【夏の日の想い出・ホームワーク】(4)

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『少年探偵団IV』の撮影だが、アクアが欠席した11/29は北里ナナとそっくりの少女歌手・南山ハナというのが登場し、本人は生き別れになったナナの双子の姉妹であると主張し、それが本当なのか?
 
といった話を撮影する予定だったのだが、アクア抜きでこんな面倒くさい話を撮っていたら、あとで差し替え編集が大変になる。実際この話では、小林少年、北里ナナ、南山ハナ、小林少年が変奏した北里ナナ、という4つの役柄をアクアが1人で演じなければならない。それでこれは代役だけでは無理、ということになり、予定を変更し、本来は5話目でやる予定だった『宇宙怪人』の話を撮影した。
 
原作では、二十面相はハリボテのUFOを伝書鳩に運ばせるというトリックを使うのだが、現代ならそんなものは簡単に見破られてしまうので、ドローンのUFOを飛ばす設定にして、実際に円盤状のドローンを制作し、夕闇の中で飛行させて撮影した。映りやすいように地上からレーザー光線のライトを当てている。これは東京でやると騒がれるので、結局適度に大都会である福岡市で早朝、天文薄明開始直後の時間帯に撮影している(福岡空港の稼働開始前にしてくれと言われた)。背振山から海の方向へ飛ばして、志賀島北端で回収している。
 
実際原作でも、アメリカの仲間は金持ちだから無線操縦で円盤を飛ばした、などと書かれている。
 
(二十面相だって、鉄塔王国とか“月世界”とか作ったりしていて、相当のお金持ちだと思うのだが)
 
北里ナナはUFOを見て驚くシーン、宇宙怪人と遭遇して勇敢にもそれを追いかけたものの見失い
「あれ?美少女歌手の北里ナナちゃん?どうしたの?」
「今宇宙怪人を追いかけてきたんです。怪しい人物を見ませんでしたか?」
という会話を虎井博士と交わす、などといった場面があった。
 
原作の『宇宙怪人』には(松島)ナナは登場しないのだが、要するに女装のアクアを放送しないと視聴者から苦情が来る!ので強引に入れた場面である。
 
(少年探偵団は1年目は小林の女装シーンは数回しか無かったのに、年度が進むにつれ、どんどん頻度が上がっている!)
 
「あのぉ、この台本で、どうして北里ナナが出てくるんですか?物語に全然絡んでないと思うんですけど」
と台本を見たアクアが質問したりする。
 
「いや、関係無くてもナナちゃんを映さないと苦情が来るからさ。小林少年の女装でもいいよ」
と監督は答えていた。
 

そしてアクア本人が入って初めて撮影されることになった、12/6撮影の第2話は、怪人二十面相が、人気上昇中の美少女フルーティストが吹く豪華なフルートを狙うという話だった。
 
元々はロマノフ王朝の姫君が使っていた品で、美少女の祖父がロシアの亡命貴族から脱出の手助けをしてもらった御礼にもらい、祖父の奥さんが吹いていたものが、孫娘に伝えられた、などという触れ込みになっている。
 
この美人フルーティスト役に新人の羽鳥セシルが起用されたのである。実を言うと羽鳥セシルがフルートが上手いので、この話が脚本化されたというのが実情だった。
 
この話にも北里ナナは、この美少女フルーティストの友人として登場している。(あくまで女装のアクアを映したいという要望に押されている)
 
セシルが吹くフルートは、この話が放送される予定の1月中旬から2月一杯まで放送局のエントランスに展示する・・・予定だったのだが、密になると困るという政府からの要請で、放送局の上の階に設けた特別展示室に展示し、見るには予約が必要ということにした(観覧自体は無料)。すると予約がびっしり入り、結局展示は3月いっぱいまで延長された。
 
セシルは吹き替え無しで本当にこの特別なフルートを吹いており、演奏の音も本人が吹いた音を放送で流している。また同局のお昼の情報番組が彼女をスタジオに呼んでリアルでこのフルートを吹いてもらうということもしていたが、彼女の演奏は、本職の人たちからも『充分上手い。音大生レベル』と褒められ、笑顔でお辞儀しておいた。もっともセシル本人は『音大生といってもピンからキリまであるよな』と内心は冷静に受け止めた。
 

事件では、セシル演じる美人フルーティストはフルートごと誘拐されてしまい、それを友人の北里ナナが小林少年と一緒に助け出すという展開になっていた。例によって二十面相はイミテーションのフルートと、美少女に変装した小林少年に欺され(アクアは女装すべし!)、油断している間に捕縛されるという展開である(二十面相は目利きのはずなのに、偽物で欺される話がわりと多い)。
 
撮影は、北里ナナ:アクアと小林少年:葉月、北里ナナ:葉月と小林少年:アクア、と2回撮影して合成している。
 
アクアと葉月は長年コンビを組んでいるだけあって、お互いに相手が1回目の撮影でしたのと同じ動きをし、同じ速度でセリフを言うのだが、セシルも1回目と2回目で完全に同じ動きをし、同じ速度でセリフを言ったので「合成しやすい。助かる」と監督から褒められた。
 
また“美少女に変装した小林”が二十面相を断罪するシーンは、“変装を解く”直前まで実際にはセシルが演じている。そのセリフ回しが堂々としていて演技力があるとセシルは褒められた。
 
「君、男言葉で話すのもうまいね」
 
と感心されたが、セシルはちょっと内心冷や汗を掻いた。
 
セシルはこの回の演技で多くの人から注目され、結局3月にもう一度出演することになった。
 

12月10日(木)、浜梨恵真(羽鳥セシル)はその日いつものようにお昼までで学校を早引きし、運転手の山口さんに送ってもらって放送局に向かったのだが、車内で
 
「セシルさん、これ穴吹さんから渡しといてと頼まれました」
と言って何かの紙の束をもらう。
 
「これは?」
「報酬の明細らしいですよ」
「枚数多いですね!」
「たくさんお仕事しているから。振込額は最後のページの一番下に合計かあると思います。振込先は届けられている###銀行の口座だそうです」
 
