【夏の日の想い出・二足のわらじ】(1)

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「二兎(にと)を追う者は三兎(さんと)を得ると言うけどさ」
と唐突に政子は言った。
 
「いや、普通は“二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず”と言うんだけど」
「それはおかしい。2匹の兎(うさぎ)を追ってれば、おまけでもう1匹得られるはず」
 
どういう原理なんだ?
 
「それで東名を走ってたら、右ルートと左ルートに別れる所あるじゃん」
「うん」
「あれどっち行けばいいか迷わない?」
「別に。どちら通ってもいいし(*1)。ただ、名神の別れる所は京滋バイパスに入りたい場合は必ず左ルートを通らなければならない」
「あ、そうだよね。こないだ適当に走ってたら京滋バイパスに入るところが無くて『あれ〜』と思った」
 
京滋バイパスとか、松山君に会いに行ったんだろうなと私は思った。
 

「下りの時が左ルートで上りの時は右ルート?」
「いや、京滋バイパスにつながってるのは上下線とも左ルート」
「なんで左右逆にならないのよ?」
「NEXCOに訊いて」
 
しかしウサギを捕まえる話とどうつながってるんだ??
 
「それでさ、よく道路にはバイパスってあるじゃん」
「うん」
「あれはメインのルートが混雑するから、大回りしたり逆にトンネルとかで直結して新しいルートを追加したものじゃん」
「うん」
 
「東名の左右ルートみたいに、どっち通ってもいいようなのは何て言うの?」
「日本語には適当な訳語が無いけど英語では Alternate route って言うよ」
「なるほどー!オルタネートか!」
 
と言って政子は感心していた。
 
で結局ウサギさんはどうした??
 

(*1) 東名の左右に分かれるところはあまり違いは無いのだが、鮎沢PAに入りたい場合は、左ルートからのみアクセスできる。
 

花園裕紀(本名:末次一葉/すえつぐ・かずは)は、2020年春に実施された信濃町ガールズ本部生募集のオーディションに合格して信濃町ガールズに加入した。実を言うと彼は同じ日に別の場所で行われた雑誌モデルのオーディションを受けるつもりで間違ってこちらの会場に来て合格してしまったのである(品川ありさと同じパターン)。
 
合格を告げられてから本人も選考した側も仰天する。
 
「嘘?君男の子なの?」
「え?これ女の子タレントのオーディションだったんですか?」
 
「だって君スカート穿いてたじゃない」
「スカート穿いてって言われたので穿きました。最近は男の子モデルでもスカートくらい穿きますよね?」
「君の声は女の子の声に聞こえるけど」
「まだ声変わりしてないんですー」
「中学2年で声変わりしてないって珍しいね。女性ホルモンとか飲んでるの?」
「そんなの飲んでないですー」
 
「君もしかして女の子になりたい男の子?」
「別になりたくないですー。友だちからはよくその内女の子になりたいんだろう?とか言われるけど、別に女の子になるつもりはないですー」
 
でも川崎ゆりこが君さえ良ければ合格にしたいと言い本人もタレント活動に興味があったので、親の許可を取って合格にしてもらい、都内のマンションに引っ越して信濃町ガールズに参加した。
 

面接の時には女の子になるつもりは無いですー、などと言ったものの、実際は小さい頃から「女の子にしてあげたい」とか「男の子にするのもったいない」と言われてきたし、結構スカートとか女の子下着とかも持っていた。
 
両親も自分が家の中で女物の服を着るのを容認していた(本人としては女装しているつもりはなく単に女物を着ているだけである)。パンツは“プリキュア柄のトランクスやボクサーが無い!!”という理由で幼稚園の頃からショーツしか穿いたことが無かった。プリキュアを卒業してからも、それまでの習慣でショーツを穿き続けた。体育の時の着替えで男子の友人に見られても別に気にしてなかった。
 
ピアノの発表会にも姉のお下がりのドレスを着て出ていた。でも本人としては別に女装しているつもりは無い!
 
単にお姉ちゃんが着ていた服が可愛いなと思っていたので譲ってもらって着ただけである。親も洋服代がかからなくて済むと、ありがたがっていたし!
 
実を言うと、普段着のスカートも大半は姉のお下がりである。スカートで学校に出て行ったことはない(本人の“公式”見解)が、ポロシャツなどは結構女子用の左ボタンの服で学校に行くこともあった。小学校の学習発表会ではだいたい女役を割り当てられていたが、本人としては演技するのが楽しいので男役女役というのは意識していなかった。
 

信濃町ガールズのユニフォームはショートパンツでもスカートでもいいと言われたが、元々スカートが好きなので大抵スカートを穿いてたし、女子の振りして、転校した中学の女子制服も作っちゃった。それで通学する勇気は無いけど。
 
でもスカート穿いてても女装しているつもりは無い!単にスカートが好きだから穿いているだけで、裕紀にとってスカートは単なる普段着である。
 
でも信濃町ガールズは楽しい。テレビなどに出る時だけでなく、毎日音楽やダンスのレッスンを受けて楽しかった。でも自分以外みんな女子ばかりみたいと思っていた。
 
テレビ局の控室も、信濃町ガールズ全員女性用控室を指定される。「ぼく男の子なのに、女性用控室に入っていいのかなあ」と言ってみたものの、みんなまとまってないと出番の指示とか連絡事項で困るから、と言われて女性用控室に入った。トイレも女子トイレを使った。女子メンバーの背中のファスナーなど上げ下げするのをしてあげたりもした。自分も他の子に背中のファスナー上げ下げしてもらったけど!
 
なお女子たちと一緒に着替えるので、ショーツの上からちんちんの形が見えるのはまずいかなーと思い、いつもタックしておくようにした。タックは以前も時々(?)していたのだが、信濃町ガールズに入ってからはほぼ常時タックしておくようになった。
 
(↑そのお陰で『一葉ちゃん、最低でもタマタマは取ってるみたいね』と女子たちが噂していたことを本人は知らない)
 

(*2) タックは母が!やり方を教えてくれたので、小学生の頃からしばしば(?)やっていた。小学4年生頃まではタックした状態でプールで女の子水着を着けて遊んだりしたこともあるし、家族で温泉に行った時など、男湯に入ろうとして従業員さんから注意されたので結局女湯に入っている。でも彼は女の人の裸を見ても何も感じなかった(←その頃には既に女性不感症だったのでは?)
 
