【夏の日の想い出・二足のわらじ】(2)

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§§ミュージック関係で3月中旬に中学を卒業する予定なのは下記のメンツで各々次の高校に進学することが2月中旬までには決まっていた。
 
新里好永“恋珠ルビー”葛飾区E学園
平良百合ゆり“花貝パール”葛飾区E学園
藤真理奈“広瀬みづほ”葛飾区E学園
溝口千歌“水谷康恵”葛飾区E学園
 
風谷リンゴ“美崎ジョナ”北区C学園女子高校
 
立川心桜“松島ふうか”葛飾区L高校
横山朋菜“箱崎マイコ”葛飾区L高校
佐藤晴恵“鹿野カリナ”葛飾区L高校
 
末次一葉“花園裕紀”
 
ルビー・パールなどが進学する葛飾区E学園には常滑舞音・山本コリン・甲斐姉などが在籍中である。ここは割と自由の利く高校で芸能人の生徒も多い。今回水谷姉が進学することで来年は多分甲斐姉妹・水谷姉妹が揃う。
 
ジョナが進学する北区C学園女子高校はアクアの母校で、白鳥リズム・羽鳥セシル・東雲はるこ・町田朱美・水森ビーナなどが在籍している(男の娘が多い気がするのはきっと気のせい)。ここは音楽教育が充実している。ミッションだが、別に信者にならなくてもいいし、宗教の時間の受講は任意である。
 
松島ふうかなどが進学する葛飾区L高校には七尾ロマン、直江ヒカルなどが在籍している。ここは単位制なので何年掛けて卒業してもいいが大抵の子は3年で卒業する(4年生以上の子のためのホームルームがある)。
 

2月下旬、リストを眺めていたコスモスは佐々木春夏マネージャーに電話した。
 
「花園裕紀の進学先が記入されてないけど、あの子どこに進学するの?」
「それがまだ決まってないんです」
「なんで?」
 
「退団するなら実家から通える所にしようかなとか言ってるのは聞いたのですが・・・」
「じゃ埼玉の方の高校に入るの?」
「それもまだ決めてないみたいです」
 
「この時期にまだ進学先が決まってないって、まずいじゃん。あの子、公立とかは?」
「あの子の成績では無理だと思います」
「だったらあの子、どうするつもりなのよ〜!」
とコスモスは叫んだ。
 

政子はまた唐突に言った。
「よく二足のわらじと言うけどさ」
「うん」
「足は2本ある人が多いから、わらじは2足無いと困るよね」
 
「いや“一足”というのが左右のわらじセットのことだよ。a pair of straw shoes」
「なんで〜?“ひとつの足”と書くのに」
「なんでと言われても日本語の“足(そく)”というのは両足につける一揃いのものを意味する。靴下一足とか、スケート靴一足とか」
「スキー板は?」
「それは1組だと思う」
 
「だったら靴の左右どちらかだけを言いたい時はどうすればいいのよ?」
「それは靴の片方だよ」
 
政子は不満なようである。
 

「人間は足が2本の人が多いから1足で2つとして、4本足の犬用の靴は?1足で4つ?」
「犬用の靴は“足(そく)”では数えないと思うなあ。4個で1セットみたいな言い方をすると思う」
「百足(むかで)さんなら、100個で1セット?」
「ムカデに靴を履かせようという人はいないと思うけど、ムカデの足は必ず奇数対あるから、100本、つまり2本×50組ということは無い。49組で98本か51組で102本になる」(*8)
「え?足が100本のムカデさんって居ないの?」
「居ない」
「それはいけない。ムカデの漢字は“百二足”とかに改訂すべきよ」
「知らん」
 
で、結局何の話だったんだ?
 

(*8) 日本の家庭でよく見かけるオオムカデは21対(42本)の足を持つ。ただし亜種の赤ムカデは23対(46本)である。
 

3月7日、私は世界水泳の代表に決まった青葉に電話して言った。
 
「世界水泳代表決定おめでとう」
「ありがとうございます」
「それで物は相談だけど、集中して練習できる環境を提供するからさ」
「はいはい。今度は何のお仕事ですか」
「話が早いね。今度は若杉千代のトリビュートアルバムを作りたいんだよ」
「誰でしたっけ?」
「1960年代に活躍した歌手でね」
「随分昔の人ですね!」
「ワンティスが所属していた事務所のオーナー」
「へー!」
「その人の生誕80年なんだよ」
「もう亡くなっておられるんですか?」
「高岡さんの事故の直後に亡くなってる。癌でね。龍虎の養育費は実はこの人が高岡夫妻に代わって払っていたんだ」
「そうだったんですか!」
 

それで結局青葉は郷愁リゾートのコテージ“つばめ”で、11-12月にワンティスのトリビュートアルバムを作った時と同様に、南田容子と立花紀子を助手にして3月いっぱいくらいの日程で、このアルバムの編曲をしてくれることになったのである。
 
私はそれが終わったところでミュージッシャン・アメバムの取材を頼もうと思い、そちらの準備も始めていた。ここまでアクア、長沼清恵、XETIMA、富士川32と取材してきて、次はUFO・スパイスミッション・ビンゴアキを取材する予定である。この放送予定は6月から7月上旬になる。その後の分は世界水泳の後になるだろう。
 
原則としてアーティストの自宅を訪問することになってはいるものの、この三者は自宅取材が困難なので、どこで取材するか考えなければならない。
 

2022年3月7日(月).
 
