛行機の10倍くらいしたはず」
「ああ。そうかもね」
「野口英世がアメリカに留学した時、知人から今のお金にして200万円ほど渡航費として借りてるけど(*6)、彼が乗ったのはスティアリッジ (steerage) だからね」
「何だっけ?」
「ほぼ荷物扱いの最下級船室」
「ああ、映画『タイタニック』で出て来たね。部屋の外に出るの禁止の区画」
「うん。貧乏人を“乗せてやってる”場所。外に出さないのは検疫上の問題。航海中に死人が出るのはごく普通。古くは食事はバケツで与えられていた」
「食事というより餌だな」
「まあそういうエリアだよ」
 
「それが嵐に遭うと漂流してロビンソン・クルーソーになっちゃうのね」
「タイタニック以降の船なら通信の装備があるから大丈夫と思うけどね」
 
(*6) 野口英世は留学するに当たり、婚約者の斉藤ます子が300円(今のお金にして200万円)工面してくれたのを横浜の遊郭で使い切り、知人の血脇守之助が高利貸しからあらためて300円借りてあげたのを持って渡米した。野口にはこの手の話が異様に多く、研究所の蔵書を勝手に持ち出して売った事件などもあるし、研究者としては優秀でも、女と金に極めてだらしない人物であった。斉藤ます子に関してはほとんど結婚詐欺である。
 

「そういえば『十五少女漂流記』(*7)って誰の原作だったっけ?」
と政子は訊いた。
 
「あれは『十五少年漂流記』というジュール・ヴェルヌ原作の小説のパロディというかオマージュだよ」
 
「ああ、ジュール・ヴェルヌか」
「原題は『2年間の休暇』(Deux Ans de Vacances) だけど、日本では『十五少年漂流記』という邦題でよく知られている。それの少年を少女に置き換えたものね」
 
「つまり性転換したのか」
「別に性転換した設定ではないと思うけど。置換しただけだよ」
 
「でも男ばかり15人もいたら、絶対女がほしくなるよね。半分は性転換手術受けるべきよ」
「うーん。矢崎透さんの『レディM』という作品では漂流する宇宙船の中に男ばかりいたので、ひとりが女に改造されてしまうけど」
 
「やはりそうなるのが自然よね」
 
自然なのか?
 

(*7) 『十五少女漂流記』は1992年の日本映画。奥山佳恵や山本未來などがこの映画でデビューした。それとは別に(この物語時点より後だが)2023年に舞台作品として『十五少女漂流記』が製作されている。
 
『十五少年漂流記』には翻案物が多い。『無人惑星サヴァイヴ』(2003)なども舞台を宇宙に置き換えただけで、かなり元の小説のプロットを追っている。『漂流教室』は学校まるごと漂流させてしまったもの。古いアニメだが、『冒険ガボテン島』なども人数は少ないが、同様のプロットで作られたアニメ。
 

「でもジュール・ヴェルヌって凄い作品が多いよね。アクアが出演した『80日間世界一周』とか『気球に乗って5日間』とか。今度公開される『黄金の流星』は3本目のヴェルヌ作品だね」
 
「気球のは本当は原作は『気球に乗って5週間』なんだけどね」
「なんで5日にしたのよ?」
「原作ではアフリカをザンジバルからセネガルまで横断して6500km飛行したから5週間掛けたけど、あの映画は日本で撮りたいという意向があって、日本国内で5週間も気球で旅するのは不可能だし。だから福岡から東京まで900kmを5日で飛行した」
 
「ううむ」
 
「ヴェルヌの作品で他には『月世界旅行(原題:地球から月へ)』『月を回って』、『地底旅行』、『2年間の休暇(十五少年漂流記)』の原形と言われる『神秘の島』、『蒸気の家』『グラント船長の子供たち』『悪魔の発明(原題:国旗に向かって)』、『空飛ぶ戦艦』『南十字星』『エーゲ海燃ゆ』『アドリア海の復讐』、それから『ひょっこりひょうたん島』の元ネタと言われる『プロペラ島』、・・・」
 
