【春避】(4)

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人形退避作戦の後、春貴は花山星子にアコード(舞花の母の車)で氷見市まで送ってもらった。
 
「寝ててくださいね」
 
と言われて、春貴は後部座席でシートベルトは付けたまま寝ようとしたのだが、搬出作業で神経がたかぶっていたせいか、なかなか寝付けない。こちらが眠れずにいるようだと見て、花山さんは話しかけてきた。
 
「千里さんは多分、奥村さんに、中学時代の自分を重ねているのだと思います」
「中学時代?」
「千里さんは高校はスカウトされてバスケの強豪に入ったんですけど、中学時代に入った女子バスケ部は最初5人しか部員が居なかったんですよ」
「へー!」
「少なくとも過去5年くらい大会で1度も勝ったことがないというチームで」
「うちみたいだ」
 
「でも千里さんが入った後、凄く頑張って、その年の夏の大会では地区3位、翌年には準優勝、3年の時にとうとう地区大会で優勝して北北海道大会に進出したんですよ」
「すごいな」
 

「結果的にはそれで強豪の高校の先生に見初められて、そこの高校に入り、インターハイや皇后杯に出ることになるんですけどね。3年のウィンターカップでは全国準優勝しましたし」
「どん底から頂点までよじ登ったんですね」
 
と言いながら春貴は、千里さんの性別問題って、だったら中学の時点で既にクリアされていたのかと考えた。少なくとも中1の時には女子選手だった訳だ!ということは少なくとも小学5年生になるまでに性転換していた!??
 
「きっと奥村さんも2年後くらいまでにはインターハイに行くかもと思ってますよ」
「そうなりたいですね。しかしインターハイとか行くことになったら費用が凄そう」
「千里さんの場合は、元々強豪校だったからOGでたくさん寄付してくれる人があって資金はわりと豊かだったみたいですね」
 
「やはり寄付かぁ」
「自分がお世話になったからと千里さんは毎年母校に1000万円ほど寄付していますよ」
「さすがー」
 

「自分が子供の頃貧乏で苦労したこともあるのでしょうけど、お金を持っている人は、それに見合う社会的な貢献をするべきと千里さんは思ってますね。だから災害とかがあると必ず多額の寄付をしてますし」
 
「Noblesse oblige (ノブレス・オブリージュ)ですね」
 
「そんな感じです。春貴さんのバスケット部に協力してるのも、人形美術館に協力するのも、やはり社会貢献的な意味合いも強いと思いますよ」
 
「いや感謝してます」
 
「富を所有するにはそれなりの覚悟と能力が必要だし、それに見合う義務も生じます。宝くじに当たった人がしばしば破滅するのは、覚悟ができてないし、大金を保持する能力に欠けているからだと思います」
 
と花山さんが言った時、
 
あ、宝くじ買ったの忘れてた!
 
と春貴は思った。
 

帰ったら当選番号確認しようと思い、取り敢えずGoogle Keepにメモした。
 
「お金は貯めるより維持するほうが難しいとは言いますね」
 
「ですよ。宝くじが当たっ時の最悪の対応は、それを人に言いふらし、会社を辞めて豪遊し、気がついたら賞金は全部無くなっていて、大量の借金まで残っていたというパターン」
 
「ああ、そういう人は多そう」
 
「会社は辞めない、誰にも言わないというのがまずは大原則ですね」
「全くです」
「最初に借金を全部返してしまう。そして残ったお金を使う」
「それも鉄則ですよね」
 
「子供の学資あるいは老後資金を確保して自分でも簡単には取り崩せない状態にしたら、後は、基本的には配偶者あるいは絶対的に信用できる友人1人か2人とだけ話しあって使い道を決めて行く。親や子供にも話さない」
 
「親が一番危ないです」
 
「あぶく銭だからパーと使ってしまう、なんてのも悪くない使い方ですよね」
「それもいいと思いますよー」
「世界一周旅行してきてそれで終わりとか」
 
「それもいいけど海外旅行はコロナと戦争が終わってからかな」
 
「今は世界情勢が悪すぎですね」
 

春貴は能登空港近くの長い直線が続く区間で眠ってしまった。その後熟睡して、氷見に到着しても目が覚めなかった。星子は念のため道の駅でトイレに行った後、春貴のアパート前に車を駐めた。駐車場所は、ひとつだけ空いているのが奥村さんの駐車スペースかなと判断した。実は春貴のパッソはファイアーバードに駐めたままだったので、ここは空いていた。そして星子は春貴が起きるのを待った。
 
自分も前部座席で仮眠する。7時半頃、春貴はようやく目覚めた。
 
「あれ?」
「あまりにも良くおやすみだったのでそのままにしておきました。ここがひとつだけ空いていたので駐めましたが、ここで良かったですかね」
「はい、大正解です。でもごめんなさい!」
「出勤時刻ですよね。このまま学校にお送りしますよ」
「でしたらその前に着替えなきゃ!この格好で学校に行ったら叱られる」
「だったら私もトイレ貸してください」
「使ってください!」
 
それで部屋に入り、2人ともトイレに行き、春貴は急いで通勤の服装に着替えた。
 
「学校の教師はお化粧しなくてもいいのが楽です」
「大企業のOLとかすると、お化粧も大変ですよね。あ、そうそう。これ千里から、協力してもらったお礼ということです」
と言って、S市で有名なロールケーキ屋さんのロールケーキを渡した。
 
「ありがとうございます!」
 
それで星子が送って春貴は学校に出勤した。
 

星子はその後、アコードの車内を掃除して満タンにした上で氷見市内で待機中の南野鈴子に連絡。彼女の車(神谷内から借りたエスティマ)と2台で高田家に行き、アコードを返却した。舞花の母には、ロールケーキを「お母さんと2人の娘さんで3人分」と言って3本渡した。
 
「あと2人の家にもこの後、配ってきますから」
「分かりました」
 
こう言っておかないと、舞香の母は「高田家・愛佳・美奈子で1本ずつ」と誤解しかねない。
 
実際この後、星子は鈴子の運転する車に乗り、一緒に愛佳の家、美奈子の家にも行き、お母さんにローケーキを渡してきた。その後、輪島に2人で戻る。鳥族同士で結構意気投合した。
 

実は鈴子はこれまで“東の千里”(現在は千里1〜3)に付いていたので“西の千里”(千里4)に付いていた星子との交流があまり無かった。
 
千里が中学生の時は星子と会っているが、それ以来しばらく会ってなかった。千里の分裂(2017)の時、千里2や千里3をサポートしている星子を12年ぶりに見かけて「生きていたのか」と驚いた。でもその時はあまり話していない。
 
