【夏の日の想い出・ホームワーク】(3)

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ローズ+リリーの『ホームワーク』の制作は続いていた。
 
『女の子の作り方』では4種類の“女の子の作り方”が歌われている。
 
1番はマザーグースの歌に沿っている。
 
お砂糖、スパイス、素敵なものいっぱい。
混ぜ合わせると、可愛い女の子になるの。
お花、夢、お召しものたくさん。
混ぜ合わせると、日本髪の女の子になるの。
おにぎり、お肉、ボールやラケット。
混ぜ合わせると、元気な女の子になるの。
 
この部分のPVでは、砂糖・スパイス・何か素敵な感じのものいっぱいをアニメで表示して、生まれてくるのは、お姫様ドレスを着た恋珠ルビー(新里好永)、お花・夢・沢山の布地をアニメで見せて、生まれてくるのは振袖を着て日本髪を結った七尾ロマン(雪渡知香)である。2人は2020年ビデオガールコンテストの優勝者である。そして3番でおにぎり・お肉、様々なボールやラケットをアニメで見せてからも生まれてくるのはオディールの黒鳥の衣装をつけた2020ビデオガールコンテスト4位・三陸セレン(菱田ユカリ)である。
 
つまり女装!であるが、彼女、じゃなかった(多分)彼は嬉しそうに黒鳥の衣装を付けると(白鳥の湖の)黒鳥のグランフェッテを踊ってくれた。彼は幼稚園の頃からバレエを習っており、今年の春からトウシューズ使用許可が出てオーダーメイドで作って練習していたというのでやってもらった。ただ実を言うと32回転はまだマスターしておらず10回くらいで形が崩れてしまう。しかしPVに使うのには大きな問題は無いので踊ってもらった。
 
「ユカリちゃん、ここまで踊れるなら、バレエのレッスン続けなよ。きっとちゃんと32回まわれるようになるよ」
とコスモスも言い、彼は東京でバレエ教室に通うことになった。
 
「女の子としてレッスン受けるといいと思うな」
と川崎ゆりこが言う。
「あ、それでもいいですかねー」
「君なら苦情は出ないと思うよ」
 
実際保護者代わりで川崎ゆりこが連れて行ったのだが、教室側では本人を見て少し踊ってもらったのも見て、女子として参加するのは全然問題無いと言ってくれた。トイレも女子トイレを使用してよいが、着替えは個室を用意するという話だった(性別問題よりタレントであることで騒がれると面倒という話)。
 

この歌の2番の歌詞では、西宮ネオンの部屋に宅配便が届く所から始まる。段ボール箱を開けると“可愛い女の子1/1”と書かれた箱が入っている。彼がその箱を開けて中の部品を取り出す。
 
そして接着剤やボルトなどで組み立てていく。
 
できあがったのは、アクアそっくりの女の子の人形である!
 
ネオンはこのフィギュアのために女の子の服をデパートで買ってきて、下着を議せ、ブラウスを着せ、スカートを穿かせて完成となる。
 
(女の子の下着とか買うの恥ずかしかったぁ、と西宮ネオンの弁)
 
このPV公開後“アクアのフィギュア欲しい”という声が随分出た。
 
そして本当に発売されるに至る!これは海賊版が作られるのを防ぐために敢えて発売したものだが、50万円(完成品・キット共)もするのに予約が1000件以上入りびっくりした(“原価”が30万円ほどかかるのでこれ以上安く出来ない)。川崎ゆりこの意見で“オプション”として設定された、“おっぱい付き”は53万円にしたのだが、ほとんどの購入者がこちらを希望した。
 
すぐには生産できないので準備ができたら連絡して購入意志を再確認して販売するという手順で、最終的には2021年末までに2000体ほど売れている。値段が高いだけあって品質については高評価されていた。9割が完成品の状態での購入である。生産は需要がある限り継続する。ちなみにフィギュアの性別は♀である!取り敢えずちんちんは付いてない。茂みの中に割れ目ちゃんが見えるが、実際に開くことはできない。またラブドールではないので“ホール”も作られていない−購入者が勝手に改造(性転換手術?)するのまでは関知しない。
 

この歌の3番の歌詞では、精子と卵子が合体して女の子が生まれる。PVでは全過程をアニメーションで制作しているが、精子に赤い精子と青い精子があり、赤い精子が卵子と結合すると、女の子が生まれるという過程になっている。卵子は全て赤い。生まれた赤ちゃんの顔がアクアに似ているのは「気のせいです!」と私はネットの書き込みに答えておいた。
 
そして4番では、川崎ゆりこ提唱の“方程式”男の子+おっばい=女の子、というのを歌っている。この歌詞は私が却下したのに、マリは八雲さんに言って承認を取ってしまった。それで八雲さんがいいと言うならと考え、これを最後に歌っている。
 
PVで“生け贄”になってくれたのは信濃町ミューズの木下宏紀君である。彼は最初男子水着姿(胸を曝している)で登場し、本当にPV内で胸におっぱいを貼りつけて、女の子のようにおっぱいがある状態になってみせてくれた。但し“おっぱいのある”木下君は、自主規制により胸部分にモザイクが掛かっている(代わりにこの部分だけアニメにする)。PVでは、その後、このおっぱいを貼り付けた状態で女子水着(ワンピース水着)姿になってくれた。
 
「恥ずかしいです」
と本人は言っていたものの
「可愛い!」
という声が圧倒的てあった。
 
(PV公開後も、木下ファンの女子たちが「可愛い!!」と言って熱狂していた)
 
「ひろちゃん、水着写真集撮らない?与論島かどこかに行ってさ」
と川崎ゆりこが言う。
 
「まさか女の子水着でですか?」
「そうそう」
「そんなの出したら、ボクお婿さんに行けなくなります」
「君はお嫁さんに行けばよいと思うが」
「無理です。ボク男の子ですー」
 
「お股に膨らみが無い問題については?」
「ボクの小さいから」
「アクアみたいなこと言ってる」
 
多くの人は実際は男性器は、少なくとも睾丸は、除去済みなのではと思っていたようである。ただ、彼の胸が膨らんでいないし、乳首も普通の男の子の乳首だったのは、みんな、意外だったようだ。
 
「女性ホルモンの入手先を教えてあげよう」
などと川崎ゆりこは言っていた。
 

“体育”『ノーサイド』はPVでは、議論をする人たち、喧嘩する2人の男性、囲碁の対局をする和服姿の2人の女性、そしてラグビーをする人たちが映る。各々激しいやりとりがなされるが、対局した2人の女性は終局後“エア握手”をした上で、楽しそうに局後の検討(通称:感想戦−本来は将棋用語)をする。
 
