【夏の日の想い出・天下の回り物】(4)
1 2 3 4 5 6
(C)Eriko Kawaguchi 2018-08-17
さてローズ+リリーのミニアルバムに入れる最後の曲は『マイ・ハッピー・デイ』である。クレジットはマリ&ケイになっているが、実際には青葉の作品で、歌詞を書いたのは千里の友人らしい。
なお印税・著作権使用料については、JASRACやレコード会社から入金されたらその日の内に青葉の会社に振り込むので(これは自動実行される)、そしたらそちらから本来の作者に翌日くらいに振り込むという方法を採ることになっている。
青葉は忙しいのにそのあたり大丈夫かな?と思って尋ねたら、青葉の会社の事務処理は結局、親友の日香理がしてくれることになったらしい。日香理は現在、相沢さんたちの旅館の東京事務所の会計も処理しているらしい。本来東京事務所の会計をすることになっていた奈々美と空帆はどちらも忙しすぎて、ほとんど事務所のサポートができず、見かねて日香理(東京事務所の通訳担当)が伝票書きなどをしているらしい。
しかしこの曲は本当に私自身、自分が書いて忘れていたのでは?と思いたくなるほど、私っぽい曲であった。但し、中学高校生頃の私の書き方に沿っている。
当時は自分自身あまり複雑なコードを知らなかったこともあり、和音は例えば基音がCなら C, C6, C7(短調ならCm, Cm6, Cm7)に後はCsus4程度のみ使用している。sus4を使うのも終和音に行く直前限定である。私が後(Spell on You以降)に多用することになる dim, aug など、また 9, 11, 13 といった、いわゆるテンションコードは一切使われていない。しかし政子は昔の単純なコードの方が好きだと言うし、私はこの時期複雑なコードは使わない方がよいのだろうかと少し悩み始めていた。
また転調についても、日本では小室哲哉以降、自由転調が多くなり私も大学に入って以降はそういう転調をかなりやっていたのだが、高校時代までは基本的に平行調(C←→Am)・同名調(C←→Cm)・属調(C→G)/下属調(G→C)への転調や半音上げ(C→C#)などしかやっていない。
青葉の曲には転調があるが平行調への転調(F-Dm-F)という、もっとも目立たない転調である(五線譜の調号が変化しない)。
ミニアルバムの音源製作は「バラバラ」と「赤ちゃんが風邪引いた」はほぼ一発録り、3曲はリミックスだったので、実質3曲であった。
『ふたりの愛ランド2018』
『愛のデュエット』
『マイ・ハッピー・デイ』
これは8月中に録音してしまったので(最後になったのがアクアの帰国を待って制作した『愛のデュエット』)、ミニアルバムのマスター自体は9月2日までにできあがってしまった。するとまた例によって強引な製造スケジュールでこれをローズ+リリーの10周年ツアー初日の9月8日(土)に発売してしまった。(本当にプレス工場の人、ごめんなさい)
当日はツアー初日で札幌に入っていたので、この日の午前11時から、札幌の放送局のスタジオを借りて、発売記者会見をおこなった。この記者会見には、マリは妊娠中のため欠席させると私たちは発表しておいた。
この日放送局に集まった記者は30人くらいである。地方での記者会見にしてはまあまあ集まったのではないかと私は思った。アクアの記者会見なら札幌ででも100人来るだろうが、仕方ない。
始まる前の記者会見場をモニターで見ると記者のテンションはあまり高くない。直前に何かで呼ばれたようで退出した記者もいた!
残っている記者たちも、マリが出ないと発表しているので、おそらくPVを流して質疑応答をする程度だろうと思っているだろう。
ところが「記者会見を始めます」と氷川さんが言ったら記者会見場の照明が落ちて、前面に張られていた幕が巻き上げられると、そこにスターキッズがスタンバイしている。近藤さんの合図で演奏が始まると、マリとケイが登場し『マイ・ハッピー・デイ』を歌い始めるので記者席にざわめきが起きる。写真を撮る記者、慌ててスマホで動画撮影する記者などもいる。
ビデオカメラを持って来ていた記者が全く居なかったのである。
更にその後『ふたりの愛ランド2018』も演奏されると、記者席からは歓声まであがる。スターキッズも楽しそうにこの曲を演奏した。七星さんはサックスを置いてウクレレを演奏している。七星さんのウクレレ演奏は公の場ではほぼ初公開になった(実際の音源ではウクレレ音を組み込んだエレクトーンで演奏されている)。
物凄い歓声が上がる。
「マリちゃーん!」
という歓声が凄いが、マリはひとりで退場してしまい。私だけが氷川さんが座っている記者会見用の椅子の所に行って座り、また幕は降りてしまう。その幕をめくって、サックスとウクレレを演奏した七星さんが少し昂揚した表情で出てきて、私の隣に座った。
記者会見は私と氷川さん・七星さんの3人で行う。
「そういう訳でこの2曲を含むミニアルバム『ブライダル・ウィンド』を本日発売しました」
と私は言ったが
「マリさんは妊娠中なのでお休みということじゃなかったんですか?」
という質問がある。
「今のは立体映像です」
「え〜〜〜!?」
「Perfumeのコンサートなどで、Perfumeが空中に登場したりしますよね。あれと同じ原理です。薄い半透明のスクリーンを置いてそこにマリの映像を投影しました。ですからマリは映像です。私は本物ですが」
「ではマリさんの声は音源ですか?」
「いえ。マリはリアルタイムで歌いました。実はその辺にいるのですが、今日はライブに集中するため記者会見はお休みということにしたので、姿は見せておりません」