鈴子(すーちゃん)は先日までヨーロッパで千里2(鈴子は1番だと思っていた)のサポートをしていたので、輪島に居る千里から召喚された時、この千里何番だっけ?と疑問に思っていたのが、星子と話して、千里には1〜3番以外の“バスケットをしていない”千里も居ることを知り、やっと訳が分かった。でも鈴子はまだ千里2がABに分裂したことに気付いていない。
 
なお「半月くらい休んでていいよ」と言ったのは千里2Bで、今回召喚したの千里6!だが、鈴子は前者を1番、後者を“今日知った”4番と思っている。
 
千里6は最初実は伊呉三姫(ミッキー)を呼び出すつもりだったのだが、彼女は4番が呼び出すかもと思い、氷見組を送り届けるのには休養中で悪いとは思ったものの、すーちゃんを召喚した。
 
ミッキーについては4番のほうは6番が使うかもと考えていたのだが、空いてるようだったので、現地で召喚され、人形の搬出を手伝っている。そして天野貴子が運転するバスで輪島に移動して翌日はフル稼働した。
 

星子と鈴子は交代でエスティマを運転した。途中で千里から連絡があったので七尾市のお弁当屋さんで予約されていたお弁当30個を買った。穴水ICそばのJA-SSで満タンにしてから朱雀林業に持って行った。お弁当を降ろし、お昼をみんなで食べた後、あらためて車内を掃除してから鍵を神谷内に返却した。
 

6月20日(月)、春貴は教頭に地震の被害の救援について報告した。
 
「人形美術館が崖崩れで半分埋まっていたんですが、中の人形は夜中0時までに30人くらいの人海戦術で全員救出しました」
 
「それは大変な作業だったね。でも無事で良かった」
と教頭も言ってくれた。
 
春貴は微妙な話があると言い、面談室に教頭と一緒に入る。偶然自分がS市に行くことを知った女子バスケ部の部員4名が自分達も手伝うと言い、君たちを学校と無関係のことで連れ出すことはできないと言ったが、自分たちは先生とは無関係に自分たちの意志で行くと言い、お母さんの車に乗ってS市まで行って手伝ってくれたと報告した。
 
教頭は話を聞いていたが
「奥村先生自身がその子たちに直接関わってないのなら大丈夫でしょう」
と理解を示してくれた。
 

さて、晃と舞花は6/19 23:15くらいに南野鈴子さんが運転するエスティマで送ってもらって帰宅した。車内てもほとんど寝ていたのだが、帰宅してからもお風呂にも入らず熟睡した。
 
しかし以前より体力が持つ気がするのは、やはりずっと女子バスケ部で練習しているからだろうと思った。
 
6/20(Mon) 朝6時頃目が覚めてトイレに行く。凄く後ろのほうからおしっこが出る。昨日1日この状態でトイレを使っていたが、少し慣れてきたような気もする(←女子トイレに入ったことは特に気にしてない)。もしぼく女の子になっちゃったら、ずっとこんな感じでトイレすることになるのかなあなどと思った。
 
自分の部屋に戻ってから着替える。
 

ちんちん隠れてるし、男物パンツ穿く意味無いよね?と思い、女の子ショーツを穿く。胸が揺れてブラジャー着けてないと痛いのでブラジャーを着ける(←なぜ“痛い”のか何も考えていない)。このブラも先週まで着けていたA65では入らないので母が買ってくれた?B70のブラを着ける。
 
ワイシャツを着ようとして無いことに気付く。
 
ロングTシャツ(≒ショートワンピース)を着て部屋を出、2階廊下(物干し台)を見てみた。掛かっているのは濡れたワイシャツばかりである。
 
下に降り、朝食の準備をしている母に声を掛けた。
 
「お母ちゃん、忙しい時にごめん。ぼくのワイシャツ知らないよね」
 
「ごめーん。洗濯物帰ってから干すつもりでS市に行ったから干してなくて朝気付いて廊下に干したんたけど、まだ乾いてなかった?」
 
「廊下のは乾いてなかッた」
「そこにかかってる分もまだかな?」
 

2枚干してあるのに触ってみるが、どちらも濡れてる。
 
「まだみたい」
「洗ってないワイシャツ無かった?」
「うーん・・・」
などと言っていたら、舞花が言った。
 
「ワイシャツが無ければブラウスを着ればいいのよ」
 
(パンが無ければケーキを食べればいいのよ)
 
「うーん」
「そうね。あんたがブラウス着てても多分誰も変に思わない」
と母まで言っている。なんかぼくやはり周囲に誤解されてる気がすると晃は思う(←ほぼスカートを穿いているのに等しい状態を曝していることは気にしてない)。
 
「ワイシャツが無いんだから仕方ないじゃん」
と姉が言うので
 
「じゃ今日はそうする」
と晃は言った。
 

中学の時もワイシャツが全部洗われていて姉からブラウス借りて行ったことあるけど、特に何も言われなかったし(←晃はみんなによく理解されている)。
 
いったん自室に戻り、衣裳ケースのいちばん上の段に入っているブラウスを取り出す。
 
「あれ?増えてる」
 
ブラウスは姉が押しつけた2枚しか無かったはずが7枚も入っている。うーん。。。確かに昨日の夢の中では母がブラウスを追加してくれたけど。
 
まいっか。
 
それで晃は学校のマークとロゴが入っているブラウス、つまり女子夏服!を着て、ボタンを留めた。左前の服のボタンを留めるのは小さい頃からしているのでスムースに留められる。
 
ズボンは今まで穿いていたW76のものと、姉からもらったW66のものがある(*20)のだが、実際問題として最近W76のはきついと思っていた。ところが姉からもらったW66のものは楽に穿けるので、ウェストサイズの小さいものの方が楽に穿けるって不思議〜と思っていた。
 
今日は女子用の服をたくさん着たので、その延長で姉からもらったW66の方を穿いた。むろん楽に穿ける。
 
ヒゲ剃らないといけないかなと思ったが伸びてないのでいいことにした。
 
今日の時間割を見て教科書・ノートをカバンに入れ、シャープペンシルの芯を確認し、今日は体育があるので体操服を持つ。部屋を出て、2階廊下に掛かっているバスケ部の練習用ユニフォームを取って来てスポーツバッグに入れる。これはジャージ製なのでもう乾いていた。
 