彼は小学校の水泳の授業は男子水着で出たものの、ちんちんの形が見えないので、クラスメイトたちは、ちんちん無いのだろうと思っていたようである。
 
タックしていると必然的に小便器が使えないが、彼は物心付いて以来立っておしっこをしたことは無い。小学校では男子トイレの個室を使っていたが、学校外では、男子トイレに入ると注意されるという問題もあり、だいたい女子トイレを使っていた。
 
彼の場合、女子トイレを使っていたのは単なる習慣!であり、女の子になりたいとかではない。この付近の事情は、アクアに近い。
 

裕紀は取り敢えず都内のマンションに入ったものの、女子の信濃町ガールズたちはほぼ全員五反野の女子寮に住んでいる。この女子寮が研修所にもなっているので、裕紀は毎日学校が終わったら、女子寮に行き、地下のレッスンルームで歌・ダンス・音楽理論・ピアノ・演技などの訓練を受けた。
 
レッスンが終わった後、女子のガールズたちに「ちょっと寄っていきなよ」と言われて2階以上の女子寮エリアに連れ込まれる。
 
「ぼく男の子なのにいいの〜?」
と言うが、彼女たちは「平気平気」などと言う。
 
一応規則では
 
『男子メンバーを部屋の中に入れる場合は2人だけの状況を作らないこと。必ず3人以上にしておくこと』
 
ということになっているらしい。でもコロナの折、ひとつの部屋に5人以上集まるのは禁止らしい。それで4人までになるようにし、それ以上の場合は、部屋と部屋をWEBカメラと大型モニタで結んで“ネットおしゃべり”していた。
 

後から聞くと他の男子メンバーもやられたらしいが、女子寮生たちとおしゃべりしている最中に、いきなり押さえつけられて“解剖”された。
 
「やめてー」
「単に見るだけよ」
「勘弁してー」
 
ということで裸に剥かれる。
 
「おっぱい無いね」
「男の子だからおっぱい無いですー」
「女性ホルモンちゃんと飲んだほうがいいよ」
「そんなの飲まないよー」
「でも女の子になりたいんでしょ?」
「別になりたくないですー」
 

パンティまで脱がされる。
 
「ああ、タックしてるのね」
「外しちゃおう」
「ちょっとぉー」
 
それで勝手にタックを外されてしまう。
 
女子たちが顔を見合わせる。
 
「ちんちんもタマタマも無い。手術して取ったの?」
「でもどうして割れ目ちゃん作らなかったの?」
 
「ちんちんもたまたまもあるよー」
「いや、どこにも見当たらない」
 
「自分でも探せないけど確かにあるんだよ。皮膚に埋もれてしまってるけど。だからおしっこはその付近からにじみ出るように出る。実は拭くのが大変」
 
「もし存在して隠れているとしても女子に見られたら普通大きくなるはず」
「大きくなるって?」
 
女子たちが顔を見合わせている。
 
「やはり君には男性器が無いと認定する」
 

そんな勝手に認定されてもぉと思ったが、それ以降、裕紀は他の女子と一緒でなくても女子寮にはいつでも自由に入れるようになった。iDカードに設定されるわけではないが、顔パスでゲートを通してもらえる。それで誰かから呼び出されてその子の部屋に行くというのもよくするようになった。
 
また女子メンバーと2人だけになることもよくあった。
「2人になったらダメなのでは?」
「一葉ちゃんは、男性器が無いから問題無い。女子に準じるから」
「ちんちんもたまたまもあるけど」
「いや無いのを確認したという情報がある」
 
えーっと・・・
 
でも女子たちの用事は、たいてい電気の配線とか、パソコンの設定をして欲しいとか、重たいものの移動を手伝ってとかで、なんか便利に使われている気もした。でもマンションでひとり暮らししてるのはわりと寂しいので、メンバーたちと交流があるのは楽しかった。
 
裕紀は元々男子の友人はあまりおらず女子の友人が多かったし、漫画とかもいつも姉が読んでたのを自分も読んでいたし、信濃町ガールズに入る前も女子の友人とアクセサリーとかジャニーズの男の子の話題なども話していたので、信濃町ガールズの女子メンバーたちとも話が合い、楽しいおしゃべりをしていた。
 

信濃町ガールズに入って半年ほどした8月、男子寮ができたから移動してと言われてマンションから引っ越す(中学は転校になったので、またそこの女子制服作っちゃった♪)。
 
この時は、へー男子寮を作るほど男子メンバーがいたのかと思った。
 
しかし男子寮に来てみてから思った。
 
ここ本当に男子寮だっけ??
 
男子寮の初期入居者は下記である。
 
201 三陸セレン(中1)
202 山鹿クロム(中1)
204 花園裕紀(中2)←自分★
205 直江ヒカル(中3)・アキラ(中1)
 
301 夢島きらら(高1)
303 篠原倉光(高1)
305 木下宏紀(高3)
 
男子って、ぼくと3階の夢島きららさん、篠原倉光さんの3人だけで他の5人は女子だよね?“男子寮”と聞いたけど“男女寮”の間違いでは?
 

と思ったのだが、篠原君と話していて、女の子に見える子は全部“男の娘”で、純粋な男子はたぶん君だけだと思うと言われる。(篠原君は「君も女の子に見えるんだけど」と言うのは控えた!)
 
「篠原さんは?」
「僕はゲイだから」
「弘原君(夢島きらら)は?」
「あの子は去勢してるよ」
 
え〜〜〜!?
 
やはり信濃町ガールズに入る場合、最低でも去勢しなければいけないとか?と不安になる。篠原君に訊いても、花ちゃんに訊いても、去勢する必要は無いとは言われるが、ほんとにいいのかなあと思った。
 
(↑自分がみんなから男性器除去済みで女性ホルモンを常用していると思われていることは意識していない:“解剖結果”を女子寮・男子寮のほぼ全員が知ってるとは思ってもいない。知らないのは東雲はるこのようにぼんやりしてる子のみ)
 

入寮して間もない頃、ドアノブに“おっぱい”の入ったビニール袋が下げてあった(*3).
 
