【夏の日の想い出・無茶言うなよ】(6)

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青葉の家の隣に作っていた宿泊用の小部屋付きスタジオは、4月中に完成。ゴールデンウィーク中に、音楽室を数メートル移動し、青葉邸との間の渡り廊下を作り、また楽器類をスタジオに隣接した楽器倉庫に異動した。また熊谷のコテージに置いていた環境も、そちらに運んで再調整した。
 
そこまで済んでから私はコスモスからこの話を聞き驚いたのだが
 
「映画の制作が終わったら、大宮先生にはそこでアクアのアルバムの編曲作業をしてもらいましょぅ」
と言うのに、大賛成した。
 
「そしたらは青葉の負担はかなり小さくなるね」
 
南田容子と立花紀子は大変だけど!
 
「それとミュージシャンアルバムの取材は以降大宮先生の御自宅を使いましょうよ」
「なるほどー!」
「UFOもスパイス・ミッションも彼女たちの自宅では取材できませんし、今後も自宅取材できるミュージシャンって少ないと思うんですよ」
「確かに」
 

それで私、コスモス、響原常務(◇◇テレビ)、漆野部長(〒〒テレビ)の4者でネット会談をして、今後のミュージシャンアルバムの取材は伏木の青葉の自宅を原則として使うということを決めた。(本人抜きで!)
 
青葉が世界水泳から帰国する日程を水連に確認すると、6月27日か28日になるということだった。
 
私は千里に電話して
「青葉が帰国後ミュージシャンアルバムの取材をさせたい」
と言った。ところが千里は言った。
 
「帰国後すぐに、重大案件で青葉をS市に連れて行く必要がある。そんなに日数は取らないはずだからその後にしてほしい」
 
「重大案件って?」
「分からないけど6月下旬に何か起きるというのを私も青葉も予感してるんだよ。人の生命に関わることで」
 
「千里も青葉も予感してるなら確かだろうね!」
ということで、取材は7月2-3日(土日)に行うことにし、UFOとスパイス・ミッションの事務所に「今度はちゃんと取材やりますから」ということで申し入れた。
 
万一青葉の都合がつかなかったら、千里を拉致する!
 

ところでヴァンドールだが、アクアが2本続けて映画を撮ることになったことからその仕事の一部を代替した松梨詩恩が多忙になり、リハーサル役の佐藤ゆかは詩恩本人以上に多忙を極めていた。
 
また高校を卒業した高島瑞江、それに大島忍も、学校のある舞音のリハーサル役として、たくさん徴用されて、これまで仕事が全然無かったのが一転して多忙になっていた。
 
南田容子はアクアが7月に制作する予定のアルバムの準備作業を進めていたし、山口暢香は、桜レポートで3〜4月は日本全国を駆け巡った。
 
それで5人は4月から新しいアルバムの制作をしようと言われていたものの全員が多忙で全く余裕が無い状態であった!
 
また桜レポートが終わった後、山口暢香は今度はフラワーサンシャインの山道秋乃と組んでラピスラズリのリハーサル役に徴用された。山道秋乃はこれまではとっても暇なアイドルだったのが、一転して多忙になって
 
「おやつ食べる時間が無ーい」(!?)
などと言っていた。
 

末次一葉(花園裕紀)と同様、ペニスが萎縮して自分でも発見不能になっていた門脇瀬那(大崎忍の妹)であるが、その夜、尿意があってトイレに行ったのにおしっこが出てこない!という問題に直面した。
 
お腹に力を入れても出てきてくれない。
 
これまではペニスが存在していた付近から、にじみ出るように出ていたのに。
 
どうしよう?
 
このままおしっこを出せないと物凄くまずい気がする。
 
トイレの中で焦っていたら、突然髪の長い10歳くらいの少女が出現する。
 
「わっ、誰?」
「ぼくは男の娘の味方、魔女っ子千里ちゃんだよ。何かお困りのようだね」
「おしっこが出てこなくて」
 
「じゃ、ちゃんと出てくるようにしてあげようか」
「うん」
 
「ちょっと貸して」
と言って、少女は瀬那のお股のペニスがかつて存在した付近よりかなり後の方に触っていた。
 

突然おしっこが出てくる。その触られていた場所から!
 
瀬那はびっくりしたが、とにかくおしっこを出したい気持ちが先行して、それが出るままにしていた。そして出終わったらその付近を拭いた。
 
「これでOKだよ」
「もしかしてぼく今度からはここからおしっこするの?」
「君のちんちんは無くなっちゃったから、今度からは女の子の位置からおしっこすればいいんだよ」
「やはりここ、女の子の位置なんだ!」
 
「ちんちんが自然消滅してしまったみたいだからね。もう男の子みたいに前に向けて出すのはできないから、女の子みたいに下に出すしかないよ」
 
「やはりぼくのちんちん無くなったの?」
「小さくなってクリトリスサイズになってるよ。尿道も閉塞してしまったみたい」
「でもぼく女の子になるには心の準備が」
「既に女の子だと思うけどなあ。良かったら割れ目ちゃんも作ってあげようか?」
「どうしよう?」
「じゃ1ヶ月後にまた来るから、それまでに考えておくといいよ」
「うん」
 

5月28日(土).
 
昔話シリーズの第3弾UFO主演『注文の多い料理店』が放送された。
 
元気いっぱいのUFOが、山猫を料理して食べちゃうのでは?と思うほど賑やかで明るく楽しいドラマに仕上がっていた。
 
山猫の声を演じたのはUFOが所属している事務所の会長・兼岩さん。本人たちは兼岩さんが演じるという話を聞いていなかったので声を聞いてマジ震え上がったとか?
 
猟犬を演じたのは昨年『ブーツを履いた猫』で着ぐるみを着て猫を演じた大内小猫ちゃん。
 
「犬の演技できるか不安だったんですけど、常滑舞音ちゃんから『君ならできる』って励ましてもらったから頑張りました」
と言っていた。
 
舞音とは“にゃんこ同盟”を結んだらしい。
 

次回は健康バッドの主演と予告されたが
「健康バッドにやらせて大丈夫か?」
「放送可能なのか?」
と危ぶむ声が多数あった!
 

5月27日(金)夜。
 
露子の遺品整理に出てきてくれた露子の妹夫婦は子供たちを寝かせつけた後で小さな声で貴昭に言った。
 
「貴昭さん、彼女おられるんでしょ?一周忌すぎたら結婚していいですよ」
「いえ、そんな人居ません」
と言いながら、政子のことををチラッと考えると罪悪感を覚える。
 
「でもこないだ来た時気付いたけど、お姉ちゃんの好みとは思えない女物の服があるし」
 
それで先日も“再婚した後も子供たちに会いに来ていいか”と訊いたのか!
 