「あ、『海底20万里』もだよね?」
「『海底2万里』!」(*8)
 

(*8) この作品の原題は『Vingt Mille Lieues Sous Les Mers』で直訳すると『海面下2万リュー』である。リュー(英語ではリーグ)というのは、人が1時間に歩く距離として定義されたもので時代や地域によって異なるがだいたい3-7km くらいである。これが日本の“里(り)”の長さに近いことと“リュー”と“里”が音も似ているので『海底2万里』というのが、邦題としては定着している。
 
(正確には「海底」ではなく「海中」にすべきだと思う)
 
ところが西洋の作品に“里”はおかしいのではと勝手に考えて『海底2万マイル』と書く人がある。これは完全な間違い。マイル(1609m)で言うなら、2.5倍くらいして『海底5万マイル』くらいにする必要がある。だいたいマイルは英米で主に使用された単位でありフランスでは使わない!また同様に『海底2万海里』と書く人がいるが海里(1852m)で書くなら『海底4万海里』くらいにしないと誤り。
 
なお過去に『海底6万マイル』というタイトルの訳本が出たことがあるらしい。これはまともだと思う。でもなぜわざわざマイルに換算する?という問題はある。kmに換算するなら分かるが。
 
それにしても『海底20万里』はさすがに無茶だ! 80万kmくらいになるから、地球を20周である!
 

八雲真友子課長は、わざわざ小平市の政子の実家まで訪ねてきて言った。(政子はここしばらく実家に居る)
 
「ローズ+リリーのシングルを作りましょう」
「ああ」
「マリさんが出産するまでは次のアルバム製作が起動できないだろうけど、あまり間が空いてもいけないので、シングルを出すべきだと思うんですよ」
 
「じゃ『赤い服』」
とマリが言う。
「それ駄目だって」
と私は言うが、八雲さんは
「どんなのですか?」
と訊くのでマリは歌ってみせる。
 
「駄目です」
と八雲さん。
 
「なんでー?」
とマリは不満そうである。
 

「じゃ『Rain』」
と私は言った。
 
「どんな曲?」
とマリも言うので、私は作成済みのMIDI音源に追わせて歌ってみせるI
 
「面白ーい」
とマリは言うし、八雲さんも
「楽しい歌ですね」
と言った。
 
「ねね。MV作る時、その雨の中で車に乗ってくるの全員アクアにしようよ」
「実は駐車場で待ってたら7人のアクアが別々のお店から出てくる夢を見て、それでこの歌を書いた」
 
歌では雨の中をドライブしていたら、傘を持っていなくて雨に濡れていた7色の服を着た人物が乗って来る物語になっている。
 
「それはぜひ7人のアクアに出演してもらおう」
「アクアのスケジュールが取れないって」
「アクアって10人くらい居るんでしょ?1人くらい都合付かないの?」
「アクアはひとりだよ」
「それ絶対嘘だ」
 

5月29日(日).
 
信濃町ガールズ、夏の昇格試験受験者のリモート審査を行った。
 
事前の各支部内の審査で、受験者は↓の数に絞り込まれている(かなり厳しい審査だと思う)。
 
北海道2 東北2 関東3 東海2 北陸2 関西3 中国1 四国1 九州2 沖縄1
合計19名。
 
この19人のパフォーマンスの録画を花咲ロンドと三田雪代・桜井真理子の3人に見てもらい、各々点数を付けてもらった。その点数を「“補数の幾何平均”の補数(*9) 」で低い順に並べておいた。
 
この日のリモート審査では、全員回線を繋いだ状態で、その予め定めた順番(この日の朝に通知)にパフォーマンスしてもらう。
 

(*9) 幾何平均とはn個の数を掛け合わせて、そのn乗根を採ったもの。言い方を変えると、対数の算術平均の指数である(実用的にはこれで計算する)。原理的にどれかひとつの数が0なら、幾何平均もゼロになる。
 
例えばAさんに全員が70点を付け、Bさんに全員80点を付けた場合、補数の幾何平均は
A:(30×30×30)1/3=30→補数=70
B:(20×20×20)1/3=20→補数=80
 