接着剤で胸に貼り付ける仕様になっているようである。これまで女の子たちと一緒に楽屋で着替えていて、バストが無いのがちょっとコンプレックスになっていたので、着けてみようかなと思い貼り付けてみたら思った以上にリアルなのでびっくりした。
 
しかし貼り付けてから困ったことが判明した。
 
最初にバストが揺れると歩きにくいのでブラジャーを着ける必要があるが、今持っているブラジャー(←なぜ持ってる?)では入らない!それで取り敢えずスーパーの女性用下着コーナーに行き(こういう所に行くのは別に恥ずかしくない)、売場のお姉さんにサイズを測ってもらって、結局C65のブラジャーを5枚買った。
 
「今までA60着けてたんですけど」
「この胸にAカップは無茶だよ。今まできつかったでしょう?」
と売場のお姉さんは言っていた。
 
「ワイシャツもきついんですけど」
「だろうね」
と言って、このバストが収納できる“ブラウス”も選んでもらい、それも3枚買った。
 

(*3) 丸山アイの悪戯。“数日前まで”羽鳥セシルは男の子で、お股をタックし、胸にブレストフォームを貼り付けていたのを、健康診断に連れて行ってあげると言って連れだし勝手に性転換して女の子に変えてしまった。それでブレストフォームが余ったので、それを(手洗い・消毒の上で)ビニール袋に入れ、男子寮に無断侵入して適当な部屋のドアノブに掛けておいたのである。
 
アイは適当に掛けたので、それが誰の部屋かは知らない。
 

ということで裕紀はブラジャーとブラウスの新しいのを買ったのだが、翌日朝、学生服が入らない!ということに気付く。
 
取り敢えずその日は体操服で乗り切ったが、すぐに“女性がコスプレで着る用の詰め襟”を買えばいい!ということに気が付く。それでコスプレ衣装を売っているショップに行って1着購入した。お店の人がサイズを計ってくれたので、ちゃんと入るサイズの詰め襟を買うことができた。
 
でもこれ胸が結構目立つんですけど!?
 
(Cカップの胸は目立って当然)
 
それでこの日以降、ブラジャーを着け、ブラウスを着て、コスプレ用の詰め襟を着て通学することになる。彼は元々パンツは女子用のショーツしか小さい頃から穿いてない。学生ズボンにしても、彼は女性体型なので男子用学生ズボンが入らず女性用の学生ズボンを穿いていた。だからこの日から彼は完全に女子用の服のみを着て生活するようになったのである。普段着も男物なんて持ってないし。
 
本人は女性用の服を着ているという意識が無いけど!
 
信濃町ガールズの女子たちに早速胸があることを指摘されたが「パッドだよ〜」と言っておいた。学校では、男子更衣室ではなく“男の娘更衣室”で着替えるよう言われた。「いらっしゃーい」とセレン・クロムたちに言われた。
 

ドアノブにはその後も時々、おやつとか、ルージュやマニキュアとか“栄養剤”とかの入った袋が下げられていた。寮はセキュリティが厳しいので部外者は入れない。ゆりこ副社長とかのプレゼントかなあと思いおやつは食べたし、化粧品はつけてみたし、栄養剤も飲んだ。結構仕事で体力を使うが、栄養剤を飲むと元気が出る気がした。
 
彼はブレストフォームの取り外し方が分からなかった。ずっと着けてるとかゆくなって炎症も起こしているっぽいのに外し方が分からないので困っていたのだが、2月下旬に直江姉(直江ヒカル/本名上田信希)に相談したら取り外してくれた。
 
彼女(でいいんかじゃないかなあ。女の子の香りがするし)は、接着剤で付けた“おっぱい”はエナメルリムーバーで取れるということも教えてくれた。なーんだ。タック外すのと同様に外せたのかと思った。
 
「じゃ3ヶ月くらい着けっぱなしだったの?」
「はい」
 
実は半年間、着けっぱなしだったけど!
 
「炎症起きてるよ。半月くらいは着けないで肌を休めたほうがいいよ」
「そうします」
 
それで半月ほどは普通のバストパッドで乗り切った。その後はまたブレストフォームを使うようにしたが、週に1回は外して肌を休めるようにした。だいたい月曜日は仕事が無いことが多いので、日曜の夜に取り外し、火曜の朝に付ける。月曜日に仕事がある時はウレタン製のバストパッドで乗り切るようにした。
 

しかし直江姉からは重要な情報を聞いた。ブレストフォームを裕紀の部屋のドアノブに下げていた犯人である。
 
「たぶん怪人Xのしわざ」
「何です?それ」
 
「セキュリティがかかっていて、部外者は入れないはずのこの寮内を闊歩する謎の人物。単純におやつとかくれる時もあるけど、可愛い服とかお化粧品とか女性ホルモン剤とか入れてあることもあるよ」
 
「服は見たこと無いな」
と正直に言ったのだが、もしかして、栄養剤と書いてあったものは本当は女性ホルモン??ぼく飲んじゃったけど!?
 
ということで、“栄養剤”が入っていたら必ず飲むようにした!
 

そんな感じで1年間やっていたのだが2021年春、地方ガールズからの昇格試験に合格して、長浜夢夜(本名松元徳代)ちゃんが男子寮に入ってきた。
 
が、彼女はどこをどう見ても女の子にしか見えない。そして女子制服で学校に通っている。
 
「松元さん、どうして男子寮に入ったの?女子寮が満杯だから?」
「ううん。だってぼく男の子だもん」
「うっそー!?」
 
更に連休明けには、高崎ひろか・松梨詩恩の妹の水森ビーナ(本名柴田数紀)ちゃんが男子寮に入ってきた。
 
「柴田さん、どうして男子寮に入ったの?女子寮が満杯だから?」
「ううん。だってぼく男の子だもん」
「うっそー!?」
 
セレンちゃん・クロムちゃんたちの見立てでは夢夜ちゃんは多分性転換手術済。ビーナちゃんは性転換まではしてないものの、睾丸は取り、陰裂を形成して、おしっこが女の子の位置から出るように尿道短縮術を受けているのではということらしい。(陰裂形成しておしっこが女の子の位置って、ほぼ性転換済みでは??(*4))
 
(*4) この時点でセレンたちは、数紀がペニスは温存したままその後ろに陰裂を形成し、おしっこもその中から出るようにしたものの、またヴァギナは作ってないと見ていた。ペニスがまだあるから一応男の子。でもペニスには尿道は残存しているものの膀胱とつながっておらず排尿機能が無いから事実上大きなクリトリス。彼女はバストもあるから、90%くらい女の子。。。と推測していた。
 