喧嘩していた男性2人は仲直りしたようで肩を抱き合い、一緒にお茶を飲んでいる。議論をしていた人たちも結論が出た後は仲良く笑顔の談笑に移行している。そしてラグビーの試合が終わった後、選手たちはお互いを称賛している。
 
この歌は、戦う時は全力で戦うが、終わった後は、仲良くしようよというメッセージなのである。マリは特にこの曲のパンフレットに言葉を寄せてこう言っている。
 
今コロナ対策でみんな色々な意見を言って、かなり深刻な対立もある。感染した人を巡って、いじめのようなものまで起きている。でもこれはウィルスが招いた異常事態にすぎない。コロナが落ち着いたらみんな仲良くしようよ。
 
出演者だが、囲碁の対局をしたのは、坂出モナと羽鳥セシルである!実は2人は夏休みの囲碁大会でも出会っていたらしい。但し、モナが副将・セシルは三将だったので直接対局はしていなかったという。
 
議論をしていた人たちは『とりかへばや物語』のエキストラの人たちから20人ピックアップして追記料金を払って演じてもらった。
 
ラグビーは△△△大学の男子ラグビー部の人たちにお願いした。ノーサイドは元々ラグビーで生まれた言葉である。但し現在は使用しておらず、審判は試合終了の時「フルタイム(時間終了)」とコールする。
 
喧嘩する男性2人は、篠原倉光(信濃町ミューズ)と弘原如月(信濃町ガールズ)である。どちらも高校1年生だ。未成年なので当初ビールを飲んで仲良くする設定だったのをカフェラテに変更した。信濃町ミューズ・ガールズ研修生・練習生合わせて、男子メンバーが全体で2割ほどいるのだが、間違いなく男の子と言えそうな子は少ない。篠原君は間違いないと思ったので、彼にパートナーを選んでもらったら弘原君を推薦したので2人でやってもらった。
 
「だって、実際は既にちんちん無さそうな子が多過ぎて。上田姉妹とか間違い無く既に女の子ですよ。新人2人も怪しいけど」
と彼は言っていた。
 
「くらちゃん、ひろちゃん(木下宏紀)はどう思う?」
とゆりこが尋ねる。
 
「お母さんが女性ホルモンを定期的に渡しているみたいですね。でも飲んでないと本人は言ってましたよ。でも乳首大きいのが服の上から目立つこともあるからたぶん少し飲んでるんじゃないかなあ。手近にあったら飲んでみたくなりますよね」
 
「こないだPV撮影で男の子みたいな胸を見せてたけど」
「そうですか?何かの偽装かなあ?」
 
と彼も木下君については不確かなようだった。しかし喧嘩する役のパートナーに木下君を選ばなかったことが、彼は実際には木下君を女の子とみなしているのかもと私は感じた。彼は木下君とは仲が良さそうなので、親友のことをあまり言いたくないのだろう。
 
もっとも木下君は男子寮に入居する時スカートを穿いてきて、寮母の門脇純江さんから「あんた女子寮でなくてよかったの?」と言われた1人である。
 

“地理”『土の歌』は世界各地の様々な“土”を歌っている。
 
1〜3番から成り、1番は“間帯土壌”(気候帯と無関係に現れる土)、2〜3番は“成帯土壌”(気候帯と分布が一致する土)および最後に日本固有の土を歌っている。2番は農耕が不可能または困難な土である。パンフレットには、各々の簡単な解説をT農業大学の三谷教授(土壌学)にお願いして書いてもらった。下記はそのダイジェストである。
 
テラロッサ:地中海沿岸。石灰岩が風化したバラ色の土。果樹栽培。
テラローシャ:ブラジル高原地帯。玄武岩が風化した赤紫色の土。コーヒー栽培。
レグール:インド・デカン高原。玄武岩が風化した黒い土。肥沃。綿花の栽培。
レス:華北地方・ヨーロッパ東部などにある黄土。黄砂の源。高粱(もろこし)の栽培。
 
ツンドラ土:ツンドラ地帯。地衣類や蘚苔類が地表に生える。農業不能。
ラテライト:サバナや熱帯雨林に広がる紅土。痩せた土。耕作困難。煉瓦にする。
ポドゾル:シベリヤのタイガ・北海道にある痩せた灰白色の土。耕作には向かない
カスタノーゼム:モンゴル・中国東北部などの栗色土。ヨモギなどが生える。
 
ブルニソル:温帯の森林などに見られる褐色の土。比較的肥沃。
プレーリー土:北アメリカのプレーリー。肥沃な土。
チェルノーゼム:ウクライナからシベリア南部にある肥沃な黒土。小麦などの栽培。
アンドソル:日本固有の肥えた黒土。“黒ボク土”。
 

三谷教授が出演して10年ほど前にNHKで放送した世界の土を特集する番組が存在したということで、教授自身がそのビデオを持っていた。念のためNHKに問合せたが、NHKでは該当番組のビデオは見当たらないということだった。番組を覚えている人自体が見つからなかった。しかしこのビデオの著作権はNHKにあるはずなので、そのNHKの許可を得てビデオをPVに利用させてもらうことにした。
 
各々の土壌が広がる地域の映像、農作などが可能な地域ではそこの農業などの様子を映した映像(スーハーコンピュータ"Muse-3"でAI処理により解像度を上げた:三谷教授が出来ばえに驚いていた)に重ねて、信濃町ミューズの子たちが現地の民族衣装などを着け、農作業をしたり、手芸品などを作っている様子を撮影して合成している。
 
テラロッサでは、ギリシャの民族衣装を着た三陸セレン(男子)と豊科リエナ(女子)が出演している。ただし三陸セレンが着ているのはフスタネーラ (fustanella) と呼ばれる男性用スカートである。豊科リエナもそれとお揃いの普通の(女性用)スカート、フスタを着用している。
 
この部分はセレンを知っているファンは「ユカリちゃんが女装してる」と騒いでいたようであるが、一般の視聴者は女子2人で果物を摘み取る演技をしていると思ったようである。
 
テラローシャでは、悠木恵美と桜井真理子という高校を卒業している女子メンバー2人でサンバの衣装を着けてもらい、サンバっぽく踊っている所を収録している。サンバを習ったことがあるというエレメントガードのユイに指導を受けている。
 
