【春歩】(3)

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5月3日(火・憲法記念日).
 
歩夢は遙佳に訊いてみた。
 
「ねぇ、お姉ちゃん、今Cカップ着けてるよね」
「うん。2月頃から少しずつCに移行した」
「古いBカップのブラ、残ってたら私にくれたりしない?」
「・・・あんたBカップになったの?」
「Aカップがきつくて」
「ちょっと待って」
と言って、遙佳は歩夢にまず上半身、裸になるように言った。
 
「あんたこれ、凄く成長してる!」
と驚いたように言う。
 
そして、メジャーを出して、歩夢のトップバストとアンダーバストを測ってくれた。
 
「アンダー62.5cm」
「トップ73.9cm」
と姉は言う。
 
昼間クラスメイトに測られた時よりアンダーもトップも数値が大きいけど、測定誤差かな。
 

「これは立派なBだよ。Aじゃきついよ。でも、あゆ、あんた、女性ホルモン飲みすぎじゃない?」
 
「お母ちゃんから言われた量しか飲んでないよ」
「しばらくホルモン飲むの中断してみない?」
「そうだなあ。少し休んでみようかな」
「ブラは、あんたにならあげてもいいよ。今度の布紐類の日に捨てるつもりだったんだけど」
 
と言って、遙佳は、押し入れの中に入れていた市指定のゴミ袋から、不透明のビニール袋を取り出し、その中に入っていたブラジャーの中で、特に傷みがひどいものを除いて、歩夢に渡した。更に
 
「これも要るよね?」
と要って、Bカップ時代に使っていたキャミソールとブラウスもくれた。
 
「ありがとう。助かる!ブラウスもきついと思ってた」
 
学校の男子の服装規定は学生服の下はワイシャツなのたが、歩夢がブラウスを着ているのは事実上黙認されている。
 
「あんた、いっそもう女子制服で通学したら?」
「叱られるよぉ」
「受け入れられると思うけど」
 

5月4日(水・みどりの日).
 
歩夢はまた夢を見ていた。歩夢はベッドか何かに寝ていて、誰かに手を握られている。見ると、親友のヒバリである。
 
「あゆりん、頑張って」
と言われるので何を頑張るのだろう?と思う。
 
「ほら、腹式呼吸よ、ヒッヒッフーだよ」
 
え?え?
 
でも歩夢は「ヒッヒッフー」と言いながら呼吸していた。何かが身体の中で移動している!?
 
何何?と思っていたら、
「おめでとうございます!生まれましたよ」
と言われる。
 
え?まさか私、赤ちゃん産んだの?
 
と思ってよく見ると白衣の女性(助産師さん?)が抱いているのは、小さな卵であった。
 
「あゆりん、頑張ったね」
とヒバリが言う。
 
私、卵産んだの???
 

5月4日(水・みどりの日).
 
春貴は運動ができる服装をし、着替えを持って、自分のパッソに乗り、高岡T高校に向かった。そこで“ゴーセイジョー”の練習に参加するのである。
 
校門を入る時に、胸が痛んだ。中学3年の時、このT高校を受けるか、C高校を受けるか迷った。結局T高校には微妙かもと思って1ランク落としてC高校を受けた。そこなら絶対確実に入れるはずだった。ところが当日風邪を引いてしまい、マスクして出て行って受けたものの意識が飛んだりしてまともに解答できなかった。それで楽勝のはずの高校を落としてしまったのである。
 
まさかC高校に落ちるとは思ってもいなかったので滑り止めも受けていなかった。それで越県して金沢の進学校の二次募集を受けた。春貴はもしかしたら自分の母校になっていたかも知れない高校の校舎を見上げて、涙が浮かんだ。
 
指定されていた第2体育館に行く。既に3人来ている。
 
「おはようございます」
と挨拶すると
「おはよう」
という声が返ってくる。
 
「早く来たね!」
と矢作さんが言う。
 
「済みません。早く来すぎました?」
「まだみんなが来てない内に来られると、やってきた人ごとに、私、奥村さんを紹介しないといけない」
 
「ごめんなさい」
 

「まあこの後、来る人には、自分で紹介してもらうということで」
と言っていたのは、高岡T高校の先生で横井さんといった。
 
「まあそういう訳で、H南高校の奥村先生ね」
「今年、新任で入りました、奥村春貴と申します。よろしくお願いします」
「バスケットの経験は?」
「中学高校の体育の時間にやっただけなんですが、女子バスケットボール部の顧問を頼まれまして、今必死に勉強している所です」
「それは大変だね!」
 
「高校時代とかスポーツはしてなかった?」
と訊いたのは、射水E高校の先生で、広丘さんと言った。
 
「高校時代は、してなかったんですが、中学と大学では水泳部に入っていて、大学時代は、インカレや国体に出ました」
「それはハイレベルだ!」
「じゃ運動神経はあるかな?」
「どうでしょうか。皆さんの足手まといにならないよう頑張ります」
 

挨拶代わりにと言われて、ランニングシュート5本、フリースロー5本、スリーポイントショート5本と言われる。そんなことしている内に、また1人、氷見市のH高校の高森先生が到着した。お隣の高校だ!
 
4人の先生たちの前で春貴はシュートをしたが、ランニングシュートは5本中4本、フリースローは5本中3本、スリーポイントシュートは1本だけ決めた。
 
「これだけ入れたら充分合格点」
と広丘さんに入ってもらい
「ありがとうございます」
と春貴も笑顔で答えた。
 
この日はシュート練習、ドリブル練習、パス練習の後、1on1をしたが、さすがに1on1はほとんど勝てなかった。
 
「やはり未経験者じゃ辛いよね」
「でも何度か抜いたね」
「ラッキーでした」
「慣れるともっと勝てるようになるよ」
「頑張ります」
 
最後に紅白戦をした。今日は出てきている人が10人で、5対5の交替要員無し!である。40分走り回ったが、なかなかハードだった。でも全員へばってないようで凄いと思った。春貴は2ポイントシュート3本と3ポイントシュート1本を決めることができて合計9点を取り
 
「結構頑張ったね」
と言ってもらえた(たくさんパスを回してもらった気はする)。
 
春貴は今日の練習を経験して、うちの部員たちにも1on1はやらせた方がいいなと思った。
 

5月5日(木・こどもの日・端午の節句・女児節!).
 
歩夢はまた夢を見ていた。歩夢は何かの工事現場に居た。
 
長いコンクリートの円柱のようなものが立っているが、それは機械によって地面に押し込まれて行っているようだ。ビルの基礎工事か何かだろうか。
 
15mくらいの高さがあったものが、どんどん地中に埋もれていく。そして最後は30cmくらい、円柱の頂上部が地面に露出しているだけになった。
 
女性の現場監督さんが、その少しだけ露出した頂上部を優しく撫でていた。歩夢はなんだか凄く気持ちがいい気がした。
 

5月6日(金).
 