「ごめんなさい。実はぼく女装するので、ぼくの服なんです」
「なーんだ!そうだったのか」
「女装とかしててごめんなさい」
「別にいいんじゃないですか?誰に迷惑掛けるわけでもないし」
と2人とも笑顔である。
 
「それに僕が女装してると娘たちが喜ぶんですよ。やはり娘たちには“母”が必要なんだろうなという気もします」
(↑言い訳が酷い)
 
「まあそれはあるかもね」
「再婚は三回忌すぎてから、子供たち可愛がってくれるいい人がいたら考えますよ」
「いやほんとに、いい人がいたら一周忌すぎたら構いませんよ」
と妹さんは言った。
 
貴昭自身は、政子はきっと大輔さんと結婚するつもりなんだろうなと考えていた。
 

その大輔は“他の女性”と会っていた。
 
「私は快楽求めてセックスしてるし、あんたのセックスは気持ちいいから好きだけどさ。これスキャンダルになったりしないよね?」
 
「ばれない。ばれないって」
「でもマリちゃんのお友達のケイは、業界でもかなりの権力持ってるから。私干されたら生活に困るんだけど」
 
「マリはぼんやりしてるから、俺が他の女と会ってても気付かないって。それに最近全然デートできないんだよ」
 
「マリちゃん忙しいの?」
「よく分かんねー。向こうはアルバム作ってるとかでもないみたいだし。デートの約束はしてくれるけど、全部すっぽかされる」
 
「あの子だったらマジで忘れているのかも」
「その可能性が高いと思ってる。電話しても『電波の届かない所にあるか電源が切れてます』になるし」
 
「バッテリー切れだろね。そうだ。少し“草”ちょうだいよ」
「俺は持ってねー。兄貴(百道良輔)に言ってくれ」
「あんた最近してないの?」
「ケイと約束した。マリと付き合うなら薬類も草もシャブも×(ぺけ)も(*67)やめろって」
「それ守ってるんだ?偉いねー」
「代わりにタバコ吸ってる」
 
「ああ。でも浮気はするのね?」
「草は我慢しても女は我慢できねー」
「玉抜いたら我慢できるようになるかもよ。あの手術30分くらいで終わるらしいからあんたも受けてみたら?」
「そんなの嫌だぁ!」
 
「私手術に付き添いしてあげるよ。なんなら一緒にちんちんも切っちゃう?」
「セックスできなくなるじゃん!」
「あんたなら、ちんちんも玉もなくても、女を妊娠させられそうだけど」
「無茶言うな」
 

(*67) 草は大麻、シャブは覚醒剤、×(ぺけ)はエクスタシー(MDMA) のこと。また一般に、覚醒剤は「冷たいの」、コカインは「暖かいの」という。
 
この女性タレントが、干される前に、良輔の所に遺されていた顧客リストに基づき逮捕されるまであと8ヶ月。。。
 

5月27日(金).
 
それは本人も特に深い意味があって発言したものではなかったと思われる。
 
この日、##放送の午後の生番組で、ベテラン俳優のMがこんなことを言った。
 
「アクアちゃんが自動車のCMやってるけど、彼女のお父さんは東名でベンツを飲酒運転して、スピードの出し過ぎで事故死してるんだよね」
 
生番組で無かったら恐らく編集で消された発言だった。本人も発言の重大性にすぐ気付き、
 
「いやお父さんと娘は関係無いし、もう20年も前の事故だし」
などとフォローになっているかいないか分からない発言で沈静化に努めた。
 
しかしこの発言はメーカーを激怒させた。すぐに放送局の社長に抗議の電話があり、社長はMは降板させると返事した。
 
しかしネットでは大きな波紋が広がっていき、事態は益々拡大する様相を見せた。
 

もっともネットでは発言に突っ込みがある。
 
「東名じゃなくて中央道だけどな」
「ベンツじゃなくてポルシェだし」
 
ただ誰も“娘”という所には突っ込まなかった!
 

何でもすぐに対応して“火が出る前に消火する”(鈴木社長の評)コスモスも今回ばかりは、どう対処していいか困惑した。
 
事件は19年も前のことである。高岡夫妻とアクアが別個の人格であることはファンの人たちも一般の人たちも理解してくれている。
 
しかしこれを放置しておくと、アクアがCMしている自動車の売上に確実にマイナスの作用を及ぼす。何らかの手を打たなければならない。しかしあまりに古い事件であるため、手の打ちようが無い。
 
困っていた5月30日(月)の夕方、千里から電話があったのである。(電話したのは妊娠中の2A)
 
「問題を解決できる人物の記者会見を開いてほしい。実はその人物とついさっき連絡が取れた。チャーター機で日本に帰国してもらう。明日 5/31 午前2時頃、日本に着く予定。彼は日本人で3回ワクチンを打ってるからゼロ待機になる。一応飛行機が遅れたような場合の安全を見て明日の昼くらいから記者会見できるように手配してくれない?」
 
「分かった」
 
それでコスモスは発端となった##放送の風海報道局長に電話し、高岡夫妻の事故について、重要な証言ができる人物の記者会見生中継をさせてほしいと申し入れた。生中継するのは作為的な操作が介在していないことを明確にするためである。局長は「すぐ調整する」と約束してくれた。1時間後に連絡があり、5/31 14:00 から記者会見中継が行われることになった。
 
非常にデリケートな記者会見になるのは間違い無いので、風海報道局長自身がインタビューワーに立ってくれることになった。
 
一方千里は、上島先生・雨宮先生に電話し、明日高岡さんの事故のことである人物に証言をさせるから、一緒に会見に出てほしいと伝え、了承を得た、
 

記者会見は都内のホテル会議室から生中継(##放送独占)されたが、そこに並んだ人物を見て、驚きの声が上がった。
 
「すみません。左座浪さん、生きておられたんですね」
 
「それなんだけど、酷いなあ。日本では俺死んだことになってて。ウィペキデア(本人の発音ママ)では俺の死亡日と死因まで書いてあるってんで、仰天したよ」
と左座浪本人は言う。
 
「俺の死因は、酒に酔って女湯に侵入して女キックボクサーに金玉蹴られて悶絶死したんだって。何かいかにも俺の最期っぽいじゃん」
と左座浪が言うと、記者たちが大笑いする。
 
