【春避】(1)

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日本代表の海外合宿でオーストラリアに行っていた千里(千里3)は6月3日に帰国した。いったん各自のチームに戻るが、6月7日からはNTCで合宿を行い、6月18-19日には千葉ポートアリーナにトルコ代表を迎えての親善試合がある。
 
しかし千里3が帰国したことで、“千里たち”の運用が少しは楽になった千里5(Grace)はホッとした。
 
※現在の千里たちの所在
千里1:アメリカでWBDAに参戦中
千里2A:妊娠中(浦和に居る)
千里2B:フランスとスペインで水泳日本代表をサポート中
千里3:オーストラリアから帰国
千里4:頻繁に石川富山に行き、北陸方面の案件をサポート中
 
千里3の出国後は国内で稼働できるのが実質1人だけになり、千里4(Robin)の負荷がかなり高まっていたのである。松本花子の打合せや§§ミュージックの会議にはほとんど千里6(Victoria)が出ている。
 
千里1はアメリカのコロナの状況が酷く、実質試合ができないようなので、千里2を装った千里5が電話して
 
「試合できないのなら帰国しない?」
と言ってみたものの
 
「こんなに選手が少ない状況では気の毒で抜けられない」
ということであった!
 

ところで、5月に急遽グラナダに呼ばれて、グラナダの千里邸にパイロットさん用の部屋を増築した播磨工務店の清川はどうなったのであろうか?
 
千里4は、九重(徳部)が忙しそうと思い、氷見の体育館の件を清川に頼もうかと思ったのだが、いつまでたっても帰って来ない。どこ寄り道してるんだ?と思う。
 
乙和御前の現在の邸がある場所は7月4日から病院建設工事が始まる。だから6月20日くらいまでには新しい邸の場所を提供しなければならない。
 
しかし九重が忙しそう、清川が帰ってこないので仕方なく、あまり気が進まなかったが、千里は体育館の建設は、勾陳(こうちゃん:アクアの山村マネージャー)に頼もうと思った。彼は多数のエイリアス(*1) を使っているので、誰か1人こちらに回してもらえば何とかなるだろうと思った。
 
実際千里が1番に電話を掛けて「工事を頼みたい」と言ったら6番が来たので
「今日は6番か」
と言ったら
「なんで分かるんです〜!?」
と彼は驚いていた。
 

(*1) 勾陳のエイリアス(全部で14人と千里は推定している)
1:千里1担当(本体)
2:アクア担当(常時女装)
3:千里2担当
4:鹿島信子担当(しばしば子供のお守りをさせられている)
7:バリヌル共和国の“橋”建設担当
 
彼のエイリアスの中で少なくとも 1,2,3,4,6,11 は最低一度千里に去勢されたことがある!
 
去勢の方法は(1) 勃起能力を奪う (2)睾丸を取り外す (3)睾丸と陰茎を取り外す のどれかである。後の方ほど重罪。だいたい半年程度で返してやっているが
 
「いつも返してやるとは限らないから甘く見るなよ」
と彼らには言っている
 

2番の場合は、彼がアクアのマネージャーになった直後、千里4が“天野貴子2”に命じて、罰ではなく“予防措置”として男性器を“預からせてもらった”。
 
2017.07.04 千里1が死亡して十二天将との接続が切れる。蘇生するが霊力を失う。
2017,07.08 勾陳2がアクアのマネージャーに就任する
2017,07,09 貴子2が勾陳2の男性器を除去。サービスでバストを大きくしちゃう!
 
「お願いチンコ返して。立って小便もできない」
と泣いていたが、
「いや、ペニスのあるあんたにアクアのマネージャーをさせるのは狼に羊の番をさせるようなもの。千里が正常に戻ったら、千里も間違い無く同じ処置をする」
 
と言ってその後5年経っても返していない。最近は諦めて
「まあチンコ無くても何とかなるかな」
などと言っている。
 
しかし女装してても立って小便してたのか??
 
その後、勾陳2は時々“貴子1”に
「そろそろあれ返してよ」
と言うものの、貴子1は去勢のことなど知らないので
「何のことだっけ?」
と言う。それでやはり返してくれないのかと、しくしく泣いている!
 

彼は女装していて男性器も取り外されているものの、アクアにもコスモスや花ちゃんにも男としか思われていない。コスモスからは「女湯使用禁止」を命じられていて
「俺おっぱいあるから男湯には入れないのに」
と言っていた。
 
青龍がほとんどの人から女性と思われていて、最近は小樽ラボの女性専用エリアにも入ることを許されている(洗濯物を干すのを頼まている。所長なのに!)のとは対照的である(やはり年齢的な問題か?)
 
「俺最初の主人には女童(めのわらわ)として仕えていたのに」
などと勾陳は言っていたから、子供の頃はきっと可愛かったのだろう。
「その時点で性転換しておくべきだったな」
と六合には言われていた。
 
男の娘を性転換して女の子にしてあげる趣味があるのは1番で、奥村春貴も、リダン♂♀の鹿島信子も、古くは女優の神内松乃なども彼の魔の手に掛かって女性にされてしまった。彼の問題点は本人の意志と無関係に勝手に性転換してしまうことである!(みんな女になれて喜びはしているものの)
 

それで千里は6月8日(水)、勾陳6を連れて、氷見市に買った土地に行ってみると、九重が播磨工務店のメンバー10人ほどと体育館の建設をしている最中だった。
 
「じゅうちゃん、なんでここで工事してるの?」
「なんでって、千里さんのご指示で体育館を作っているのですが」
「私が・・・指示した?」
「はい。地下に乙和御前様の邸のための空間と判官(ほうがん)様の人形館を作り、地上に体育館を2つ作れと」
 
やはり人形館はできるのか!
 

しかし“私が指示した”と九重が言っているということは、私自身が指示してそのことを自分で忘れたか(千里には日常茶飯事)、あるいは“別の千里”が指示したかだなと思った。
 
実は千里6の伝え忘れ!
 
ま、いっか。
 
「そうだ、勾陳さん、相談があるのですが」
と九重は言い、こうちゃんに“判官様人形館”の計画を話した。
 
「おお、それはぜひ作ろう!」
とこうちゃんも乗り気である。どうも凄い人形館ができそうだなと千里は思った。
 
知〜らない!
 
