【夏の日の想い出・二足のわらじ】(3)
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2022年2月23日(水)夕方。
花園裕紀は、S学園とL高校に合格した後コスモス社長と話し、社長から
「つまり君は女子高に通うか、女子寮に引っ越すか、どちらかを選ばないといけないわけだ」
と言われてガーンと思った。コスモス社長が帰った後、川崎ゆりこ副社長から電話が掛かってくる。
「一葉ちゃん、アクアの映画に出てくれることになったのね」
「はい。未熟者ですがよろしくお願いします」
「うん。助かるよ。最初木下宏紀を考えていたんだけど『ぼく舞音ちゃんのバックバンドや吹き替え役で忙しいです』と言って逃げるからさ。それにこの役、いかにも心細い感じの男の子の役なんだよ。木下ちゃんだと、しっかりしすぎているからね。それで木下ちゃんが、誰か適当な子を推薦しますよと言うから頼むと言ったんだけど、確かに君なら頼りなさげだからピッタリだよ」
これ褒められてるのか、けなされてるのか。
「それで信濃町ガールズ続けてくれるのね?」
「はい。あまりできが良くなくて申し訳ないですけど」
「ううん。君は歌もダンスも上手いからとても助かるよ。まあ4月からは高校生になるからミューズだけどねって、そうだ。君の進学先の高校がまだ決まってないみたいというので社長が心配してたけど、どこか受けた?」
「あ。はい。それも木下ちゃんがお世話をしてくれて。まだ願書締め切ってなかった高校3つに願書出して受験して、3つの内2つに合格しました。その内どちらかに行くつもりです。月末までに入学手続きをしないといけないので今週中にどちらに行くか決めるつもりです」
「へー?どことどこ?」
「世田谷区のS学園と葛飾区のL高校です」
「・・・・・・」
ゆりこはしばらく沈黙した。
「ねえ、S学園って今井葉月が出た高校だと思うけど、あそこ女子高校だよね」
「はい」
「L高校は男子寮からは遠い。朝は1時間半かかる」
「ああ、やはりそのくらい掛かりますか」
「だから上田信希(直江ヒカル)は、男子寮からの通学を諦めて女子寮に引っ越した」
「らしいですね」
「だから君は女子高に通うか、女子寮に引っ越すか、どちらかを選ばなければいけないわけだ」
「コスモス社長からもそれ指摘されて、どうしよう?と思った所でした」
「ああ。社長からも言われたか。でどうするの?」
「どうしましょう?」
「とりあえずすぐ決めきれないなら、両方入学手続きしときなよ。それで行かないほうは辞退する」
「そうします。両方手続きします」
「入学金足りなかったら貸すよ」
「入学金は出せると思います」
お給料はたくさんもらってるけど、忙しくて使う所も無いもんね。
「ちなみに女子校に行った場合、健康診断とか身体測定というものがある」
「あ」
「だから男の身体のまま女子校に入学するのは無理」
考えてなかったぁ!
でもそれだったらSY女子高校も無理だったのでは?と思う。
「だから入学までに性転換しとかないとヤバい」
やっぱり性転換かぁ!
性転換手術受けるのはいいけど、あまり女の子になりたくないなあ。
(↑この微妙な心情が裕紀である。彼は別にペニスが必要なものと思っていない)
だったらぼくはL高校に行くしかないのかなと裕紀は思った。
「それでもし君がL高校に通うために女子寮に引っ越してきた場合、女子寮生たちは君がほんとに女なのか確認しようとする」
裕紀の脳裏に信濃町ガールズになってすぐの頃“解剖”されたことを思い出す。あれやられるとヤバいなと思う(隠しカメラまで仕掛けられるとは思ってもいない)。
「だから入寮までに、最低でもおっぱいを大きくして、陰裂くらいは形成しておかないとヤバい」
それってほとんど性転換じゃないの〜?
「まあ君の場合は既に男性器は除去済みという話だったから女子寮に入るのは君さえ入りたいと言えばいつでもOKだけど、入寮までに豊胸手術かヒアルロン注射によるプティ豊胸、それに陰裂形成術は受けとかないといけないかもね」
割れ目ちゃん作るくらいはいいけど(←いいのか?)おっぱい大きくしちゃったら、まるで女の子じゃん。つまりぼくどちらを選んでも、女の子になる手術受けないといけないってこと??
「本格的な性転換手術するにしても簡易な手術にしても、手術代は貸すよ。だから思い切って完全な性転換手術受けたら?」
「すみません。少し考えさせてください」
「うん。まあ手術のことは3月末までに考えればいいけど、入学手続きは両方しときなよ」
「そうします」
ぼくやはり中学卒業と共に男の子卒業?
ぼくやはり女の子になるしかないの??
裕紀は悩んだものの、取り敢えず2月24日(木)、S学園とL高校の入学金を振り込み、その振込票を提示して入学手続きを済ませた。
裕紀は豊胸手術ってどんなのだろう?と思って調べてみた。すると一般的なものとしては、シリコンの詰まったバッグを胸の皮膚の下に埋め込むものであることが分かる。そしてその埋め込む位置が(主として)2通りある。
・大胸筋下法:最も深い位置に入れる。シリコンバッグを入れているのが分かりにくい。でも回復に時間が掛かるし、腕を動かす度に痛みがある。
・乳腺下法:浅い位置に入れる。胸の谷間ができやすいし、胸の揺れ方が自然。傷みは比較的少ない。但しいかにもシリコンバッグを入れてますというのが分かる、
動画とか無いかなと思って検索してみると手術の動画があったので見てみた。
・・・・・・
嫌だ!
絶対受けたくない!
