【夏の日の想い出・ホームワーク】(5)
1 2 3 4 5 6
(C) Eriko Kawaguchi 2021-01-22
白鳥リズムが今年紅白に初出場するので、彼女のバックバンドを結成することになった。名前は「白雪1200km」と決まる。
「白雪」というのは昔の国鉄時代の急行の名前で、後に特急に昇格した時に「白鳥」になった列車である。それで白鳥リズムをサポートするのに良い名前として選ばれた。1200kmは(公称)“特急白鳥が走っていた大阪から青森までの距離に、青森から北海道に渡る距離を加えたもの”とした。実際、特急白鳥が大阪から日本海縦貫線経由で青森まで行くのは、当時の路線上で1052.9kmであった。現在、青森から新函館北斗まで青函トンネル経由で行くと152.7kmなので、加えると確かに1205.6kmで約1200kmである。
ただしこれは“公称”であり、1200kmの本当の意味は後述する。
「しかし結成といっても・・・」
とリーダーに指名されたギターのマキ(五和真希)。
「既に存在していた気がする」
と最年長でサックスのモエ(十勝萌子)。
「まあ名前が付いたということかな」
とベースのミチ(三嶋道代)。
「名前もあった気がする」
とドラムスのムツ(二見睦子)。
「ちゃんと1200という名前を入れてもらったしね」
とキーボードのエミ(四谷恵美)。
「でも今まで曖昧に報酬を払っていたのを正式に§§ミュージックと契約を交わしたいということらしいよ」
と白鳥リズムはデビュー以来3年半ほどの付き合いであるバックバンドのメンバーたちに話した。
「雇用契約?」
「普通のアーティスト契約。エレメントガードや乙女地区の人たちと同じ形式で、毎月の最低保証+稼働時間が規定時間を越える場合は割増金を払う。だから雇用契約に限りなく近い契約になると思う。詳しい話は悪いけど社長と直接話してもらえる?」
「了解了解」
とリーダーのマキは言った。
実は白鳥リズムのバックバンドを2017年春以来務めているのは MCC という名前のバンドであった。彼女たちは2012年に“みぞらんず”の名前でメジャーデビューしてアルバムを出している。最初のアルバムは10万枚も売れた。しかし、その後はあまり売れず、音楽だけでは食べていけなくなり、各々、居酒屋やファミレス・コンビニなどでバイトして食いつないでいた。最初創設されたファンクラブも1年で解散してしまった。2016年いっぱいで事務所やレコード会社との契約も解除になった。しかし解散はせず、MCCの名前に戻って月に1度くらいライブハウスで演奏していた。
2017年春に、彼女たちのデビューにも関与した人物が“君たち解散してないのなら、バイトで新人歌手の音源制作の伴奏してくれない?”と持ちかけてきた。その新人歌手というのが白鳥リズムだった。その関わりからリズムのツアーでも伴奏を務めることになり、音源制作には毎回お願いされるのが定着した。
最初の年は、音源制作やツアーの都度、§§ミュージックから報酬をもらっていたのだが、2年目2018年春から「普段から音楽的なことで色々相談したい」と言われ、リズムが個人的に“顧問料”として彼らに毎月1人22万2741円(源泉徴収後20万円になる)の報酬を払うようにした。本当はリズムと、MCCをリズムに紹介した人物が折半していたがそれは彼女たちには話していない。
彼女たちはこれ以外に音源制作やツアーの報酬で§§ミュージックから年間100万円程度もらっていたので、これで生活が成り立つようになり、この時点で各々のバイトをやめ、リズムの専従になった。
リズムはパンドの人たちは元々自分たちの活動があってお忙しいのだろうと最初思っていたのだが、親しくなっていく中で色々話していると、バンドは開店休業状態で、ファミレスなどのバイトで食いつないでいるということだったので
「中学生に雇われるのはプライドを傷つけるかも知れないけど」
と遠慮がちに顧問料の話をしたら
「いや。助かる。プライドとかとっくに捨てた」
と彼女たちが言ったので、毎月一定の金額を払うことにしたのである。
この状態が2年間続いた後、2020年春、コロナの影響でツアーなどができないし、音源制作も大変になるという背景の中で、リズムの収入も実際かなり下がる可能性があった。それでリズムが社長に頼み込み、§§ミュージックがリズムに代わり、彼らに毎月22万の報酬を払う形にした。しかし正式の契約書などは交わしていなかった(この業界はそういうのが非常に多い)。
それで今回は、正式な契約をし、待遇を改善するとともに、公式にリズムのバックバンドとして認定するという話だったのである。
MCCのメンバーは、今年春以降はリズムとの直接的な準雇用関係は無くなっているものの2年間リズムから個人的に報酬をもらっていた恩義を決して忘れない。報酬以外に、楽器やエフェクターなどもリズムに買ってもらっていたし、実はかなり個人的なことにまでお金を出してもらっていたりする。
メンバーのお母さんが入院して治療費が膨大に掛かるという話になった時や、妹さんが大学に入るのに入学金で悩んでいたら、借用証書も無しで貸してくれたこともあったのである。リズムはその手のお金については「返済は考えなくていい。出世払い」と言っている。
リズムは性格的にわりとそういう“漢らしい”ところがある。