なお、清川は6月9日にやっと帰国し、すぐさま九重に捕まり、体育館建築の手伝いをさせられた。彼はわりと仕事が適当だが、九重が見ていれば大丈夫だあろう。
 
しかしまあ、知り合った頃“悪戯っ子”のイメージだった九重も18年間の間に人格的に成長したなあと千里(千里4)は思った。勾陳が千里Bとの関わりが深いのに対して、九重は自分との関わりが深い。アクアもプライベートでは九重をよく頼っているみたいだなと千里4は思った。
 

Timeline
 
5.05 千里2Bが清川をグラナダに転送し、パイロットさん用の宿泊室増築を命じる
5.06 青葉たちがグラナダに移動
5.09 千里4が乙和御前→ゆう姫の依頼で氷見市に土地を購入。
5.11 茶組の手で古い店舗は撤去される
5.21 ムーランエアーのパイロットさんたちがグラナダに入る。
5.29 九重が「火牛北体育館の建築でうっかり体育館の材料を1個分多く作った」と言うので、千里6がその材料で氷見市に体育館を建てるよう命じる。
 
5.30 基礎工事・地下室作成(乾くまで約1週間置く)
6.07 第1体育館(フラミンゴ)建築開始
6.08 千里4が勾陳を連れて行ったら建築中だった
6.09 第1体育館完成。第2体育館(ピーコック)建築開始。清川帰国。
6.11 第2体育館完成。
6.12 検査班による検査。
6.13 早朝、撤退しようとしていて若い龍・沢田(*2) がクレーンをH南高校旧美術室にうっかり落とす。千里と九重が学校に謝罪に行き、フラミンゴとピーコックをH南高校に貸すことにする。
 
6.13 千里が地下室の鍵を森元蓮に渡す。
6.14-20 乙和御前の邸、お引越。
7.04 乙和御前旧邸の場所、病院の建築工事始まる。
 
(*2) 沢田は罰として九重により去勢された(既遂!)が春貴が「去勢とか可哀想。許してやって」と言ったので、千里の手で男性器を復活させてもらった。彼は泣いて千里に感謝していた。
 
彼はクレーンをトレーラーで運べと言われていたのに面倒くさがって手で抱えて飛んでいて、うっかり落とした。千里も九重も命令違反には厳しい。
 

清川はアラビアで偶然遭遇した可愛い女の子龍と遊んでいて遅くなったらしい。千里に謝っていたが
「去勢だな」
と言われ
「嫌だぁ!助けてぇ!」
と叫んでいた。土下座して謝って、下記の仕事を無償ですることで勘弁してもらった。
 
(1) 黄金の流星で使用した隕石のセット表面に貼った銅箔を回収していったん熔かし、再度銅箔に加工する。
 
(2) 黄金の流星の撮影のため樹木を大量に伐採したオロン島で、伐採したまま現地で自然乾燥(葉枯らし)させていた樹木を朱雀林業・留萌製材所まで1人で運ぶ。
 
(3) 春貴の大型免許練習に付き合う(後述)。
 
(4)アクア映画の撮影に使用した春日部の公爵邸セット(というより本当の邸)を2個とも、ひとりで郷愁村に移動する(解体移築)。この作業は“去勢仲間”の沢田も許されて手伝った。実際2人いないと難しい作業もあった。
 
彼の作業は8月頃まで掛かったようである。終わるまでメシ抜きと九重からは言われたが、千里4の近接ガード役コリンが御飯を差し入れてくれたので感謝していた。また運転練習中には春貴から肉まんとかチキンとかをもらった。
 

「チンコ取られなくて済んで良かったぁ」
と清川は言っていた。
 
「でも実際去勢罰受けた人って居るんですか?」
と広沢が尋ねる。
 
「勾陳さんは俺が知っているだけでも既に10回は去勢されてるな」
と九重。
 
「あの人、何本チンコあるんですか!?」
 
(九重は要領がいいので大抵逃げており、要領の悪い勾陳が千里に捕まって去勢されている)
 
そんな会話をした翌週には沢田が九重により去勢されたので
「こっわー。俺もみんなに押さえつけられてちょん切られていたかも」
と清川は冷や汗を掻いた。
 
沢田は結局春貴の願いにより千里の手で男に戻してもらったものの
「チョン切られた時は痛かったぁ」
と男(オス)に戻った後も泣いていた。
 
チョン切られた沢田のペニスはそれ自体が男の子の龍に変化したので、沢田の息子として育てると言っていた。
「元俺の息子の俺の息子だ」
とか言っていた。
 

森元蓮には千里1が鍵を渡した。
 
千里が彼女(正確には当時はまだ“彼”)に会ったのは2014年で、当時は“第2次統合千里”の状態の時である。当時ほとんどの時間“表”に出ていたのは、千里Bwであり、現在の千里1に近い。
 
(霊的な処理をする時はY1またはY2が表に出ている。だから当時の千里は自分に霊力があることを本当に意識していない。Bwは普通の人間にとても近い)
 
それで人手不足だったこともあり、千里5は1番を一時的にアメリカから転送で戻し、彼女に鍵渡しの仕事を頼んだ。
 
「蓮さん、お久しぶり」
 
彼女はすっかり女らしくなっていた。
 
「わあ、川上さんの妹さんでしたね。お久しぶりです」
と彼女は言っていた。
 
「結婚して赤ちゃん産んだんだって?」
「はい。4月から幼稚園なんですよ」
「可愛い盛りだね」
「可愛いです。自分が赤ちゃん産めるなんて思いもしてなかったから、幸せ」
「産む時辛くなかった」
「辛かったです。もう死ぬかと思いました」
「まあ辛いよね。頑張ったね」
 
「でも赤ちゃん産んだから彼のお父さんが私との結婚を認めてくれて結婚式をあげましたし、赤ちゃん産んだことで性別の修正が認められて無事法的にも母になれましたし」
 
順序がおかしいぞ。
 
「妊娠した時点で性別修正はできたと思うけどなあ」
「出生届出そうとした所で男性の出産は法的に認められないと言われて、それから市役所の人から弁護士頼んだほうがいいと言われて手続き開始したんです」
「ああ。知らないとそうなるかもね」
 

引越は半月以内にやると言っていたが、実際には昔の判官の郎党が多数集まって来てくれて、一週間で済んだようであった。引越作業の間、緩菜(付添:いんちゃん)が御前や姫、侍女たちを近くの雨晴海岸に案内して、判官の足跡などを教えてあげると感動していたようである。浪の戸姫は泣いていた。
 
「へー。判官殿の人形館を作るのか」
と御前は感心していた。これが6月21日頃であった。
 
「どんなものができるのかちょっと心配です」
と千里。
 
「楽しみじゃ」
と御前は笑顔で言っていた。
 
「ところで上で練習しているバスケ部員で性別が変わってしまった者たちがいるようだが、言っておくが、私は何もしてないからな」
と御前が言った。
 
「へー。性別が変わったって、男から女ですか?女から男ですか?」
と千里。
「どっちだったっけ?」
「元々ボーダーラインに立っている子は振り子のように男になったり女になったり、しやすいからなあ」
 
「まあ本人たちが良ければそれでいいんじゃないの?」
と森元蓮は言っていた!
 
