【夏の日の想い出・戯謔】(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2019-01-12
2018年9月27日、ローズ+リリーはメジャーデビュー10周年を迎えた。
その1ヶ月くらい前の8月下旬、風花、詩津紅・妃美貴の姉妹、麻央・佐野君の夫婦が一緒にマンションにやってきて
「これメジャーデビュー10周年記念」
と言って、ジュエリーボックスに入った宝飾品を渡してくれた。
「これ、麻央ちゃんと私でデザインを考えて、宝石屋さんに作ってもらった。お金は、ここにいる5人と琴絵、仁恵、正望さん、の合計8人で出しあった」
と風花は言う。
「きれーい!」
と政子が声をあげる。
赤いバラと白いユリをモチーフにした宝飾品である。風花によるとバラの形に加工した赤い宝石はレッドスピネル、ユリの形に加工した白い宝石はムーンストーンであるという。その2つの石が黄色い金属の上にセットされているが、金属の表面に多数のバラ・ユリの模様が入っている。機械式オルゴールがセットされていて『影たちの夜』のメロディーが流れる。
「台座の金属は真鍮(しんちゅう)の金メッキね。バラとユリは銅箔・銀箔を貼り付けようかと思ったけど、すぐ変色するというから、結局樹脂のシートを接着したのよね」
「へー」
「それを金メッキじゃなくて純金で作ろうとすると、私たちの財力では無理」
「いや純金にしちゃったら、宝石が目立たなくなるからそれでいいと思う」
「純金にするなら、石はルビーとダイヤくらいにしないとね」
「それはもう怪人二十面相が狙うようなお宝になってまう!」
なお、このメジャーデビュー10周年に関しては、ローズクォーツは赤と白のボルドーワインのセット(織絵と美来が持って行った)、スターキッズはバラの花束とユリの花束のセットを、KARIONの私以外の3人はホールケーキ(政子はこれを一番喜んだ)、など多くの人が様々なプレゼントをしてくれて、私も政子も本当に嬉しかった。
UTPの大宮副社長は、風花たちが作ってくれたバラとユリの宝飾品がとても美しかったので、これのレプリカを通販しようと言った。
麻央・風花を入れてデザインや素材を練った結果、バラとユリをエボキシ樹脂で作り、台座は(金メッキしない)真鍮でしかも中空の鋳造とすることにしてコストを抑えることにした。オルゴールもIC方式にする。また台座には"10"の文字をレリーフ状に浮かび上がらせる。
麻央自身がデブコンET(エボキシ樹脂のレジン液)を使って試作品を作り、3Dプリンタで鋳造用の型を作り電気炉を使って台座も鋳造してくれた。
「麻央ちゃん、宝石屋さんに頼まなくても自作できたのでは?」
などと風花が言ったが
「宝石加工が私には無理」
と言っていた。
試作品を作った麻央は価格は5000円くらいかなあと言ったが、大宮副社長は1万円くらいにしようと言った。
○○プロと取引がある、アクセサリーの製作会社の人と、麻央、大宮さんが打ち合わせてローズ+リリーの生写真とサイン付きで送料込み12000円に価格設定することにした。
「たくさんサイン書かなきゃ!」
「それ私が書くよ。最近暇だし」
と政子が言う。
ローズ+リリーのサインは、私と政子が一緒に書いたもの、私が1人で書いたもの、政子が1人で書いたものを見分けるのは困難である。以前テレビの企画で、芸能人のサイン鑑定に慣れている鑑定人さん数人にブラインドテストしてみたら全員が間違えた。
政子は妊娠中で、全てのテレビ・イベントなどの出演を断っているので、確かに暇なようである。同様に昨年から暇をもてあましている小風や、移籍騒動後TV出演をしない方針にしたので比較的暇な状態が続いている光帆などと《アクア拉致改造秘密作戦》を楽しく話し合っているようだ。
(KARIONの4人の内、私は昨年は『郷愁』の制作で死んでいて、今年は春から夏に掛けて凄まじい数の作曲をこなしてまだ体力回復しておらず、和泉はアクアのディレクター(事実上の制作指揮者)として忙しく、美空はゴールデンシックスに入り浸りになっていて、結局小風が取り残されている)
麻央たちがプレゼントしてくれたオリジナルと、麻央が作った試作品を(量産品とは異なる可能性があると断った上で)9月から10月に掛けておこなったツアーの会場で並べて展示して(ガラスケースに入れて警備員さんに傍に立ってもらった)購入希望者を募集した所、高価格にも関わらず2万件も応募があった。
「サインするのに1ヶ月掛かる!」
と政子が悲鳴をあげた。
色紙は "Rose+Lily 10th anniversary" という薄いピンクの文字のロゴが入った特製の色紙を使用する。日付と「○○さん江」という宛名までは理桜が入れるが(政子にやらせると絶対宛名を間違う)、サインは政子の直筆である。
1枚10秒で1分間に5枚、1時間に200枚(手を休めておやつを食べる時間コミ)、1日に4時間やって800枚とすると25日掛かる計算になるが、製作会社でも2万個作るのは3ヶ月くらい掛かるということで、発送は1月くらいまでにということにさせてもらった。
但し実際にお金を振り込んできたのは18000人ほどだったので、政子の作業は少しだけ楽になった。
大宮副社長はローズ+リリー10周年の写真集も出そうと言った。過去10年間の活動の軌跡をたどるような写真、そして新たに撮る写真も含める。
「あ、だったら高校時代に撮ったヌード写真も出さない?」
と政子は言ったが、風花が即却下した。しかし大宮副社長はそんな写真が存在することに驚いていた。
今回の写真集のための撮影はツアーに合わせて、全国各地で撮影している。札幌公演の後は登別温泉に泊まり、翌朝倶多楽湖(くったらこ)で撮影したりしたが、最終的にはツアーが終わってから、アクアライン途中の海ほたる、“降りられない駅”として有名な海芝浦駅、大江戸温泉物語、などで撮影した写真を追加した。大江戸温泉物語では水着写真も出しているが、水着写真については、デビュー以来の毎年の水着スナップを並べることにした。これについては発売後
「今回の妊娠中のマリちゃんを除いてはほとんど体型が変わってないのが凄い」
と言われた。