彼女たちの元々のバンド名は MCC だが、これはローマ数字で 1200 を意味する。それで、その1200を新しいバンド名に取り込んだのである。MCCそのままでは商標権の問題で難しかった。以前“みぞらんず”という名前を使ったのも権利上の問題である(“みぞらんず”の名前は前の事務所に権利がある)。
MCCの由来は彼女たちの名前にある。結婚しているメンバーもいるので↓は出生名であるが、
Sx 十勝萌子 モエ
Gt 五和真希 マキ
KB 四谷恵美 エミ
B_ 三嶋道代 ミチ
Dr 二見睦子 ムツ
メンバー全員、苗字に数字が入っており、その数字を“掛け合わせる”と
10×5×4×3×2=1200
になるのである。それをローマ数字で書いて MCC という名前になった。そういう訳で、MCCといっても工具メーカーや関西の食品会社とは関係無い。
一方同じく紅白初出場のラピスラズリにもバックバンドが作られることになった。ラピスラズリはこれまで様々なバンドや、インペグ屋さん経由で集めた寄せ集めのミュージシャンの伴奏で音源制作をしていた(ラピスラズリはコロナのおかげで、まだリアルのツアーを経験していない)。
バックバンドの名前は“愛の十字架”である。これはサルバドール・ダリの宝石アートに由来する。ダリは多数の宝石アートを制作しているが、その中にはラピスラズリを使用したものが幾つもある。その中でも特に印象的な『ラピスラズリの十字架(Lapis Lazuli Cross)』から、この名前を採っている。
(どんな作品かはネットで検索してみて下さい)
ダリの宝石アートでラピスラズリを使用した主な作品:
復活・平和のメダル★・爆発・ラピスラズリの十字架★・幻覚の花・天使の十字架★
↑★を付けたものはラピスラズリの大きな塊を使用した作品。
「えっと、皆さんよろしくお願いします」
と挨拶したのは、リーダーに指名されたドラムスのレイ(鷹木礼子:たかぎのりこ:“れいこ”と誤読されるのでそれをステージネームにした)である。
彼女はエレメントカードの元ドラムスである。アメリカ国籍なのだが、アクアの伴奏の仕事があまりに忙しすぎてうっかりビザの期限を切らしてしまった(気付いたのが期限の翌日だった)。§§ミュージックの弁護士が法務省と交渉してくれた結果、直ちにいったん退去すれば、オーバーステイの前科とはしないと言ってもらえたので、帰国することにし、再度ビザが下りるのはいつか分からなかったので、いったんエレメントガードを退任した(代わりに川井唯が入った)。
その後、再度ビザが降りて再来日できたが、ファンクラブ月報の編集などの裏方として活動していて、時々様々な歌手の音源制作のお手伝いをしていた。ドラムスが専門だが、ギターやベースも弾ける。
現在は既に日本の永住権を取得しているので、今後はビザの問題は起きない。
「わりと見知った顔ですね」
と言ったのは、ギターのアンナ(真鍋亜矢)。彼女は以前ナディアルというバンドをしていたが、解散後結婚して一時期引退していた。その後、復帰してスタジオミュージシャンとして活動していた。§§ミュージックの歌手の音源制作に多く関わっている。旧姓は山下で、スイートヴァニラズのEliseの実妹である。
「このメンツなら信頼感があるなあ。私が最年少かな。皆さんよろしくお願いします」
と言っているのはキーボード担当のジェリ(冨田瀬梨花)。彼女は元はバレンシアというバンドで是梨(じぇり)の名前でキーボードを弾いていた。バレンシアが事務所に放置され、自然消滅してしまった後、スタジオミュージシャンをしていて、レイやアンナとも多く出会っている。
「報酬につられてOKしたけど、無茶苦茶忙しくなりそうで少し後悔してる」
などと言っているのは、ベースのマリア(喜納満里)。彼女は赤羽ドラゴンというアマチュアバンドのベーシストだったのだが、赤羽ドラゴンはドラムスのレイア(羽藤玲香)が桜野レイアの名前で歌手デビューし、ギターのユイ(川井唯)はアクアのバックバンド“エレメントガード”のドラマーになったので、マリアは1人取り残されてしまう。レイアやユイのコネで§§ミュージックの歌手の音源制作やツアーで使ってもらっていた。それでレイやアンナとも顔見知りである。
ちなみに彼女は戸籍上は男性である。“満里”の名前は元々は“みつさと”と読なでいた(既に読み方は“まり”に変更済み)。むろんそのことをここに居る3人は以前から知っている。
「この仕事やると性転換手術受けるお金を稼げるよ」
「お金を稼げるのはいいけど、性転換手術を受ける時間が無くなるとかは?」
「一週間くらいはお休みもらえると思うよ」
「1週間だけなの〜〜〜!?」
「ちなみに今身体はどこまで直してるの?」
「あり・あり・あり」
(おっぱい:あり、ちんちん:あり、たまたま:あり、という意味)
「まだ去勢してないの〜〜?」
「だってお金が無くて。タマ取るだけでも20-30万円するし」
「ね、社長に言ったら、去勢手術代くらいは貸してくれると思うから、今月中に手術しときなよ。1月明けたらたぶんかなり忙しくなる」
「そうかな?」
「私が言ってあげるから」
「じゃ頼もうかな」
それでマリアはレイに社長に打診してもらった。
「ああ。そのくらい貸してあげるよ」
とコスモスは快諾した。
それでマリアは12月中に去勢手術を受けることにした。
万一急変したような場合に親族が付いていけないと言われたので、少し悩んだ末に、妹に頼むことにした。
「妹さん、実家に住んでるの?」
とマリアは川崎ゆりこ副社長から訊かれた。