と思った。裕紀は性転換手術の動画も見たことがあるが、そちらは特に拒否感は無かった。むしろきれいな形になるなあと感動した。ペニスの皮を裏返すと、一瞬で男が女に変わる所はまるで魔法でも見てる感じでその部分だけ何度も繰り返し再生した。こんな手術なら受けてもいいなあと思った、受けるつもりはないけど、受けるのが嫌ではない気がした。でも豊胸手術は嫌だと思った。
こんなの受けたくないよぉと思っている時、“プティ豊胸”というのがあることに気付く。こちらはヒアルロン酸をバストに注射で注入するだけである。ただしヒアルロン酸は身体に吸収されてしまうので効果はせいぜい1年くらいのようである。でも1年も持つのなら、その間に女性ホルモンを飲んで、本当のバストを大きくすればいいというのに思い至る。
この方法がいいかもしれないなあと思う。手術受ける必要無いし。もしおっぱい大きくしないといけないならこの方法だなと思った。
取り敢えず胸を巨大な包丁?みたいな刃物で切られるのは回避できそうと思い、ホッとした。
2月25日(金)、川崎ゆりこから電話が掛かってくる。
「裕紀ちゃんさ、ちょっとドラマに出てくんない?」
「はい」
「美高鏡子さんが君の演技力を見たいと言ってるから」
「はい!」
つまりテスト出演ということなのだろう。
裕紀の出番は27日(日)らしいので、その日撮影が行われる千葉市内の大型スタジオに行くことにする。
2月26日はセレンとクロムが部屋に来て
「一葉ちゃん、今日時間ある?」
と訊く。
「今日は空いてるけど」
と言うと
「じゃちょっと顔貸して」
と言われ、立山煌君も一緒に4人で女子寮地下のスタジオに行き、常滑舞音の制作に6時間ほど参加してきた(詳細後述)。
女装させられて!ピアノを弾いてきた!
ピアノが上手いと褒められた。
この程度の小さな仕事はいつものことである(わりとギャラが美味しい)。
6時間の内訳は往復合計1時間、衣裳を着けるのに1時間、他の人の衣裳着けを待つのが1時間、撮影1時間、他の人が衣裳を脱ぐのを待つのが1時間、自分の衣裳を脱ぐのに1時間である。
(忙しい人ほど後から着けて先に脱ぐ)
衣裳を着けてる間はトイレに行けないので念のためと言われてオムツを着けさせられたが、何とかそれを使う羽目にはならなかった。水谷姉妹もやはりオムツを着けて同じ衣裳を着ていた。
「ちんちん付いてる人はオムツ着けるのが大変なんだけど、ちんちん無い人は楽だわ」
などと看護師さんが言っていたのは気にしないことにした。(ペニスが尿取りパッドに収まってくれないため。外れにくいようペニスに巻き付けておいても伸縮により外れてしまう。それで男性は漏れやすい)
2022年2月26日(土)から3月4日(金)までの7日間を掛けて今年の昔話シリーズ第1弾アクア主演『陽気なフィドル』の制作を行った。
実を言うと、昔話シリーズは昨年1年間で大ネタはたいだい使い切ってしまったので今年は名作劇場という感じにしようと言っていた。それで鳥山プロデューサーはその第1弾としてアクア主演『黄金の流星』を七浜宇菜共演で撮るつもりだった。
ところがその話に大和映像が興味を持ち、どんどん話が大きくなって映画を制作しようという話になった。コスモスが「アクアの負荷が大きすぎる」として拒否したものの、『お気に召すまま』の映画制作前にアクアの拘束時間20-30時間で何とかするからと言われるのでコスモスも納得した。
しかしそちらが映画になってしまったので、あらためてアクア主演長時間ドラマの第1弾としてこの物語が制作されることになったのである。
この物語はノルウェー民話の『小さなフリックとフィドル』(Veslefrikk med fela)とフィントランド民話の『魔法使いのプレゼント』を繋ぎ合わせたもので、脚本はこのシリーズに多数の脚本を書いている尾中菜緒(おなかなお)さんである。この2つの物語は日本では『うかれバイオリン』のタイトルで知られている民話の類話である。
『うかれバイオリン』はアンドルー・ラング作と書かれているものも多いが、ラングは童話作家ではなく童話収集家なので、どこかの国の童話を自身の童話集に収録したものと思われる。しかし日本で流通している民話の原作をラングの童話集の中に見付けきれない(継続調査中)。
上記ノルウェー民話『小さなフリックとフィドル』は、日本の『うかれバイオリン』にかなり近いので、ひょっとするとこれが原典である可能性もある(ラングの童話集にはこのタイトルで見ない。別のタイトルになっているかこれの類話を収録した可能性もある)。『魔法使いのプレゼント』はラングの "The Crimson Fairy Book"に "The Gifts of the Magician" のタイトルで収録されている。
今回尾中さんは原典を探しているうちに見付けたこの2つの民話をベースに脚本を執筆した。
昨年の昔話シリーズ第1作『火の鳥』でもそうだが、主演にアクアを使う最も大きなメリットは、日本であまり知られていない物語を使っても、アクアが出るというだけで視聴率が取れることである!アクアの出演料はとっても高いが、企画の自由度が高くなるのでクォリティを追及できる。そしてスポンサーを喜ばせる。だから逆に高いギャラを払える。
語り手(馬仲敦美)「昔あるところに貧乏なお百姓さんと息子がいました」
画面に登場したのは野良着を着た倉橋礼次郎とアクアである。
(放送時になぜ“娘”ではないのだ?と非難轟轟)
語り手「息子はフリックという名前でしたが、背が低いので“小(ちい)フリック”(Veslefrikk) と呼ばれていました。また息子は身体が弱かったので百姓仕事はできない感じでした。それでお父さんは息子を牛飼いか羊飼いにしようとあちこちの村に連れ回しましたが、フリックの体格を見ると誰も雇ってくれませんでした」
「ある町で商店主(*9) がうちの雑用係になら使ってもいいと言いました」
映像はエプロンを着けた秋風コスモスを映す。
語り手「お父さんは雑用係かぁと思いましたが、ここに預ければ取り敢えず御飯には困らないてしょう。それで3年間ここに預けることにしました。フリックはこの商家で、掃除・洗濯・売り子などをして一所懸命働きました」
映像は、アクアと粗末なワンピースを着た今井葉月が掃き掃除、拭き掃除、などをしたり、手回し洗濯機(『黄金の流星』でも使用予定のものをモンド・ブルーメの好意で使用)で洗濯したり、干したりしている。また売り子をしている所も映る(*10).