そういう訳でこの写真集は私と詩津紅に小風で主として写真のピックアップ作業をさせてもらい(政子を入れると変なのばかり選ぶ)、専門家の意見も聞いて最終的には写真家の桜井理佳さんに監修してもらい、彼女のスタッフの手でまとめあげて年明けの発売とすることになった。カウントダウン・ライブの会場でも先行して販売する。
私は春から夏に掛けて300曲くらいの曲を書いた(らしい)のだが、そこでレフェリーストップ?が掛かり、私は当面の間、1ヶ月に1曲までしか書くことを禁じられた。これは私自身も関わっている《夢紗蒼依》プロジェクトを含む3組の作曲量産プロジェクト(夢紗蒼依・松本花子・望坂拓美)が動き始めて、私が書かなくても何とかなるようになったことも大きい。
私が作曲を禁止されたのが7月で8月に約1ヶ月ぶりに書いた曲は
「ああ。少しはよくなったね」
と言われて
「これは琴沢幸穂さんに手直してもらってUDP(上島代替プロジェクト)に回そう」
と和泉に言われ、結局“紅石恵子”作詞作曲名義で、三つ葉に渡された。
『檸檬爆弾』(れもんばくだん)という曲で、梶井基次郎の小説『檸檬』を下敷きにして、片思いの彼氏の家の玄関にレモンを置いて来るミッションを実行する、という物語である。三つ葉の3人は結構気に入ってくれて、実際に3人が1個ずつレモンを買い、各々の思い人の家の玄関に置いて来る様子をPVにまとめた。
波歌(しれん)はちょうど玄関が開いて出てきた彼氏と遭遇し、笑顔で挨拶されたのでレモンを手渡して、お話をすることができ、嬉しそうな顔をしていた。八島(やまと)は玄関でお母さんに遭遇。ビビってレモンをお母さんに渡したまま逃げ出してしまう。お母さんは首をひねったものの、持って行って料理に使ってしまった(このお母さん好きだと言われた)。そして優羽(ことり)は置く家を間違えてしまい、ヤクザ風のおじさんに「君可愛いね」と言われ、追いかけられるのを必死に逃げる。
だいたいこの3人では、優羽(ことり)は落ちに使われることが多い。
彼女は2016年春のオーディションに合格して「三つ葉」でデビューしたのだが、オーディション関係には何度も参加していて、実はアクアが優勝した2014年の第1回ロックギャルコンテスト、続いて行われた最後のフレッシュガールコンテストにも参加していたらしい。それで初代ロックギャルになった高崎ひろか、最後のフレッシュガールになった品川ありさと、当時から交流がある。§§プロの練習生だった時期もあり、実は高崎ひろかのコンサートでバックダンサーを務めたこともあったという。彼女の如才なさには芸歴の長さも影響しているのかも知れない。歌唱力のあるリーダー波歌、人気の高い八島の間に入ってユニットのまとめ役になっている。
波歌(しれん)の彼氏の役を演じたのは彼女自身の弟・太陽(みとら:高校2年)である。ファンから嫉妬される可能性がない人物として起用された。でも撮影後お互いに吹き出したという話である。八島(やまと)の思い人のお母さんを演じたのは湯沢駒子という女優さんである。ドラマや映画で端役を多数こなしてきているのだが、今回のPVで三つ葉のファンたちから大いに注目された。ヤクザ風のおじさんを演じているのはサウザンズのドラマー獄楽なのだが、若い世代には必ずしも馴染みが無かったのが知名度が高まり、この後バラエティなどでヤクザの役をする機会が増えることになる!
カップリング曲は『銀河旅行』(松本葉子作詞・松本花子作曲・イリヤ工房編曲)である。松本葉子・松本花子の作詞作曲ペアは私が関与している《夢紗蒼依》と前後して夏頃から活動を始めた(恐らく)集団ソングライトグループだが、その作品の多くが今年春に独立したイリヤさんの工房で編曲されている。イリヤさんは今年春に独立した直後に上島事件が発生し、仕事が無く本当に困っていたようである。それが松本姉妹の仕事を受注したおかげで、仕事が急増し、春先は給料だけもらって暇にしていたアレンジャーたちが現在フル回転で、更にアレンジャーを募集しているらしい。
このCDは10月上旬に発売されると、今年は全体的にCDの出荷数が少ないという状況もあり、チャートで週間1位、月間1位を獲得。そして年末には10万枚を突破して、三つ葉にとってデビュー曲以来2度目のゴールドディスクとなった。
私が10月に書いた曲は政子からは「病気だね」、和泉からは「欲求不満では?」と言われた。不協和音だらけの曲である。
Cat People
黄金色をした絹のとばりが降りて来た
妖しい調べを歌う鳥は消えてしまった
銀の水滴が1つ落ちると花弁は開く
真紅の薄灯りの中、二人は猫になった
やはりまだまだかなあと思っていた時に千里が来たので見せると
「かなり回復したね」
と言われた。そして彼女は
「私が詩を補作してあげるよ」
と言って、その場で1時間ほど掛けてサビの詩を書いた。そして千里はこのサビ部分に“まるで高校時代の私が書いたかのような”メロディーをわずか5分で付けた!更に2番の詩を3時間掛けて書いた。
「まあ、こんなものかな」
「テンションコードを直されるかと思った」
「この歌にはあっていいよ。だからクプレが不協和音、ルフランは協和音」
と千里は言った。
「でもこれローズ+リリーのシングルでは出せないね」
と千里。
「誰か他の人に渡す?」
と私は訊く。
「とんでもない。『十二月』か『星たちの歌』に収録すればいいんだよ」
「あっそうか!」
「でも千里、凄い時間を掛けて書いていたね」
「冬は最初のこの詩、どのくらいで書いた?」
「30分くらい」
「冬って元々速筆だったけど、次書く時は、もっとゆっくり書いてごらんよ。泉から水を汲んで走って持ち帰ったらこぼしてしまう。こぼさないようにゆっくり持って帰るんだよ」
「あ、そのたとえは何となく分かる」
「ところで千里、今年のカウントダウン・ライブでまたバヤンを頼めない?」
「いいよ。『雪を割る鈴』でしょ?」
「そうそう。あれはカウントダウンには無くてはならない曲になったよ」
「じゃ楽器貸して」
「うん。持ってって」
「笛も?」
「多分。まだ演奏担当を正確には組み立ててないけど、龍笛とか篠笛とか頼むと思う」
「今年は青葉の予定が分からないしね」
「あの子も忙しそうだね」
「私は3人いるし、冬も10人いるけど、あの子は1人だから大変だと思う」
「私、10人もいないよ!」