H南高校女子バスケット部は、5月2日は部活をお休みにしたのだが、この日は最初の1時間化学実験室で、昨年のインターハイ女子決勝のビデオを見た。
 
「どちらも凄く強いですね」
「動きが速い。男子顔負け」
「背が高ーい。こんな選手にガードされたら、全ショット叩き落とされそう」
「あのシュートが入るって信じられない」
 
「まあこれが“日本”のレベルだよ」
と春貴は部員たちに言った。
 
「私たちは外国?」
「いや外国のチームはもっと強い」
「まあ“日本”行きの船に乗れる所くらいまでは頑張ろう」
 
「よし、みんな今日はシュート練習しよう」
と言って、部員たちは残り1時間、気合を入れてシュート練習をしていた。
 

5月6日(金).
 
千里1は10ヶ月ぶりにアメリカの地を踏んだ。アメリカの女子セミプロ・リーグ WBDA に所属するフィラデルバーグ・スワローズの事務所を訪問する。
 
「Hello, Victoria Here」
と挨拶する。
 
すると、チームメイトのティファニーが
「Oh! Victoria, I love you」
などと言って抱きついてくる。
 
キスはブロックした!
 
「Stop, Stop!! What's going on?」
「You are the 2nd girl this year」
 
つまり、今年ここに来た選手は千里が2人目だったようである。
 
うっそー!?既に7-8人は来ていると思ったのに!
 
あはは・・開幕までに5人揃うかなぁ〜〜?
 

毎年3割ほどのチームが脱退(というより消滅)し、新たに同数程度のチームが加入するというWBDA(旧WBCBL)であるが、2020年以降“選手が来米できない”ために参加チームが激減している。
 
WBDAは選手に報酬は支払わない。そのため、就労ビザを取らなくても選手になることができる。その逆転の発想で、世界中から“武者修行”したい選手が集まってきていて、それがリーグを支えていた。シーズンも夏におこなうので他国のリーグと兼任でここに参加しやすい。ところが、COVID-19で国境を越えた移動ができないため、選手が集まらず、参加不能になったチームが相次いでいるのである。
 
今年は参加を表明しているチームは今の所わずか10チームであるが、開幕までに選手が5人揃わず、開幕前にリタイアするチームが出る可能性もある。スワローズも今の所は全く予断を許さない!
 
むろん何とか5人揃ってリーグに参加しても5人ぎりぎりだと試合の日に誰か1人休むと不戦敗になる(ルール上は20-0で負け)。
 

5月6日(金・みつ) 16時。
 
優子と夏樹は、金沢市役所でパートナーシップ宣言をした。
 
1月28日に千葉市でパートナーシップ宣言をした時は双方ともウェディングドレスを着て、夏樹の兄姉なども出席したのだが、今回は単なる再宣言なので、2人とも上品なワンピース(お揃いのサンローラン:どちらがどちらのか分からなくなるが、どっちでもいいことにしている!)で、出席したのは、双方の両親だけであった。
 
夏樹の両親は、優子が千里に頼んで、Honda-Jetblackで往復運んでもらった。2人はビジネスジェットなど初めての体験で
 
「これ高くないのかね?」
などと言っていたが
 
「実は車で往復するのより燃料費は安いんですよ」
とパイロットのエリッサから聞いて驚いていた。
 
「何せホンダ製ですからね〜」
「やはり日本のメーカーって優秀なのね」
 
「お父さんたちも1機如何ですか?」
「これ、いくらするの?」
「6億円ですよ」
「きゃー!」
「ジャンボ宝くじ当たったら買えますよ」
「当たったら考えてみよう」
 
「でもあんた日本語うまいね」
「もう10年以上住んでますから。日本の永住権も持ってますよ」
「へー。凄いね」
 

この日は、パートナーシップ宣言の後、金沢の新居に入り、仏間・リビングをぶち抜いて距離を空けて座り、ホットプレート3枚で焼き肉をした。奏音がモリモリ食べていた(主としてウィンナーとか、ミニハンバーグとかチキンナゲットとか、の食べやすいものを狙っているが、お肉も結構食べていた。むろん野菜は食べない!)。
 
夜は夏樹の両親を2階中央の部屋(夏樹・優子・奏音が寝ている部屋の隣)に泊めた。南側の部屋だと、下が優子の両親の部屋なので、音を気にしなくていいように真ん中の部屋にしたのである。
 
この日、優子の両親は、高岡の実家にあった、優子と夏樹の布団を持って来ている。そして優子の両親がその布団に寝て、先日こちらで買った布団を客用として使い、夏樹の両親にそれで寝てもらった。
 
2階に案内された夏樹の両親は
 
「2階にお風呂があるんだ?」
と驚いていた。
 
「1階にもあるよ」
「凄い家だね。建てるの高かったでしょう。外見もおしゃれだし。優子さんのお父さん頑張ったね」
 
夏樹の両親は、優子の父がお金を出したと思っているようだが、そのあたりはあまり触れたくないので、スルーしておいた。
 

5月6日(金).
 
歩夢は、いつものように、不本意ながら学生服で登校したのだが
 
「あゆちゃん、なんでそんなもの着てるのよ。女子はちゃんとセーラー服着なきゃ」
と言われて、朝のSHR(ショート・ホームルーム)が始まる前に、女子更衣室に強制連行され、着替えさせられてしまった。
 
「叱られるよぉ」
「絶対そんなことは無い」
 
「あゆちゃんブラ変えたの?」
「うん。B65着けてる〜。でもカップがかなり余ってる」
「きっとすぐ余らなくなるよ」
「そしたらCかな」
「C〜〜!?まだ心の準備が」
 
「この時期の女の子って身体がどんどん“女”になっていくから戸惑いもあるよね」
「まあ慣れていくしかない」
 
「もやもやした時は女装するとスッキリするよ」
「ああ、女装って楽しそうだよね。私も一度してみたい」
「男もすなる女装というものを女もしてみんとてするなり」
 
この日、歩夢は丸一日セーラー服のまま授業を受けたのだが、注意した先生は皆無だった。この日は体育は無かったものの、トイレは友人たちが付き添ってくれて、女子トイレを利用した。
 
「あゆちゃん、普段は女子トイレ使ってるんでしょ?」
「うん。そうなんだけどね。だから実は学校でだけ男子トイレ使ってた」
「それはとてもおかしい」
「これからは学校でも女子トイレ使いなよ」
「いいのかなあ」
「問題無い、問題無い」
 