(*9) フリックを雇ってくれる人の職業はバリエーションによって様々である。鍛冶屋だったり、大農家であったり。今回直接の原典にしたもの(英訳)では"sheriff"となっている。これは州長官などと訳されるが、県知事みたいなものか。
(*10) この物語のバリエーションにはこの下働きの娘が失敗したのをかばって代わりにクビになるという展開もある。
語り手「やがて3年の奉公期間が過ぎました」
商店主(秋風コスモス)が言いました。
「よく3年間頑張ったな。じゃこの3年間のお給料をやろう」
それでフリック(アクア)に渡したのは100円玉3枚です。
「1年で100円、3年で300円だぞ」
「わあ、ありがとうございます!」
とフリック。
(放送時に「秋風コスモス、なんてケチなんだ。たくさん働かせて1年に100円は非道い!」と非難轟轟。もちろんそういう反応を期待してこの役を名乗り出た)
なおフリックを演じるアクアは男声で話している。
語り手「何だか給料が異様に安い気がするのですが、フリックは物の相場を知らないので、なんかたくさんもらった気がして喜んで旅支度をし、商家を後にしました」
それで実家に帰ろうと歩いていると、道端につぎはぎだらけの服を着た女(石川ポルカ)が居ました。
「何か恵んでいただけないでしょうか。もう3日間何も食べてないのです」
「それは気の毒だ。この100円玉を1枚あげよう」
「ありがとうございます!とっても嬉しいです」
「そのうち、きっといいことあるよ」
とフリックはその女に声を掛けて先に歩いていきました。
それで歩いていると、道端にボロボロの服を着た女(原町カペラ)が居ました。
「何か恵んでいただけないでしょうか。もう1週間何も食べてないのです」
「それは気の毒だ。この100円玉を1枚あげよう」
「ありがとうございます!とっても嬉しいです」
「そのうち、きっといいことあるよ」
とフリックはその女に声を掛けて先に歩いていきました。
それで歩いていると、道端に“かつて服だったもの”(*11)を着た女(花咲ロンド)が居ました。
「何か恵んでいただけないでしょうか。もう半月何も食べてないのです」
「それは気の毒だ。この100円玉を1枚あげよう」
「ありがとうございます!すごく嬉しいです」
「そのうち、きっといいことあるよ」
とフリックはその女に言いました。
語り手「こうしてフリックはせっかく3年働いてもらった給料を全部貧乏な女にあげてしまったのです」
(この付近のモチーフは『星の銀貨』にも似ている。自分が持ってるパンをあげるバリエーションもある)
(*11) 「なぜ肝心な所が見えないのだ?」という声多数(見えたら放送できない)。この服はロンドに着せてからた泥を付けたり草を擦りつけたりして汚し、破ったり穴を空けたり破ったりして作った。それでかなりみすぼらしい感じになったが、脱ぐ時に崩壊した。
でもこの放送後、3人にファンから洋服のプレゼントが多数来た!
「私たち売れてないから着る洋服にも困っていると思われているかも」
「でもプレゼント嬉しい」
語り手「ところがフリックが最後に100円玉をあげた女は光に包まれます。その光の中で、着ていた“かつて服だったもの”もみるみる内に真っ白い服に変化しました」
光輝く女は言いました。
「私は女神です。あなたは何て心優しい少年なのでしょぅ。自分が持っているお金を全部3人の女にあげてしまうなんて」
「そんな。別に心優しい少年ではないです。困っている人がいたから助けただけです」
「心優しい少女だっけ?」
「ぼく男の子ですー」
(放送時「嘘つけ!」という声多数)
「まあ男でも女でもいい。私はそなたから3枚のコインをもらったからお返しに3つの道具をあげよう。この斧(*12) はどんな木でも伐れる。この鉄砲(*13)は必ず当たる。このフィドル(*14)は弾くとみんな楽しい気分になって踊り出す」
「みんな楽しくなって踊り出すっていいなあ、楽しいことはいいことです」
とフリックは言ってこれらの贈りものをもらいました(*15).
(*12) 撮影に使用したのは、薄い鉄板を曲げて斧っぽくし、木の柄を付けたもので重さ3kgくらいある。アクアやロンドが楽に持てるものにするのに苦労した!
(*13) 撮影に使用したのは、ボルトアクション・ライフルのベストセラー Remington Model 700 のモデルガンである。
(*14) 時々書いているが、フィドルとは“ヴァイオリンと同じ形をした楽器”である!ヴァイオリンとフィドルの違いは、下記の言葉で要約される。
ヴァイオリンは高価な楽器だが、フィドルは、うっかり酒をこぼしても惜しくない楽器。
またフィドルの弾き方は、ヴァイオリンでいえば第一ポジション固定で弾くことが多い。またスピッカートも多用される。
撮影に使用したのはメルカリで1万円で落とした“使用感があるので理解していただける人に”とコメントされていた安物ヴァイオリンだが、実際の音はアクアが愛用の180万円のヴァイオリンで弾いたものを使用している。アクアは自分の演奏を聴きながらそれに合わせてこの安物ヴァイオリンを“松ヤニを塗ってない弓で”弾いた(つまり音は出ない)。
(*15) この物語の重要なバリエーションで、フリックが商店主のところに戻って給金が少なすぎると主張し、ヴァイオリンを弾いて払うまで踊らせるというものがある。商店主はフリックを訴え、死刑にされることになるが、・・・という展開。
しかしその展開ではフィドルはただの脅迫の道具と化しているので、このドラマでは採用しない。それに脅迫して言うことを聞かせたら相手は主人公を恨む。絶対仕返しされる。だからその展開はハッピーエンドにはなりえない。
フリックのセリフにあるように「みんなを楽しい気分にする道具」として、このドラマでは描いた。みんな感謝して主人公にお礼してくれるのである。
「消費税の馬鹿ぁ!」
と叫んでいる石川ポルカが一瞬映る。
語り手「フリックがまた歩いていると、農婦(福衣裕子)が困ったような顔をしていました」
「どうかなさいました?」
「帽子が風で飛んでって木の枝に掛かってしまって。あんた身軽そうだね。あの帽子取ってくれたら千円あげるよ」
「いいよ」
と言うと、フリックは銃を取り出します。
「ちょっとぉ!帽子を撃っちゃだめ!大事な帽子なんだから」
「帽子じゃなくて枝に当てる」
と言ってフリックは帽子が掛かっている枝を撃ちます。すると枝は折れて帽子が落ちてきました。
「ありがとう!助かった」
「良かったですね」
