【夏の日の想い出・戯謔】(2)

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その日、長崎市の谷山家では、幼稚園・年長の小歌が
「そろそろ起きなさい。幼稚園行くんでしょ?」
という母の声に起きて、半分寝ぼけたまま取り敢えずトイレに行った。
 
それで便器に座り、おしっこをしたら、いつもの出方と違うのでギョッとする。見ると、***が無くなっている!代わりに***があって、その間からおしっこは出ているのである。
 
「また、おねえちゃん、ボクの***もっていったな!」
 
それで出した後ちゃんと紙で拭いて、パンツとズボンをあげ、手を洗ってトイレから出ると、もう御飯を食べて着換えも済ませ、パソコンで遊んでいた小空に言う。
 
「おねえちゃん、ボクの***かえしてよ」
「今日は1日貸しといてよ。これ面白いんだもん。伸び縮みするし、立っておしっこできるし。小歌はどうせ座ってしかおしっこしないんだから無くてもいいじゃん」
「ないとこまるよぉ」
「何に困るの?」
「えっと・・・・」
「じゃ無くてもいいよね。どうせならこのままずっと私が持ってようかな」
「ないのはいやだよぉ」
 
谷山宏香は呆れて
「小空、あんたは女の子なんだから、***あってもしょうがないでしょ。ちゃんと小歌に返してやんなさい」
と注意する。
 
「じゃ今晩返すから今日1日我慢してよ」
「わかった。ちゃんとゆうがたかえしてよね」
 
それで姉弟の話はまとまったようであった!?
 

小歌はごはんを食べてから着換えようとして、幼稚園の制服のズボンが無いことに気付く。
 
「あ、おねえちゃん、ボクのズボンはいてる」
「だって今日は***があるからズボン穿きたいもん。あんた***無いんだからスカート穿いてきなよ」
「え〜〜?」
「スカート穿いてけば、また女子トイレが使えるよ」
 
むろん小空は男子トイレを使う気満々である。
 
「じょしトイレなんて、はずかしいよぉ」
「でも好きなんでしょ。個室でできるから」
 
しかし母は言った。
 
「それ騒ぎになるから、小空はズボン、小歌はちゃんとスカート穿きなさい。小歌は男子トイレ使うの禁止」
 
「え?ボクがスカートなの?だんしトイレつかったらダメなの?」
 
「間違った!小空がスカート、小歌がズボン。小空は男子トイレ禁止。小歌は女子トイレ禁止。小空、小歌に制服のズボン返しなさい」
「はーい」
と気の無い返事をして、小空は渋々ズボンを脱いで小歌に返した。
 
「でも小歌、スカートも好きなくせに」
などと小空は言っていた。
 
「お母さん、ちんちんって、取ったり、くっつけたりでくっと?そんなら、私も欲しかぁ」
 
とふたりの姉・多真恵(小2)が不思議そうにふたりのやりとりを見ている。
 
「このふたりんことは気にしてもしょんなかよ。ちんちんなんて付けても邪魔になるだけやけん、やめた方がよか」
と夏花美(小4)は言っていた。
 
「女だけの姉妹の一番下が男の子ってパターンはだいたい女装させられるもんと決まっとるね」
といちばん上の八千穂(小6)は言っているが、小空と小歌の日常はただの女装という範疇を超えている気はする。
 
谷山家では醤油の瓶が空を飛んでポンと小空の手に納まっても、傘が勝手に空を飛んで学校まで行ったりしても、誰も驚かない。
 

なお、細川貴司は自分の子供がこんな場所ですくすくと(?)育っていることを全く知らない。小歌は遺伝子上は京平の異母兄である(多分異母姉ではない)。
 
なお、2人の名前は小空:虚空、小歌:光太郎という語呂合わせになっている。
 
実際には「谷山光太郎」の名前は小空と小歌が共同で使用している。一種の共同ペンネームである。
 

若葉が建てていたスーパー銭湯旅館《藍小浜》はユニット工法で10月末には竣工。営業の許可も取り、従業員も募集して12月頭から営業を開始した。ただし12/30-1/2は全てカウントダウン・ライブの客で予約済みである。
 
千里が建てていた体育館もやはりユニット工法で11月末に竣工した。こけら落としに千里の知り合いの男子バスケチーム、市川ドラゴンスvs行田トルネーズの試合が行われ、地元の人たちも見物に来ていたが、おそろしくハイレベルな試合だったようで、見学した地元の高校の先生が「まるでNBAの試合のようだった」と言っていた。私は実際には見ていないが、さすがにNBAというのは大袈裟ではないかと思う。
 

1ヶ月に1作だけという制限の中で、私は8月に『檸檬爆弾』、9月に『アンダンテ』、10月に『Cat People』、11月に『愛の影』という作品を書き、『Cat People』は千里の勧めで次のアルバム用にリザーブすることにしたが、他の作品は紅石恵子名義でUDP(上島代替プロジェクト)に投入された。
 
12月に書いたのが『戯謔(ぎぎゃく)』という曲だった。
 
  戯謔詩
 
大河は粛々として流れ
水面は玻璃の如く光る
 
飛鳥の啼声は寂寞とし
彩雲は紅玉の如く美し
 
嗚呼、待ちし人は来ず
空虚に冷めし波旡の盃
 
楽人の哀しき風琴の音
会者定離の理を知らむ
 
  戯謔訳
 
川が静かに流れてるね
水面がきらきらと輝く
 
鳥が寂しい声で鳴いて
夕焼け雲が赤く染まる
 
ああ、彼は来なかった
冷たいコーヒーカップ
 
生演奏の音は侘しくて
もう知らない!と思う
 
1番の歌詞は漢詩風、そして2番の歌詞はその現代語訳になっているという趣向である。私は1番の曲は C, F, G7 のみで構成し、2番の曲は Dm, Am など平行調の和音や9thコードまで使用している(11th, 13thは不使用)。
 
マリは「分からん」、和泉は「面白いけど使えん」と言ったものの、千里は「また少し回復してきている」と言い、この曲にはサビは無用だから間奏を入れようと言って、間奏を即興で書いてくれた。私がその間奏はわりと好みだというと「スコアにまとめるから1日ちょうだい」と言い、翌日にはバンドスコアに編曲したものを送って来てくれた。七星さんも「これは変わった曲だけどアルバムには使えますね」と言った。
 