「12人だったっけ?冬子Aから冬子Mまで」
「AからMまでなら13になると思うけど」
「ああ!冬は13人いるんだ!」
ところで謹慎中の上島雷太先生であるが、3月末に処分保留で釈放された後、沖縄の木ノ下大吉先生の家に籠もり、その後、泡盛の酒造所で麹(こうじ)作りの仕事をしている。作っている最中は24時間気が抜けない重労働である。奥さんの春風アルトさんも一時は上野陸奥子さん(今井葉月の叔母)の家に居候していたのだが、7月には沖縄に移動し、上島先生に合流した。現在夫婦で木ノ下先生の家にお世話になっている。
そしてそのふたりに赤ちゃんが出来たというので、私は大いに驚き、また直接アルトさんの携帯に掛けて祝福した(上島先生は現在携帯を持っていない)。
「私は赤ちゃんは産めない女だと思っていたから、妊娠してますってお医者さんに言われた時は、涙を流しちゃった」
とアルトさんは言っていた。
「妊娠していると言われて泣いたら、シングルマザーか何かと誤解されませんでした?」
「いや、不倫かと思われた」
「そちらですか!」
「自分は実は男だってことはないか?と不安になった時期もあったからね。妊娠したことで女の証明ができたよ」
などと春風アルトさんは言っていた。
上島先生は2004年から2007年に掛けて別々の女性に1人ずつ子供を産ませているものの、2008年に結婚したアルトさんとの間にはこの10年間1人も子供が生まれなかったのである。一時は不妊治療もしたようだが、どうしても妊娠に至らなかった。
なお予定日は3月下旬ということで、逆算すると、アルトさんが沖縄に行き、4ヶ月ぶりに上島先生と再会した頃に受精したことになる。
今年のお正月のアクアのドームツアーは次のように発表された。
1.1 博多ドーム 1.2 京阪ドーム 1.3 愛知ドーム 1.4(金)休み 1.5(土)北海ドーム 1.6(日)関東ドーム
その前にアクアは12月31日の桜野みちるの引退ライブ(関東ドーム)にもゲスト出演することが発表されている。29日のRC大賞、31日夜のNHK紅白歌合戦にも出場する。それ以外にも様々な年末年始の特別番組の収録がある。
もっとも内情としては、3人のアクアが日替わりで稼働するので、実はそんなに大変ではない。しかもツアーの最中は他の仕事をほぼ断れるのである。
12月31日(東京) アクアN
1月1日(博多) アクアM
1月2日(大阪) アクアF
1月3日(愛知) アクアN
1月5日(札幌) アクアM
1月6日(東京) アクアF
つまりNは大晦日に東京の後は3日に名古屋、Mは最初から博多に行っていて1日にライブをしたら北海道に飛び5日に札幌。Fは2日に大阪に出てから6日に東京である。各々は空き時間には次のCDの練習をしたりドラマの台本を読んだりしているという。
「でもボクたちやはり3人分働かされている気がする」
とアクアFは文句を言っていたが!
アクアが3人いることを知っているのは、山村マネージャーと私に千里のみだが、多分社長の秋風コスモスも薄々気付いているように思う。
ちなみに紅白のリハーサルに出るのはほぼ今井葉月で29-30日の2日間朝から晩まで拘束される。全くお疲れ様である。RC大賞はリハーサルに出る必要は無い。もっとも葉月がNHKに拘束されている間、アクア本人は年末年始の番組にひたすら出演しまくっている。そのリハーサル役が必要な場合は、山下ルンバが務めていた。
山下ルンバは2019年デビュー予定で、この名前も最近もらったものだが、まだ現時点では身分としては§§プロの研修生(B契約)である。過去に§§プロの様々な歌手のバックダンサーやコーラスも務めていて、芸能活動歴自体は長い。4年前の第1回ロックギャルコンテスト、翌年の第2回ロックギャルコンテストの最終選考に2年連続で残った子である。高校は3年間§§プロの研修所から通い、“研修所の主”を自称していたが、高校卒業とともに綾瀬駅近くにワンルームマンションを借りて独立した。芸能活動の傍ら、§§プロのスタッフのような仕事もしていて、どちらかというと、そちらの収入の方が多いのは、最近は今井葉月のスタッフと化している桜木ワルツとも似ている。
山下ルンバは今年夏のロックギャルコンテスト優勝者・原町カペラ(第5代ロックギャル)と前後して2019年の1-3月頃に歌手デビュー予定だが、2019年春にもう1人§§ミュージックからデビュー予定と聞いて私は驚いた。一挙に3人デビューとなると、2014年秋から2015年春に掛けて品川ありさ・高崎ひろか・アクアの3人がデビューした時以来である。
山下ルンバ同様、研修生(B契約)からのA契約(アーティスト契約)転換なのだが、私はそのもうひとりの研修生“桜野レイア”と面会して、仰天した。
「レイアちゃん?」
「おはようございます、桜野レイアです。その節はお世話になりました」
と言っているのは秋のローズ+リリーのツアーに参加してもらった、ドラマーのレイアである。
「僕は桜野やよい、という芸名を考えていたんだけど、本人がレイアの名前で一部に知られているから、それをそのまま活かした」
と紅川会長が言っている。
そして
「私の妹なんです」
と言っているのは、今年いっぱいで引退して結婚する予定の桜野みちるである。
「レイアちゃん、みちるちゃんの妹だったんだ!?」
「似てない姉妹だと言われます」
と桜野レイアは言っている。
「お姉ちゃんはお母ちゃん似で背丈も普通で、美人でおっぱいも大きいけど、私はお父ちゃん似であまり可愛くなくて背が高くておっぱいも小さい」
「美人なのに!」
「おっぱいが小さいのは、玲香、豆腐とか納豆とかが嫌いだからだと思うな」
とみちるは言っている。
「豆腐は百歩譲っても、納豆なんて人間の食べ物じゃない」
などとレイアは言っている。
「あれ?レイアちゃん、秋口には、大学出た後はお姉ちゃんのマンションに居候して、バイトで食いつなぐとか言ってたね!」
「その計画が崩壊しました」
「今住んでいる所は分譲マンション?」
「そうなんですよ。賃貸ならまだ何とかなっていたんですけど。10年ローンで2015年春に買ったから、まだ2000万円くらい残っているんですよ」
「それ扱いはどうなるんだっけ?」