「はい。徳島なんです」
「東京に出てくるの?」
「はい。Goto使って出て来ようかなと言ってます」
「それ禁止。迎えに行かせるから」
「え〜〜!?」
「だって妹さんが感染して、それでマリアちゃんが感染して、それでラピスラズリに感染させたりしたら大変なんだから」
それでゆりこの指示で、§§ミュージックのホンダジェットが徳島飛行場までマリアの妹さんを迎えに行き、郷愁飛行場に連れて来た。そしてマリアが手術を受ける病院まで§§コールセンターのドライバーが運転する車で搬送する。
このVIP待遇に妹さんもマリアも恐縮していたが、事務所としてはラピスラズリが万一コロナに感染した場合、下手すると数百億レベルの損失が生じるのである。
それでともかくも妹さん立ち会いの上で、マリアは去勢手術を受けた。
「睾丸を取ったら子供も作れなくなりますし、2度と元には戻せません。本当に睾丸を取っていいですか?」
「はい。子供が作れなくなることは承知しています。取ってください」
「分かりました」
それで医師はマリアの陰嚢を切開して睾丸を切断した。
「持ち帰りますか?」
「いいえ。要らないので捨ててください」
「了解です」
こうして、かなりの大事(おおごと)となって、マリアは男性を廃業したのである。もっとも長年の女性ホルモン服用で既に男性機能は消滅していたはずでそもそも既に子供を作る能力も無かった。
帰りも妹さんは、§§コールセンターの車で郷愁飛行場まで送ってもらい、その後ホンダジェットで徳島飛行場まで送ってもらった。妹には、レイが東京土産にお菓子を渡したので、ますます恐縮していた。
マリアは、社長から借りた手術代より、妹の送迎費用の方が数倍掛かっている気がしたか、自分がとても大きなプロジェクトに関わっていることを再認識し、感染防止もほんとにしっかりやらなければと自覚した。
またこの事件は、“愛の十字架”の各メンバー、そしてMCCを含む他のバックバンドのメンバーにも再自覚を促すことになった。
「でもラピスラズリの朱美ちゃんも、元男の子だったんだしょ?凄いなあ。中学生で性転換しちゃうなんて」
などとマリアはレイに言っていた。
「じゃ手術するよ。いいね?」
と蓮菜は親友の千里に確認した。
「うん。お願い」
と千里は、かなり良心の痛みを感じながら、彼女に“かんな”の手術を頼んだ。親友を欺すことになってしまうのは、本当に申し訳ない。
大人なら普通の部分麻酔あるいは腰椎麻酔などで行う手術だが、子供はそれでは動いたりした場合が危険なので、眠くなる薬を処方して、眠らせて部分麻酔と併用する(全身麻酔ではない)。
蓮菜は患者がちゃんと眠っていて麻酔も効いていることを確認してから陰嚢を電気メスで切開した。事前にMRIでも確認していたように、睾丸が陰嚢に糸で縫い付けてある。その糸を剪刀で切って、睾丸が自由に動くようにした。
「ごめんねー。このままこの睾丸を除去してあげたいけど、それは君の年齢では許されないのよ」
と心の中でひとりごとを言ったが、患部を見ていて、何か違和感を感じた・
「これ本物の睾丸だっけ??」
疑問は感じたものの・・・いいことにした!!
千里を締め上げても知らんぷりするだろうし。
なんか千里の態度が変な気がしたんだよねー。
まぁいいや!!
それで蓮菜は陰嚢を縫合し、手術を終えた。
(さすがに“患者が別人”であるとまでは思わない)
手術が終わって病室で寝ている“かんな”の元に、一人の人物が忍び込む。
「さあ、環和(かんな)ちゃーん。君の睾丸は形だけのニセモノだから、ちゃんと“女性ホルモン”を分泌するものと交換してあげるね」
と言うと、ベッドにビニールシートを敷き、子供に全身麻酔!を打つ。
そしてさっき蓮菜が縫合した糸を切ってしまい陰嚢を再度開く。そして中に入っている“疑似睾丸”を取り出してしまった。そして彼が持ち込んだ新たな睾丸を中に納め、精索と繋いでしまった。
「ふう。龍虎が可愛い女の子になれるよう頑張って作った睾丸が無駄にならなくて済んで良かったよ」
などと彼は呟いた。もっとも女性ホルモンの分泌量は、小さな子供なので少し弱くなるように調整している。
「まだ目が醒めないかな?だったら少しサービスするか」
と彼は更に呟くと“加工”を続けた。
全て終わった所で、前橋に連絡した。彼が退去して10分ほどして、前橋が“環和(かんな)の母親”を連れてくる。
「手術は終わりました。しっかり間違えて手術してますから」
「間違ってくださってありがとうございます」
「環和(かんな)ちゃんの陰嚢の中には女性ホルモンを分泌するように加工した睾丸が入っていますから、この後はどんどん女の子らしくなっていきますよ」
「それは素敵ですね。可愛い女の子に育つといいなあ」
前橋は
「20-30分で目が覚めると思います。例によってお代は不要ですから。薬局でお薬だけ受け取って帰って下さい」
と言って精算済みの伝票を渡すと、母親を置いて退出した。
「環和(かんな)ちゃん、手術痛くなかったぁ?」
などと声を掛けながら、母親は、まだ眠っている“娘”の病院着をめくり、パンティを下げてみる。
「あら。割れ目ちゃんみたいになってる。ちんちん切っちゃったのかな?」
と言って母親はその割れ目を開いてみる。
「これ、ちんちんかしら?まるでクリちゃんみたい。これくらい小さかったら、女の子として保育所に行けるね。良かったね、環和(かんな)ちゃん」
などと母親は呟いた。
実際には、陰茎も睾丸も付いたままである!