ビーナちゃんが入ってきてから少しした頃のこと。夜中に突然館内放送があった。
 
「男子寮生は全員1階のレインボウルームに集まってください」
 
川崎ゆりこ副社長の声である。
 
取り敢えず1階におりてみる。レインボウルームってどこだろう?と思ったらセレンちゃんが「こっちだよ」と教えてくれた。1階の端にドアが虹色にペイントされた部屋がある。こんな部屋あったっけ?と思う。
 
中に入るとゆりこ副社長が点呼を取る。
 
来ているのは、自分とセレン・クロム、ビーナ、きらら、篠原君、である。
 
直江ヒカルは4月に高校進学するのを機に女子寮に移動している。妹のアキラはまだ男子寮にいるが、多分既に女の子だからここには来てないのだろう。長浜夢夜は最初から女の子である。木下さんも多分既に女子である。それで現在の住人9人の内、この6人が呼び出されたのだろう。
 
ゆりこ副社長は宣言した。
 
「ではこれから皆さんのちんちんとたまたまを取ります」
「え〜〜!?」
 
裕紀は驚いたものの別にちんちんが無くてもいいなと思った。それでズボンとパンツを脱いで下さいと言われて脱ぐ。
 
ゆりこ副社長が大きなはさみを持っている、
 

ちょっと待って。そんなんで切るの?麻酔とか掛けないの?
 
と思う内に、チョキン!と切られちゃった。
 
特に痛みは無かったが、お股に何も無くなっているのを見て(←元々お股には何も無かったということは?)、何かスッキリしたなあと思った。ベッドに寝せられて、お医者さんが何か手術しているようだった。
 
「はい、終わったよ」
と言われてみると、きれいな割れ目ちゃんができている。タックしているのと似ているけど、この割れ目ちゃんはちゃんと開ける。
 
「あぁあ。ぼく女の子になっちゃった。でもまあいいか」
と思う。
 
セレンとクロムは
「やったぁ、女の子になれた」
と言って喜んでいる。
「裕紀ちゃんも女の子になれて良かったね」
と言われた。
 
「別に女の子になりたいわけじゃなかったけど、まあ女の子でもいいかな」
「明日からはセーラー服で学校に通えるよ」
 
裕紀はえ?と思った。
「セーラー服で通学するの〜?恥ずかしいよぉ」
 
「女の子になったんだから、当然セーラー服だよ」
とセレン・クロムは嬉しそうに言っている。
 
ビーナちゃんは
「ちんちん無くなっちゃったぁ」
などと言って少し戸惑っているようだった。
 

「でも近い内に切るつもりだったんでしょ?」
「うん。手術の予約はしてた」
「だったら少し早くなっただけだよ」
「そうだよね。明日からセーラー服で通おうかな」
とビーナちゃんは言っていた。
 
きららちゃんが自分のポジションにわりと近いようだった。
 
「ぼく女の子になっちゃった。どうしよう?」
「女の子になりたかったんでしょぅ?」
「うん。それで睾丸も取ってた。でもぼく女の子の声が出せないんだよね。それなのに女子制服とか着てたら、変態と思われないかなあ」
「女の子の声は練習すれば出るようになるよ。勇気出してセーラー服で通学しよ」
「そうだなあ。勇気無いけど、女の子になっちゃったんだから仕方ないよね」
「そうそう」
 
ひとりだけ泣いていたのが篠原君である。
 
「こんなの嫌だよう。僕女の子になんかなりたくなかったのに」
 
「女の子になっちゃったんだから諦めなよ。くらちゃんも明日から女子制服で通学しよ」
と言ってセレンとクロムが彼を慰めていたが
 
「女子制服は持ってはいるけど、女子制服着て通学するとか嫌だよう」
と言って彼はまだ泣いていた。
 
彼はゲイだと言ってたから、それならちんちん無いと困るんだろうなぁ。ぼくには、ちんちん必要だというのが、今一理解できないけど、などと思った。
 
そこで目が覚めた。
 

ということで凄い夢だったようである。
 
でもこの後、ビーナちゃんは本当に女子制服で通学し始めたので、実際にちんちん切られちゃった(切っちゃった?)のかも、などと裕紀はセレン・クロムと話した。
 
この夢はセレンとクロムも見たらしく「せっかく女の子になれたと思って喜んでいたのに起きたらちんちん付いてたから、がっかりした」
などと言っていた。
 
でもセレン・クロムによると、ペニスが無くて割れ目ちゃんがあったら、たとえヴァギナが無くても性別変更は認められるらしい。だからどうもビーナちゃんは戸籍上の性別を女性に変更できる状態になったようである。
 
「膣がなくてもいいの?」
「vaginoplasty と vulvoplasty の違いだね」
とクロムは言う。
 
「陰茎と睾丸・陰嚢・男性型尿道延長を無くし、恥丘・大陰唇・小陰唇・陰核・女性型尿道口を作るというのは一緒。ただvaginoplastyでは膣まで作るけど、vulvoplasty は膣を作らない。だからvulvoplasty は女陰形成術ともいう」
 
「へー」
 
「膣があれば男の人と膣を使用したセックスができるから、若くて体力のある人、男性との結婚を希望する人はこちらを選ぶべきだと思う。でも造膣は凄く痛いし完治までの期間が長い。膣を作らないなら痛みも小さく、完治までの期間も短い。でも男性とのセックスができない。だから年齢が高かったり健康に問題があったり、パートナーが女性といった人はこちらを選んでもいいと言われる」
 
「なるほどー」
 
「だから裕紀ちゃんも、20歳くらいまでには性転換手術受けるんだろうけど、ちゃんとヴァギナまで造る方式で考えていたほうがいいよ。痛いけどね」
 
ぼくその内、そういう手術受けちゃうのかなあ。別に女の子になりたい気持ちは無いけど。でもうまく乗せられて受けちゃったりして。などと裕紀は思った。
 

この夢を見た後、直江妹も6月上旬から女子制服での通学を始めた。
 
(彼女はあの夢の中には出ていなかったから元々女の子の身体だったのだと思う)
 
「ぼくも女子制服で通学したーい!」
とセレン・クロムは言っていた。
 
「裕紀ちゃんも女子制服で通学したいでしょ?」
「いや別に」
 
「ぼくたちの前で恥ずかしがらなくてもいいのに」
「取り敢えず寮の中は誰にも見られないし、女子制服着てなよ」
「それもいいかなあ。特に夏はズボンだと蒸れるし」
「そうそう。夏は絶対スカートがいいよね」
 