レグールでは、サリーを着けた今川容子と水谷康恵(こちらは正真正銘女子2人)お菓子作りをしている場面を撮影した。
 
レス(黄土)では漢服(日本の振袖に似ている)を着けた坂田由里と左蔵真未がお散歩している場面になっている。
 
ツンドラ、ラテライト、ポドゾル、カスタノーゼムでは人は映っていない。景色だけを映している。
 
ブルニソルでは、ドイツの民族衣装を付けた緒方飛蝶・美鶴姉妹が森の中で木の実を摘んでいるシーンである。
 
プレーリー土は、ジーンズのオーバーオールを着けた佐藤ゆかと南田容子がトラクターを動かしているシーンを映す。この撮影のために佐藤ゆかはトラクターの講習を受けてきた。
 
チェルノーゼムはルパシカを着けた高島瑞絵と山口暢香が卵に絵を描いて、民芸品のプィーサンカ(飾り卵)を作っている所を撮影している。2人はこのためにウクライナ出身で日本在住の女性から描き方を習ってきたのだが、これにかなりハマったようてある。後日、手作りのプィーサンカをインスタグラムでたくさん公開していた。
 
アンドソル(黒ボク土)は小紋の和服を着た横山朋菜と杉浦舞美が組紐で帯締めを作っている所が映っている。彼女たちも1日講習を受けてもらい、組台を使った伝統的な技法で組紐を作ってもらった(最近は機械で組んだものが多い)。
 

そういう訳で、この曲のPVは、今回のアルバムの中で最も制作費が掛かっている(衣装代・講習代・様々な監修代・NHKに払った権利料・Muse-3の使用料など)。たぶんこの1曲だけで、アイドル歌手のアルバムが2枚作れる程度掛かった。
 
演奏はスターキッズの標準構成(Gt.近藤 B.鷹野 Dr.酒向 Mar.月岡 Sax.七星 Pf.詩津紅)に加えて、シュリンクス(通称パンフルート:ギリシャ)、アピート通称サンバホイッスル:ブラジル)、シタール(インド)、二胡(中国)、ホムス(サハ)、ガンガン(通称トーキングドラム:ナイジェリア)、トンコリ(北海道のアイヌの楽器)、モリンホール(馬頭琴:モンゴル)、フラメンコギター(スペイン)、バンジョー(アメリカ)、バンドゥーラ(ウクライナ)、篠笛(日本)といった地域ローカルな楽器の音を入れた。
 
アフリカの楽器に実は私は“アフリカン・カズー”を考えていたのだが、花ちゃんから、カズーはアフリカ系アメリカ人がアメリカで考案した楽器だと指摘され、トーキングドラムに変更した。
 
そして、これらの楽器を1人で!演奏してくれたのは、私の古い友人、カチューシャの島野干鶴子(旧姓野乃)である。
 
彼女は極めて器用な人で、恐らく100種類以上の楽器を弾きこなす。日本国内のホムスやバンドゥーラの演奏者は恐らく10人程度もいないかも知れない。だいたいバンドゥーラなんて見たことない日本人が多いだろう。干鶴子は自分でも何種類演奏できるか、数えてみたことがないなどと言っていた。彼女の家では(ピアノ部屋以外に)楽器だけで1部屋完全に占領している。
 
というより彼女の所有楽器を見て絶句した結婚相手が、実家に離れを建ててくれて、1階を防音加工してピアノ部屋とし、2階にラックを並べ、大量の楽器を収納した。ギター類(マンドリンやバンジョーを含む)はピアノ部屋に置いている。離れを建てるというので、そこで新婚水入らずで暮らすつもりだろうと思った彼の両親は、運び込まれてきた楽器群を見て
 
「あんたら、とこに寝るの?」
と訊いた。
 
「ここは楽器だけ。僕たちは母屋で寝るから」
という息子の言葉に呆れ返ったらしい。
 
実を言うと、今回の楽器の中でトーキングドラムだけは演奏したことが無かったのだが、打楽器大好きな花ちゃんに習って覚えてくれた(楽器はアフリカの民族楽器を扱っているショップで買った)。花ちゃんはついでにお父さんが制作した木鼓も1個プレゼントした。「またレパートリーが増える!」と悲鳴?をあげていたらしい(花ちゃんのお父さんは木鼓作りが趣味?で毎年数個の木鼓を制作しては、誰かあげられる人を探している−あまり溜まりすぎて奥さんから苦情が出ていた所で、先日音楽大学の先生が10個も買っていってくれたらしい)。
 
しかしライブの時は干鶴子が出てくれなかった場合、この曲は演奏不能だと思う。
 

その日、アクアMは唐突に思いついてアクアFに言った。
 
「ねえねえ、ボクたち朝8時に分離して夕方5時に合体するから、その後、ペンダントで分離するじゃん」
「うん」
「その合体前にペンダントを使ったらどうなるのかな?」
 
「あ、それは考えてなかった。もしかしてNちゃんを分離できないかな」
 
実はこれまで時々出現していたNが11/3以降は1度も出現していない。
 
それでその日、アクアFは16時すぎにMと交替して控室(アクア専用)に入った所で
「分離できますように」
と祈ったのだが、その時は何も起きなかった。
 
「Nちゃん、出て来てくれないのかなあ」
とがっかりしたのだが、その日は17時になっても合体せず2人のままだった。
 
「早めに使うと分離が維持されるのかも」
「だったらきっとペンダントを使った12時間後に合体するんだよ」
 
実際アクアは和城理紗にアクアの滞在している部屋(ホテル昭和のコテージ“桜”の一室)に居てもらい、気をつけてもらっていたら、本当に朝4時すぎに合体してしまったらしい。
 
それで2人の推測が当たっていることが分かる。
 
「これだと17時にいったん現場を抜けなくても撮影を続けられるね」
「うん。だいぶ運用が楽になると思う」
 

アクアFはその日は妊娠した右大将(男姿なのでアクアM)が権中納言(白鳥リズム)に導かれて、宮中から宇治の館に行く所を、郷愁村から郷愁飛行場に向かう細い“作業道路”(山道!舗装されていない)を使って屋外ロケした。
 
シナリオではこの車の中で男姿から女姿に服装をチェンジすることになっている。それで予め控室で小袿姿になり待機しているFと位置交換する。多くの出演者は小袿姿の上に束帯を二重に着ていて、牛車の中で脱いだのだろうと思っている。
 
牛車から女姿で降りるシーンを撮影した後で、自動車に乗り換えて(郷愁村と飛行場を結ぶ舗装道路を通り)、平安村に移動する。この時、アクアFは美高監督と同じ車に乗った。そろそろ16時だから、ペンダントを使わなければと思ってバッグから取り出す。するとそれを美高監督が見て
 