「その辺りにおられるのであれば、呼べばお返事頂けますか?」
「呼んでみて下さい」
数人の記者が「せーの」と音頭を取って
「マリさーん!」
と呼びかけると
「はーい!」
というマリの声が返ってきた。
思わず拍手が起きた。
そういう訳でこの後の記者会見は、記者会見席に座る氷川・私・七星と、別室に控えているマリが記者の質問に答えていく形で進行したのである。
「昨日の夕方売られていたDVDとのセットを買ってPVを見たのですが、アクアさんが出演していたんですね」
「はい。以前この曲を出した時には、レインボウ・フルート・バンズのフェイちゃんとハイライト・セブンスターズのヒロシさんにお願いしたのですが、今回誰に頼もうかと思っていた時、マリが『アクアも色々楽器できるよ』と言ったので、ダメ元で照会してみたら『他ならぬマリさんの頼みなら』と言って出てくれたんです」
と私は笑顔で説明する。
「でしたらあの楽器演奏はマジですか?」
「マジです。本当に演奏しています」
記者席がざわめいている。まさかあれが全部リアルの演奏とは思っていなかったのである。
「実際にCDに入っているのもアクアちゃんが演奏した音です」
「それは凄い!」
みんなあれは実際に演奏したのは各々の楽器の専門家と思い込んでいたであろう。
「アクア以外の演奏者はバックのストリングスサウンドを入れた私と鷹野さんだけですね」
「アクアちゃんは非常に多忙だと思うのですが、収録は何日掛けましたか?」
「予め私と鷹野さんが弾いたストリングの音を録っておきまして。その後は練習1日の後、収録は1発でOKになりました」
「ひょっとしてあれはリアルタイムで録音したんですか?」
「そうです。アクアは男の子役でも女の子役でもリアルタイムで楽器間を移動して、1発でOKになりました。ですからアクア自身はお着替えして2回演奏していますね。男の子役の時の演奏と女の子役の時の演奏の微妙なタイミングのズレだけ編集で調整しています」
「それは仕方ないですね」
(本当は何も調整していない)
「アクアさんは元々あんなに色々楽器ができるんですか?」
「ヴァイオリンとピアノは小さい頃から習っています。鈴木のメソードは全部卒業しています。フルートは小学4年生の時から趣味でやっていたらしいです。ギターも趣味の範囲でやっていたそうですが、彼はデビューした時にハワイで録ってきたビデオでもギター演奏を披露していますね」
記者たちはざわめいている。
「サックスもやはり趣味の範囲でやっていたので、EWI(イーウィー)はそれの応用ですぐに覚えたようです。EWIは事前に楽器を渡しておいて移動時間などを利用して練習しておいてもらいました。今回初挑戦だったのがドラムスとチェロですが、これを初日1日かけての練習でものにしてしまいました」
「1日で覚えるって凄いですね!」
「彼は俳優志望ですけど、俳優なんかやめてミュージシャンになりなよと言いたくなるくらい、音楽的な才能が高いです」
結局アクア関係の質疑応答だけで10分近く使った。
「アクアさんのギャラを教えて下さい」
「彼の人気にふさわしい程度の額だと思いますが」
「300万円くらいですか?」
「額は公開しないことにしていますが、そんなに少額ではありません」
と私が言ったので、翌日の各新聞は1000万円か?とか2000万円か?と書いていたが、実際にはそれらの予想より上であった。
「ちなみに以前PVを撮った時のフェイさんとヒロシさんのギャラは?」
「非公開で」
と私は言ったのだが、後でヒロシが
「50万円だったよ〜」
とバラしていた。これでも(当時)無名に近かったタレントとしては破格のギャラだったと思う。
一方フェイも「楽器一つにつき5万円で10個の楽器を弾いたから5×10=50万円だったと思う」とツイッターに書き込んでいた。ところが
「数えてみたら楽器は9種類のようですが」
というツッコミが入っていた。
ピアノ(連弾)、リコーダー、フルート、クラリネット、トロンボーン、ヴァイオリン、チェロ、ギター、ドラムス(連打)で9種類である。アクアはこのクラリネット・トロンボーンをEWIとサックスに振り替えた。
「あれ〜!?」
「もう1種類演奏したけどボツになったとか」
「あと1つ演奏したとしたら何だろう」
「トランペットとか?」
「ハーモニカは?」
「パンフルート」
「三味線」
「チター」
「バンドゥーラ」
「アクアも吹いてたサクソフォーン」
「ユーフォニウム」
「ヴィブラフォンの連弾」
ネットは予想大会になっていたが、その論争に気付いたヒロシが
「楽器は9種類だったはず。ボツになった楽器は無いよ。あと5万は基本料ってケイさん言ってた気がする」
とコメントして論争は収まった。
記者会見の最後に私は言った。
「そういう訳で今年もローズ+リリーのカウントダウンライブをやります」
記者席が騒然とする。メールを打っている記者が何人も居る。速報を流すのだろう。
「出演は?」
「私はリアルで。マリは映像+リアル声で」
「おぉ!!」
「妊娠がかなり進んでいる時期と思いますが、深夜までマリさん大丈夫ですか?」
という声があるが
「マリの生活時間は毎日昼1時くらいに起床して夜中3時頃に寝るというパターンですので」
と私が説明すると大きな笑い声があがる。
「ですから毎日10時間くらい寝る健康的な生活です」
と言うと苦笑が漏れている。
「日本の午後1時はフランスの朝6時、日本の夜中3時はフランスの夜8時ですから、マリはパリ時間で生活しているのかも知れません」
と私が言うと、爆笑が起きた。これは翌日の新聞の見出しにも
《マリはパリで生活中》
などといった形で使われていた!