マリは妊娠中であること、8月上旬頃に出産予定であることを公表した。
 
「父親は噂されている百道大輔さんですか?」
「知りません。大輔ではないと思いますよ」
「百道大輔さんとの入籍はいつですか?」
「結婚する予定はありません」
「他に交際している人が居るんですか?」
「知りません」
 
ということで、マリは否定していたものの、多くの人は相手は百道大輔なのだろうと思った。何よりも大輔の子供・夏絵をマリが手元に置いているのが、ふたりの関係が“結婚カウントダウン状態”であることを想像させた。
 
私もてっきり父親は大輔だと思い込んでいた。
 

川崎ゆりこは、困ったなあと思い、北海道のことに詳しそうな千里に電話して尋ねた。
 
「醍醐先生、ちょっとご相談なのですが」
「うん」
「今月末にアクア主演で映画を撮るんですが」
「ああ。『お気に召すまま』ね」
「いえ。それは4月から5月に掛けて撮る予定でその前に3月に『黄金の流星』というのを撮るんですよ」
 
「慌ただしいね」
「アクアは2〜3日だけの予定なんですけどね」
「え?でも主演って言わなかった?」
「はい。でも彼女の出番は2〜3日で終わるんですよ」
「主演がそんな短時間でいいの〜?」
 
この時点ではまだアクアは、アルケイディアのみを演じる予定で、ジルダルとルクールまで演じる予定は無かったのである。
 
「それでこれ隕石が小さな島に落下するお話なんですよ」
「ああ、思い出した。アラスカかどこかに落ちる話だっけ?」
「よくご存じですね。まあグリーンランドなのですが」
 
「少し方角が違ったか」
「映画の予算が無いのでどこか雪に覆われている島があったらそこでロケができないかなと思うんですが、一週間くらいほぼ占有してロケができるような北海道の島をご存じないかなと思って」
 
千里は少し沈黙した。ゆりこは忙しいのにそんなんで煩わせるなとか叱られるかと思ったのだが、千里の返事は意外なものだった。
 
「北海道の日本海沿いに、私が個人で所有している島があるんだけど、そこ使っていいよ。映画の予算無いならタダで貸してもいいよ」
 
「ほんとですか!助かります」
「何なら見学に行く?」
「はい。ぜひ」
 

それで、3月8日、川崎ゆりこ、秋風コスモス、河村監督夫妻、大曽根部長の5人が旭川空港まで千里のG450で飛んだ。
 
旭川空港からは千里が運転するアルハンブラで留萌港まで行く。そこに大型のクルーザーが停泊していて、千里は5人を船に案内した。
 
「個人所有の島なんで公共の交通機関では到達できないんですよ」
と千里は言っている。
 
「この船は?」
と河村監督が訊く。
 
「私個人所有のクルーザーですが」
と千里は平然と答える。
 
大曽根さんが言った。
「ね、ね、醍醐さん。この船も撮影に使わせてもらえない?大型のクルーザーが物語に出てくるんだよ。そこの撮影をどうしようかと思ってた」
 
「いいですよ。クルーごとお貸ししますよ」
「助かる!」
 

川崎ゆりこが訊いた。
 
「この船の名前、Akuparaって書いてあったけど、亀さんですか?」
「そうそう。ここにマリちゃんがいたら別の亀さんを連想する」
「あの子はすぐ下ネタに行く!」
とゆりこは言っている。
 
アクパーラというのはインド神話に出てくる巨大な亀である。この船の名誉船長が千里の眷属・玄武なので、彼にちなんで付けたもの。
 
「でもマリちゃん記者会見では否定してたけど、やはり百道大輔と結婚するのかなあ」
「しないと思いますよ。妊娠中の子どもも別の人の子どもだし」
「そうなの!?」
 
「父親知ってるのは私とケイくらいでしょうけどね」
などと千里は言ったが、ケイはまだ報されてなかった!
(言えば絶対怒るから)
 
「だからローズ+リリーは来年には活動再開すると思いますよ」
「へー」
 

「でもよくケイちゃん1人でローズ+リリーやりながら膨大な曲を書きながら§§ミュージックの会長してるね」
と大曽根さん。
 
「まあケイは10人居ますから」
と千里。
「ああ、いますよね」
とゆりこ。
 
「ちなみに私は多分7人、アクアは多分3人です」
「うん。アクアは絶対1人ではない」
と、ゆりこも言っている。
 
もっともここにいる6人の中で2人のアクアが並んでいる所を見たことがあるのが河村監督夫妻、千里、コスモスと4人もいる。3人並んでいるところを見ているのは千里とコスモスのみである。それにプラスしてアクアの代役をしている“かぶちゃん”のことを知っているのも千里とコスモスのみである。“かぶちゃん”のことはアクア本人も知らない。千里が“3人”と言ったのは“かぶちゃん”を含めての意味。
 

島に到着するまで6人はオーナー船室で過ごす。ここはコロナ対策で改造したということで物凄く換気がよくなっていた。
 
「これだけ換気が良ければ問題無いな」
と大曽根さんは言っている。
 
「でもこのクルーザー、いつから持ってるの?」
とコスモスが尋ねる。
 
「このクルーザー買ったのは10年以上前なんだよ。売りたがっている人が居たから。最近はレクサスLY650みたいな未来っぽいデザインのクルーザーが流行りみたいだけど、このクルーザーはクラシカルなデザインなんだよね。だから価格もほんの5000万円だった。ずっと関西のほうで運用していたんだけど、父が船があるなら乗りたいっていうから、こちらに持って来た」
 