「でもあんた凄く簡単に取ったから、お礼は100円でもいい?」
「ええ。いいですよ。わあありがとう」
と言ってフリックは100円玉を受け取りました。
「こんなにたくさん、お金を頂けるなんて。お礼に何か弾きますよ」
と言って、フリックはフィドルを取り出し弾き始めます。
(ケイ作曲『陽気なフィドル』 performed by AQUA)
すると農婦はその曲に合わせて踊り出します。
「私どうしたんだろう?楽しくて踊り出さずにはいられないよ」
などと言って踊っています。フリックの演奏は続きます。
「なんか物凄く楽しい気分になってきた。ね、あんたさ、お礼を1000円あげると言ったのに100円しかあげなくて悪かったよ。ちゃんと1000円あげるね」
などと言いながら、ずっと踊っています。
「30分経過」と書かれたプラカードを持った赤いドレスの広瀬みづほ(初仕事!)(*16)が画面を横切って行く。
「ね、あんた。私疲れてきたんだけど、そろそろ演奏やめない?」
と農婦は言います。
それでフリックは「そうですか?まだ弾きたかったのに」と言って演奏をやめました。
「帽子取ってくれたし楽しませてくれたから2000円あげるね」
と言って農婦は五百円玉を4枚くれました。
「わぁ、こんなにたくさん!だったらさっきのは返しますね」
「さっきのは消費税分ということで」
「そうですか、では頂いておきます」
(放送時に「消費税額が少ない気がする」という声多数)
(*16) このプラカードは弱視の視聴者のために読み上げる。これはアフレコで広瀬自身が読み上げた。
広瀬みづほはこれに出演するため、2/25金曜日の夕方、宮崎からHond-Jet
Yellowに乗って(着替えと先生から渡された課題を持ち)出てきた。彼女は撮影のために一週間学校を休み(*17)、そのまま震災イベント(3/5-6)に出る。ドラマの撮影が終わった後、車で仙台まで運んでもらい、宿舎に泊まった。
3月5日の舞音のライブの後半(10:30-11:30)、アクアのライブの前半(19:00-20:00)に出演した。
このイベントに出た同じ昇格組の春野わかなは東京に住んでいるので3月6日(日)のローズ+リリーのライブにも出たが、広瀬みづほは宮崎に帰らなければならないので、日曜の午後にHonda-Jet
blackで宮崎空港まで運んでもらった。1人だけで搭乗したので
「乗客が私1人だけで済みません」
と恐縮して言ったが、外人の女性のパイロットさんが
「よくあること、君も売れたら毎日のように飛行機で飛び回ることになる」
と言っていた。
「特別席に座りなさい」
と言われてコーパイ席に座ったが、怖いくらいに凄い迫力だった。
「万一私が操縦中に急死したら君が操縦してね」
「無理です〜!」
でも管制官との通話の仕方は教えてもらった。。
(*17) ドラマの撮影自体は平日は16時以降に行なっているので「中学生を授業がある時間に使用してはならない」という労働法規に直接は違反していないが、かなり違法適法のスレスレである。みづほは日中は先生が渡してくれた課題をやっていた。
この役は別の子(既に女子寮に入っている子:例えば春野わかな)にさせる案もあったが、広瀬の演技力や撮影度胸を確認しておきたいというのと、他の子がこの役をして『お気に召すまま』で広瀬がしたら、その子は役を取られたような気分になるので、無理をさせても広瀬を使った。
広瀬はこの一週間女子寮のA302に宿泊した。
「卒業して出てきた時も君にはこの部屋を当てるから私物を置いててもいいよ」
「じゃ着替えとか置いて帰ります」
同じ昇格組の春野わかなとは隣の部屋で
「お互いがんばろうね」
などと言い合った。
語り手「フリックがまた歩いていると、やがて森に入ります。木こり(鴨居淳三)が困ったような顔をしていました」
「どうかなさいました?」
「この木を切ろうとしているのだけど、俺も年取ってしまって、こんな大きな木はなかなか切れないんだよ。若いの、代わりに切ってくれない?切ってくれたら千円あげるよ」
「いいよ」
と言うと、フリックは自分の斧を取り出します。そしてそれを一振りすると、すぐ木は倒れました。
「ありがとう!助かった」
「良かったですね」
「でもあんた凄く簡単に切ったから、お礼は100円でもいい?」
「ええ。いいですよ。わあありがとう」
と言ってフリックは100円玉を受け取りました。
「こんなにたくさん、お金を頂けるなんて。お礼に何か弾きますよ」
と言って、フリックはフィドルを取り出し弾き始めます。
すると木こりはその曲に合わせて踊り出します。
「俺どうしたんだろう?楽しくて踊り出さずにはいられないよ」
などと言って踊っています。フリックの演奏は続きます。
「なんか物凄く楽しい気分になってきた。ね、君、お礼を1000円あげると言ったのに100円しかあげなくて悪かったよ。ちゃんと1000円あげるよ」
などと言いながら、ずっと踊っています。
「1時間経過」と書かれたプラカードを持ったオレンジのドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
「ね、君。俺疲れてきたんだけど、そろそろ演奏やめない?」
と木こりは言います。
それでフリックは「そうですか?まだ弾きたかったのに」と言って演奏をやめました。
「木を切ってくれたし楽しませてくれたから2000円あげよう」
と言って木こりは五百円玉を4枚くれました。
「わぁ、こんなにたくさん!だったらさっきのは返しますね」
「さっきのは消費税分ということで」
「そうですか、では頂いておきます」
語り手「フリックが歩いている内に日が暮れて来ました」
「ぼく今夜泊まる所はどうしよう?」
と考えます。すると少し行った所に2階建ての煉瓦の家がありました(*18).
「もしもし。旅の者ですが一晩泊めていただけないでしょうか」
すると中から女の声がします。
「ここは危険です。主人が帰ってくる前にお逃げなさい」
「逃げるといっても・・・」
と言った時、ひとりの老人(獄楽@サウザンズ)がこちらに走ってくるのを見ます。その後ろには熊(*19)が居ます。
「危ない」
と言うと、フリックは銃を取りだし、熊に狙いを定め、引き金を引きました。
ダーン!
熊が倒れます。老人は走るのをやめ、倒れている熊を見ます。
「ありがとう。助かったよ!」
と老人は言いました。
家の中から可愛いメイド姿の少女(花園裕紀!)が出てきて
「お帰りなさいませ、御主人様」
と言う。
(メイド喫茶か?)