「分かりました。ありがとうございます」
 
チラッと最後のページの最後の行を見る。
 
「8万2千円か。まあ最初はそんなものかな」
と呟いて、恵真は明細をバッグの中に入れた。
 

恵真は先日当ててしまったナンバーズの振込金112万円の内、30万円を即母に返した。そして残り82万円の内、30万円は常用口座の###銀行に移動しておいた。つまりみずほ銀行に52万円と###銀行に30万円になっていた、その内20万円ほどを使っていたので、残りは10万円になっていた。しかし今日お給料をもらったから、残高は18万円になったと計算する。
 
「取り敢えず5万円くらい降ろしておこう。足りないから後でみずほ銀行から移動しておかなくちゃ」
 
と思い、その日仕事が終わってから深夜のコンビニに行く。手数料を取られるけどしかたないよなと考えながら、お金を引き出す。
 
それ以外に突然食べたくなったカツサンドとお茶、それにお供えする稲荷寿司を買ってマンションに戻った。
 
冷凍していたシチューをレンジで温めながら、お稲荷さんをお供えした後、カツサンドは食べちゃう。
 
「疲れた時はやはりお肉だよね」
などと思う。
 
恵真は今降ろしたお金の明細書を見て、違和感を覚えた。
 

恵真の頭の中では残高10万の所に事務所から8.2万円振り込まれたから18.2万円になっていたと思っていた。そこから5万降ろせば残高は13.2万のはずである。ところがATMの明細書を見ると残高は8万2千円に見える。
 
「おかしいな。なんでこんなに少ないんだろう?」
と思って悩む。
 
悩んでいたら、鏡の中から“サユ”さんが出て来た。
 
「エマちゃん、どうしたの?」
「いや、なんでお金がこんなに少ないんだろうと思って、18万円あった所から5万円引き出したから13万になったと思ったのに、残高が8万円しかないから」
 
するとサユさんはATMの明細を見て言った。
「エマちゃん、ちゃんと桁を数えなよ。これ8万2500円じゃなくて、825万円だよ」
 
「へ?」
と声をあげてから、恵真はしっかりと桁を数えてみた。
 
「嘘!?なんでこんな凄い金額が口座にあるの〜〜?」
と恵真は思わず声を挙げる。
 
「1桁間違える人は時々いるけど、2桁間違える子は珍しい」
などとサユさんは言っていた。
 
(実際は残高10万円の所に11月分の報酬820万円が振り込まれて830万円になった。そこから5万円下ろしたので残高は825万円である)
 
「あと、この中から半分くらいは2月に税金として国に納めないといけないから、必ず半分は残しておいてね」
「分かった!それ取ってなかったら怖いね!」
 

2020年12月14-18日(月〜金)の5日間、あけぼのテレビで19:00-20:00の枠(普段は§§ミュージックの自主制作番組が放送されている枠)を使って、花ちゃん(山下ルンバ)の5日連続ライブが放送された。
 
元々花ちゃんは器用な人で、オーディションの時は物凄く可愛いアイドル歌手のような歌唱で上位入賞している。しかし彼女は「ほんとうの花ちゃんが分からない」と多くの人から言われるほど、様々な面を持っている。激しいハードロッカー、清楚なクラシック演奏家、大人びたポップシンガー、等々。
 
それで、川崎ゆりこが提唱して“様々な花ちゃん”を鑑賞するライブをやろうという話になったのである。
 
(『とりかへばや物語』の撮影が延びて、通常番組の制作が予定通り出来なかったという裏事情もある)
 
会場は仙台の“織姫”を使用し、普通のネットライブの形式で行う。
 
私たちは山下ルンバの知名度で、果たしてパネル参加の視聴者が集まるか懸念したのだが、§§ミュージックの全アーティストのファンクラブ全会員にDMしてみた所、5日間×(画像参加1000名+スピーカー参加2000名+書き割り用写真提供4000名)=35000人の枠に対して希望者が8万人もあり、倍以上の競争率となった。
 
むろん山下ルンバのファンクラブの人は優先したので、全員抽選無しで画像参加(本人が希望すれば音声参加)してもらうことができた。
 

初日、12月14日(月)は、“アイドル花ちゃん(川内峰花)”と称して、とっても可愛い白のプリンセス・ドレス(実はアクアが以前PVで着用した物!)を着て登場する。髪型もアイドルっぽいボブカットである。アクアのバックバンド・エレメントガードをバックに、北里ナナの曲、花ちゃん自身が紅型明美などの名前で様々なアイドル歌手に提供した曲などを歌った。
 
この日のライブを観た人の中には、今度新たに§§ミュージックが売り出す新人アイドル歌手のフロモーションだろうかと思った人もあったようである。
 
12月15日(火)は、“ロッカー・山下ルンバ”と称して、身体にピッタリした露出の多い赤い人工レザーのボンデージっぽいコルセット(自前 **)で登場する。髪はアフロヘアーである(ネットでは爆発ヘアと書かれていた)。メイクも真っ赤な口紅など、ド派手メイクである。
 
品川ありさのバックバンド・フィフティースリー(東海道五十三次!)をバックにして、ヴァニラ・ニンジャやリリックスといった海外のガールズロックバンドの歌を1時間格好よく歌った。
 
(**)表面だけ皮革に見えるように加工したものを“合成レザー”、不織布に樹脂を染み込ませ、芯からしっかり皮革のように作った丈夫なもの(クラリーノなど)を“人工レザー”という。なお§§ミュージックではポリシーとして、天然皮革・天然ファーは使用しない。ウールやビロードは、その動物を殺さないのでOK。
 
なお、花ちゃんは以前フィフティースリーのベースを担当していたので、旧知の仲間であり、息の合った演奏をしていた。一部の曲では花ちゃん自身がベースを弾きながら歌った。
 

12月16日(水)は“民謡歌手・高橋隼海花(すみか)”(*1)と称して、振袖(自前の加賀友禅)に日本髪で登場する。自身で津軽三味線を弾きながら、友人の太鼓・尺八・明笛の人(*2)に入ってもらい、出身地(彼女は佐賀県生まれ)九州の民謡を中心にたっぷり1時間歌った。「黒田節」「博多どんたくの歌」「おてもやん」、「長崎ぶらぶら」「おはら節」「刈干切り唄」「シャンシャン馬道中唄」など、知名度の高い歌を中心に歌った。リアルタイムの視聴率としては、5日間のパフォーマンスの中で最も低かったが、タイムシフトを入れると80万回線くらいは接続があった。最後は「博多祝い歌」で締めていた。
 