膣が無いほかは、外見上ほぼ女の子だが、(短くカットした尿道以外)ほとんど切除していないので、万一この子が男の子になりたいと言った時は男の形に復元することが可能である(不足する尿道は一部人工のものを使えば良いし、男性としての機能にも影響は無いはず)。
「まあタックする手間を省いてやっただけだな」
などと、勝手な手術をした人物は呟いた。
彼としては完全な女の子にしてあげたかったのだが、千里にバレたら、こちらが去勢罰をくらいそうなので控えた。
この子の本来の睾丸も一応保存している。ただし睾丸として“発生不全”であり、実際の睾丸の機能は無かった。青池も治療不能だと言った。一方以前の手術の時に脊髄から細胞を取得し、リセットしてIPS細胞に変えており、これを今、卵巣・子宮・膣のセットに育てている所である。数年経てば移植可能になるはずである。
青池、勾陳、前橋らのチーム(?)は、とっくの昔に性転換済みの緩菜の身代りに正規の医療で治療される停留睾丸の子が欲しかったので、偶然、停留睾丸の息子を娘に変えたい(正確には“戻したい”)と思っていたものの、治療費が無くて困っていたこの母親を利用させてもらったのである。母親の希望通り、複雑な過程を経て正規の医療により睾丸を除去してもらったが、千里からもかなり叱られたので、この後は本人が成長して、男女どちらになるのを望むか次第だと思っている。(女の子状に股間形成してしまったのは勾陳の趣味であり、千里に知れたらそれもかなり叱られる)
この環和(かんな)ちゃんの出生届は女で届けられていた。ドラゴンズのメンバーで手分けして確認した所、この子の祖父母や、この母親と離婚した元夫(養育費は全く送ってきていない)なども、この子は女の子だと思い込んでいる。
緩菜同様、かなり強度の停留睾丸だったので、恐らく出生時に医師が性別を誤認したものと思われる。出生時は女の子に見えたものの、たぶん成長に伴い、男の子みたいな形になってきて、母親も焦ったのだろう、と青池は言っていた。
母親としては、それまで女の子だと思って育ててきたから、男になってしまうなんて可哀想!という気持ちになり、女の子に戻してあげたいと思ったのだろう。青池は「この子の脳は女の子の脳だと思う」と言っていた。むろん女脳たからと言って本当に女として生きていきたいと思うかは、青池にも分からない。
母親はこれまで環和(かんな)ちゃんを託児所に預けて居酒屋のバイトをして子供を育てていたのだが、今年春以降は夜間の仕事が無くなり、給料が下がって、かなり苦しんでいた。母親(環和の祖母)から田舎に戻ってこないかと言われていたが、ちんちんの付いている環和(かんな)は連れて行けないのでそれも困っていた。
千里からの依頼で青池が工作し、1月以降、店内に無料託児所のあるファミレスで働くことができるようになった。ただ、母親としては性別が微妙な環和(かんな)を託児所に預けることに不安を感じていたが、この日の“手術”で環和(かんな)は女の子として“託児所パス”できる状態になった。前の託児所ではお股をタックしておいたので、一応女の子と思れていたが、バレないか、かなりヒヤヒヤしていた。
環和(かんな)は現時点では女の子として成長しているように見える。スカートを穿くのを好むし、お人形などで遊び、プリキュアが好きである。自分のことを「わたし」または「あたし」と言うし、おしっこは必ず座ってする。実は、自分で包丁でちんちんを切ろうとしていたのを、すんでで停めたこともある。
「ちんちんいらないよー」と泣いて訴えたこともあったし、この日の“手術”の後、ちんちんが無くなった(ように見える)のを物凄く喜んでいた。ただ性別意識はけっこう思春期にひっくり返ることがある(実際にはそれまで本人が親の育て方に迎合していて本当の気持ちを隠している)ので、現時点では最終的な性別決定は困難なのである。
“ブレンダと呼ばれた少年”のケースでも、幼くして事故(割礼でペニスの皮を切ろうとしていて誤ってペニス自体を損傷した)でペニスを失ったことから、いっそ女の子にしようといって、睾丸も取り女の子の形に形成して、女の子の服を着せ、女の子として育てられた。彼は一時期は人形を欲しがったりして、心まで完全に女の子になったかのように見えたのだが、思春期になると男っぽい性格に変わり(むしろ戻ったというべき)「男になりたい」と言うようになったのである。結局、彼は男名前に再改名して、ちんちんは無くても男として生きる道に転じた。
もっとも“ブレンダと呼ばれた少年”のケースは、心が男である子を強引に女として育てようとしてもダメであることをあらためて示している。だから逆に、心が女である子も、男を強制して育ててもダメなのである。
人は最終的には、自分の肉体的性別ではなく、心の性別に沿って生きていくものなのである。
若い頃女性指向を否定していた、美輪明宏・美川憲一・氷川きよしなどが、ある程度の年齢になったところでカムアウトして自分の本来の生き方に戻ったのも、やはりそういうことである。
さて、アクアは最終的にはどちらの性で生きていくのだろうか?