となるから、Aが先にパフォーマンスする。
 
この順位付けは、基本的に点数が低い順だが、凄く良い点数を付けた人がいた場合、後ろの方に並べられる。
 
ここに算術平均ではBさんと同じになるCさんが 70,80,90点だったとすると(30×20×10)1/3= 18.17 補数=82.83 となり、Bさんより後ろに並べられる。
 
極端な話、誰かが100点を付けたら、補数の幾何平均の補数は100点になる。一応90点までの範囲で採点するよう言っておいた。
 

各支部で選抜されてきただけあって全員物凄くレベルが高かった。特に関東・関西・東海・北陸から参加した10人は即戦力レベルである。この10人を全員採用したい気分だが、そういう訳にもいかないので、下記6名に合格を告げた。
 
関東2名・関西2名・東海1名・北陸1名。
 
彼女たちには6月12日に熊谷に集まってもらい最終審査を行う。
 
落ちた13名には、とても惜しかったことをを伝え、次回までに改善してほしい課題を与えた。
 

5月末で第3回ビデオガールコンテストの1次試験合格者について、保護者の芸能活動許可証の提出期限を迎えた。この日までに許可証(と誓約書・生徒手帳のコピー)を提出したのは1次合格者121人のうち99人(81.8%)だった。1次合格者の内54人が地方信濃町ガールズ(特待生)だったのだが、この54人は全員許可証を提出している。つまり2次試験は54名の信濃町ガールズと45名の一般応募者で争われることになる。なお、昇格オーディションに出てきた19名は全員ここに入っていた。
 

2022年6月1日(水).
 
常滑舞音の14枚目のシングルが発売されたが、この件は翌週発売されたアルバムと一緒に解説する。
 

6月2日(木).
 
埼玉県北部と群馬県南部の一部地域で大きな雹(ひょう)が降った。雹は大きいものではテニスボール大もあり、建物や農業用ビニールハウスなどで結構な被害が出た。熊谷の郷愁村では、6月2-3日は予約客以外宿泊客の受け入れを停止して、建物被害の調査をした。
 
お客さんの車は全て地下駐車場に駐めているし、コテージのお客さんの車も屋根のある駐車スペースに駐めている(*10) ので被害はなかったが、ホテルの車でガラスの割れたものがあった。
 
白雪城も緊急点検をしたが大きな被害は無かった。春日部の全天候型スタジオでは普通なら台風が来ても内部は静かなのだが、屋根の防音シートでは防ぎきれない凄い音がして撮影が中断した。やんでから点検したが、屋根には大きな被害は出ていなかった。でも防音シートを貼り直す(実際には貼り重ねする)ことになった。これは翌週平日に行なったがこの作業で2000万円掛かった!
 
ムーランエアーでは雹の降った時間帯から2時間、郷愁飛行場の滑走路を閉鎖して点検したが、異常は無かった。ミューズ飛行場からこちらに向かっていた便は引き返して、点検終了後、再度フライトした。
 

(*10) 撮影の事後承諾を得るために『霊界探訪』の放送予定ビデオを若葉に見せたら「隣のコテージから侵入できるのはセキュリティ・ホールだった!」と言って、放送(6/17)前の5月中に緊急工事をして“侵入防止”のために駐車スペースとコテージへの進入路を壁と屋根で覆った。その屋根が今回役に立った。それで若葉は「雹でお客様の車に被害が出なかったのは千里のお陰」と言っていた。勝手に侵入したのは「あまりやらないでね」とやんわり注意で済ませた。
 
『霊界探訪』の放送でも「現在はコテージ間に壁が作られたので、この方法では隣のコテージには行けません」というテロップを入れた。
 

6月3日(金).
 