七星さんの意見も千里の意見も、いい曲なんだけど、マニアックすぎてシングル向きではないというのであった。
 

「ここってドームより大きいじゃん。春休みかゴールデンウィークにここでアクアのライブやろうかな」
と唐突にコスモスは言った。
 
§§ミュージックのタレントが多数このカウントダウンに出演するので、建設が進む12月初旬にここを下見にきたコスモスは、この会場の巨大さに驚いたようである。
 
「アクアの場合、この規模の会場の観客をきちんとコントロールできるかが鍵だと思う」
と私は言った。
 
「まあ警備員が5000人くらい必要かな」
「ああ、必要かもね。それともしかしたら費用は掛かるけど、椅子を並べた方がいいかも」
「椅子は観客の移動を防止する効果があるよね?」
「もちろん。アクアのコンサートなんてほぼ全員立ちっぱなし、踊りっぱなしだろうから、座る意味はあまり無い」
 
カウントダウンの場合は、前座まで含めると長時間になることもあり、何なら寝そべって観覧してくださいという趣旨でロープで区切ったブロック指定である。たぶん椅子の方がたくさん入る。
 
「椅子席にした場合どのくらい入る?」
とコスモスも訊く。
 
「4万平米だから、単純計算すると9万席近く設置できると思う。でもそれではアクアの場合制御困難になるから密度を下げて、まあ7万席くらいかな」
 
「アクアなら7万人集められるよね?この場所でも」
「当然。昼間やれば鉄道で観客が移動出来るから、カウントダウンみたいに交通手段や旅館の確保までする必要が無い。敦賀駅までピストン輸送すればいいよ」
 
「まあ京都・大阪で泊まる人が多いだろうけど、大都会だから充分収納できる」
「JR西日本と交渉すれば臨時列車も運行してくれると思うよ」
「その交渉はレコード会社にやってもらった方がいいよね?」
「うん。その方がいい。何とかミュージックという名刺で行っても、まともに話を聞いてもらえないし、かなりの保証金をデポジットする必要があると思う」
 

12月31日。
 
今年はローズ+リリーもKARIONもいつもの東京パティオでの24時間カウントダウンには出場しない。桜野みちると、ローズ+リリー自身のカウントダウンを優先させてもらった。なおKARIONのメンバーの中で、和泉はアクアに付いて紅白歌合戦の方に行っている。今日は社長のコスモスがずっと桜野みちるに付いているので、§§ミュージックの多数のアーティストが出演するローズ+リリーのカウントダウンには副社長の川崎ゆりこがついていてくれる。
 
桜野みちるのラストライブは、お昼から行われた。私は§§グループのオーナーでもあるし、顔を出して、みちるに記念品としてセイコーのからくり時計をプレゼントした。時報とともに人形が出てきて踊るタイプである。
 
この日のライブは11:40スタートで休憩2度を挟んで15:00頃までの3時間である。途中2回の休憩時間はゲストの演奏が入り、1回目のゲストタイムはゴールデンシックスと品川ありさ、2回目のゲストタイムは桜野レイアとアクアである(多分アクアの時間にトイレに行く人はほとんど居ない)。アクアの前に歌うのは一種の“ババ”なので、そこに2月デビュー予定のレイアを入れた。
 
なおこの日は“桜野レイア”とは紹介せず単に“近日デビュー予定のレイア”とだけ紹介して、みちるの妹であることは、わざわざ言わない。質問されたらスタッフは姉妹であることを話してよいことにしている。
 
桜野みちるのバックでダンスやコーラスを披露するのは、第1部と第3部では信濃町ガールズ、第2部では○○ミュージックスクールの生徒さんのピックアップメンバーである。私と○○プロ丸花社長の関係から出演を依頼した。普段なら信濃町ガールズのA班とB班で交替するのだが、今回は半分が小浜に行くのである。
 
なお、このライブに婚約者の森原准太は来ていない。
 
今日までは「ファンのみんなの桜野みちる」であり、明日からは「1人の羽藤舞香」に戻る、ということで、みちる自身が准太に「出禁」を宣言したのである。
 

私はライブのスタートを見てから小浜へ移動した。
 
今日の§§グループの歌手・スタッフは東京班と若狭班に分かれる。
 
■東京班
 責任者 秋風コスモス
 関東ドーム 桜野みちる(ラストライブ)
 NHKホール アクア・品川ありさ(紅白)
 サポート 紅川勘四郎・日野ソナタ・桜野レイア
 信濃町ガールズA班
 事務方:田所萬里愛・山村勾美・高村友香
 
■若狭班
 責任者 川崎ゆりこ
 単独歌唱 高崎ひろか・姫路スピカ・花咲ロンド・白鳥リズム
 集団歌唱 桜木ワルツ・山下ルンバ・西宮ネオン・今井葉月・原町カペラ・石川ポルカ
 信濃町ガールズB班
 サポート 唐本冬子・上野陸奥子
 事務方 沢村朋代・河合友里・緑川志穂
 

若狭班の中で責任者の川崎ゆりこと上野陸奥子、事務方の3人、および山下ルンバと信濃町ガールズB班は12月30日中に小浜市に入り、ステージや控室の確認などをし、リハーサルにも付き合った。山下ルンバは信濃町ガールズのメンツにはお馴染みなので、今回は中学生たちの引率者である。
 
マリ、スターキッズ、追加演奏者たちの多く、それに風花・妃美貴・鱒渕水帆といったサマーガールズ出版のスタッフ、氷川たち★★レコードのスタッフも12月30日中に小浜入りしている。
 
リハーサルでは、ローズ+リリーの代役をスイート・ヴァニラズのCarolとMinieにお願いした。スイート・ヴァニラズはリーダーのEliseが2月3日まで産休中(立春から活動再開らしい)なので、実際の子守で多忙なLonda以外の3人が暇をもてあましており、リハーサル歌手をお願いした。顔にフェイスカラーを塗られて顔の填め込みの動作確認をされたCarolは面白がっていたし、ケイの代理でホログラフィ装置と並んで歌ったMinieは「SFの世界に入ったような不思議な感じだった」と言っていたらしい。
 
なお一行は12/30は若葉の建てた旅館“旅館・藍小浜”に前泊している。
 

高崎ひろか・姫路スピカ・桜木ワルツ・西宮ネオン・今井葉月・花咲ロンド・原町カペラ・白鳥リズム・石川ポルカの9人は桜野みちるのラストライブの冒頭曲『ありがとう』でバックダンサーを務めた後、全員がみちるとハグ(ネオンだけは握手。でも葉月はハグ!)してからステージを降り、楽屋口に駐めていたバスに乗り込み私と一緒に東京駅に移動。新幹線で米原に向かった。
 
