【東風】(5)

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その日、龍虎Fは午前中の仕事を終え、Mと交替して転送で代々木のマンションに戻った。何か適当なもの無いかなと思って冷蔵庫を開けると、昨日の誕生会の料理が結構余っている。
 
これでお昼御飯にしようと思い、早めに食べた方が良さそうなポテサラを小鉢に盛る。御飯は冷凍があるのでチンする。チンしている間にケトルでお湯も沸かす。
 
龍虎の家ではごはんは炊いたら食べる分以外は即冷凍しておく。余った分も即冷凍する。いつ帰ってこられるか分からないのでジャーでの保温はしない。
 
ごはんの解凍が終わると、フライドチキンも2個、パイロセラムの皿に入れて電子レンジに掛けた。ケトルが沸いたので烏龍茶をティーバッグで入れる。
 
それでお昼御飯をひとりで食べていたら、裸!の彩佳が出てくるからびっくりする。来てたのか!?
 
「お帰りー。早かったね」
「いや。時間が空いたから、お昼食べに戻って来ただけだよ。ごめん。自分の分だけチンしちゃった」
「うん。いいよ。私も適当にチンしよう」
と言って、シチューを少しパイロセラムのミルクボウルに取って温めている。ごはんはチンせずにパンを食べるようで、冷凍室から1枚食パンを出して、オーブントースターで焼いている。
 
「でも大学はいいんだっけ?」
「夏休みに入ったよ」
「ああ、夏休み!」
「9月下旬までは夏休み。バイトでもしたいけど、お母ちゃんがやめとけって言うから、お勉強してる」
「それがいいかもね」
と言いつつ、ということはこれから1ヶ月くらいは昼間も安心してここで休めないのかと龍虎Fは思う。
 
「あ、そうそう。これ、お誕生日のプレゼント渡すの忘れちゃった」
と言って彩佳は龍虎に可愛い金色のイヤリングをくれた。
 
「ありがとう。これ高そう」
「千里さんのお陰で家賃は月1万で済んでるから、奨学金にゆとりがあるのよね」
「なるほどー」
 
それで早速つけてみる。
「可愛い」
「可愛いね。やはり龍ってこういう派手なの似合うみたい。お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 
それで結局彩佳は裸のまま!お昼を食べてから
「私まだ少し眠い。寝てるー」
と言って、Mの部屋に引っ込んでしまった。
 
なるほどねー。Mが眠たそうにしてた訳が分かったとFは思った。
 
でもこのイヤリングは“ボク”がもらっていいのかな。Mはイヤリングとかつけてるの見たことないし。
 
その後Fは、自分の部屋のベッドに寝てたら彩佳に襲われそうな気がして、リビングのソファに寝転がって台本を読み、2時頃、和城理紗に送ってもらって、(Mとは別の)放送局に出かけた。Mの撮影が延びてて、そちらが終わるのを待っているとこちらに遅刻する。なんか結局2人分仕事してる気がする。
 

8月21日にはラピスラズリ、22日には常滑真音のライブが仙台・織姫で行われた。
 
バックダンサーは中国四国の信濃町ガールズが動員された。ゴールデンウィークに北陸と東海の子たちが招集されたので、今回は西日本の子たちが呼ばれている。
 
8/09 リズム 本部
8/14 スピカ 九州沖縄
8/15 甲斐姉妹 〃
8/16 アクア(小浜)新人
8/21 ラピス 中国四国
8/22 常滑真音 〃
8/28 品川ありさ ミューズ
8/29 高崎ひろか 〃
 

そして22日の舞音のライブを迎えた。
 
ステージは2階建てのおうちのようなセットが作られている。左右には巨大な招き猫が立っている。左が右手を挙げた黒猫、右は左手を挙げた白猫である。
 
舞音は冒頭、ブルゾンちえみのコスプレで登場する。OL風のブラウスとタイトスカート、髪はオカッパである。後方にはワイシャツにネクタイとズボンを穿いたクロムとセレンを従えている。そして
 
「地球上に男は何人いると思っているの?39億よ」
と言って、紙をバラまく。クロムとセレンが落ちた紙を拾う。
 
「もっとも純粋な男は37億くらいで2億くらいは別の字の“男の娘”かもね」
と舞音が言うと、観客から苦笑が漏れる。
 
こういう即反応が返ってくるのが“あけぼのテレビ方式”のネットライブのいいところだ。この点はUFOやスバイスミッションなど観客と一体となって盛り上がるタイプのアイドルたちも「この方式はやりやすい」と言っていた。
 