「きれいなペンダントね」
と言った。
 
「はい。これ友人のお母さんからもらったお守りなんです」
とアクアFは焦って言う。
 
しかしFは首をひねった。
 
「どうしたの?」
「なんかいつもと色が違う気がして」
 
すると美高監督は言った。
「もしかして、もっと紫色に見えてたとか?」
「そうなんです!今は凄く青い」
「これはたぶんカラーチェンジ・スピネルだよ」
「カラーチェンジ?」
「そのペンダント、再度そのバッグの中に入れてごらんよ」
「はい」
「それで懐中電灯か何かで照らしてみて」
「はい」
夜道を歩いたりする時のために、いつもバッグに入れている懐中電灯を取り出しバッグの中のペンダントに当ててみる。
 
「あ、いつもの色です」
 
「スピネルの中には、太陽の光の下では青くて、人工の光の下では青紫に色が変わるものがあるんだよね」
「へー!」
 
「こういうカラーチェンジ効果はアレキサンドライトが有名だけど、スピネルでも起こすものがあるんだよ。かなりレアだけどね、これは恐らくコバルト・スピネルだと思う」
 
「じゃこれかなりレアなんですか?」
「うん。カラーチェンジ効果があって、このサイズなら50-60万円したと思う」
 
「きゃー!そんな高価なものとは知らなかった」
「まあそのお友だちのお母さんにはよくよく御礼を言った方がいいね」
「はい」
 
アクアは今度自宅に帰ったら稲荷寿司をどっさりお供えしよう、と思った。
 
この日は監督とそんな話をしていたので、うっかり分離をお祈りするのを忘れていて、17時でいったん統合してしまったので、慌ててお祈りして再分離した(偶然にもFが残ったので助かった)。
 
しかし一瞬アクアが消えたので
「あれ?アクア君どこ行った?」
 
と現場では騒ぎになりかけた!
 

あけぼのテレビで有料番組を流す時に、無料視聴者は強制的に無料の別番組に切り替わるようになっている。この無料の別番組は、主として信濃町ガールズ(練習生メンバーを含む)の子たちのパフォーマンスが録画方式で流されていて、再放送・・・というより、サイクル放送が多い。つまり同じ番組がだいたい10回以上は流れる。
 
ある時期からネットで、この無料放送番組の“放送予想”が行われているのに気付いた私たちは、きちんと放送予定表を作り公表するようにした。すると、結構な視聴率の出るパフォーマンスも出て、特定のガールズのファンができるようになってきた。ファンの間では、この“有料放送中の無料放送”のことを“あけぼのテレビBチャンネル”と呼ぶようになっていた。
 
有料放送のチケットを持っているのに、わざわざ別アカウントを取って別のパソコンであけぼのテレビに接続し、飛ばされるようにしてBチャンネルを録画しておく、などという人も出てくる。
 
いっそのこと常時Bチャンネルを放送してもらえないかという要望も多く寄せられたので、私たちは8月から、このBチャンネルを常時放送に切り替えた。本放送(Aチャンネル)は、平日17:00-26;00, 休日8:00-16:00, 17:00-26:00の放送であるが、録画番組を自動で流しているだけのBチャンネルは24時間放送しておいてよいので、ノンストップ放送にした。Bチャンネルを放送しているサーバーは本放送のデーダセンター(群馬県桐生市・兵庫県姫路市)とは全く別の場所(非公開だが北海道石狩市)にあり、Aチャンネル(トリプルスター)とは全然別のネット業者(大手レンタルサーバー会社)の回線につながっている。これはあけぼのテレビの“常時接続可能回線数”外のものである。実際接続回線数を気にしなければならないほどのアクセスは無い。
 

そしてこのBチャンネルを“使いたい”と言ってきた人があったのである。
 
TKRの松前社長である。
 
「うちのアーティストのライブをそこで放送できない?」
と打診してきた。
 
TKRの主としてセミプロアーティスト(ヴェール・ダルジャン契約の人)たちのパフォーマンスを流したいということだった。大手のレコード会社は既に平日の21:00-22:00の枠でAチャンネルで新譜を中心とした曲紹介の番組を持っているのだが、TKRは、敢えてBチャンネルでやりたいということだった。
 
仙台のクレールで土日にライブをしていたような層である。ただクレールでのライブは東北の人でないと困難だったので、それを全国に広げたいということらしい。TKRが、全国10ヶ所(旭川・長岡・津幡・静岡・尼崎・呉・鳴門・鳥栖・都城・恩納)に設置する専用スタジオ、および東京のあけぼのテレビ、仙台のTKRスタジオからライブ中継すると同時に録画を9回再放送する。つまり10回放送するのを1パッケージとする。
 
TKRがあけぼのテレビに払う放送料は1バッケージ10万円という安い料金だが、元々無料で放送しているものだし、見込まれるアクセス数はせいぜい数百件(元々普段は数人からせいぜい20-30人を相手に演奏している人たちである)。こちらも儲ける気は無いので、当面それで行ってみることにした。
 

中継・録画の拠点にする所は、できるだけ大都市を避けている。そして何らかの使える施設のある所である。津幡は津幡のアクアゾーン内に設置するスタジオ、旭川は2年ほど前にアクアの『青い城の姫』のPVを撮影した時に、撮影用のお城を建てた土地(千里の知人の私有地)に、新たにスタジオを建設した。ここに建てていた城(建築費5000万円)自体は廃棄するには惜しかったので神奈川県内の紅川会長の私有地に移動(解体移築・・・だと思う)したのだが、土地はその後空いていた。
 
他の場所もだいたい関係者の私有地である。
 
恩納(おんな)は木ノ下大吉先生の御自宅のすぐ傍にある“北那覇リゾート”内に設置するスタジオを使用する。“北那覇”などと称しているが、那覇市の北端からでも30kmも離れている。詐欺もいい所である。このリゾート内には明智ヒバリ(照屋清子)がノロを務める明星御嶽(あけしょう・うたき)と伝統資料館もあり、ヒバリはこの資料館の館長も兼任している。ここを所有している不動産屋さんの社長(すっかりヒバリのファンになってしまった)の好意で、敷地内にスタジオを建てさせてもらえることになったのである。
 

セシルは白河夜船社長から
「君、お茶できる?」
と訊かれた。
 
セシルは勘違いした!
 
「すみません。社長さんは素敵な男性だとは思うのですが、私、男の人とお付き合いするのは、まだ心の準備ができてなくて・・・」
 
そばで聞いていた事務の穴吹早瀬が、吹き出した。
 
「あ、いやそういう意味じゃないよ」
と社長は照れてる!
 