しかしこれで随分場が明るくなった。
 
「もしかして外国にでも行っておられました?」
 
「ワンティスが活動停止して、若杉千代さんも亡くなって、社長は呆けてしまうし。それで俺はアメリカに渡って、UFCに参加したんだよ。なんならUFCのサイト見てくれ。俺のリングネーム、Ripple Nipponiaが載ってるから」
 
多くの人がサイトを確認したが、みんなRipple Nipponiaで検索された写真が確かに左座浪源太郎本人なので、みんな頷いていた。
 

記者会見に並んでいたのは、コスモス、上島、雨宮、左座浪、そして50代の女性が2人である。上島が2人を
「ユングツェダーの元社員で義浜裕恵さんと、その奧さんのハイジさん」
と紹介した。
 
2人とも女性に見えるが(*68) 夫婦らしいことに記者たちは突っ込みたかったが、本題から逸れそうなので控えた。
 
(*68) かつて“できそこないのオカマ”とか“痴漢にしか見えない”と言われた裕恵も20年の時を経て、“普通の中年女性”に進化した!
 

「まず俺が説明します」
と左座浪は言った。
 
「高岡さんたちの車の事故については結局全貌は不明なままになったことと実際に事故を起こしたと思われる人物が死亡してしまい起訴できなかったことから、警察からも明確な発表がされていません。そのため、あの事故を高岡猛獅または夕香が起こしたと誤解している人も多いようなので、ここで明確にさせてもらいたいと思い、この場を設けさせていただきました」
 
「高岡猛獅さんまたは夕香さんが起こしたのではないのですか?」
と自ら質問者に立っている風海報道局長が尋ねる。
 
「あの時はアルバム『ワンザナドゥ』を完成させるために3日くらい全員徹夜していました。だから12月26日の晩は2人とも熟睡していて運転なんかできる状態ではなかったんですよ」
と左座浪は言う。
 
「あの当時、俺は事務所の事実上の責任者として1年以上にわたり、警察から何度も何度も事情を訊かれました。それで俺は警察の捜査官の口ぶりから事件の概要を想像できました」
 
「ここで重要な事件があって、事故の半月ほど前12月14日、ワンティスがテレビ局に出演して帰ろうとしていた時、高岡さんを殺そうとして包丁を持って突進してきた女がいたんです。俺がその女を取り押さえて警察に引き渡しました。この女は厳重注意の上処分保留で釈放されましたが、事故の4日後12月31日に死亡しています。女は全身に物凄い打撲を受けていたそうです」
 
記者たちがざわめく。
 
多くの記者が、その女が車を運転していたというのを想像した。
 
「この女が12月26日の晩、高岡が住んでいたマンションのエントランス付近に居たのがマンションの監視カメラに映っていたそうです」
 
記者たちのざわめきが凄い。
 

「だから警察が最初考えたストーリーは、この女が高岡と夕香を乗せて中央道を走り事故を起こした。それで高岡と夕香は即死し、運転していた本人も強い打撲を受けて4日後に亡くなったというものだったようです」
 
実際記者たちもそれを想像した。
 
「ところがこのストーリーには重大な欠陥があるんです」
と左座浪は言った。
 
「この女は高岡が愛して子供まで作っておきながら自分たちを捨てたと思いこみ逆恨みしていました。実は生前何度も事務所まで押しかけてきて高岡に会わせろと要求していたのを追い返しています。女のアパートには子供の遺体がありました。死因は病死ということで事件性はありません。警察がDNA鑑定して高岡の子供ではないことが明確になっています。だから高岡と付き合っていたというのは女の妄想であったと推察されます」
 
ここで左座浪は言葉をいったん切った。
 
「そういう訳で高岡を恨んでいて何度も事務所を訪れていて、しかも半月前には高岡を殺そうとしたような女に、高岡が運転を任せるわけが無いんです」
 
「ああ・・・」
という声が多数、記者たちの間から漏れる。
 

「数ヶ月にわたる警察の捜査の結果、このようなストーリーが浮かびました。それは高岡は信頼できる誰かに車の運転を頼んだ。それでその人物がふたりを乗せて、中央道を走った。そして駒ヶ岳SAでトイレ休憩した。ところが運転者が休憩のため車を離れた隙に別の人物が勝手に車を運転して出発してしまった。その人物が事故を起こした」
 
記者たちの間でざわめきがある。
 
「実は自分が駒ヶ岳SAで凄いポルシェを見掛けて、誰も乗ってない気がしたからその車を勝手に運転し、事故を起こしたと名乗り出た人物が居たらしいのです」
 
記者たちは騒然とする。
 
「ただその人物は名乗り出てすぐに亡くなっています。全身に物凄い打撲を負って」
 
「なぜ警察はそのことを発表しなかったのでしょう?」
と風海報道局長は尋ねる。
 
「警察が発表しなかったのはですね」
と左座浪は答える。
 
「そう名乗り出た人物が7人も居たからのようなんです」
 
「え〜〜〜〜〜!?」
 

「全員が酷い打撲を負っていて告白してすぐ亡くなっています。警察としてはそういう自白がひとつあったら、それが事実だろうと推測するでしょうし、2人くらいなら、片方は別の車で当時偶然ポルシェが2台サービスエリアに居たのではとも考えるでしょう。でも7人も同じ告白をされては、7台もポルシェが居たというのは考えられないし、全員亡くなっているだけに再聴取できず、どれが本当なのか決め手が無いので、結局どれも採用できないことになります」
 
記者たちはかなりざわめいている。
 
「まあ石を投げたら当たるといわれるプリウスとか、あるいはクラウンくらいなら7台くらい居ても不思議ではないですが、ポルシェですからね」
 
と左座浪が言うと、記者たちから失笑が漏れる。
 

風海報道局長は尋ねた。
 
「実際に事故を起こしたのがその告白した内の誰か、あるいは半月前に高岡さんを殺そうとした女だったとしてですね、高岡さんの自宅から駒ヶ岳SAまで運転した人が居たわけですよね。猛スピードで」
 