「ちなみに週数としては9ヶ月目に入った所になりますので、念のためお医者さんに付いていてもらうことにしています」
と私が言うと記者たちは頷いていた。
「場所は決まっていますか?」
「諸事情で福井県小浜市の特設会場に決まりました」
「例年のように温泉とのセットチケットを販売しますか?」
「はい。福井県といっても芦原(あわら)温泉や九頭竜(くずりゅう)温泉などにはアクセスがあまり良くないので、地元の小浜市・若狭町・美浜町・敦賀市などで収容できない分は、京都府の舞鶴市・宮津市・京丹後市などに広がる温泉群、更には兵庫県の城崎(きのさき)温泉、有馬温泉などにも宿を確保しています。それでも不足する分は琵琶湖・京都市周辺にも予備押さえをしています。近日中にチケットを発売しますが、チケットの売れ行き次第ではそちらは一部または全部をキャンセル料を支払ってキャンセルする可能性もあります」
と氷川さんが説明した。
2万人分くらいキャンセルするかも知れないと予め言った上で押さえているのだが、もしキャンセルすると2万人分のキャンセル料+迷惑料は4000万円くらいに及ぶものと思われる。
さて2018年のローズ+リリーの秋のツアーであるが、昨年がアルバム制作で死んでいて、その後春は上島騒動でとても余裕がなくて、結果的に2年ぶりのツアーになったこと、そして10周年記念ツアーであることから、演奏曲目を30曲にしてくれないかと★★レコードの佐田副社長から要請があった。
「マリが妊娠中なので充分な休憩が必要なのですが」
「では途中2回休憩を入れて3部構成+アンコールというのではどうだろう?」
「まあそれしかないですよね」
2回の休憩を入れて30曲演奏すると、演奏時間はどうしても3時間に及ぶ。
それで3時間やるとなると、何時に始めるかという問題がある。佐田さん側で各会場と終了時間について交渉してくれたところ(実際に交渉に当たったのは佐田さん直下のメディアミックス推進室だが)、全ての会場で22:00までに確実に撤収するなら21:30までは目をつぶるということになった。そのため★★レコード側から撤収作業を手伝うスタッフを派遣する。
しかし21:30エンドとなると、開始は18:30になる。
私は町添部長と話し合い、休日の場合は開始を思い切って17:00まで繰り上げることにした。それで実は影響を受けるのがKARIONのライブだ。
元々はKARIONのライブを13:00-15:15にやって1-1.5時間の移動で私がローズ+リリーの会場に入り、2時間近く仮眠を取って19:00開演、21:15エンドという想定をしていた。ところがローズ+リリーが17:00スタートならKARIONを11:00には始めないと間に合わない。
結局、KARIONは9:00開場10:00開演12:15終了という、異例の午前中ライブということになった。KARIONの事務所の畠山社長が不満だったようだが、私の体力を考えるとやむを得ないよなぁと妥協してくれた。
さてこのスケジュールを前提に演奏者を集めることにする。
私はいつものようにある程度高校生・大学生の演奏者を使いたいと思った。できるだけ若い人のパワーを取り込みたいのだ。
ここで問題なのが、翌日が平日という公演で演奏者が東京に戻れるかという点と水曜日の場合、夕方東京から移動して公演に間に合うかという問題であった。まずは妃美貴が時刻表を調べてくれた。
「東京に帰さないといけない人は第2部で上がりというのでいいですよね?」
「うん。そういう曲の配列にしよう」
「それならだいたいこの連絡でいけます」
9月09日(日)函館17:00/18:50 (別記)
9月12日(水)千葉18:30/20:20 In:OK Out:OK
9月17日(祝)宮城17:00/18:50 Out:仙台20:17-22:24東京
9月19日(水)静岡18:30/20:20 In:東京16:26-17:51静岡 Out:静岡21:20-22:47東京
9月24日(振)長岡17:00/18:50 Out:長岡19:59-21:52東京
9月26日(水)高松18:30/20:20 無理
9月30日(日)大阪17:00/18:50 Out:新大阪19:50-22:23東京
10月3日(水)横浜18:30/20:20 In:OK Out:OK
10月8日(祝)別府17:00/18:50 (別記)
10月10日(水)大村18:30/20:20 (別記)
10月14日(日)東京17:00/18:50 Out:OK
あっさり無理という判定になったのが高松で、これは地元の演奏者を現地調達するしかないということになる。帰りはサンライズ瀬戸を使う手もあるのだが、公演自体に東京から辿り着けないのである。
10月8,10日の別府と大村だが、現実問題としてこれは9日(火)を休んでもらった方がいいのではないかと妃美貴は言った。確かに8日の深夜に別府から東京に戻り、1日おいて10日にまた長崎へというのは辛すぎる。
「9日は学校を休んでもいい人というのを条件にしましょうよ」
「それがいい気がするね」
そうした場合、10日のイン(来場)は問題ないのでアウト(帰宅)だけ考えればよいが、こうやって翌朝の授業に間に合うのである。
《用意した車で北九州空港近くのホテルへ移動。北九州5:30-7:00羽田》
大村から北九州空港までは2時間半で行くのである。鉄道の移動だと大変なことになるのだが、長崎自動車道・九州自動車道・北九州高速を走ると短時間で辿りつくことができる。
実は8日も同じ方法で別府から東京に帰れるのだが、それを1日おいて2度やるのは体力的にあまりにもきつい。
「車での移動というのを使うと、函館からも朝までに帰れるんです」
と妃美貴は言う。
《新函館北斗19:37-23:01仙台:用意した車で東京へ。AM3:30頃到着》
「うん。これは手配できる。あとはそれが何人くらいになるかによって手配する車のサイズが変わるね」
そういう訳で人の手配を始めたのだが、ツアーは1ヶ月半に及ぶので、その間継続的に出られる人を集める必要がある。これがカウントダウンや夏フェス、復興イベントなどとはまた違った部分である。長丁場なので若い人でないと体力的に無理である。時間の自由が利く人が理想的だが、体力面を考えると高校生・大学生はむしろ主力になりそうでもある。
今回、龍笛に関しては千里2に照会してみると
「いいよー」
ということだった。彼女は土日は試合がフランス時間の夕方20:00-22:00なので、その時間帯は日本の夜中3:00-5:00に相当し、そこにぶつからないので行けるらしい。平日だと練習時間となる午前9-12時が日本の17-20時で公演時間にまともにぶつかる。
「いやそれが水曜とか一部日本の祝日になる月曜もあるんだけど」
「練習だし、身代わりを置いておけば平気」
私は一瞬その「身代わり」にされる子の悲鳴を聞いた気がしたが、気のせいだろう。
「じゃ、よろしく」
「ただね」
「ん?」
「千里3がこの時期は代表合宿やってたりスペイン遠征やってたりするんだよ」
「あぁ・・・」
「そのことを知っている人が私がステージにいるのを見たら変に思うだろうから私は覆面して“謎の男の娘”ということで」
「了解〜」
しかし密入国者が覆面して演奏するなんて、まるでアングラ音楽だ!