「ああ。ただいま。若い人、どちらの人かな」
「イナカイナカ村に帰る途中なのですが」
「それはまた遠い所に。今日はもう遅い。泊まっていきませんか。お礼もしたいし」
メイド服の少女が老人の後ろで両手をX字にして「駄目」のサインを送っていますが、フリックは深く考えずに
「助かります。今夜泊まる所が無くて困っていました」
と言いました。
「よしよし。中に入って」
と言って、フリックを家の中に入れた後、老人はひょいと熊を抱えると斜面に頭を下に乗せ、首の血管を切って血抜きをしました。それから家の中に入りました。
(*18)この家はユニットハウスの表面に煉瓦シートを貼り付けて作ったので1日で完成した。
(*19) 熊は着ぐるみで中に入ったのは同じサウザンズの樟南!である。樟南が着ぐるみを脱いで代わりにプチプチを詰めたもので獄楽が熊を抱えて血抜きするシーンを撮影した。血は赤絵具。なお原作では狼の大群に追いかけられていたが撮影技術上の問題で熊に変更した。
それと昨年の『火の鳥』で狼は味方だったので、ここで敵役にするのは避けたいという意見もあった。
語り手「老人は機嫌が良く、メイドに命じてたくさんお肉を持って来させ、調理用ストーブで焼いてフリックに勧めました。フリックも商家を出てから何も食べていなかったのでたくさん食べました。老人はお酒も勧めたので、フリックはお酒もたくさん頂きました」
「フリックはやがて眠くなったので2階の客用寝室で寝せてもらいました。老人も寝ました。メイドが夜中にフリックの部屋に入って来ます」
メイドはフリックを揺り動かして
「若い人、若い人、起きて。うちの主人は本当は悪い魔法使いなんです。あなたここに居たら殺されるか馬や鹿に変えられてしまいます。早く逃げて」
と言います。
でもフリックは起きませんでした。
語り手「翌日、朝になってもフリックは起きませんでした。魔法使いの老人は出掛けます。メイドはフリックを起こして逃がそうとしますが、フリックは起きませんでした。夕方になってもフリックは寝ていたので老人は『客人はよほど疲れているのだろう』とそのまま寝かせておきました」
「その翌日の朝。フリックはやっと起きました」
「おお、客人目が覚められたか。取り敢えず朝御飯を食べてください」
と言って朝食を勧めます。
「そういえば客人は良い斧を持っておられるな。木こりでもなさっておられるのか?」
「木こりではないですが、木は切りますよ」
「だったらもし良かったらこの家の近くの木を少し伐ってもらえないだろうか。私も年を取ってなかなか体力が無くて」
「いいですよ」
と言ってフリックは家の周囲の木を言われる範囲全部伐ってしまった。
「おお、これで明るくなった。助かるよ」
と老人は感謝した。
「君は色々私を助けてくれた。私の息子と呼んでもいいかい?」
「いいですよ。私のお父さん」
それでフリックと老人は親子の契を結んだのです。
「それとも私の娘になるか?お前可愛いから女の子でも通りそうだし、女の子に変えてやろうか?」
「いえ結構です」
「そうか?ドレスをあげるから着てみなさい」
と言って、老人は純白のドレスをくれました。こんなものもらってもしょうがないのにと思ったものの。フリックはそれを荷物に入れておきました。
その日の夜、フリックが2階の部屋で寝ようとしていたらメイドの少女が入ってきます。
「あなた何度も逃げなさいって言うのに、なかなか逃げないのね」
「どうして逃げないといけないの?」
「うちの主人はああ見えて本当は悪い魔法使いなんです。これまでも人を泊めて仲良くしてたかと思うと。その内気に入らなくなると、馬とか鹿に変えてしまうの」
「うーん・・・馬にはなりたくないな」
「だから明日には産みの親の様子を見てこないといけないとか言ってこの家を出たほうがいい」
「分かった。そうする。ありがとう」
「出がけに何かお礼をしたいと主人は言うと思うの。そしたら厩舎の左から3番目の馬が欲しいと言って。きっとあなたの役に立つ」
「分かった」
「でも君は逃げなくていいの?」
「私はもっと悪い魔法使いだから。あなたを助けるのはただの気まぐれだから」
「そうなの?悪い人に見えないけど」
「人は信用できそうに見える人ほど実は信用できないから」
「ふーん」
「ついでに私こう見えても男だから」
「その言葉を信用しないことにしよう。君は信用できそうに見えるから」
語り手「それで翌朝、フリックはあなたと親子の契はしたが、産みの親の様子も見てきたいので、おいとましたいと言いました。老人は残念がりましたが、こう言いました」
「お前には色々助けてもらった。お礼に何かあげたい」
「だったら厩舎の左から3番目の馬をもらえませんか」
「3番目の馬!?さすがに3番目の馬はやれない。2番目の馬にしてくれ」
「そうですか?ではそれで」
ということでフリックは2番目の馬“ムーン”(セブンドリーム号)を受け取りました。これもかなり良い馬のように思えます。フリックは言いました。
「ありがとうございます。でも泊めてもらって御飯も食べさせてもらって、その上、馬までもらったから、お礼に何か弾きましょぅ」
と言い、フリックはフィドルを弾き始めました。
すると、老人が踊り出します。メイドも一緒に踊り出します(巻き添え)。
「これは何だか楽しい気分になってきたぞ。息子よもっともっと弾いてくれ」
と老人は笑顔で言います。
「2時間経過」と書かれたプラカードを持った黄色いドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
「これ楽しいけどそろそろ疲れてきたぞ。弾くのやめてくれない?」
それでフリックは「そうですか?まだ弾きたかったのに」と言って演奏をやめました。
老人は笑顔ですが、疲れたような顔をしています。メイドの少女もかなり疲れたような感じです。
(この感じを出すために2人は撮影時に30分間踊らされた!花園裕紀は若いから平気だったが、獄楽は翌日筋肉痛が酷かったらしい)
老人は言いました。
「でもすごく楽しかった。やはりお前には3番目の馬をあげよう」
「ほんとですか!?」
それでフリックは3番目の馬“スノー”(ホワイトスノー号)をもらったのです。フリックが2番目の馬“ムーン”を返そうとすると
「その馬もおまけでやるから持って行け」
というので、そちらの馬ももらいました、
老人は更にフリックにチターと呼び笛を渡して言いました(*20).