「本当に切っていいですね?もう戻せませんよ」
という医師の問いかけに
「切って下さい。お願いします。女の子になりたいです」
と青年は答えました。
それで医師は彼のペニスを切断し、代わりにヴァギナを形成しました。
彼のお股はすっきりした形になりました。
彼はもはや彼女です。
この日、この世から1人の男が消滅し、1人の女が生まれました。
医師は言いました。
「彼女は男性としてのあらゆる義務から解放され、女性としての全ての権利を得られます」
彼のお股は凸の形でしたが、彼女のお股は凹の形です。
彼はセックスの時自分のペニスを勃起させて相手に入れなければなりませんでしたが、これからは相手に入れてもらえれば済んで楽になります。
彼はお婿さんにならなければなりませんでしたが、彼女はお嫁さんになることができます。彼はズボンを穿かなければなりませんでしたが、彼女はスカートを穿くことができます。
手術前、彼は男性病室に入れられ、Mr. John Smith という名札が掲げられてしまたが、手術が終わると女性病室に入れられ、 Ms Joan Smith という新しい名札が掲げられました。Mr. John Smithの名札はゴミ箱に捨てられました。
病院にお母さんがお見舞いに来ました。
「私、これまで息子だったけど、今日から娘になったの」
(I had been your son, but from now, I am your daughter)
「あんたは女の子になった方がいいんじゃないかと思ってたよ」
(I have been long thinking that you have had better be a girl)
と母が言います。
「女の子になれて良かったね、お姉ちゃん」
(I'm glad you became a girl, my sister)
と妹も祝福してくれました。
彼女は1週間後に退院し、スカートを穿いてお化粧して会社に出勤すると、性別と名前の変更届けを退出。女性会社員として勤務し始めました。
Name and sex change notification
Old Name: John Smith
Old Sex: male
New Name: Joan Smith
New Sex:female
新しい女子制服を支給され、女子更衣室でそれを身につけます。ロッカーも男子更衣室から女子更衣室に移動してもらいました。古い男子制服は返却すると廃棄に回されました。これまでは毎日男子更衣室で着替えなければなりませんでしたが、これからは毎日女子更衣室で着替えられます。
会社のトイレも、これまでは男子トイレに入らなければなりませんでしたが、これから彼女は女子トイレに入れます。
今日彼は新しい名刺と社員証をもらいました。元の名刺と社員証は Mr. John Smith でしたが、新しい名刺と社員証には Ms Joan Smith と書かれています。Johnの社員証と名刺を返却するとシュレッダーに掛けられました、
彼は男性の同僚と一緒に飲みに行っていましたが、彼女は女性の同僚と一緒におやつを食べに行きます。
今日は女性になって初めての客先訪問。新しい名刺を渡し、性別と名前を変更したことを説明します。客先担当者は驚きましたが「可愛くなりましたね!」と笑顔で言いました。
彼女は女性になってから営業成績が2割もアップしました。
そして今日彼女の新しいパスポートが発行されました。こちらは穴が開けられ無効化された古いパスポートです。
フロリダ州では性別と名前の変更には、裁判所の審判を経て、社会保障局に届けを提出することが必要です。その後、自動車管理局で免許証の書き換えをし、社会保障局での手続きが終わっていればパスポートの再発行を申請することで新しい性別のパスポートを受け取ることができます。
元のパスポートの性別はMでしたが、新しいパスポートの性別はFです。
これから彼女は女性として素晴らしい人生を送るでしょう。
「ああ。今月の性転換者は美人だったなあ。やはり美少年はどんどん女の子に変えてあげなくちゃ」
と政子は言った。
「何見てるの?」
と私は訊く。
「"Sex Change Report from Florida" というアメリカのテレビ番組だよ。フロリダのマイアミ・セックス・メディカル・センターという所で性転換手術を受けた人を、性転換前から性転換して半年後まで追跡して手術の様子や日常生活の変化を報告する番組。先月出ていた人はシステムエンジニアで、性転換手術前から女装でお仕事していたけど、今週出て来た人は事務機の販売員で、会社の規約が厳しかったから、性転換するまでは男子として勤務しないといけなかったから、手術を受けて劇的に生活が変わったみたい」
「へー。凄い番組やってるね」
と言いながら、私はその番組名を検索してみた。
「凄い。この番組、既に5年も放送されているんだ!」
「やはりアメリカは性別変更のハードルが低いよね」
などと政子は言っている。
しかし私はその番組の記述を見ていて、ある点に気付いた。
「ねえ、これ出演している人は俳優だと書いてあるけど」
「嘘!?」
「事例は本当のものらしいよ。でも本人で撮影するのではなくて俳優さんを使って撮影しているらしい。名前も架空のものに変えてあるって」
「なんで〜〜!?」
「性転換したことをあまりおおっぴらに知られたくないんじゃない?」
「そっかー。プライバシーだもんね」
「あと、テレビ映りの問題もあるかもね」
「うむむ」
「性転換する人で美少年から美少女に変わる人はたぶん1割くらいだよ」
「うむむむ」
「でも自分は女として顔パスしないけど、と思っている人でも、女として生きていきたければ、性転換していいと思うよ」
「そうだよね。生まれながらの女であっても、女として顔パスしない人もあるし。特におばちゃんたちの中には女子トイレで見て一瞬通報すべきかと思う人いるよね」