「何かトラブルあってはいけないと思って、外出時にはできるだけトイレに行かないようにしてたんだけど、ここ数日なんかトイレが近くなった気がして」
 
「ああ、それは女の子になったからだよ」
と花凛が言う。
 
「女子の方が男子よりどうしても、おしっこが近いよね」
「あれって、やはり尿道が短いから?」
「それプラス、尿道を管理してる筋肉が男のほうがひとつ多いかららしいよ。だから女は、おしっこを我慢できない」
「なんで多いの?」
 
「尿道が長いから、それを管理するのに1つ増やしたとか」
「いや、ひとつは射精用だよ」
「へー!」
 
「女は射精しないから、その筋肉は不要。でも、男はいざという時はその射精用の筋肉まで使って、おしっこを我慢する」
「目的外使用だな」
 
「だいたい、なんで男の子って、精液とおしっこが同じルート通るの?」
「あれ、おかしいよね。別ルートにして欲しいよね」
「賛成!」
 
「おしっこ通ってなくて精液だけなら安心して舐められるのに」
と花凛。
「舐めるって何を?」
と、ほとんどの女子。
 
「気にしないで!」
 
「男も、おしっこは女と同じ位置から出て、精液だけ、おちんちんの先から出ればいいんだよ」
とアカリが言う。
 
「それ神様に提案してみよう」
 

この日の昼休み、歩夢は
 
「体育祭のチアの練習に行こう」
と誘われた。
 
「私もチアするの?」
「去年もチアさせるべきだった」
とツバメは言っている。
 
それでチアリーダー用の短いスカートを穿き(上は体操服)、他の女子たちと一緒にチアの練習をした。自分が普通に女子として扱われることに、歩夢は感動していた。
 
「あゆちゃん、リズム感がいいから、ピタリと合わせられるけど、足があまりあがらない」
 
「ごめーん。運動神経悪いから」
「あゆちゃん、足も細いもんね」
「なんかモデルさんやアイドルになれそうなくらい細いよね」
 
「あゆちゃん200mのタイムは?」
「2分くらいかな」
「・・・・・」
「男子の800mのタイムと大差無い」
「私が歩くのより遅い」
「ごめーん」
 
「他の子が200m走る所を、あゆちゃんだけ100mでもいいな」
 
体育委員のツバメが体育の先生と話し、歩夢は体育祭の200mでは女子の最終組で走らせることにした。男子と一緒や、女子の途中だと、体育祭の進行に影響が出る!そもそも歩夢は体操服になると、かなり胸が目立つので、男子と一緒に競技させるのは問題がある。
 
「去年は1年生は100mだったから、待ってもらう時間もまだ少なくて済んだんだけど」
 

5月7日(土).
 
『北陸霊界探訪』の編集部に明恵と初海が特に用も無いのに来て、、おしゃべりしていたら、千里さんが来る。千里さんも特に用事は無いようだったが、友人がスペインに行って来たので、そのお土産というのでお菓子を頂き、お茶を入れて更におしゃべりは続く。
 
でも“スペインに行った友人”って本当は青葉さんのことでは?と明恵は思った。青葉さんは多分昨夜(5/6)くらいに日本代表の合宿でスペインに到着したはずである。
 
(このお菓子は実は“姫様”からもらった)
 
3人で話していた所に、幸花さんと真珠が戻って来た。
 
「(藤尾:旧姓青山)広紀さんの妊娠レポート撮影してきた」
「おぉ」
「見せて見せて」
と言って、みんなでそのビデオを見る。
 
「だいぶお腹大きくなってきたね」
「もうすぐ6ヶ月目に入る。一応8ヶ月目に入る7月頭から産休に入る予定」
「これだけお腹が大きくなっても、お仕事してるんだ?」
「今は内勤だけだからね。高所作業は免除」
「このお腹では高所作業はさせられませんよ」
 
「今のところ順調みたい。赤ちゃんも順調に成長しているって。これエコー写真」
「けっこうハッキリした形になってますね」
「もう充分人間になってるよね」
 

「でも、おしっこが近くて困るとかこぼしてた」
「子宮がこれだけ膨らめば、膀胱は相当圧迫されますよね」
「男性時代の倍、トイレに行ってる気がするって言ってた」
「まあ、そもそも男より女の方がおしっこ近いですからね」
「尿道の長さが違いますもんね〜」
 
「あれってどういう構造になってるんだっけ?」
「男の尿道は、女の尿道に、射精のための延長チューブを取り付けたものだね」
と千里さんは言っている。
 
千里さんは、パソコンで尿道図を表示させた。
 

 
男性の尿道図のように見えて、変な所にも尿道口があり、膣とかもあるし、恥丘という書き込みまであるのは何故だ?と思うが、取り敢えずスルーする。
 
でもそうか。恥丘は女のペニスなのかも。ペニスが無い代わりに女のパンティは恥丘で盛り上がるんだ!
 

「男性の尿道は、膀胱側から順に、前立腺部、膜様部(膜性部)、球部、振子部、亀頭部、に分けられる。この内、前立腺部から膜様部までを後部尿道、球部から亀頭部までを前部尿道という。女性の尿道はこの後部尿道の部分だけで、ここが尿道の基本。前部尿道は男性用オプションで射精用の延長尿道。男の娘はこのオプションを撤去してあげるの推奨。すると後部尿道だけになって女の子と同じ排尿になる」
 
「ああ、それは撤去してあげるべきですね」
と真珠が言っている!
 
「男の娘は立っておしっこしてはいけない」
 
「女性の前立腺=Gスポットはとても小さいので、女性の尿道には前立腺部が無く、膀胱から垂直に降りる部分はほぼ全部、膜様部になる。男性では尿道が前立腺を通っているから、加齢などにより前立腺が大きくなると尿道を圧迫して排尿障害を起こす。しかし前立腺を手術により除去した場合、今度は締まりが緩くなりすぎて尿失禁を起こしやすい」
 
「加減が難しい」
 
「元々膀胱より下の直下していく尿道部分には外尿道括約筋があるんだけど、男性は前立腺があるために、その括約筋が女より短い。だから前立腺が無くなると、男はおしっこを我慢しにくくなる」
 
「男は不便ね」
 
真珠は、自分や明恵の外尿道括約筋は女の長さなのだろうか?それとも男の長さなのだろうか?と疑問を感じた。性別を訂正する時の医学的検査では、前立腺が存在しないとは言われたけど。
 

「球部というのは、男性の陰茎根元より内側の体内、恥骨までの部分のことで、女性では前庭球に相当する」
 
と千里は説明するが、たぶん幸花以外は“前庭球”って、どこだろう?と思っている。
 
「膀胱側の入口の所、つまり内尿道口の所に、内尿道括約筋、そこから真下に降りてきた所に、外尿道括約筋がある。そして球部尿道の所には球海綿体筋がある。この球海綿体筋は、男性の場合は尿道球部に添って存在していて、射精を司る、女性の場合、この筋肉は前庭球と大前庭腺:別名バルトリン腺を覆っていて“感じた”時に収縮してバルトリン腺液を放出させる」
 
「それが女の射精ですね」
「同じ仕組みだと思うよ。でも女性の場合、この筋肉は尿道とは独立している。それで女性は筋肉がひとつ少ない分、おしっこを我慢できない」
 
「なるほどー」
 
「ま、そういう訳でイギリスでは、妊婦は警官のヘルメットの中におしっこをしてもよい、という法律がある」
 
「何ですか!?それ」
とほぼ全員が声を挙げた。
 
(幸花だけがこの話を知っていたようだった)
 
なお、真珠は千里が表示した図をUSBメモリーにコピーさせてもらっていた!
 