「今日はたぶん年齢の高いファンが増えたと思う」
とアルト社長は言っていた。
 
(*1)花ちゃんは実際に高橋流の津軽三味線の名取りである。
 
(*2)中学の同級生らしい。佐賀空港からホンダジェットで連れてきた。この飛行機可愛い!とはしゃいでいた。
 

12月17日(木)は“ポップシンガー・紅型明美”と称し、ツモリチサトさんのカジュアルなスーツを着て登場する。髪は自毛をポニーテールにしている(昨日の日本髪も自毛で結ったもの)。姫路スピカのバックバンド乙女地区をバックに、“大人のポップス”という感じの曲を歌った。
 
ちなみに乙女地区のベース以外は、以前花ちゃんと一緒に、桜野みちるのバックバンド・チェリーズをやっていたメンツである。桜野みちるが引退し、入れ替わりで山下ルンバがデビューした後、花ちゃん以外のメンバーが新たなベーシストをスカウトして、乙女地区を結成し、スピカの伴奏を務めることになったのであった。
 
そして最終日12月18日(金)は“ピアニスト・竹本和恵”と称し、イブサンローランのシックな黒のドレスで登場する。髪はゆるふわロングである。スタインウェイのコンサートグランドの前に座り、いきなりショパンの“ノクターン”を演奏する。その後、サティ『ジムノペディ』、ベートーヴェン『エリーゼのために』、パダジェフスカ『乙女の祈り』、ワルトトイフェル『女学生』、ハチャトリアン『剣の舞』、シューマン『トロイメライ』、モーツァルト『トルコ行進曲』など、小学生でも知ってそうな名曲を1時間弾きまくった。最後はショパン『別れの歌』で締めた。
 
この日の演奏はタイムシフト視聴が物凄く多く、最終的に400万回線を超えて、花ちゃん本人がいちばんびっくりしていた。リアルタイムでの視聴率が最も高かったのは、初日のアイドル版であった。
 

「花ちゃんの色々な魅力をファンに知ってもらえたと思う」
と企画を立てた川崎ゆりこは言ったのだが・・・
 
ネットでは
「5人の違ったタイプの演奏者の魅力を伝える企画、面白かったね」
「§§ミュージックってアイドルだけじゃなくて、いろんなミュージシャンがいるんだね」
などという声が沢山あるのに桜野レイアが気付く。
 
「要するに出演したのは全部別人と視聴者は思ったみたいね」
とレイア。
 
高崎ひろかが笑いをこらえていた。
 

ローズ+リリーのアルバム『ホームワーク』の制作は進んでいた。
 
“家庭科”『お裁縫の歌』を制作する。演奏は Gt.近藤 B.鷹野 Dr.酒向 KB.詩津紅 Xyl.月丘 という単純な構成でそこに私とマリの歌を載せる。
 
月丘さんのシロホン(木琴)を打つポクポクポクという音が、運指を表す。
 
PVではこのリズムに合わせて糸と針で縫う様子が映っているが、ここに手だけ出演しているのは、お裁縫が大得意な大崎志乃舞である。
 
お裁縫しましょ、楽しくしましょ。
どうってことない布が、
銀のはさみで切って、金の針・瑠璃の糸で縫うと、
ほら、プラチナ級に素敵なお洋服に変身よ。
 
といった感じの可愛い歌詞である。サビでは
 
まずは最初に玉結び。
なみ縫い、ぐし縫い、まつり縫い、
半返し縫い、本返し縫い、かがり縫い、
最後は返して玉留めよ。
 
と、縫い方の名前を並べている。PVでは各々の縫い方を実際にしている所を映しているが、これも大崎志乃舞の模範運針である。歌詞が「金の針」などと歌っているので、実際に金メッキされた針・紫色の糸で縫っている。スターリングシルバーのハサミ(雨宮先生の私物)も登場している。
 

(サビでない)本歌部分では、先生(高崎ひろか)に指導されている何人かの生徒のお裁縫の様子を映している。
 
生徒は、山鹿クロム(須舞恵夢)、三陸セレン(菱田ユカリ)、豊科リエナ(植野純央)、箱崎マイコ(横山朋菜)という今年のビデオガールコンテスト上位入賞者である。
 
一応男女2人ずつである。
 
但し女の子4人に見える!!
 
クロムが縫っていた服は出来上がると、豪華なお姫様ドレスである!本人が試着し、お化粧もしてもらい、鏡に映してうっとりとしている。早速形成されつつあるファンの女子から「エムちゃんのお姫様姿可愛い!」という声があがっていた。
 
セレンが縫っていた服は出来上がると、素敵な友禅?の振袖である。そんなものを縫っているようには見えなかったのだが!?彼は日本髪に結ってもらい(長髪なので実は自毛で日本髪が結える)、振袖を着付けしてもらい、和風のお化粧もして、やはり鏡を見て本人が陶酔しているようである。こちらも形成されつつあるファンの女の子たちから「ユカリちゃんきれーい!」という声が掛かっていた。
 
リエナが縫っていた服(?)は出来上がると、なぜかモーターヘッドっぽい巨大ロボである。なぜ裁縫でロボットが出来る?というツッコミ多数。リエナはそのロボットのコックピットに乗り、ファティマのコスプレをした甲斐絵代子(緒方美鶴)と一緒に、敵ロボット?を倒してガッツポーズである。これも形成されつつある男子ファンたちから「リエナちゃん、すげー」という声が掛かっていた。
 
そして4番の歌で登場したマイコの作品は、出来上がってみると、巨大宇宙戦艦である。船首から波動砲?みたいなものを撃って敵艦を撃破。艦長席に座るマイコが頷いている姿で終わっている(戦艦の乗員は信濃町ガールズの子たち)。これも男子ファンたちから「マイコちゃん、かっこいー」という声が掛かっていた。
 