青葉は就活の最中なので厳しいということであった。
彼女は現在大学3年生だが、既に就職活動の真っ最中である。アナウンサー志望なのだが、アナウンサーの就活は3年生の夏休みから始まる。既に東京のキー局5つの内4つは落ちて現在◇◇テレビのみ残っている(青葉はNHKは受けていない)。二次三次と振り落とされて今10人ほど残っているらしいが、この時点で複数の局を併願していた子たちが、どこか1つの局だけに絞り込まれている。◇◇テレビに残っている10人の中で採用されるのは2人か3人、生存率3〜4分の1という所らしい。
笙については鮎川ゆまが南藤由梨奈の活動日程にはだぶっていない(実は今年は半ば休眠に近い状態らしい−今年はこういうアーティストが多い)ので出られるということで、お願いする。ゆまにはついでに色々他にも吹いてもらうことにする。
「ゆまは男装するのは問題無いよね?」
「私、普通にしてても男にみられるし」
「そういえばそうだった」
彼女にドレスを着せると、男が女装しているようにしか見えないので、これまで参加してもらったケースでもだいたいズボン型の衣裳を使用している。彼女はラッキーブロッサムをしていた頃は、いつも軍服だった!プライベートにはそもそもスカートを持っていないと言っていた。
私はセットリストとにらめっこしていて、フルート奏者とクラリネット奏者が1人ずつ欲しいと思った。ローズ+リリーの「いつもの」演奏スタッフの中では詩津紅がクラリネットの専門家、風花がフルートの専門家ではあるが、詩津紅は今回ほとんどの曲でヨーロッパ遠征と重なる美野里に代わってピアノを弾いてもらうことにしているし、風花は基本的に演奏の管理者なので、あまり演奏自体には参加させたくない。風花が舞台袖に控えていないと演奏者が楽譜の解釈など演奏上の問題で相談したいことが起きた時に妃美貴や鱒渕では対応できないのである。
それで夏フェスに出てもらった、青葉の友人・上野美津穂(Cla)と田中世梨奈(Fl)に連絡してみたらふたりとも「参加したいです!」と言ってくれたのでお願いすることにした。
「平日もあるんだけど」
「休むから平気です」
「日曜や祝日の月曜で、やはり朝までに金沢や富山に帰れない日もあると思うんだけど」
「全く問題ありません」
まあ本人たちがいいと言っているのだから、いいのだろう。
世梨奈は
「あのぉ、ところで、実は後期の授業料を払うのに少しお金が足りなくて」
などと言っていた。
「じゃ前払いしてあげるね」
「助かります!」
「ところで世梨奈ちゃんはピアノは弾けないよね?」
「すみませーん。下手です。私が『猫踏んじゃった』を弾くと猫が踊り出すと言われます」
そういうピアノプレイも楽しい気はするが・・・
「じゃ誰かお友だちで上手い人居ないかなあ。青葉を徴用するつもりだったんだけど就活と作曲で忙しいみたいで」
「ピアノなら青葉の作詞担当をしている日香理さんがわりと上手いです」
「おぉ!!」
「でもプロのコンサートで弾けるかは少し微妙かも知れないし・・・あっそうだ」
「うん?」
「私たちの1つ下の学年で谷口翼って子がいるんですよ。ピアノが物凄く上手くて。東京音大の2年生なんですが」
「エリートじゃん!」
それでその子の連絡先を教えてもらい、風花にコンタクトを取ってもらった。演奏も聴いてみてもらったが、
「この子、美野里ちゃんや冬ほどではないけど、私や詩津紅より遙かに上手いよ」
ということだった。
それでスケジュールが取れるならぜひお願いしたいと伝えたところ、水曜日はバイトのために授業の無い日にしていたのに、そのバイト先が無くなっちゃったという話で、ツアーへの参加をOKしてもらった。
「凄く可愛い子だったよ。ドレス着せたらお姫様みたいに見えそう」
と風花は言っていた。
「へー。それは凄い」
風花が女性の容姿を褒めるのは珍しいなと思って私は聞いていたのだが、私はこの時、もう少し風花の言い方を聞いておくべきだった。
「富山公演で『苗場行進曲』をやった時に行進に参加してるって」
「ああ。でもあの時は演奏は聴いてないもんね〜」
彼女は現在東京音大の管楽器コースに所属しており、ピアノの他にフルート、クラリネット、オーボエ、トランペット、トロンボーン、ホルンなども学んでいるが(東京音大は多くの管楽器を学ばせる方針らしい)、実は高校時代に青葉や美津穂たちの“合唱軽音部”ではバリトンサックスも吹いており(ジャンケンで負けてバリトン担当になったらしい)、サックスは4種類(ソプラノ・アルト・テナー・バリトン)とも吹けるということであった。非常に頼もしい存在である。
「じゃ彼女にはサックスやフルート・クラリネットもお願いと伝えておいて」
と私が言うと、風花はなぜか笑っていた。
「何かおかしかった?」
「ううん。じゃ“彼女”に伝えておくね」
何なんだ〜?