舞音がそして
「39億人が私のCDを買ってくれたら、私はビリオネールね」
と言ったら、そこにステージのコンベアに乗ってお風呂がやってくる。
 
セレンとクロムを呼び寄せて一緒にその浴槽に入る。上から大量の札束が落ちてきて、浴槽を満たす(わりと痛い)。
 
それで舞音は『マネイズマネー』を浴槽に入ったまま歌い始めた。
 
中幕があけられ、後方に居た“招き猫”が伴奏する。“招き猫”のメンバーは全員『キャッツ』の猫のような衣装と猫ひげメイクである。セットの2階部分に信濃町ガールズが走り込んで来てダンスを入れる。今日の信濃町カールズの衣装は猫耳のカチューシャ、招き猫の絵の入ったタンクトップと短いスカートである(男子はショートパンツ:「スカートでもいいよ」と言ったので、スカートを穿いた子もいたかも知れない)。全員顔に猫ヒゲを描いている。
 
セレンとクロムもコーラスを入れる。2人が女声でコーラスを入れていることから、この2人は信濃町ガールズの女性メンバーの男装なのだろうと思った人も多かったようである。
 

その後、舞音は日本代表のようなユニフォームを着て、セレン・クロムに夢夜は全身青い服を着て、テニス、バスケット、フェンシングのピクトグラムを演じる。そして『まあスボーツねぇ』を歌う。3人は演奏中、色々な競技のピクトグラムを作っていた。
 
このライブでは舞音が早変わりで何度も衣装を交換して、多くのコスプレをしながら、多数の歌を歌った、
 
(舞台中央に舞音が衣装チェンジするための“フィッティングルーム”のセットがあり、実際に舞音が着替える時は、(カーテンも閉めるが)セレンとクロムがその前に立って視線をガードする。セレンとクロムはその両隣のフィッティングルームを使用する。このフィッティングルームは『舞音の招きマネキン』を意識している。またこのフィッティングルームは実は後が開いてて、スタッフが使用済みの衣装を片付け、次の衣装を置いておく。また舞音の着替えにはヘルパーの美容師さんがひとり張り付いていて、髪の乱れなども直す)
 
「笛を吹く少年」のコスプレもあったし、からくり人形の衣装や、振袖あり、女子高制服にナースにフライトアテンダントにフェンシングの格好、と忙しかった。
 

今回の舞音ファーストライブはとにかくも見てて楽しいライブに仕上がっていた。
 
セレンとクロムも“幕間ゲスト”たったはずが本編でもずっと出演した。冒頭でのwith B のコスプレに続き、札束風呂の美少年、ピクトグラム、更に『つぶあん・こしあん・招きあん』では、今日の司会者のはずだった夢夜まで出て来て、「つぶあん」「こしあん」「しろあん」に扮した。バイクのCM曲では、舞音が原付に乗り、3人がワルキューレ、400cc, 250cc に跨がった状態で歌った。
 
そして幕間では昨日ラピスラズリの司会役だった桜野レイアが、緞帳の前に登場して
 
「ゲストとして幕間で歌うはずだったセレンとクロムが本編でもこき使われて疲れているようなので私が代わりに歌います」
 
と言って、自分でギターを弾きながら3曲歌った。これは好評だった。
 

後半の冒頭は「舞音がビーナスの真似をした」のセットを再現する。
 
緞帳があがると、中央、貝殻の上にピンクのドレスの舞音が立っている。
 
左手でピアノ線で吊されているのはセレンとクロムである。ちなみにセレンが女装、クロムが男装している(じゃんけんで決めたらしい)。右手でドレスを着て花を振り掛けているのは夢夜である。
 
そしてビーナスに扮している舞音が歌を歌った。
 
しかし後半冒頭にこんな形でセレンとクロムがピアノ線に吊られて登場するのであれば、幕間で歌うのは不可能だったわけである。
 

その後、夢夜が紫色のドレスに着替えてグランドピアノを弾き、舞音もやはり紫色のドレスに着替えて『ガラスのエンブレム』を歌う。これは舞音でCDは出たが元々ラピスラズリが歌う予定だった曲で、それで舞音はラピスラズリの“真似をした”のである。
 
しかも実はこの日、舞音は自分がCDで出した歌詞ではなく、オリジナルのラピスが歌うはずだった歌詞で歌った。歌詞の違いはネットでは気付いた人も結構いて、話題になっていた。
 