このビデオを監修したのは銀のハサミも持ち込んでくれた雨宮先生である。
 
「女子と男子の出来た作品が逆のような気もするんですが」
「自由な時代よ」
 

ホームルーム『学芸会の打ち合わせ』では、楽しく学芸会の劇の配役を決めていく過程が描かれている。劇の題目は『白雪姫』である。
 
PVに出演しているのは中学3年生の信濃町ガールズたちである。
 
「王子様は誰にする?きみ?ぼく?それとも彼?」
「たっくんもいいな、あきらくんもいいな、ひろくんは?」
「白雪姫は誰にする?あなた?私?それとも彼女?」
「さっちゃんもいいな、よっちゃんもいいな、まゆちゃんは?」
 
最初に王子様役に七尾ロマン(雪渡知香)が選ばれる。続いて猟師役に今川容子(上野有里絵)、王様役が坂田由里(川口朋世)、鏡役が左蔵真未(広原恵美)、小人役が青木由衣子(松田志帆)ほか6人、白雪姫の棺を放り出す侍従が甲斐波津子(緒方飛蝶)、とここまで全ての男役が女子てある!
 
そして白雪姫役に選ばれたのは、直江ヒカル(上田信貴)、母親役は特別出演の羽柴みのり(木下宏紀−彼だけ3つ上の高3)となった。つまり女役が2人とも男子である。
 
長いコーダでは七星さんのサックスが格好良いが、その長い演奏が流れている間に決まった配役で衣装をつけて演技している場面が映る。
 
このPVが公開されると
「ロマンちゃんの王子様りりしい」
とか
「のぶちゃんの白雪姫、さすが可愛い」
などといった声があがっていた。
 
このPVを監修したのはマリなのだが、私は
「根本的に間違っている気がする」
と言った。
 
「女役の2人は実際には既に性転換済みという噂のある子だよ。最近やっと芸名をもらったけど、コスモスちゃんは彼女たちに女の子でも通る名前を付けてあげている。いづれ『女の子になりました』という発表をするんだと思う。寮も4月からは2人とも女子寮に移動すると聞いたし。だから、これは女子中学の文化祭なんだよ」
などとマリは言っていた。
 
なお演奏の方は、スターキッズの基本構成に私とマリの歌を乗せている。特に追加楽器は入れていない。
 

これで12個楽曲が揃い、『ホームワーク』は12月20日からマスタリングに入った。
 
“国語”『偏な歌』
“英語”『食べ物ABCの歌』
“歴史”『年号記憶の歌』
“古文”『百人一首の歌』
“地学”『太陽系の歌』
“物理”『元素の歌』
“音楽”『リモート合唱の歌』
“化学”『女の子の作り方』
“体育”『ノーサイド』
“地理”『土の歌』
“家庭科”『お裁縫の歌』
“ホームルーム”『学芸会の打ち合わせ』
 
実を言うと、もう一曲制作したのだが、私は「難解すぎる」と言い、いったん没にしようとした。しかし、政子はぜひやりたいと言い、結局それはボーナストラックとして収録することにした。初版には入れるが、将来的には外す可能性もある。それは“算数”『三角関数の歌』である。
 
私は「数学では?」と言ったのだが、マリは「こんな“簡単な”内容は算数でしょ」と言っていた。私は半分も内容を理解できない。
 
この歌では、三角関数の定義や法則を楽しく?歌っている。この曲はマリにメインボーカルを取らせた。
 
(↓以下しばらくスクロールしてしまうの推奨)
 
底辺x(エックス)、高さy(ワイ)、斜辺がr(アール)なら、
sin(サイン)はx/r(エックスわるアール)、cos(コサイン)y/r(ワイわるアール)、
tan(タンジェント)はsin÷cos(サインわることコサイン)でy/x(ワイわるエックス)なのよ。
cot(コタンジェント)はtan(タンジェント)の逆数で、
sec(セカント)はcos(コサイン)の逆数、
cosec(コセカント)はsin(サイン)の逆数ね。
 
(サビ)
sin÷cos=tan(サイン割ることコサインはタンジェント)
ラジアンに直す時は180で割ってπ(パイ)を掛けてね。
90度がπ/2(2分のパイ)、45度はπ/4(4分のパイ)、360度は2π(2パイ)よ。
 
30度と60度の直角三角形は三辺1:√3:2(1たいルート3たい2)だから
sin 30゜(サイン30度)=cos 60゜(コサイン60度)は0.5で、
sin 60゜(サイン60度)=cos 30゜(コサイン30度)は√3/2(2分のルート3)。
45度と45度の直角二等辺三角形は三辺1:1:√2(1たい1たいルート2)だから
sin 45゜(サイン45度)=cos 45゜(コサイン45度)は√2/2(2分のルート2)なのよ。
sin2x + cos2x =1(サインじじょうエックス・プラス・コサインじじょエックス・イコール・1)はピタゴラスの定理ね。
 
(サビ繰り返し)
 
「なんか振り仮名が付いてるとよけい読みにくい」
などという声もあったので、読み仮名を外してみる。
 
加法定理は、
sin(X+y) = sin x cos y + cos x sin y
cos(X+y) = cos x cos y - sin x sin y
で、倍角定理は、
sin(2x) = 2sin x cos x
cos(2x) = cos2x - sin2x
 
正弦定理は、三角形ABCの対辺をabcとして
a / sin A = b / sin B = c /sin C = 2R
最後は外接円の直径ね。
 
「なんか遙かな記憶だ」
と鷹野さん。
 
「これ本当に楽しい?」
などという声もあるが、マリは
 
「楽しいじゃん」
と言って笑顔である。
 
「それで次に余弦定理はね」
「いや、もうこのくらいでやめとこう」
「そう?そこまでやればピタゴラスの定理が簡単になるのに」
とマリは不満そうであった。
 

この曲では、酒向さんが電子ドラムでピコピコといった音を出す中、近藤さんのギター、鷹野さんのベースのみで私とマリが歌っている。
 
今回のアルバムではこういうシンプルな伴奏で歌った曲が多い。
 
PVはマリ監修のアニメで図形を描きながら構成した。念のため数学科出身の桃香に監修してもらったのだが
「うん。問題無い。でもここまでやるなら余弦定理もすればいいのに」
などと言う。
 
どうも数学屋さんとしてはそこまでやらないと落ち着かないようである。仕方ないのでそこまでやることにしたらマリが喜んでいた!
 