「私は無職になるからとても払っていけないので売却の一択ですね。少し残債が残っても印税で何とかなるかなぁ、という所です」
とみちる。
「レイアちゃんがローンを引き継ぐとかは?」
「毎月25万円なんて無理〜。だから私はどこか安いワンルームでも借りようかと」
「大変だね!」
「それもあって、デビューさせてもらうことにしました。A契約に切り替えたらお給料40万円頂けるということなんで」
「手取りは30万以下になると思うけどね。まあ、最初はそこからスタートで。売れたら年度の途中でもお給料アップするよ」
と社長のコスモスは言っている。
「売れるといいね!」
「松本先生(松本姉妹)から曲を頂きました」
「それでケイ先生、松本姉妹は楽曲の提供だけで、制作には立ち会えないから、お忙しい所申し訳ないんですけど、制作の指揮をお願いできませんか?。期間は1週間くらいだと思うんですけど」
とコスモスが言う。
「いいよ。今比較的時間が取れると思う。これ演奏は打ち込み?」
「私が自分で演奏して自分で歌います。多重録音になるので時間は掛かってしまうんですけど。しっかり練習しておいて、ケイ先生にできるだけご負担を掛けないようにしますので」
とレイアが言う。
「自分で演奏するんだ!?」
「この子、器用なんですよね〜。今所属しているバンドではドラムス打ってますけど、ギター、ベース、キーボードも弾けるから」
とみちる。
「何年も§§プロの研修生やってたから、ギターとベースと電子キーボードはそのレッスンで覚えたんです。私、小さい頃はピアノとヴァイオリン習ってたんですけどね」
「へー!」
「私たちの母が元スクールメイツなんで、音楽教育には熱心だったんですよ」
と桜野みちる。
「スクールメイツか!」
「テニスルックでボンボン振ってアイドル歌手のバックで踊っていたそうです。でも母はエレクトーンしか弾けないんですよ。それで娘が生まれたらピアノを習わせようと思っていたらしくて」
「じゃ、みちるちゃんもピアノとヴァイオリンが弾けるんだ?」
「ピアノは今でも弾けますけど、ヴァイオリンはダメですね。玲香は楽器の才能はあったみたいで、ピアノ・ヴァイオリン上手いし、フルートも吹けるし、中学の頃はブラスバンド部の助っ人もしてたね」
「うん。サックスとかトランペットとか吹いてた。私、肺活量だけはあるし」
「そのあたりはスポーツで鍛えているのもあるね」
「歌では姉に勝てない分、楽器で頑張りました」
「いや、それは凄いと思う」
実際の桜野レイアの制作はこのようにして進めた。
松本姉妹から提供された(未編曲の)ギターコード譜を、レイア自身がエレクトーンで演奏する。その伴奏を聞きながら本人が歌って、叩き台の音源を作る。
レイア本人、川崎ゆりこ、私の3人で検討をして修正する。修正したスコアでエレクトーンを弾き、それに合わせてボーカルを入れて修正版の音源を作る。これを納得のいく所まで練り上げる。
この作業で1日使った。
しかしコスモスは私に頼むと言ったのに、ゆりこを付けさせている。恐らくはゆりこは「あんたも若い子の制作指揮をしてよ」とか言われて、制作指揮の勉強をするためにここにいるのだろう。だから今回の私の報酬は高額なわけだ。
スコアが固まった所で、その音源を聴きながらレイアのドラムスを入れる。そのドラムスを聴きながらベースを演奏する。それを重ねた音源を聴きながらギターを弾く。そこまで重ねた音源を聴きながらピアノを弾く。この音源に更に歌を入れる。今回はここに更に、フルート、アルトサックス、ヴァイオリンも加えたが、レイアはどの楽器もひじょうに上手く弾きこなし、私は彼女の演奏技術についてはほとんど注文を付けなかった。私が指示したのは主として感情表現に関する部分である。さすが10代のアイドル歌手とは違うなと思った。
これをタイトル曲とカップリング曲で繰り返して、実際問題として音源は4日で完成してしまった。
5日目の午前中、再度音源を聴いてみたが、問題は無いと思った。
「かっこいい演奏になりましたね」
と川崎ゆりこは言った。
「まあ私は今更可愛く可愛く売る年齢でもないし」
とレイアは言っている。
実質4日間と5日目は午前中だけで終わっても、私は7日分の謝礼を頂いたのだが
「さすがにもらいすぎ」
と言って1日分はコスモスに返却した。
「じゃ、ゆりこのボーナスにしておこう」
とコスモスは言っていた。
その5日目の午前中には、姉の桜野みちるも様子を見に来た。
「さっすが。スムーズに仕上がったね」
と言って、彼女も音源の仕上がりに満足していた。
「じゃ、後はデビューまでに、おちんちん切って女の子の形に直すだけだね」
と桜野みちるは言った。
「大丈夫。もう病院予約しているから。ちんちんとサヨナラする覚悟もできた。ちんちん無くなると寂しいかもしれないけど我慢するよ。手術が終わったらすぐ戸籍も直すね」
とレイアは言っている。
私はびっくりした。
「レイアちゃん、男の子だったの!?」
「まさか。私と姉のいつものジャブです」
「なーんだ。びっくりした」
「実は私の方が元男の子で、デビュー前に去勢して高1の夏休みに性転換しましたけどね。だから実は私は長男で玲香は長女なんですよ」
とみちるが言うので
「マジ!?」
と驚くと
「それも姉がよく言う冗談です」
とレイアが言っている。
「もうマジとジョークの区別が分からない!」
「うちのお母ちゃんも、生まれた時は男の子だったけど、スクールメイツ加入前に強制的に手術受けさせられて女の子になったとよく言うね」
「あれ信じている人もいると思う」
「アイドルデビュー前に手術するのとか、わりとあるという噂もあるし」
「顔を直す人は時々いるけど、お股を直す人はめったに無いのでは?」
「じゃ私たちは誰が産んだのよ?というと、お父ちゃんが産んだとか言うし」
「そんな無茶な!」
「母の精子を保存していたもので父が妊娠して私たち2人が生まれて、その後、父も性転換したという話で」
「それは物理的には可能だけど」
「昔は戸籍の性別を変更できなかったけど、元男の女と、元女の男は結婚可能だったんですよね」
「ああ、そういう逆転夫婦は現実に時々いるよ」
と言って、私は雨宮先生と三宅先生の夫婦のことを考えていた。もっともあの2人は法的に婚姻可能であるのに、事実婚のままの状態を選択している。
2018年11月11日(日).