数十人の男の娘を女の子に変えた千里1とでは話にならない気もする。
 

さて、H南高校男女バスケットボール部は、6月13日以降、“火牛スポーツセンター・氷見体育館”(通称 Firebird)で、練習するようになったのだが、女子がフラミンゴ、男子がピーコックで、隣り合う体育館なので、お互いの練習の様子は見えない。でも男子キャプテンの坂下君は何度か様子を見に来てくれた。
 
「凄い濃厚な練習してるな」
と感心していた。
 
「ほとんどの子が初心者だから、ひたすら基礎練習してるけどね」
と女子キャプテンの愛佳。
 
「うん。それがいいと思う。でも背丈のある子が増えたね」
「うん。今160cm代が4人になったから、今後は中に進入していってのシュートもできるようになるかも」
と愛佳は言う。
 
坂下君は160cm代が5人居る気がしたが、13番付けてる子は159cmくらいだろうか、などと考えた(*3).
 
(*3) 女子バケット部の長身部員(身長順)
 
11 高田晃 168 PF ルミ
8 原田河世 165 C キュー
12 砂井梨央 163 F ペア
16 津田秋奈 162 F タム
13 菓子弥生 161 F マーチ
 

6月17日(金)には、女子の北信越大会の前哨戦を兼ねて男子対女子の試合をした(以降。毎週原則として金曜日におこなうのが恒例化する)。
 
むろんまともにやると全く勝負にならないだろうからということで、男子はハンディとして3年生はベンチに入らず、最初は1年生だけでやらせる。3年男子が審判と得点係を務めた。
 
女子は男子側の制限エリアにはほとんど入れない。入って行けるのは8番の河世と11番の晃だけである。ところが中に入れなくても、どんどんミドルシュートを撃つ。これが結構入る。
 
「みんなミドルシュートが上手いなあ」
と横田先生も3年生たちも感心していた。
 
「これが強豪を次々と撃破し、あるいは接戦をした秘密か」
 
それで前半は最後に美奈子のスリーが決まってなんと46-47と女子が1点リードで終わる。男子は後半2年生に交替した。
 
2年生男子は前半の試合を見ていて、横田先生と(わりとマジで!)対策を練ったようである。それで男子が取ったのは、
 
美奈子をダブルチームする!
 
という作戦だった。
 
(この時点で既に男子対女子の試合ではない)
 

ゴール数では男子が勝っているのに、女子は夏生と美奈子のスリーで点数を稼いでいる。そうなると、このチームで最も危険なのは、いかにも強そうに見える河世ではなく、シューターの美奈子である、と横田先生は判断した。
 
実際ダブルチームにより美奈子へのパスがほとんど通らなくなる。
 
美奈子に2人付けているからマンツーマンだと、残り4人の内の1人が必ずフリーになる。それで男子は残り3人でゾーンを組んで守る作戦に出た。守りが薄くなるので、晃に突破されて何本かシュートを入れられたが仕方ない。
 
しかしこれで男子は少しずつ引き離し、最終的には84-75で男子が勝った。(でも点差が男子と女子の点差ではない)
 
春貴は、実際に対戦相手にこれをやられた場合、どう対処するかというのを腕を組んで考えていた。
 
「1年生は女子に負けたから性転換だな」
と坂下君が言うので
 
「え〜〜!?」
と1年生男子部員たちがビビっていた。
 
女子チームで17番の背番号を付けている日和(今日は途中3分ほど出してもらった)がドキドキした顔をしていた!!
 

「土日に手術を受けて月曜からは女子制服で登校しよう」
「勘弁してください。10km走って来ますから」
 
と言うことで1年生全員でロードを10km走って来たようである。18時を過ぎるが、制服や学校の道具はこちらに持って来ているので、多少はごまかしが効く。坂下君が1年生たちに付き合って一緒に走り、横田先生も全員が戻るまで待っていた。
 
ついでにジョギングから帰ってきたら、男子更衣室のテーブルにスカートが3枚置いてあったので、スカート穿くことになる3人は誰だ?と騒然として、華奢な体格の、青木・湖中・吉沢・高山らがビビっていたらしい。むろん女子たちの悪戯で、横田先生は笑っていた。
 
遅くなったので、戻って来た所で「着替えは帰宅してから」と言って、国道のバス停まで春貴のキャラバンを数回往復させて送ってあげた(遠くからの通学者優先で運ぶ)。結果的に部員たちの帰宅は普段とほとんど変わらなかった。
 

なお、この日、H南高校の女子バスケット部、新規加入部員6名のバスケット協会会員証が届いていた。万一間に合わない場合は、会員番号をプリントしたものを持参すればいいということではあったが、北信越大会に間に合ったのでホッとした。
 
春貴は、これは明日の北信越大会会場で直接渡すことにした。今日渡して明日持ってくるのを忘れられたりしたら、目も当てられない。
 

6月17日(金).
 
この日の深夜(正確には6/18 0:10-1:10)に『霊界探偵金沢ドイルの北陸霊界探訪』が放送され、今回も大きな反響を呼んだ。今回の“白い虎徘徊事件”は
 
「どこまでが事実でどこまでが創作か分からん!」
という声も多かった。
 
クライマックスとなった、金沢ドイル(青葉)が虎をお肉が描かれたキャンバスの中に誘い込んで封印する所は、さすがに創作だろうと思われた。しかしS市に夜間白い虎が出没しているという噂は確かに1〜3月に結構立っていたようだ、というのが、ネットを検索した人たちの間で認識される。
 
その手の噂が4月以降は、ほとんど無くなっていることから、やはり金沢ドイルが何らかの形で処理したのだろうという意見が多かった。
 
ドイルをショッカーに扮したレギュラー出演者が拉致して行くシーンは
 
「ディレクターが交替したら演出が過激になってない?」
「皆山は絶対暴走する」
 
ということで、みんな演出だろうと思ったようである(視聴者の方がよほど常識的)。
 

元番組出演者・青山さんの妊娠レポートは微笑ましく受け止められていた。
 
「性転換して妊娠するって凄いね」
「元男性だから、女同士で結婚しても子供ができるのかな」
などと、視聴者は完璧に混乱気味である。
 
ほとんどの人が問題点に気付いていない。どうも問題点があまりにも多いと、人は、かえって何も疑問を感じないようである!
 