「お父さん、漁船に乗ってたんでしたね?」
とコスモスが言う。
 
「うん。祖父がニシン漁やってて、父の時代はスケソウダラ。でもスケソウダラ船も私が中学の時に廃船になって、そのあと養殖場の見回りをすする小舟に乗ってた。この船、自由に乗っていいよと言ったらオモチャをもらった子どもみたいに喜んで、昔の仲間とか誘ってしょっちゅう動かしてる」
 
「親孝行じゃん」
と大曽根さんが言う。
 
「船の設備が豪華すぎるって文句言ってますけど」
「ああ」
 
「スケソウダラ船は寝る所は狭い板一枚だったみたいだから、広いベッドは落ち着かないと言って、その台持ち込んでそこに寝てるんですよ」
 
「その台はお父さんのベッドですか!」
 

島の南東側に港湾と桟橋が作られていて、クルーザーはそこに停泊した。
 
「島の周囲にぐるっと道を作っていますが面倒なので舗装はしてません。これ撮影に使えます?」
 
「うん。舗装してないのが凄く嬉しい」
と大曽根さん。
 
「撮影で必要なら少々ぶっ壊してもいいですから。後で修復しますし」
「だったら少し壊していい?復旧はこちらで責任持ってするよ。道なき道を通るというところを撮影したいから」
「どうぞ。どうぞ」
 
その道は除雪されていた。昨日、朱雀林業の人に頼んで道だけ除雪してもらったらしい。島は深い雪で覆われている。
 
港湾の西側、道を100mほど行った所に別荘があり、そこでお茶を飲む。
 
「この別荘を映さないようにして、この付近は道が無いことにして反対側を通ってもらおうかな」
「ああ。それがいいですね」
「なんでしたら出演者さんをここにお泊めしていいですよ」
「それお願いするかも」
 
「2階に個室が4個あるから、そこで女性に寝てもらって、男性はここのリビングでゴロ寝すれば10人くらいは泊まれるかな」
「個室1個に2人ずつ泊めれば女8人と男12人で20人くらい泊まれるかも」
 
などと撮影の計画は進む。
 
「でもここ電気が使えるんですね」
「太陽光パネル載せてもますからね。水道は簡易水道です。灯油でボイラー焚いてます。ガスは用意してないですが、必要ならプロパンガス持って来ますよ」
「まあガスはなくてもいいだろうね」
「スマホの充電だけでもさせてもらえたら助かるかも」
 

帰りの船の中でコスモスは千里に打診した。
 
「大宮先生に今熊谷のコテージに籠もってもらって編曲作業をお願いしているんですが、この手の作業の度に関東に出てきてもらうの申し訳無いと思うんですよ。それで大宮先生の御自宅から出勤感覚で行ける高岡市内かその周辺でスタジオを建てられる程度の土地って確保できないでしょうかね。そこに今の設備を持って行けば、わざわざ関東に出てきていただかなくても作業はできると思うんですよ」
 
「そのくらいの土地はすぐ見付かりますよ。でも助手の南田容子と立花紀子は?」
「高岡出張で。ですから、彼女たちが泊まれる小部屋付きでスタジオが作れたら理想です」
「立花紀子がテレビに出演する時は?」
「東京日帰りで」
 

左蔵真未は花ちゃんのところに来て言った。
「花ちゃん、私にも良い名前付けてください」
「うん?」
 
「ゆりえちゃん(上野有里絵=今川ようこ)、名前変えてもらったらすぐ4月からのレギュラー番組の話あったと聞きました。私にも新しい名前付けて下さい。今の名前って“真未”というのが、真未満のもの、ニセモノって感じで好きになれないんです」
 
と彼女は言った。
 
「いまだに真でないというのは、いづれ真になれるように成長していくという意味なんだけどね」
 
と花ちゃんは言ったものの、彼女の名前を鑑てあげた。
 
(このくらいパッと屁理屈を言えなきゃタレントの元締めなどやってられない)
 

それで“左倉まみ”というのと“櫻万実”というのを提案した。
 
左蔵真未 総35○内助副官 天20□分裂統合 地15○恭謙昇運 人25○英俊奇運 外10×破滅誤解
 
左倉まみ 総20□分裂統合 天15○恭謙昇運 地5○安定成長 人13◎和合繁栄 外7◎開拓打破
 
櫻万実 総32◎幸運的中 天21◎朝日黎明 地11◎成長大樹 人24◎才知豊栄 外8◎質実剛健
 
「読み方は同じなのに随分イメージが違いますね〜」
「“左蔵真未”は外格が悪かったね。タレントは外格がいちばん大事なんだよ。外格って引き立てられる運だから」
 
「左倉まみも総格が良くないみたいですけど」
「総格の20,30はバブル運といってね。普通の人には凶だけど、政治家とか実業家とか芸能人には吉数なんだよ。勢いに乗って実力以上にのしあがれる画数」
 
「へー」
「このどっちかの名前で取り敢えず1年くらいやってみない?」
 
「そうですね。“櫻万実”は凄く画数がいいし、見た目も華やかですけど、あまりに美しすぎて自分じゃないみたい。七尾ロマンちゃんみたいに歌が超絶上手い人なら、こういう名前使ってもいいけど、私みたいな並みの歌い手が使うには、おこがましいです」
 
「まあ良すぎる名前は名前負けすることがあるんだよ」
「でしょ?“左倉まみ”のほうが分相応かも。こちらもこれまでの名前より感じがいいし、やわらかい感じがするから、そちらでやってみようかな」
 