「そうだ。サックスの楽器自体は持ってないらしんだよ。高校時代も学校の備品を吹いていたらしくて」
「じゃ楽器貸し出しておいてよ。アルトサックスとバリトンサックスを頼むことになると思うから」
「了解、了解」
「マウスピース代も渡しておいて」
「OK」
私はギター・ベース・ドラムスのサブ演奏者が欲しいと思った。3時間の公演は歌う私とマリも重労働だが、それ以上に「物理動作」が大きい伴奏者たちの体力も消耗する。
それで私は近藤さん・七星さんとも話し合い、公演の「第2部」の伴奏をサブ演奏者に任せることにした。
この場合、できたら20歳前後くらいの女性が欲しい。それは女性演奏者は多少技術が劣っていても「女だから仕方ない」と思ってくれる観客が多いことと、もうひとつ、こちらがもっと重要なのだが、近藤さんたちが「自分たちの地位がおびやかされる」不安を持たなくて済むからである。
私は世梨奈に相談してみた。
「私たちの年代で、ギター、ベース、ドラムスの上手い人ですか。『合唱軽音部』のメンツだと、ギターは空帆がうまいですよ」
「ああ。彼女はうまかった」
「ベースとドラムスもあの子に訊いてみた方がいいかも」
「ありがとう。訊いてみるよ」
それで私は空帆に連絡した。
「ローズ+リリーのライブですか!やります、やります!」
と乗り気である。ベースとドラムスに関して尋ねると
「ベースの上手い子ならたくさん居ますけど、ケイさん、KARIONのお仲間にもベースの凄く上手い人がいるじゃないですか」
おぉ!そうだった!!ではあの子を徴用しよう。
「ドラ娘(どらむすめ:ドラムスを打つ女子の意味らしい)は、上手い子ってなかなか居ないんですよね〜。腕力の問題あって。最初の2〜3曲はいいけど20-30分打ってるとテンポが乱れ出す子が多い。うちのバンドもドラムスだけ男子なんですよ」
「なるほどー」
「あ、ちょっと待って下さいよ」
と言って彼女は何か探しているようである。机の引き出しを開け閉めする音、何か本が崩れる?音などがする。
「あったあった。ここ、うちのバンドと対バンしたことのあるバンドなんですが、イグニスというバンドのレイアって子が凄くうまかったです。もしかしたらもうプロになってるかも知れないけど」
「そのバンドの人と連絡取れる?」
「ええ。ちょっと訊いてみます」
「うん」
それで連絡を取ってもらうとレイアはぜひやりたいということだったので風花に行って実際のライブでのプレイを見てもらった。
「この子筋がいいですよ。プレイも正確だしノリもいいし。腕は物凄く太いです。XANFUSの由妃ちゃんより太いかも」
「へー!」
「訊いてみたら中学高校ではバレーやってたんだって」
「それは凄い」
「背も高いですよ〜。170cmくらいかな。でも膝を痛めてバレー選手の道は諦めたらしいんですよ」
「それは残念だったね」
「でもこの腕の太さを見込まれて、結構あちこちから頼まれているらしくて、今4つのバンドのドラムスを兼任しているらしくって」
「わっ」
「でもプロのコンサートに参加するなんて、またとない機会だからやりたいそうです」
「じゃお願いしよう。その子学生さん?」
「大学はピカリー女学院英文科の4年生なんですけどね。ほとんど行ってないらしい」
「卒業できるの?」
「この学校で授業料の未払い以外の理由で卒業できなかった人はいないらしいです」
「それも凄い!でも就活は?」
「どうせ仕事なんか無いから、お姉さんのアパートに居候しながらバイトで食いつなぐつもりらしいです」
「お姉さんも大変ね〜」
彼女は本名が玲香らしいが「れいか」を「れいあ」と聞き間違えられて、それでもいいかということでステージネームにしているらしい。しかしスターウォーズのレイア姫由来ですか?とよく聞かれるそうである。
「それでレイアちゃん、演奏曲目の中にひとつのドラムスを2人で叩くというのがあってね」
「そんなのあるんですか!?」
「ピアノなら連弾だけど、ドラムスなら連打かな」
「へー!」
「もしよかったらその曲だけでも、うちの正ドラマーと一緒に何度か練習してもらえないかな。練習した日のギャラも払う。取り敢えず2時間×最低3回。状況次第で延長」
「行きます、行きます!」
(「最低3回」というのは2回で完成域に達しても3回分のギャラは払うという意味)
それで私は酒向さんの承諾も取ってふたりで一緒に『愛のデュエット』のドラムス部分を練習してもらったのである。風花に練習を見てもらったが、酒向さんは最初は面白くなさそうな顔をしていたものの、実際にレイア本人が来ると、可愛い子なので、やや鼻の下が長くなり、親切に指導していたらしい。
やはりサブ演奏者は女子という私の戦略がうまくいった感じだ。
サックスに関しては過去に何度もローズ+リリーのライブに協力してもらっているバレンシアの心亜(ココア)に連絡したら
「出ます!出ます!」
と、ふたつ返事である。
彼女は七星さんの弟子なので、彼女の出演は七星さんにとっても寛容になれるだろう。
「心亜ちゃん、フルートとかクラリネットは吹ける?」
「吹けますけど、フルートはミルク、クラリネットはレモンの方がうまいです」
「いや、ひとりでリコーダー、フルート、クラリネット、サックスを続けて演奏できる人が欲しいんだよ」
「演奏できればいいんですか?」
「そうそう」
「だったら、そのラインナップなら、私とミルクが行けます。金管が入るとレモンなんですが、レモンはフルートの音を出せないんですよ」
「微妙だね!」
「事務所からもほとんど放置されているし、最近はスタジオミュージシャンで食いつないでいるんで、色々な楽器ができるように心がけてはいるのですが」
バレンシアは現在ギターとベースの子が離脱して事実上の休止状態にある。ギターの子がリーダーだったのだが、後任のリーダーも決まっていない。メンバーはみんな20代後半なので、レコード会社も消極的である。
「だったら心強い。心亜ちゃん、ピアノは?」
「ダメです。電子キーボードなら何とかなるんですが、ピアノは強弱付けて弾けないんですよ」
「ああ。だったら電子キーボードなら行けるね」
「ええ。実はバレンシアのメンバーでピアノ弾ける子居ないんですよ。キーボード担当の是梨(ゼリー)もピアノは怪しい。あの子エレクトーンは7級持っているんですけど」
「そうだったのか。心亜ちゃん、マリンバは?」
「マリンバって太鼓か何かでしたっけ?」
「木琴の一種。だいたい木琴か鉄琴が弾ければ弾ける。シロフォン、マリンバ、グロッケンシュピール、ヴィブラフォンはだいたい演奏法が似ている」
「なるほどー。だったら、私はやはり強弱が怪しい気がしますけど、うちのミルクが弾けると思います」
「あの子、管楽器だけじゃないの?」
「中学高校ではヴィブラフォンやってたんですよ。でもバレンシア結成する時に、ヴィブラフォンはツアーの時に輸送費が掛かると須藤社長から言われて手荷物で持ち運べるフルートにしたんです」
「ああ、ケチな須藤さんらしい」
それで観月に連絡を取ってみた所、自宅にシロフォンとグロッケンシュピールは持っていて、マリンバとヴィブラフォンは持ってはいないものの大丈夫だと思うということであった。事前に練習できないかと言っていたので、祐天寺のXスタジオで空いている時は自由に練習できるように言っておくと伝えておいた。
私は再度ココアに電話して話し合い、結局、バレンシアからは、心亜(ココア)、観月(ミルク)、礼文(レモン)の3人が参加してくれることになった。3人とも様々な楽器が演奏できて、編成を組みやすそうなのである。
「ところでココアちゃん、男装とか抵抗は無い?」
「男装ですか?大丈夫ですよ」
「じゃもしかしたら男装してもらうかも」
「OKです。ちんちん付けてきます。ちなみに女装も大丈夫です」
「じゃもしかしたら女装してもらうかも」
「OKです。おっぱい付けてきます」
何のこっちゃ!?