カバンとスポーツバッグを持ち、晃は1階に降りて御飯を食べた。
 

晃は7時半くらいに姉と一緒に家を出て、バスで学校に登校した。途中姉が妙に楽しそうな顔をしているのは何だろうと思った。
 
晃は学校に着くと、自分の教室に入って席に着いた。ワイシャツが無くてブラウス着て来たこと、誰かに何か言われるかなあと思っていたが何も言われなかった(←当然)。
 

(*20) 舞花は現在W69のスラックスを穿いている。それでW66のものは晃にあげた。舞花はスカートならW66で入るが、スラックスはW69でないときつい。W63のスカートは晃にあげた!舞花は冷え性なので、夏はスカートで登校するが冬季はスラックスで登校することが多い。この学校の女子制服のボトムはスカートでもスラックスでもいいので、冬季になると女子の半数くらいがスラックスを穿いている。夏季でもあまりスカート好きじゃないと言ってスラックスを穿く子もいる。
 
だからこの日の晃のスタイルは完全に女子制服状態だったのである。
 

その日、春貴が3時間目の授業を始めようとした時、ガタガタっと結構な揺れがあった。
 
「揺れたね」
「震度3くらいですね」
 
などと言っていた時、校庭の方で何か物凄い音がする。
 
「何?」
と言って窓の外を見る。生徒たちも席を立って窓の所に来る。
 
「あ、茶道教室が潰れてる」
「今の地震で潰れたのかな」
「でも建物が潰れるような揺れだった?」
「だってあの教室、かなり老朽化してたもん」
「シロアリとかにでもやられていたかもよ」
 
ということで校庭の隅に建っていた茶道教室が潰れていた。この教室は多分昭和30年頃に建てたものではないかという話だった。つまり70年近く経っている。中は4畳半2間で、片方を茶室、片方を更衣室として使用していた。
 
茶道部の部長が
「お稽古場所が無くなった!」
と嘆いていた(当面被服室を使わせてもらえることになった:手芸部と同居)。
 
しかし、老朽化していたとはいえ一応在来工法で建てられた茶道教室があの程度の地震で崩壊するなら、旧美術室も、クレーン事故で壊れていなかったら今回の地震で壊れていたかも、と春貴は思った。
 

晃はその日の4時間目が体育だった。晃がいつものように男子更衣室に行き着替えようとしたら、何かざわめきがある。
 
何だろう?と思っていたら、体育委員の原崎君とクラス委員の須川君が顔を見合わせるようにしてから晃の所に来て言った。
 
「高田さんはこちらのホワイトボードの後ろで着替えて」
と言って、更衣室内に置かれているホワイトボードを隅の方に移動し、その後ろに連れて行かれた。
 
「ここで着替えるの?」
「そそ。取り敢えずの処置」
「高田さんの着替え場所については改めて先生と話し合う」
 
なんで話が必要なのだろう?と思ったが晃は素直にそこで着替えた。
 

横田先生は春貴に提案した。
 
「思ったんですけど、女子部員でフィジカルに強い子を、男子部にしばらく留学させません?」
 
「留学ですか!」
「あの子たちはもっと強い選手の中で揉まれると、もっと進化すると思うんですよ。金曜日の男女対抗戦など見てても、この子たちがもっと強くなれば強豪相手の試合でも、結構、中(なか)で勝負できると思いましたよ」
 
「それはいいですね。ぜひお願いします」
 
それで春貴は本人たちとも話した上で、河世と晃のふたりを取り敢えず1学期の終わりまで約1ヶ月、男子バスケット部に留学させることにした。梨央と秋奈は、まだ当面は基礎練習を続けさせたほうが良いと判断した。
 

晃と河世の代わりに?1年生男子2人(青木海里・湖中弓樹)を女子部でしばらく預かることになった!この子たちはバスケット初心者なので、基礎的な練習をひたすらやっている女子部の練習に参加させたほうが伸びるという判断だった。
 
「あのぉ、性転換手術受けて女子部に入れと言われたんですが、性転換手術とか受けないといけませんか?」
とふたりは、期待するような顔で?尋ねた。
 
「別に手術とかしなくてもいいよ。女子部はひたすら基礎練習やってるから、それに参加してもらうだけだよ」
と愛佳は言った。
 
「良かったぁ」
とふたりは、がっかりしたように!?答えた。
 
実は性転換手術受けたかった?
 
2人はまだ身体ができてない。結構華奢な体付きである。この身体で男子の練習に参加するのは辛いだろう。この2人、わりと顔も可愛い。女装が似合いそう!と愛佳は思った。
 

「でも女子部に留学している間は女子制服を着て女子トイレ使ってね」
「え〜〜〜!?」
と言って嬉しそうな顔?
 
「ま。希望すればだけど」
「希望しません!」
といいながらも、ドキドキした顔をしている。ああ、妄想してるなと思った。
 
女子部員たちはフラミンゴ2階の控室と付属トイレを使っていたが、彼らはピーコック2階で男子たちと一緒に着替え、その後フラミンゴに練習に来た。河世と晃は逆に、フラミンゴの2階控室で着替えてから、ピーコックに練習に行った。
 
なお男子から女子部に留学してきた2人には、男子の練習用ユニフォームに18,19の背番号をつけてあげた。男子の方では試合に出ることはないので、背番号はもらっていない。青木海里(かいり)には“マリン”、湖中弓樹(ゆうき)には“ユミ”というコートネームも付けて揚げた。
 
「なんか女の子の名前っぽいんですが」
と2人。むろんわざと女らしいコートネームを付けた。
 
「もし性転換したらそれを本名にするといいよ」
「どうしよう?」
 
「性別を変更して女子バスケ部に完全移籍するなら、その背番号あげるね」
「性別変更ですか・・・」
と2人は悩んでいるようだった!
 
(やはり性別変更したい?)
 
なお、柔軟体操は、海里君と弓樹君の2人でしていた。男子部に留学している河世と晃はその2人で組んで柔軟体操していた(*21).
 

(*21) 河世は、晃は半分女の子のようなものと思っていたので、彼と組んで柔軟体操をすることにはほぼ抵抗を感じなかった。むしろ実際に組んでみて、彼の身体がかなり女の子に近い感触なので、やはり女性ホルモンとか飲んでるのかなあなどと思った。おっぱいもあるし。どさくさまぎれに触ってみたらBカップくらいありそうだった。
 
晃はほとんどの女子部員に“女の子になりたい子”だと思われている。
 
晃は先月までは姉の舞花と組んで柔軟体操をしていた。日和が加入した後は彼と組んだが、日和は普通の女の子の感触なので、かえって緊張した。河世は女子の中ではわりと男っぽい雰囲気があるので、あまり緊張しなかった。彼女が普通に晃の背中を押してくれてブラのバックベルトの所にも触られるのでこちらも彼女のブラのバックベルトに手が掛かることは気にせず彼女の背中を押していた。
 