2021年7月、ビデオガールコンテストが行われ、また2名男子寮に入寮者があった。
 
鈴原さくらちゃんは長浜夢夜ちゃんに近い感じ。どう見ても女の子にしか見えない。立山きらめき(後の・立山煌)ちゃんもまだ声変わりしてないということで女の子みたいな声である。本当は去勢してるか、女性ホルモンしてるのでは?と思った(←自分がまだ声変わりしてないことは棚に上げている)。
 
裕紀はまた不安になった。自分が歌手デビューとかできるとは思えないけど、信濃町ガールズしていること自体が楽しい。だからデビューできなくていいから信濃町ガールズを続けたい。
 
でもやはり信濃町ガールズ続けるなら男の子やめないといけないのかなあ。
 
(↑元々男の子だったのかどうかがかなり怪しい気がするが)
 

セレンとクロムは今は女性ホルモンで男性化を抑えているという話である。彼らは中学生のうちは去勢手術はダメと親から言われているらしい。だったら中学卒業したら、去勢して男の子からも卒業するのかな。
 
ぼくはどうしよう?とかなり悩んだ。
 
そして色々考えてみたものの、自分はやはり男の子だと思うし、女の子として生きていく自信は無い気がした。
 
それで悩んだ末に、2020年春から始めて2年経つ2022年春を機に退団して普通の高校に進学し「普通の男子高校生」に戻ろうかなと思い、花ちゃんに退団の申し入れをした。でも花ちゃんからは
 
「もしかして性転換手術受けて、普通の女子高生になりたいの?手術のあと3ヶ月くらいお休みあげてもいいよ」
と言われて
 
「どうしよう?」
と言ってしまった!
 

2022年2月12日(土) §§ミュージックは信濃町ガールズの地方生から本部生への昇格試験を実施し、下記のメンツの昇格を決めた。
 
東海林椿希(中2) 山形県酒田市
長岡飛鳥(中2) 島根県雲南市
藤真理奈(中3) 宮崎県都城市
鳴田あゆな(中1) 愛知県碧南市
杉本ひかり(小6) 兵庫県丹波市
糸川穂美(中1) 福井県越前町
隅田可愛(小6) 東京都豊島区
 
小野寺雪(中1) 北海道北斗市
石田一絵(中1) 佐賀県有田町
 

基本的には2022年4月加入ということになるので、4月付けでこちらの公立中学に転入してもらう。中学3年の藤さんは私立高校に進学してもらうので女子寮から通学が容易な高校のパンフレットを渡し、できるだけ早く進学先を決めてほしいと伝えた。そこと交渉して(成績が合格水準にあれば)入れてもらうことにする。
 
小学6年生の杉本ひかり・隅田可愛については、卒業式で進学先の中学の制服を着たいだろうから早急に制服を作ってもらうことにし、(2/12)すぐ採寸して発注した。他の子は明日(2/13)採寸することにする。
 
小野寺さんと石田さんは昨年10月の昇格試験で昇格保留になっていた子で今回は昇格の意志を電話で確認しただけで昇格を決めたので、試験は受けていない。この2人は2/12午後に、Honda-JetのRed, Silver を飛ばして熊谷に連れてきた。一方不合格になった子はその日の内に、Tiger, Blue, Yellow を使って各々の自宅最寄り空港に送り届けた(保護者の車で来ていた2人はそのまま車で帰った)。
 
それで合格した7+2人は2/12夜はホテル赤城に泊まった。普段は合格した子を先に返して、不合格の子を翌日帰すのだが、今回は試験の科目が多く遅くまで掛かったこと、そして無試験合格者を含めて一緒に説明をしたかったので順序が逆になった、
 

2/13朝から合格者を昨日歌唱テストをした小ホールに集めた。冒頭川崎ゆりこは合格者の前に立ち、いきなり言った。
 
「やりたい人?」
 
何の前提も無しである。しかし藤真理奈が大きな声で
「はい!」
と言って手を挙げた。
 
川崎ゆりこは満足そうに
「うん。いいお返事だね。君英語得意?」
と訊いた。
「はい、得意です」
と即答する(後でハッタリだったことがバレて突っ込まれる)。
 
「だったら、フランス語とドイツ語の勉強して欲しい。詳細は後で高柳から連絡される」
「はい、頑張ります!」
 

藤はこの説明会の後、映画の出演の話と聞いて驚いたものの頑張りますと言ってまずはドイツ語講座をすぐ受講開始し、1ヶ月後には今度はフランス語講座も受けることにした。1ヶ月ずらすのは頭の中が混乱しないようにするためである。
 
彼女は更に急浮上した映画『黄金の流星』で映画に慣れるのを兼ねて無線技士の役で出ることになり、モールス信号まで必死に覚えることになる。
 
彼女は足に傷があり、今回のオーディションもパンツルックで受けたのだが、通信士の役はズボン姿、もうひとつの映画のほうはロングスカートと聞いて安心していた。
 
彼女は“広瀬みづほ”の芸名をもらった。
 
また彼女は「芸能活動しやすい高校に進学したい」と言ったので、恋珠ルビーなどが進学予定の葛飾区E学園に進学することを決め、模試の成績表を実家に居るお兄さんにFAXしてもらい、2/14(月)に特例の面接を受けて合格内定した(事実上の自己推薦入試)。
 
しかし模試の成績表を見て
「英語の成績あまりよくないじゃん」
と信濃町ガールズの進学のお世話している佐々木春夏から突っ込まれた。でも
 
「自腹で英語講座も受講して頑張ります」
と言っていた。
 
(彼女には引越費用に加え映画(お気に召すまま)のギャラを前払いで渡している。むろんドイツ語とフランス語講座の受講料は映画の制作委員会が払っている。後日『黄金の流星』のギャラも追加で払った:それで彼女は4月も5月も“最低保証”が適用されなかった)
 

さて、説明会の席で藤が川崎ゆりこ副社長とのやりとりで、明らかにチャンスを掴んだのを見て、他の8人は自分たちが今から入るのがどういう世界なのかかなり理解したようである。
 
8人は感じた。
 
“待っているだけの人は永久に待っているだけだ”
 