ヴァイオリンに関しては、いつも頼んでいる鈴木真知子はこの時期ヨーロッパの幾つかのコンテストを歴戦するらしく国内に居ない。しかし彼女の友人の田中成美ちゃんが土日祝の公演には参加できるということだった。私にとっても旧知の子である。
彼女は高校生(若干怪しい気もするのだが多分女子高校生)なので、高松公演以外に参加できるだろうと思い、念のため確認したら、高松もOKと言う。
「水曜日は休みますから、帰りはそのサンライズ瀬戸に乗るルートで確保してもらえますか?」
「OKOK。助かる。でも学校いいの?」
「うちの学校は演奏活動を優先して学校休んでもいいんですよ」
「へー。ああ、芸能人とか多い学校には時々あるよね」
「うちの学校、芸能人多いですよー」
「なるほどー!もしかして品川区のD高校とか」
「いえ。北区のC学園です」
「わっ。そしたらもしかしてアクアちゃん知ってる?」
「同じクラスですよ」
「そうだったのか!」
「アクアの実態をだからかなり見てますけど、一応秘密ということで」
「あはは」
しかしアクアと同級生とは全く知らなかった。
「ところで田中さんはピアノは弾ける?」
「コンテストに出られるほどではないですけど、他のヴァイオリニストの伴奏ができる程度には」
「それはかなりレベルが高そうだ。ヴィオラとかチェロは?」
「小学校の学習発表会で弾けば拍手をもらえる程度には」
「充分だね。ギターはどうだろう?」
「ああ、大好きです。ヴァイオリンの練習の合間とかに息抜きでよく弾くんですよ」
「アコスティック?エレキ?」
「どちらも行けますよー。アコスティックはギブソンのL-00, エレキは同じくギブソンのSG持ってます。クラシックギターは自信無いけど」
「うん。クラシックギターの演奏が必要になることはないと思う。そしたらもしかしたら一部の曲でピアノやギターあるいはヴィオラやチェロを弾いてもらうかも知れないけど」
「いいですよー。あ、そうだ。ヴィオラとかチェロもあるんだったら、よかったら楽器を貸してもらえると少し練習しておきますが」
「だったら、後で誰かに持って行かせるね」
それで妃美貴に彼女の家まで、ヤマハ製のヴィオラとチェロを持っていってもらった。
「まだ誰に何の曲を弾いてもらうかは確定していないんですよ。決まったらすぐ連絡しますので」
と妃美貴には言っておいてもらった。
帰ってきた妃美貴に
「お疲れ様」
と声を掛けたら
「本人は居なくてお兄さんがいたので預けてきました」
と言っていた。
「へー。お兄さんがいたのか」
「お兄さんも高校生らしいんですけどね」
「ふーん」
成美ちゃんはアクアと同級生だから高校2年生である。その兄も高校生なら年子?でも、お兄さんと言っておいて実は本人の男装かも知れないよな、という気がチラッとした。
さて、ヴァイオリンはソロを担当する人以外にあと4人欲しいのだが、これはまたアスカに頼んで揃えてもらった。みんなローズ+リリーの音源製作やライブではおなじみの人たちであった。
伊藤ソナタ・桂城由佳菜・前田恵里奈・生方芳雄
「あのぉ、蘭若先生からは『ドレス着てね』と言われましたけど、女装しなくてもいいですよね?」
と生方さんからは確認の電話があったが
「そのあたりは任意で。生方さんに合う男性用衣裳・女性用衣裳どちらも用意しておきますので」
などと風花は答えていたが
「男性用衣裳でお願いします!」
と彼は言っていた。
毎度おなじみのセクハラだ!