東京12:33(ひかり513)14:44米原14:56(しらさぎ9)15:24敦賀
 
(この新幹線に★★レコードの加藤次長も偶然乗り合わせていて、しらさぎでは席を交換してもらい、一緒に敦賀に向かった)
 
なお、みちるはライブ終了後、紅川会長・田所萬里愛および信濃町ガールズA班と一緒に新幹線で博多に移動し、福岡市内で1泊してから1月1日の§§グループ新年会(非公開)に出席する。博多で新年会をするのは、この日、博多ドームでアクアのライブがあるからである。桜野みちるはむろん出演しないが、信濃町ガールズA班は若狭に行ったB班と交替でアクアのバックダンサーやコーラスを務める。新年会で桜野みちるは、§§グループのみんなの前で本当のラスト歌唱をする予定である。
 
なお、森原准太は博多にも同行せず、東京の自宅で、1日夕方、みちるが戻って来るのを待つ。
 
紅白に出るアクアと品川ありさは、各々の出番終了後、移動することになる。アクアは18歳未満なので早めに解放してもらえるが、品川ありさは紅白の最後まで付き合い、番組終了後に秋風コスモス・絹川和泉・高村友香と一緒に都内のホテルに泊まり、1月1日朝の飛行機で福岡に移動する。
 
アクアは自分の出番が終わったらすぐに山村勾美と一緒に移動し、福岡市内で1泊して体調を整える(という建前である!)。
 

高崎ひろかたちと加藤次長に私は米原でしらさぎに乗り継ぎ、敦賀駅に着くと手配していたバスに全員乗り込む。小浜市の会場に到着したのは16時すぎである。
 
今日のカウントダウンはこのようなスケジュールになっている。
 
■入場&ウェルカム・パフォーマンス
10:00 出店関係者入場開始
13:00 観客入場開始
 
14:00 **小学校鼓笛隊演奏
14:30 ##中学校吹奏楽演奏
15:00 $$高校合唱部演奏
15:30 %%社中民謡演奏
16:00 &&太鼓演奏
 
地元のカウントダウン実行委員会!から、ぜひと言われたのでやってもらうことにしたが、演芸発表会になってしまった!しかしノリの良い風帆伯母は、民謡演奏会に飛び入り参加してイッチョライ節などを一緒に演奏。楽しそうにしていたらしい。
 
■イブニング・パフォーマンス(司会高崎ひろか)
18:00-18:50 §§Junior Stars (Part1) 今井・原町・石川
19:00-19:30 アンサンブル・オバマ
19:40-20:30 §§Young Stars (Part2) 桜木・山下・西宮
20:35-20:55 白鳥リズム
20:55-21:15 花咲ロンド
21:15-21:35 姫路スピカ
21:40-22:00 Rose+Lily History Movie
 
§§ミュージックのタレントを中高生とそれより上の年齢に分け、中高生は18:50までの枠で、それ以上は20時台に掛かる枠で歌ってもらう。
 
■ミッドナイト・パフォーマンス(司会川崎ゆりこ)
22:00-23:00 第1部
23:00-23:15 ゲストコーナー(高崎ひろか)
23:15-23:59 第2部
23:59-_0:00 カウントダウン
_0:00-_0:20 ニューイヤー・ダッシュ
 

16:00に到着した私たちは通用口から入り、私が持っているIDカードで地下入口を通り、スロープを降りてMuse-3施設の入口にバスを駐めてもらった。エレベータで1階控室まで昇り、既に集まっているメンバーと合流する。
 
今年のカウントダウンの出演者は下記27名+αである(αは後述)。
 
■ローズ+リリー(2)
マリ・ケイ
 
■スターキッズ&フレンズ(7)
近藤嶺児・近藤七星・鷹野繁樹・酒向芳知・月丘晃靖・宮本越雄・香月康宏
 
■若山一門鶴派(6)
風帆・恵麻・美耶・鹿鳴・千鳥・明奈
 
■知り合い(6)
鮎川ゆま・村山千里・近藤詩津紅・田中世梨奈・上野美津穂・谷口翼
 
■ヴァイオリン(アスカ推薦)(6)
前田恵里奈・生方芳雄・富永英美・荒井路代・大野恵美・桜沢玲美
 

地元の人たちのパフォーマンスが16:30頃に終わり、しばし完全な休憩になる。BGMとしてインストゥルメンタル演奏のローズ+リリーの曲が流れる。これは事前に川原夢美にエレクトーンで弾いておいてもらったものである。
 
18時から『イブニング・パフォーマンス』が始まる。これは§§ミュージックの子たちによるパフォーマンスである。§§Junior Stars, §§Young Stars と称しているが、歌う曲目は1970年代以降の(3人以上の)グループによるヒット曲である。司会を高崎ひろかが務める。彼女ももう§§ミュージックの中核歌手である。
 
Part1は今井葉月・原町カペラ・石川ポルカの中高生3人による歌唱で、先頭と最後を除いては2002-2017年のヒット曲である(演奏は時代逆順)。信濃町ガールズB班がこの3人のバックでコーラス・ダンスを入れる。
 
『恋のダイヤル6700』(1974.フィンガー5 *1)
『楔』(2017.Baby's breath)
『MOMENT RING』(2016.μ's)
『さよなら、アリス』(2015.Flower)
『夢の浮世に咲いてみな』(2015.ももいろクローバーZ)
『メギツネ』(2013.BABY METAL)
『ありがとう』(2010.いきものがかり)
『チョコレイト・ディスコ』(2007.Perfume)
『浮舟』(2002.GO!GO!7188)
『ダンダンドゥビズバー』(2014.Dream5)
 
(*1)Dream5が2010年にカバーしている。
 
今井葉月は今日はずっと女性用控室を使用していたし、歌唱でも女声しか使わなかった。高崎ひろかも「いまい・はづき」と紹介していた。彼に尋ねてみたのだが
「最近男声が出にくい感じで」
などと言う。私は彼が男の子に戻れるのか甚だ不安である。
 

3人はこれで上がりで、宿舎に入ってもらう。
 
地元のオーケストラによる演奏を挟んで後半は桜木ワルツ・山下ルンバ・西宮ネオンの19歳以上の3人によるパフォーマンスだが、途中で20時をすぎるので5曲目の『プレゼント』が終わった所で信濃町ガールズは退場する。こちらは最後の曲を除けば1978-2001年のヒット曲である(演奏は時代逆順)。
 