と。
 
この後、コスモス社長の短い挨拶の後、ベテランの玉雪梓紗マネージャーからタレントとしての心がけ、アクア担当高村友香マネージャーから守秘義務について、サブテスクの美咲瞳から業務上の連絡のこと、そして信濃町ガールズ担当の佐々木春夏から生活規律について、説明があった。
 
佐々木からは3月27日(日)までに入寮してほしいという説明があったのだが、小学6年生の隅田可愛が言った。
 
「私、今の小学校に女子寮からでも通学できると思うんです。今日入寮してもいいですか?」
「うん。いいよ。すぐ連絡しておくね」
 

それで隅田可愛はこの日の夕方には五反野の女子寮に引っ越してきてしまった。彼女はその時点から信濃町ガールズとして扱われるので、3月頭の震災復興イベント(ノーギャラ!)にも連れて行ってもらえることになり"春野わかな"の芸名をもらった。
 
隅田→春のうららの隅田川→春野、という発想らしい。“わかな”はむろん“君がため、春の野に出でて若菜摘む、我が衣手に雪は降りつつ”から。
 

午前中の説明会が終わると、昨日採寸しなかった7人の(転入予定中学校の女子制服の)制服採寸が行われた。
 
「だいたい卒業式・終業式が終わってこちらに来た時にはお渡しできると思います」
と佐々木さんからは説明があった。
 
お昼を食べてから、即入寮する隅田可愛、高校の手続きがある藤真理奈以外の7人を飛行機で送り届ける。次のように飛行機を飛ばした。
 
Tiger:熊谷→庄内(東海林)→函館(小野寺) “期待組”
Yellow:熊谷→小浜(杉本)→出雲(長岡) “男の娘組”
Red:熊谷→小牧(鳴田)→佐賀(石田) “PM組(後述)”
Silver:熊谷→小松(糸川)
 
藤真理奈(都城)は高校の面接を受けてその結果を聞いて、15日(火)にホンダジェットで宮崎空港に送り届けた。
 

2021年10月末時点で、芽が出る見込みがないので引退・退団したいとコスモスや副寮母(音楽部長)の花ちゃんに申し出ていたのは下記9名(A契約4名B契約5名)である。
 
2016-2.山口暢香(2003)“リセエンヌ・ドオ”
2016-3.門脇真悠(2003)“大崎忍”
2016-5.高島瑞絵(2003)“リセエンヌ・ドオ”
2017-1.柳田章枝(2003)“石川ポルカ”第4代ロックギャル
2018-2.上野有里絵(2005)“今川容子”
2018-7.松田志帆(2005)“青木由衣子”
2019-4.諸田望美(2003)“太田芳絵”
2019-5.広原恵美(2005)“左蔵真未”
2020-*.末次一葉(2006)“花園裕紀”
 
2018年度ロックギャルコンテスト1位たった原町カペラも引退したいと言っていたのだが、8月に出した2年ぶりのアルバムが5万枚も売れ、その中からシングルカットした『湖の伝説』は初ゴールドとなる11万枚も売れて、本人もやる気を出し、引退は撤回した。
 
そして原町カペラ同様“優勝したのに売れてないし最近放置されてる”と思っていた石川ポルカも、11月17日に出したシングルが8万枚売れてゴールドには達っしなかったものの『もう少し頑張ってみようかな』といって引退を撤回した。
 

太田芳絵は完全に辞めるつもりで大学に進学しようと共通テストを受験した。しかし受験勉強をしていて自分は今高校の授業にも全然付いていけてないのに、大学の授業なんてさっぱり分からないのではと不安を感じた。そんな時、コスモス社長から言われた。
 
「芳絵ちゃんを買ってくれるブロデューサーさんがいて、新しいドラマに出てくれないかと言われたんだけど、どうする?大学通いながらでもいいよ」
 
自分の演技を評価してくれた人がいたのが嬉しかった。それで分からない大学の授業をぼーっと聞いているよりまだタレントの仕事を続けようと思い直した。そして大学には行かないことにし、引退も撤回した。
 
そういう訳で11月頭の段階から昇格試験を実施するまでの間にポルカと芳絵が引退・退団を撤回して、引退予定は7人になっていた。それで昇格試験は8人合格させることにした。しかし上位に女の子にしか見えないけど男の子だったという子が混じっていたことから結局9名合格させた。
 

3月9日(水) "VOS" - "Voice Of Synergy" or "Vent d'or feat.Shinobu" 名義のアルバム『夏の最後のバラ』が発売された。
 
収録されているのは下記24曲である。
 
アイルランド民謡(4)
Londonderry Air『ロンドンデリーの歌』
The last rose of summer『夏の最後のバラ』(通称:庭の千草)
Irish Lullaby『アイルランドの子守唄』
Siuil A Run『シューラ・ルーン』
 
ウェールズ民謡(4)
Hen Wlad Fy Nhadau『わが祖先の地』(ウェールズ語)
The Ash Grove『とねりこの木立』
Calon Lan 『カロンラーン(清らかな心)』(ウェールズ語)
Ar Hyd y Nos『夜もすがら』(ウェールズ語)
 
スコットランド民謡(8)
Flower of Scotland『スコットランドの花』
Scotland the Brave『勇敢なるスコットランド』
The Bluebells of Scotland『スコットランドの釣鐘草』
Comin' thro' the Rye『麦畑』(スコットランド方言)
Chopsticks『トトトの歌』
My Bonnie『マイボニー』
Annie Laurie『アニーローリー』
Auld Lang Syne『蛍の光』
 
イングランド民謡(8)
God save the Queen『神よ女王を守り給え』
Scarborough Fair『スカボロフェア』(old melody)
Long Long Ago『ずっと昔』
London bridge is falling down『ロンドン橋』
Sing a song of sixpence,『6ペンスの歌』
Here We Go Round the Mulberry Bush『お洗濯の歌』
Home, Sweet Home『埴生の宿』
Green Sleeves『グリーン・スリーブス(緑の小袖)』
 
『スカボロフェア』は良く知られている「ラーラ・ミーミミ・シドシラー」のほうではなく古いメロディーのほうである。
 
ラシラ・ソラシ・ドーレドーシー、ラシド・ドシラ・ラドレミー、ラミーミ・ファ#ミレ・ミララ・ソラシ、ドーレド・シラミ・ミファ#ソ#ラ
 

実は大崎忍およびヴァンドールの山口暢香・高島瑞絵は、事務所から事実上放置されていることから、事務所との契約を解除したいとコスモス社長に申し入れていた。コスモスも申し訳無いとは思っていたものの、本当に人手不足でどうにもならなかった。
 