更にその後、舞音は今度は白いドレスに着替え、バックバンドでドラムスを叩いていた篠原倉光が猫メイクのままメンズスーツを着て前面に出て来て(ドラムスはこの曲だけ桜野レイアが打った)、彼とのデュエットで
『男の子女の子』を歌う。アクアが先日出したばかりの歌である。
 
(セレンもクロムも夢夜も男声が出ないので、篠原君が出て来た)
 
篠原君としては、ライブで観客に自分の歌を聴いてもらうのは初体験になった。
 

更にその後、舞音は赤いティアードスカート状のドレスに着替え、白いストレートのドレスを着た夢夜が出て来てふたりで一緒にローズ+リリーの特大ヒット曲『君に届け』を歌う。
 
更には青いドレスのセレン、黄色いドレスのクロムが登場し、夢夜は
ピンクのドレスに着替えて4人でKARIONのヒット曲『魔法のマーマレード』を歌った。遠上笑美子がカバーした歌いやすいバージョンではなく元々のKARIONの版ほぼそのままで使った。舞音が“赤”の和泉パート、歌唱力の高い夢夜が“ピンク”の蘭子パート、クロムが“黄”小風パート、セレンが“青”美空パートを歌う。実は全体を3度下げたのでアルトの低い所は声域の広いセレンにしか出ず、こういうパート割りになった。
 
この後、舞音は更に、セレン・クロムと一緒にUFOの歌、夢夜と2人でフラワーサンシャインのユニフォームっぽい服を着てフラワーサンシャインの曲を歌う。この時はバックダンサーの内5人が同様のユニフォームを着て2階から降りてきて舞音たちのすぐ後でダンスを入れた、(フラワーサンシャインはユニフォームに各々のシンボルとなる花の模様が入っているが、ここで使った服は舞音が猫、夢夜がパンダ、後の5人は、犬・コアラ・たぬき・きつね・リスと動物の絵が付いていた)
 
再びセレン・クロムと一緒に三つ葉の歌、また4人でスパイス・ミッションの歌を歌い、最後に
 
「舞音がみんなの真似をした、でした」
と言うと大いに受けていた。
 

男の娘3人がカジキ・カニ・イカに扮して、『タイカジキ、カニエビ、イカタコ、サケマグロ』を歌って盛り上げて(既に盛り上がっているが)、本割最後の曲『風のいざない』で締める。
 
緞帳をいったん降ろして30秒後に開けてアンコール代わりのサービスステージをする。
 
するとそこには多数のマネキン人形が並んでいる。“招き猫”バンドの前奏の後、左端でマネキン人形の振りをしていた舞音が『舞音の招きマネキン』を歌い始める。同じく人形に擬態していた、セレン・クロム・夢夜も一緒に動き出してコーラスを入れた。そして残りのマネキンも動き出してバックダンスを入れた!つまり全てが人間の擬態だった!!これは物凄く盛り上がった。
 
そして最後は『とことこ・なめなめ・招き猫』でパフォーマンスを終了した。
 
(セレンとクロムが黒招き猫、舞音と夢夜が白招き猫に扮した)
 

そういう訳で舞音のファーストライブは、事前には「司会:長浜夢夜、ゲスト:山鹿クロム・三陸セレン」と書かれていたのだが、実際には全編にわたって、舞音と男の娘3人によるパフォーマンスになっていた。
 
(多くの観客は舞音と新人女子3人によるパフォーマンスと思った)
 
実はアクアの発案で悠木恵美が大雑把なシナリオを書き、一週間前から4人で一緒に練習しながら、花ちゃんの監修で練り上げたものであった。
 
バックダンサーの子たちも、前日のラピスラズリの公演では、ラピスはバックダンスの入らない曲が多いので、出番が少なかったのだが、今日のライブではフル稼働だったし、フラワーサンシャインの曲で前面に出て来て歌ったり、最後はマネキンに擬態したりで大いに楽しんだようである(前日に1時間ほど練習した)。「今日は疲れたけど楽しかったです」と笑顔で言っていた。
 

今回の夏休みシリーズのライブは“回線ダウンが起きないように”料金を全体的に高めに設定していた。また念のため通常400万回線で配信しているのをネットワーク会社から今月いっぱい追加で100万回線借りている。また★★チャンネル(100万回線)とЮЮネット(ビデオ接続100万回線+ラジオ接続300万回線)にも同時配信する。つまり最大(30fps) 700万(+音声のみは300万)回線まで配信できる。
 