なお、晃がこちらに留学した後、日和は舞花と組んで柔軟体操をしているが、舞花は日和の身体に触ったら、彼が既にほぼ女の子の身体になっていることを感じた。彼が女の子下着を着けてるなあというのは以前から思っていたが、身体の感触は華奢な女の子そのものである。女の子のように柔らかい感触だし、胸も微かに膨らんでいる気がするし。
 
『この子、きっと既にちんちんも無いのでは』
と舞花は思った。
 

「ほんとにちんちんが無くなったみたい」
と晃はその日お風呂に入って身体を洗いながら思った。
 
“豊かなバスト”を洗うのも、くすぐったいし、何も無いお股を洗うと本当に女の子になっちゃったみたいに感じる。普通の女の子との違いはこの“閉じ目”が“割れ目”とは違って開けないことである。
 
でも“内部”には向こう側から指を入れることができて確かにペニスが存在していることを確認できる。晃はそこにシャワーを当ててよく洗った。
 

翌日(6/21)の朝、ワイシャツはもう乾いていた。それで今日はブラウスを着ていく理由が無いし、仕方ないからワイシャツを着て登校しようと思った。ところが、ワイシャツはボタンが留められなかった。
 
Bカップの胸がワイシャツに収まる訳が無い!
 
それで
「入らなきゃ仕方ないよね。今日もブラウス着ていくか」
と思ってブラウスを着て、W66の女子用スラックスを穿いた。
 
ヒゲも伸びていなかったので特に剃らなかった。
 
これ以降、晃は毎日ブラウスで登校した、この学校では女子のスラックスも制服として認められているので、これ以降、晃は実は女子制服で登校するようになったことになる。
 
また晃はこれ以降、一度もヒゲを剃る必要は無かったし、足のむだ毛も処理する必要は無かった。
 
「最近ヒゲを剃らなくて済む。何でか知らないけど楽だなあ」
と思った。
 

また、晃はこれまで音楽の時間にアルトで歌っていたのだが
 
「高田さん、結構高い声が出てるね」
 
と言われ、音楽の時間にピアノ担当をしている由香ちゃんが晃の声域を確認してくれた。すると、下はF3から上はC6まで、2オクターブ半出ていることが判明した。
 
「声域広〜い」
「完全にソプラノだね。合唱部の子でもHigh-Cが出る子は少ないよ」
「バスケ部に入ってなかったら合唱部に勧誘したい」
 
と言われ、アルトからソプラノに移動になった。晃は音感がいいし(*23) 声量があるから後ろのほうの席で歌ってと言われ、ソプラノ最後列の右から2番目の位置で歌うことになった。
 

「周囲女の子ばかりで恥ずかしい」
などと言う。実はこれまではアルトの席の端の、テノールとの境界の席に座っていたのである。
 
「高田さんも女の子だから問題無い」
「ぼく男の子だけど」
「だって女子制服着てるじゃん」
 
「え?これワイシャツの胸の付近のボタンが留まらないからお姉ちゃんのブラウス借りてきてるだけだよ」
 
そりゃその胸がワイシャツに収まるわけ無い。
 
「ズボンも女子のスラックスだし」
「なんか今まで穿いてたW76のズボンがヒップがつかえて入らなくて、お姉ちゃんからもらったW66のズボンは入ったからそれを穿いてるだけなんだけどね」
 
つまり女子制服じゃんと、クラスの女子たちは思ったが、この日は敢えて突っ込まなかった。しかも晃がズボンを穿いたシルエットではお股の所がスッキリしていて何の膨らみも見られないのである。つまり女子の形である!
 
美奈子(女子バスケ部)が笑いを堪えて苦しそうにしていた!
 
「76が入らないのに66が入るって不思議なんだけど」
と本人は言っている。
 
「女子用と男子用では“ウェスト”の計測位置が違うから」(*22)
「あ、そうなんだ!」
 
女子と男子で体型も違うからねと思ったが、女子たちはこの日は突っ込まなかった。
 

(*22) 男性用のズボンのウェストの測り方は実は難しい。要するにそのズボンのベルトを締める位置のサイズを計る必要がある。そのため股上の長さによってもウェストサイズは異なる。一般に学生ズボンや紳士用スーツのズボンでは腰に引っ掛けるようにして穿くので、腰骨のすぐ上、だいたいおへその位置で測ることが多い。
 
これに対して女子用のパンツ・スラックス類は、ウェストのくびれの最も細い所で測る。これは概して男子のウォストより高い位置である。
 
女子のウェストがそもそも高い位置にあり、また女子用パンツのファスナーは男子用のものより短いことが多いため、女子用パンツを穿いていると、男性固有の排尿器官を前開きから出すのが困難である場合も多い。
 
ウェストのくびれの無い女子は、もしくびれが存在したらこの付近かもと思うあたりで測る(*_*)\バキッ☆ 晃のような男の娘の多くは女子同様のくびれを持つので、そこで女子用パンツのウェストを合わせることができる。
 

(*23) ピアノを習っているからだと思う。毎週水曜日の19時からレッスンに行っている(高校生以上のクラス)。19時からだから部活とも両立できる。水曜日は母がファイアーバードまで迎えに来てくれて、舞花と晃で一緒に教室に行く。
 
ピアノは元々舞花が習っていたのだが、自分も習いたいと言って一緒に習いに行くようになった。毎年1度の発表会では、いつも姉と連弾している。概ね姉のお下がりのドレスを着せられている!
 
ちなみに母は、晃がドレスを着ているのを見て、そういうのが好きなのだろうと思っている。母は晃のことを“よく”理解している!
 
ピアノは母も結構弾く。父も流行歌の伴奏程度はできる。この家の食卓にはよく1990-2000年代のポップスやロックが流れている。でも舞花のリクエストでClariS, BABYMETAL, Avril Lavigne なども流れている。2人の弟たちはピアノには関心が無いようである。上の弟・茂之(中3)はギターを覚えたいと言って、ヤマハのFGを買ってもらい練習している。
 

女子バスケ部では、来月の地区リーグに向けて、運営の練習も進めた。4月入部の4人にはテーブルオフィシャルの練習を本格的にさせる。残りのメンバーで紅白戦をして、そのタイムキープやスコア付けをさせた。スコアは3年生も付けていて、そちらと照合し、どこで間違ったかを検討する。
 
新規加入の内、即戦力ではない弘絵と一恵、それに男子部からの留学生2人には、モッパー(コートキーパー)の練習をさせる。実際にモッパーが仕事をしている所をビデオで見せて、モッパーがいつ何をしなければならないかを教える。4人のモッパーがきれいに並んで掃除をし、最後ピタリと真ん中で出会うシーンは「何て美しい」と感動していたが「自分たちにできるかなあ」と不安がっていた。
 