『secret base 君がくれたもの』(2001.ZONE)
『夜空ノムコウ』(1998.SMAP)
『My Babe 君が眠るまで』(1995.シャ乱Q)
『ブルーライト・ヨコスカ』(1991.Mi-Ke)
『プレゼント』(1990.Jitterin'Jinn)
『世界でいちばん熱い夏』(1989.プリンセスプリンセス)
『Romanticが止まらない』(1985.C-C-B)
『銀河鉄道999』(1979.ゴダイゴ)
『Mr.サマータイム』(1978.サーカス)
『USA』(2018.DA PUMP)
 
信濃町ガールズは出番が終わった所で、メイン歌唱した3人はこのパフォーマンスが終わった所で宿舎に入る。
 
ちなみに宿舎(実はMuse-3の施設内)のロビーではステージのパフォーマンスをプロジェクターとスピーカーで視聴することができる!中学生は23時で寝なさいと言っていたのだが、実際には0:20の終了まで見ていたメンバーもあったようである。
 

『U.S.A.』で盛り上げた後は、緞帳が降りて、その緞帳の前で、単独歌手の歌唱が3人続く。(括弧内は年齢)
 
20:35 白鳥リズム(14)
20:55 花咲ロンド(19)
21:15 姫路スピカ(18)
 
リズムは中学生なので先頭に歌わせたが、ロンドとスピカはじゃんけん!で歌う順番を決めた。
 
この3人も各々自分の出番が終わったら宿舎に入る。
 
スピカの演奏が終わった後から緞帳の前に映写スクリーンが降りてきて、『Rose+Lily History Movie』と称したこの10年間の軌跡を映画にまとめたもの(編:詩津紅)が上映される。要するにトイレタイム・食事タイムだ。
 

会場は樹脂製の屋根と二重の壁に守られて、外には音が漏れない。しかし、それではトイレや出店に並んでいる人が不安になるので、各出店・トイレには小型のスピーカーが付けられていて、小音量でステージの様子を聞くことが出来る。この音が住宅地までは漏れないのは確認済みである。敷地全体を囲む壁と、周囲の山林が音を吸収してくれるようである。
 
お天気だが、午後に地元の人たちがパフォーマンスをしてくれていた時期はまだ曇りだったのだが、夕方、§§ミュージックの子たちが演奏してくれている間に小雨がちらつき始め、地元オーケストラの演奏中にけっこう降ってきた。
 
みぞれ混じりの雨という感じである(夜更け過ぎに雪江と・・・もとい!雪へと変わった)。
 
私は凄まじい費用を掛けて屋根を作って良かったと思った。
 
しかし屋根があるのは客席とステージの上だけである。トイレや出店に並ぶ人はまともに雨に曝されることになる。
 
ここで若葉が仕込んでいた秘密兵器!が活躍する。
 
客席を覆う屋根の端から、廂(ひさし)が飛び出し、出店・トイレの端までの空間をカバーしたのである。右側の後方のトイレは客席から離れているが、ここは別途トイレの建物と建物の間の通路をカバーする、仮の屋根が出現する。
 
固定の廂を出すのは、色々問題があったようで、飛び出し方式で設計したのである。これを作るために数千万円かかったはずだが、本当に雨が降ってきたおかげで、若葉の趣味で作り込まれた仕掛けが無駄にならなくて済んだ。
 
この廂が出現した時は大きな歓声があがっていた。
 
こんなことができるのは、普通の1個単位の臨時トイレではなくユニットハウス型のものを使ったからでもある。ユニットハウス型のトイレは単価は高いが、その分、誘導員をあまり置かなくても自然に建物単位の列ができるのが良い。実際一昨年の松島では1000個のトイレ誘導に200人の誘導員が必要だったし、誘導員さんたちも大変だったのだが、今回は誘導員は40人ほどで済んでいるし、誘導員さんたちの主たるお仕事は列の維持と空室への誘導ではなく、共用トイレや多目的トイレの場所案内だった。昨年も参加した人が去年に比べて楽だったと言っていた。また使う側も、特に男性は個室への出入りが不要で素早く用を達せるのが良かったという声があった。結果的にトイレの回転率が良くなったようである。
 

映画の上映が終わり、22:00の時報が鳴る。
 
映写スクリーンが巻き上がり、緞帳も上がる。大きな拍手と歓声があがるが、ざわめきも大きい。ステージの上にいるのは私だけで、隣には大きな黒い箱のようなものがある。ステージの灯りが落ちて、私だけにスポットライトが当たる。黒い箱の中にすっとマリの映像が浮かび上がると再度歓声があがった。
 
私と箱の中の“マリ”がお辞儀をする。私は椅子に座りギターを持って演奏を始めた。私とマリが歌い始める。
 
「(お)嬢さんの赤ちゃんが風邪引いた、(お)嬢さんの赤ちゃんが風邪引いた」
 
笑い声があがる。
 
「(お)嬢さんの赤ちゃんが風邪引いた、そこでヴェポラップを塗った」
 
手拍子ももらう。
 
この曲のタイトルは『城さんの赤ちゃんが風邪引いた』なのだが、歌う時は『お嬢さんの』と歌うのである。
 
「嬢さんの赤ちゃんが鼻ぐずぐず(×3)、そこで吸引してあげた」
「嬢さんの赤ちゃんが咳をした(×3)、そこで加湿器を掛けた」
「嬢さんの赤ちゃんが熱出した(×3)、そこで冷えピタを貼った」
 
最後にオリジナル歌詞でも歌っておく。
 
「John Brown's baby had a cold upon her chest (x3), And they rubbed it with camphorated oil」
 
演奏を終えると大きな拍手がある。箱の中の“マリ”は笑顔で手を振っている。
 

「みなさん、ローズ+リリーの年越しライブにお越し頂き、ありがとうございます。今年もあと残り2時間ほど。楽しく時を過ごしましょう。1時間ほど演奏して、ゲストタイムとなり、その後1時間ほどで演奏終了となります。0時またぎでカウントダウンをします。出店はゲストタイム終了後店仕舞いとなりますので、食糧を確保しておきたい人は、早めにおいでになることをお勧めします。トイレはいつでも行って下さい。ただ場内を移動する時はできるだけ他の人の観覧の邪魔にならないようお願いします。立ったまま立ち止まるのはやめて下さい」
 
「そういう訳で、カウントダウンライブ、歌うのは、私ケイと」
「マリ、あわせて」
「ローズ+リリーです!」
 
ここで拍手がある。
 
「ちなみにマリは変な箱のようなものの中にいますが、これは立体映像です。ホログラフィですから、見る角度によって違った角度のマリが見えるはずです。トイレに立つ時などに確かめてみて下さい。第1列目ブロックと第2列目ブロックの間にある黄色い通路はホログラフィの見え方確認用ですから、後ろの席の方も来てみて下さいね。但し立ち止まるのは禁止です」
 