5月7-8日は、遙佳・歩夢の姉妹は父のレストランでウェイトレスに調理係にと大忙しだった。
 
ゴールデンウィークの最後だけあって、美術館に来るお客さんもレストランへの来客も多かった。美術館でケーキ付きの観覧券を希望するお客さんも多いので、珠望は何度も、レストランから美術館へケーキを運んだ。
 
ケーキはレストランの調理スタッフ(パート)の女性2人で作っている。ひとりは井原さんという推定55歳くらいの女性。スポンジケーキが得意で、オーソドクスな作品が多い。まず失敗作が無い。もうひとりは高野さんといって40歳くらいの女性。若い頃、横浜の洋菓子店で修業したらしい。その内自分のお店を持ちたいと言っている。ムースケーキが得意で意欲的な作品が多い。当たり外れがある!
 
このケーキ作りには、遙佳・歩夢もよく助手として動員されている。
 

「へー。娘さんが帰ってくるんですか?」
と遙佳たちは井原さんに言った。
 
「娘の夫は、コロナでリモート勤務が多くなったのを機に思い切って独立して、それまで居た会社だけでなく、コネのある会社の仕事まで受けて稼いでるらしくて、アウトケチャップとかいうらしいけど」
 
アウトソースかな?と遙佳は思った。
 
「それでリモートだから、ネット環境のある所ならどこでもいいとかで、ちょうど住んでいたアパートがマンションに建て替えるから退去してもらえないかと言われて、引越代+立退金とかも出るということだったから、いっそS市に移住しようということになったらしい」
 
「へー。確かにネットがあったら、どこでもいいでしょうね」
「これからはきっと、都会への極端な集中は無くなりますよと婿さんは言ってた」
「そうなるかも知れないですね」
 
「それで前いた会社の退職金、コロナ以降で稼いだお金に、もらった立退金をあわせて、S市に土地を買ったけど、あまりにも安いから1桁読み違ったって」
 
「確かに都会とは土地の値段が1桁2桁違いますよ」
「坪単価で書かれているのを平米単価かと思う人もいるよね」
 
「それで今から家を建てて、あまり混雑しない9月頃に引っ越してくるって」
と井原さん。
 
「そんなに短期間に家が建ちます?」
と高野さんが訊く。
 
「軽量鉄鋼工法とかで、3ヶ月あれば建つらしいよ」
「へー。速いですね」
 
きっと、軽量鉄骨工法だよね、と遙佳は思った。
 

5月8日(日)は、中学生の歩夢が18時、高校生の遙佳が21時であがった。それでこの日は、先に歩夢がお風呂に入ることになった。
 
休みの後、明日から学校なので、タックをし直すことにした。それで歩夢はレストランから帰ったらすぐにタックを解除した。
 
普段隠れている男の子固有の器官が露わになる。
「嫌だなあ。これ早く無くしたーい」
と、憂鬱な気分になる。
 
でも・・・
 
なんか短くなってない!?
 
女性ホルモンの影響かなあ。でも短くなるのは歓迎だ。短くなって、自然消滅とかしてくれると嬉しいのだけど。
 
この状態でお風呂に入ってよく洗い、上がってから少し乾かし、夜中0時頃にタックをしてから寝た。
 

歩夢のペニスはその後、明らかに毎日短くなっていった。歩夢は見る度にドキドキしていた。これ本当に自然消滅するかも!?これまで歩夢はタックは、やり直すのは大変なので、だいたい日曜日にしっかりと掛けて、その後は毎日補正だけをしていた。しかしこの一週間は、毎日解除してペニスの長さを測り!それからまた掛けていた。
 
5/9 34mm 5/10 29mm 5/11 24mm 5/12 18mm 5/13 12mm
 
何かもう既に少し大きめのクリトリスサイズという気がする。
 
記録を見ると、だいたい毎日5-6mmずつ短くなっている。これだと明後日までには消えるかも!?
 
何か嬉しい!でも夢みたい。
 
ただ、歩夢には困った問題があった。
 
タックではペニスを後方に曲げて、その先から排尿するようにしているのだが、ペニスが短くなってきたことで、その発射点が、少しずつ前に来ているのである。おしっこが前の方から出るので、便座に座る時にできるだけ後ろに座ってから発射しないと、便座や時には床を濡らしてしまう。
 
それでここ数日、歩夢はおしっこする時に、気が抜けないのである。
 

5月9日(月).
 
H南高校の女子バスケ部がいつものように旧美術室での練習を終えて“終わりのジョギング”をしていたら、いつも「売地」の札が下がっていた、焼肉屋さん跡の所の「売地」の札が外され、ロープも外されていた。
 
「売れたのかな?」
「何かお店でもするんでしょうかね?」
「何ができるか楽しみだ」
「コンビニとかできるといいなあ」
「うちの学校の生徒ばかり来てたりして」
「いや、実際それ以外の需要があるとは思えない」
「ここ、車もあまり通らないしね〜」
 
古い店舗は、翌々日(5/11)には撤去されていた。
 
「解体工事早いね」
「結構大きなお店だったのに」
「解体爆破とかしたんだったりして」
 
「あれ、日本でも本格導入すべきだと思うなあ」
 

5月7日および10日、
 
フランスLFBのプレイオフ、準々決勝が行われ、千里(千里2B)が所属するマルセイユは2連勝で準決勝に駒を進めた。
 

5月12日(木).
 
この日は午後から雨になった。
 
H南高校女子バスケット部は、放課後、春貴のキャラバン(この車は高校の構内に駐めさせてもらっている)に、8人の部員と愛佳の母の10人で乗って、火牛スポーツセンターに行った。簡易検査キットによる陰性確認の上で
 
「今日はシーガルをお使いください」
と言われた。
 
「シーガル?」
「換気の良い北体育館が一部完成しているので、そちら優先で割り当てることになったんですよ」
 
と言われ、地図をもらった。
 

 
後列:フェニックス、サンダーバード、ロプロス(伝説?の鳥)
中列:イーグル、ファルコン、ホーク(猛禽)
全列:シーガル、スワン、スワロー(特急列車??)
 