「そういう発言は敵を作るからしない方がいいと思う」
「人前では言わないよ。亮平、性転換しないかなあ。今ならまだ顔バスするもん。年齢があがるとその内顔パスしなくなりそうで、もったいない」
「亮平君が性転換したら妃登美ちゃんが困ると思う」
「だけどさ、Hなサイト見たまま眠ってた時スマホを人前で開くと恥ずかしいよね」
などと政子は言う。
「何を突然」
「こないだは性転換のBefore/Afterを掲載したサイト見ながら眠っちゃってさ」
「マリちゃんの趣味は今いち、よく分からない」
「翌日、(八雲)真友子さんと話していた時にスマホ開いたら、いきなり、男性器と改造された女性器の写真がたくさん並んでるから、真友子さん、ギョッとしてた」
「それ、真友子さんで良かったね」
と私は言ったのだが、政子は何か思いついたようだった。
私はペンと紙を渡した。
詩を書いている。私はコーヒーを入れてきて、政子の前に置く。政子が指を3本立てる。これは私たちの間では「サンキュー」の意味である。
「できたー!」
と言って、政子は筆を置いた。
『恋の後始末』と書かれている。
元彼からプレゼントされたものを新しい彼に見られて焦る、などといった内容である。ややコミカルな歌だ。
まあ確かに楽しんだ後は、後始末が大事だよね。
「これ曲を付けて」
「OKOK」
12月24日(木)、クリスマスイプ。
あけぼのテレビでは、クリスマスの特別番組(スポンサー付き無料放送)を放送した。スポンサーはお菓子メーカーの平治製菓で、§§ミュージックの複数のタレントがここの商品のCMをしていて、元々つながりが深い。
第1部は今年秋に数回行ったのと同じ、アニメーション付き朗読劇で、『眠りの森の美女』を放送した。配役は下記である。
タリア姫 アクア
王妃 高崎ひろか
国王 品川ありさ
侍従長 姫路スピカ
姫の警護役 恋珠ルビー(新人)
姫の侍女長 七尾ロマン(新人)
姫の侍女 リセエンヌ・ドオ
カラボス 桜野レイア
大公 山下ルンバ
リラの精 白鳥リズム
バラの精 花咲ロンド
チューリップの精 石川ポルカ
カーネーションの精 原町カペラ
桑の精 大崎志乃舞
カナリアの精 今井葉月
葦の精 桜木ワルツ
ファイト公子 西宮ネオン
ファイトの父 町田朱美
ファイトの母 東雲はるこ
配役が伝えられた時、アクアは抗議した。
「なんでボクが眠り姫なんです?女の子たくさんいるんだから、その中の誰かにさせればいいじゃないですか」
川崎ゆりこは答えた。
「消去法だな」
「は!?」
「高崎ひろかを使うと品川ありさのファンが不愉快だ。品川ありさを使うと高崎ひろかのファンが不愉快だ。東雲はるこや町田朱美を使うと高崎ひろか・品川ありさ双方のファンが不愉快だ。白鳥リズムは武闘派だから、お姫様の柄ではない。本人も『王子役ならしますけど』と言った。姫路スピカも考えたが『ひろかさんや、ありささんを差し置いて私がしたら叱られます』と言った。結局誰からも苦情が出ないのはアクアだけだ」
「うーん・・・」
そういう訳で、アクアが眠り姫の役をすることになったのである。アクアもお姫様の衣装を付けて演じる訳ではなく、朗読だけならと妥協した。
有料番組ではないものの、★★チャンネル・ЮЮネットで同時配信される。視聴率は高く、400万回線に増強したあけぼのテレビでもかなりの接続が来て技術者たちをヒヤヒヤさせた。★★チャンネルはまたフレームレートを下げる羽目になり
「なんで有料配信にしないんだぁ?」
と悲鳴をあげていた。
番組は好評で、政子なども大量のフライドチキンを食べながら、食い入るように見ていた。
大公(山下ルンバ)が姫を殺そうとし、それを守ってリラの精(白鳥リズム)が戦うも力尽きるところ、悪役と思われていたカラボス(桜野レイア)がリラの後を引き継いで戦い大公を倒すシーンは、物凄い視聴率で、(あけぼのテレビの実働部隊である)サンシャイン映像の則竹部長はマウスに手を置き、いつでもフレームレートを落とすボタンを押せる体制で回線使用率の数字を見ていた。
後でこの時間帯の接続数を確認したらピークでは520万回線も接続していた。400万回線しか接続能力は無いのに!
(400万回線というのはバックボーンを管理するトリプルスターが保証している数字であり、実際には遅い端末(特にスマホ)で接続する人も多いので、恐らく500万回線くらいまでは耐えられると思う、とトリプルスター側の技術者は言っていたが、その数字も超えている。一方★★チャンネルは公称接続可能数の100万回線に達した所で本当にダウンした)
「これカラボスが悪役じゃなかったんだ?」
と政子が確認した。
「そうそう。悪役は国王の弟の大公。姫が死ねば自分が王位を継げるからね」
「弟がいるのに、国王の娘が後を継げるというのは、男優先じゃないのね」
「ヨーロッパは一般にそういう国が多いよ。子供が第一優先。その子供の中に男女がいる場合は男子優先。男子がいなければ女子が継ぐ。子供が居ないと国王の兄弟姉妹に行く」
「やはり基本的には男優先か」
「モナコとかも、今の国王の最初の子供が双子で産まれて、先に生まれたのは女の子のガブリエラだけど、その後生まれた男の子のジャックが男子優先で公世子になった」
「双子なら、どちらが先でもいい気がする」
「男女関係無く長幼の順の所もあるし、近い親族に男子が居なかった場合のみ女子が継承できる国もある。そもそも男子にしか継承権が無い所もある。まあ色々だね」
「なるほどー。じゃ王子様が性転換して王女様になったら王位継承権が下がったりするのね」
「性転換した王子様という事例が無いから分からない」
「インドたったかの伝説に王子様が性転換する話無かった?」
「ああ。マハーバーラタに出てくるアルジュナ王子だね。本人の意志ではないけど去勢されてからはアルジュニーヤという女性名を名乗る」
「王位継承権はどうなったんだっけ?」
「さあ」
『眠りの森の美女』を1時間やった後は2時間にわたってライブが行われた。下記の順序で1組1曲ずつ歌った。