「たくさん練習すればできる」
と言って、毎日練習の最後にもやらせていた。
 
「でもこれきついです」
「うん。モッパーは実は重労働なのだよ」
 
「でも女子の試合のコートキーパーを僕たちもしていいんですか」
と青木君が尋ねたが
「それは主催高(高岡T高校)に確認して女子バスケ部の部員であれば性別は問わないということになってるから」
「ぼくたち女子バスケット部の部員になってるんですか」
「ちゃんと名簿に登録しているから間違いない」
「え〜〜!?」
 
 
「マリちゃんはマネージャー、ユミちゃんはトレーナーとして登録するからちゃんとベンチにも座れるし会場にも入場できる」
と愛佳は答える。
 
「選手じゃなければ良かった」
 
(↑晃と日和は選手登録する気満々)
 

ちなみにこの2人にテーブルオフィシャルの練習まではさせていないのは、彼らには女子制服を着せる訳にはいかないからである。本人たちはもしかしたら着たいかも知れないが?むろん男子制服でTO席に座っても何も問題無いが「美しくない」と舞花も愛佳も思っている。つまり地区リーグで晃には一貫して女子制服を着せるつもりである!
 
日和は本人が希望すれば女子制服を着せてあげてもいいと思っているが、彼女(彼??)の場合はまだルールを把握してないからテーブルオフィシャルの仕事は困難である。来年かなあと思っている。
 
でもこの子、きっと女子制服くらい自分で持ってるよね?
 

春貴は19日深夜(20日0:30頃)にGoogle Keepに宝くじのことをメモしておいたものの、その日はきれいに忘れていた。
 
春貴が宝くじのことを思い出したのは、6月24日(金)の練習の後で、松夜が
 
「あ、先生そういえば宝くじは当たりました?」
と訊いた時であった。
 
1等前後賞を当てて体育館を建てようなどと1ヶ月ほど前に言っていた。
 
「そういえば当選番号確認してなかった」
 
「何か毎回1等が当たってるのに引き換えに来ない人あるらしいですね」
「もったいないよね」
「1年くらいたったら無効になっちゃうんでしたっけ」
「そうそう1年以内に受け取らないといけない」
「1年と1日過ぎてから気付いたら悲惨ですね」
「全く気付かないならいいけど、それはあまりにも悲しいね」
 

それで春貴はその日の部活が終わった後、買物のついでに引き換えてこようと思い、パッソでマックスバリュに行った。お肉とか野菜とか買ってから、宝くじ売場で「これ引き換えお願いします」と言った。買った時のままの10枚パックをおばちゃんに渡した。
 
おばちゃんは、その宝くじを機械に掛けて・・・・
 
ギョッとしている。
 
「奧さん、これ高額当選してる」
「え〜〜!?」
 
「ここでは払い戻しできないから、みずほ銀行の富山支店か金沢支店に行ってください」
「分かりました!」
「これ絶対無くさないようにしてね。人が触れる場所には置かないように」
「はい。ちなみにいくら当たったんですか」
と春貴が尋ねると、売場のおばちゃんは紙に「1×」と書いて春貴に見せた。紙はすぐ丸めて捨ててしまう。
 
“×(ばつ)”何だろう?で実は外れ?
 
まさか。
 
あ?ローマ数字の“X”(10)で十万円?
 
だったら結構なボーナスだなあと思った。大会の度に、勝ったらお祝い、負けたらやけ食いというので、毎回数千円掛かって結構資金的には辛いし。10万円くらいもらったら、この後、地域リーグとウィンターカップ予選くらいまで生徒たちにおごってあげられる程度の資金になるかもなどと春貴は思った。
 
でも金沢か富山って、どうしよう?銀行は平日しか開いてないし。
 
でも春貴はすぐに気がついた。
 
夏休みになってから有休もらって取りに行けばいい!
 
ということで、春貴は学校が夏休みになってから取りに行くことにしたのである。
 

6月25-26日(土日).
 
3年生の希望者を対象に実力テスト(業者テスト)が行われた。金沢の私立狙いで、あわよくば国公立と思っている舞花はもちろん受けた。また自分が入れる大学があるとは思えないものの、親から言われた愛佳も一応受けた。結果は半月程度で通知されるはずである。
 

6月25日(土).
 
春貴がアパートで朝御飯を食べていたら千里さんから電話が掛かってくる。
 
「春貴ちゃん、ごめーん。人形の移動の時にキャラバンを借りたまま返してなくて」
「いえ、そもそも千里さんのですし」
「でも貸してたものだから。実はあの晩、荷物移動に使った後、どこに行ったか分からなくなってて」(*24)
 
は?
 
「やっと見付けたから今日中にそちらに持って行くね」
 
(*24) あの日最後にキャラバンを使ったのは広沢である。4人の男の娘を七尾・氷見に送っていった。
 
つまり広沢が怪しい。
 
でもさすがの千里もあの時誰がどの車を運転したかは覚えていなかった。
 
ちなみに見付けてくれたのは、物探しのうまい大裳(たいちゃん)である。
 

春貴は考えた。
 
「その件も含めて少しご相談したいことがあるんですが」
「うん。いいよ。じゃ車どこに持って行こうか」
「今どこにおられます?」
「実は各務原(かかみがはら)市内なんだよ。東海北陸道・能越道を走って(*25) 多分そちらに3時間くらいで行けると思う」
 
随分遠くまで行ってたな。
 
(*25) 各務原市は岐阜市の南東にある市で東海北陸道が通っている。小矢部砺波JCT(北陸道との交点)を直進すると、東海北陸道から能越道にそのまま入れる。H南高校や春貴のアパートに行くには能越道の氷見南ICで降りる。
 

「じゃお昼くらいに高岡市内とかで会いません?」
「OKOK。じゃ青葉の家で会わない?」
「あ、はい。いいですけどお邪魔じゃないですかね」
「全然問題無い。あ、そうだ。青葉の新しい家知ってる?」
「あれ?引っ越したんですか」
「昨年10月にね。住所と緯度経度をそちらにメールするよ」
「ありがとうございます」
「○○小学校の隣だから、その案内板を頼りにするといいよ」
「へー」
 

それでこの日のお昼頃に高岡市伏木の青葉の新居で会うことにした。
春貴はお土産にミスドを20個買って持って行った。
 
春貴は「まだ早いかなぁ」と思いながら、11時半頃に青葉宅に到達する。物凄く大きな家なのでびっくりした。母屋が平屋建てだが、かなり広い面積を取っている。部屋が10個まくらいありそうだ。
 
それに隣接して背の高い倉庫のような建物があり、その先には離れのような建物もある。その離れはお隣さんの家の裏手に位置している。恐らく奥まった場所にあり、再建不可物件だったのを買い取り、ひとつの筆にまとめることで再建可能にしてそこにも建物を建てたのだろう。
 
(再掲?)青葉宅の見取図。以前と違う気がしたら気のせいかも?