16日のアクアライブ(超強気の6000円)では、あけぼのテレビで540万回線まで来て、
「借りててよかったぁ」
と安堵の声があがった(公称500万回線でも遅い端末から接続する人があるので実際には550万回線くらいまではつながる)。
 
ЮЮネットはギリギリ持ちこたえたが、★★チャンネルはダウンしてフレイムレート落としを実施した。
 
21日のラピスラズリ(強気の4000円)のライブは、350万回線で「やはり料金高めにしといて良かった」と言った。
 
他の子のライブは2000円設定なのである。
 
そして22日の常滑舞音のライブを迎えた。
 
舞音の視聴料は悩んだ末に3000円にしたのだが、コスモスたちはこの料金設定にしたことを後悔することになる。
 
回線はいきなり400万回線から始まる。この時点でいきなり★★チャンネルはダウンして最初から24fpsに落とす(本来は30fps)。
 
舞音が次々と衣装を替えて様々な歌を歌うので、回線接続数がどんどん増えていく。あっという間に500万回線を突破する。まだ前半である。則竹部長の決断で後半はフレイムレートを24fpsに落とすことにした。それで625万回線まで(実際にはたぶん690万回線くらいまで)行けるはずである。
 
フレイムレート落としはアクアが『白鳥の湖』を踊った時に続いて2度目である。
 
ЮЮネットも後半に入る少し前、ダウンする前に24fpsに落とした。
 

後半に入った所で★★チャンネルがダウンして復旧に5分近くかかる。20fpsまで落として再開したが、その間に★★チャンネルからあけぼのテレビに乗り換えた人たちがかなりあったようで、あけぼのテレビは突然600万回線を突破する。
 
その後、★★チャンネルが復旧するが、あけぼのテレビの接続数は減らない。ひょっとすると両方見ているのかも知れない(有料放送なので料金を払った以上はずっと点けてる人が多い可能性がある:ダウンに伴い移行した人たちには後日返金処理をした)。
 
そして“舞音がUFOの真似をした”あたりで、とうとうあけぼのテレビだけで700万回線を突破する。則竹は通信量のモニターをじっと見ている。
 
「部長、20fpsに落としますか?」
とたまりかねて部下が声をかけるが
「いや、後わずか余裕がある」
と言って、マウスを握りしめたまま、じっと通信量のモニターを見ていた。
 

結局、接続回線数は720万回線に到達した。
 
★★チャンネルは20fpsで150万回線、ЮЮネットも20fpsでこちらは170万回線まで行っていたが、あけぼのテレビは24fpsのまま720万回線持ちこたえた。
 
もっとも運用している側としてはヒヤヒヤであった。
 
しかしこれで常滑真音のネットライブ集客力は、アクアに準じるレベルあることが判明した。
 
この16ヶ月ほどのネット放送局の運用で、ネットライブでは少なくともあけぼのテレビ分では料金と観客数がほぼ反比例することが分かっている。基本的に料金を半分にすると観客は倍になる。つまり売上金額は料金によらない!
 
例えば4000円で10万人接続してくれるなら2000円にすると20万人接続してくれる傾向がある。
 
それで(§§ミュージックのタレントに関しては)基本的には回線がパンクしない程度にできるだけ多くの人に見てもらえる料金設定をしている。普通のアーティストなら回線パンクの心配は無いので2000円設定である。しかしアクアを2000円にすると1000万人を越えかねないので6000円という超強気の値段にした(でもハイライトセブンスターズなどは8800円設定)。ラピスも結構な値段にしないと危ない。
 
しかし舞音はファーストライブということもあり、これまでのデータが無いのでコスモスも悩んだのである。あまり高くしすぎて、見たい人が見る気をなくしてはいけないと思い、ラピスより安い3000円にしたのだが、甘かった。
 
アクアは6000円で540万人なので0.6×540=324億円
舞音は 3000円で720万人なので0.3×720=216億円
 
“反比例仮説”に従えば、舞音を500万人に抑えるためには最低4400円くらいにする必要があったことになる。(216億÷500万=0.432万)
 
あけぼのテレビでは今回借りた100万回線をそのまま恒久的に借りられないかネットワーク会社と交渉し、結局12月までにはその回線数使えるようにしてもらえることになった(信号線の工事が必要だしサーバーの増設も必要なのですぐには増やせない)。
 