「お引っ越しするよ!」
と花ちゃんは宣言した。
 
一度にやると荷物運びの人手が足りないからということで、移動する人は毎週発表するのだそうだ。
 
この日発表になったのは下記である。
 
常滑舞音 C507→C509
薬王みなみ A506→C502
恋珠ルビー C302→C402
花貝パール C303→C403
 

舞音の弁
「9号室って姉妹専用じゃないの〜!?」
花ちゃんの答え
「君は荷物が多すぎるから」
多くの寮生の声
「Big4(*11)の1人として当然の待遇」
 
舞音の衣裳は実はA棟8階の空き部屋にも多数置かれている。
 
(*11) アクア、常滑舞音、北里ナナ!、ラピスラズリ
 

薬王みなみの弁
「A502の間違いでは?」
花ちゃんの答え
「横滑りさせる意味は無い」(←舞音は横滑りさせたじゃん)
 
「でもC5ってトップアーティストのフロアなのに」
「80万枚以上売ったのは、アクア、常滑舞音、北里ナナ、ラピスラズリしかいない。君はもう充分トップアーティスト」
多くの寮生の声
「あれだけ売れたら当然」
 

また男子寮で、花園裕紀が304から隣の305に移動になった。
 
「なんで隣に」
「寮長は少し良い部屋を使ってよい。405でもいいのだが」
「ぼく男の子ですー」
 
各フロアの5号室は少しだけ広い部屋になっている。1-4号室は1K (4H×8H) だが、5号室は1DK (5H×8H) である(*12)。居室の広さが1-4号室では6畳だが5号室は8畳でわりと広い感覚がある。なお3階は男の娘フロア、4階は女の子フロア。
 
セレン・クロムの声
「まあ来週の移動の予想が付くな」
 
(*12) Hは“半間”(0.9m)の略。H2は平方半間で 2H2=1畳、4H2=1坪。
 

6月7日(火).
 
千里たち日本女子バスケットボール代表は、NTCで第二次合宿に入った。
 

2022年6月8日(水).
 
ラピスラズリの12枚目のシングルが発売された。これは実は11日に放送予定の『裸の王様』の主題歌である。『裸の王様』の主な出演者の中に歌が歌える人が居なかったため、代わってラピスラズリに主題歌を歌ってくれるよう要請があったものである。歌を歌った縁で2人はこのドラマに1シーンだけ出演している。ほぼカメオ出演で“友情出演”と表示された。実際ドラマ出演のギャラはもらってない!
 
『裸の王様』(良夜夢眠作詞・花木守絵作曲)
『静かなダンスホール』(花園光紀作詞作曲)
 

6月10日(金).
 
女子寮の移動第2弾が発表された。
 
花咲ロンド C404→C504
坂田由里 C307→C507
 
佐藤ゆか C205→C305
南田容子 C202→C302
山口暢香 C203→C303
高島瑞絵 C204→C304
 
多くの女子寮生の声
「今日の移動はだいたい予想が付いてた」
 
花咲ロンドの弁
「なんで私がトップアーティストのフロアに?」
花ちゃんの答え
「寮長はトップでよい」
多くの女子寮生の声
「お偉方は一番上の階でよいと思う」
 
坂田由里の声
「なんで私がトップフロアに?そんなに売れてる訳でもないのに」
花ちゃんの答え
「君は舞音ちゃんのスタッフでもあるから舞音の近くが良い」
多くの女子寮生の声
「わざわざ507を空けたのでこの移動は予想していた」
 
佐藤・南田・山口・高島の声
「私たち大して活動してないのに」
花ちゃんの答え
「君たちは忙しさではトップクラス」
多くの女子寮生の声
「3階が4つ並んで空いたのでこうなると思ってた」
 