 
駐車場も広い。7-8台泊められそうと思った。そこに既にキャラバンが駐まっているので「ありゃ〜、遅れたか」と思った。バックで駐車場に駐めようとしたら、千里さんが出て来て「ここは突っ込んで駐めて」と言うので、突っ込んで駐めさせてもらった。
 
「バックで駐められると、車に見詰められる感じになるから、突っ込み駐車推奨」
「なるほどー。でも遅くなって済みません」
「いや、約束は12時だったからね」
「あ、これお土産です」
「気にしなくていいのに」
 
でもドーナツを見て4〜5歳くらいの女の子が2人歓声を挙げていた。
 

素敵なサンルームに通される。春貴も顔を記憶していた青葉のお母さんがコーヒーとドーナツを持ってくる。
 
「おもたせで失礼します」
「いえ。コーヒーありがとうございます。それと青葉ちゃん、メダルおめでとうございます」
「電話で話したけど、やはりぐいぐい後ろから追われてる感じだって。それで1500mは落としたけど、800mで奮起して何とか勝てたとか。でも来年の福岡世界水泳くらいで引退するかもと言ってました」
 
「まだまだ若いのに」
「忙しすぎて疲れてるんじゃないかという気がする」
「忙しすぎますよね!」
 
ごゆっくり、と言って青葉のお母さんは下がる。
 

それで春貴は千里と話した。
 
「実は部員が増えて14人になって、キャラバンに乗り切れなくなったんですよ。体育館については、ファイアー・バードを貸して頂いたので、歩いて練習に行けるから普段の練習は何とかなるんですが、休日の大会とかは部員の保護者に協力を求めていくつかの車に分乗して移動しようかと思ってるんですけどね」
 
「ああ、だったら今度はマイクロバスを貸そうか?」
「借りられるんですか?」
 
「ほんとに色々な車があって、置き場所のやりくりには困ってるから、預かってもらえたら助かる」
 
「でもまだ大型免許を取ってないから、取りに行かなきゃと思ってるんですよね」
「元々夏休みくらいに大型取りに行くと言ってたよね」
 
「はい、そのつもりでしたがもっと早めることにします。部活が18時で終わるからその後自動車学校に通うつもりです」
 
「一発試験受ければいいのに」
「さすがに通りません!」
「まあ、自動車学校で、みっちり鍛えられたほうがいいかもね」
「そう思います」
 

「夏休み中の部活は?」
 
「本当は大会に出る場合を除いて週1回まで、夏休み40日間に最大4日なんですけど、インターハイ予選で3位になって北信越大会で1勝したから、特例で週2回まで、40日間に最大10日まで認められました。それで計画表を出しました。基本的には火金に練習する線で」
 
「部活の日は朝から晩まで?」
「いえ1日3時間maxです」
「それでも普段の部活より時間が長かったりして」
「そうなんですよ!普段は2時間弱ですからね」
 

「それでご相談したいことがあって」
「うん」
 
「先日ちょっと練習試合をしたら、相手チームがシューターの美奈子にダブルチーム掛けて来たんですよ」
「あの子は筋がいいからね。掛けたくなるだろうね」
 
「千里さん、優秀なシューターでしょう?中学高校の時とかにダブルチーム掛けられたりしませんでした?」
「掛けらけたけど、うちには強力なセンター(留美子)がいたからね。私にダブルチーム掛けると、そちらにどんどん点数を取られる」
「ああ」
「ある時期はもうひとりシューターがいた年もあって、この年は私をガードしてても、もうひとりにやられていた。私ほどの確率は無かったけどね」
 
「つまり、そのシューター以外にも得点源が居ると、この作戦は使えないんですね」
 
「そういうこと。これはシューターに限らず、たとえば外人さんのセンターがいるような場合にも、ダブルチーム掛けてくる対戦相手はいるけど、その人だけを押さえても、他で得点されると結局ダブルチームという作戦は機能しないんだよ」
 
「なるほど」
 

千里さんに最近の練習風景を撮影したビデオを見てもらった。
 
「かなり人数が増えたね」
「今14人なんです」
「あれ?晃ちゃんと河世ちゃんは?」
「今男子バスケ部に留学中なんですよ。ペネトレイト(*26)の技術を鍛えるために」
「へー」
「代わりに初心者の男子2人を引き受けてるんですけどね。女子バスケ部はひたすら基礎練習してるから、こちらで少し基礎を鍛えたほうがいいだろうというので」
 
「ああ、この子と・・・この子か」
「そうなんですよ」
 

(*26) ペネトレイトとは、相手の守備を突破してゴール近くのエリア(インサイド)に進入すること。特にドリブルしながら中に進入してシュートを狙うのはドライブインという。それ以外にも、中に進入してパスを受けて近くからシュートしたりする。
 
H南高校女子バスケット部の現在のゲームスタイルは、中に入って行く技術や運動能力が無いので、開き直ってそういう攻撃方法は捨てて、ひたすら外側からミドルシュートでゴールを狙う遠隔攻撃法である。シュートの精度が鍵となる。下位では結構勝てるが、強いチームにはほぼ歯が立たない。
 

「この男子2人は体格も華奢だし、この身体で男子の練習に参加させるのは危険でもあると思う」
「体格や運動能力はあまり無いけど、バスケが好きなんでしょうね。彼らはボールを10m投げられないです」
「男子として通用するようになるには3〜4年掛かるなあ」
「かも知れません」
「この子たち、いっそ女の子に変えてあげようか?女子なら1年でものになる。今の基準だと1年間女性ホルモン優位なら女子の試合に出られるよ」
 
「女の子になっちゃったら泣きそうな気がします」
「ちょっとちんちん取ってあげるたけなのに」
「あまり余計な親切はしないようにしましょう。女の子ってお金かかるし」
「確かに掛かるよね」
 
そんなことを言いながら千里さんは少し考えていたが
「今度一度、こないだボランティアに来てくれた中で、愛佳ちゃん、舞花ちゃん、晃ちゃんの3人に会わせてくれない?8月くらいまでに。別に晃ちゃんを女の子に変えちゃったりはしないから。ちょっと気になることがあって」
と言った。
 
「はい。勝手に性別を変えたり去勢したりしないのなら(←警戒している)、いつでも千里さんのご都合のいい時に」
 

春貴はこの日(6/25 Sat)、氷見市内の自動車学校の大型免許取得コースに入学した。毎日学校の勤務が終わった後、ここに通い、1ヶ月程度で大型免許取得を目指す。この自動車学校は21:00までの営業なので、18時まで部活に付き合った後、19:00, 20:00 と2度の教習を受けられるのである。
 
春貴の計画
第1段階(12) 6/25 26 27 28 29 30
仮免試験 7/01(Fri) 午前中(*27)
第2段階(18) 7/01 02(3) 03(3) 04 05 06 07 08
卒業試験 7/11(Mon) 午前中(*27)
免許試験場での筆記試験 7/13(Wed) (*27)
 
(*27)学校は午前中休ませてもらう方向で学校側と交渉予定。
 
7月2,3日は土日なので教習を3時間受ける。
 
ここにあげたのは実車の教習時間で、このほかに学科を1時間受ける必要があるが、7月2日か3日に受ける予定。
 

6月27日(月).
 