しかし青山さんの妊娠という事態で、同性婚に不快感を感じていた視聴者のかなりの部分が受容的に変化したようであった。
 
邦生と真珠の結婚式については、この後、番組宛てに「おめでとう!」というメッセージが多数寄せられた。中にはプレゼントを贈ってきた人たちもあり、いったん熊谷に運んで§§ミュージックの検査場で検査した上で“問題なしとされたもの”が本人たちに渡された。嫌悪感を示した視聴者もあったが、それほど多くは無かった。
 
番組は青山さんの女同士の結婚式も流しているので、どうも『霊界探訪』は女同士の結婚には寛容なようだと認識された。また女性同士のカップルから辺来の里神社に「結婚式を挙げさせてもらえるか」という問合せがかなり来ることになる。
 
「このカップルもやはり、くにちゃんが妊娠するのかな」
「青山さんのパターンで行くと、きっとそうなる」
 
と言われて、視聴者は“邦生妊娠”への期待が高いようである!
 

今回、奈良京都まで遠征して撮影してきた、朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)・鞍馬寺(くらまでら)・貴船神社(きぶねじんじゃ)のレポートも結構な反響があった。
 
「この番組、まじめなレポートもするんだな」
と言われていた。
 
明恵と真珠が張り子の虎を大中小並べて首を振らせている所は
「あれ、ほしーい」
という声が多かった。
 

1分間ほどだけ流れた一言主神社については、この神社の噂を聞いたことのある人、実際に行ったことのある少数の人たちの間では
 
「ついに撮影に成功したのか」
「やはり存在するのか」
という声もあったが、多くの人は
 
「番組お得意の創作だな」
「これ、新潟かどこかの小さな神社で撮影したのでは?」
「天狗の願い箱はもちろんセットだよね」
「願い事を書く紙が1枚1000円とか暴利」
といった意見であった。
 
なお、番組内で真珠は
「願い事の紙のお値段は人によって違うみたいです。私と兄が過去に行った時は1万円でした。中学生だから1000円だったのだと思います。多分アクアちゃんが行ったら1億円です」
 
とコメントしていた。
 

ラストシーンは、お肉を前にした白虎の絵、お肉を食べている白虎の絵が、人形美術館と、レストラン“フレグランス”に1枚ずつ掲げられているのを遙佳が指し示している場面になっていた。
 
視聴者は、今回の事件ではたぶん、遙佳が事件の解決に大きな役割を果たしたのだろうと捉えたようである。
 
番組内でも、この絵は実際には遙佳が描いたものであるというテロップが流れていたが、
「遙佳ちゃん、絵がうまーい」
「この虎さん可愛い」
「この虎は女の子だよね?」
 
などという声があったようである。
 
「ところで遙佳ちゃん、新しいレギュラー入り?」
「3月にも出たし今月も出たし」
 
「まこちゃん、みたいにゲストという名目で毎回出演するつもりでは?」
 

6月18日(土).
 
春貴率いるH南高校女子バスケットボール部14名は、松夜のお父さんが運転する学校のマイクロバスで、金沢市に向かった。
 
北信越大会(令和4年北信越高等学校体育大会バスケットボール競技会・兼・第61回北信越高等学校バスケットボール選手権大会)に参加する。
 
「でも準々決勝で不戦勝、順位決定戦でも不戦勝とか、それでこんな大きな大会に出て来ていいのかなあ」
などと松夜が不安そうな声を出している。
 
春貴は言った。
「君たちは優勝した高岡C高校に1点差の試合をした。コロナで辞退した高岡S高校は2位の富山B高校に20点差で負けている。それを考えたら充分うちは富山県代表になる資格があると思うよ」
 
「私たち富山県代表なんですね!」
「そうだよ」
「今気付いた!」
「すごーい!!」
「うん。君たちは強い」
 

春貴は考えていた。
 
今回は偶然にもマイクロバスが使えたが、学校のマイクロバスは競争率が激しい。使えない時の移動をどうするか。取り敢えずは愛佳のお母さんが言っていたように保護者さんたちに協力を求め、何台かに分乗して移動する手しかないのだろうけど。ただ、分乗移動の場合、伝達事項に漏れが生じやすいのが問題点だ。
 

朝7時頃に学校を出発して、7:40頃に会場の、いしかわ総合スポーツセンターに到着した。例によって、ベンチに入るメンバー以外は入場できないので、松夜のお父さんは車内で寝ていると言っていた。そのために毛布も持参している。
 
入口の所の受付で校名を告げ、春貴と部員14人のバスケット協会会員証を提示、名簿と照合されながら入場した。
 
今日は愛佳のお母さんは来ていないので、春貴と部員14人のみである。
 
なお今回は開会式は前日・金曜日15:30に行われており、春貴は授業を他の先生に代わってもらって昨日の午後、ここに来て、代表者だけによる開会式と、代表者会議を行なっている。代表者会議に春貴が出席したのは初めてである。
 
この時、エントリーシートも提出しており、今回、晃をアシスタントコーチ、日和をマネージャーとして登録している。晃はコーチ講座を受講中ということでその受講番号を添えている。晃の背番号11は空き番である。(昔は背番号は4番から始まる連番で、空きを作ってはいけなかったが、現在は自由化されているので11が飛んでいても問題無い)
 

この大会は男女とも16校が参加し、次のように日程が組まれている。
 
18日9:30女子1回戦 11:10男子1回戦 12:50女子準々決勝 14:30男子準々決勝
19日9:00男女準決勝 12:00男女3決・決勝
 
メイン会場の、いしかわ総合スポーツセンターではメインアリーナ4コート、サブアリーナ2コートの合計6コート。サブ会場の金沢市中央市民体育館で2コート取れるので、一度に8試合することができる。それで男女とも1回戦の8試合が同時に実施できるのである。1日目は物理的には男女の準々決勝を同じ時刻に同時にもできるが男子のを遅らせるのは、休憩時間を与えるためである!
 
そういう訳で、H南高校の12人の選手は、9:30、メインアリーナのBコートに整列した。H南高校は富山県3位なので、初戦は他県の1位チームである。
 

こちらは、愛佳・舞花・夏生・河世・美奈子の(多分)最強布陣で出て行く。向こうは、10,11,14,15,16番で出て来た。
 
ティップオフは相手15番・172cmのセンターさんとだが、この7cmも高い相手との争いに河世が勝った!
 