また男子寮で、七石プリムが203から304に移動になった。
 
プリムの弁
「どうしてですか?3階って男の娘フロアじゃないんですか?」
花ちゃんの弁
「すっかり欺された。てっきり男の子かと思ったら既に女の子だった」
 
「ぼく男の子ですー。ちんちんもたまたまもあります」
「いいや絶対無い。君なら女子寮に移動してもいいけど」
「女子寮とか無理ですー」
 
セレン・クロムの声
「ようこそ、男の娘フロアへ」
 

6月11日(土)、健康バッド主演の2時間ドラマ『裸の王様』が放送された。
 
健康バッドは初主演!である。
 
実は揚浜フラフラにオファーがあったが、彼が『黄金の流星』の制作中で、健康バッドに代わった。いかにも馬鹿に見えるデンデン・クラウドでは?という声もあったが
 
「馬鹿の演技は本物の馬鹿にはできない」
という声(酷い言われようだ)で、少しは脳味噌がありそうな?健康バッドになった。
 
彼も『黄金の流星』に出ている(グリーンランド首相役)が登場シーンは少ないので、何とか掛け持ちすることができた。
 
裸になるシーンは、Tバックを着けて撮影する予定だったが
 
「めんどくさい。全裸になりますよ」
と言って、本当に全裸になって撮影された。
 
むろんテレビに流してはならない部分はワンコちゃん!で隠している。
 
しかしデンデンクラウドだと(股間形状が男でないので(*13))全裸になれなかったから健康バッドで良かったかも!?(そういう問題か?)
 

共演の木崎望夢が
 
「ぼくが衣装を試着するとかいう場面があったら男性器無いからモザイク不要でしたね」
と言ったが
 
「いや、あんたは女に準じるから上半身も裸を撮せない」
と健康バッドのヘルプで付いてきたニセクイーン東に言われていた。
 
「ぼく男なのに」
と木崎望夢は言っていたが。
 
彼はバストは無いから上半身裸は映してもいい気がする。
 

演技は健康バッドの熱演で、なかなか評価は高かった。
 
「上手い演技とはお世辞にも言えないけど、一所懸命演技しているのが好感できる」
「ちゃんと笑いを取ってるのが偉い」
「常識から逸脱したセリフを真顔で言えるのは素晴らしい」
 
と、褒められて?いた。
 
主題歌を歌ったラピスラズリは王様の給仕係として1シーンだけ出ている。
 
“まともな”デザイナー役として、揚浜フラフラ軍団?のお笑い芸人(米田ダリヤ、漕麻央奴(こぐまお・やっこ)、魔暗胡瓜(まあきゅうり)、ローカル竹田、ニセクイーン東などなど)がだいたい逝かれた格好で出ていた。
 
そして最後に登場する詐欺師を演じたのは、先日“羅切”したことでも話題になった、木崎望夢である(*14) 彼はダーバンの紳士用スーツを身に付け、 髪は七三に分け、物凄くまじめな雰囲気で詐欺師の役を演じた。
 
「やはり詐欺師っていかにも信頼できそうな顔してるんだろうな」
と視聴者の間では言われていた。
 
でも彼が詐欺で王様から巻き上げたお金を孤児院に寄付して、子供たちから慕われている場面も映して、彼がわけあって詐欺を働いていたことを想像させていた。本人は
 
「子供たちやミニオンたちと遊んでる怪盗グルーの雰囲気で演じました」
と言っていた。
 

(*13) デンデンクラウドが男のままだと絶対その内痴漢として捕まる(実際、痴漢と誤解されて警官に捕まりそうになった)と心配した、千里・マリナ・丸山アイの3人により、女とセックス不可能な身体に変えられてしまった。
 
彼は上半身はバストがなく普通の男の形だが、ペニスには尿道が付いておらずおしっこは女の位置から出る。尿道が付いてないから大きなクリトリスという気もする。睾丸・陰嚢は存在せず、代わりに陰裂がある。膣は無いが、性別検査されたら、女と判定されるかも?
 
ケンネルからは「病院に行ったらペニスみたいに見える棒を切ってヴァギナ造って完全な女にしてもらえるかも」とからかわれた。
 
クラウドもこの番組に出してもらったが、彼はあまりにも演技力が無いので王様の御者役でセリフは無しだった(ほぼエキストラ並み)。でもギャラを1万円もらって喜んでいた。
 