第一余弦定理は
a = b cos C + c cos B
b = c cos A + a cos C
c = a cos B + b cos A
 
第二余弦定理は
a2= b2+ c2- 2bc cos A
b2= c2+ a2- 2ca cos B
c2= a2+ b2- 2ab cos C
 
この歌は特に3番以降は受験生以外にはさっぱり分からんだろうなと私は思った。八雲さんは「ちょっと待ってください」と言って、本屋さんに飛び込んで高校数学の参考書を買ってきてうんうん2時間くらい悩んだ末に
 
「うん。公式間違ってないみたいですね」
と確認してくれた!
 

私は12/20からマスタリングを始めたので、発売は2月くらいかなあと思った。ところが八雲課長は
「今すぐダウンロード版を発売しましょう」
と言った。
 
「え〜〜〜〜!?」
 
「だってこれ受験生の役に立ちますよ。コロナで物凄く制限された状態で苦しんで受験勉強してきて、しかもこれまでのセンター試験が改訂されて、大学入学共通テストになって最初の年。物凄い不安の中で受験する受験生たちを応援しましょう」
 
それでこのアルバムは前宣伝などほとんど無しに、12月23日(水・祝日ではない!)に★★チャンネル、iTune, Amazon, レコチョク、その他のダウンロードストアで発売されたのである。
 
(ローズ+リリーの音源というのは、こういう短時間で発売されるものが異様に多い気がする)
 
前宣伝も無しに発売されたことから、一応週間ランキング1位は取ったものの、一週間での販売数20万DL(音のみ・動画付きを合わせて)という低い数字で始まった。私は、いよいよアルバムの連続ミリオンが途切れるかなと思った。
 
↓ここまでのアルバム連続ミリオン(11枚)
 
2013.04.24『Rose+Lily the time reborn, 100時間』120万枚
2013.06.05『RPL投票計画』150万枚
2013.07.03『Flower Garden』国内210万枚 海外版80万枚
2014.12.10『雪月花』国内220万枚 国外120万枚
2015.12.02『The City』国内130万枚 国外(振袖とセット)65万枚
2016.12.07『やまと』国内190万枚 国外130万枚
2017.11.15『Rose+Lily ランチセット2017』国内150万枚(海外版は2018.12発売で110万枚)
2018.03.14『郷愁』国内108万枚 海外40万枚
2018.09.08『ブライダル・ウィンド』国内180万枚 海外90万枚
2019.04.30『戯謔』国内130万枚 海外50万枚
2020.01.29『十二月』国内180枚 海外140万枚
 
なお『ホームワーク』のCD/CD+DVD版は、プレスしてから販売するので、たぶん1月下旬になるということであった。
 

セシルはその日、ドラマの撮影と言われて朝からテレビ局のスタジオに入った。
 
行ってみると『キャサリンの事件ファイル』という推理ドラマであった。セシルは何も事情を聞いていなかったのだが、先日から数回共演して仲良くなっていた坂出モナが寄ってきて
「わあい、またエマちゃんと会った」
と言って“エア・ハグ”する。
 
「台本薄いね。30分ものかな?」
と言ったら
「あれ?話聞いてない?これ2時間ドラマなんだけど、役者さんに先の展開を知らない状態で演技して欲しいということで、台本も分割して渡すらしいよ」
とモナが言う。
 
「へー!!」
 

モナの話だと、これは榊森メミカ主演の山村美紗原作・推理小説“キャサリン”シリーズのドラマ化で、月に1回、2時間ドラマ枠で制作放送されているらしい。
 
「へー、女探偵か」
「キャサリンシリーズって、山村美紗さんの小節の中ではかなりのボリュームあるんだけど、主人公が外人さんというので、主役の選定が難しくて」
 
「ああ。日本に定住している外人女優さんは少ないだろうからね」
「過去には、かたせ梨乃さん主演で随分撮っているらしい」
「女性にしては割と背が高い方かな。でも榊森メミカさんも背が高いね。金髪だし」
「身長176cmらしいよ、髪はこのドラマのために染めただけ」
「あっそうなんだ?でも176cmとかすごーい。バレーとかに誘われそう」
 
「小学校の時はミニバスに入ってたって。お祖母さんがロシア人らしい」
「じゃクォーターか」
「でもここだけの話だけどさ、クォーターは本当だけど、実は彼女、男の子だから身長が高いという噂もあるのよね」
「男の娘?」
「そうそう。一時期休業してたのは、性転換手術を受けるためだったという噂もある」
「へー」
 
セシルはメミカに急に親近感を覚えた。でも性転換手術しちゃったのか。ボクもその内、性転換手術を受けることになるのかなぁ。
 
(セシルはいまだに自分が女の子の身体になっていることに気付いてない。なぜ気付かないのかは知るよしもない)
 
「でも可愛いのに」
「だよねー。あれだけ可愛ければ、男になるなんてもったいないもん。女の子になるべきだったと思うよ。美少年はどんどん性転換するといいよね」
 
「それ割と賛成だけど、あまりやり過ぎると、将来美少年が産まれなくなる気がする」
「うん。それは問題だ」
とモナも言ったが、彼女の言い方に何か微妙なものを感じた。誰か親しい美少年がいるのかな?という気もした。
 

「基本的にその主役設定の難があるから、ドラマ化は苦労しているみたい。過去には、キャサリン物を藤田まことさん主演でドラマ化したこともあるって(**)」
 
(**)キャサリン物の中でも特に名作のひとつとされる『花の棺』である。
 
セシルは一瞬、藤田まことさんが、金髪のロングヘアのかつらをかぶり、スカートを穿いているところを想像した。
 
「藤田まことさんが女装したの?」
 
「あ、違う違う。藤田まことさんは狩矢警部役。つまり主人公をキャサリンから狩矢警部に変更して撮ったんだよ」
 
「びっくりしたぁ!」
 
モナによると、キャサリンもののレギュラーは、アメリカの元副大統領の娘であるキャサリン・ターナー、彼女の恋人で大学の先生である浜口一郎、そして京都府警の狩矢警部、という3人のみらしい。これを今回のシリーズでは、榊森メミカ、前田智士、広河信一郎さんが演じている。狩矢警部というのは山村美紗作品の多くに、シリーズをまたいで出演する人物で、テレビドラマではこの人を主人公にした作品が多く作られているという。
 