速攻で舞花が攻めて行き、向こうが守備体制を整える前に鮮やかにランニングシュートを決めた。
 
0-2.
 
こちらが先制して試合は始まった。
 

圧倒的な力の差がある、と春貴は思った。しかしそれでも点数としては拮抗していく。高岡C高校との試合でもそうだったが、実力差があるので、こちらのメンツで相手制限エリアに進入できるのは河世くらいである。向こうの選手の進入はかなりの確率で成功する(全て進入できる訳ではないのが、ここ2週間くらいの練習の成果)。
 
だから近くからのシュートでは圧倒的に向こうがゴールする。しかしこちらは中に入らなくても、どんどんミドルシュートを撃つ。更に美奈子や夏生がスリーを決める。それで結局点数としてはあまり差が開かないのである。
 
もっともこのゲームスタイルが通用するのは、この大会までだろうなと春貴は思った。来月の地区リーグ戦では多分高岡C高校は何か対抗策を採ってくる。
 

1Qで24-20, 2Qで18-21で、前半を終えて42-41で、1点差で向こうがリードしている。相手は4-9番を投入しない。恐らく、午後の準々決勝のために温存しているのだろう。これがもしこちらが大きくリードする展開だったら向こうはその中核選手たちを投入したと思うが、競っているので、向こうは恐らく万一の場合は最後の付近で投入すればいいだろうと思ったのではないかと思う。
 
だいたい対戦相手(H南高校)は、県予選を3位通過したチームだし、名前も聞いたことのない所だし!実際プレイを見てても、下手だし!!
 
春貴は、4月からやっている7人を中核として、時々新加入の5人も1人ずつコートインさせた。それで中核7人があまり疲れが溜まらないようにする。中学でバレーをやっていた2人は結構相手の制限エリア内まで進入してのゴールも決めてくれた。この2人は即戦力に近かったなと春貴は思った。今後の練習では、この2人と河世・晃は、ランニングシュートの練習をたくさんさせよう。
 
なお今回、日和は「バスケの試合を見学してなさい」と言ったのでただ見ているだけである。そして晃にスコアを付けさせている。
 

第3クォーターは18-18で、ここまでで60-59である。
 
第4クォーター、向こうはとうとう4-8番を投入してきた。
 
物凄く強い。これで河世も中に進入できなくなった。
 
でもミドルシュートは防げない。美奈子のスリーは好調である、
 
それで向こうは中核選手を投入したのに、全然点差が広がらないのである。そして第4クォーター残り2:14、こちらが夏生・美奈子の連続スリーで、ついに逆転した。相手のヘッドコーチの顔色が変わる。
 
ここから抜きつ抜かれつのシーソーゲームとなる。
 
187s ▲78-73
173s 78-76▲夏生
155s shot miss
134s 78-79▲美奈子
113s ▲80-79
95s 80-81▲舞花
77s ▲82-81
62s to
44s ▲84-81
32s 84-84▲美奈子
10s ▲86-84
 
残り32秒で美奈子がスリーを決めて同点に追いつくが向こうはゆっくり攻めて24秒計が残り2秒となった所で得点。86-84とリードを奪った。ゲームクロックの残りはわずか10秒である。
 

愛佳がスローインするが、相手チームはこちらのコートで物凄いプレスを掛けてきた。あわよくば8秒ルール(8秒以内にボールをフロントコートに進めなければならない)のバイオレーションを取ろうという狙いである。しかし何とか舞花がスリーポイントライン近くまで走って行った美奈子にパスして、7秒でフロントコートにボールを進めることができた。
 
残り3秒、美奈子がスリーを撃つ。
 
相手選手がこれを美奈子の背中を押して停めた。全員でプレスを掛けていたので、美奈子の前には誰も居なかったのである。
 
美奈子はシュートを失敗してボールが転がる。
 
しかし当然笛が吹かれる。
 
アンスポーツマンライクファウルとなる。
 

それで時計が残り0.3秒の状態でフリースローになる。
 
スリーポイントシュートに対するファウルなのでフリースローは3本である。現在の点数は86-84. 美奈子が2本ミスしたらこちらの負け。2本決めて1本ミスしたら延長戦、3本とも決めたらこちらの勝ちである。
 
責任重大だが、美奈子はわりとプレッシャーに強い。
 
1本目。決まる。86-85.
 
2本目。決まる! 86-86 で、これで即負けは無くなった。勝利か延長である。
 
3本目。
 
美奈子は審判からボールを受け取ると、特に緊張もしてないような顔で1度ボールを床にバウンドする。そして膝を曲げ、
 
狙いを定めて撃つ。
 
決まった!
 
86-87 で逆転!!!
 
H南高校のメンバーが万歳をする。
 

アンスポーツマンライクファウルだったので、この後、こちらのボールとなる。しかし残り0.3秒なので、愛佳がスローインしたボールを舞花がキャッチした所でブザー。
 
試合終了である。
 
整列する。
 
「87-86でH南高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
愛佳が相手キャプテンに握手を求めたが、向こうは握手を拒否した!手を伸ばした愛佳に対して、その手を払いのけるようにした。
 
身体は接触していない。よほど悔しかったのだろうが、この行為がテクニカル・ファウルを取られた!
 
ゲームが終わっても公式スコアに審判が署名するまでの行為はファウルの対象になる。もし相手の手を叩いたりしていたら、プレイから逸脱した暴力行為としてディスクォリファイング・ファウル(一発退場)を取られ、多分始末書提出の上で出場停止処分までくらっている。実際には接触しなかったのでテクニカルファウルで済んだ。
 
それで相手キャプテンも手を挙げてファウルを認め「ごめんなさい」と言って、涙を浮かべながら向こうから愛佳に手を伸ばし、握手した。
 
自分たちが最初から出てればという思いが強かったろうが、まさか負けるとは思いも寄らなかったので、主力を温存する作戦は間違いではないと思う。
 

そういう訳でH南高校は北信越大会の初戦を突破して準々決勝に進出したのである。富山県代表の他チームだが、1位の高岡C高校は初戦突破したが、2位の富山B高校は敗れた。
 
H南高校は高岡C高校とともに、お昼からの準々決勝に出る。C高校の矢作監督が
「頑張りましたね。明日の準決勝で会いましょう」
と声を掛けてきた。
 
もしどちらも準々決勝を突破すれば準決勝で両者対決となるのである。
 
「はい、ありがとうございます。そちらも頑張って下さい」
と春貴は緊張して言う。
 
「うん」
と矢作監督は笑顔だった!(まさか明日対戦にはなるまいと思ってる!)
 