「ああ、部分的に使えるんですか!こないだ基礎工事してたと思ったのに」
「播磨工務店さんの仕事は早いですから」
 
それで地図を見ながら行くと、火牛スポーツセンター外周の道路の北側に体育館がいくつか並んで建っているのを見る。
 
現在建っているのは手前に3個とその向こうに作りかけと思われるもの1個である。地図と照らしあわせると、手前の完成した3つがシーガル、スワン、スワローで、スワローの向こうに建築中なのがホークのようである。
 
「なるほどー。ひとつひとつの体育館を独立して建てることにより、換気を良くしたのか」
と、春貴は運営側の意図が分かった。
 
「これは観客を入れて見せるための施設ではなく、純粋に練習のための施設ということなんでしょうね」
と愛佳の母が言う。
 
「でも採算取れるんですかね?」
と舞花が心配している。
 
「ここのオーナーさんは、お金が減ることが好きだから」
と春貴が言うと
 
「はぁ!?」
とみんな訳が分からないようだった!
 
(実際にはこの“北体育館”を建てているのは“お金が減ることが好き”な若葉ではなく“体育館作りたい病”の千里である!)
 

ともかくも、春貴たちはカモメの水兵さん!の絵が壁に大きく描かれた体育館"Seagul"(シーガル)に入った。
 
体育館は二重構造になっていて、外壁と内壁の間に幅2mほどの通路がある。基本的には内壁の窓は全て開放しておき、換気を良くするが、外壁のお陰で騒音は外には漏れないという、火牛アリーナ本館と同じ方式である。通路奥に向かう風があるので。通路の奥で吸引して強制的な空気の流れを作っているようである。
 
内壁の内部にはバスケットコートが1つ取られているが、その外側の余裕から見て、体育館内部の広さは21m×38mくらいだろうか。
 
「うちの第2体育館と似たような広さだ」
「練習にはこれで充分だよね」
「体育館を共用せずに使おうとすると、このサイズで造るのがいちばん上手いかもね」
「でも床が平らだというのは素晴らしい」
 
それでこの日は最初の20分、敵選手に見立てたコーン(道路工事などの所で置いておくやつ:春貴が持参)を交わしてドリブル走する練習をして、その後、40分間、紅白戦(4人対4人)をした。試合は先月24日の大会3回戦以来18日ぶりなので、みんな楽しくプレイしていた。
 
春貴も審判として40分間走り回った。
 
(ルールの勘違いを数回、愛佳たちに指摘された!まだまだ大会の審判などをするのは無理っぽい)
 
帰りは愛佳の母の運転で氷見に戻った。選手たちも春貴も寝てた。
 

千里のグラナダの家での日本代表長距離組の練習は続いていた。STスイミングクラブ所属の2人は
 
「24時間、しかも独占レーンで泳げるっていいね」
と感動していた。
 
テンガについては(男子の部屋では)置き場所から1個取ると、自動的にエアシューターみたいなの(昔のラブホテルに会計用に設置されてたみたいなもの?)で新しいのが運ばれてきて補充されるので、2人ともかなりハマってしまいつつあった。
 
「俺、これが癖になったら、もう女を抱けないかも」
などと不安を感じるほど気持ち良かったらしい。
 
(ちなみに筒石は毎晩マラとセックスしている!きっと姿を消してこっそり付いてきていたのだろう。千里も黙認して、筒石の部屋には食事を2人前配送させていた)
 

ある日、夜中に山先が泳いでいたら、突然足が吊った。
 
「うっ」
と思い、言われていたように背泳に切り替えようとするが、足が痛くて身体の姿勢をうまく制御できない。
 
やばっ!
 
と思ったら「ビーーーーー!」と大きなブザーが鳴る。他のレーンで泳いでいた、筒石とリルが泳ぎを中断して「何?」と声をあげる。リルは端の近くに居たので、少し泳いでプールから出た。
 
そして、テンプラを油から上げる時に使う網みたいなのに載せられて山先さんがプールから引き上げられるのを見た。遅れて、そのレーン全体で網があがってきた。
 
「大丈夫ですか」
「うん。お陰で。しかし凄いシステムがあるね」
 
「どうしたの?」
と立ち泳ぎの状態でこちらを見ている筒石が尋ねる。
 
「足が吊っちゃって。でも、もがいていたらブザーが鳴って、これで引き上げられた」
 
「監視AIが作動したんでしょうね」
とリルが言う。
 

そこにメイドのクリスティーナが駆けつけて来た。
 
「Some trouble?」
 
「足がつったって英語で何というんだっけ?」
「Got a crampかな」
「それ」
 
「Please Rest a while」
と言ってクリスティーナが網の上を歩いて彼を助けに行こうとしたが、その前に筒石が寄ってきて、彼女を制して網に乗り、助けに行く。そして山先の肩を支えてプールサイドまで連れて来た。
 
「いったん上がって少し仮眠でも取るといいよ」
「そうしようかな」
 
「でもここが凄く安全な練習場だというのがよく分かった」
と山先は言っていた。
 

5月14日(土).
 
朝、また歩夢は夢を見ていた。
 
ビスクドールが出て来た。この子は4月24日朝の夢に出て来た子だ。
 
「プリエール・ヴィエルジュちゃん?」
「うん」
と彼女は笑顔で返事をした。
 
「あゆむちゃんの身体、もうほとんど女の子になってるよ」
「なんかそんな気がした」
「このまま女の子になっちゃう?それとも男の子に戻りたい?」
「男の子には戻りたくない」
「だったら、もう女の子になっちゃう?決めるのは、あゆむちゃん自身だよ」
 
「女の子になりたい」
 
「本当にいい?今ならまだ戻れるけど、もうこの先は後戻りできないよ。後悔しない?」
 
歩夢は少しだけ考えた。
 
でも言った。
 
「後悔しない。私、女の子になりたい」
 
「そう?だったら、きっと1ヶ月ほどの内には、完全な女の子になるよ」
 
プリエール・ヴィエルジュは、歩夢に、そう告げると微笑んだ。
 

そこで目が覚めた。
 
歩夢が夢の余韻に少しぼーっとしていたら、また地震があった。
 
ほんとに多いなあ。
 
でも、私。後悔したりしないもんね。私、女の子になるんだ!
 
お母ちゃんに叱られるかも知れないけど、男にはなりたくないもん。
 

その日の夜、タックを解除してみたら、ペニスはもう5-6mmサイズになっていた。
 
これもうほぼクリトリスだよね?
 
私、ちんちん無くなっちゃった!
 