「よし」
 
ということで、左蔵真未あらため左倉まみも退団を撤回したのである。
 

§§ミュージックおよび08年組は3月5-6日(土日)に震災復興支援イベントを実施したのだが、この時、オリーブレモンは東京のスタジオからの参加だった。そして今年このユニットに参加した夏野明恵を、月曜日にちゃんと学校に行けるようにと、東京ヘリポートから津幡アリーナまで、ヘリコプターで送り届けた。
 
実は、津幡アリーナのヘリポートを初めて!使用したのだが、ここで問題が発覚した。
 
(1) ヘリポートは1機分のスペースしか無いので、そのヘリがどくまでは他のヘリが着陸できない。
 
(2)ヘリの燃料を補給できない。
 
実を言うと、このヘリポートは、若葉が「ここにヘリポートがあると格好いいなあ」
などと言って、あまり用途を考えずに作ったのだが、今の形では使い道が限られることが判明した。
 

それで若葉は言ったのである。
 
「ちゃんと給油所や管制塔もあるヘリポートを作ろう」
 
それで場所を検討した所、氷見市の山間部なら、土地相場も安いし、他の空港との干渉もあまり無いことが分かる。それで若葉が地元の関係者と話し合ったところ、農業用ヘリ・ドクターヘリなどを無料で駐機させること、夜間(22:00-4:00)は、できるだけ使わないこと、取付道路をムーランの費用で建設することなどを条件に市側の了承を得た。
 
そして4月中に土地の取得をし、5月中に空港設備を作り6月までに取付道路も建設してしまったのである。その素早い行動力に市がびっくりしていた。そして国土交通省の認可を取り、9月からこのヘリポートを運用していいことになった。それ以前でも緊急時などに着陸するのは構わないという、国交省側の口頭での許諾を得ている。
 
ヘリポートと取付道路は、融雪装置を付けて冬季に除雪車を入れなくても大抵使えるようにした。また既存の市道や農道と接続し、バイパスとして使用してよいことを市側と同意した。つまり私道のまま、一般車両を受け入れる。鹿児島の藺牟田飛行場の取付道路と似た扱いである。向こうと同様に、一般の人がウォーキングやジョギングを楽しめるように歩道も整備した。
 

2022年3月11日、政府は、厳しい制限が課されていた大規模イベントについて、大声は出さないなどの感染防止計画を作成することを条件として解除すると発表した。これを受けて、大規模なライブを計画する所が相次いだが、§§ミュージックでは、私・コスモス・アクア・千里・ゆりこ・花ちゃんの、緊急役員会議で検討した所、現時点ではリアル・ライブの実施は時期尚早として、その旨発表した。
 
・§§ミュージックのアーティストのライブは、当面、全てネット方式でおこなう。
・WHOの終息宣言が出た時点で、再度検討する。
 
♪♪ハウスの白河夜船社長、そしてサワークリーム食パンの板付中将社長もその日の内に同様の方針を発表した。大手では、##プロ、○○プロ、$$アーツはライブ再開の意向を示したが、最大手の∞∞プロ、またζζプロやΘΘプロは様子見の意向を示して対応は割れた。
 
中小ではライブ再開の方針を示したところが多かった。中小はライブができないことで、かなり財政的に追い詰められていた。
 

2022年3月13日(日).
 
東京藝大の合格発表が行われたが、合格者の受験番号の中に落合翠(町田朱美の姉)の受験番号は無かった。予定通り!?芸大には落ちたので、翠は心置きなく∫∫音大に進学することにした。
 

3月13日日曜日13時。
 
坂出モナと弘田ルキアの結婚式が、あけぼのテレビで生中継された。
 
司会はあけぼのテレビの小林雪恵アナウンサー、音楽担当は夕波もえこである。
 
本当は婚姻届けを出すだけで式まであげないつもりだったのが、結局式もあげることになった。番組の冒頭、会場のエヴォン銀座店2階に、千里がコネを持つ都内の神社の神職さんが出張してきて結婚式をあげてくれた。
 
結婚する2人はどちらもウェディングドレスであるが、法的には男女なので、神職さんは「男と女なら問題ありません」といって、神社の名前を出さないことを条件に引き受けてくれた。
 
新郎新婦は未成年(4月1日に成人年齢変更により成人になる予定)である。また成人年齢が変更されても、お酒は20歳以上なので、三三九度はカルピスで行われた。
 
巫女舞、指輪の交換、親族固めの杯(これもカルピス)と行われて式は終了する。
 
最初の15分間で結婚式が行われた後、祝賀会となる。夕波もえこがエレクトーンでメンデルスゾーンの『結婚行進曲』を演奏する中、結婚するカップルが入場する。
 

そして即ケーキ入刀となる!
 
(1時間だけ貸し切りしているし、放送枠も1時間なので慌ただしい)
 
ケーキ入刀とともに、夕波もえこはエレクトーンでPerfumeの『Seventh Heaven』を演奏する。Zoomでつながっている多数の芸能人から「おめでとう」のメッセージが送られる。
 
その後、友人代表として同じ事務所の松梨詩恩がお祝いのメッセージを述べた後、祝賀会は余興の時間となり、5組のアーティストが演奏を披露した。
 
ColdFly5 (同じ事務所)
WindFly20 (モナの古巣)
キャロル前田とアドベンチャー (男の娘つながり)
羽鳥セシル (同じ事務所)
常滑舞音 with スイスイ (§§ミュージック代表)
 
例によって、この歌を聴くだけでも価値があるというラインナップであった。
 
最後は2人が両親に花束贈呈して、結婚式中継は終了した。
 

さて、花園裕紀の件だが、少し時間を遡ることにする。
 
花園裕紀は少し誤解していた。
 
彼の場合、みんな上の人は信濃町ガールズするのに去勢などする必要は無いと言っているのに実際は自分以外みんな去勢したり女性ホルモンを飲んで男性化を停めているみたいと思っていた。だから「去勢しなくていいよ」というのは、あくまで単なる建前だと思ってしまった。
 