今年の各種歌謡賞のトップを切ってBH音楽賞が発表され、授賞式も行われた。今年は例年12月上旬に発表されていたYS大賞が無くなってしまった。昨年のテレビ放送で終了し、今年度からは演歌を対象とする賞に衣替えして2月発表になっている。時期的には3月に発表されるGD大賞・CD賞と似たよう時期になるのかも知れない。この後は12月中旬のDL大賞、年末のRC大賞が比較的大きな音楽賞である。
そういう訳で今年のBH音楽賞ゴールド賞の受賞者は下記である。
アクア『旅人の休息』
カラー・ボックス『ノックノック』
KARION『赤い橋のたもとで』
北里ナナ『ナナの海』
金属女給『ブラック勤務の1日』
カトラーズ『バンブーグローブ』
ゴールデン・シックス『急がば走れ』
桜野みちる『竹細工の宝石箱』
品川ありさ『ふたつの滝』
島田春都『シンコペーション・クロック』
ステラジオ『どんどん虫が湧いてくる』
津島瑤子『冬の月』
奈川サフィー『Password』
ナルカヤ32『アンノウン・フィーリング』
ハイライトセブンスターズ『玉葱の馬車に乗って』
FireFly20『夕日と砂浜』
蓬莱男爵『Heartless World』
松浦紗雪『大きな海大きな空』
松原珠妃『ロコモコ前奏曲』
リダンダンシー・リダンジョッシー『君といつか』
レインボウ・フルート・バンズ『ハートマン君、訓練だ』
丸山アイ『あなたと私の新大陸』
三つ葉『檸檬爆弾』
山森水絵『孤独なランナー』
ローズ+リリー『お嫁さんにしてね』
アクアは自身の名義でも受賞したが、北里ナナ名義でも受賞している。そちらは川崎ゆりこが代理で賞状をもらい、歌唱は録画が流された。蓬莱男爵はデビューしてから4年ほど経つが、こういう大きな賞の受賞は初めてで、泣きながら賞状を受け取っていた。
ステラジオの作品は今年賛否の割れた作品である。歌詞の内容がコカイン中毒の症状に似ていると言われ、ステラジオのふたりは薬物検査を受けさせられた!もちろん陰性だったが、この歌は放送禁止・学校での使用禁止の通達があった。しかし大量にダウンロードされて、大きなセールスとなった。この授賞式では「都合により歌唱を辞退します」とナミが言っていた。
この他22歳以下を対象とするヤング賞には下記の10組が選ばれている。
アクア、松梨詩恩、M&H、ホワイトキャッツ、青島瀬梨香、松元蘭、フローズンヨーグルツ、ボニアート・アサド、白鳥リズム、島田春都。
アクアと島田春都はゴールド賞とヤング賞のダブル受賞である。
「男の娘強いな」
「アクアは男の娘ではないと思う」
「女の子だっけ?」
「島田春都は性転換手術しちゃったから、もう男の娘ではないと思う」
「女の娘?」
島田春都は春にデビューした時はお金が無いからいつ性転換手術ができるか分からないと言っていたのだが、曲が売れてたくさん印税も給料ももらったので手術を受けられることになり、夏の終わりに国内で手術を受けたのである。そのことについて訊かれた春都は
「ファンの皆様のおかげで女の子になることができました。本当にありがとうございます。復帰したら、頑張ってお仕事しますね」
と言っていた。
「春都ちゃん久しぶりに見たね」
「心配してたけど元気そうで良かった」
「授賞式だから出てきたけど、今月いっぱいまではお休みらしい」
「だけどやはり性転換手術すると3ヶ月休まないといけないんだな」
「ラジオ出演も2ヶ月経った今月初めからだったね」
「だったら、やはりローズ+リリーのケイが2011年の4月に性転換手術を受けたというのは明らかな嘘だな」
「あれ、手術したと称する日の一週間後にライブやってるからな」
「やはり、性転換したのは休養していた高校3年の時か、あるいはデビュー前の高1の時かどちらかだな」
ところで、今年の受賞曲の中で私が書いたのは三つ葉の『檸檬爆弾』(紅石恵子名義)だけであった。マリ&ケイの作品ということになっている『お嫁さんにしてね』は実際には千里の作品である。
嫉妬する訳ではないが、千里は、これ以外にアクア『旅人の休息』(琴沢幸穂)、北里ナナ『ナナの海』(琴沢幸穂)、津島瑤子『冬の月』(鴨乃清見)、山森水絵『孤独なランナー』(鴨乃清見)と4曲、『お嫁さんにしてね』まで入れて5曲も入っている。
また今年は夢紗蒼依の作品が、奈川サフィー、スカイロード、島田春都、松梨詩恩、などと入っているし、松本姉妹の作品も桜野みちる、品川ありさ、松浦紗雪、白鳥リズム、ボニアート・アサドと入っている。今年§§ミュージックの歌手は松本姉妹作品が多い。コスモスに「松本姉妹と会った?」と尋ねてみたのだが、彼女も会っていないらしい。あれは窓口になっている木ノ下大吉先生と紅川会長との個人的なつながりから、優先的に良い作品をもらえているのだという(松本花子の作品にはいわゆる“量産品”的な歌が多い。しかしそれを求める需要が存在する)。
私は昨年かなり精神的に参っていた所で、今年の春から夏に掛けて無理したので、まだ緻密な作業ができない状態になっているのを自分でも感じていた。『檸檬爆弾』も下川工房のアレンジャーさんが魅力的な編曲をしてくれた故のヒットだと思う。
どこかで何とか復活のきっかけをつかみたい、と私は思い悩んでいた。
2018年11月30日(金).
アクアが主演する映画『80日間世界一周』が劇場公開された。公開された最初の一週間で観客動員が180万人、興行収入20億円を突破した。動員数に対して売上がやや少ないのは見に来ている主力が中高生であるためである。男女比は男4:女6くらいで相変わらず、アクアは男女双方に人気が高いことを示していた。
政子は初日に、アクアが舞台挨拶する映画館のチケットをコネを駆使してゲットし、客席から黄色い歓声を送ってきたらしい。パンフレットや映画館で販売していた関連グッズを買ってきてご満悦の様子であった。
批評家たちのコメントも概ね好意的であった。特に映画の中で20分も掛けたインドでのお祭り騒ぎの部分は、本当にインド映画的なノリで面白いと多くの人がコメントしていた。また適当に数カ所でロケして誤魔化すのではなく、多忙なアクアを1ヶ月まるごと拘束して本当に世界一周旅行してきて撮影したのは素晴らしいという評もあった。イエローストーンの景色が美しいという評価ももらった。
12月5日(水).