狩矢警部のモデルは原作者によると若林豪さんだったらしく、実際過去のドラマでは若林さんが多くこの役を演じている。広河信一郎さんは過去に刑事ドラマに何度も出演しており、ヒゲもある。学生時代にはラグビーをしていたという体格の良さで、若林豪さんのイメージに近い人物として選定されたということだった。
 
「前田智士くんは視聴率稼ぎでしょ」
「えーっと。今のは聞かなかったことにしよう」
 

プロデューサーさんが出演者を集めて簡単な作品解説をした。
 
今回のタイトルは『キャサリンの事件ファイル・茶道家元殺人事件』で、この作品をキャサリンを主役としてドラマ化するのは初めてであるらしい。過去には、岡江久美子さん主演で、主人公を町村佐知子という人物に
変更して土曜ワイド劇場で放送されたことがあるだけという。結末が悲しいものの美しい作品で、これまでドラマ化されなかったのが惜しい作品だと言っていた。
 
茶道に関するドラマなので、主要人物の中で茶道の経験が無い人には事前に講習などを受けて頂いておりますとプロデューサーさんが説明する。なるほど、それでこないだ講習を受けたのかとセシルは納得した。聞くとモナは茶道部の友人から色々教えてもらったという。友人にそういう人がいれば、変に講習を受けるより詳しく教えてもらえそうだ。
 
「基本的に家元の地位を狙って、親族が次々と殺害されていく物語です。原作では死ぬのは家元を含めて3人+犯人なのですが、今回のドラマでは大サービスで5人+犯人の6人が死ぬ設定になっています」
とプロデューサーさん。
 
「ドラマでは30分に1回は死体を転がせと言うからね」
などとモナが言っている。30分単位なら、冒頭の犠牲者も含めて最低4人は殺されないといけないわけだ。
 
それで登場人物の人間関係が図示される。何か複雑に婚姻線が引かれている。
 
家元:良孝
先妻の娘:夏子
その夫:頼信
後妻:涼子
後妻の娘:秋子
その夫:邦彦
愛人1:加代子
その娘:冬子
愛人2(高弟):千草
その娘:春子
愛人3(女優):まゆみ
その娘:たつみ
愛人4(陶芸家):陽子
その息子:乾(いぬい)
 
「原作では千草・まゆみ・陽子には子供が居ないのですが、サービスで追加しておきました」
などとプロデューサーさんは言っている。要するにたくさん殺せるように、人物を増やしたのだろう。
 
「このパターンだと、唯一の男の子は絶対殺されそうだね」
などとモナは言っている。確かにそうだろう。男の子がいれば、上に何人女の子がいても、その男の子が跡継ぎとしては絶対的に有利である。
 

それで演じている人たちにも、犯人が誰か分からないように、そして誰が次に殺されるか分からないように、台本は少しずつ渡しますので、その場で覚えて演技してくださいと言われる。殺人場面では殺される役の人だけにその部分を渡すらしい。そのシーンでは他の人は誰が殺されるか分からないから、アドリブで演技して欲しいと要請された。
 
「そういう進行ならこれ丸一日かかるよね?」
とセシルはモナに尋ねる。
 
「そう言われてきたよ。丸一日の撮影なんて体力使いそう」
とモナは言ったが、セシルは
「助かる〜。今日はこれ1本だけか」
と言った。
 
毎日3〜4件の撮影をこなしているので、1本だけというのは、普段の日に比べたら楽だとセシルは思った。
 

家元の6人の子供は、夏子:谷里あいり、秋子:岡原襟花、冬子:羽鳥セシル、春子:坂出モナ、たつみ:森風夕子、乾:木田いなほ(男装)という配役である。何か有名女優とか、モナや森風夕子みたいな人気アイドルもいるから、自分はわりと早く殺される部類かな、とセシルは思った。
 
最初の犠牲者は、若手人気女優・岡原襟花が演じる秋子であった。秋子が実は後継者として最も有力候補だったらしい。そして2番目にモナの予想通り、唯一の息子という設定の乾(演:木田いなほ)が殺される。セシルは木田いなほさんの男装って似合ってるなあと思って見ていた。
 
「彼女、以前のドラマで性転換して女の子になる男の子を演じたこともあるし、元々中性的な雰囲気あるよね」
などとモナは言っていた。男の子設定なので髪が短いのだが、それが自毛ということだった。女子としてはベリーショートである。まあ長い髪の女の子を演じる時はウィッグを付ければ済むことだろうけど。
 

そろそろ自分が殺される番かなあと思っていたら、次は家元の妻だった。セシルは自分もお茶を飲んで苦しむと台本に書かれていたので、自分も一緒に死ぬのかなと思ったら、セシル演じる冬子は毒の量が少なかったために助かるという設定で、スタジオの隅に用意された病室のセットのベッドの上で見舞いに来てくれた長女・夏子(演:谷里あいり)と会話するシーンを撮影した。
 
「死んだかと思った」
とそのカットの撮影が終わってからモナに言う。
 
「名演技だったよ。ここでいきなり2人死ぬのかと思った。でも考えてみたら奥さんは早めに殺されるべきだったんだよね。家元はいづれ殺されるだろうけど、家元本人の前に奥さんを殺しておかないと、財産が全部手に入らないもん」
とモナが言う。
 
そのあたりの遺産相続のルールをセシルは知らなかったのだが、モナが解説してくれた。
 
「だったら実は夏子さん、かなり(犯人として)怪しくない?」
「うん。でも谷里あいりさんはこれまで汚れ役はしたことない気がする」
「ああ」
 

そして4人目でモナ演じる春子が殺されてしまう。
 
「あらあ、ここで退場か。お疲れ様」
「うん。私はもっと早く殺されるかと思ったんだけど」
とモナ。
 
「残るは家元の他は、谷里あいりさん演じる長女夏子、私の演じる冬子、森風夕子ちゃん演じるたつみの3人か。この中の誰かが犯人なんだよね?」
 
「常識的にはそうだろうね」
とモナ。彼女も原作は読んだことがないらしい。
 
「あれ?殺されるの5人と言ってた?」
「あ、そうだった」
「5人目は家元だろうから、これで子供の殺されるのは終わり?」
「かもね」
 
「そしたら犯人は私ってことは?だって犯人が被害者を装うのってありがちじゃん。わざと死なない程度の毒を自ら飲んで、疑いを逸らすって、推理小説ではよくあるパターンだし」
 