それで自分が男を辞める、あるいは女の子になっちゃう、などというのを考えた場合、長浜夢夜・鈴原さくら・水森ビーナなど、既に性転換手術を終えている(と裕紀が思っている)人たちを見ていると、自分はあそこまで完璧に女の子ではないと思い(←本人がそう思っているだけ)、女として生きる自信が無いから高校進学を機に退団して“普通の男子高校生”になろうかと思って退団を申し入れていたのである。
 
(でもみんな“普通の女子高校生”になりたいんだろうと思った)
 

ところが彼が驚く事件があった。
 
立山きらめきちゃんの声変わりである。
 
彼が2021年7月にビデオガールコンテストに実質優勝してデビューまでの間、信濃町ガールズにいったん籍を置くことになった時、彼が中学1年でまだ声変わりしてないというので、てっきり去勢しているか女性ホルモンをしているものと思った。
 
(↑中学3年でまだ声変わりしてない自分はどうなのさ?)
 

ところが彼はその年の秋、声変わりが起きて声が約オクターブ低くなった。それで彼のデビューシングルには、声変わり前に録音した音源と声変わり後に録音した音源の両方が収録された。
 
また彼は“立山きらめき”ではなく、より男の子らしい“立山煌”の名前でデビューすることになった。
 
てっきり立山ちゃんは女の子歌手としてデビューするのかと思ってたのに、男の子歌手として売る道もあるの?と裕紀は驚いた(←西宮ネオンは忘れられている)。
 
立山煌は声変わりしたことを嬉しがっていた。
 
「やっとこれで女みたいな声だって言われなくて済む」
 

このあたりも裕紀にはよく分からない世界である。裕紀は自分自身は男の子という意識があるものの
 
「男みたいに“きたない”声にはなりたくない」
と思っていた。
 
だから自分に声変わりが来ないのを嬉しいと思っていた。ずっと女の子のような“美しい声”のままでいたいなあと思っていたし、そのためには女性ホルモン飲んだ方がいいのかなあ、と少し悩んでいた。
 

裕紀は、1月中旬(←動き出すのが遅い!)、退団するならやはり実家から通える高校だよなあと思い、母に地元の高校のパンフレット送ってと頼んだら、女子高のパンフレットばかり送って来た。
 
「あのお、ぼく男の子なんだけど」
「え?でもあんた性転換して女の子になったんでしょ?だから女の子アイドルしてるんだよね?」
 
うーん、ぼく親からも誤解されてるなあ、などと思っていた時、木下宏紀と話す機会があったのである。
 
(↑理解されているのだと思う。家の中でいつもスカート穿いてる子は女の子になりたいのだろうと普通思う)
 

2月中旬、学校は別であるものの同学年の水谷姉が、同じ学年の子はどこの高校に行くのだろうと思い、情報を確認している内に花園裕紀の進学する予定の高校を誰も知らないということに気付いた。
 
水谷姉妹は CAT Sisters の中核である。それで仕事で一緒することの多い、招き猫バンドの木下宏紀に相談した。相談する場合、水谷姉としては“男の子”の篠原倉光より“女の子”の木下宏紀のほうが相談しやすかった。
 
木下君は、2月19日(土)、男子寮の花園裕紀の部屋を訪ねてきた。彼のidカードは男子寮の1-4Fに入ることができる。彼は男子寮の“名誉寮長”らしい。(現在の寮長は花園裕紀!)
 
それで木下君は裕紀に訊いた。
 
「一葉ちゃん、進学する高校決めた?」
 
「母からは姉が通っているSY女子高校は?とか言われたんですが。生徒またはOGの娘や妹は推薦で入れるらしくて」
 
「それはいいけど、ちょっと遠くない?仕事に差し支えると思うけど」
 
うーん。。。女子高というのにはツッコまないのか?
 
「いえ。3月一杯で信濃町ガールズを退団しようかと思って」
「なんで?裕紀ちゃん、結構ファンも居るのに」
 
確かに誕生日には“男の子”ファンから結構プレゼントもらって、直筆のお礼を何十枚も書いたなあなどと思う。ホームページにはちゃんと性別:男と記載してるのに!
 

「信濃町ガールズの男子って、去勢したり女性ホルモンしたり、性転換手術とかも受けて女の子になっちゃう子が多いみたいだけど、ぼくは女の子として生きる自信無いなあと思って」
 
「それは誤解だよ。別に去勢とかする必要は無い。信濃町ガールズ男子で、性転換したのは、直江姉妹くらいだし、後は元々性転換済みだった長浜夢夜くらいだし」
 
「え?宏紀ちゃんもでしょ?」
「ぼくは去勢もホルモンもしてない。もちろん性転換もしてない」
「嘘でしょ1?」
 
だって宏紀ちゃん、女の子にしか見えないのにと思う。今日はバイクスーツだけど招き猫バンドでは大抵スカート穿いてるし。
 
(↑自分も今スカート穿いてるじゃん)
 
「たぶん一葉ちゃんに近いと思う。ぼくの睾丸は働いてないんだよ」
「あぁ!」
 
「全く仕事してないから取っちゃってもいいんだけどね。でも機能停止してるなら、無理して取らなくても同じことだから付けたままにしてるだけ」
「ぼくもそうかも」
と裕紀は答えた。
 

「それにうちの事務所が別に男の子に去勢を強要してないのは、立山煌ちゃんや西宮ネオンちゃんを見れば分かるでしょ?」
「そうか。ネオンちゃんも居ましたね!」
 
忘れてた!!
 