北里ナナの3枚目のシングル『シルバークリスマス/風車小屋の娘』が発売された。記者会見を開いてくれという要請がひじょうに強かったので、北新宿のTKR大ホールで会見が行われた。当日はアクアのCDの会見より多いのではないかと思うほどの記者が詰めかけた。
当日出席したのはこういう面々である。
事務所社長のコスモス、レコード会社の三田原部長、『少年探偵団』プロデューサーの小池、覆面をした!加糖珈琲(=田代蓮菜)、私、そして3Dプリンタで制作した“ナナちゃん人形”である。実は昨年の放送でナナが誘拐されるシーンで使用されたものだ。
マリは妊娠中なので欠席、琴沢幸穂は海外出張中なので欠席ということにした。
「覆面をしておられるのは怪人二十面相さんでしょうか?」
「加糖珈琲です」
「加糖珈琲さんはなぜ顔を隠しておられるのでしょうか?」
「私は実は医者をしておりまして、音楽活動については病院の許可は取っているのですが、患者さんが私を見て騒いだりするとよくないので隠させて頂いております」
この点については記者たちもあまり突っ込まなかった。
「北里ナナさんですが、まるでお人形のように動かないのですが、生きておられますか?」
「生きてますよ」
というアクアの声がするので、記者席がざわめく。
「あのぉ、アクアさん、近くにおられます?」
「アクアって誰でしょうか?私は北里ナナですけど」
「北里さん、女の子ですよね?」
「もちろんそうですよ。ちんちん付いてないから間違い無く女の子です」
質問する方もする方だが、記者席では忍び笑いが多数起きていた。
「では歌って頂きましょう」
と三田原が言うと、場内の灯りが落ちる。ナナちゃん人形の隣にいる加糖珈琲が人形に黒い幕を被せる!それと同時に会見席の後方の幕が上がったが、そこには覆面をしたバンドがいる。そのバンドの前方にとても可愛いピンクのドレスを着た北里ナナがフェイドインするかのようにすーっと姿を現す。記者席にざわめきが起き、多数のフラッシュが焚かれる。
登場したナナはバンド演奏に合わせて『シルバークリスマス』と『風車小屋の娘』をいづれもショートバージョンで歌唱した。ビデオ撮影している記者もあった。
北里ナナは歌い終えると笑顔で手を振る。多数の拍手が送られる。そしてナナはすーっとフェイドアウトするかのように姿を消した。後にはバンドだけが残っている。
幕が降りる。と同時に加糖珈琲はナナちゃん人形に被せていた黒い幕を取り払う。そして灯りが点いた。
「今のはペッパーズゴースト(*1)ですか?」
という質問がある。しかし三田原は
「ご想像にお任せします」
と答えた。
実際問題としてあの登場・退場の仕方が人間ではあり得ない雰囲気だったので、多くの記者がやはり立体映像なのだろうと思ったようであった。
(*1)ペッパーズ・ゴースト(Pepper's Ghost)というのは、45度の傾斜を付けたハーフミラーを使用して実像と虚像を重ねる技術で、東京ディズニーランドのホーンテッド・マンション、また初音ミクやPerfumeなどのコンサートで使用されているもの。しばしばホログラフィと混同されるが全く別の物である。
今回のアクアの登場は確かにハーフミラーを使用しているが、実はハーフミラーの向こうでは本物のアクアFが歌っていた!出現と消滅は彼女に当てるスポットライトの増光・減光によるもの。
その後、楽曲の傾向などについては主として私が説明した。実際には私は今回の制作には関わっていないのだが、だいたいの話は和泉やマネージャーの山村さんから聞いていたので、問題無く答えることができた。
記者の質問はその後『少年探偵団』の今回のシリーズや、今後の展開などについて尋ねるものになっていき、これは小池プロデューサーが答えていた。
「北里ナナちゃんは今回のシリーズにも登場しますよね?」
「2回以上は登場する予定です」
「このドラマを映画化するご予定は?」
「今の所は未定です」
12月20日(木).
今年のDL大賞が発表された。これは大手ダウンロードサイト、Direct-CDが単純にダウンロード数で上位の楽曲を表彰するものである。
1位はカトラーズ『バンブーグローブ』、2位がカラー・ボックス『ノックノック』、と発表された。カトラーズは随分前から活動していて、様々なアーティストに楽曲を提供してきているが、自身が大きな賞をもらったのは初めてである。カラーボックスは15年ほど前に若い世代に大人気だったのだが、久々のヒットであった。今年は日本中が『ノックノック』で歌いまくり、踊りまくり大ブームとなっていた。小学生の鼓笛隊や中学高校の文化祭などでも多数取り上げられたようである。
3位以降にはベテラン歌手が多くランクインしている。このランキングはブームに惑わされずに本当に広く愛されている曲がランクインする傾向がある。またダウンロードは1人が複数ダウンロードして票数を上げるような操作がしにくい(同じidで複数回ダウンロードしても単なる“落とし直し”とみなされる)ので組織票が入りにくい。そのため最近は最も本当の流行を反映したランキングとも言われている。
なおアクアは昨年発売した『サンダーボルト』がかろうじて10位に入っていた。ローズ+リリーは『同窓会』が16位に入っていた。
12月26日(水)にはアクアの14枚目のシングル『変装合戦/七つ道具の歌』が発売された。『少年探偵団II』の主題歌である。
曲のクレジットは『変装合戦』は岡崎天音(マリ)作詞・大宮万葉(青葉)作曲、『七つ道具の歌』は琴沢幸穂作詞作曲である。
“七つ道具”というのは少年探偵団の子たちが持っている常備品で、作品によって微妙に異なるのだが『黄金の怪獣』と『鉄人Q』では次のようなものが挙げられている。
BDバッジ、万年筆型の懐中電灯、磁石、呼び子の笛、虫めがね、小型望遠鏡、手帳と鉛筆。
最後は「手帳と鉛筆」でセットである。初期の作品では万能ナイフが入っていたのだが、読者の子供たちが真似したら危険と判断されたのか、上記2作品では代わりにBDバッジが入っている。BDはboy detectivesである。
今回のテレビシリーズではこのようになっている。
BDフォン、小型LED懐中電灯、小型望遠鏡、非常ブザー、虫メガネ、消毒薬と絆創膏、非常食パック。
BDフォンはBDバッジに代わるスマホで、PINまたはノックコードでロック解除できて更にパスワードを入れてデジタル団員証を表示できることで本物の団員であることを確認出来る。地図ソフトも入っているので磁石を省略できる。メールで連絡を取り合えるので呼子笛も不要である。GPS発信機能もあり、拉致されたらそれで追跡できる。
この『七つ道具の歌』ではこのひとつひとつの効用を挙げていき、サビ部分では道具の名前を連呼している。小学生に受けそうな感じの歌である。私はこの歌を聞いていて、昔松原珠妃が書いた『アンティル』という歌を思い出していた。
この発売記者会見にはアクア自身が出席してTKR大ホールで開かれた。いつものようにエレメントガードの伴奏で生歌唱してから記者会見を行う。この記者会見に出席したのは、
社長のコスモス、レコード会社の三田原、作曲者の青葉、そしてアクア本人である。
青葉は今月中旬には中国で短水路世界選手権をやっていたのだが、帰国してから溜まった仕事を頑張って片付けていたようである。彼女も全くお疲れ様である。青葉も春先には楽曲の品質が落ちていたのだが、夏頃から急速に回復してきている。
この日の記者会見では、コスモスと青葉から全体的な説明があった後、色々質疑応答に応じていたのだが、
「最近、北里ナナさんの人気も凄いようですが、どう思われます?」
と訊いた記者が居た。しかしアクアは
「女の子歌手のことはよく分かりません」
と答えた。
「アクアさんは、男の子ですよね?」
と別の記者が訊く。
「ええ。間違い無く男の子です。ちんちん付いてますし」
とアクアが答えると記者席に忍び笑いがある。
ついこないだは北里ナナの質疑応答で「ちんちん付いてないから女の子です」と答えている。この受け答えはけっこう受けて、ふたつの動画を並べて動画掲載サイトにアップする人があった(もちろん数時間以内に著作権侵害で削除された)。
「ところで本当はアクアにはちんちん付いているのか?」
というネットでのアンケートでは9割が
「ついてない」
の方に投票していた!