1回戦はアウェイ扱いで濃緑のユニフォームだったが、準々決勝は、こちらがホーム扱いになるので白いユニフォームになる。実は対戦相手の石川J高校も1回戦がホーム扱い、準々決勝はアウェイ扱いになったので、ユニフォームをチェンジできるので好都合だった。
 
H南高校の選手たちは割り当てられている控室で白いユニフォームに着替えてからお弁当を食べた(晃と日和は後ろを向いて着替え、他の選手たちが着替え終わるまで壁を向いていた)。
 
「ルミちゃんも女の子になれば壁を向いてなくてもいいようになるのに」
「いや、そもそもルミちゃんは女の子には興味無いから、別に後ろを見なくても、よいはず」
「ああ、男の子が好きなんだっけ?」
「えっと・・・」
 
晃が返事に困っているようなので、やはりこの子、本当に女の子になりたいのかも、と春貴は思った。でも実際彼があまり女の子には興味が無さそうというのは春貴も感じていた。五月とか美奈子がよく晃に抱きついたりしているが、特に照れたりもしていないし。あるいはゲイなのかも知れないが、どちらの傾向なのかは判断が付かない。でも多分何かの間違いで本当に女の子になっちゃっても、彼なら女の子でやっていけそうだ。
 
日和に関しては、明らかに穿いていたパンツがブリーフやトランクスではなく女子用のショーツに見えたが、誰も突っ込まなかったし、性別のことでからかうこともなかった。晃だからジョークになるのである。彼(ほんとに彼女かも)は、晃が「早く女の子になりなよ」と言われているのを聞いて、ドキドキした顔をしていた。
 

さて、今日は全員、ちゃんとお弁当を持って来ていた!
 
春貴はマイクロバスで待機している、松夜のお父さんに、勝ったので12:50からの試合にも出る旨メールしたが、反応が無かったので、きっと熟睡している。
 
横田先生(非番)にもメールを入れたが、こちらはすぐ反応があり
「ほんと凄いね!女子は無茶苦茶、力をつけたね」
と喜んでくれた。
 

12:50.
 
初戦と同じBコートにH南高校と石川J高校のメンバーが整列して試合は始まる。
 
こちらは、初戦と同様、愛佳・舞花・夏生・河世・美奈子の布陣で出て行く。向こうは、4-8番で出て来た。
 
6番の相手センターは河世と似たような背丈だったが、ティップオフは向こうが取り、速攻で攻めてきて、7番の選手が美しいスリーを撃ってゴール。
 
3-0.
 
試合は向こうの先制で始まる。
 

相手は、どうもひたすら点数を取るというスタイルのようである。こちらが点を取っても気にしない!
 
あまり防御もしないので、こちらは、河世・梨央・秋奈の“バレー・トリオ”が3人とも中に入って行くことができてランニングシュートを決める。しかし、向こうもこちらにどんどん進入してきてシュートを撃つ。更に向こうは最初にゴールを決めた7番の選手がどんどんスリーで点をとった。こちらも美奈子がスリーを決めるが、少しずつ点差が開いていく。
 
向こうのシュート精度がとても良いのである。
 
更にリバウンドは7割くらい相手のセンターさんが取ってしまう。
 
それで攻撃機会の多い向こうが点数を多く取る展開になった。
 
春貴は「なるほど。うちはこういうスタイルの学校が弱点だ」と思った。特に無理して防御せずに、取られたら取り返せばいいというチームは、ほとんどファウルをしない。守備にあまりエネルギーを使わず、どんどん攻める。
 
ある意味、H南高校自身と似たタイプのチームである。ただ。それが物凄く上手いのがこのチームだ。
 

1Q 32-26, 2Q 34-30 とゲームはハイスコアで進行し、前半で66-56 と10点差である。これだけ点差が開くと相手は主力を休ませるかな?と思ったが、休ませない。
 
相手はこちらを決して舐めてない。全力である。
 
そして 3Q 30-28, 4Q 38-34 と進行して後半は68-62 合計で134-118 というお互いに凄い点数となったが、向こうが16点差でこちらを下した。
 
ということで、H南高校はベスト8止まりである。
 
でも気持ちいい試合だった。
 
試合後お互いにハグしたりして健闘を称えた。
 
「負けたぁ」
「でも気持ちよかった」
とH南高校の選手たちは言っていた。
 

横田先生に結果をメールしたが、
「いやインターハイに何度も出ている石川J高校と16点差は充分いい勝負です」
と先生は言っていた。
 
「先生、今日はギョウザの焼け食いがいいです」
と松夜が言っている。
 
「はいはい」
 
などと言いながら、試合終了後、練習用のユニフォームに着替えていたら、運営の腕章を付けた女性が
「失礼します」
と言って入ってくる。
 
「今試合が終わったばかりで申し訳ないのですが、14:30からの男子準々決勝でモッパーとテーブルオフィシャルをお願いできないでしょうか」
「はいはい」
 
しかし今試合が終わったばかりで次の試合のオフィシャルとは慌ただしい。
 
「実は連絡ミスがあったみたいで、お願いしていたはずの学校がもう帰ってしまっているようで」
 
「いいですよー」
とキャプテンの愛佳は答えた。
 
「すみません。助かります」
と言って運営の女性は出て行った。
 

が、
 
ここで誰が何をするのか?が問題になる。
 
新規加入メンバーには無理だ。4月からやってる8人でするしかない。常識的には2〜3年がテーブルオフィシャルで、1年生4人がモッパーである。
 
「あんたたちモッパーできる?」
 
中学でもバスケをしていた美奈子と五月は「やったことはある」と言ったが、いまいち自信が無いようだ。不安そうな顔をしている。
 
「パイン(松夜)、あんたがモッパーのリーダーをして」
「分かった。でもテーブルオフィシャルは?」
「ルミ(晃)、スコアラーして」
「はい」
 
晃にはこの大会の2試合でも、先の県大会準決勝でもスコアを付けさせたが、ノーミスだった。それにコーチ講座を受講中でルールもよく分かっている。彼女、ではなくて彼ならできるだろうと春貴は思った。24秒計オペレータやタイマーはルールをほんとに熟知してないとできないから、4つの仕事のどれかさせるならスコアラーだろう。
 
それで、24秒計を愛佳、タイマーを夏生、アシスタントスコアラーを舞花、スコアラーを晃がすることになった。姉の舞花がアシスタントスコアラーなら晃も、より安心だろう。
 