春貴は教頭にお願いした。
 
「春から私にキャラバンを貸してくれていた友人が、うちの部員が増えたと聞いたら、今度はマイクロバスを貸してくれたのですが、学校の駐車場に駐めておいてもいいですか」
 
「へー。それは奇特だね。貸してくれるものは構わないよ。じゃ職員駐車場の右端に駐めてもらえる?」
「はい、ありがとうございます」
 
それで教頭が、この日、駐車場の右端およびその隣に車を駐めていた先生に頼んで、車を他の場所に移動してもらった。駐める場所は決まっておらず朝来た順に適当に駐めていくので、毎日並びが違う。
 
「ありがとうございます」
 
それで春貴が千里さんにメッセージを送ると、人形美術館の作業の時にも居た播磨工務店の広沢さんがすぐにマイクロバスを持って来て、春貴の指定する位置に駐めてくれた。
 
日野の Liesse II Lx (6AT) short body (6.255m) 定員26 (客席19+補助席6+運転席1)である。ボディはレモンイエローに塗装され、こぶた・たぬき・きつね・ねこ、の絵が描かれている。小学校か何かで使っていたのだろうか。
 
「このマイクロバス、以前幼稚園で使ってたんですけど、そこの幼稚園が潰れて資産整理で売られていたのを買ったんですよ。塗装は直してないですが、座席はおとな用の座席に交換してますから」
「分かりました。ありがとうございます!」
 
「じゃこれバスのキーね」
「ありがとうございます。助かります」
 
これで春貴は早急に大型免許を取らなければならなくなった。一応来月の地域リーグの試合では、松夜のお父さんに運転をお願いできるはずであるが。
 

春貴は校長先生に免許取得の計画表を提示して有休をもらないか交渉した所、大型免許取得は急務の資格取得として、考慮してもらえることになった。
 
仮免試験、卒業試験、免許試験場での筆記試験が平日にしか受けられない(特に免許センターでの大型学科試験は月水木のみ)ことを理解してもらった上で、少し調整が入る事になる。
 
「免許ってできるだけ短期間に集中して教習を受けたほうがうまく行きますから」
と校長は言ってくれた。
「確かにそうなんですよねー」
 
それで下記のように計画は変更された。
 
・7月1日は1日休みにして良い。それで7月1日は3時間教習を受ける。
 
・水曜日は4時間目(11:30-12:20)の授業が無いので、ここで12:00-12:50の教習を受けてきてよい。5時間目は13:10からだが、自動車学校からH南高までは車で5分で移動できるので間に合うはず。すると計画をこのようにできる。
 
第1段階(12) 6/25 26 27 28 29 30
仮免試験 7/01(Fri) 午前中
第2段階(18) 7/01(3) 02(3) 03(3) 04 05 06(3) 07
卒業試験 7/08(Fri) 午前中
免許試験場での筆記試験 7/11(Mon) 午前中
 
7月1日は有休を認める。7月8日,11日の午前中は研修扱いとする。“学校活動に必要な資格の取得”とみなしてくれたのである。
 
なお7月1日は春貴が休みなので女子バスケット部の練習もお休みとなる。
 

6月27日(月).
 
H南高校女子バスケットボール部の男子?部員・高田晃は、EラーニングによるE級コーチの講座を修了。試験にも合格して、E級コーチ・ライセンスを取得した。
 

晃は河世と一緒に、先週の月曜(6/20)から、男子バスケ部に“留学”して男子と一緒に練習しているが、やはり男子の練習は、きついなあと思っていた。男子の運動部員は身体の造りが違う感じだ。
 
晃自身は、小学校ではコーラス部、中学校では吹奏楽部(*28)にいた、文化系人間である。運動は嫌いというわけではないが、あまり興味が無かったし、体育の時間以外は何もしていなかった。
 
バスケットはゴールしたら2点という以上のことはほとんど知らなかったが、姉に強引に“女子バスケットボール部”に加入させられて以来、ルールを勉強し練習に参加し、実際のゲームを見ている内に結構興味を覚えてきた。でもやはり運動をあまりしてなかっただけに、女子との練習ならまだいいが、男子との練習ではすぐ息が上がる。ただ、男子部員たちが自分を女子と思ってくれているので、体力に配慮してもらえることから何とかなっている感じだ。
 
男子部員の中には同じクラスの男子もいるけど、どうも自分のことは“女の子になりたい子”だから女子バスケット部に入った、と解釈しているようである。男子並みに扱われたら辛いから助かるけどね。
 

(*28) 吹奏楽部では、フルートを吹いたりオーボエを吹いたりしていた。編成によってはクラリネットを吹いたこともある。フルートは白銅製のを買ってもらったが、オーボエやクラリネットは学校の備品を使用していた。マウスピースだけ買った。フルートは自己流で、正式に習ったことは無い。
 
「フルートを吹く少女は絵になるなあ」
「ぼく男の子だけど」
 
でもワンピースを着せられて姉に絵のモデルを務めさせられた。舞花はとても絵がうまい。この“笛を吹く少女”という作品は市の美術展に入賞した!
 