(*14) このドラマは木崎望夢がペニスを切除したことを明かした翌週に撮影された。事務所の社長は鳥山プロデューサーにおそるおそる
 
「彼を使ってもらえますか?」
とお伺いを立てたが、鳥山は
 
「私が欲しいのは演技力のある人であって、木崎君は私のイメージにピッタリなんです。性別は問いません」
 
と答えて予定通り起用した。実際直前に降板されると代役捜しが大変である。鳥山が言うように、この役は結構な演技力を要求するのである。王様役よりよほど難しい。そして実際の彼の演技は充分鳥山を満足させるものだった。
 
鳥山は
「この詐欺師役は男でも女でも台本上問題無いのでレディスを着てもいいですよ」
 
と彼に言ったが
 
「ぼくは男だから紳士服を着ますよ」
と言って自前のダーバンのスーツを着て演技した。
 

「王様、どうして裸なの?」
 
というセリフを言ったのは、小学1年生で信濃町ガールズ関東にも所属している(準特待生(*15))岩旗良美くんである。
 
男の子である!
 
名前が中性的だし、ビジュアルが物凄く可愛いので、女の子が男の子役で出演したと思った視聴者がほとんどだったようである。彼は信濃町ガールズ関東に2人の姉(小5・小3)が入っていて
 
「ぼくもレッスン受けようかなあ」
と言って入れてもらった。1年生とは思えない歌唱力を持つ子で入団試験もマジでパスしている。テレビ局のディレクターの従姉の息子さんに当り、
 
「よしみちゃん、ちょっと出てみない?」
と言って起用したもの。堂々とした演技で、他の出演者たちに感心されていた。
 
もっとも全ての出演者・スタッフが彼を女の子だと思い、男子トイレに入ろうとしたのを
 
「お芝居で男役を演じてても女の子が男子トイレ使ったらダメ」
と言われて女子トイレに放り込まれてしまったとか?
 

(*15) 準特待生というのは旧制度の地方ガールズ練習生を移行したもので、レッスンは無料で特待生と一緒に受けられるが、地方公演のバックダンサーなどは務めない(主として労働法規上の問題)。基本的に小学1年生以上5年生以下である。入団試験は小学校入学前でも受けられるが、入団は入学後。
 
中学生になると自動的にガールズ(特待生)に昇格する。物凄く優秀な場合は小6で昇格する場合もある。年末の時代劇や映画などで子役として起用される場合もある。直江姉妹の妹・直江アキラがかつて関東ガールズ練習生だった。
 

なお、次回はスパイスミッション主演と発表され、
 
「次回は安心して見られる」
という声が大だった!
 

6月12日(日).
 
信濃町ガールズ昇格オーディション本選が熊谷の§§ミュージック分室で行われた。
 
結果下記3名を合格とし、残り3名は“昇格保留”とした。この3人は次回の昇格オーディションの時(冬季の定例昇格オーディションの時とは限らない)にこちらから問い合わせて、昇格を希望する場合は無審査で昇格できる。
 
今回合格したのは下記3名である。
 
横川光照(中3)(関東:鴨川市)
守口清美(中2)(関西:尼崎市)
観音倭文(中2)(北陸:砺波市)
 
横川君は男子であるが、とても優秀なので合格にした。彼は『黄金の流星』でグリーンランドの小隊長の役をしており、セリフが結構あったが、しっかりした演技をしていた。観音倭文さんは“観音”なんて苗字はお寺の娘かと思ったら、神職さんの娘らしい!下の名前は「しず」と読むらしい(千里は神社に詳しい人なら読めると言っていたけどそうなの?)
 
合格した3人と合格保留になった3人はビデオガールコンテストは辞退した。それで2次試験は48名の信濃町ガールズと45名の一般応募者で争われることになった。
 
今回合格した3人は1学期が終わった所でこちらの学校に転校してきて寮に入り、信濃町ガールズになることになる。
 

「ぼく男の子なのに、信濃町ガールズを名乗るのはちょっと、あの付近がむずかゆいんですけどね」
などと横川君は言っていた。
 
「むずかゆいなら、いっそ取っちゃう?」
とゆりこ。
「嫌です!」
と本人は速攻で言った。どうもこの子は普通の男の子っぽい。
 
「でも“ガール”というのは昔は男女区別なく若い人のことを言ったんだよ」
と千里が言う。
 
「そうなんですか?」
「そうなの!?」
 
「特に性別を明示したい場合は、女の子は gay girl, 男の子は knave girl と言った」
「ネイブ?」
「トランプのジャックあるいはタロットのページがknave になってるカードがあるでしょ? k-n-a-v-e ネイブ」
「ああ、そのスペルか。確かに見たことある」
「knave自体に男の子という意味がある」
 