実際この通路はライブの最中、人が途切れなかった。

「なお、本物のマリはこのステージ真下にあるスタジオの中にいます。ですからみなさんの歓声はそのまま聞こえていますので、ぜひ応援して下さい」
 
というと多数の拍手や「マリちゃーん!」という声があり、箱の中のマリは両手を高く挙げて手を振っている。こういう仕草の選択は小風が操作している。美空がやりたがったのだが、美空は感覚人間なので操作が適当になりがちである。それでクールな性格の小風に頼んだのである。
 
「マリちゃん、小浜で何食べた?」
という声が掛かる。すると
「お魚が美味しかったよ!」
とマリが返事する。
「どんなお魚食べた?」
「昨日はこちらに着いたらすぐお寿司食べて、晩御飯はフグ食べて、今日のお昼はズワイガニ食べたよ。もっとたくさん食べたかったけど、それ以上食べたら演奏にも差し支えるし、赤ちゃんにも悪いと言われて止められた」
とマリが言うので、会場内はクスクスと笑う声が多数ある。
 
「ここで大公開!赤ちゃんのパパは誰?」
という声があるのでマリは
「実はね。。。ここだけの話、ケイなんですよ」
と言うので、会場全体が爆笑となる。
 
みんな冗談と思ったようだが、私は冷や汗である。他にもマリは会場と色々やりとりをしていたが、それでマリが確かにここに居るということをみんな認識してくれたようである。
 

「さて、そろそろ次の曲に行きましょう」
と私が言うので、たくさん演奏者が入ってくる。
 
『ヴィオロンの涙』を演奏する。
 
なお、マリの“箱”がある関係で、この箱から死角になる位置に伴奏者が立つと見えない可能性があるだけでなく、観客席から見たマリ周辺の視界が混乱してしまう。そこでこの日は私と“マリ”の後方には伴奏者は立たないし、通過するのも禁止ということにしている。ステージ上、Pタイルの上に油性マジックで赤い線と緑の線を引き、その間のみが伴奏者の位置としてOKで、特に赤い線の奥は立入禁止にしたのである。
 

 
この赤い線より後方のエリアにはセットさえ組むことができない。とにかく何か「もの」があってはいけないのである。
 
それでセットは赤い線の手前に三角状に組んでいる。この日のセットはお城の塀のような感じの所に左から右に掛けて、過去のCDジャケットを拡大したものが貼り付けてある。
 
『Month before Rose+Lily, A Young Maiden』2008
『Rose+Lily the time reborn, 100時間』2009
『ローズ+リリーの長い道』2009
『Rose+Lily after 1 year, 私の可愛い人』2009
『Rose+Lily After 2 years』2010
『Rose+Lily After 3 years,Long Vacation』2011
『Rose+Lily after 4 years, wake up』2012
『RPL投票計画』2013
『Flower Garden』2013
『雪月花』2014
『The City』2015
『やまと』2016
『Rose + Lily ランチセット2017』2017
『郷愁』2018
『ブライダル・ウィンド』2018
 
そういう訳で、上手側の伴奏者は上手袖から出入りするか、あるいは私とマリの前!を通過して下手に下がってくださいという指示を出している。
 
リハーサルの時は「メインのアーティストの前を通過するなんて」という声もあったのだが、そうしないと、ホログラフィが不自然になるので仕方ない。
 
また実はこの死角をできるだけ小さくするために、客席とステージの間に10mの間隔を空けている。野外イベントではこのくらいの距離があることはよくあるので何とかなっているが、小さな会場では設定困難である。
 

演奏が終わった所で伴奏者を紹介する。
 
「アコスティックギター近藤嶺児、ヴィオラ鷹野繁樹、コントラバス酒向芳知、マリンバ月丘晃靖、アルトサックス近藤七星、チェロ宮本越雄、トランペット香月康宏、以上スターキッズ&フレンズ」
「テナーサックス鮎川ゆま、バリトンサックス谷口翼、フルート田中世梨奈、アルトフルート村山千里、クラリネット上野美津穂、ピアノ近藤詩津紅、以上お友だち」
「そしてヴァイオリンを弾いてくださったのは、前田恵里奈さんと生方芳雄さんでした」
 
ひとりずつ紹介する度に拍手をもらう。
 
「なお谷口さんはこの曲ではバリトンサックスを吹いてもらいましたが、この後はピアノを演奏することが多いと思い組ます。また詩津紅ちゃんはこの曲ではピアノを弾いてもらいましたが、電子キーボードを弾くことの方が多いと思います」
と私はコメントした。
 
「それでは次は紅葉の道を歌います」
と言うと、前田さんと香月さんが退場する。ゆまの笙と千里の篠笛、更には詩津紅が操作する鹿威し(ししおどし)までフィーチャーしている。笙の吹き手が限られているのだが、例によって紅白は伴奏が録音なので、南藤由梨奈は紅白に出るものの、レッドブロッサムは東京に居る必要がない。それでカウントダウンに付き合ってもらった。彼女は「ギャラが美味しいし小浜はお魚が美味しいから楽しみ」などと言っていた。
 
その後、和楽器奏者を入れて『硝子の階段』を演奏した。ここから3曲和楽器をフィーチャーした曲が並ぶ。
 
「箏・若山鶴風(風帆)、琵琶・若山鶴朝(恵麻)、胡弓・若山鶴宮(美耶)、三味線・若山鶴鹿(鹿鳴)、和太鼓・若山鶴鳥(千鳥)、フルート・若山鶴鳴(明奈)。以上若山流鶴派社中です。なお鶴鳴ちゃんには次の曲では尺八をお願いしています」
 
と紹介していたら、隣でマリが言う。
 
「ケイ、よくそういう名前をひとりひとり覚えているね」
「そりゃ出演者の名前くらい覚えているよ」
「私そういうの全然ダメ。こないだ、大林亮平くんに会った時、うっかり『亮子ちゃん』と声掛けちゃったよ」
などとマリが言うので、会場に笑いが起きる。
 
「それ性別からして間違ってるじゃん」
「私がうっかり女の子名前で呼んだから、これを機に女の子にならない?と言ったら、断ると言ってた」
「そりゃ普通断るね。はいでは次の曲」
 
それで和楽器をフィーチャーして『ふるさと』『振袖』と演奏する。この『振袖』ではヴァイオリン奏者も6人入れた。
 
「ヴァイオリン、前田恵里奈・生方芳雄・富永英美・荒井路代・大野恵美・桜沢玲美。以上で今日の演奏者は全員揃いました。また和楽器奏者の方々は2名を除いて、ここまでです。お疲れ様でした」
 