「このチターは触るだけで勝手に鳴る。そしてその音を聞くと悲しいことを思い出してみんな泣いてしまう。それから、お前はたいていの危険は自分で切り抜けられるようだが、どうにもならない時はこの呼び笛を吹きなさい」
「わかりました」
(*20) 『魔法使いのプレゼント』では、魔法使いからもらったのが馬の他にチター、フィドル、笛の3つ。でも今回のドラマでは、フィドルは女神からもらう展開にしたので、馬・チター・笛の3つということにした。
チターというのは、スティールギターや和琴(わごん)に似た楽器で、横に貼られた多数の弦を琴爪で演奏するもの。ドイツ南部の民俗楽器で、この話のルーツがドイツにあることを想像させる。この楽器はカンテレ(kantele) になっているものもある。これはチターに似たフィンランドの楽器らしい。
映画『第三の男』のテーマ曲がチターにより演奏された。チターは演奏がとても難しく演奏できる人が少なくなりつつあると言われる。
今回のドラマではモンドブルーメのスタッフがドイツ南部で売られている本物のチターを1個買って、手回し洗濯機などと一緒に日本に持って来た。ドラマで流れた演奏は、チターの上手い人に実際に弾いてもらったものの録音である。撮影終了後は、欲しいと言ったアクアに進呈された。
原作で魔法使いからもらう楽器の効果は
zither:危機に遭ったら触りなさい
fiddle:誰も助けに来なかったら弾きなさい
flute :人が来ても危機から脱せなかったら吹きなさい
と言っている。
どうでもいいが、この物語を自動翻訳で読んでいたら「ツィター」と表示されたので「なぜこんなところにツィッターが?」と思った。読者も誤読すると思ったので今回の原稿では「チター」と表記した。
語り手「それでフリックは老魔法使いの家を出て、彼からもらった美しい馬“スノー”に乗り、“ムーン”も連れて、イナカイナカ村に向かいました。ところが魔法使いの家を出てから少しして“スノー”がしゃべったのです」
「ね。故郷の村に行っても、お父さん貧乏だから困っちゃうよ。それより新しい旅に出ようよ」
(アクアの女声)
「わっ、びっくりした。君、しゃべれるの?」
「驚くことないよ。行き先はこっちがいいな」
「分かった。君に任せる」
語り手「それでフリックは行き先は“スノー”に任せて進んで行ったのです」
フリックはやがてたくさん人が働いている所に来ました。みんな木を切っています。フリックが近づいていくと声を掛けられました。
「若い人、あんたも手伝ってくれんか」
と40代くらいの男性(釜倉@サウザンズ)。
「どうかしたのですか?」
「王様が新しい宮殿を作るからこの付近の木を伐れと言って。今日中に伐らないと全員死刑だというので」
「それは酷い。私も手伝いますよ」
と言って、フリックは自分の斧を取り出すと、どんどん木を伐っていきます。
「おお。凄い」
と声があがります。
そして半日ほどでフリックはその付近の木を全部伐ってしまったのです。
町人(まちびと)たちから、歓声と拍手が送られました。
やがて王様(太荷馬武)が来ます。木が全部伐られているのを見てびっくりしています。
「よくやった。お前たち褒美をやろう」
と言って、たくさん金貨(*21)をくれました。
「王様。この木のほとんどはそこに居るフリックが伐ってくれたものです」
「おお、それは素晴らしい。お前には特に金貨を100枚やろう」
「いえ。私は旅の者ですし、その金貨はみんなにあげてください」
というので、王様は町人(まちびと)たちに追加で金貨を配りました。歓声があがります。みんなフリックに感謝しました。
その時、王様はフリックが持っている真っ白で美しい馬に目を留めました。
「なんて美しい馬なんだ。この馬を私に売ってくれないか」
「いえ、私は旅の途中なので馬が無いと困ります」
「代わりの馬を授けるぞ」
「いえ。この馬でないと困ります」
と言っていたのですが、馬はフリックに囁きました。
「私を王様の厩舎に連れて行って1晩過ごして。そしたら全ての馬が私そっくりになるから」
(*21) この金貨は、真鍮製の小道具。3Dプリンタで型を作り1000枚製造した。表面はアクアの似顔絵!で裏面には1蔦巴(1萬円ではない)と描かれている。シリアル番号入り。
欲しいと言った出演者に記念に1枚ずつあげた。渡した金貨のシリアル番号は転売を牽制するため記録させてもらった。
それでフリックは王様に
「この馬は売れませんが、自分と馬を王様の厩舎に1晩泊めてくれたら、王様の馬が全てこの馬とそっくりになります」
と言いました。それで王様はフリックと馬(“スノー”)を王宮に連れて行きました。フリックはもう一頭の“ムーン”は町人に預かってもらいました。
夜中、フリックの馬は厩舎の飼葉桶(かいばおけ)から1口だけ餌を食べました。すると厩舎に居る全ての馬が、フリックの馬そっくりに変化したのです。(この部分はCG)
語り手「王様は喜び、フリックにたくさん金貨をくれました」
語り手「ところがこれを快く思わなかった者が居ました。厩舎の世話係(木取道雄)です。世話係は、自分がこれまで世話していた馬が勝手に姿を変えられたことを恨みました。それで王様に申し上げました」
「王様、あの若者は、自分なら3年前に行方不明になった王様の愛馬を見付け出せると申しておりますぞ」
「何?ほんとか」
それで王様はフリックを呼ぶと言いました。
「お前は3年前に行方不明になったわしの愛馬を見付けられるそうだな」
「何ですか?それは」
「3日以内に見付けてこい。見付けたら褒美に金貨100枚をやる。見付けられなかったら死刑だ」
「そんなあ」
フリックが王様のところから戻ると暗い顔をしているので馬が尋ねます。
「フリックどうしたの?」
「3年前に行方不明になった王様の愛馬を見付けて来いと言うんだよ。見付けられなかったら死刑だって」
「大丈夫。王様に言って。鶏100羽分(*22) のお肉を用意してって。それから探しに行きましょう」
(*22) 原典では牛100頭分と書かれている。牛肉は現代の牛の場合1頭分で300kg(0.3t)ほどある。100頭で30tである。馬は道路上ならだいたい自分の体重と同程度の荷物を牽引できる。悪路だともっと少なくなりオフロードではかなり少なくなる。
馬の体重を800kgとするとだいたい馬1頭が牛2頭分くらいの牛肉を運べることになる。すると牛100頭分のお肉を運ぶには馬が50頭必要である!