そんな時、唐突に、沢村朋代(§§プロ時代からの社員で現在最古参社員)がマネージング部長を退任したいと言ってきた。彼女は元々おっとりしたタイプで、あまり“切れる”タイプではない。それで本来は彼女がタレントのスケジュールの元締めだったはずが、実際には助手の美崎瞳が事実上全員のスケジュールの最終管理をしており、みんな瞳を頼るようになっていた。それで自分は辞めるから瞳を部長にしてやってほしいと言ってきたのである。
 
コスモスは言った。美崎瞳をマネージングの責任者にしてしまうと、何かミスがあった時に謝る人が居ない。そういう時、沢村のほんわりとした雰囲気が役に立つのだと。だから名前だけでいいからマネージング部長に留まってほしいと。
 
(実際には美崎瞳はまだ21歳で部長にするには若すぎるのと、それでなくても瞳の仕事の重圧は凄まじいので、部長にして責任まで重くするより、サブという立場のほうが精神的に仕事がしやすいというのがあった)
 
それで沢村は辞意を撤回し形だけのマネージング部長に留まることにした。そしてだったら自分は今放置されているヴァンドールと大崎忍の面倒を見たいと言った。それでコスモスはこの5人を沢村に任せたのである。
 

沢村は5人と丸一日かけて話し合い、一緒にアルバムを作ろうということになった。とはいっても、アーティスト魅力が無い(「はっきり言うなあ」と5人の弁)ので、普通の楽曲でアルバムをリリースしても全く売れないだろう。そこで、今回UK(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、通称イギリス)の唱歌をとりあげようということにした。
 
「舞音ちゃんと水谷姉妹が童謡を歌ってるじゃん。あの子たちは優しい雰囲気があるから、子供向けの歌が似合ってると思うのよ。でもヴァンドールは大人びた雰囲気を持っている。そしたら、外国の唱歌が似合うと思う。これがうまく行ったら、次はロシア民謡とかやってもいいかもね」
 
(と言っていたのだが、ロシアのウクライナ侵略でできなくなり、次回はアメリカのフォークソング・ブルーグラスに行くことにした)
 
曲の選定は5人(主として“辞める”と言っていた暢香・瑞絵・忍の3人)に任せた所、上記のような曲のラインナップができたのである。3人はできたらイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドから同数程度の曲を選びたかったが、日本での知名度で、どうしてもスコットランドとイングランドの曲が多くなってしまった。しかし無理にあまり知られてない曲を歌うより、このまま有名曲を歌うというのでいいだろうということにした。
 

制作はこのように進めた。
 
音楽教育をしっかり受けている大崎忍がスコアを書いた上で、
 
(1) 最初に大崎忍がエレクトーンで仮音源を作る。
(2) この仮音源を聴きながら合奏する
Fl.南田容子 Pic.山口暢香 Cla.高島瑞絵 Oboe.佐藤ゆか Sax.大崎忍
(3) この木管楽器演奏で作った音源を聴きながら、ヴァンドールの4人が歌い、大崎忍はフィドルを弾く。
 
実はUKの音楽ユニット、ケルティック・ウーマンを意識した音作りである。オーボエを入れたのも、ケルティックウーマンがバグパイプを使っていることを意識している。
 
エレクトーンの音は最終ミクシングに残さないので、完成した音源には、リズム楽器の音は残らない。ポピュラー音楽では通常入る、ギターもドラムスも入っていない。金管楽器も入っていない。しかしそういう音作りがかえって特徴が出てよいのではないかと沢村は言った。
 
そして約1ヶ月間にわたる制作を経て、アルバムが完成したのである。
 
大して売れないだろうしと思い、3000枚しかプレスしなかったのだが、他の子のファンクラブ会報に、§§ミュージック共通のプレス情報としてこのアルバムも掲載されたことから興味を持ってくれた人もあり、最初の一週間で3000枚が売り切れてしまい、慌てて追加プレスすることになった。
 
2020年に出した「倶利伽羅峠の歌」なんて500枚くらいしか売れなかったのに!
 
しかしこのアルバムが思いもよらず売れたことから、山口暢香・高島瑞絵・大崎忍の3人は引退を撤回。4月からまた新しいアルバム作りに臨むことになった。(3月は南田容子が高崎三姉妹が歌う若杉千代トリビュートアルバムの制作スタッフをしていて時間が取れなかった)
 

さて、アクアは2021/11-12月にワンティスのトリビュートアルバムの制作をしていたのだが、その期間、その作業をColdFly5のメンバーで蔵原リア以外の4人、Flower Sunshine のメンバーで安原祥子・桜井真理子・立花紀子の3人がお手伝いした。その時“余った”FLower Sunshineの残り:竹原比奈子、神谷祐子、山道秋乃、水端百代の4人は女子寮の一室に放り込まれて(ほんとに4人で一室を使う)、
 
「あんたたち少しレッスン受けなさい」
と言われて、§§ミュージックの他の女子寮生と一緒に歌やダンス・楽器などのレッスンを受けた。
 
これが思わぬ効果を生み出すことになった。
 

ひとつの集団があれば、その中にどうしてもピンからキリまでできることになる。
 
太田芳絵などは、アクアとか東雲はることか、常滑舞音とか七尾ロマンとか、凄い人たちばかり見て
 
「自分はとてもかなわないから、もうやめよう」
などと思ってしまっていたのだが、隅田可愛(春野わかな)などから
 
「100人以上いる地方ガールズたちの頂点にたつ本部生」
と言われて、そうか。自分を見上げている子たちもいるんだ、というのを認識してやる気を回復した。
 
2021年秋の時点で退団を申し出ていた子たちなどはむしろ
「太田芳絵ちゃんみたいに歌がうまい人でも、なかなか売れないでいるから、自分たちはもうやめよう」
と思っていた。
 

ところがFlower Sunshine のメンツを見ていたら、
「自分たちのほうがよほど上手いぞ」
と思ってしまったのである。
 
つまりこれまで上ばかり見ていた子たちが初めて自分たちよりずっと下がいることに気付いてしまった。実際、今川容子など、竹原比奈子あたりから
「上手いですねー。どうしたらそんなに歌がうまくなれるんですか」
などと訊かれてしまう。
 