「茶道の経験はあるかと尋ねただけだよ」
 
セシルは真っ赤になった!
 
「ごめんなさい!勘違いして」
 
「僕は商品には手を出さないポリシーだから」
と白河社長はまだ照れながら言っているが
 
「奥さんの件は?」
と穴吹さんから突っ込まれている。
「いや、その件は・・・」
と恥ずかしそうに口籠もっている。
 
セシルは答えた。
 
「茶道はやったことないです」
 
「だったら1度講習を受けてきてくれない?」
「はい、行ってきます」
 

それで穴吹さんに手配してもらい、カルチャーセンターの茶道教室を受けに行くことにした。
 
「折角お茶をするなら和服で行きなよ」
と言われ、衣装の和服を出してもらう。肌襦袢は新品を出してもらい身につけるが、セシルが教えられなくてもちゃんと着るので、
 
「和服は結構着てる?」
と尋ねられる。
 
「そんなによく着る訳ではないですけど、姉に教えられて、お正月とか和服を着ることあったし、夏にはお祭りとか見に行く時浴衣だし」
とセシル。
 
「じゃこの服もひとりで着られるかな?」
「自信は無いけど、やってみます」
と言ってセシルはお正月によく姉の服を借りて(女物の)和服を着ていた時のことを思い出しながら着てみた。
 
「うまいじゃん。おはしょりもちゃんと作って、帯まで自分で締められるというのは凄いよ」
「前で結んで180度回転ですけどね」
「いや自分で後ろ手で締められる人はいないと思う」
「そんなもんですかね。でも後に結び目作るのって面倒ですね」
 
「帯の結び目って昔は前に作っていたらしいね。太夫道中の太夫が前結びしているけど、あれが元々の流儀。ところが江戸時代後期の吉原で後ろに美しい結び目を作るのが流行って、その後、一般の人たちの間でも未婚の娘がそれを真似するようになった。でも既婚者は前結びだったらしい」
 
「未婚と既婚で違ってたんですか?」
「娘の帯はお母さんが結んであげられるから」
「なるほどー」
 

それでセシルは和服(付下げ)を着て、借り物の和装バッグに携帯・財布・懐紙などを入れ、予約していた茶道講座を受けに行った。参加者は和装と洋装が半々の感じだった。ほとんどが女性である。
 
50代くらいの和服の女性から
「高校生?」
と訊かれるので
「はい」
と答える。
 
「最近は若い人がなかなか和服を着ないから、女子高生が付下げとか着てるのを見ると嬉しくなるわあ」
などと女性は言っていた。
 
うん。ボクもう女子高生でいいよね。女子高に入っちゃったし、とセシルは思った。
 
基本を習ってから実際にやってみるが、うまいと褒められる。
「経験者?」
「いえ、初めてです」
「それにしては、ちゃんと作法になってたよ」
 
1時間半ほど講義と実技をしたのだが、最後の30分で何人か和服を着ている人を中心にピックアップして、会場の畳を敷いている所で、お茶会をしてみることになる。セシルはそれに参加することになった。
 
ただ、本来はひとつの茶碗を使い回し飲みするのだが、コロナのご時勢で、茶碗は全員個別のよく洗って消毒済みの物を個々に使用する。その部分だけが本来のやり方とは違うと言われた。
 
全員マスクをして正座している。客と客の間は1m程度空けている。亭主役を務める講師の先生がお茶を点て、ひとりずつ新しい茶碗(楽焼き。高そう!)に入れる。半東(はんとう:飯頭とも書く)役の人が運んで来る。半東役の人は生徒ではなく、講師の先生のお弟子さんで、講師・お弟子さん共に前日に簡易検査キットで陰性確認しているという話だった。
 
前の人がお茶を受け取り、飲んから口の付いた所を拭き、指を拭いてから茶碗を回転させ、半東役の人に返す。半東さんは茶碗を下げるとそれは洗いカゴに入れてしまう。そもそも半東さんはマスクをしてポリエチレンの手袋をしており、ひとりにお茶を出す度に手袋は交換している。万が一にもこういう講座でクラスターなど起きると大変だから、相当神経を使っているようだ。
 
セシルの前に茶碗が置かれるので、次の人に軽く会釈してから、マスクを外し、茶碗を右手で取り、左手に乗せてから回転させる。三回半で頂く。濃茶初体験である(各自のテーブルの上での実技は薄茶で行った)。濃茶はどろったした感じで今までに無い感触の飲み物だ。ただ見た目よりは甘いなとセシルは感じた。
 
飲み口を指で拭き、指は懐紙で拭いて、回転させて返す。セシルは左利きなので左利きの人は左右逆でも良いですよとさっき講師さんは言っていたが、ここは右利きの人と同じ動作にした。終わったらまたマスクを付ける。
 
全員飲み終わった所で終了としたが、本来は菓子や食事→濃茶→薄茶と進み、今日やったのは濃茶なので礼儀作法が厳しいが、薄茶はもっとカジュアルな茶碗を使い、リラックスしたものであることも説明された。
 
この日はこの模擬茶会で終了となった。
 

2020年12月1日(金).
 
私とコスモスは、コスモスの専任ドライバー美坂美知代さんが運転するBMW 225xe iPower (コスモス専用車)に乗り、熊谷市の郷愁村西端に先月20日にオープンしたばかりの“郷愁飛行場”に向かった。
 
郷愁村を所有・運営するムーランリゾートの山吹若葉は、ここを開発し始めた頃から空港を作りたいという思いがあったらしい。その後、あちこちコネを駆使し、かなり高いハードルを乗り越えて、ついに飛行場オープンに至ったのである。種別としては“非公共用飛行場”という扱いで、桶川市のホンダ飛行場などと同じ扱いである(実際ホンダ飛行場が前例となった)。
 
空港用の土地として3km×0.4kmという広大な土地を確保している。取得価格は10億円らしい(平米あたり830円!)。伐採した樹木は全部千里が経営する栃木県内の製材所が買い取ったらしい(売却代金が3億円でこれでかなり土地購入代金をカバーしている)。滑走路は2000mあって大型旅客機も離着陸が可能である(こんな所に飛んでくる旅客機は無いとは思うが)しかしここを整備したり管制塔の整備にその数倍の費用が掛かっている。
 
若葉は同時に福井県小浜市のミューズパークにも飛行場を開設しようと考え、取り敢えずヘリポートを設置して実績を積んでいたのだが、こちらも認可が取れてこれは12月6日(日)にオープン予定である。そちらは“ミューズ飛行場”の名前になるが、どちらも新しく設立したムーラン・エアーの運用である。
 