もう私、女の子でいいよね?
 
それでお風呂に入ってから、あの付近を洗っていた時、指が何かに引っかかる。
 
ん!?
 
陰嚢皮膚(玉が無いので身体に貼り付いている)の少し後ろのほう、自分では見えない付近に、何か穴のようなものがあるのである。もちろん肛門ではない。肛門はもっと後ろにある。
 
何だろう?と悩んでいた時、琥珀の声が聞こえた。
 
「それヴァギナだよ」
「うっそー!?私にヴァギナができたの!?」
「今夜からは寝る時、パンティライナー着けててね。昼間も」
「ヴャギナがあるなんて、まるで女の子みたい」
「あゆちゃんは、既に女の子だと思うけど」
 
そういえば、今朝、私、プリエール・ヴィエルジュに「私女の子になりたい」と言ったんだった。だから早速、女の子の器官ができちゃったのね。だけど、割れ目ちゃんとかは無いの!?
 
などと思ったら、琥珀がくすくすと笑った気がした。
 

ペニスが事実上消滅したので“タック”作業は単純に陰嚢皮膚を伸ばして折りたたんで割れ目ちゃん風にするだけの作業で行けそうだ。凄く楽になりそう、と思ったが、このクリトリス(と思うことにした)を疑似割れ目ちゃんの下に隠してしまうと、おしっこの向きが制御できないことに気付く。
 
少し悩んだ末、タックはしない!ことにした。そして、クリトリスを指で押さえて、おしっこの向きを制御するしかないと思った。ただ、これだとみんなの前に、裸を曝せない。もっとも裸を曝すこと自体が異常だけどね!
 
(あの時以降は、みんなの前にお股を曝したりはしていない。パンティを交換する時は壁を向いて交換している。みんな一度、自分が女の子であることを確認したので満足した模様)
 
でも歩夢はその晩から、ショーツにパンティライナーを着けて穿くようにした。物凄く女の子の気分になった。朝起きると少し汚れていたので交換し、汚れたパンティライナーは丸めて包装紙に包み、汚物入れに捨てた。
 
なお、歩夢は自分のナプキンとパンティライナーは、古いレッスンバッグに入れてビニールロッカーの端に掛けている。またポピアで買った生理用品入れにパンティライナー2個とナプキン1個を入れて、生徒手帳や財布を入れているミニトートに入れ、いつも持ち歩いている。
 

翌日(5/15 Sun).
 
朝起きてからトイレに行き、昨日と同じようにクリトリスを指で押さえて、おしっこの向きを制御しようとしたら、おしっこはクリトリスではない所から出た。
 
え?
 
おしっこが終わって、トレペで拭いてから確認すると、尿道口がクリトリスより少し後ろのほうに移動していることに気付く。
 
そうか。女性化が進行しているんだ!女の子はクリトリスからはおしっこしないもんね!(←双葉より女の構造に詳しい)
 
でもこの位置からおしっこが出ると、おしっこの飛ぶ方向の制御が難しい。少し試行錯誤が必要な気がした。
 
またこの日は少しお腹が痛い気がした。天候が不安定だから、寝冷えしたかなあ、と思い、この日は部活を休ませてもらって、授業が終わったらそのまま帰宅した。
 

5月16-17日(月火)。
 
歩夢の尿道口は毎日少しずつ後ろに移動した。17日になると、便座に普通に腰掛けておしっこができるようになったし、おしっこするのに、全然ストレスがなく、おしっこが身体から真下に落ちて行くのに近い感じになった、
 
男の子のおしっこは“出す”もの。女の子のおしっこは“出る”もの、って誰か言ってた気がするけど、尿道が短かくなって、きっと女の子感覚に近づいてるんだ、と歩夢は思った。
 
お腹の傷みはどんどん酷くなった。明日休んだほうがいいいのかなあ、などと思ったら、琥珀の声が聞こえる。
 
「休む必要は無いよ。でも今夜はナプキン着けて寝なよ」
「ナプキン!?」
「明日の朝になれば分かる」
 
まさか!?
 

5月18日(水).
 
歩夢はまた夢を見ていた。道を歩いていたら、急に雨が振ってきた。傘を差して歩くが、道に水があふれ、まるで池の中を歩くような感じになる。そしてとうとう鉄砲水みたいなのが来て、歩夢は水に流されてしまう。
 
「きゃー」と思っていたら、目の前に人形美術館がある。歩夢は必死で泳いでそこに辿り着いた。
 

「入って入って」
と言って、姉の遙佳が、手をつかんで歩夢を中に入れてくれた。
 
「助かったぁ」
「雨が止むまでここで休んでなよ」
「うん」
「着替えるといいよ。私の服、貸してあげる」
「ありがとう」
 
それで、歩夢は服を脱いで、渡されたバスタオルで身体を拭く。バスタオルの長い辺の両側に半円形の羽根が付いているので、変な形!と思った。
 
姉が言う。
「あんた、ちんちんどうしたの?」
 
「無くなっちゃった」
「包丁か何かで切ったの?」
「縮んでって無くなった」
「無くなるもんなの?」
「男の娘は13歳になったら女の子に進化しないといけないんだよ。私、ヴァギナもできたよ」
 

「へー。あんた、すっかり女の子になったね」
と、姉は言った。
 
「えへへ。私、女の子になっちゃった」
と歩夢も笑顔で言う。
 
「でも女って出産は凄く痛いよ」
「私、頑張る!」
 
「でも残念だ。あんたのちんちん切ってあげようと思ってたのに」
と言って姉は刃渡り30cmくらいの巨大なハサミをかちゃかちゃさせている。なんか電動ドリル?みたいなのも持ってる。
 
「広詩のちんちん切ってあげようかな」
「広詩はちんちん切られたら泣くと思う」
「泣いて感動するのね」
 
「そのドリルは何するの?」
「お嫁さんになるのに必要な穴を開けてあげる」
「痛そう」
 

「でもこの美術館大丈夫かな」
「2月に、お人形さんたちのバルコニー作る時に、壁の強化工事してるから、たぶん持ちこたえると思う」
「持ちこたえてほしいね」
 
と歩夢は遙佳と会話をした。
 

そこで目が覚めた。多数の天使たちが
「Welcome to the woman's life」
と言っているような気がした。
 
歩夢はお股付近を確認した。レッスンバッグから替えのナプキンを取るとトイレに行く。ナプキンは真っ赤になっていた。
 
「とうとう生理が来たんだ。私、ほんとに女の子になっちゃった」
 
それで先日からパンティライナーでしているようにナプキンを交換し、血が付いたナプキンは丸めて包装紙に包んだが、これだけでは足りないと思い、更にトイレットペーパーで包んでから汚物入れに捨てた。
 