「アクアさんの来年のご予定を聞かせてください」
という質問があるのでコスモスが答えた。
「『少年探偵団II』の撮影は2月までの予定で、その後『ほのぼの奉行所II』の撮影に加わる予定です。夏にはまた映画の撮影をして、その撮影が順調にいけば、秋にミニアルバムを制作する可能性もありますが、これは状況次第でお約束はできません。年末以降は未定です」
「『少年探偵団III』もやりますか?」
「『少年探偵団II』の反響次第ですね」
「夏頃に撮る映画のタイトルとかは決まっていますか?」
コスモスが三田原さんと顔を見合わせたが、三田原さんが頷くのでコスモスは発表した。
「まだ暫定的なもので予定が変わる可能性はありますが、『ヒカルの碁』を現在第1候補にしています。実はアクアは囲碁二段の免状を持っているんですよ」
意外な名前が出てきたのでざわめきが起きている。アクアが囲碁の有段者というのも初耳だった記者が多いようである。
「その場合、アクアさんは女役はしないのでしょうか?」
という質問がある。
アクアが思わず笑いそうになって、少し頬を赤らめて俯いた。
「主人公・進藤ヒカルのライバル棋士の女の子をアクアが演じる可能性があります」
とコスモスはアクアの背中に手をやりながら答えた。
「それは、もしかして原作の塔矢アキラに相当するキャラでしょうか?」
「そのあたりはまだ構想段階ですが、アキラ君は出てくるものの、アキラより更に強い少女棋士という設定になるかも知れません」
「だいたいどのくらいの付近を想定しているのでしょうか?」
「映画で語れるストーリーは短いので、棋士試験がテーマになるかも知れません」
「それなら登場人物はかなり多くなりますね?」
「はい。『80日間世界一周』はほぼ4人だけで撮影しましたが、もし『ヒカルの碁』をする場合は、2次試験を受ける人だけでも28人ですから、かなりの人数になりますね」
とコスモスは笑顔で答えた。
この会見の後、ネットでは「ぜひ女の子アキラちゃんを見たい。もちろんアクアで」という書き込みが大量にあふれていたが「ひょっとして奈瀬明日美のスーパー明日美化では?」という予想(期待?)の書き込みも結構あった。
「ちなみに佐為はたぶん女優さんがやるよな?」
「山村星歌を希望する」
「丸山アイも面白いと思う」
「佐為も男佐為と女佐為がいて、男佐為が男アクアに憑いて、女佐為が女アクアに憑いて、男佐為vs女佐為の対決とか?」
といった凄い予想をする人もあった。
「その場合は、アクアと丸山アイが各々男女両役かな?」
「丸山アイの男役も凄いもんなあ。マジで男に見えるもん」
「丸山アイの男の娘説というのは?」
「学生服着ている写真が流出してたよな?」
「あれはコスプレという同級生の話があった」
「子供を2人産んでいるという噂があるから、男の娘ではないと思う」
今年のローズ+リリーのカウントダウンライブは、マリが妊娠中であるため、マリは“立体映像”+生歌で出演することになった。
マリと似た体型の美空に、モーションキャプチャー用マーカーを付けてもらい、演奏予定の全曲目を歌いながら踊ってもらった。これを記録して別途マリの動きを3D撮影したものから、マリが踊っている3D映像を生成したのである。この計算にスーパーコンピューターMuse-3を一週間走り続けさせた!投影する装置はAI-Museの山鳩さんの古巣の大学の研究室と共同で5000万円(実費)で制作した。
撮影について、最初はまだ妊娠の週数が進まない内にマリ本人に踊らせようと言っていたのだが、安定期に入る前の妊婦を踊らせて不測の事態があってはいけない、と和泉が反対した。そして美空にやらせるよと言ったので、美空の出番となった。美空はギャラ200万円とステーキ食べ放題で引き受けてくれた(200万円よりステーキの方に釣られた感じだ)。
これで生成したのは身体の動きだが、顔の表情については当日リアルタイムで撮影して映像に填め込む。そのためマリは顔の周囲にフェイスカラーで“縁取り”をしていて、ステージ下に設置したスタジオで多方向からのカメラで撮影する。多数のカメラ映像からホログラムを自動計算で作り出して投影装置に表示する。CGH (Computer Generated Hologram) という技法で、レーザー光線をマリに当てる必要は無い(当てたら失明する)。この計算をリアルタイムでやるのにスーパーコンピュータのパワーが必要なのである。
マリは座って撮影に対応するが、視界には、前方に客席の様子、右には私の様子が撮影されてスクリーンに投影されて、リアルタイムで見ることができるようになっている。部屋はステージの真下にあるので、私の声、観客の声もそのまま聞こえてくる。
スタジオ内に居るのは、女性の技術者と女性看護師だけである。
計算処理は、会場のステージ地下に設置されているスーパーコンピューターMuse-3 (580TFlops)で行なうのだが(正確にはMuse-3の施設の真上にステージを作った)、超高速のスーパーコンピューターといえども、現在の技術では様々な省計算の手法を駆使しなければ、リアルタイム・ホログラフィは難しい。今回は身体の動きは録画したものを使用し、顔だけリアルタイムにすることで乗り切った。多分5年か10年先には、本当のリアルタイム・ホログラフィができるようになっているだろう。
会場はなだらかな傾斜地で、元々勾配3%だったが、0.5%勾配に地ならしした。それで400mで12mの高低差があったのが2mの高低差になった。高低差がある方が見やすいのだが、それでは雨除けのために設置する屋根をかなり高いものにせざるを得なくなり、費用が1桁大きくなるし、消防署の認可も取れない。
Muse-3用の施設を穴を掘って作り込み、若葉の趣味!?でその施設と旅館建設地の間に自動車がすれ違える!地下通路(幅7m 高さ4m)を設置した。敷地全体にアスファルト舗装するが、排水のため縦横に溝を掘り、グレーチング(格子状の蓋)を乗せている。この排水は濾過してタンクに溜め、トイレの水や掃除用などの“中水”として使用する。余ったら花壇の水やりにも使用する。