「たぶん赤字運用で配当出ないと思うけど、もし興味あったら出資する?」
 
などと言っていたので10億円だけ出資しておいた。結局、この航空事業会社の資本金は100億円で、私・千里・丸山アイの3者が合計36億円、コスモスと雨宮先生も1億ずつ出資し、残り62億円を若葉が出資した。つまり株主はこの6人である。私は副社長にすると言われたが、遠慮したので、千里が副社長になったようである。私・丸山アイ・コスモス・雨宮先生が取締役に名を連ねる。
 

11月20日は、若葉、ムーラン・エアー社長に就任する赤竹さん(コロナ不況に陥っていた、某航空会社の部長からの転身)、私・千里・丸山アイ、熊谷市長さん、埼玉県知事さんまで来訪してテープカットをしたが、ソーシャルディスタンスを取り、間隔1m空けてのテープカット、お互いにエア握手した。
 
パーティーなども無しでテープカットして管制塔を見学した後、お土産の写真集とお弁当・お茶に、熊谷市内のS洋菓子店のケーキを配って解散している。
 

それで12月1日に再び私が郷愁飛行場に向かったのは、春先に、§§ミュージックのタレント移動用に購入したいと言っていた新しいホンダジェット(税込6.4億円)が納入されるからであった。それを郷愁飛行場に持って来てもらうことになっていたのである。
 
これまで長期レンタルの形で利用させてもらっていたホンダジェットを運行しているN航空にこちらも運行委託することにした。つまりホンダジェットが2機利用できることになる。この2機はどちらもこの飛行場に置いておくことにする(停留料が掛からないので助かる!)。
 
「これが入ったら、私のG450は抜けてもいい?」
と千里は言ったが
「あれは事実上アクアの専用機ということで」
と私は言う。
 
江藤さんのG650はいつでも使える訳ではないので、結構千里のG450頼みになっている面もある。
 
「まあアクアならいいか」
「空いてる時は他の子を運ぶのにも使わせて」
「結局今までと同じか!」
 
しかしホンダジェットがもう1機使えることになったことで、タレントの移動スケジュールが随分楽になるのである。結局G450もここに停留することになった(今までどこに駐機していたのか不思議である)。
 
アクアのマネージャーとして凄まじく忙しいはずの山村さんがG450の専属パイロットもしている問題については、私はあまり深く考えないことにしている!
 
(何か同じ人間が複数いることを不思議に感じなくなってしまった)
 

12月1日に郷愁飛行場に来てホンダジェット(購入者は§§ミュージック)を受け取ったのは、私・コスモス、別行動で来ていた千里と若葉、N航空の朝山社長とパイロットの花平さん、の6人である。
 
ホンダの人から受け取り、ホンダの人とこの6人で乗って軽く30分ほど遊覧飛行?して来た。その後、“風通しの良い”屋外で(無論マスクをつけて)歓談していたら、突然「ダーン!」という大きな音がした。
 
「何だろう?」
と私が言うと、千里が
「ああ、狙撃されただけだから気にすることないよ」
などと言っている。
 
「狙撃!?」
「ほらこれ」
と言って千里は左手で、何やら弾丸?をお手玉している。
 
「若葉、この弾丸は何だと思う?」
「7.62mmロシアン(7.62×54mmR弾)だと思う」
「ロシア製かぁ。SV-98狙撃銃でも使ったかねぇ〜」
などと千里はのんびりと言っている。
 
「千里、その弾丸はどうしたの?」
「飛んできたから、受け止めた」
「受け止められるものなの〜?」
「だって発射してから着弾するまで1.5秒近くあったからさ。そんなに時間差があったら停めるよ」
 
「多羅尾伴内の世界だ」
とN航空の社長さん(たぶんジョークだと思っている)。
 
「返し矢というか、返し玉しなかっただけありがたいと思って欲しいね。狙撃者は死なずに済んだはず。もっとも2度と銃なんて撃てない身体になったと思う」
と千里。
 
「何か恐ろしい話を聞いている気がするんですけど」
 
「千里、こないだも狙撃されてたね」
と若葉は言っている。
 
「あれはドイツ製のDSR-1(デーエスエル・アインス)だったみたい。GSG-9(ゲーエスゲー・ノイン)とか各国の特殊部隊・専用銃だと思ってたんだけど」
 
「どこか管理の弱い所から流出したんだろうね。あるいはどこかの国のエージェント本人だったりして」
「国家命令だったりして」
と言って千里は笑っている。
 
「千里、なんでそんなに狙われる訳?」
 
「11月3日にさあ、私が早紀ちゃん(丸山アイ)の暴走を停めたらさあ、私が早紀ちゃんより強いんじゃないかと誤解した人たちが居たみたいで、それで私が日本一の霊能者なら私を殺して自分が一番になろうという人たちが居るみたいで、これで狙撃と式神と合わせてこの1ヶ月で10回目。式神放った人は呪い返しで(運が良ければ)瀕死の重傷になった筈だけど、あれは私にそんなもの使う側が悪い。でもそろそろ落ち着くんじゃないかと思うんだけどね。だいたい私、霊感なんて全く無いのに」
 
「千里、その最後の言葉だけはダウト」
と若葉まで言っている。
 
「まあ早紀ちゃんが出産したらパワー回復するだろうから、そしたら、やはり早紀ちゃんが日本一の霊能者に復帰したのではとみんな思って、私は狙われなくなるんじゃないかと思うんだけどね。早紀ちゃんに訊いてみたら、しばしば狙撃されていたのが、この1ヶ月はされてないと言ってた。まあ妊婦を狙撃したらいけないよね。それまでは私が身代わりになっててもいいよ」
 
早紀こと丸山アイ(と城崎綾香)の予定日は来年5月7日である。
 
「それ以前に1kmも向こうから狙撃できるようなスナイパーが日本から居なくなる気がするよ」
と若葉は言った。
 
「それだけ狙撃を阻止して狙撃した人が大怪我とかしていたら、スナイパーの人たちも醍醐先生を狙う仕事を請け負わなくなると思う」
 
などとコスモスは言っているが、N航空の人やホンダの人は何かのジョーク?あるいはドラマの練習??などと思っていたようである。
 

その日、§§ミュージックの男子寮(世田谷区用賀)の木下宏紀の部屋に姉の春恵が訪ねてきていた。この寮は基本的に部外者は立入禁止なのだが、四等親までの親族(つまりおじおばまで)の場合、予め発行済みの写真付き親族証を受付で提示すれば中に入ることができる。
 