琥珀の声が聞こえた。
「これであゆちゃんも、一人前の“女”だね」
「生理辛いけど、すごく嬉しい」
「お赤飯のおにぎりでも買ってく?」
「それもいいなあ」
「それと、今着けてるナプキンは軽い日用だから、今日はそれでも何とかなるけど、明日はもちこたえきれない。多い日用を今日中に買っておきなよ」
 
「きゃー。明日はもっと多いの?」
「生理は2日目・3日目が最も量が多いから」
「女って大変なんだね」
「君は女になることを選んだから、この先40年くらい、これに付き合っていかないといけないよ」
 
「私、頑張る」
「うん」
 

「それから、女性ホルモンはもう飲む必要無いよ。体内の卵巣から女性ホルモンは出ているから」
「私、卵巣あるの?」
「生理があるということは、卵巣・子宮があるということ」
「そうだったんだ!」
 
「あゆちゃん、はるちゃんに言われて5月3日までで女性ホルモン飲むのをやめた。女性ホルモンを飲んでた間は、ピル飲んでるのと同じで、排卵が抑制されていたけど、やめたので5月4日に排卵が起きた。それで14日後の今日18日、月経になったんだよ」
 
「・・・・・」
 
歩夢は琥珀の言葉が完全には理解できなかったので、生理のこと、少し勉強しよう、と思った。
 
「あと、はるちゃんもしてるけど、自分の手帳のダイアリーで、生理が起きた日の所にシールとか貼っておくといいよ。それで次の生理予定日の見当が付くから」
 
「そうする!シール買って来なくちゃ」
 
ということは、今日の学校の帰りには、ナプキン多い日用、シール、お赤飯のおにぎり、おやつのチョコ(←なぜ?)を買わなくちゃ。
 
「あと、お金に余裕があったら、生理用パンツもね」
「・・・買っておこうかな」
 

なお、歩夢の尿道口は昨日より更に後ろに移動していた。だぶんここが終着点のような気がした。おしっこが出る感覚は、昨日より更にストレスフリーで、まさに“落ちて行く”感じだった。
 
歩夢はもうトイレの時に座る位置で悩んだり、前屈の姿勢を取ったりする必要は全く無くなった。
 
その日、歩夢は、生理が辛いけど来たのが嬉しいので、ナプキンを10個袋に入れてから(←さすがに多すぎ)スポーツバッグに入れ学校に行った。
 

その日『霊界探訪』の編集部には、初海・双葉・真珠の3人が来ていた。
 
「でも男女の生殖器って、大きく違うように見えて、実は同じ物ってのがありますよね」
と双葉が言う。
 
「あれは結構対応してるんだよ。少し形が違うだけ」
 
と言って、真珠はホワイトボードに書き出した。
 
卵巣−睾丸
卵管−精管
子宮−前立腺小室
Gスポット−前立腺
スキーン腺−精嚢
膣−射精管
バルトリン腺−カウパー腺
陰核亀頭−陰茎亀頭
陰核体部−陰茎海綿体
大陰唇−陰嚢
小陰唇−陰茎皮膚・尿道海綿体
前庭球−球部
 
※対応については論者により結構差違がある。上記はあくまでひとつの説。
 
射精管というのは大雑把に言うと、精嚢から前立腺内の尿道との合流部につながる管。前立腺小室というのは前立腺内にある小さな嚢である。男性子宮と呼ばれることもある。希に発達して本当に小さな子宮状になっている人もある。
 
発生的には、原始性腺の外側の皮質が発達すると卵巣になり、内側の髄質が発達すると睾丸になる。ごく希に、片方の性腺は皮質が発達し、片方の性腺は髄質が発達した結果、卵巣と睾丸を1個ずつ持つ人もある。
 

「陰核体部って何ですか?」
と双葉が訊く。
 
「男のちんちんはデカいのに女のちんちんは小さくて不公平だと思ってる女は多いけど、実は女の身体の表面に出ているのは、陰核の先端部分だけなんだよ」
「へ?」
 
「一般的にクリトリスと呼ばれているものは、実は男のちんちんでいえば亀頭部分にすぎない。その下の体内に、実は10cmほどの長い陰核本体が隠れている」
 
「うっそー!?」
「だから実は陰核は陰茎と同じくらいの長さがある。それが男のペニスの“陰茎海綿体”に相当する部分」
 
「知らなかった」
 
「ちなみにペニスは1本に見えるけど実は3つの海綿体が皮膚でまとめられているだけ。上側に左右の陰茎海綿体、下部に1本の尿道海綿体。陰核体部は実は左右2本に分かれている。男の陰茎海綿体が実は左右2本あるのと同じ。でも女だと男の尿道海綿体に相当するものも左右に分かれて小陰唇になっている」
 

「私、女の構造を知らなかった」
「クリトリスからおしっこが出てくるとか思い込んでいる女の子さえ居るからね」
 
「え?おしっこの出てくる所がクリトリスじゃないんですか?」
「・・・・・・・・」
 
「自分の身体を鏡とかに映して、よく観察してみなさい」
「うーん・・・」
 
「まあ女の生殖器って、男に比べて後ろの方にあるから、ほんと鏡とかでも使わないと見えないもんね」
と初海が言っている。
 
「現在の性転換手術では、男を女にするのに、ちんちん切っちゃうけど、本当は切除せずに体内に埋め込んで先端だけ露出するようにした方が、より天然の女の形に近くなる」
と真珠は言う。
 
「40-50年後には、そういう術式になってるかもね」
 
そこにカメラマンの森下さんが入ってきて、ホワイトボードを見てギョッとしていた。真珠は慌てて消した。
 

5月17日(火).
 
この日は曇で時々小雨がちらつく天気だった。H南高校女子バスケット部は、今月2度目の火牛体育館での練習を予約していた。。
 
今日は翼竜っぽい絵が描かれた体育館“ロプロス”を指定された。現在体育館は9つの内の5つが完成しており、現在、ホークの隣にファルコンが建築中のようである。その後、イーグル・サンダーバード・フェニックスを建築するのだろう。
 
「フェニックスって不死鳥で、サンダーバードって雷鳥ですよね?ロプロスってどんな鳥でしたっけ?」
 
「なんだっけ?」
「インドかどこかの伝説の鳥ですかね〜」
と、みんな首をひねっていた(*14).
 