なお彼女たちは高松公演への出演もOKということで、田中成美ちゃん同様、サンライズ瀬戸で帰京することになる。この結果高松公演は別途伴奏者を手配しなくても、他の公演と同じ伴奏者で行けることになった。
そういう訳で函館公演の後、仙台から東京へ運ぶのは6人と確定した。
座っての移動ならワゴン車でもいいが、それでは寝られないので、マイクロバスを使い、各々1列独占して寝て行けるようにする。ドライバーは2人用意して1時間半程度で交替させる。
対象となるのは伊藤ソナタ・桂城由佳菜・前田恵里奈・生方芳雄・田中成美・谷口翼だが、座席前方から生方・田中・伊藤・桂城・前田・谷口と並べて、悪いが田中成美ちゃんを男女の緩衝領域として使わせてもらう。彼女は女性男装者なのか男性女装者なのか、どうもよく分からないのだが、たぶん男性の隣でも女性の隣でも問題は少ないと思われる。
もっとも生方さんについても伊藤ソナタは
「よっちゃん、香り付き汗拭きシートで汗は拭いた上で、女の子パジャマを着てくれたら、私の隣で寝てもいいよー」
などと言っていたが。
(セクハラは続く)
愛のデュエットはこういう組み合わせで演奏することにした。
左が男性(男役)で右が女性(女役)である。
ピアノ連弾 月丘+翼
リコーダー・フルート・クラリネット・サックス 心亜(男装)+翼
ヴァイオリン・チェロ・ギター 鷹野+成美
ドラムス連打 酒向+レイア
男性演奏者が少ないので、一部女性演奏者に男装してもらう。
翼には5つの楽器を続けて演奏してもらうが、男性側はピアノだけ月丘さんで、管楽器はココアに男装して務めてもらう。
『郷愁協奏曲』で必要なオーケストラに関しては、★★レコードを通して各会場の地元のオーケストラで協力してくれる所がないか探してもらった所、全地区でオーケストラを確保することができた。ほとんどが各地区の大学生のオーケストラである。地区ごとに演奏者を確保するのは2014年のツアーの時「苗場行進曲」で行進してくれる人たちを各地区で確保した時以来である。
和楽器に関しては例によって風帆伯母に相談し、必要な人数を揃えてもらえることになった。頼んで数日経って聖見から連絡があった。
「うちの月子と星子(ふたりとも中学生)を参加させたいんだけど、公演終了後名古屋に帰宅できるかなぁ」
「水曜日とかもあるんですけど?」
「それは休ませる。ただ翌日の木曜日に登校できれば問題無い」
「調べて連絡します」
それで妃美貴が調べてくれたが、帰宅については、早めに上がるようにすれば名古屋まででも、ちゃんと帰れることが分かった。
《帰り》
9月09日(日)函館17:35 新函館北斗18:36-23:04東京(泊)東京6:00-7:34名古屋
9月12日(水)千葉19:05 幕張19:32-20:09東京20:30-22:11名古屋
9月17日(祝)宮城17:35 仙台18:57-20:32東京20:50-22:31名古屋
9月19日(水)静岡19:05 静岡20:10-21:07名古屋
9月24日(振)長岡17:35 長岡18:35-20:12東京20:20-22:01名古屋
9月26日(水)高松19:05 高松19:40-20:35岡山21:13-22:50名古屋
9月30日(日)大阪17:35 新大阪18:30-19:20名古屋
10月3日(水)横浜19:05 新横浜19:32-20:54名古屋
10月8日(祝)別府17:35 大分空港20:25-21:30中部
10月10日(水)大村19:05 長崎空港20:15-21:35中部
10月14日(日)東京17:35 東京18:40-20:19名古屋
基本的には和楽器を使う曲を最初の方に集中させればいいようだ。それで函館からの帰り方についても説明すると聖見は「すごーい」と言っていた。
「函館で公演やった翌朝名古屋で学校に登校できるのが凄いね。日本列島は小さくなったね!長距離の移動は若いから平気だよ。むしろ面白がると思う」
などと聖見は言っていた。
それで聖見の承諾が得られたので、月子・星子の参加が決まった。10月9日問題については、そういう状況なら9日は学校を休ませると聖見は言った。彼女らは中学生ではあっても既に名取りなので、演奏会の都合で学校を休むというのは、時々あることだと言う。
そういう訳で↑の10月8日の帰宅便は使用せず別府市内に宿泊する。水曜日公演の行きについては妃美貴の調査ではこのようであった。
《行き》
9月12日(水)千葉 名古屋15:33-17:13東京17:25-18:10幕張
9月19日(水)静岡 名古屋16:29-17:46静岡
9月26日(水)高松 名古屋14:50-16:27岡山16:42-17:37高松
10月3日(水)横浜 名古屋16:42-18:05新横浜
高松が厳しい。千葉公演と高松公演については、午前中だけで早退させるかもと聖見は言っていたが、元々は水曜日は丸1日休ませるつもりだったようなので、早引きで済めばいいのかも知れない。
10月10日は「10月9日問題」で、9-10日の2日間学校を休むので到達問題も発生しない。
『コーンフレークの花』で入れたいダンサーに関しては《ビキニ姿になれる人》という条件で探してみた所、2017/2018カウントダウンで踊ってくれたローザ+リリンが「私たちでもよければ出ましょうか?いや出たい!」と言っていたので、“彼ら”にお願いすることにした(早まったことをしていなければ“彼女ら”ではないはず)。私たちが10周年なら彼らも10周年である。よくまあこのネタで10年もやってきたものである。
「マリちゃんが妊娠しちゃったから、私も妊娠してる」
とマリナは言っていた。確かにお腹が大きかったが、どうやって“妊娠”したかは不明である。なお妊娠していてもダンスしたりするのは問題ないらしい。
「赤ちゃんの父親は?」
「有名ミュージシャンだけど名は明かせないの」
「出産予定日は?」
「マリちゃんと同じで」
などと言っていた。
彼らは契約上男装で人前に出てはいけないので、もう男物の服は全く無くなってしまったと言っている。親や親戚には「これはただの芸だから自分は女装者でもゲイでもない」と主張しているものの誰も信じてない気がすると言っていた。
「いやぁ、まさか10年続くとは思いも寄らなかったから安易に男装禁止の契約しちゃったのよね〜」
などとも言っていた。
「女の芸人を含めて女の友だちが増えた」
「男の友だちはほとんどいなくなった」
「選挙に行くたびに揉める」
「しかし既に女に対して不感症になっている気がする」
「女子トイレにもプールの女子更衣室にも平気で入れるようになってしまった」
「男子更衣室に入ろうとすると『おばちゃん、こっち違う』と言われるし」
「田舎の公演で別の女芸人と相部屋にされたことあるけど、向こうはこちらの性別知っているのに、平気で目の前で着換えていたし、下着姿見てこちらも全然欲情しなかったし」
彼らの選任で演奏者の手配は全て完了した。
ツアーが近まってきたある日、和泉がうちのマンションに午前中(つまりマリが寝ている時間帯に)来て言った。
「ローズ+リリーのライブ幕間に登場するKARIONだけど」
「うん」
「蘭子は立体映像にしよう」
「あはは」
ローズ+リリーとKARIONのライブが同日にある場合、ローズ+リリーのライブの幕間ゲストにKARIONが入ることになっているのである。だから私はその日、KARIONのライブをこなしてからローズ+リリーのライブ会場に移動し、3時間ライブをするのだが、その幕間の本来なら休憩時間の間にもゲストのKARIONの一員として歌うことになっていたのである。
つまり全く休めない!