「あり得るかもね〜」
とモナも言った。
 

そしてやがて、愛人のまゆみと別荘で密会しようとしていた家元が殺される。まゆみは取り調べを受けるが、自分が別荘に来たときには鍵が閉まっていて、灯りもついていなかったので、しばらく待って家元が来なかったのて帰ったと主張する。まゆみがもし犯人として逮捕されると、まゆみの娘・たつみは法的には相続権が残るものの、道義的に辞退に追い込まれる可能性が高い。家元の地位継承も困難。すると、長女の夏子、三女の冬子(セシル)が有利になる。
 
とすると、推理小説的にはそのどちらかが犯人っぽい。しかしモナが谷里さんは汚れ役をしないと言っていた。となると、私が犯人なのかも?とセシルは思った。
 

ところが、キャサリン(メミカ)は、犯人は夏子の夫・頼信であると指摘した。アリバイ作りのトリックについても詳しく説明する。
 
本人もそれを認めて事件は解決した。
 
彼の供述から、この事件は家元の関係者を全員殺し、長女・夏子が家元の地位と財産を相続した所で、夏子まで殺して自分が全部独り占めする計画だったと自供する。
 
夏子まで殺される予定だったという警察発表から夏子に同情が集まる。残った娘である、冬子・たつみも「家元と財産の相続は辞退する」と表明したので夏子が新しい家元に就任した。冬子とたつみが彼女を祝福する言葉を述べた。
 
そしてその就任式の翌日、拘置所内の夏子の夫が、隠し持っていた毒薬で自殺した。キャサリン(メミカ)は恋人の一郎(前田智士)に語る。
 
「これは本当は夏子さんへの愛情から計画したものだと思う」
「夏子まで殺すつもりだったんじゃないの?」
「そう主張することで、夏子に同情が集まるようにしたのよ」
「なるほど!じゃ夏子は共犯なの?」
「それは違う。夏子は何も知らなかった」
「どういうこと?」
 
「頼信はおとなしい性格で、仕事もあまりできず、経済的にも夏子に依存していた。その夏子が、後妻の涼子とその娘の秋子の地位が一派の中で上昇したことから、邪魔者扱いされ、いつ破門されてもおかしくない状況になっていた。それで自分を愛してくれた夏子を助けるために自分の身を犠牲にしたのよ」
 
「うーん」
 
「だから、後継者候補No.1の秋子とその母涼子は当然殺すとして、本当は夏子と冬子の2人くらいを残して他の子供は皆殺しにするつもりだったんだと思う。夏子には必ずアリバイがあるようにするから、冬子が疑われて後継者の地位を失うと考えた。でも私が彼を犯人と指摘したから、たつみは命拾いした。そして予定通り、全て自分が単独でやったことであると主張して適当なタイミングで自殺する。実際、夏子が次の家元に就任したのをニュースで聞いて、彼は満足して死んだんだと思うよ」
 
「あまりにも大きすぎる愛情だ。でも夏子さん、本当に知らなかったのかなあ」
 
「まあ気付いていたかも知れないけどね。でも彼の愛情が無駄にならないよう知らない振りをし通したのだと思う。イエスを知らないと言ったペテロの気分だったかもね」
とキャサリンは言った。
 

「しかし最後まで生き残る役になるとは思いも寄らなかった。犯人役でもなかったし」
とセシルは深夜、ドライバーの森下さんに尾久のマンションまで送ってもらいながらつぶやくように言った。
 
「セシルちゃんの役柄は元々アクアちゃんに割り当てられていたものですよ。だから、生き残る設定だったんじゃないですか?アクアちゃんが殺されて途中退場したら、ファンから苦情が来るもん。もちろん犯人役なんてあり得ない」
と森下さんが言う。
 
「ああ、そういうことか!」
とセシルは声をあげたが、次の瞬間、奇妙なことに気付く。
 
「だったら、アクアちゃんは女の子役だったの?」
「そりゃそうでしょ。アクアちゃんの女装を映さないと苦情が来ますよ」
「あはは」
 

2020年12月24日(木)クリスマスイブ。
 
この日、全国を衝撃的なニュースが駆け巡った。
 
人気女性グループ・マラナーズのメインボーカル・斉藤ルニカがコロナ陽性であることが発覚したのである。ルニカは20日に収録されたバラエティ番組に出演していた。この出演者の中に発熱して検査の結果コロナ陽性が確認されたタレントがおり、どうもこの撮影中に感染が起きたようである。出演者全員が濃厚接触者と判断され、PCR検査を受けていてルニカの陽性が発覚した。彼女以外にも陽性と判断された人が数人おり、各事務所は対策に奔走する。
 
ただちにルニカ以外のマラナーズのメンバーも検査を受けたものの陰性ではあった。しかしルニカの濃厚接触者として、全員自宅待機ということになる。
 
マラナーズは紅白歌合戦に(紅組から)出場予定だった。
 
しかし紅白は一週間後である。出場は困難と思われた。事務所ではルニカ抜きで強引に出演させることも考えたようだが、NHK側から「できたら遠慮して欲しい」と言われたこと、そもそもルニカ抜きでは代わりのボーカルを務められそうな子がいないことから、出場断念した。
 

NHKでは代替の出場者を検討した。
 
マラナーズの事務所に代わりに出場できるような知名度あるいは成績のある歌手が見当たらないことから、16時頃、その親会社である、∞∞プロに要請がある。鈴木社長は事務所の中堅歌手・村井鞠代に連絡して、出場を要請した。彼女は紅白に出たことはないものの、経歴が長く知名度は抜群である。今年は特にゴールド・ディスクになるヒット曲があった。
 