ラピスラズリ、リセエンヌ・ドオ、恋珠ルビー、七尾ロマン、原町カペラ、桜野レイア、山下ルンバ、大崎志乃舞、石川ポルカ、桜木ワルツ、花咲ロンド、白鳥リズム、姫路スピカ、西宮ネオン、今井葉月、高崎ひろか、品川ありさ、川崎ゆりこ、アクア
(ゆりこは「“だいたい”デビュー(逆)順」と言ったが、デビュー時期のよく分からない葉月・志乃舞などは適当に入れられている。ロマンとルビーが先頭でないのは、あまり緊張せずに歌えるように配慮した結果)
演奏は各々個室で行われている。伴奏は全てカラオケである。
以上19組で、1人の持ち時間は約5分である。これに司会役(前半ゆりこ・後半花ちゃん)のおしゃべりやCMが入って120分の番組になっている。
今年のビデオガールコンテストで優勝したロマンとルビーにとってはこれが初ステージになった。各々デビュー予定曲を歌唱している。
朗読劇とライブで合計3時間を19:00-22:00の3時間に放送した。
最後には画面が20分割され、歌唱した19組+コスモスの20組がシャンメリーで乾杯し、クリスマスケーキを食べる所が映って番組は終了した。シャンメリーの栓を開ける所はラピスラズリの2人、乾杯はアクアが音頭を取った。
押し迫った12月26日、千里たちが浦和市内のマンションから、比較的近い場所の一戸建てに引っ越した。
私は引越祝いに何か贈ろうか?と言ったが、千里は1月にももらったからいいと言っていた。しかし落ち着いてから1度招待してもらった。見た感じはごく普通の民家である。隣の敷地にガレージがあった。車を駐めるのに、駐車場を借りようかと思ったが、台数が多いので借り賃が高額になるし、続けて空いている所がないので不便であった。また家からのアクセスも大変だったらしい。それが偶然隣の家が空き家になっていて売りに出ていたから買い取り、建っている家を崩してガレージを設置したという。
千里たちは今年初めに、京平君を引き取るために、世田谷区の1Kのアパートから、浦和の3DKのマンションに引っ越していて、実際にはそこで千里・京平君、青葉の婚約者の彪志君の3人が暮らしていた。一時高岡に行っていた桃香が10月に早月ちゃん・由美ちゃんを連れてこちらに戻って来て、6人の共同生活になっていた。しかし先月、千里の長年の思い人であった貴司君が奥さんと離婚し、年明けてから千里と結婚することになった。それで、貴司君も一緒に住むことになったのである。つまり新しい一戸建て(中古住宅)に住むのは、
千里、京平(千里と貴司の息子)、桃香、早月(桃香の娘)、由美(法的には千里の娘だか゜遺伝子上の母は桃香)、彪志(青葉の婚約者)、貴司(千里の夫)、緩菜(千里の娘)、という8人(+1)になる。世帯は実質4つ、法的には6つ(+1)ある。
実質世帯
千里・京平
桃香・早月・由美
貴司・緩菜
彪志(+青葉)
法的世帯
村山千里
川島由美
高園桃香・早月
細川貴司・緩菜
篠田京平
鈴江彪志
(川上青葉)
子供4人の苗字が全部違う!
この内、大人4人の本命卦は、このようになっている
千里 1991.03.03 乾 西四命
桃香 1990.04.17 艮 西四命
貴司 1989.06.25 坤 西四命
彪志 1993.11.15 兌 西四命
つまり偶然にも4人とも方位の吉凶が同じなのである。青葉は震で彼女は東四命になるが、東京に出て来た時に滞在するだけだから、大きな問題は無い。ちなみに子供たちは、京平が震、早月が艮、由美と緩菜が乾で、京平は青葉と同じ東四命、早月と由美は親たちと同じ西四命である。
(由美は2019.1.4生だが小寒前なので2018年扱いで緩菜と同じ本命卦になる、もっとも鮑黎明説に従い区切りを前倒ししても兌になりやはり西四命である。緩菜はもし男であれば離になり東四命だが、緩菜は女の子と考えるべきで乾の西四命で良い)
千里はこの家を11月下旬に買い、1ヶ月かけて大改造し、12月26日に入居した。特に大きな改造は1階サービスルームの床を5m掘り下げ、ここをバスケット練習場にしてしまったものである。本来の天井の高さと掘り下げ分で合計7mほどの天井の部屋にした。1階からこの部屋へのアクセスは滑り台にして、子供たちの遊び場所とした。この床を5m掘ったサービスルームは、庭の地下に広がる広い地下フロア(名目上は通路)とつながっている。
LDKの地下には同じ面積のラウンジがあり、ここにグランドピアノとエレクトーンが置かれている。演奏用の楽器が収められた棚も作られている(作曲用の楽器は203に置いている)
元々、この家は1階に和室とサービスルーム1つ、2階に寝室3つとサービスルーム1つがあったので、桃香はこのように計画した。
201(6J) 京平・貴司
202(8J) 女の子3人
203(6J) 千里と桃香の愛の部屋
2SR(4J) 千里の作業部屋
101(和) 千里と貴司の愛の部屋
しかし結局はこのように使われることになる。
201(6J) 貴司(+千里2)
202(8J) 女の子3人
203(6J) 桃香(+千里1)兼作曲用
2SR(4J) 京平
101(和) 彪志
京平には2階のサービスルームを割り当てる(この部屋が吉方位になるのは実は京平のみ)。ここは最初は浴室だったのを納戸に改造したものだが、千里はこの部屋に窓を開けて京平が過ごしやすくした。この窓は浴室だった時代には存在していたが、納戸にする時塞いでいたものである。それを復元した形になった。窓枠は元々のものを再利用している。
京平は実際には、夜は1階の和室で彪志と寝ることが多い。この1年ずっと彪志と共同生活していて、すっかり仲良くなったからである。それに男の子は独立心が強いので、父親と一緒に寝るのをあまり好まない。
ただし、青葉が来ている日は父親である貴司と寝る。
千里は、性的な傾向の怪しい貴司より、確実に男性である彪志の方が京平の教育にいい、などと言っていた。実際最近京平君はスカートをあまり穿かなくなってきたらしい。