「しかしgay girl って知らずに聞くと男の娘の意味かと思っちゃいますね」
と横川君。
 
「gayは古い時代には“可愛い”とか“魅力的な”という意味もあったんだよ」
「へー」
 
「可愛い子なら、男の娘も可愛い子で gay girl だったりして」
とゆりこ。
 
「まあだから信濃町ガールズというのは男女居ていいんだよ」
と千里は言う。
「信濃町ガールズが半数くらい男の娘になったりして」
とゆりこ。
「勘弁して〜」
とコスモス。
 
「それで全員スカート穿くんでしょ?」
と花咲ロンド。
 
「スカート穿くんですか〜?」
と横川君が焦っている。
 
「大丈夫だよ。ショートパンツでもいいから」
と私。
「ショートパンツ穿かせてください」
と本人。
「もちろん穿きたかったらスカート穿いていいからね」
とゆりこ。
「遠慮します」
と本人。
 
「girlの代わりにchildを使って、男の子を knave child, 女の子を maiden child ということもあった」
と千里。
 
「ああ maiden のほうが分かりやすい」
と花ちゃん。
 

横川君は1学期が終わったところで東京に引っ越してることになっていたのだが、彼はすぐ参加したいからと言って、13日(月)に学校側に転校を申し入れ、14日(火)に数日分の着替えを持ち、引っ越してきてしまった。他の荷物は後でお父さんが車で運んでくれることになったらしい。
 
彼は男子寮203に入れた。七石プリムが先日まで入っていた部屋である。
 
隣の立山煌が
「わあ、間違い無く男の子だ。中間仲間」
と言って喜んで握手していた。
 
声変わり済みの男の子の入団は2019年の篠原倉光以来である(2020年春の夢島きららは声変わり済みだったけど男の娘!)。
 

私たちは『ミュージシャンアルバム』の取材を青葉邸ですることにしたので、〒〒テレビでは、青葉邸で機材設置と撮影のシミュレーションをしていた。ここで作業しているのは、この番組の責任者・長江ディレクターと報道部のカメラや照明のスタッフ、それに青葉の代理で、真珠・明恵である。
 
作業が進む中、朋子が真珠(まこと)に声を掛けた。
 
「ね、ね、まこちゃん、取材している間にこどもが走り込んでしまったりしたたらまずいと思うのよ。取材中は私たち外出しておいたほうがいいかなあ」
 
「どこか離れた部屋に居ればいいと思いますよ」
「でも適当な部屋が無くて」
「え?無いですか?」
 
それで真珠は立ち会いを明恵に任せて、奥の方に行くが、確かに適当な部屋が無い。
(青葉邸2022.5時点)

 
「なんでこの家、こんなに広いのに余分なスペースが無いの?」
と真珠は疑問を言う。
 
(↑部屋を“詰めておかないと不安になる”千里の貧乏性のせい)
 
「ここの青葉の作業部屋と隣の楽器部屋は、隣家のスタジオに移動したから空き部屋なんだけどね(上図左側)」
と朋子。
 

真珠は千里に電話した。
 
この電話を取ったのは千里5(Grace)である。ここ数ヶ月北陸案件を担当している千里4(Robin) は剣道の指導中、芸能関係を担当している千里6(Victoria)はコスモスと打合せ中だった。
 
「はーい、まこちゃん、どうしたの?」
「えーっと、いつもの千里さんじゃないみたいだけど、ミュージシャンアルバムの取材を青葉さんの家のサンルームですることになった件、聞いてます?」
「うん聞いてる」
 