「その猛スピードというのが誤解だったというのはハイジさん、説明できるよね」
と左座浪は振った。
 
「はい。説明できます」
と義浜ハイジは答えた。
 
「まず君のポジションを説明しなさい」
「はい。私は高岡さんの付き人をしていました」
とハイジが言うと、記者たちはまたざわめく。
 
「高岡さんたちが書いた『疾走』の歌詞は 2003/12/27 3:15 に高岡さんの自宅から上島さんの自宅へFAXされていました。それで高岡さんたちはその後出発し、4:51に事故を起こしたというので250kmを1時間36分で行ったことになり、時速160km以上出していたのではないかと言われたのですが、あれは高岡さんが送ったのではないのです」
 
とハイジは説明する。
 
「私は何とかアルバムが完成して私も雑用とかで徹夜作業していたので疲れていて、完成後いったん自宅に戻って仮眠しました。でも夜中に自分よりよほど疲れているはずの高岡さんが運転するのは無茶だ。絶対に本人に運転させてはいけないと気付き、高岡さんの自宅に駆け付けたのです。それが午前3時頃でした」
 
「私はマンションの鍵を預かっていましたので自分の鍵で開けて中に入りました。でも高岡さんたちは居なかったので、もう出てしまったのか。事故を起こさなきゃいいけどと思いました。その時、送られていないFAXがあるのに気付き、上島さん宛の通信文が付いていたので上島さん宛かと判断し送信しました。それがタイムスタンプとして残ったようなのです」
 

「それはちゃんと警察に言ったよね」
 
「はい。事件後は動転していたのできちんと報告しなかったのですが、後日警察に出頭してちゃんと調書を作りました」
 
「そういう訳で、少なくとも高岡さんたちは3時の時点では出発済みでした」
とハイジは言ったが、左座浪は補足して
 
「警察は、高速の通行券の燃えかすをX線とかでも撮影して数ヶ月掛けて分析した結果、高岡たちの車が八王子ICを通ったのは 1:X4 つまり、1:04 1:14 1:241:34 1:44 1:54 のどれかと推定したようです。だからこの車のドライバーはスピード違反はしていません」
と述べた。
 
「またこの夜、中央道を猛スピードで走るスポーツカーが目撃されていますが、この暴走車のドライバーは逮捕されています。高岡とは無関係でした」
と左座浪は更に補足した。
 

「そして義浜裕恵さん、あなたのポジションと知っていることを言いなさい」
と左座浪は言った。
 
裕恵は泣き出した。
 
「みなさんごめんなさい。そしてアクアさんごめんなさい。私がいちばん悪いんです」
と裕恵は言った。
 
「泣くより先に事実の開示を」
と左座浪。
 
「はい」
と言って裕恵は涙声に述べる。
 
「私は当時ユングツェダーで雑用係をしていました。特に私は運転の腕を買われてトランポートやタレントさんの送迎などもしていました。私もあの日は疲れていたので、いったん自宅に帰って休んでいたのですが、ハイジ同様に、自分よりずっと疲れている高岡さんに運転させてはいけないと思い、高岡さんのマンションに行きました。それが1時頃のことです」
と裕恵は言う。
 
「それで高岡さんは私が運転するなら俺はアルバム完成の祝杯をあげるとおっしゃって、お酒を飲み始めて」
と裕恵。
 
「つまり高岡は君が行っていなかったらお酒は飲んでいなかったんだね?」
と左座浪は確認する。
 
「はい。上島さんから厳しく言われてたのを守っていたようです」
と裕恵は言った。上島が涙ぐんでいる。
 

「そして、君が2人を乗せて車を出したんだね?」
 
「はい、そうです。ポルシェの後部座席におふたりで乗って頂いて、私が運転して八王子を出ました。おふたりはクタクタにお疲れだったようで熟睡しておられました。そして駒ヶ岳SAでトイレ休憩して、おふたりにも声を掛けたのですが、反応はありませんでした。それで私だけトイレに行きました。ところがトイレから戻ると車が無かったのです」
 
記者たちがざわめく。
 
「駐めた場所を勘違いしてないかと思い随分探しましたがどうしても見付かりませんでした」
 
「その後どうしたか話して」
 
「はい。偶然大阪方面に行くという人に乗せてもらって大阪まで行きました。大阪に着いてから左座浪さんから高岡さんたちの所在が分からないと聞いて青くなりました」
 
「なぜそのことをあの時言わなかったの?」
「責任を追及されそうで怖かったからです。しかも高岡さんたちが事故死していたことを知って、今度は私が事故を起こしたのではと疑われそうな気がして、駒ヶ岳SAまで運転したことは誰にも言いませんでした」
 

「でも警察に言ったよね?」
 
「はい。事件後1年以上経ってからになりましたが、弁護士さんに付き添ってもらって警視庁に行き、特捜科の警部さんに全てをお話ししました。かなり搾られましたが、警部さんは事故の時には私が運転していたのではないことを理解してくれたようでした」
と裕恵は言う。
 
左座浪が補足する。
「それで警察は運転手交替仮説がほぼ検証されたものの、肝心の事故を起こしたドライバーが特定できないので、結局この事故の全貌を発表することができなかったようです」
 
「あの時自分が運転したと言って名乗り出た人の中に事務所と何らかの関わりがあった人が居ないかというので全員の顔写真を見させていただきましたが、私が知る人物は居ませんでした。警察は各々の人物の周囲の人にもかなり聞き取りをしたようですが、ワンティスあるいは事務所との関わりなどは出なかったようです。だから結局誰が事故を起こしたのか、警察は特定できなかったみたいですね」
 
と左座浪は語った(*69).
 

風海報道局長は裕恵に尋ねた。
 
「結局車を乗り逃げされたということのようですが、車はロックしてなかったんですか?」
 
「申し訳ありません、申し訳ありません」
と裕恵は泣き崩れる。
 
左座浪がフォローする(*71).
「彼女はずっとイベントの仕事をしていて、そういう現場では車はロックせず鍵も付けたままにしておく習慣があったんです。誰でも車を動かせないと困るので」
 
「でもそれ以降、必ずロックするようにしたよね?」
「はい。車を離れる時はたとえ車のすぐそばに居る時でも必ずキーは抜いてドアもロックするようにしています」
 
左座浪はもうひとつ補足した。
「当日、義浜さんを大阪まで乗せてくれたドライバーも当時の警察の捜査で分かり、確かにこの人を乗せたと証言してくれています。それで彼女が駒ヶ岳SAまで行っていたことが裏付けられています」
 
最後に上島が結論を言う。
 
「あの事件については、僕も色々誤解していたことが多くて。でも今日の午前中左座浪君と話して、様々な誤解が解けた。去年当時のことを知る関係者が居ないか探した時も、左座浪君はもう亡くなっているとばかり思っていたので、彼を探そうともしなかった。本当に申し訳無いと思う」
 