それで風帆・恵麻・美耶・鹿鳴の4人が拍手に送られて退場した。
 
6人のヴァイオリンをフィーチャーしたまま『雪虫』『同窓会』『花園の君』と演奏する。実は若山流6人の中で千鳥と明奈に残ってもらったのは『雪虫』の鈴とヴィブラスラップを演奏してもらうためだった。私が気易く頼みやすい2人にお願いした。この2人もここまでで終了である。
 
『雪虫』の演奏が終わった所でその2人が退場し、6人で宿舎(Muse-3施設内)に下がったが、ロビーで§§ミュージックの子たちと一緒にその後のステージを見ていたようである。全員和服を脱いで普通の服でくつろいでいたようだが、風帆伯母は若い子たちの前でPerfumeを踊ってみせて「すごい!」と言われて尊敬されていたらしい。ロビーでは桜木ワルツと山下ルンバがお茶やおやつなどをみんなに配ってまわっていたようである。
 

『花園の君』の後はヴァイオリン奏者6人も下がって『Long Vacation』を演奏する。そして前半最後の曲『お嫁さんにしてね』を演奏するが、ここではミニアルバムに収録したのと同様のカントリー・バージョンで演奏した。
 
この曲の途中、間奏の所で私は初出の楽器演奏者を紹介する。
 
「バンジョー・宮本越雄、マンドリン・近藤七星、フィドル・醍醐春海」
 
ここで小さなざわめきがあるので補足する。
 
「ちなみにフィドルというのは、ヴァイオリンと同じ形をした楽器です」
 
それでもざわめきがあるので更に補足する。
 
「ヴァイオリンとフィドルは同じ形をしていますが、フィドルは酒場でワインをこぼしちゃっても惜しくないと言われます。醍醐春海の愛用のヴァイオリンはイタリアのヴァイオリン名産地クレモナで100万円で買ったものですが、今日持って来ているフィドルは国産で10万円で買った友人から12年ほど前にタダでもらったものだそうです」
 
と言うと、笑い声が起きていたが、それで“フィドル”の意味が観客にも少し分かったようである。
 

この曲の演奏が終わった所で私たちは全員退場し、マリも“箱”の中から姿を消す。そして緞帳が降りる。
 
その緞帳の前に高崎ひろかが出てきて、カラオケで彼女の持ち歌を歌う・・・ことにしていたのだが、この日は“信濃町バンド”が出てきてバックで演奏したので大きな歓声が起きていた。
 
Gt.桜木ワルツ B.山下ルンバ Dr.西宮ネオン KB.花咲ロンド
 
22時を過ぎているので、出場できるのは実はこの4人だけである。姫路スピカは18歳なので労働基準法の規定には引っかからないものの、高校生なので自粛した。
 

高崎ひろか+信濃町バンドの演奏が終わったのが23:18くらいであった。
 
緞帳が上がる。
 
私がひとりでステージ中央まで出て行くが、“箱”は無い。
 
「それでは後半を始めますが、この曲は都合により、私はステージの端で歌います、マリは隠れたまま歌います」
と言って、ステージの下手袖そばまで戻った。
 
ステージは暗いままである。そこにスポットライトが当たると、会場は大きなざわめきが起きた。
 
「アクアちゃーん!」
と声が掛かると、スポットライトを浴びたアクアは笑顔で客席に向かい手を振った。彼女の隣には桜木レイアもいる。ふたりは電子ピアノを前に並んで座っている。
 
上手にヴァイオリン奏者6人が出てきて、そちらにも別のスポットライトが当たる。
 
ヴァイオリン奏者たちが伴奏を弾き始める。
 
『愛のデュエット』を演奏する。
 
アクアとレイアは最初ピアノを連弾する。その後立ち上がって一緒にリコーダーを合奏する。続いてフルートを合奏、EWI1500を合奏、更にアルトサックスを合奏する。そしてヴァイオリンを合奏した後、ピアノの隣に並べて置いてあるチェロの所に移動して椅子に座ってチェロを合奏する。更にチェロを横に置いてギターを持ち、椅子に座ったままギターの合奏をする。最後は椅子から立ち上がり、隣のドラムスセットの所に身体をくっつけるようにして座り、ひとつのドラムスセットを2人で1本ずつ持ったスティックで一緒に叩いた。
 
演奏が終わると同時に物凄い拍手。そして「アクアちゃーん」という声が多数掛かる。私は2人を紹介した。
 
「9つの楽器を続けて1人で演奏してくれたのは、アクア!」
「と、秋のツアーの時はドラムスだけ叩いてくれた桜野レイアでした」
 
あらためて大きな拍手がある中、ふたりは観客にお辞儀をする。それで緞帳がいったん降りた。
 
その後で私がステージ中央まで行き
「ちなみに今のは立体映像です」
と言うと
「え〜〜〜!?」
という声があがっていた。
 
「情報解禁になったので言っちゃいますが、桜野レイアちゃんは今日いっぱいで引退する桜野みちるちゃんの妹さんです」
 
これに対してまた
「え〜〜〜!?」
という声があがる。
 
かなりのざわめきがあった。
 
「秋にドラムスをお願いした時は私も全然知らなかったんですよ。彼女は2月にCDを出して歌手デビューしますので、よかったら応援してあげて下さい」
と言うと拍手がある。
 
「買うよー!」
という声も掛かる。
 
その拍手と歓声に対して「ありがとうございます。よろしくお願いします」とレイアの声が緞帳の裏側からあった。
 
「妹さんの方が背が高いんですよね。今アクアと並んで演奏していて結構な身長差がありましたよね。ふたりのお母さんは元スクールメイツ、ふたりのお父さんは元全日本のバレーボール選手で、みちるちゃんはお母さん似、レイアちゃんはお父さん似のようです」
 

私はその場で3分くらい話していたが、その間に後半の楽器のセッティングができたようである。それで緞帳が上がる。“箱”があってマリが手を振っている。私は数歩下がってマリが観客席から見えている筈の位置と並ぶ。
 
「では後半次の曲行きます」
 
この曲の後は、ローズ+リリーの歴史を辿るような曲を演奏していった。
 
『明るい水』『ふたりの愛ランド2018』『キュピパラ・ペポリカ』『天使に逢えたら』そして『青い豚の伝説』『コーンフレークの花』と演奏する。『コーンフレークの花』では、ローザ+リリンの2人が登場して、最初振袖を着ていたのをビキニになるまで脱いで行って、歓声があがっていた。
 