「これ、進路関係の書類、お母ちゃんに書いてもらったの持って来た」
「ありがとう」
「でもあんた、本当に大学受けるつもり?」
「この大学ならボクの学力でも入れると思うんだよね」
「だけど、時間あるの〜?仕事忙しいんじゃないの?」
「今のところ、テレビとかに出るのは週に2〜3回だから、両立できると思うんだよねー。まあ忙しくなったら退学してもいいし」
「他にレッスンとかもあるんじゃないの?」
「歌、楽典、ダンス、ピアノ、ギター、フルートを習ってる」
「やはりスケジュール的に無理がある気がするなあ。それに大学生は学業優先にはしてもらえないでしょ?」
「うん。西宮ネオンさんとかも、授業時間無視してどんどん仕事入れられるから結局退学しちゃったし」
「そりゃそうだよ。学業優先は高校生までだよ」
 
姉があくびをする。
「眠かったら少し仮眠する?ボクの布団で良ければ使って」
「じゃ借りようかな。昨夜、徹夜でレポート書いてたから」
「学生さんは大変だねー」
「リモート授業だからレポートが多いのよ。あんたも大学入ったら、大変になるよ。来年4月の時点ではどう考えてもまだコロナは終息してない」
 

それで姉は宏紀の布団に潜り込むと眠ってしまう。宏紀は机で宿題をやっていたのだが、ふと自分がけっこう汗を掻いていることに気付く。そういえばダンスのレッスンの後、汗を流していなかった。レッスンの後にドラマ出演(チョイ役だが)があったので忘れていたのである。
 
「汗を流してこようかな」
と呟くと、バスルームに行き、お湯を溜めた。ここのお風呂はお湯の深さを設定してお湯を出せばその深さで自動的に停まってくれるタイプである。宏紀はお湯が溜まる間、部屋に戻り宿題をしていた。
 
やがて給湯が停まった音がするので、再度バスルームに行く。ここは1DKの部屋で、8畳の個室とDKがあり、DKに隣接して洗面台兼脱衣室があり、この洗面台の所から、左側にトイレのドア、右側に浴室のドアがある。
 
宏紀は着ていた服を洗濯したかったので、キッチンで服を脱ぐと、そこに置いてある洗濯機の中に放り込んだ。洗濯槽内に結構服が溜まっているので、スイッチを入れて回す。そして裸で浴室に入った。
 
最初にあの付近を軽く洗い、それから髪を洗って、顔を洗い、腕と胸を洗う。胸は軽くマッサージもする。乳首を中心に、胸の外縁付近を丸く刺激していく。その後、お腹付近も洗う。
 
再度デリケートな部分を今度は手に石鹸を付けて丁寧に洗う。左手で開いて押さえておき。その間に右手の指でよく洗う。その後、左手でシャワーを持ちお湯を当てながら、右手でソフトに洗ってきれいに洗い流す。洗い終え手を放すと敏感な部分はすぐ隠れてしまう。
 
その後、足を洗い足の指の間はゴシゴシと擦るように洗う。再度身体全体にシャワーを掛けてから、湯船に浸かった。
 
10分くらいゆっくりと湯船に浸かってからあがる。脱衣場に置いているバスタオルで身体を拭き、更にフェイスタオルで髪の水分を取る。
 
そして居室に戻ろうとして「あっ」と思う。
 

居室には姉が寝ている。
 
着替えを持って来ていない。
 
さっき着ていたのは洗濯機に入れて洗っちゃった。
 
夏以降一人暮らしになって、着替えを持って浴室に行くという習慣が無くなっていた。
 

「お姉ちゃん、まだ寝てるよね?」
などとつぶやき、そっと台所と居室の間のドアを開ける。姉はまだ寝ている。ホッとする。
 
それで衣装ケースの所に行き、服を取り出そうとしたのだが、途中でスマホの充電ケーブルに引っかかり、転んでしまった。
 
凄い音がする。
 
姉が起きてしまう。
 
こちらを見る。
 
「ごめーん。お風呂入るのに着替え持ってってなくて」
と宏紀は言ったのだが、姉は顔をしかめている。
 

「あんた、まだちんちん付いてたんだっけ?」
「付いてるけど」
 
もっとももそれはほとんど毛の中に隠れている。この子、きっと女湯パスすると春恵は思った。中学生女子くらいには見える。
 
「とっくの昔にそんなの取っているものと思ってた」
「ボクは男の子だよー」
「玉だけ取ったんだっけ?」
「玉もあるし取るつもりもないけど」
「じゃ女性ホルモン飲んでるだけ?」
「飲んでたら、おっぱい大きくなってるよー」
 
確かに胸は全然無い。でも全体的な体型は女の子のボディラインだ。なで肩だしウェストがくびれている。全体的に脂肪がついていて丸みをおびた体型である。腕も足も細い。そして肌が羨ましいくらいに白い。
 
本当に睾丸を除去してないのかは大いに疑問があるが、もし存在していても既に機能停止している気がする。女性ホルモン飲んでないなんて絶対嘘だ。だいたい乳首がかなり発達している。これはもう、男の子の乳首ではない。女性ホルモンが利いてなければあり得ない。
 
(ローズ+リリーのPVはこの時点でまだ公開されていない)
 
「ホルモン飲んでもあまり膨らまないのなら、高校卒業する前に、豊胸手術する?」
「何のために〜?」
「だって女の子になりたいんでしょ?」
「別になりたくないよー。ボク女の子と結婚したいし」
 
宏紀は、どうしてみんなボクが女の子になりたいと思っていると思うんだろうと疑問を感じながら、女の子のように可愛い声で答えた。
 

宏紀は衣装ケースから、ショーツ、ブラジャー、キャミソールなどを取りだして身につけ、可愛いTシャツを着てスカートを穿き、可愛いトレーナーを着る。それを見ながら姉はニヤニヤしていた。
 
「どうかした?」
「ううん。別に。そのスカート可愛いね」
「フェリシモで買ったぁ。でも下着はプリリが多いよ」
「ああ、あんたにはそのくらいがいいだろうね」
「ここの寮ってスカート派の男の子多いから、スカートで寮内歩いていても気兼ね無いんだよねー」
「ふーん」
 
スカート派はいいけど“男の子”なのかどうかについては疑問があるなと姉は思う。
 
「ところでヒロって、ヒゲ剃りは電動シェーバー?手で剃る?」
「ヒゲ?そんなの生えたことないから剃ったことも無い」
「なるほどねー。足のむだ毛とはは剃刀?」
「ボクあまりむだ毛は無いから、月に1回くらい剃刀で剃ってる」
「羨ましいな」
などと姉は言っている。
 