ところが・・・
 
「紅白なんて嘘みたい!でも、ごめんなさい。熱が出て寝込んでいます」
「まさかコロナじゃないよね?」
「インフルエンザと診断されました」
「インフルかぁ!」
と鈴木社長は天を仰いだ。これが18時頃だった。
 

20時頃になって、秋風コスモスのスマホが鳴る。見ると∞∞プロの鈴木一郎社長なのですぐ取る。
 
「はい、伊藤です」
「コスモスちゃん。12月29日から31日まで、高崎ひろかちゃんか姫路スピカちゃんあたり空いてない?」
 
「うちのカウントダウンイベントはありますが、必要なら欠席させます」
 
「助かった。実はマラナーズの代替出演者、こちらに任せると言われて。でも女歌手ではスケジュールの動かせない子ばかりでさ。男歌手なら居たんだけど性転換させる訳にもいかないし。念のため訊いてみたけど、紅白は出たいけど、そのために性転換手術して男を廃業するのは嫌だと言うし。それで、そちらのその2人の内のどちらか出場してもらえない?」
 
万一性転換しても出場したいと言ったら性転換させるつもりだったのだろうか?
 
コスモスは即決した。
 
「では高崎ひろか、お願いできますか?」
「分かった。すぐNHKに伝える」
 
それで高崎ひろかは今年も紅白に出場することが、1週間前になって急遽決まったのであった。
 
つまりこの年は§§ミュージックから5組も出場することになったのである。
 

私とコスモスは、アクアプロジェクトの実質的なリーダーである和泉も加えて3人で話し合った。
 
「最近、アクアの扱いが、ほぼ女の子タレントになっていると思うんだよ。少し揺り戻しを掛けない?」
 
「そうなんだよね。なんかアクアの出演依頼で、ドラマ関係が女役ばかりなんだよ。やばいと思っている」
 
「こないだは『とりかへばや物語』の撮影で、レギュラー以外全部断るハメになったから、これ幸いと、全部他の女子タレントに振り替えたけどね」
 
「それで、松梨詩恩も、米本愛心も、羽鳥セシルも、超多忙になっちゃったみたいだけどね」
 
「代替できるのが女子タレントしかいなかったね」
「うん。普通の男子では務まらない仕事ばかりだった」
 

「新しいイメージはやはり“王子様”という路線がいいと思っている」
と和泉は言った。
 
「ああ、それはいい路線だと思う」
と私も賛成する。
 
「アクアはデビュー当初の頃から、わりと王子様っぽい衣装で歌っていたね」
「もっとも、王子様の服の長い丈の上着がドレスと勘違いされて、アクア様が女装してる!とか言われたけどね」
 
「女装程度は構わないけど、王子様っぽい雰囲気は主張しようよ」
「アクアが王子様役をするドラマか映画を企画しようよ」
「ああ、それはよいことだ」
 
「でも女装は構わないんだ!?」
「だってあの子、女装好きでしょ?」
「まあ好きだけどね」
「だいたい個人では男物の服は持ってないみたいだし」
「個人的に持ってなくても衣装として用意してあげればいいよ」
 
そういう訳で、アクアには以降、王子様っぽい服を着せていくことにしたのである。
 

「ところであの子、まだちんちん付いてんだっけ?」
と和泉は訊いた。
 
「多分、とうとう去勢に踏み切ったと思う。明らかに体臭が変わった。でも多分まだちんちんは付いてるし、それを切っちゃうつもりは無いと思う」
とコスモスが言う。
 
「とうとう去勢したか!」
「やはり自分でも声変わりしたくないと思ったんだと思うよ」
「それはいいことだ」
 
ということで、アクアの去勢については異論は全く無い。むしろ声変わりが起きる前に踏み切ってくれて良かったという意見である。
 
「でもタマタマが無くても本人は自分は男の子だと思っているし、将来もしちんちんまで切ったとしても、やはり自分は男の子だと思っていると思う」
 
「おっぱいはあるの?」
「あると思うよ〜。無いように見せたりするのは偽装」
「まあ、あれだけ女性ホルモン飲んでたら、おっぱいは膨らむよね」
 
「でも胸が無いように偽装できるもんなんだっけ?」
「やり方はあるみたいね」
「まあいいや、おっぱいあるくらいは大きな問題では無い」
 
と、これも問題なしということで意見がまとまる。
 
「だったら夏にドラマで男子水着姿になったのが、胸の無いアクアの見納めか」
「まあ胸の無いアクアには需要無いし」
「確かに」
 

「あの子、女の子と恋愛するつもりは無いとは思うけど、好きな男の子とかはいるんだっけ?」
と和泉が訊くとコスモスは
 
「好きな人はいると思う。最近あの子の恋愛に関する演技が“本物”になった。あれは恋の経験が無い女優にはできない演技」
と言う。
 
「あの子、女優なんだっけ?」
「女役をする時は女優、男役をする時は俳優」
「確かに」
 
「面倒を引き起こしやすいから、温泉とかにはできるだけ入れないようにしてるけど、トイレは女子トイレしか使わないし」
 
「まあ、あの子が男子トイレに入ろうとしても注意されるよね」
「それは昔からだね」
 
「でその相手は?俳優さん?」
「分からない。相手が男か女かもよく分からない」
「あの子はバイかもね」
 
コスモスは、とうとう彩佳が龍虎と寝たという話は彩佳本人から聞いていたのだが、彼女以外にも意識している男性か女性がいる気がしていた。彩佳と寝たのはきっとMだろうから、それはFの好きな人かもとコスモスは思ったが、誰なのかは見当がつかなかった(彩佳と寝たのがまさかFだとは、さすがのコスモスにも、思いもよらない。なおコスモスは唯一人、アクアが2人に戻ったことにこの時点で気がついていた)。
 
「恋で悩んだら、私に相談しにくかったら、花ちゃんかマリナちゃんにでも言えと言ってる」
 
「ああ、花ちゃんには相談しやすいかもね」
「§§ミュージックの“お姉さん”だからね。同期でもあるし」
 
「とんでもアドバイスが欲しい場合はマリナかな」
「ああ。非常識な回答しそう」
「でも世の中、非常識な対応が意外に状況を打開するんだよね」
 
 
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【夏の日の想い出・ホームワーク】(4)