ここで!服装が問題になる。
 
モッパーは今着替えた、練習用のユニフォームで良い。
 
テーブルオフィシャルは制服である。
 
2・3年の女子はちゃんと制服を持って来ている。
 
「ぼく、制服持って来てなかった」
と晃が言っている。
 
とろこが舞花が言った。
 
「ルミの制服ならあるよ」
 
「え?お姉ちゃん、ぼくの制服持って来てくれたの?」
と晃は尋ねたが
 
「はい、どうぞ」
と言って舞花が渡したのは、女子制服!である。
 
「それを着るの〜〜?」
「女子制服着たかったでしょ?堂々と着られていいね」
「でも〜」
 
「時間無いからすぐ着替えて」
「分かった」
 

それで晃は舞花が持って来た女子制服に着替えた。
 
なんでも昨年卒業した先輩から譲ってもらったものらしい。
 
晃はまずスカートを穿いてからユニフォームのショートパンツを脱いだ。その後、ユニフォームの上を脱いでアンダーシャツの状態になってから、夏服女子制服のブラウスを着た。彼がブラウスのボタンをスムースに留めるので、春貴は「へー」と思う。女物の服をかなり着ているとしか思えない。リボンは舞花が結んであげた。
 
「さ、行こう」
 
それで8人で出て行く。春貴は、晃がスカートを穿いてもちゃんと歩けるのを見て、スカート穿き慣れてるなと思った。やはりプライベートでは結構穿いているのだろう。
 
残りの6人は春貴と一緒に2階席に移動した。
 
「モッパーの仕事よく見ててね。たぶん、来月の地域リーグでは、君たちもすることになるから」
と春貴は言った。
 

それで試合を見学する。
 
モッパーの4人が2名ずつ(松夜・河世/五月・美奈子)コートの対角線の所でスタンバイし、アイコンタクトでモップを持って走り出す。両組はお互いに相手の組の動きほ見ながら同じ速度でモップを掛けていく。そして最後はピタリと同時に終了するので
 
「美し〜い!」
と新規加入6人が感動していた。
 
その後も、タイムの時などにささっと出て行きスリーポイントラインの内側を急いで掃除するし、選手が転んだりしたら、その部分をすぐ雑巾で拭くし、常に「掃除するぞ、掃除するぞ」という気持ちでスタンバってないとできない仕事だなと6人は感じ取ったようである。
 
やがて1時間ほどの試合が終わる。
 
「見てるだけで疲れたぁ!」
と彼女たちは言っていた。
 

試合が終わったのは、15:40頃である。
 
体育館の入口のところでモッパー・テーブルオフィシャルを務めた8人と合流する。
 
「今日は叱られなかったぁ」
などと美奈子が言っていた。
 
「私も思った。中学の時はモッパーやる度に叱られていた」
と五月。
 
なるほど、それで不安そうな顔をしていた訳だ。
 
「まあ君たちも進化したんじゃない?特に問題になるようなのは無かったと思うよ」
と舞花が言う。
 
「このままモッパーのプロを目指す?」
「どうせならバスケットのプロを目指したいですぅ」
「今日モッパーやった子たちも、来月の地域リーグではテーブルオフィシャルのほうもしてもらうから、練習しててね」
 
「自信無ーい」
「でもちゃんとできるようにならないと、まずいからね」
 

「ぼくどこかで着替えたいんですが」
と女子制服姿の晃が言うが
「家に帰ってから着替えればいいよ」
と舞花。
 
「お母ちゃんに叱られるぅ」
「お母ちゃんには理解してもらわなくちゃ」
「何を理解するの〜〜?」
 
日和が女子制服姿の晃を羨ましそうに見てるなと思った。やはり女子制服を着たいのだろう。
 
「でもお腹空いたぁ」
「じゃギョウザ食べに行こうか」
「行きましょう!」
 

ということで、春貴は松夜のお父さんに頼んで、マイクロバスをすぐそばのイオンタウン金沢に入れてもらう。そして王将でギョウザを大量にテイクアウトし、マイクロバス内で食べた。
 
「私もいいんですか」
と松夜のお父さん。
 
「どうぞどうぞ。足りなくなったら追加で買ってきますから」
 
ということで、みんなたくさん食べて、本当に追加で買ってきた!(春貴はやはりこの手の出費が・・・・給料無くならないか?)
 

この後
「せっかく金沢まで来たから少し買物したい」
という声がある。
 
それで“人混みに近づかない”というのと、スマホを持つ人を含む最低3人以上で行動するという条件で18時半まで約2時間自由時間とすることにした。
 
(この日の金沢の日没は19:14)
 
春貴は何かあった時にすぐ駆け付けられるようにというのも兼ねて、マイクロバスの中で仮眠させてもらった。
 
日和は、夏生・美奈子と五月に連れられて(連行されて)、お店の中に入って行ったので、1時間後が想像できたが、まあいいことにした。彼が可愛い格好で帰宅しても、きっとお母さんは驚かない。
 
松夜のお父さんは「カーマ(*4)見てきます」と言って1人で出掛けた。3人以上ではないが、おとなだし男性だから大丈夫だろう。
 

(*4) この時点では既に"DCM"に改名しているが、まだまだ“カーマ”の名前のほうが通っている。DCMはダイキ(西日本)、ホーマック(東日本)、カーマ(中日本)、という偶然営業エリアが重複していなかった3つの中堅ホームセンターが三井物産の支援の下、経営統合して生まれた企業である。DCMの"M"は三井物産であるといわれる。
 
ダイキとカーマの合併話が進んでいた所にホーマックも乗ってきて3社統合が実現した。この3社は以前は、ホーマック、ダイキ、カーマの頭文字を取った“ホダカ”というブランドも作っていた。
 
ホーマックは Homac←Home Amenity Center、 ダイキは創業者(大亀孝裕:おおがめ・たかひろ)の苗字の音読み、カーマはインドの愛の神カーマ(東洋の愛染明王・西洋のキューピッドに相当する)に由来する。
 

晃は姉の舞花と愛佳と一緒に、結局着替えないままショッピングモールの敷地を出た。
「着替えたいよぉ」
と言っていたのだが、
「知り合いに遭遇する確率は低いから問題無い」
などと舞花は言っていた。
 
「昨日の『霊界探訪』で出て来た“一言主神社”ってあれ多分本物だよね」
「私もそう思った。ネットでは創作だろうという意見が強かったけど」
「どこかのショッピングモールから出て、なんか適当に歩いていたね」
「あの歩き方の規則は分かった。最初自分の影のある方向に歩き始めて、その後、右・左・左の順に曲がるんだよ」
 