「それで取材をしてる間、由美ちゃんたちが過ごせる部屋が無いんですよ。裏庭が空いてるし、サンルームのほうに音が響かないプレイルームかサブリビングでも増設しません?」
 
「ちょっと待って。図面確認する」
と言って見ていだが、千里5(グレース)の手元にあるのは少し古い図面のようだ。
 
「現地に行ってみるか」
と独り言のように言うと、電話の向こうの真珠に
「今からそちらに行く」
と言った。
 
「ほしちゃん、しばらく司令室見ててね」
「えー?」
と言っている花星と、基本的に司令室に常駐している小道とに留守を任せてグレースはRX-8で出掛けた。
 

真珠が電話を終えて5分もしないうちに、青葉邸に青いRX-8が入ってくる。
 
それで千里は勝手に中に入ってきて奥から出て来た真珠とハイタッチする。
 
真珠は“この千里”さんはここ半年くらい一緒に作業している千里さんと同じくらいのパワーの持ち主だと思った。つまり去年まで時々顔を出していた千里さんの多分倍くらいのパワーがある。
 
(↑と真珠が思っていることは千里にはバレバレである:むろん千里たちが自分の本来のオーラを見せているわけがない)
 
ともかくも、2人で奥の付近の状態を見てみた。
 
(再掲)

 
「元制作室と音楽倉庫の壁を取っちゃえば、増設しなくてもリビングが1個できそうな気がする」
「ですね」
「あと青葉の部屋の横がデッドスペースになってるから、東側の部屋を全部右にずらせば左側にその分のスペースができる」
「ああ、あそこは意味ないと思ってました」
 
(本当はお客様があった時、臨時に部屋を作るためのスペースだった。でも壁を立ててボルトで締めて部屋を作るとか、工作事に慣れた男手が無いと無理)
 
「ちょっとこの状態の図面を書いていこう。播磨工務店の子たち、全然図面を更新しないんだから」
と文句を言っている。
 
それであちこちレーザーメーターでサイスを測っていた。
 

2人がサンルームの方に行くと明恵が言った。
 
「ね、この部屋少し殺風景でしょ?ポスターか何か貼らない?」
 
「ポスターはむしろ玄関からこの部屋までの通路に貼ろう。この部屋自体には、十二支の絵でも描いて貼ろう」
 

「ああ、十二支とかいいですね。格調高くて。でも誰が描く?」
「遙佳ちゃん」
と千里は言った。
 
「なるほどー。彼女絵がうまいもん」
「モデルが必要なら十二支全部用意するよ」
「龍もですか?」
「ああ、知り合いの龍にモデルを頼むよ」
 
それでとっても写実的!かつ可愛い十二支の絵が出来上がるのである。
 

遙佳はさすがに龍の前ではビビって
 
「私美味しくないですから」
などと言っていた!龍は笑っていた。
 
でもモデルが青龍だったので、とても可愛い龍の絵ができた。
 
「女の子の龍もいたんですね」
「そりゃ男女いないと子供が作れない」
「・・・・男の子の龍って、ちんちんぶら下げて飛んでるんですか?」
「クジラと同じ方式だよ」
「なるほどー」
「だから龍は見た目だけでは男女の差が分からない」
「ああ。でも五島さんは見ただけで若い女の子と分かりましたよ」
と言われて、せいちゃんは困っていた!
 
(彼もそろそろ諦めて女に性転換すべき?もう5年ほど女装生活を続けている。性転換させてあげるよというのは20年前から言われている)
 
なお、虎のモデルは琥珀ちゃんである。琥珀は遙佳が青龍の絵を描いている間、万一の場合は自分が楯になるべくスタンバイしていたが、青龍が優しい龍だったので琥珀の出る幕は無しで済んだ。
 
イノシシは高田舞花が担当したが、偶然近所の人がイノシシを捕まえた(畑の周囲に仕掛けていた罠に掛かった)のでそれをモデルに描かせてもらった。モデルを務めたイノシシは、その後、みんなに美味しく頂かれたらしい!
 
 
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【夏の日の想い出・赤い服】(1)