舞音のライブはビデオやライブアルバムとしても発売して欲しいという声が大きく、ノイズなどを除去し、舞音が衣装を替えている間を一部カットした上で、“舞音のコスプレ全部見せます”というコスプレ衣装のダイジェストビデオ、リハーサルでのNG場面集のサービスビデオ付きで発売すると、ライブビデオのDVD/Blurayが70万枚、音だけのライブアルバムCDも20万枚売れて、コスモスが仰天することとなった。
 
ライブビデオDVD/BDの売り上げ枚数としては、昨年8月のアクア・ライブ『龍たちの伝説2020夏』のビデオ(85万枚/海外分も入れると108万枚)に次ぐ売上となった。
 
今回のライブは、常滑舞音がアクアとほぼ並ぶ§§ミュージックの柱に成長したことをコスモスやケイたちに認識させるできごととなったのである。
 

ライブが終わった後、舞音はドラマに主演してくれと言われ、ゴールデンウィーク以来、4ヶ月ぶりに本格的なドラマ出演をすることになった。どうも先日の『風の街』は舞音に演技感覚を取り戻させるための“試運転”出演だったようである。
 
ドラマは人気漫画家・平野麗子さんの『Girl from West』という作品の実写化である。20代女性には人気のある作品らしいが、舞音は読んでいなかったので慌ててスピカから借りて読んだ(スピカのコミックス・コレクションも凄い)。
 
愛知県の田舎町から東京の美術大学に入った女子大生がピザ屋さんでバイトしながら、デートはするのにキスもしないという微妙な関係のボーイフレンドと付き合いつつ、未来のイラストレーターを夢見て作品を描いていくという物語である。
 
舞音は読んでいて結構自身の立場に近いので、かなり涙を流しながら読んでいた。
 
どうも愛知県出身ということで、年齢は少し若いものの舞音ちゃんなら少し大人の演技もできるかもということで舞音を指名してのオファーがあったらしい。またピザの配達でスクーターに乗るシーンがあるが、舞音がスクーターに乗れるのもポイントだったようだ(でも町中の路上で運転するのは初体験になった)。
 
全4回の短期集中ドラマである。8月下旬に集中撮影して9月に放送するということであった。
 
主な出演
ノマ(主演)常滑真音
トリ(友人)紗倉奈美
ヤコ(友人)稲川奈那
レミ(性別微妙な友人)紙田涼
ミサ(バイト先の同僚)松元蘭
ユータ(BF) 西倉祐弘
コージ(ノマに片想い) 母倉大輔
シノブ(ヤコのBF) 鈴本信彦
佐藤教授 吉沢春樹
 

「招きマネキン」のドラマで共演した鈴本信彦君が共演者に入っているのは心強かった。またキャリアの長い(“主人公の友人”という役が異様に多い)稲川奈那ちゃんは、今井葉月の高校時代のクラスメイトだったらしく、すぐ仲よくなったし、色々親切にしてくれた。紗倉奈美は演技はうまいもののボーっとしていることが多く、共演者やスタッフから名前を呼ばれても気付かず、肩を叩かれて「はい?」みたいな反応をすることが多かった。少し不思議タイプの子かなという気がした。
 
紙田涼くんは初回はずっと女装で演技した。本人はノーマル(本人談)らしいのだが、実は過去にもこういう“性別微妙”なキャラを数回演じたことがある。お化粧は自分でしたらしいがきれいだったし(舞音はメイクさんにしてもらった)、女言葉の使い方も様になっているし、スカートを普通に着こなしているし、声は男声でも女の子の話し方ができるので、話していると普通に女子の友人と話している感覚になってしまう。
 
「カムアウトしてもいいよ。秘密にするから」
などと稲川奈那から言われていた。
「ボク、本当にノーマルなんだけど」
「まあずっとそう主張する人は多いよね」
「40歳くらいになってから『実は・・・』とか言い出すタイプかな」
 
彼は初回ノマやヤコたちと一緒に女子トイレに入るシーンがあったのを凄く恥ずかしがっていた。
 
「女子トイレなんて普段使ってないの?」
「使いませんよー。ボクが撮影でなくて女子トイレ入ったら痴漢で逮捕されますよ」
 
舞音は一瞬、稲川奈那と顔を見合わせてから言った。
「いや、涼君が女子トイレに居ても、誰も違和感を覚えない」
 

松元蘭ちゃんはわりと有名なアイドルなので、この子をさしおいて自分が主役していいのかなあと思ったのだが、初日に1時間遅刻してきて
 
「代役立てたからもう出て来なくていい。帰れ」
と監督から酷く叱られ、必死に謝っていた。何とか許してもらって参加するもわりと演技がビミョーなので、うーん・・・と思った。この子歌もビミョーだし(楽器演奏と作曲に才能があることを数年後に知りびっくりする)。
 