「でもあの事件で高岡にも夕香にも責任は無かったことをご理解頂けたのではないかと思います。当時のそのような警察の捜査の結果、事故を起こした人物は特定できないものの、ふたりには責任は無かったと判断して、保険会社もふたりの生命保険を払ってくれたんですよ。おかげで、車の代金とかも払うことかできましたし」
 
と上島は述べた。
 

(*69) 左座浪の説明には意図的に“話さなかった”ことがある。この場では単に混乱を招くだけだからである。
 
・佐藤小登愛がしていた作業と、彼女の謎の死について。
 
・夕香が「広中君に運転を依頼して下さってありがとうございます。私も安心して後部座席で休んで大阪に向かえます」というメールを左座浪にしていたこと。広中は2003年10月に既に亡くなっていたこと。そして彼の遺体も後から考えるとまるで交通事故で重大な打撲を受けたかのような状態だったこと。
 
(当時はマンションの屋上から飛び降りたのだろうと言われたが実際には屋上は施錠されていて入れなかった。彼が住んでいた部屋の窓から落ちたにしては損傷が大きすぎた/高さ50mから転落すると地面に衝突する時の速度は112km/h。しかし広中は8階に住んでいたのでそこから転落しても70km/h程度である。高岡たちは120km/h程度で壁に激突したものと思われる)
 
・自分が運転していて事故を起こしたと告白した人物は7人とも事故の数ヶ月後に別の事故で亡くなったこと。その亡くなる直前に警察官や救護に当たった人にその告白をした。しかし全員、その事故で受けたにしてはあまりにも大き過ぎる損傷を受けていた。友人たちの証言から当人がよく中央道を走っていたことは裏付けられた。
 

左座浪はこの事件の真相は“魔術戦争”だと思っている。
 
事件の捜査をしていた刑事さんの中に魔術関係に詳しい女性刑事さんがいて、彼女と
 
「こんなこと報告書に書いたら頭おかしいと思われるけど」
 
などといって雑談的に話したが、左座浪と彼女の見解は一致した。
 
ふたりが想像したのでは、真の犯人はやはりあの高岡を包丁で殺そうとした女で、裕恵や広中は多分操られて手駒に使われたのだろうと。佐藤小登愛はそれを防ごうとしたが負けて亡くなったのだろう。しかし最終的に誰か強力な女魔術師か魔女かが、あの女を倒したのだろうと。
 
(捜査官の中の幾人かは、小登愛とあの女が相打ちだったのではと想像していた。しかし事故は小登愛の死後に起きているので第3の女魔術師が居たと考えた方がスッキリする)
 
あの女は高岡が夕香に生ませた娘も殺そうとしたが強力な魔女に反撃されて失敗したと語ったらしい。警察に事情を聞かれた志水照絵は、高岡たちが死んだ晩に龍虎が激しく泣いていたことを語った。(調書には“高岡夫妻の長女・龍子”と記載された!)
 
多くの捜査官は、子供ならではの直観で親が死んだことを感じ取って泣いたのでしょうかね、などと言っていたが、女刑事は、あの女が“龍子ちゃん”を本当に呪い殺そうとしていたので激しく泣いたが、実際に近くに居た“強力な魔女”が“龍子”を守って反撃し、女は倒されたのではと想像した。左座浪も同意見だった。
 
左座浪は(女刑事さんには言ってないが)もしかしたらその“強力な魔女”というのは、天野貴子さんかもと想像していた。
 
つまり左座浪(と女刑事)はほぼ真相に到達していた。その“強力な魔女”というのが実は当時12歳の千里であったということ以外は(*70).
 

「でもあの女と本当に付き合ってて子供生ませた男が分からなかったのが残念ですね」
と左座浪は言ったのだが女刑事は言った。
 
「たぶんその人もう生きてません」
 
左座浪は少し考えたが
「そうかもね」
と同意した。たぶんあの女に道連れにされただろう。
 

(*70) あの時、千里は全く通りがかりだったのだが、(志水照絵が落とした)ワンザナドゥのデータが入ったSDカードのケースをマンション前で蹴ってしまい、何を蹴ったんだろう?と探してカードを拾い上げた時に女の生霊が現れた。そして自分たちまで殺されそうだったので反撃して倒した。
 
だからあれはワンティスのみんなが龍子(龍虎だっけ?)を守ってくれたようなものである。
 
ちなみに、女は自分は、千里の隣に居た、いかにも手強そうな遠駒真理にやられたと思い込んだまま死んだ。まさか後ろを向いていた少女に倒されたとは夢にも思わなかった(バックショット)。
 
(Magic progress)
18:45 女の生霊が佐藤小登愛を殺害
18:50 広中の幽霊が生霊を追い返し、マンションに入る
01:00 広中が高岡と夕香を車に乗せて出発
03:15 広中が車内から『疾走』の歌詞をFAXする
04:51 女が夕香を車外に放り出して殺害。高岡の身体も飛び出してしまい死亡
05:30 女が龍虎のマンション前に現れ千里たちを排除しようとして反撃される。

(Real Progress)
01:10 裕太(現:裕恵)がマンションを訪れる
01:40 裕太が高岡と夕香を車に乗せて出発
03:00 ハイジがマンションを訪れる
03:15 ハイジが『疾走』の歌詞をFAXする
04:20 駒ヶ岳SAで休憩。誰かが車を乗り逃げする
05:41 事故が起きて高岡・夕香が死亡
 

↓少々読み飛ばすの推奨
 
Magic progress と Real Progress は、cHa (complete Heyting algebra) 的に補い合って成立しており、どちらも部分的な事実である。7人の乗り逃げ犯もお互いにcHa的に事実を構成しているし、この時の事故と数ヶ月後に現実に起こした事故も cHa的に重なりあっている。
 
cHa的な現実というのは、量子力学的現実(シュレディンガーの猫のような話)と似ているが両者は真逆の理論である。前者(直観論理)は複数の事実の並立が許容され、後者は全ての事実が成立しない。
 
前者は cHa(完備ハイティング代数)でモデル化されるのに対して、後者は線形代数でモデル化される。実は量子論理のことは研究者が少なくよく分かってない。cHaは少なくとも筆者が在籍していた頃の九州大学大学院ではよく研究されていた。とても美しい理論である。
 