「だから一葉ちゃんも睾丸を積極的に取って女の子になって、将来はお嫁さんになりたいとかでなければ、付けたままにしとけばいい。一葉ちゃんの睾丸は多分もう機能停止してるから付けてても声変わりを起こすことは無い」
「そうかも。でも宏紀ちゃん、男声出ますよね?」
「これは出し方があるんだよ」
と彼は男声を出してみせた。
 
「すごーい」
「君も覚えない?うちの事務所、男声が出る子少ないから仕事増えるかもよ」
「やってみようかなぁ・・・いや、でも辞めようと思ってたんですが」
「辞める意味が分からない、信濃町ガールズ楽しいでしょ?」
「はい」
「だったらガールズをしてればいい。まあ4月からは高校生になってミューズという扱いになるけどね。別に歌手デビューできなくてもいいんでしょ?」
「はい。だって歌手デビューした人たちって物凄く歌がうまいもん。あそこまでは歌えないです」
「だから今のまま、男と女の境界線の壁の上を歩いてればいいんだよ。そのうち、どっちかに落ちちゃうかもしれないけど」
 

「あまり女の子の方には落ちたくないなあ」
「一葉ちゃん、恋愛はどっちなの?」
「恋愛したことないから分からないです」
「白雪姫の物語で白雪姫になりたい?白雪姫を助ける王子さまになりたい?」
「うーん・・・鏡になりたいかな」
 
「面白いね。鏡ってのは前に男が立てば男になるし、前に女が立てば女になる。つまり一葉ちゃんは男女どちらにもなれるということ」
「あっそうかも」
 
「夢夜ちゃんなんかは完全に女の子志向だけど、きららちゃんなんかは去勢しちゃったのに心はかなり微妙。あまり女の子になりたいようには見えない」
「そんな気もします」
 
「あの子に睾丸取っちゃったのならもう男にはなれないから女の子になるために女装したら?と言ったけど、女装はしたくないみたいだし。女物の下着も持ってるけど大抵男の子下着付けてるし。信濃町ガールズのユニフォームも一時キュロット穿いてたけど最近はまたショートパンツに戻してるし」
 
「そういえば最近はたいていショートパンツですね」
 
「きららちゃんは男にも女にもなりたくないのかもね」
「なんか普通のMTFさんとは違う気がします。男性化していく自分に耐えられなかったから去勢したと言ってたし」
 

「一葉ちゃんは男と女の両方生きてもいいかもね」
 
「両方生きるんですか!」
 
「だから男と女、二足のわらじを履く」
「そういうのも二足のわらじというんですか?」
 
「そうそう。ケイ会長とかは経営者と音楽家の二足のわらじ、大宮万葉先生は水泳選手と作曲家の二足のわらじ、城崎綾香さんとかは女優と小説家の二足のわらじ、信濃町ガールズの多くは中高生とタレントの二足のわらじ、アクアは男の子と女の子の二足のわらじ」
 
「ああ、アクアはそうかも!」
「アクアは色々言われるけど、あの人、男と女が同居してる」
 
「そんな気がします。男役の時は完全に男だし、女役の時は完全に女だし。実は男女の双子なのではと思っちゃいます」
 
「アクアは多分バイセックスの双子なんだよ。男にも女にも自在なれる双子」
 

裕紀は考えた。
 
「それあり得るかも!」
「そんなアクアを身近で観察してみない?」
「というと・・・」
 
「アクア映画に出てみない?今度アクアが撮る映画で、端役の男の子を演じる子を信濃町ガールズの男子の中から誰か推薦してくれないかと頼まれていたんだよ。男声が出るということなら立山煌か夢島きららだけど、きららは演技力が微妙だし、煌はまだ経験が浅い。考えてたんだけど、裕紀ちゃんが一番適任のような気がしてきて」
 
「うーん」
 
「条件は結構な演技力があること、男声が出ることと、走り幅跳びで2m以上飛べること」
 
「走り幅跳びですか?ぼくあまり筋力無いほうだけど、さすがに2mは楽勝です。3mくらいは飛べると思いますが」
 
「普通そのくらい飛べるよね。あとは男声を出す練習。ぼくが要領を教えてあげるから練習しない?」
 

「男声が出るようになっても女声はキープできますよね?」
「もちろん。これね、スイッチを切り替える感じなんだよ」
 
「へー。その映画っていつ撮影するんですか?」
「撮影は6月になると思う。その前にセリフの録音をするけど、これは多分ゴールデンウィーク明けになると思う。それまでに男声が出るようになればいい」
 
裕紀は考えた。
 
「やろうかな」
「よし。だったら退団は無しでいいね」
「はい。もう少し頑張ります」
 
「それで高校はどうする?女子高または女子制服で通える所に行く?男子寮からなら女子高のS学園が近いし、ぼくの母校M高校も結構寛容だし、女子寮からなら足立区T女子高校、北区C学園女子高校のほか、葛飾区L高校は制服が無いから女子標準服を着るのも自由。一葉ちゃんなら女子寮に移動したいと言えば認めてくれると思うよ」
 
「どうしよう?」
 
(↑かなり女子制服を着る気になっている)
 

「だけどこの時期もう願書締め切りした所も多いんじゃないかなあ。ちょっと確認してみよう」
と言って、宏紀は自分のパソコンを寮内のLANにつなぎ私立高校の入試日程を確認した。
 