美術館に展示されたけど、ワンピース姿の自分の絵が大量の人に見られるのはちょっと恥ずかしかった。
 

Eラーニングを終えてからここ3ヶ月ほどの女子バスケット部での活動を振り返っていたら、いつの間にか遅くなっていた。晃はもう寝ようと思った。
 
部屋着の上下を脱ぎ、下着も交換する。なんか先週“タップ”?されてブレストフォームを貼り連れられて以来、女物の下着を着けているが、一週間もしてると、もうこれが普通になってしまい、このままでもいいかなという気がした、
 
どうせぼく、女の子と恋愛とかするとも思えないし。女の子たちはたいていぼくのこと“準女子”みたいに思って、普通の友だち付き合いをしてくるから恋愛に発展する要素が無いんだもん。ぼく自身、女子にハグされたりしても特に最近は何も感じ無いし(美奈子や夏生などにハグされすぎて女性不感症になっているっぽい)。
 
急にまた女子制服着てみようかなという気分になる。
 
それで白い汎用品のブラウスを着て、その上に女子の冬服ブレザーを着た。下は少しドキドキするけど、制服のスカートを穿いてみる。晃は“また”冒険したい気分になった(←既にやみつきになっている)。
 
リボンも結ぶ。北信越大会の後、姉から随分練習させられたので、ちゃんと結べるようになっていた。
 
鏡に映して見る。
 
やはり女子制服って可愛いなあと思う。
 
ニコッと微笑んでみる。
 
ぼくもし女の子になっちゃったら、この服で通学するのかなあ、などと思う。
 

先週と同様に、女子制服のまま、そっと部屋を出る。静かに階段を降りて、トイレに入った。普通におしっこをする。おしっこはとても後ろの方から出る。この出方にもかなり慣れたなあと思う。
 
出た後をペーパーで拭く。立ち上がりながらショーツを穿く。スカートの乱れを直す。便器のふたを閉め水を流して手を洗い、トイレを出る。
 
もしかしてぼく、スカートで部屋の外に出るのにハマりつつない?そのうちスカートで学校に出て行きたくなったりして(←いや既にその気になってる)。
 
でも女子制服で通学してたら、女子生徒には余分なものを除去しますとか言われて手術されちゃったりして?(←もう男の子には戻れなくなってる)
 

足音を立てないように階段を昇って2階に戻る。姉の部屋から何も音がしないのを確認して、自分の部屋のドアを開けた。
 
その時、そこには思わぬ風景があった。
 
「へ?」
 
物凄く明るい照明が点いている。
 
青い手術着?を着たお医者さん?と3人の看護師さんが立っている。全員マスクをして、手術帽をかぶり、手袋をしている。
 
「高田晃さんですね?」
と、医師は確認する。
 
「はい」
と晃は答えた(←名前呼ばれて返事するとか無防備)。
 
「よかった。やっと見付けた。探すのに苦労しました。あなたはお姉さんの命令で性転換手術を受けて、女の子になってもらうことになっています。ここに寝て下さい」
 
と言って、手術台?を示される。
 
看護師が2人晃の腕を取って手術台に乗せてしまう、
 
「ちょ、ちょっと待って。性転換とか心の準備が(←嫌だとは言ってない)」
 
「今から手術します。寝てていいですよ。目が覚めた時には、あなたはもう立派な女子高生です」
 
と医師は言い、看護師の手でスカートが脱がされ、、パンティも取られてしまった。足を大きく広げられ、身体を数ヶ所ベルトで固定される。
 

「あ、タックしてるんですね。外しますね」
と言って、医師は“タップ”を解除した。一週間ぶりに男性器を見て、こんなの無くていいのにと思った。
 
「手術の内容を説明します。まず女の子にあってはならないペニスは切除します。邪魔な睾丸も摘出します。可愛い陰裂を作ります。尿道口は膀胱直下に設置しますので、普通の女の子と同様におしっこできるようになります」
 
「性転換なんて急に言われても」
 
「陰茎が無くなるからも今穿いてたような前開きの無いパンツをいつも穿けるようになります」
 
ちんちんは無ければ無くてもいいかなあ。
 
「睾丸が無くなるからひげも生えなくなるし、声変わりもせず可愛い声のままで居られます」
 
ひげが生えなくなるのはいいかも。毎日面倒なんだもん。
 
「陰茎と陰嚢が無くなり、恥丘と陰裂ができるから、普通に女湯に入れるようになります」
 
女湯なんて恥ずかしいよぉ。
 

「陰核ができるから、気持ちよく自慰できるよ」
 
それちょっと興味あるかも。
 
「膣ができるから男の人と結婚できるよ」
 
ぼく、まさかお嫁さんに行くの??
 
「子宮ができるから赤ちゃん産めるよ」
 
ぼく赤ちゃん産んでお母さんになるの???
 
「卵巣ができるからおっぱいも大きくなって女らしい体付きになれるよ」
 
おっぱい大きくなったら、まるて女の子みたいじゃん。あ、ぼくそもそも女の子になるのか。
 
「君は目が覚めたらもう女の子だから、明日からはワイシャツにズボンの男子制服じゃなくて、ブラウスにスカートの女子制服で学校に通えるよ。良かったね」
 
スカート穿いて通学するの〜?恥ずかしーい。
 
「じゃ麻酔を打つね」
と言われて、腕に注射をされた。晃は意識が遠のきながら
「ぼくほんとに女の子になっちゃうの?」
とドキドキする思いだった。
 
医師たちが
「あれ睾丸が無い。既に除去していたのか」
「あれ?このペニスもフェイクじゃん。もう男性器は除去済みだったのか」
「よほど女の子になりたかったんだろうね」
「男性器が無いのなら女性器だけ移植してあげればいいな」
などと会話しているのが聞こえた気がした。
 

6月28日(火).
 
晃が目を覚ますと、どこか豪華な部屋の天蓋付きのベッドに寝ていた。
 
「ここどこ?」
と思う。
 
「お嬢様、お目覚めになりましたか?朝のコーヒーでございます」
と、黒髪にホワイトブリムを着けたメイド衣裳の中年女性が言う。
 
「お嬢様って、ぼく男だけど」
と晃はコーヒーを受け取りながら答えた。取り敢えず一口飲む(←こんな所で飲食物を口にするとか無防備!)。
 
「昨夜までは男でしたが、性転換手術で可愛い女の子に生まれ変わりましたから」
「嘘!?」
「日本の人口から男が1人減り、女が1人増えました」
 
晃はコーヒーを飲み干すと(←あぁぁ!)自分の服をあらためて見てみる。
 
晃は自分がシースルーっぽいペールピンクのベビードールを着けていることに気付く。胸に触ると豊かなバストがある。すごく柔らかい。これが女の子の胸の感触かと思う。お股を触ると、ちんちんが無くなっていて割れ目ちゃんができている。これは偽装ではなく本物っぽい。その証拠に開くことが出来る。中を探ってみると、とても感じやすい所、そしておしっこの出てくる所かと思われる部分、そしていちばん奥には何かの穴があった。
 
立ち上がって部屋の側面いっぱいの鏡に映すと、可愛い美少女の姿がある。長い髪が胸の付近まである。性転換手術って髪まで長くなるのかと思った。晃はベビードールを脱いでみた。そこにはとても魅力的な女子高生のヌードがあった。
 
メイドさんがお化粧をしてくれた。ぼくって、すっごい美人!と晃は思った。
 

そこで目が覚めた。
 
 
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【春避】(4)