ファジー理論は、直観論理や量子論理の簡易なシミュレーションと思われる。
 
いづれにしてもこの事象は「真実はひとつ」などという素朴すぎる信仰(古典論理)では制御しきれない。
 

(*71) 左座浪は実際には裕恵がロックしなかったのは、あの女の催眠術(のようなもの)のせいだと想像している:このことを左座浪はアクアには話した。アクアが裕恵を恨んだりすることのないようにである。むろんアクアは人を恨んだりする子ではない。
 

そういう訳で、この事件ではかえって高岡夫妻、そしてアクアにも同情が集まることとなったのである。
 
今回は天野貴子(きーちゃん)が、
「左座浪さんに証言させるのが良い」
と千里(千里2A)に言い、彼の所在を唯一知っていると思われた、義浜ハイジ・裕恵夫妻に連絡を取った。それで2人はアメリカにいる左座浪に連絡を取り、千里が飛行機をチャーターして日本に呼び寄せたのである。またハイジと裕恵も自分たちも証言すると言ってくれた。
 
飛行機のチャーター代は§§ミュージックが出すとコスモスは千里に言ったのだが『証人に§§ミュージックが便宜を供与してはいけない』と千里は言ったので、千里の好意に甘えることにした。左座浪の滞在費や義浜夫妻の交通費も千里が出した。
 
久々の千里2Aの活躍!
 

ハイジと裕恵は千里の仲介で越谷に滞在中のアクアに直接謝罪に行き、土下座して謝ったが、アクアは
 
「ハイジさんにも裕恵さんにも責任は無いです。不幸な偶然の重なり合わせですよ。悪いのは事故起こした乗り逃げ犯で、裕恵さんは被害者ですよ」
と言って、あまり気にしないように言った。
 
「それにおふたりが留萌振興のためにここ15年以上貢献してこられた話も千里さんから聞いています。おふたりはもう充分な償(つぐな)いをなさってますよ」
と言った。
 
それでも特に裕恵は
「ごめんなさい、ごめんなさい」
とずっと謝っていた。
 

この事件の左座浪の発言について照会された警視庁は
 
「特にコメントすることはありません」
とコメントし、事実上左座浪の見解を追認した。
 

アクアはこの日だけ映画の作業を休みにしてもらい、翌日からまた頑張った。
 
俳優のMは信濃町の§§ミュージック事務所まで来て謝罪した。アクアは映画の制作で対応できなかったものの“義父みたいなもの”の海原重観(*72)が代理で応対してくれて
 
「アクアはもう気にしてないですから、あまり気に病まないでください」
と言った。
 
Mは自主的に1ヶ月謹慎して全ての番組をお休みした。
 
またこの事件以降、アクアのアクアの売上は、かえって伸びたので、メーカー側もこの件はこれ以上問題にしなかった。
 
(*72) 海原重観は、龍虎(アクア)の叔母(旧未成年後見人)長野支香の夫である。龍虎には「お父さん」と呼ばせている!
 
ちなみに龍虎の従妹に当たる海原美奈代(小3/後の美濃山淳奈)は龍虎のことを「龍虎お姉ちゃん」と呼ぶ!
 

鈴木一郎(∞∞プロ)・丸花茂行(○○プロ)・兼岩源蔵(ζζプロ)の“業界3巨頭”は
 
「コスモスちゃんの恐ろしさをまた認識した」
「死人までこの世に呼戻すとは恐ろしすぎる」
「絶対にコスモスちゃんだけは敵に回せない」
と話し合ったとか。
 

テレビ中継されたのは高岡たちが死亡した事故に関する説明と質疑だけであったのだが、左座浪たちはその後も、記者たちの質問に答えたり説明に応じたりした。
 
まず『疾走』を誰が書いたかという問題について、義浜裕恵は
 
「夕香さんが私の目の前で書いて、多少猛獅さんが添削しました」
 
と証言した。
 
この歌詞の作者については夕香の字で書かれていたが夕香の作品にしては異質だったことから、夕香作説と、猛獅作夕香清書説があったものの、夕香が書いたものであることが確定した。
 
「アルバムができあかっておふたりとも凄く昂揚しておられる感じでした。おふたりとも私が行くまで寝ておられて、玄関開けてもらうのにも10回くらい電話したんですよ。どうもその寝ていた時、夢の中で見た情景のようでした」
 
「夢の中で夕香さんは高岡さんが運転するポルシェの助手席で詩を書いている夢を見ていたそうです。それで夢の中で書いた詩をできるだけ思い出して、ことばが足りない部分を補って、あの歌詞を完成させたんです。最終的にここはこのようにしたほうがいいとか、猛獅さんが助言して歌詞をある程度修正なさっていました」
 
「それで上島さんの所にFAXして、出掛けたつもりだったのですが、ハイジによると、そのFAXが送られていなかったようですね」
 
それで夢に見た情景を書いたので異質な詩ができたということのようである。
 

作者偽装問題について左座浪は
「あれは村上次長(当時)の指示」
と断言した。
 
「私も正しい作者を表示すべきと言ったのですが、村上さんは『女が書いた歌なんて売れん。高岡猛獅が書いた歌詞ということにしろ』と言って反論を許さなかったんです。社長に抗議しようと猛獅さんは言っていましたが、夕香さんが『今レコード会社とは揉めたくないし、自分たちは夫婦だから印税はどちらが受け取っても同じ事』と言って、取り敢えず指示に従ったんです」
 

村上による“中絶命令”についてはこのように述べた。
 
「村上さんが夕香さんに中絶を要求した時、夕香さんは既に6ヶ月だった。当然中絶は不可だし、夕香さんも高岡さんも中絶は絶対に嫌だと言った。それで千代専務が夕香さんにしばらく身を隠して、密かに出産することを勧めた」
 
「それで千代専務は村上さんには、中絶させたけど、月数が進んでいたのでかなりひどい状態だから半年くらい休ませると伝えた。だから村上さんは中絶は行われたものと思ったと思う。そして夕香さんは8月に無事女の子を出産した」
 
出産した子の性別については取り敢えず記者たちも突っ込まない。
 
「このことは、千代専務と社長の他は、夕香さんに色々必要な品を届けるお使いをしていた俺の3人しか知らないと思う。出生届も出すと子供を産んだことがバレて、レコード会社から契約違反だとか言われかねないというので出さなかったんですよ」
と左座浪は言った。
 
龍虎の養育費についても
「志水夫妻への振込の手続きは俺がしました。だからあの養育費は高岡猛獅の名前で千代さんが出していたものです。残高が不足しないように気をつけて必要なら俺の口座から補充してくれるように、事務のTさんに頼んでおいたのだけど、上島君から聞いたけど、Tさん亡くなっていたのね」
 