「蘭子の歌部分も何とかするから冬は寝てて」
「分かった。任せる」
「KARIONの本公演の方も立体映像にしてしまう手もあるけど」
「それはお客さんに申し訳無いから頑張る」
「ふーん」
と和泉は声を出してから言った。
「誰が立てた企画か知らないけど、冬を殺そうとしているとしか思えん。冬は過去に2回ダブルツアーをしたけど、27歳は体力の曲がり角を過ぎてるよ」
「それ、ある人(実は楠本京華)からも言われた」
「冬ももっと断り方を覚えなきゃダメだよ」
「うん」
和泉は楠本京華に電話した。
「ローズ+リリーの公演の方のゲストは代替することで冬子の承諾を取りましたので、作戦V1よろしくお願いします」
「了解。KARIONのライブそのものを代替する作戦V2は?」
「不発動で。バレないとは思うけど、私も罪悪感を感じますし」
「分かりました。1時間寝ただけで5時間寝た効果が出るお薬とかもありますが」
「副作用が怖いからやめときます」
「性転換するお薬もありますけど。男の身体の方が疲労回復は速いですよ」
「冬子の婚約者が困るので」
楠本京華は虚空(丸山アイ)に電話した。
「やはりV1で行こうと和泉ちゃんは言ってる。ケイちゃんもKARIONライブにもきちんと出たいと行っている」
「じゃV3作戦で」
「やはりそうなるか」
「まだケイに死なれては困るからね」
「ローズ+リリーのライブ会場に実際にはKARIONのメンバーは入らない。だからこの作戦はバレないんだよ」
と虚空は言うが
「要するに立体映像のテストをしたいのね?」
と京華は言う。
「うん。本番はカウントダウン」
2018年9月7日(金)。私とマリ、スターキッズを含む多数の伴奏者とスタッフが札幌に入った。普段のツアーでは北海道は1ヶ所だが、今回は札幌と函館の2日公演である(土曜が札幌、日曜が函館)。
この2日間の幕間ゲストはGolden Sixである。メンバーには北海道出身者がひじょうに多いので里帰りのようなものである。
私たちは金曜日に入ったが、学生さんは土曜日に入る人もある。それで8日のお昼に市内のホテルで(記者会見の後で)食事を兼ねて打合せをした。“Golden Sixと愉快な仲間たち”も参加してくれる。この2日間のGolden Sixのメンバーは
Pf.花野子 Gt.梨乃 B.美空 Dr.留実子 Fl.謎の男の娘 Vn.水野麻里愛
である。水野麻里愛は最近ヨーロッパに居ることが多いのだが、たまたま帰国していた所を早速徴用されてしまったらしい。もっとも本人は
「北海道に帰省する旅費が助かった」
などと言っていた。
美空と“謎の男の娘”さんはローズ+リリーの公演自体にも出るが、美空は
「私は第2部に出るだけだから平気」
といい、謎の男の娘さんは
「私はスポーツ選手で体力があるから平気」
と言っていた。
田中成美ちゃんは女子高制服夏服を着ている。そういえばこれと同じデザインの女子制服をアクアが着ているのを見たこともあった気がした。彼女が東京北区のC学園の2年生だと言うと、マリがピクッと反応した。
「質問。もしかしてアクアと同じ学校ですか?」
「同じクラスですよ〜。同じクラスに松梨詩恩ちゃんもいますよ」
「おぉ!!」
「アクアはしばしば女子制服で通学しているという噂があるんですが」
「よく着てきてますよ。比率的には出席日数の3分の1くらいかなあ」
それはつまりアクアFが登校している日なのだろう。
「やはりアクアって女の子になりたいんだよね?」
「女の子になりたいんなら、ずっと女子制服を着ていると思う。あの子、女役が多いから、女の子として行動するのに慣れるためだと言ってますね」
「その写真が見たい」
「校内での撮影は禁止なので」
「それで女子制服写真は出回らないのか」
「帰りはたいてい事務所の車でスタジオや放送局に直行だし」
「なるほどー」
その後、空帆が自己紹介し、レイアが自己紹介し、美空の自己紹介で笑いが起きる。その次に自己紹介したのが翼だった。
「おはようございます。谷口翼と申します。よろしくお願いします」
私は仰天した。
「翼ちゃん、男装してきたの?」
「えっと・・・私、男ですけど」
「え〜〜〜〜!?」
私は風花を見た。
「ドレス着せたらお姫様みたいになりそうとか言ってなかった?」
「うん。彼、美形でしょ?髪も長いし、女装も似合いそう」
と風花。
「すみません。女装は勘弁してください。高校時代、随分やらされたけど」
と翼。
「ああ、青葉とか立花とかのセクハラね」
と空帆が笑って言っている。
「彼の衣裳どうしよう?」
と私が言うと
「もちろん男性用衣裳を用意していますよ」
と風花。
「女性用衣裳が良かったら何とかなると思いますが」
「それは勘弁して下さい」
「愛のデュエット、私、ココアちゃんの男装と組ませるつもりだったけど」
「ココアちゃんが女装すればOK」
「なるほどー!」
「ココアちゃん、女装行ける?」
「行けます!念のためおっぱいも持って来ていましたから、ちんちん取っておっぱい付けます」
「ちんちんって取れるもので、おっぱいって付けられるものなのか」
などと妃美貴が言っている。
「そうだ。明日、函館からの帰りのマイクロバスの席を翼ちゃん、女子の方に入れてしまったけど」
「たぶん、生方さんと成美ちゃんの間に移したらOK」
「そうしてもらおう」
ということで、私が翼の性別を誤解していて、焦ったのだが、風花はちゃんと男子として処理してくれていたので問題無かった。
「髪が長いのは女の子になりたい訳じゃ無いの?」
「僕髪が薄いので誤魔化してるんです」
「プロペシアが髪には効くらしいよ」
「プロペシアですか」
「但しおっぱいも大きくなる」
「遠慮します」
1 2 3 4 5 6
【夏の日の想い出・天下の回り物】(4)