なお、松元蘭が遅刻してきた間は、実は舞音に付き添いで来ていた、佐藤ゆかが代役を務めたのだが、結局佐藤ゆかは“チカ”という役名をもらいノマの友人のひとりとして、全回出演することになった。佐藤ゆかはキャリアが長いし、アクアやリズムのスタンドインもよくやってるだけあり、演技はうまい。ゆかは絵も上手いので、吹き替え無しでイラストを描いて、監督を感心させていた。
 

舞音はこのドラマの主題歌も歌うことになった。東風!作詞・松本花子作曲の歌で『西風の香り』という曲である。舞音は『舞音がビーナスの真似をした』の“ビーナス誕生”の絵を思い出しながら歌った。歌詞の中に結構あの絵を下敷きにした言葉もあった。でも漫画の中に出てくる言葉も織り込んでいるので、アクアさん、この漫画読んだのかなあ、よく読む時間あるな、などと思った。(実はアクアFの愛読書。歌詞を書いたのもF)
 
このCDはドラマの放送に合わせて9月8日(水)に発売することになる。
 
この曲とカップリングしたのは2曲である。
 
ひとつは『風の街』の挿入歌で、やはり音楽教室のCMとして使用される『風のオルガン』という曲。こちらは名寄多恵先生の歌詞に松本花子先生が曲を付けたものである。この歌のPVには舞音自身は現地まで行っていないが、能登半島珠洲市の“ラポルトすず”にある、風で音が鳴る“音器”の鳴る様子を撮影してきて取り込んでいる。
 
また舞音がストリートオルガンを演奏するシーンが入っているが、このオルガンの“中”に、信濃町ガールズの子が8人(合成でミニサイズ表示!)並び、舞音がキーボードを押すと、そのキーの下にいる子が手に持つその音程のブザーを鳴らすというパフォーマンスが入っている。ここで並んだ8人は下記。
 
C 夕波もえこ
D 成瀬久美
E 鈴鹿あまめ
F 森田浩絵
G 薬王みなみ
A 豊科リエナ
B 箱崎マイコ
C 美崎ジョナ
 
オルガンの中に小人(こびと)さんが入っている感じである。
 
“薬王みなみ”は四宮七菜にコスモスが付けた芸名である。彼女の出身地・美波町にある薬王寺から名前は取られている。
 
成瀬久美と森田浩絵はまだ芸名が付いていない。
 

もう1つのカップリング曲は、『舞音の招きマネキン』のCMが好評だったファッションブランド“ノノ・パパイヤ”の新しいCM曲『赤巻きスカート、青巻きスカート、黄巻きスカート』である。
 
冒頭舞音が『赤巻きスカート、青巻きスカート、黄巻きスカート』と言いながら、赤い巻きスカート、青い巻きスカート、黄色い巻きスカートを穿いた所が映る。
 
舞音が道行く人を呼び止めてこの早口言葉?を言わせ、うまく言えなかったらひっかかった色の巻きスカートを穿かせてしまう。
 
これは新発売のウェストが調整しやすい“フィットウェスト巻きスカート”を前面に立てたCMなのである。曲は未来居住作詞・松本花子作曲の軽快なナンバーである。
 
最初に出て来た、ビンゴ・アキちゃんは赤でひっかかって、赤い巻きスカートを穿かされる。次のセージ@スパイスミッションはうまく言えたかと思ったら最後を「スカード」と言ってしまい、黄色の巻きスカートを穿かされる。次の鈴木ひかり(WindFly20)は青でひっかかり、青い巻きスカートを穿かされる。
 
その後、1秒単位で多数のわりと有名なタレントさんが三色どれかの巻きスカートを穿かされる。最後に男子中学生タレントの織田淳二君まで青い巻きスカートを穿かされて「やだー!」と声を挙げる(でも可愛い)、
 
最後は100人くらいの男女(2割くらい男性がいる)が、右側に赤巻きスカート、左側に青巻きスカート、中央に黄巻きスカートを穿いた状態で並んでいる図で終わっている。舞音は真ん中で赤青黄トリコロールの巻きスカートを穿いて手を振っていた。
 