上島が引き継ぐ。
「そうなんです。この事件ではあの前後に亡くなった関係者が多すぎて。それでその件は誰にも引き継がれず送金が途絶えてしまったようで、志水さんたちに申し訳無いです」
 

葬儀の時に志水夫妻が「帰れ」と叱責された件に付いても
 
「彼はその現場を見てないから断言はできないけど、社長だったら直接会ったことなくても、志水君たちの話は当然知っていたから「帰れ」とか言うはずがない」
 
「あの葬儀の時は、猛獅さんの“愛人と子供”を自称する親子が何組も現れて俺も何組が追い返している。あの場はかなり混乱していたから、間が悪かったとしか言いようが無い。だから村上さんは問題外として水上君には責任無いよ。彼は龍子ちゃんのこと知らなかったんだし」
 
と左座浪は言って、最後は水上信次をかばった。
 

最近話題になっていた、千代さんが赤ちゃんを抱いた写真について写真を見せられた左座浪は
 
「これは俺が撮った写真。写っているのは龍子ちゃん」
と証言し、アクアの最も古い写真であったことが確定した。
 
アクアが産まれた時の写真とかを知らないかと聞かれた左座浪は
「その写真は俺も見せてもらったけど、夕香さんはいつも肌身離さず持ち歩いていた。だからきっと事故の時に燃えてしまったのだと思う」
と言った。
 
夕香が自分の写真をいつも持ち歩いていたと聞き、zoomで繋がっていたアクアたちは涙を流していた。
 

「だけど龍子ちゃんほんとに美人になったよね。娘が大女優になって、高岡夫妻もあの世で志水君と一緒に祝杯をあげているよ」
などと左座浪は言う。
 
ひとりの記者が遠慮がちに質問した。
 
「あのぉ。さっきも夕香さんは女の子を出産したとおっしゃいましたが、アクアさんは女の子なのでしょぅか」
 
「なんでわざわざそんなこと聞くの?アクアちゃん、女の子でしょ?」
 
「女の子なんですか?」
 
「俺何度かあの子のおしめ替えたけど間違い無く女の子だったよ。医者が書いた出生証明書も見たけど女に丸が付いてたよ」
 
記者たちがざわめいていた。zoomでつながった先にいたアクアFは大笑いしていたが、Mは憮然としていた。
 
今日はあまり発言していない雨宮が
「これでアクアの性別問題は解決したわね」
と言った!
 
翌日“アクアはやはり女だった!”というのをトップ見出しにしたスポーツ新聞もあった!
 

最後に記者たちは「プライバシーに関わる問題ですが」と断った上で、義浜夫妻の性別問題について尋ねた。
 
「失礼ですが、レスビアン婚でしょぅか」
 
これについてはハイジが答えた。
 
「私たちは2人とも事件当時は男性でした。しかしそのあと裕恵は性転換手術を受けて女性に生まれ変わり、法的な性別も女性に変更しました。私たちはその時点で結婚したので結婚した当時は男女でした。しかしその後、私の身体に変調が起きて、私は自然に女に変わってしまいました。でも私たちは夫婦関係を維持するため、私の性別は男性のまま修正しまぜんでした。ですからそれ以降私たちは事実上のレスビアン婚の状態にあります」
 
それで記者たちは納得し、この件は記事にはしないと約束した。記者たちは個人情報ということで実際に記事にするのを控えた。
 
一般人夫婦の性別問題などよりアクアの性別問題のほうがよほどニュース価値がある!!!
 

ハイジの説明には少し誤魔化しがある。実際にはハイジの性別が変わってしまったのは、裕恵の性転換手術以前である。元々ハイジのために天野貴子は手術を予約していたのだが、ハイジはもう性転換しちゃったと聞き
 
「せっかく予約してたから、代わりにあんた手術を受けなさい」
と裕恵に性転換手術を受けさせてしまったのである。
 
裕恵はそのうち女になりたいとは思っていたが、突然言われて何の覚悟も無い状態で性転換手術を受けた。激しい痛みがあり、さすがに手術に同意したのは軽はずみだったかと後悔したが、性転換したこと自体は後悔していない。またあんな形で無ければいつまでも手術を受ける踏ん切りが付かなかっただろうと思っている。
 
ふたりの夫婦生活はまさにレスビアン婚である。
 
またその後、ハイジは子供を2人産んでいるが、そのことは話がややこしくなるので話していない。子供は市長決裁で、裕恵の子供として入籍された。父親はハイジということになっている。ハイジは戸籍上男性なので、法的に父親になれる。
 
男性が出産したのが法律の想定外なので、生まれた子供を戸籍に入れないといけないという“福祉上の事情”で、市長が決断した。
 
しかし実際に出産したのはハイジである。出生証明書にも「母:義浜ハイジ、父:義浜裕恵」と記載されている。裕恵は性転換手術によって女性になったので本当は妊娠出産能力が無い。
 
このことはマスコミが知ると極めて面倒な問題を引き起こす。
 

アクアの性別問題について福井の志水照絵の実家まで行き、質問した記者があった。彼女は笑って答えた。
 
「もうそろそろバラしてもいいでしょぅ。あの子の性別は元々不安定だったんです。おしめを替えるたびにちんちん付いてたり、ちんちんは無くて割れ目ちゃんがあったりしてました。服を着せる時も、女の子の服と男の子の服を並べて『どちら着る?』と訊くと、女の子の服を選ぶ時と男の子の服をを選ぶ時がありました」
 
「だから、龍虎って、まるで女の龍虎と男の龍虎が居て、交替で私たちの前に現れているのではと思いたくなりましたね」
 
それでマスコミは、アクアは非常に特殊な半陰陽なのではと思ったようであった。
 
元々アクアの性別に関しては半陰陽説というのも昔からくすぶっていたのだがこの後半月ほど半陰陽説がかなり信じられていた(映画が公開された後にまた双子説が勢いを持つ)。
 

自分や両親に関することて世間が騒いでいても、アクアはそれを一切気にせず映画制作に集中していた。このあたりのアクアたちの精神力に監督夫妻や大曽根部長たちも本当に感心していた。
 
しかし感染防止のために主な出演者を越谷の小鳩シティに泊めて制作を進めていたのが非常に良かった。アクアたちはあまり雑音に惑わされずに済んだ。
 
大曽根部長は「恋人と“会っても”いいよ」と2人に言ったが、アクアたちは「いえ、映画制作中は我慢します」と言って断った。ただ美高助監督の提案で“セックス無し”のデートはさせてもらった。(4人でデートしたらしい)
 
また世間ではオミクロン株が猛威をふるい始めていたものの、映画関係者は世間と隔離された状態にあったため、出演者や主なスタッフには1人も感染者は出なかった。
 
まさに感染対策で全員を撮影現場に泊める対策が功を奏した。
 

左座浪は映画の制作が終わるのを待ち、6月下旬アクアと会って、自分の知る高岡夫妻のことをたくさん話した。
 
アクアは終始泣いていたという。
 
この場には福井から志水照絵も来て一緒に会ったのだが
 
「私たちも左座浪さん亡くなったとばかり思ってた!」
と照絵は言っていた。
 

6月3日(金).
 