「だけどケイナちゃんとマリナちゃんって、ビキニになれるのね?」
とマリが言っている。
 
「ヌードになるのは風紀上禁止されているんです」
と言っているが、実際にはドサ回りではけっこう最後まで脱いで悲鳴があがるらしい。さすがにそういうパフォーマンスはここではできない。
 
「いつ性転換したんだっけ?」
「ケイちゃんと同じだから小学生頃じゃない?」
 
むろんふたりは(早まったことをしていなければ)身体には一切メスを入れていないはずである。
 
「でも妊娠中だから私お腹が大きいのよね」
とマリナ。彼のお腹は本当に臨月に近い妊婦のように膨らんでいる。
 
「でもそのお腹、踊っている最中に落っことしたね」
とケイナ。
「焦った、焦った。赤ちゃんがびっくりしたかも」
 
「その子が生まれたら3人でパフォーマンスするの?」
「マリちゃんがどうするか次第」
「結婚はしないの?」
「マリちゃんがするか次第」
「もし私が男の人と結婚したら、マリナちゃんも男の人と結婚するの?」
「考えたくも無いけど、男と結婚しろと言われそうで怖い」
とマリナは本音が出ている。
 
「でもほんとスタイルいいよね。ウェストくびれてるし。足も細いし」
「日々努力してるよ」
「おっぱい大きいし、おちんちん無いし」
「おっぱいは借りてきて、ちんちんは郵便局に預けてる」
 

それを“貯金”というオチなのが分かっているので私は会話を遮って言った。
 
「それでは次の曲行きます。『雪を割る鈴』」
 
放っておくと「チョキンして切り取って貯金した」とか言い出しかねない。
 
私の声に応じて上手からヴァイオリン奏者6人が入ってくる。下手から香月さんも入ってくるが、彼には篠笛を吹いてもらう。ローザ+リリンの2人が引き続きダンスをする。最初はスローなテンポで演奏が始まる。
 
観客もターンタタン、というゆっくりしたリズムで手拍子をしてくれる。私がマリとマリナたちの会話を早めに遮ってしまったので少し早いのだが、前半を演奏し終えた所で演奏は一時停止する。
 
「2018年も残り120秒ほどになりました」
と言って私はアドリブで少し余分な話をする。会場の時計の秒のカウントを見ている。
 
スタッフの手で大きな鈴が運び込まれてくる。振袖を着たままの川崎ゆりこが大きな剣を持って一緒に入ってくる。
 
「はれのひに振袖が着られず、仮想通貨が580億円盗まれ、暴力タックルが問題になるも、タイでは洞窟に閉じ込められた少年たちが全員救出され、羽生さんと羽生君が国民栄誉賞をもらい、ももクロの杏果ちゃんが卒業し、森田剛と宮沢りえが結婚し、安室奈美恵が引退し、猛暑で最高気温記録が次々と塗り替えられ、高輪がゲートウェイし、日本中がU.S.A.で踊りまくった1年でした。その2018年、平成最後の年末もいよいよ残り20秒ほどです」
 
「それではみなさんカウントダウン行きますよ」
 
それで時計の秒針に合わせて私はカウントダウンをする。観客も一緒にカウントダウンする。10秒前になった所で、スタッフが会場のドアを開けた。
 
「10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, Happy New Year!!!」
 
川崎ゆりこが剣を振り、鈴が割れて多数の小さな鈴が飛び出した。
 
そして私がハッピーニューイヤーと言うのと同時に外で花火の上がるのを聞く。
 
カウントダウン実行委員会の人たちが花火を打ち上げたのである。
 
「それではニューイヤーダッシュ行きます」
 
スタッフが会場のドアを閉めて『雪を割る鈴』の後半を演奏する。鈴を割ったゆりこはローザ+リリンの所に行き、振袖のまま並んで踊った。
 

演奏が終わった所でゆりこは私の所に寄っておたまを渡す。“箱”の中のマリもお玉を持っている。
 
「それでは最後の曲です。曲名は?」
と私が客席に向かって言うと
「ピンザンティン!」
というお返事が返ってくる。
 
それでラストナンバーとして恒例になったこの曲を歌う。ステージの背景にマリがいるスタジオの様子が映し出される。スタジオ内でマリもお玉を振りながら(座って)楽しそうに歌っている。その映像に歓声が上がる。
 
この曲は演奏をしているのはスターキッズとキーボードの詩津紅だけなのだが、『雪を割る鈴』を演奏したメンツも下がらずにそのまま適当に自分の楽器を慣らしたり手拍子を打ちながら一緒に歌っていた。
 
興奮の中演奏が終わる。全員左右の袖に下がる。マリの映像もフェイドアウトする。
 
ヴァイオリン奏者6人はこれであがるので、妃美貴が案内して、そのまま地下のMuse-3の施設に行くが、実際には全員部屋にはまだ行かず、ロビーのスクリーンでその後の様子を見たようである。
 

大きな拍手がすぐにアンコールの拍手に変わる。マリはラーメンを一気飲み!する。このくらいお腹に入れないと調子が出ないらしいが、その映像もスクリーンに映写されて、客席では苦笑が起きていた。
 
「ラーメンは飲み物だったのか」
「マリちゃんはもつ鍋も飲み物らしい」
「確かカレーも飲み物だったはず」
 
ちなみに私はポカリスウェット500ccを1本、4〜5回に分けて飲んだ。
 
マリがスタンバイできたようなので、私はステージに出て行く。マリの映像もフェイドインする。
 
「アンコールありがとうございます。今年はマリが妊娠してカウントダウンはできないと思っていたのですが、スーパーコンピューターのテストということで、マリの立体映像と一緒に実施することができました。マリどうぞ」
 
「みんな、ごめんねー。私はママになっちゃうけど、当面誰とも結婚するつもりは無いし、赤ちゃん産んだらすぐ次のアルバム作り頑張るね。今日は来てくれてほんとうにありがとう」
 
「ではアンコール一気に2曲行って、それで本当の終わりとさせて頂きます。演奏終了後は、すぐに席を立たず、係員の誘導に従って退場して下さい。それでは『影たちの夜』、そして『あの夏の日』、聴いてください」
 

それでスターキッズほか、まだ残っていた演奏者が全員ステージに出てくる。そして『影たちの夜』を演奏した。
 
そして曲が終わったところでマリを映している“箱”が沈んでいくのでざわめきがある。他の伴奏者は全員退場する。ステージの灯りが灯る。そして箱が沈んでいった場所に、椅子に座った本物のマリがせり上がってきたのでざわめきが大きくなるとともに大きな拍手がある。
 