「ありゃあ、大抵のところがもう締め切ってるよ」
「え?そうですか?」
「参ったなあ。ぼくも昨日まで舞音の音源制作やってたから」
「済みません、お忙しい所」
 
実は昨日まで 舞音のシングル『ダリのまねをしたのはだり?』(3/16発売予定)の制作をしていたのである。今日は舞音がCMの撮影に行っているので、今日だけ時間が取れて男子寮に来た。
 
「一葉ちゃん、最後に受けた模試の成績見せて」
「はい」
 

なかなか出てこなかったが何とか見付けた。
 
「うーん・・・・」
と宏紀が声をあげる。
 
「やばいですか?」
「この成績なら、希望したらほぼ全員入れるような高校しか無理」
「すみませーん」
 
それで、募集締め切りが“今日”以降で、裕紀の成績でも入れるかもという学校は3つしかないことが判明した。それが下記である。
 
S学園(世田谷区・男子寮のすぐ近く・但し女子高!今井葉月や立花紀子の母校)
L高校(葛飾区・入試は面接のみ・単位制・直江ヒカルが通学中)
F学園(多摩市・割と芸能人か多い。WindFly20とか富士川32の子で入っている子がいる)
 

「この3校、全部今日が締め切りだよ。明日以降の締め切りの学校は、帰国子女枠と、都外受験生枠と、障碍者枠だよ」
「どれにも該当しませんね」
「ぼくの母校のM高校が使えたら寮から歩いて行けるし良かったんだけど、もう願書受付が終わってる」
「ああ」
 
柴田数紀(水森ビーナ)の場合は5月にM高校に編入されたが、彼の場合は北海道で入った高校から編入された形になったので、入れたものである。
 
また広瀬みづほは葛飾区のE学園で2/14に特例の面接をしてもらったが、これも宮崎から引っ越してくるということから例外的に受けさせてもらえたものである。都内に在住している人にそのような特例は適用されない。
 
「これ直接行って願書出そうよ」
「はい」
「女子制服着て」
「え?」
「女子高に男子制服とか着て行ったら門前払いされる」
「それはそうですけど」
 
でもその場合、ぼく女子として通学するの〜?
 
と裕紀は思った。(←女子高に入ること自体はいいのか?だいたい入れてくれるのか?)
 

でも裕紀は今通っている中学の女子制服(この制服で通っている訳ではない)を着て、一応怪我防止のためスカートの下にジャージの長ズボンを穿き、木下宏紀のバイクの後ろに乗り、3つの高校を巡った。それでとにかく願書の用紙をもらい、その場で願書を書いて提出したのであった。受験料は取り敢えず宏紀が払っておいた。あとで精算することにする。行った順序は
 
世田谷区S学園→葛飾区L高校→多摩市F学園
 
である。S学園では何も言われなかったがL高校では、性別の所で「男」にOをしたら
「君、性別間違ってるよ」
と言われてしまう。
 
「あ、すみません」
「直しておくね」
と言われて、女のほうにOを付けられてしまった!
 
うーん・・・と思ったがいいことにして次の学校に向かう。S学園では性別のこと言われなかったのに、と思って考えていたら、S学園の願書には性別欄が無かった!ということに気付く。
 
(↑女子校の願書にわざわざ性別欄は設けない)
 
本人はなんで性別欄無かったんだろう?などと考えている。
 
「しかし多摩市は遠いね」
などとバイクを運転している宏紀が言う。
 
「はい。これ寮からでも結構ある気がします」
「F学園に入った場合、通学が大変かも知れないなあ」
 
やがて到着して願書の用紙をもらい書いて提出する。この時、あれ〜。この高校の願書にも性別欄が無い、最近は生徒の性別は特に管理しないのかなあなどと裕紀は思った。
 
提出したのが16:58で、17時で受付終了だったので、ギリギリだった。
 

「でもうまい具合に試験の日付がずれてるね。とにかく3つとも受けよう」
と帰り道、宏紀は言っていた。
 
「はい。頑張ります」
と裕紀も答えた。
 

裕紀は翌日2月21日(月)、まずは寮から歩いて行けるS学園の試験を受けに行った。女子高だから女子制服で行きなよ、と言われていたのでちゃんと女子制服を着て行ったが、別に恥ずかしいとは思わなかった。
 
筆記試験は英数国の3科目で半分くらいしか分からなかったが、宏紀からはここに落ちる人は居ないと言われていた。筆記試験が終わってからお昼(お弁当)を窓を開放した体育館で食べる。そのあと体育館付属のトイレに行く。男子トイレに入ろうとしたら
「あんた、そっちは男子トイレ」
と言われる。あっそうか。ぼく今日は女子制服着てるんだったと思い、
「すみません。間違いました」
と言って女子トイレに入った。女子トイレに入るのは慣れているので別に何とも思わなかった。
 
午後からの面接では好きな作家とか好きなタレントとか訊かれたので、好きな作家は池井戸潤、好きなタレントはアクアと答えておいた。
 

2月22日(火)は多摩市のF学園の試験を受ける。ここは別に学生服でもいいんじゃないかなあと思ったものの、昨日女子制服で受験したのに“味をしめた”ので、この日も女子制服で出ていった。SCCのドライバーさんに送迎してもらったが、ドライバーさんは裕紀が女子制服を着ていても特に何も言わなかった、
 
筆記試験は昨日のより難しかった。2割くらいしか分からなかった。筆記試験のあとお弁当を食べるが、今日は空いている教室がお昼を食べる場所として指定されていた。
「あれ〜。この教室にいるの女子ばかりだ」
などと思う。
 