それで、この“ピンからキリ”の“キリ”付近にいた子たちの心情に変化が現れたのである。
「私そんなに下手じゃないんじゃないかなあ」
「取り敢えず楽譜は読めるようになったし」
「私年間お給料400万円くらいだけど、食事・住宅付きでこの金額って、もしかして芸能界ではいい方だったりして」
 
などと思うようになった。
 
Flower Sunshine は以前の事務所にいた頃は給料20万とかだったらしい。♪♪ハウスに移籍してから25万に上げてもらったとか。
 
20万から家賃・光熱費・交通費・国民健康保険・スマホ代を払うと月7万くらいしか残らないはずである。ここから洋服代・食費を払うとかなりきつい。みんな高校の学納金は親に払ってもらっていたらしい。信濃町ガールズの子たちは学費はみんな自分で払っている。
 

それでついに今川容子などは花ちゃんに
「私ずっと信濃町ガールズのままでもいいですか?」
などと尋ねたのである。
 
「まあ中学卒業したら信濃町ミューズ、22歳すぎたら信濃町エルフだけど(*5), エルフには定年は無いから60歳すぎてもやっていいよ」
「60歳でミニスカ穿く自信はないです!」
 

「それで65歳のアクアのバックで踊ったりしてね」
 
今川容子は考えた。
 
「それはそれで絵になる気がします」
「うん。私もジョークで言ったけど、想像してみるとそれなりに美しいかもしれない気がするよ」
と花ちゃんも言っていた。
 
それで今川容子は退団を撤回したのである。
 

「ついでに字を変えてもらえません?“容子”って南田容子ちゃんとかぶってるし」
「あれは南田容子ちゃんに“デビューまでには”芸名付けるつもりが、本人たちが自主的にリセエンヌ・ドオを始めて、芸名が付かないままになってしまったんだよねー。昔はデビュー時点で芸名付けてたから」
 
§§ミュージックでタレントに芸名を付けるようにしているのは、タレントを辞めた時に“普通の女の子”に戻りやすいようにするためである。本名で活動していると、辞めた後で名前を見られただけで元タレントと分かってしまう。
 
研修生の段階では“表には出ない”から芸名も不要と昔は考えられていた。信濃町ガールズに芸名が付けられたのは、2019年末に制作した『The源平記』に信濃町ガールズを全員出演させた時からである。この時から信濃町ガールズは名前がームページに掲載されるようになったのだが、“今川容子”もこの時に付けられた芸名である。
 
この時コスモスはほんの数日で15人くらいの芸名を考えている(実は東雲はるこ・町田朱美もその時に5分で決めた)。余裕が無いのでリセエンヌ・ドオは「あんたたちはリセエンヌ・ドオの名前があるからいいよね?」ということにされてしまった。
 

花ちゃんは名前ソフトで画数を確認してくれて、今川容子は“今川ようこ”と改名することになった。
 
今川容子 総19△不達挫折 天7◎開拓打破 地12△天地波乱 人13◎和合繁栄 外6◎福禄強靱
今川ようこ 総13◎和合繁栄 天7◎開拓打破 地6◎福禄強靱 人5○安定成長 外8◎質実剛健
 
「“今川容子”はソフトで見るとあまりいい名前ではないな。コスモス社長も多分短期間にたくさん名前付けたから画数まで見てる余裕無かったんだろうな」
と花ちゃんは言った。
 

(*5) 今唐突に思い付いた設定!ゆりこはスタッフなどに転身するためにミューズを辞めた子がエルフだと言っている。
 
本来は“信濃町ガールズ”というのは、デビューに向けて訓練中のタレント予備軍の中学生たちに名前を付けたものだったので、中学生でデビューするのが普通のアイドルの世界では、高校生の信濃町ガールズというのがそもそも想定外だった。
 
しかし人数がふくれあがってしまい、結果的にデビューをほぼ諦めている信濃町ガールズが増えた。しかし信濃町ガールズのまま、テレビに出たりする子も多いので、信濃町ガールズ自体が半ば集団アイドルに近い状態になりつつある。(むしろ、ジャニーズ・ジュニアとかにもっと近い)
 
この傾向は特に2020年春にあけぼのテレビを始めてから更に強くなった。信濃町ガールズのまま、かなりのファンメールをもらっている子もいる。B+契約の子も増えた。彼女たちはA契約(*6)の石川ポルカや大崎忍などよりよほどたくさん報酬をもらっている。
 

(*6) §§ミュージック・ΘΘプロなどを含む∞∞プロ系タレントの契約形態は基本的に下記の3種類(共通契約書)である。
 
C契約(練習生契約)地方ガールズがこれ。仕事かあった時だけ報酬を払う。専属条項が無いので他の事務所の仕事や直接の仕事をしても良い。実際、ローカルのCMなどに出ている子もいる。名前が事務所のアーティスト一覧に掲載されない。
 
B契約(研修生契約)一般の信濃町ガールズ本部生がこれ。仕事があれば報酬を払うが営業はしない。専任マネージャーが居ない。専属条項があるので他の事務所の仕事はできない。事務所のアーティスト一覧に名前と誕生日・性別(*7)が掲載されるしidカードも渡される。報酬の取り分は2割(業界で一般的な水準)だが、毎月の最低保証があるので大半の子は事実上の月給制。
 
A契約(タレント契約)歌手や女優としてデビューした子がこれ。マネージャーが付く。報酬の取り分は4割(業界最高水準)だが、毎月の最低保証は無い。
 
B+契約(俗称)というのは基本的にはB契約に準じるしマネージャーも居ないのだが、報酬をA契約の子と同じ4割支払うというものである。最低保証があるのかどうかは曖昧だが、最低保証が必要な金額になることはない子に適用されている。§§ミュージック独自の“運用”で他の事務所には無い。そもそも契約書はB契約のままである。
 
§§ミュージック以外の事務所はほとんどのタレントがB契約で、A契約しているのはトップクラスのごく一部のタレントのみである。またA契約の報酬取り分もだいたい3割である。4割も払ったら普通経営が成り立たない。
 
§§ミュージックが業界最高水準の4割でも経営が成り立ってきたのは、大宮とれみ、秋風コスモス、桜野みちる、そして、アクア、白鳥リズム、常滑舞音などの“スーパースター”を輩出してきたからである。
 
(*7) アーティストの性別は掲示しなくてもよいのではという意見が最近強まっている。
 
 
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【夏の日の想い出・二足のわらじ】(1)