オーストラリアで合宿していた千里(千里3)たち、日本女子バスケット代表の一行はこの日帰国した。次の合宿は6月7日からである。
 

6月5日(日).
 
映画『お気に召すまま』は最後のカーテンコールを小鳩ホールで撮影して撮影を一通り完了した。
 
このカーテンコールの場面には、人形がずらりと観客席に座っている小鳩ホールの映像も映っているが、この風景もなかなかシュールで、現実と虚構が交錯するこの映画に良い味を加えた。
 
この後、制作は日本語・ドイツ語・フランス語のアフレコに進む。
 

ドラマ『シンドルバッド2』は4月放送開始予定で3月から撮影を始めるつもりでいたのだが、ドラマで使用する春日部のガレオン船のセットを(まだ完成前に)映画『黄金の流星』で蒸気客船モジーク号に見立てて少し偽装していた。
 
そのため『黄金の流星』の制作が終わるまで撮影ができず、できるようになったのは、そちらの制作が終わった後で、蒸気船の煙突を取り外し、帆船の帆柱などを立ててガレオン船を完成させた5月下旬である。
 
そのため、キャスティングしていた俳優さんたちのスケジュールを再調整する必要が出てきた。恋珠ルビーや水森ビーナなどはコスネスが頑張って年末まで押さえた。ハンドル役の佐々木恒美さんは調整を付けてくれた。松田理史が映画を撮っているため、ヨンドル役には別の俳優さんを予定していたのだが、彼は9月から別のドラマが入っているということでこちらのずれ込みは困るということで降板した。
 
しかし撮影開始が遅れたことで、松田理史は『お気に召すまま』のアフレコとこちらを同時進行でできることになった。この映画で松田理史の出番はあまり多くない。映像はわりと出ているが、セリフはそんなに無いので兼任可能だった。
 
またシンデレラの姉役をお願いしていた女優さんもそんなに日程がずれるのは困るといって降板したものの、この役を前回演じた岡原襟花が、撮影開始日程が約3ヶ月ずれたことで出演できることになった。
 

それで結果的に主要な役については前シーズンと同じ配役で行けることになってしまったのである。
 
シンデレラ=シンドルバッド:恋珠ルビー(16)
ヨンドル:松田理史(24)
ハンドル:佐々木恒美(39)
ニャンドル:水森ビーナ(17)
シンデレラの姉アンブレラ:岡原襟花(22)
 
シンデレラが“パーティー会場”に行く時に使う直列6気筒エンジンのベンツS450 も健在だが、シンドルの普段の乗り物として、“シンデレラのアクア”が゛今回使用される。この車を運転するのは今回初登場の“表のドライバー”サンドラ:弘田ルキアである。
 
「あのぉ、まさか女役ですか?」
「もちろん。ルキアちゃん、今後は女役しかしないんでしょ?可愛い衣裳用意してあげるからね」
 
「ぼく男の子なのに・・・」
とふつぶつ言っていたとか。
 
(↑ウェディングドレスで結婚式を挙げておいて何を今更?)
 
彼は9月23日生まれで誕生日に仮免を取り、10月上旬にに免許取得している。その後、このドラマのため(とは知らされないまま)2万km 運転練習した。ドラマ内では初期にはちゃんと若葉マークを付けて運転する。今回のドラマの最後のほうで若葉マークが外れるので、そのネタも取り上げる予定である。
 

「まあ無茶なことというと北島マヤの出前だね」
と私は言った。
 
「何だっけ?」
 
「『ガラスの仮面』の第1回で主人公のひとり北島マヤが年越しソバ120軒の出前をするという話が出てくる」
と私は言う。
 
「ああ、何か出前してたね。あれ読んでてっきり熱血おそば屋さんの話かと思ったらなんか違うほうに行っちゃったから、私その先を読んでない」
と政子。
 
「それで120軒の出前をするのに何時間かかるのかという問題」
「うん」
 

「120軒といったらかなりの範囲に散らばっていると思うんだよね。また出前したら、呼び鈴鳴らして出てきてくれるのを待って、商品を渡して、お金をもらい、お釣りを渡さなければならない。この作業だけで平均3分は掛かると思う。アパートとかは階段を上り下りしなければならない。もっとも近くにある家はまとめて運べる。それでも1軒の出前にはどう考えても平均10分は掛かる。実際話中にも『あと1時間でどうやって10軒も回れるんだよ』というセリフが出てくるから、実際そのくらいの時間が想定されたと思う。だから、1軒10分なら、10分×120軒は、1200分=20時間掛かることになる」
 
「1月1日まで掛かるじゃん」
「でもマヤは12月31日24時ジャストに出前を終えてる」
「だったら朝から始めたの?」
 
「何時から始めたかは書いてないんだよねー。でも残り1時間で残り10軒と書かれているから、最後の1時間の速度から比例計算すると12時間掛かったことになる」
 
「年越し蕎麦をお昼に持って来られても困る」
と政子。
 
「だよね。だからせいぜい12月31日の16時くらいから始めたと考えてみる。23時までに120-10=110軒に配達したなら7時間=420分で110軒に配ったことになり、1軒あたり3分49秒で配ったことになる。お客さんとのやりとりに3分掛かったとして残り49秒でお店とお客さんの家を往復した計算になる」
 
「分かった!北島マヤはワープ能力か分身能力があったのよ」
 
「そうとしか思えないよねー」
 

「ところでこれ違法労働ということは?子供を夜中まで使っていいわけ?」
「夜中以前に、そもそも中学生に労働させている時点でアウト」
 
 
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【夏の日の想い出・無茶言うなよ】(6)