「よく観察してたねー」
 
(↑偶然だと思う)
 
「出発点のショッピングモールってここかも知れないよね」
「どこが出発点かは分からないようにモザイクとか掛けてたね」
「金沢で大きなショッピングモールというと、まずここを連想するよね」
「ここかも知れないよね」
 
(不正解!あれは金沢駅に近いAショッピングプラザである。金沢市内の大きなショッピングタウンというと、示野は確かに大きいが、他に大桑町界隈、県庁の北側付近なども規模が大きい、また山環の沿道も成長著しい)。
 

ということで女子制服を着たままの晃は、舞花・愛佳と一緒にその付近を歩き回ったのだが、それらしき場所には到達できなかった。神社には遭遇したものの、一言主神社ではなかった。
 
「真珠ちゃんも言ってたけど、強い願いを持つ人でないと辿り着けないんだと思う」
と晃は言う。
 
「晃が女の子になりたいとい強い願いを持っていれば辿り着けるはず」
「そんなこと願ってない」
「でも女の子になりたい気持ち無いの?」
と愛佳が訊く。
 
「ぼくは男の子ですー」
「いや、この子は女の子になっても普通にやっていける」
と舞花。
「無理だよお」
「いや、それは問題無い気がする」
と愛佳も言っていた。
 
「実際この世界が17歳までは無性で18歳になる時に自分で男か女か選ぶという世界なら晃は女を選ぶでしょ?」
 
「え〜〜?どうしよう?」
「悩むということ自体、実は女になりたいんだな」
「月曜から女子制服で通学しなよ」
「そんな恥ずかしい」
 
やはり恥ずかしいだけのようである。
 
「小さい頃は普通にスカート穿いてたじゃん」
「子供だかせらよく分からなくてお姉ちゃんと同じ服を着てただけだよ」
「ああ、だいぶ晃ちゃんのことが分かってきた」
 

結局1時間ほど歩き回ったものの成果は無い。
 
「そろそろ帰らなきゃ」
「疲れたよ」
「仕方ない。帰るか」
ということで、スマホのGoogle Mapを見ながら示野のイオンタウンへの道を進む。スマホの表示では、15分で辿り着けると表示されているので余裕のようである。
 
その時、舞花は何か碑のようなものを見た。しめ縄が張られている。
 
「何だろう?」
「字が崩し字だから読めない」
「“傾”かなあ」
「そう言われるとそのようにも見える」
 
「じゃ一言主神社の代わりにここでお願い事をしていこう」
と舞花。
「何それ?」
と晃。
 
でも舞花は
「晃が女の子になって女子選手になれますように」
などと声に出して言って合掌している。
 
「じゃ私は、H南高校がウィンターカップに行けますように」
と愛佳。
 
「あんたも女の子になれますようにと祈りなさい」
「そんなの祈りたくない」
と晃。
 
「だいたい通りすがりの正体不明の石碑に祈るとか危険すぎる」
と晃は言っている。
 
全くである。舞花はあまりにも安易すぎる。さっき通り掛かった神社ならまだ良かったのに。
 

しかしそういう訳で、晃は何も願い事はせずに、3人はイオンタウンに帰還した。少しだけ時間があったので、トイレ(もちろん全員女子トイレ)に行ったあと、マックスバリュでパンを買って、マイクロバスの車内で食べた。
 
そういう訳で結局晃は女子制服のまま帰宅することになった!
 
晃が結局着替えてないのを見て、春貴は、やはりこの子、女子制服を着たいのかなと思った。
 
晃はそもそもあまり男性ホルモンが強くないタイプのようである。女顔だし、喉仏もあまり目立たないし。声は普通の女の子よりは低めなのだが、女の子の声だと思って聞いていると特に違和感を覚えない程度である。彼の話し方がそもそも女の子的な話し方である。音楽の時間はアルトで歌っているらしい。テノールの下のほうの音域が出ないのである。
 
晃の身長についても、お母さんが174cmの長身らしく(中学高校でバスケをしていたらしい)、性別問題より遺伝的なものがあるようだ。舞花はそれほど背が高くないが、お父さんが163cmと男性にしては背が低いので、舞花はお父さん似なのかも知れない。運動神経は、明らかに舞花のほうが晃より良いけど。
 
ちなみに日和は可愛いワンピースを着て、髪には花飾りの付いたカチューシャを着けていた。カラーリップも塗られている。そして嬉しそうな顔をしていたので、こういう服装が好きなのだろうと春貴は思う。みんなから可愛い、可愛いと言われて少し照れていた。ちなみに彼は音楽の時間はソプラノ!らしい。彼の場合はどう考えても人為的な方法で男性的発達を停めているとしか思えない。背が低いのも恐らくホルモンニュートラルのせいだ。
 

その日帰宅した日和を見た母は
 
「あら可愛い。そんな服持ってたんだ?」
と訊いた。
「うん、まあ」
 
「明日も行くの?」
「今日、初戦は勝ったんだけど、午後からの準々決勝で負けたから、明日はお休み」
「ふーん。分かった」
 
「あんた月曜日からは女子制服で通学する?」
と母は訊いた。
 
「どうしよう?」
と日和は迷うような顔をした。
 

その日帰宅した舞香と晃を見て、母も父も“何も言わなかった”。
 
母と父は一瞬顔を見合わせたが、頷き合っていた!
 
(晃はとっても“理解”されている!)
 
弟たちも何も言わない。チラッと見ただけである。
 
「お疲れさん。どうだった?」
「初戦は勝ったけど、準々決勝で負けた」
「ああ残念だったな」
「だから明日はお休み」
 
「了解了解。御飯できてるよ」
「シャワー浴びてから食べる」
「ああ、それもいいかもね」
 
それで姉が譲ってくれたので、晃は男物の服と下着を持ち、お風呂場に行ってシャワーを浴びた。
 
身体を拭いてから下着を着けようとして、自分が女の子用ショーツを持ってきていることに気付く。
 
「ま、いっか」
と思い、そのまま穿いた。姉は最近「また買ってきたよぉ」などと言って何度も女の子下着を買ってくるので(資金源は多分母)、現在晃の部屋の衣裳ケースには、女の子ショーツが20枚くらい、キャミソール6枚、プラジャー(A65) 5枚が入っている。特に女の子ショーツはもう穿くのにほとんど抵抗がなくなってきつつある。(つまり女の子下着を結構着けている)
 
 
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【春避】(1)