「ヒロ、ナプキンは何使ってるんだっけ?」
「センターインだけど」
「なるほどねー」
と言ってから姉はふと気付いたように言った、
 
「私、うっかり同じ色のマニキュア2つ買っちゃったんだけど、もし良かったらヒロ片方使う?」
「どんな色の?」
「これなんだけど」
「あ、可愛い色だね。こういう色好きー。じゃもらう」
「OKOK」
「ありがとね」
 

『とりかへばや物語』の撮影は11/22日以降、急速にスピードアップした。
 
これまでストーリーに沿って撮影していたのを、どうも撮影の順序をかなり入れ替えているようだなというのを出演者たちは感じていた。順序が入れ替えられているので演技をしていて混乱する出演者もいたが、ひとつひとつのシーンの撮影の前に監督が状況を説明してくれたので、何とかなっていく。
 
また恐らく一部の場面をカットしたのだろうと多くの人が考えていたのだが、実は当初の脚本からカットしたのは、矛盾点に気付いて削除した一部のシーンのみである。逆に一部追加されたシーンもあった。結果的には鱒渕さんが苦労して作ってくれた“省力シナリオ”は使用せずに済んだようである。
 
一応テレビ局には12月14日にはアクアを『少年探偵団』の撮影に参加させますと私は約束していたのだが、本当に間に合うか全く自信が無かった。しかし、22日以降のスピードアップの結果、12月5日には、一部の役者さんのみで撮るシーンを残して“暫定クランクアップ”するに至った。少なくともアクアの登場シーンは全て撮り終えることができた。
 
それで12月6日(日)からはアクアは『少年探偵団』の撮影に入ることができて、小池プロデューサーが大喜びしたのであった。結局、代役の中村昭恵(北里ナナ役)・木下宏紀(小林少年役)で撮影したのは11/29撮影分のみである。アクアは12/6の第2回全体撮影に参加した後、12/7には、11/29に中村・木下が演技した部分を単独で撮影し、編集で差し替えることになった。
 

「しかし2人でやってても結構辛かったねー」
「でも一安心かな」
と“暫定”クランクアップした夜、アクアFとアクアMはコーラで乾杯しながら自宅のリビングで語り合った。
 
「朝4時には1人になっちゃうけど、8時には自然分離するから、ほとんど2人いるのと変わらないよね」
 
「このままずっと行けるのかなあ」
「まあ1人になってしまった時はなった時だよ」
「本当に1人になった時、どちらが残ってもおかしくない気がする。まあFが残った時は過労死しないようにね」
「ほんとにどちらが残るか分からないよねー。でも残った方はマジで過労死するかも知れない。11月4日から21日まで本当に死にそうだったもん」
 
「こうちゃんさん、ボクたちが2人いることに気付いてないよね?」
「あの人、にぶいからね」
「女の子側が残ったと思ってるから、性転換させられる心配も無いし」
「これ当面秘密にしとこうよ」
「でないと仕事をどっさり入れられるの見えてるもんね」
 

『とりかへばや物語』の撮影は12/6以降は、アクア、今井葉月、姫路スピカ、リセエンヌ・ドオを除いた人たちで3日間だけ摂り続けられ、12/8に正式撮了となった。
 
アクアと葉月は休む間もなく『少年探偵団』の撮影に入ったのだが、姫路スピカとリセエンヌ・ドオは、実はライブがあったのである。
 
そのため、スピカ(帝役)の登場シーンは、12/3には撮影終了するように撮影を進めていた。
 
2020年12月6日(日).
 
姫路スピカ、バックバンドの乙女地区、コスモス、山鹿クロム(須舞恵夢)、スピカのマネージャーの本田覚の合計8名は、朝から郷愁飛行場に駐機した千里のG450に乗り込んだ。管制官からの離陸許可を得てこの長い滑走路を飛び立つ。そして1時間ほどの飛行の後、小浜のミューズ飛行場に着陸した。
 
ミューズ飛行場は今日オープンしたばかりで、その着陸一号機となった。一号機がムーラン・エアが所有する2つの空港の間の飛行だったというのは美しい、と小浜に来ている若葉が言っていた。
 

そして姫路スピカは念のため午前中は仮眠させておいて、山鹿クロムをリハーサル役に使って、午前中にリハーサルをした。
 
「え?このドレスを着るんですか?」
「女の子のスピカちゃんのリハーサル役だからね」
「ドレス着るの嫌?」
「いえ。着たいです。でも着てもいいんですか?」
「お仕事だからね」
 
それでクロムは嬉しそうにドレスを着て、スピカの演奏曲目を歌ってくれた。このリハーサル用衣装は、本番用衣装のレプリカである。内側は安い生地が使用されているが、いちばん表の生地は本番用と同じシルクなので、ライティングの確認には使える。
 
11時頃にリハーサルが終わり、バックバンドのメンバーが休憩を取る、
 
12時には、東京に居るリセエンヌ・ドオが、あけぼのテレビ内のスタジオで前座の演奏を始める。
 
そして13時。いよいよスピカの演奏が小浜ミューズシアターで行われた。司会は監修のために来ているコスモス自身が務める。今回は、司会を任せられることが多い川崎ゆりこはまだ『とりかへばや物語』の彼女の担当(左大臣)分の撮影が残っていたので、既に終わっているコスモス(右大臣の一の君)が司会も兼ねることにしたのである。
 

10月・11月の品川ありさ・高崎ひろかのライブは3000円で実施したのだが、今回は普通の生ライブの料金に近い、6000円(税込み)という設定にした。ありさ・ひろかの倍額設定である。
 
スピカはこれまでの全国ツアーでは8万人程度しか動員実績は無い。それでどうなることかと思ったのだが、結果は(発表しないものの)テレビだけでも60万回線(タイムシフトを含む)の接続があり、私もコスモスも驚いた。売上としては、高崎ひろかや品川ありさと大差無い金額になってしまったのである。
 
この売上は、現在国内で最高の人気があるバンド・ハイライトセブンスターズのネットライブ売上より多くなった!
 
これは鈴木社長の手前でも、数値を公表しなくて良かったと私とコスモスは言い合った。スピカのクラスで生ライブに近い値段設定で売上がハイライトセブンスターズを上回ったとあらば、鈴木さんはきっと激怒する(激怒されても困るのだが)。
 
 
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【夏の日の想い出・ホームワーク】(3)