このCFは、前回の『招きマネキン』同様、豪華な出演者が話題になった。前回もそうだが、(舞音以外の)出演者のギャラだけでどう考えても2000万円くらい行っている。舞音自身も前回の20倍のギャラを頂いた。
 
最後に巻きスカートを穿いて並んでいる人たちは、女子は都内のモデルクラブなどに所属する女子高生・女子大生を集めているのだが、男子に関しては、雨宮先生がスカートを穿いて違和感の無い男子を集めてくれた。もっとも巻きスカートは男性でも比較的穿きやすいスカートなので、ハードルは低かったようである。
 
20人の男子の中には、舞音のバックバンドの篠原倉光・谷口翼の2人、および信濃町ガールズ本部メンバーの広中礼音・末次一葉・弘原如月、及びガールズ関東の男子メンバー3名が含まれている。雨宮先生はそれ以外に12名集めてくれた。実は羽鳥セシルの弟(浜梨香沙:はまりかずな)まで含まれている(スカート穿いてというのに抵抗したが、穿かせてみると似合うので「さすが恵真ちゃんの弟」と言われていた:雨宮先生の美少年センサーは確かである)。ちなみに木下宏紀やセレン・クロムなどはスカートは穿けるが男性に見えない!
 
なお、この新型の巻きスカートは、実際の店頭や通販では、使いやすいベージュやインディゴがよく売れたようだが、赤・青・黄の三原色やグリーン、ブラック、ホワイト、ピンク、アクア、アースカラー、また舞音がCMで穿いていたトリコロールも割と売れた。
 
メーカーでは“多分男も買う”と予想して男性が穿けるサイズも制作し、男性が穿く場合のサイズの目安表までわざわざ店頭や通販サイトに掲示していたら、本当にそのサイズがかなり売れた(大半が通販で出たがカップルが店頭でペアで買っていくケースも見られた)。
 
なおこのCMがオンエアになってから、この歌が小学生の間で受けて、子供用は無いんですか?という照会が多かったので“ノノ・パパイヤ”では急遽、ジュニアサイズ・ガールズサイズの“フィットウェスト巻きスカート”も制作して11月から発売した。
 

アクアFはアクアMに言った。
 
「代々木の10階の部屋さ、ボクに売ってくんない?」
「売るも何もボクたち、口座も何も全部共有だし」
「じゃ、ちょうだい」
「いいけど。何に使うの?」
「仕事帰りに緑川さんとかに送ってもらったらここで降ろされるじゃん。その時、八王子に移動するのも面倒だし、ボクはそのまま10階に入って寝てもいいかなと思って」
 
「だったら、少し寝具残しとけばよかったな」
 
先日、10階に置いていた荷物は全部八王子に持っていってしまったのである。
 
「いいよ。適当に通販で買うから」
「分かった。じゃ自由に使って。でも彩佳たちに10階使ってるのバレないようにしろよ」
「もちろん。彩佳にバレたら、ボクの安住の場所ではなくなるし」
 
「彩佳にボクたち2人いることを話した方がいいのかなあ」
「彩佳は気付いているというのに1票」
「嘘!?」
 
「気付かない訳が無い。単に気付かないふりしてるだけだよ」
「そうかなあ」
 
彩佳は実は気付いているのではというのは、年末頃から思っていた。代々木のマンションに帰った時、Mはいきなりキスされるらしいけど、自分には彩佳はキスしないのである。
 
それに先日の誕生日翌日、彩佳はわざわざ自分に「誕生日おめでとう」と言った。本来は昨日ちゃんと“M”にはおめでとうを言ったはずなのに。だからイヤリングは本当に自分へのプレゼントだったんだ。Mはボールペンもらってたし。
 
「だから、ボクたちは、彩佳が気付いていることに気付かないふりをしてた方がいい」
とFはMに言う。
 
「ごめん。今の意味が分からなかった」
「ボクも途中で分からなくなった」
 

口座に関しては、現在アクアは###銀行にメイン口座を持っていて、2人ともその銀行の“クローンカード”を所持しているのだが、この機会に各々の個人口座も作ることにした。
 
使い手のいい銀行として、△△銀行の別の支店(全てネット支店)に長野龍虎名義の口座を作り、A支店はM、B支店はF、S支店はNの専用にすることにし、###銀行は全員共通とすることにした。そして###銀行の現在の残高の4分の1ずつを各口座に移動した。具体的には、いったん4分の3をNの口座に移動した上で、その3分の1ずつをFとMの口座に移動する(振込手数料節約のため)。以降、毎月の(資産運用班からの)振込額についても同様の操作をする。
 
大きな買物はFとMが話し合って決めることにする。
 

8月28日(土).
 