(敷地を囲む花壇には季節の花を植えるが、12月から2月に掛けては水仙である。黄色や白の花をライブ入場者に楽しませてくれるだろう)
敷地面積は幅250m×奥行き400mの10ha(10万m
2)あるが、いちばん低い部分(地下にMuse-3の施設がある)の上に常設の屋根付きステージ(30m×30m)を設置し、その左右に控室があるが、左右の控室はステージ後方の廊下で結ばれている。ステージが正方形なのは、いわゆるヨーロピアン・スタイルで、2%の傾斜がある“八百屋舞台”になっている。ステージ前面が奥側より低い。こうすることで、観客がより見やすくなり、ヨーロッパでは一般的である。野外なので床はコンクリートであるが、ライブをするときは、Pタイルを敷く。
ステージと観客席を設定する200m×270mのエリアには、高さ4-6mの支柱を多数立て、梁も設置する。柱や梁は私は鉄パイプを指定していたのだが、若葉の趣味で若狭杉に変更されていた!費用も数倍になったはずだが、若葉が払うのだからいいのだろう。そしてこの梁の上にオンデュリン製・繊維入り樹脂製の屋根材を傾斜付きで取付けた。
傾斜を付けるのは雨が降ってきた時にうまく排水できるようにするためである。排水用に多数の樋も走っている。屋根材は樹脂製なので防水・防音効果が結構高い。
屋根が取り付けられた後で周囲に防風を兼ねた壁(防音材を貼ったヘーベル)を二重に設置し(出入りのドアも二重になるので防音効果が出る)、室内灯やスプリンクラーも取り付け、最後に床部分にOAフロアのブロックを敷き詰めた。雨水が地面を走って観客が濡れないようにするためである。使用したブロックは21.6万個である。
これらの工事が終わった所で敷地全体を囲う防風防音壁を設置した。これは恒久的な設備だがパネル式なので、必要がある場合は取り外すこともできる。住宅地への音漏れ防止には、客席とステージを囲う防音壁と、敷地全体の防音壁の二重の備えとする。
なお、200m×270mではあるが実際に客を入れる領域は4万平米になる。これはステージの横と見切り席を除外するからである。
また敷地の山側には若葉が作った旅館や、千里が建てた体育館があるので、60mほどがふさがっている。それで会場と山側施設の間は70mほどあり、ここを駐車場として使用する。むろんアスファルト舗装して枠線も引いているが、一般車は利用禁止である。送迎のバスのみが使用する。大型バスが200台駐められるが、実際に使用するバスは、のべ1200台ほどになる。
トイレだが、4万平米という面積に対応するトイレの設置基準は計算すると700個程度になるが、安中榛名で基準通りの数(3万人に対して450個)で設置したら、かなり長蛇の列ができて辛かったという声があった(ライブは休憩時間にみんなトイレに行くので、野球場・競馬場などに準じた計算では足りないようである)。それで翌年の宮城県では(5万人に対して)1000個設置したが、それでも足りない感じだった。昨年の博多ドームは既存の施設を使用したが全く足りなかった!
それで今年は1400個(便器数)程度設置することにした。その多くはユニットハウス型のものを使用し、男性用トイレ(洋式1と小便器7個・手洗いセット)を72個と女性用トイレ(洋式5個・手洗い・化粧台セット)を144個、共用トイレ(女性用トイレと同じ仕様)を24個、オストメイト付きの多目的トイレも8個置くことにした(合計建物数248。便器数1424)。これを会場の左右に各々向い合せ4列(左右合わせて8列)配置した。これが長さ約180mになる。トイレがひたすら180m並ぶ様は壮観である。
配置は女性用トイレ2個並べて男性用トイレ1個置く方式である。共用トイレは中央付近に各列に3個ずつまとめて並べ、多目的トイレは分かりやすいようステージ側の各列端に置く。
男性用トイレと女性用トイレは外装の色が青と赤で異なるのと屋根に取り付けた男女マークでも分かるが、並んでいる人を見てもだいたい分かるであろう!(共用トイレは外装黄色)
共用トイレも置いたのは観客性比の見込み違いがあった場合の対策と、女装者だが女子トイレの使用にあまり慣れていない、あるいは“パス”していないので女子トイレを使用するには問題のある人(同様の男装者)への配慮もある。無論“パス”している女装者は普通に女子トイレを使ってもらってよい。
ローズ+リリーのイベントの参加者にはセクマイの人も多いし、セクマイではないが、イベントだからというので女装・男装して来場する人もある。
でもこの共用トイレはカップルの利用率が高かった!
トイレは会場の後方側に並べ(右側は駐車場にはみ出して設置:前述の図参照)、前方側には出店を並べて観客の食糧・飲料の確保をする。トイレとの緩衝エリアを空けて右側(奥側)120m, 左側(道路側)60mほどの長さに合計45個の出店を募集した。
左側15店舗は地元の商工会に投げ(実際には半分に区切って間口2mの小型店舗も作っていた)、主催者側で右側30店舗を募集。主催者枠には、敦賀・舞鶴、更には京都や大阪から参戦してきた組もあった。和実のクレールの姉妹店である京都のマベルも出店して、クレールやエヴォンのスタッフも応援に来ていた!
またそれ以外に脱水症や低体温症防止のため、無料の熱いお茶サービスを実施する。実際の作業は地元の青年会の人たちにお願いした。またパンフレットやCDなどのグッズ関係は、ステージ横に設置したグッズ売場で行う。左側にローズ+リリー、右側に§§ミュージックのタレントさんのグッズの売場を設置することにしたが、川崎ゆりこの提案で、§§ミュージックの売場の隣にアクアグッズ専用の売場を作ることにした!
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【夏の日の想い出・戯謔】(1)