男女を分けたのかな?ぼく願書出す時女子制服で来ちゃったから女子のグループに入れられたのかも、などと思った。
 
食べた後トイレに行くが、トイレマークが付いている所にドアがひとつしか無いので戸惑う。でもみんなそこに入っているようなので裕紀もそこに入った。中にいるのは女子ばかりだが、ぼくも今日は女子制服だし、と思った。
 
面接では好きなクラシック作曲家、好きな画家を尋ねられたので、好きな作曲家はモーツァルト、好きな画家はデルヴォーと答えておいた。
 
この日、昨日のS学園の試験結果が発表されていた。裕紀は合格していたのでホッとした。これでとにかくどこかには行けることが確定した、と思った。
 
(↑ホントに女子校が裕紀を入れてくれるのか?)
 

2月23日(水)は葛飾区のL高校の試験に出ていった。やはり女子制服に味をしめていたので、女子制服を着て、SCCのドライバーさんに送ってもらい受けに行った。多摩市が遠いと思ってたけど、ここも(四輪で行くと)結構時間がかかるなと思った。
 
どうも都心部が渋滞するのでよけい時間が掛かるようである。宏紀に送ってもらった時はバイクだったから渋滞と無関係に行けたのかもという気もした。
 
ここは筆記試験が無い。面接だけである。面接では「朝型ですか夜型ですか?」とか「恋愛の経験は?」とか訊かれる。「どちらかというと夜型」「恋愛経験は無し」と答えておいた。
 
帰宅すると昨日のF学園の結果が発表されていた。裕紀の受験番号は無かったのでガーン!と思う。女子制服着ていったのまずかったかなあ、などと思った。
 
(↑筆記試験の成績が悪すぎたのだと思うぞ)
 

この日の夕方、今日受けたL高校の試験結果が発表された。裕紀は合格していた。ホッとする。これでS学園かL高校かどちらかには行けることになった。
 
結果を見てホッとしてたら、母から電話が掛かって来た。
 
「あんた、SY女子高校の入学手続き期限が明日までなんだけど、どうする?」
「え?そんなの受けてないけど」
「姉妹推薦で無試験で合格になってるから。通うんなら明日朝一番に私の口座に24万4千円振り込んでくれない?それ持ってって手続きしてくるから」
 
自分も知らないうちに合格していたとは意外だ。これで都内のS学園、L高校と、埼玉県のSY女子高校と3つの中から進学先を選べばいいわけだ。でも女子高校がぼくを入れてくれるんだっけ?」
 
(↑何を今更?)
 
でも裕紀は言った。
 
「ごめーん。ぼく信濃町ガールズ続けることにしたから。都内の高校に進学するよ」
「あ、そうなんだ?何て所に行くの?」
「2つ合格してるから、その内どちらに行くと思う。決まったら連絡するよ」
「うん。分かった」
 

それで電話を切ったのだが、その直後今度は何とコスモス社長から電話がかかってきた。
 
「おはようございます。花園裕紀です」
「今寮まできてるんだけど、1階まで降りてこない?」
「はい」
 
(実はコスモスやゆりこのidカードでは男子寮の2階以上には入れない、1階の共用スペースまでである。花ちゃんは特権が設定されているので入れる)
 
それで裕紀は1階まで降りていき、キュアルームに入る。
 
「こっちで話そう」
と言って、面談室に入る。篠田姉妹のどちらか!が紅茶とケーキを持って来てくれる。
 

「一葉ちゃんの進学先がまだ決まってないみたいと聞いて心配して来てみた。君からは3月末で退団したいという意向は聞いてたけど、高校に行けなかったら御両親に申し訳無いから」
とコスモス社長は言っている。
 
「あれ・・・退団は撤回したの・・・まだ伝わってませんでした?」
「あ、そうなんだ?良かった。君は歌もダンスもうまいし、演技が凄くうまいからもったいないと思ってた」
とコスモスは言っている。
 
実は今伝達途中である。木下宏紀は花園裕紀が『お気に召すまま』の端役を引き受けたことをまず映画の管理をしている川崎ゆりこにメールし、また彼が退団を撤回したこと、まだ願書締め切りが来ていなかった3つの高校に願書を出したことを佐々木春夏にメールした。
 
しかしゆりこも佐々木春夏もメールが滞留しているので、それを読んでコスモスに伝えるところまで到達していないのである。
 
これがアクアのこととかであれば、緊急用アドレスを使うので伝達は速いのだが、信濃町ガールズのことだとどうしも時間が掛かる。
 

「それで高校は?」
とコスモスは尋ねた。
 
「木下宏紀ちゃんが世話を焼いてくれて、まだ応募締め切りが来てなかった3つの高校に願書出して受験して2つに通りました。どちらかに行くつもりです。入学金を月末までに納入しないといけないので、早急に決めるつもりですが」
 
「どことどこ?」
「ひとつはこの男子寮のすぐ近くのS学園で、もうひとつは葛飾区のL高校です」
 
コスモスは腕を組んだ。
 
「L高校は直江ヒカルちゃんが通ってるけど、あの子男子寮からは時間がかかりすぎるから女子寮に引っ越した」
 
「あ、はい」
 
「一方のS学園は女子高」
「ええ」
 
「つまり君は女子高に通うか、女子寮に引っ越すか、どちらかを選ばないといけないわけだ」
 
「え?」
と言ってから
「え〜〜〜、どうしよう?」
と裕紀は今気付いたように言った。
 
 
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【夏の日の想い出・二足のわらじ】(2)