「マリちゃーん!」
という声が多数掛かる。マリがその声援に対して両手を振っている。
 
スタッフの手で電子ピアノがマリが座っている場所の前に置かれ、マリの横に椅子も置かれるので私はそこに座り、マリの手を握った。それから
 
ミードドミ、ミードドミ、ファソファミ・レ・ミ
 
とブラームスのワルツから借りた『あの夏の日』の前奏を弾き始める。そしてふたりで歌った。
 
色々な思いが込み上げてくる。こんなに何万人も観客が集まってくれるのは、もしかしたら今年が最後かも知れないけど、小さなホールとかになっても私たちはずっと歌い続けていけるかな。
 
そんなことを思いながら私たちは熱唱した。
 

終和音が消えて行き静寂が訪れた瞬間大きな拍手と歓声があった。
 
私とマリは立ち上がり、ステージ前面に出てお辞儀をした。そして割れるような拍手の中、幕が降りた。
 
司会の川崎ゆりこが
 
「本日のカウントダウン・ライブは全て終了しました。この後すぐには席を立たず係員の指示従いご退場下さい。本日はお疲れ様でした」
とアナウンスを入れた。
 

観客の退場だが、観覧ブロックは例によって前方の数列以外、宿泊先別に構成しているので、原則として遠くの宿泊地に行く人たちから順に案内していく。このあたりは安中榛名・松島・博多と経験しているスタッフが多数入っているし、観客も規制退場に慣れている人が多いので、混乱なく進む。バスも会場の駐車場に入りきれない分は近隣のショッピングモールの駐車場や公園の駐車場などに駐めてある分がどんどん入ってくる。用意したバスは600台ほどである。終演の30分後くらいに小浜市内近郊に運ぶ客を送り出して、退場ミッションは完了した。ほとんど混乱のない速やかなミッションだった。最後に参加したスタッフを小浜近郊のホテルに運び、夜間の警備をする人たちに交替した。
 

出演者一同はアンコールまで終了した後、そのまま地下のMuse-3の施設に降りる、ロビーで見ていてくれた人たちと握手したりハグしたりして、取り敢えず未成年は全員自分の部屋に帰るように言う。
 
そして20歳以上のメンバーだけで48畳の大広間に入り打ち上げをした。打ち上げの乾杯の音頭は★★レコードの加藤次長が取ってくれた。
 
「ボクは今回のイベントには関わってないんだけどね」
などとは言っていたが。
 
実際今回は★★レコード自体の支援がほとんど得られなかったもののイベンターの★★クリエイティブがサマーガールズ出版が直接経費を支払うことでしっかり動いてくれ、巨大イベントに慣れたスタッフが多数入ってくれたので助かった。
 
なお加藤次長は忙しいのだが、やはりホログラフィの実物を見ておきたいということで12月31日の昼頃、こちらに来ることにしたらしい。
 

打ち上げは乾杯の後は自由に退出してということで、退出する人に妃美貴がビールまたはオレンジジュースと、夜食を渡していたが、実際には朝御飯にした人が多かったようである。むろんマリは乾杯後すぐに帰した。
 
この日の宴会では次世代のアイドルについての議論が起きていた。松梨詩恩、北野天子、松元蘭などの名前が挙がるが、まだ2年くらいはアクアを越えられないのではという意見も強い。
 
「アクアは声変わりが起きるか性転換するまではもうしばらく人気が続くと思う」
「それどちらも起きない気がする」
 
「今日のアクアちゃんは、あれほんとに立体映像だったの?」
という質問があるが、
「それはノーコメントで」
と私は言っておいた。
 
実際あれは後でネットでかなり議論されたようである。アクア自身も質問されていたが、アクアは
 
「紅白が終わってから、F-15イーグルに乗って小浜まで移動しました」
 
などと答え、ネットでは
「マジかも知れん」
という意見もあった。
 

桜野レイアは充分移動可能であった。
 
桜野みちるの関東ドームでのライブが終わったのは15時すぎであるが、レイアは最後まで居る必要は無かった。すると次の連絡で小浜まで移動出来るのである。
 
東京15:33(ひかり19)17:44米原17:56(しらさぎ59)18:24敦賀
 
敦賀からは車で40分ほどで小浜市の会場に入れるので、19時過ぎには会場に到達することができたのである。
 
問題はアクアだった。アクアも一応移動可能ではある。
 
今年の紅白は19時にスタートし、アクアは高校生ということも配慮されて白組トップで歌っている。歌い終わってステージから降りたのが19:20くらいである。するとバイク便で渋谷から品川駅まで急行したら下記の連絡で到着可能だ。
 
品川19:40(ひかり531)21:44米原(しらさぎ63)22:24敦賀
 
22:24に敦賀に到着した場合、車で移動して23:10頃までには会場に到着できる。高崎ひろかの歌唱が終わったのが23:18くらいで、アクアとレイアのパフォーマンスが行われたのは23:22くらいであった。
 
つまり物理的には間に合うが綱渡りである。もし道路が渋滞したら、もし列車が遅れたらと考えると、そんなギリギリの状態でのパフォーマンスを計画するだろうかという意見が多かった。
 
当日米原駅の近くで22時半頃、ヘリコプターが飛んだ音がしたのを多数の人が聞いている。また会場に居てトイレや出店に出ていた人が23時前に近くにヘリコプターが着陸するような音を聞いている。
 
敦賀から小浜までは直線距離で56kmほどあり、ヘリコプターで飛ぶと15-20分ほどで到達できるはずである。もしアクアが22:30頃のヘリコプターに乗っていれば、22:50頃に確かに小浜の会場近くに行くことができたはずである。
 
しかし、アクアは翌日福岡ドームでのライブを控えている。それなのにそんなハードな移動をさせるだろうか?というのも疑問点としてあげられた。
 
「でもケイは何度もヘリコプターで移動している」
「2014年春のツアーでは福島から仙台へヘリコプターで移動していた」
「その年の夏の沖縄から埼玉への移動も謎だけどヘリを一部利用していると思う」
「2008年秋のツアーでの名古屋から金沢への移動も謎のままだけど、あれもヘリコプターで移動したとするとぎりぎり可能なんだよな」
「それならアクアもヘリコプターで移動した可能性はある」
 
あの時、観客の声援に対してレイアがお返事をしている。あれは生の声ではないかという意見が多かった。レイアが生なら、アクアも生だったのではと多くの人が考えたのである。立体映像と生の演奏者を並べるのはひじょうに難しいのである。
 
 
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【夏の日の想い出・戯謔】(2)