原典はこういうことをなーんにも考えていない。派手に牛100頭と言ってみたものだろう。
当時の馬も牛も現代のものより体重が軽いだろうから結果的に計算は同じになる。
しかし「牛2頭分のお肉」というのでは迫力が無い。それで鶏で考える。現代の鶏の肉は1羽分で1.2kgくらいである。馬1頭で運べる重さを600kgくらいと考えるとこれは鶏500羽分である。それで切りの良い所で1回目が100羽、2回目が200羽ということにした。
語り手「それでフリックが王様に言うと王様は鶏100羽分のお肉を用意してくれました。それを馬車に載せ馬に曳かせて出発します。馬は言いました」
「森の中に入ったら何もしゃべらないでね。やがて川に辿り着く。そこに馬が水を飲みに来るけど、1頭目の馬は無視して。2頭目も無視して。でも3頭目が来たら、手綱を掛けて。そして全速力で退散。でも馬を奪おうとすると多数のカラスが私たちを襲ってくる。その時、鶏肉を撒きながら逃げて。そしたらカラスたちは鶏肉のほうに行ってしまうから」
「分かった」
それでやがて川のほとりに辿り着きます。やがて一頭の芦毛の馬が水を飲みに来ますがフリックは無視しました。次に栗毛の馬が来ますが、これも無視します。そして3番目に青毛(*23) の馬が来ました。
(*23) 黒い毛の馬(black horse) のことを日本語ではなぜか“青毛”という。
語り手「フリックはその馬が充分水を飲み、川から離れようとした所で手綱を投げます。馬車とその馬がつながります。フリックの馬が駆け出すと、青毛の馬も走り出しました。一斉にカラスが襲ってきますが、フリックが鶏の肉を投げるとカラスたちはその肉に飛び付きました」
「フリックは鶏の肉を投げながら逃げます。そしてついに森を抜けて無事都まで戻ることが出来たのです。馬を連れ帰ると、王様は大喜びして、フリックに約束の倍の金貨200枚をくれました」
馬係は面白くありません。それで王様に言いました。
「王様、あの若者は、自分なら2年前に行方不明になった王妃様を見付け出せると申しておりますぞ」
「何?ほんとか」
それで王様はフリックを呼ぶと言いました。
「お前は2年前に行方不明になったわしの妻を見付けられるそうだな」
「何ですか?それは」
「3日以内に見付けてこい。見付けたら褒美に金貨200枚をやる。見付けられなかったら死刑だ」
「そんなあ」
フリックが王様のところから戻ると暗い顔をしているので馬が尋ねます。
「フリックどうしたの?」
「2年前に行方不明になった王様の奧さんを見付けて来いと言うんだよ。見付けられなかったら死刑だって」
「大丈夫。王様に言って。鶏200羽分のお肉を用意してって。それから探しに行きましょう」
語り手「それでフリックが王様に言うと王様は鶏200羽分のお肉を用意してくれました。それを馬車に載せ馬に曳かせようとしたら、馬は言いました」
「その荷物は“ムーン”に曳かせて」
「君は一緒に来てくれないの?」
「私は単に一緒に行くだけ。昨日の川の所に。そこで何が起きても驚かないで」
「うん」
語り手「それでフリックは“ムーン”を預かってくれていた町人(まちびと)にお礼のお金を渡し、“ムーン”を受け取ってきました。大量の鶏肉を馬車に載せ、“ムーン”に曳かせて“スノー”を連れ、昨日の川の所まで行きました」
「ここで待ってて」
と言って、“スノー”は自分で川の中に入っています。
すると何としたことでしょう!
“スノー”は美しい女性の姿に変わったのです。
「あまりじろじろ見ないで」
とその女性(アクア:女声で)。
「ごめん」
と言ってフリック(アクア:男声で)は謝って目を瞑ります。
「目まで瞑らなくてもいいよ。魔法使いからもらったドレスを私にちょうだい」
「うん」
それでフリックは「お前私の娘にならないか?」と言われてもらった白いドレスを荷物から取りだして、川の中から出てきた女性に渡しました。女性がドレスを着ます。
(ここまでアクアの首から下はモザイクが掛かっている。実際にはアクアは水着を着ているので裸体は曝していない。なおこのシーンは“2人のアクア”を使って撮影したので合成はしていない。ちなみに水着になったのはMである!「女の子にそんなシーンの撮影はさせられない」と言ってMが自分でした。もちろんMは女の子水着を着た。もちろん女の子の水着姿にしか見えない!)
白いドレスを着た女性(アクア:女声)は言いました。
「私が王妃です」
「そうだったんですか!」
とフリック(アクア:男声)は驚いて言う。
「魔法使いに馬に変えられていたの」
「あの家の小間使いが言ってた。魔法使いは気に入らないと人を馬や鹿に変えてしまうって」
「私を王宮に連れてって」
「はい。王妃様」
それでフリックと王妃は馬車に乗ります。
「行くよ」
「うん」
語り手「フリックは“ムーン”を走らせます。一斉にカラスが襲ってきますが、フリックが鶏の肉を投げるとカラスたちはその肉に飛び付きました。その隙にどんどん先に行きます。そしてついに森を抜けて無事都まで戻ることが出来たのです」
王妃を連れ帰ると、王様は大喜びして、フリックに約束の倍の金貨400枚をくれました。
なお帰還した王妃は「私疲れてるの」と言って王との同衾を拒み、ひとりで寝ました。
フリックがほんとに王妃を連れ帰ったので、馬係は面白くありません。それで王様に言いました。
「フリックは調子に乗って、次の王様は自分だなどと言っています」
「何だと!?死刑だ」
フリックは逮捕され、弁明も許されず、裁判も無しでいきなり死刑に処されることになりました。KISSかデーモン閣下かという感じの逝かれた格好をしている斬首人(キャロル前田)が待ち構えている所にフリックは役人(メリー川本・ジェーン佐藤)に引き立てられて連れて行かれます。
「首を切るのは楽しみだ。おい。いきなり首を切ったほうがいい?それとも手足を切ってから首を切る?それともあそこ切ってから手足を切って首を切る?」
などと斬首人は妖しく笑いながら言っています。
フリックは言いました。
「王様、死刑になる前に愛用のチターに触らせてください」
「うん。許可する」
と王様は言いました。
それで大臣(在杢)がフリックの荷物からチターを取り出しフリックに渡します。
するとチターにフリックが触った途端、チターは勝手に鳴り始めました。
(ドイツ民謡『哀しき羊飼い』 performed by Georg Voigtmann)
すると斬首人も、役人も、王様や大臣も、ぼろぼろ涙を流して泣き始めます。チターの演奏が流れる間、斬首人は役人と抱き合って泣いています。
「4時間経過」と書かれたプラカードを持った緑のドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
やがてチターの演奏が終わりますが、斬首人は言いました。
「悲しいことをたくさん思い出した。人を殺すなんてできないから帰る」