性別が怪しい?というのは、千里が彼から男性器を取り上げていたからでは?と思ったが、彼女の“家庭内”の話だし、まあいいことにした。そもそも貴司さんが浮気性なのが問題という気もする。
桃香の洋服などは203に置いているが、実際には202で女の子3人と一緒に寝ることが多い。
尾久のマンションのサービスルームに置いていた楽器は、セシルが入居する前にいったん葛西に移動していたのだが、それをここに移動してきた。葛西に元々あった楽器も全部こちらに移動し、葛西のマンションは解約した。千里2はここの地下の和室を新たな住まいにすることにしたらしい。地下には2室あるが、千里2と千里3の居室兼作業部屋らしい。B02が千里2、B03が千里3用である。(千里1は2階の203で作業する)。
実は、貴司や桃香はこの地下の部屋の存在を知らない! それはこのエリアが通常の方法では入れないからである。実際この部分に至る1階からの階段などは無いし、バスケット練習室からこのエリアに入るためのドアは一見壁のように見えるので、教えられない限り気付かない。そもそも生体認証ならぬ霊的認証で、千里2・千里3以外の人には開けられない(生体認証だと千里1でも開いてしまう)。
北側の空掘りは、地上はグレーチングで、その下には地下の雨避けを兼ねた“偽底”がついており、その下に非常階段が存在することに普通気付かない。またここは下からは容易に表に出られるが、地上から地下に行くには、グレーチングを留めている太いワイヤーを切断する必要がある(むろん警報が鳴る)。万一空堀りを下まで降りたとしても、家の中に入ることができない。霊的認証でしかドアは開かないし、仕切りの壁は RPG-7の攻撃にも耐えると言っていた(そんなものを使う泥棒さんがいるとは思えない)。
この地下のラウンジ(防音なので1階のLDKでは地下の音が聞こえない)に招待してもらったのは、取り敢えず私とコスモスだけらしい。その内、カノンとリノンに龍虎も連れてくると言っていたが、他の人にはあまり教えたくないようだ。カノンたちは別にして、基本的には千里や龍虎の分裂を知っている人しか入れない、と千里は言っていた。つまり千里2・千里3の安住の場所なのだろう。
隣接するガレージは3段の昇降式×2ユニットで、ここに6台の車を駐めることができる。恐らく千里のアテンザとオーリス、家族移動用のセレナ、貴司さんのプラド、彪志君のフリードスパイク、の5台を駐めて1台は来客用かと思っていたら2度目に行った時に、千里がぶつぶつ言いながら、簡易建築でもうひとつ地上型のガレージを建てさせている所だった。
「何か車を買うの?」
「雨宮先生がアクアのアクアを放置していった。飽きたみたい」
「ああ」
と私は納得する。
「いっそ垂直循環式の立体駐車場でも建てたら?」
「これ以上増えたら考えるかも」
雨宮先生は、しばしば車やバイクを衝動買いしては、飽きると千里の所に放置していく癖がある。それで彼女の常総駐車場!?にはたくさん車が並んでいる。そのほとんどが雨宮先生名義のものらしい(税金が大変だという気がする)。
ちなみにここは庭が広いのて゜増設したガレージの外にも車を2−3台は駐めることができそうだ。
千里は駐車場のエレベータで私とコスモスを地下に連れて行った。
「あれ?オーリスを駐めるのかと思ったら、ヴィッツが駐まってる」
「オーリスは近くの月極駐車場に駐めてる」
「既に垂直循環駐車場が必要になっている気がする」
千里は庭側からバスケ練習室に入って、その“隠し扉”を開き、私たちをラウンジに案内した。
「広ーい」
「でもS6Xは置けなかったんだよ。この程度の広さでは」
「あれは小ホールが必要だろうね」
Yamaha S6X は、スタインウェイなら Music Room Grand Piano と呼んでいるサイズでかなり大きい。政子の実家には1世代前の同等品 S6B があるが、壁や天井を防音加工しているにも関わらず結構反響がきつい。千里が買ったのはその下の S3X で、スタインウェイなら Parlor Grand Piano と呼んでいるサイズだ。龍虎(アクア)のマンションにも同型のビアノが置いてある(10階の部屋1005のLDKに“防音室”ごと置いていたが、そこで彩佳たちが暮らし始めたので千里のお友達”に頼み18階の部屋1803のLDKに移動した)。
それで千里はこのラウンジ(20畳)で、S3Xを使い『愛のドテ焼き』を弾き語りした。
「ここはショパンとかベートーヴェンを弾く所では?」
と私は言うが
「私、ドテ焼き好きだし」
と千里は言っている。コスモスまで
「私もドテ焼き好きー」
と言っていた。
「ラピスラズリの『愛のドテ焼き』凄く売れてるみたいね」
「まあラピスラズリだしね」
「関西や中京圏でドテ焼きがよく売れているそうですよ」
「経済効果大きいね」
「でもやっと私の国内の家が収束した」
などと千里は言っていた。
確かに彼女は一時期随分多数の住居があり、それが彼女へのメールが届かない!原因のひとつにもなっていた。どこの住居に置いているどのパソコンに登録されているどのアカウントなのか、本人が分からなくなっていたのである。
いちばん多い時期では、経堂、用賀、津田山、葛西、名駅、熱田区、更にスペイン、フランス、アメリカにもアパートを借りていたようだが、そちらはどうなったのだろう?
更に貴司君との結婚後の住居として姫路にも家を建てていたようだが、貴司君が埼玉に引っ越してきたから、あの家はどうするのだろうか?私はその件に付いてはダイレクトに訊いてみた。
「ああ。あの姫路の家は売ったんだよ」
「そうだったんだ!」
「バスケット選手が買ってくれた」
「バスケット練習場付きだもんね!知り合い?」
「まあ知り合いということでもいいかな」
と千里は言っていた。
1 2 3 4 5 6
【夏の日の想い出・ホームワーク】(5)