「サンダーバードだけ実在の鳥?」
 
「いや。特急列車のサンダーバードは雷鳥を直訳したものだけど、本来のサンダーバードというのはアメリカ・インディアンの伝説の鳥だよ」
「あ、そうだったんですか」
「人形劇のサンダーバードはそちらが語源」
「へー」
「雷鳥は英語ではプターミガン(Ptarmigan)」
「難しい名前だ」
 
(*14)“ロプロス (Ropross)”は横山光輝『バビル2世』に出てくる“3つのしもべ”のひとつ“怪鳥ロプロス”。あと2つは、巨大なロボットの形をしたポセイドン (Poseidon) と、黒豹のロデム (Lodem)。ロデムは人間の女性の姿になっていることもある。
 
この作品は2度アニメ化されている。1973年版(テレ朝19時/富山では北日本放送で放送されている)はむろん誰も知らない。2001年版は愛佳の母なら知っていてもよい年代だが、テレ東の深夜枠での放送だったので、そもそも気付かなかったか、男性向けのアニメで興味が無かったか。もしかしたらそもそも富山では放送されなかったかも:この件は調査困難。
 

この日は初めて1on1の練習をした。この練習では五月が最も優秀なところを見せていた。美奈子もセンスはあるのだが、根本的にドリブルがあまり上手くないという問題があり、せっかく抜いたのに自分でドリブルを失敗してボールが転がっていったりというのもあった。
 
「ビナは相手を抜いたらすぐパスすべきだな」
「すんませーん」
 
後半の30分は紅白戦をした。大会直前のいい練習になった。
 
「なんか練習時間があっという間に終わってしまう」
「往復で1時間掛かるからなあ」
 
「もうちょっと近くで練習できたらいいんですけどねー」
「近くで使える体育館が無いんだよねー」
 
氷見市内の体育館全部電話を掛けまくったのだが、学校の放課後時間帯は全部先々まで予約が埋まっていて使えないようであった。午前中なら空いている曜日もあるのだが、部活では使えない。
 

5月20日(金).
 
19:58、S市では震度3の地震があった。
 

5月21-22日(土日).
 
優子の両親が金沢の新しい家に引っ越した。
 
それまでの間に、一部の荷物は少しずつ運んでいた。一方で衣類、食器、書籍などの梱包作業も進めていた。そして21日に引越屋さんの手で、全ての荷物を運搬してもらった。
 
両親関連の荷物は和室に入れたが、一部の荷物は2階の真ん中の部屋にも搬入してもらった。取り敢えず2階真ん中の部屋は物置状態になった!1階の仏間に入れてもらう手もあったのだが、自分たちで後から移動する時、1階から2階に移動するより、2階から1階に移動する方が楽なので、引越屋さんには、大変で申し訳無かったが2階に入れてもらった。
 

高岡の家の荷物を運送屋さんのトラックに載せ、出発してもらった後、優子と両親は御近所さんに挨拶して回った。
 
「金沢に引越ですか!」
「娘の婿さんが金沢に家を建てたので、そちらに私たちも一緒に引っ越すことにしたんですよ。長らくお世話になりました」
 
「この家はどうなさいます?」
「売りに出そうかと思っているんですけどね。古い家だから崩して更地にしないと売れないかなあ」
 
「いくらでお売りになります?」
「500-600万で売れたらいいけど、まあせいぜい300-400万かなあ」
「300万なら、うちに売ってくれません?」
「え〜〜!?」
 

あらためてお宅にあげてもらい話をしたら、大阪に行っていた息子さんが富山市出身の女性と結婚し、子供も生まれたので、会社に頼んで富山支店に転勤させてもらい、こちらに戻って来ることになっているらしい。しかし今の家は狭いので、近くに取り敢えずアパートでも借りようかなどいう話をしていたらしい。
 
「でもあまりいいアパートが無いんですよ」
「富山県は持ち家志向が強いですからね」
 
それで数回に渡って話し合った結果、この“古家付き土地”を400万円で隣家に売ることで話がまとまった。
 
実際の売買は司法書士さんに書類を作ってもらい、念書も交わした上で、7月のボーナス後に現金で売買することにした。息子さんたちが戻ってくるのは8月のお盆の後らしいので、その前に取引が成立すれば、すぐ住めることになる。
 
家は府中家側の責任で、畳の表替えと襖の張り替え、トイレの便器交換などを行うことにし、そのあたりの整備費用相当額として、最初言っていた300万円に+100万円したのである。業者さんに見積もってもらったら税込み50-70万程度と出ていたので余裕を見てこの金額にした。先方は手付金として即50万円払ったので、優子の父は、それでハウスメンテ業者さんに作業を依頼した。
 

青葉は千里姉に尋ねた。
 
「筒石さんはさ、これまで自分が住んでる部屋を酷く汚す傾向があったんだけど大丈夫かな?」
 
「あの別棟はユニット工法だからね。筒石さんが退去したら、そのユニットを取り外して新しいユニットを填め込めばいい。全く問題無し」
 
「ちー姉、悟りきってるね!」
 

5月21日(土).
 
歩夢が通うN中学では体育祭が行われた。遙佳は朝、歩夢の部屋に入ってきて言った。
 
「これ私の古いウィンドブレーカーだけど、“世界の平和のために”登下校する時とお昼休みにはこれを着てなさい」
「うん」
 
それで歩夢は体操服上下の上にウィンドブレーカーを着て、朝御飯に出て行き、そのまま登校した。学校ではウィンドブレーカーは腰に巻いてスカートっぽくしておく(歩夢はこの格好も堂々とスカートを穿いている気分になれて好き)。校庭に出て、クラスの位置に就いたところでウィンドブレーカーは畳んで自分の席に置く。
 
早速チアのスカートを穿いて、自分の出番以外では前に出てチアをしていた。
 
歩夢が出るのは、2-3年“女子”200m、団体競技のピンポンリレー(男女混合)、そして午後のマスゲームである。また昼休み明けには吹奏楽部の演奏がある。
 
200mでは、2年生女子の最後に走って、しっかり最下位だった。ピンポンリレーでは男女交互に並ぶ。本来歩夢のクラスは男子18人・女子16人なのだが、体育委員の2人は歩夢は女子として並べた。おかげでこのクラスはきれいに男女が交互に並んだ。
 
歩夢はお昼は姉に言われた通り、ウィンドブレーカーを着て、母・姉・弟の所に行った(父はお店があるので来られない。祖父もヘルプで行っている)。
 
「あんたどこに居たか分からなかった」
と母は言っていた。
 
まあ男子の中には見付からないかもね。母はそもそも近眼だし!
 
それでごくごく平和にお弁当を食べてから
 
「吹奏楽の演奏があるから行くね」
 
と言って、姉に持ってきてもらっていたフルートを持つと、12:40くらいに集合場所に向かった。もちろんセーラー服に着替えて演奏した。(フルートは終わった後はまた姉に持ち帰ってもらった)
 
午後のマスゲームでは、ヒバリから「こっちおいで」と言われて、女子たちと一緒に演技した。
 
歩夢は体育祭が終わった後は、またウィンドブレーカーを着て帰宅した。
 
 
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【春歩】(3)