それで斬首人が帰ってしまったので今日の死刑は中止になり死刑は明日に延期になりました。
王妃はその夜も「私まだ疲れてるの」と言って王との同衾を拒み、ひとりで寝ました。
語り手「フリックは翌日処刑されることになりました。でも斬首人が『もう人を殺すのは嫌だ』(この部分キャロル前田の声)と言って出て来ないので、王様は役人たちに絞首台を組み立てるよう命じました。役人たちは『フリックは無実です』(この部分大臣役:在杢の声)と言って拒否します。しかし王様は組立てないとお前たちを死刑にするぞと言うので、役人たちは渋々組立てました」
それでフリックは絞首刑にされることになります。フリックは言いました。
「王様。死刑になる前にぼくのフィドルを弾かせてください」
王様は昨日のことがあったので
「だめだ。弾かせない」
と言います。しかし大臣(在杢)はじめみんなが「弾かせていいじゃないですか」と言うので、王様は渋々許可をしました。
王妃(アクア)がフリックの荷物からフィドルを取り、
「絶対助けるからね」
と小声で言ってフリック(アクア)に渡します。
(このシーンは葉月をボディダブルに使って2度撮影して合成)。
そしてフリックがフィドルを弾き始めると、昨日は泣いてしまった廷臣たちが今日は陽気な気分になってむみんな踊り出します。
「なんか楽しいぞ。踊れ踊れ」
と言って大臣も役人たちもみんな踊っています。更にあのフリックが処刑されると聞いて集まって来ていた群衆も浮かれて踊り出しました。更には王様まで踊り始めます。
「6時間経過」と書かれたプラカードを持った藍色のドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
「演奏やめてくれー。もう体力が持たない!」
と王様が叫びます。
それでフリックは「そうですか?まだ弾きたいのに」と言って演奏をやめました。
王様はくたくたになって座り込みました。
群衆が叫びます。
「死刑を中止しろ!」
「フリックは無実だ!」
「フリックは木を伐ってくれたじゃないか!」
「フリックは王様の愛馬を連れ戻したではないか!」
「フリックはお妃様を連れ戻したではないか!」
しかし王様は、こんなに民衆に人気があるフリックを生かしておいたら絶対自分はこいつに倒されると思いました。それで役人たちに処刑を命じますが全員拒否します。
「だったらわしが処刑してやる」
と言って王様は自分でフリックを絞首台に引き立てて行こうとしました。
その時、王妃がフリックの荷物の中から呼び笛を取り出します。そして
「フリック!」
と言って彼にトスしました。フリックはその呼び笛を受け取ると
ピーーーーーーー!
と吹きました。
天がにわかに曇り、雷が鳴ります。
そして魔法使いが現れました。
「息子よ。どうしたのだ?」
と魔法使い(獄楽)は訊きます。
「死刑にされそうになってました」
とフリック(アクア)。
「そんなことはさせん」
と言って、魔法使いは絞首台を掴むと、空高く放り投げました。
絞首台はどこまで飛んで行ったのか分かりません。
「お前を死刑にしようとした奴はどいつだ?」
「王様です」
「とんでもない奴だ」
と魔法使いは王様(太荷馬武)を掴むと、空高く放り投げました、
王様はどこまで飛んで行ったのか分かりません。
それで魔法使いは姿を消しました。
王妃は言いました。
「王様が居ないので代わりに私が命じます。死刑は中止です。フリックは無実です」
すると群衆から凄まじい拍手と歓声がありました。廷臣たちもみんな拍手をしています。
「明日みなさんと話し合いたいことがあります。明日もまた集まって下さい」
それでその日群衆は解散しました。
そして翌日、人々が集まってきました。
王妃は町人(まちびと)たちに言いました。
「王様が居なくなりました。新しい王様を決めなければなりませんが、どうしましょうか?」
町人たちは声々に叫びました。
「フリックを王様にしよう!」
「フリックは優しい人だ。王様にふさわしい!」
語り手「それでフリックは王様に推挙されたのでした。王妃はフリックと結婚しました。実際にはフリックはあまり政治(まつりごと)は分からないので、王妃と大臣が話し合って政治をしました。新しい王宮を作るといって木を伐らせたところは、そんなものよりみんなのための病院や学校を建てました。それでフリック王は人気の王様になりました」
語り手「フリック王は厩舎の世話人を呼びました。世話人は自分は間違い無く処刑されるだろうと、生きた心地がしませんでした」
「王様。願わくばできるだけ苦しまなくて済む方法で処刑してください」
と厩舎の世話人(木取道雄)。
「死刑にすることは無いよ。だって君が居なかったらぼくは王様になってないからね」
とフリック王は笑って言いました(*24).
「厩舎の世話は今後も君に頼むからよろしく」
「分かりました!」
王妃は馬たちを全部元の姿に戻してあげました。世話人は一所懸命働きました。
(*24) 原典はこのセリフを“オチ”にして終了している。
語り手「1年後王妃はフリックの子ども、跡継ぎの王子を産みました」
赤ちゃんを抱えているアクアの姿が映る。
(この赤ちゃんはケイの友人、佐野敏春・麻央夫妻の第2子・桂ちゃん(2021.08.10生まれ、約7ヶ月)。ちなみに抱いているのはアクアF。Mは抱くのを怖がった)
語り手「またフリックと王妃は、落ち着いた頃を見計らって結婚式を挙げました」
ダブレットを着たアクアと目が覚めるようなブルーのドレス(*25)を着たアクアが並んで結婚式を挙げる様子が映る(*26).
語り手「そして結婚パーティーの席で新しい王様になったフリックは言いました」
「皆さん。お祝いしてくれてありがとう。お礼に一曲弾きます」
それでフリック王がフィドルを弾きはじめると、パーティーの出席者はみんな楽しい気分になって踊り出します。
「なんか楽しいぞ」
「王様。もっともっと弾いて」
それでパーティーの出席者も、お祝いに集まった群衆もひたすら踊ったのでした。
「演奏は夜中まで8時間続きました」と書かれたプラカードを持ったすみれ色のドレスの広瀬みづほが画面を横切って行く。
そしてみづほがプラカードを裏返すと「おしまい。」と書いてあった。
(*25) このドレスは人工ウルトラマリンで着色した。天然ウルトラマリンより鮮やかな色である。アクアが青を着るので、わかなの衣裳は青を飛ばして、緑の次は藍色に行った。
(*26) 放送時「アクアは本当に自分と結婚するつもりかも」という声多数。このドラマは映画『黄金の流星』公開より早いゴールデンウィークに放送された。
「姉弟では結婚できないのでは?」
「ほんとに姉弟なの?姉妹なのでは?」
「姉妹だと同性だからますます結婚できない」
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【夏の日の想い出・二足のわらじ】(3)