アクアと坂出モナが主演する2時間ドラマ『浦島太郎』が放送された。
 
冒頭坂出モナが歌う主題歌『ホーライの国』のバックに、乙姫に扮したアクアと浦島太郎の扮装の坂出モナが出るので、今日の番組サイトを開いて配役を確認した人が多数あった。そしてテレビ局のサイトの表示が間違っているのではと思った人も多数である。
 
アクアが乙姫でモナが太郎というのも、充分あり得る配役である。
 
しかし物語が始まると、太郎の格好をしているのはアクアである。
 
解説者(元原マミ)が
「昔々、丹後国の水江という所に浦島という漁師がいました。船で沖合まで出て魚を釣ったり、遠くの島の浜辺で海草や貝を獲ったりしていました」
と語る。
 
太郎が道を歩いていると女の子たちが多数それを見て話している。大胆にも太郎に手を振る娘もいるが、太郎はマメに手を振り返していた(*9).
 
(女の子たちを演じているのは○○ミュージックスクールの生徒たち)
 
太郎というのは、今回のドラマの種本となった御伽草子では特に明記されていないが、元々の丹後国風土記では、容姿端麗で風流なこと比べようもないと書かれており、元々の原作の路線で行こうとすると、実はアクアは太郎に大適任だった。
 
太郎が“準構造船”(*10)に乗って漁に出るシーン。船を停めて釣りをするシーン、魚を釣っては船中の水槽に入れるシーン、また海岸で貝を拾うシーン、海草を苅るシーン、そして帰港して漁獲物を親方に納めるシーンなどが描かれる。
 
この部分は、安全のため、シンデレラのオープンセットの池を使用して撮影している。
 
猟師仲間として出演しているのは実は少年探偵団のメンバーである!親方は中村警部を演じている広川大助。太郎の両親は、明智夫妻を演じる本騨真樹と山村星歌で、語り手の元原マミも花崎マユミ役だし、「まるごと少年探偵団じゃん!」という声が多数だった。
 
(*9)以前配信した男の娘浦島太郎の物語『浦嶋子』は、丹波国風土記の物語をベースにしたものだが、今回の浦島太郎は江戸時代の御伽草子版をベースにしている。そのため、すばる7人娘やヒヤデス8人娘は出て来ない。
 
(*10)準構造船というのは、弥生時代に多く使われた船で、丸太を彫って作った“丸木舟”に側板を取り付けて船内を広く、喫水を深くして、沖合まで安全に出られるとともに多人数が乗れるようにした船である。後には丸太部分が竜骨として残り、板材を組んで大きな形を作る“構造船”へと発展する。
 
一方で複数の丸木舟を組み合わせた双胴船のようなもの、更には多数の丸太をまとめたイカダ船なども作られたと考えられるが、イカダは丸太を結んでいる綱が切れるとただの丸太と区別がつかないので、残念ながら確実にイカダ船と考えられるものは古い地層からは出土していない。
 
太郎は1人で漁に出ているので、そんなに大きな船を使っていたとは思えない。丸木舟だったかも知れないが、かなり遠くまで漁に出ていることを考えると、もう少し大きい船という気がする。それに太郎が使っていたのが丸木舟なら、乙姫が“小さな船に乗っているのを見た”という話と合わないので、このドラマでは太郎の船は準構造船ということにした。
 
準構造船は放送局の大道具係さんの力作で、制作費は100万円ほどである。たぶんまともな船舶製作所に頼むと10倍近く掛かる。とりあえず撮影の間沈まなければいいというレベルで作ったからこの費用で済んでいる。
 
なお、丸木舟や準構造船の推進力はパドルだったと思われる。現代ではカヌーで使用されている、両端に水を掻く平たい部分のある棒である。ドラマでもアクアはパドルで水を掻いて船を進めている。
 

ある日、浦島がいつものように漁に出ていたら、村からかなり離れた海上で一匹の亀を釣り上げた。
 
「お前、何か可愛いな」
とアクア演じる太郎は言う。
 
「顔かたちが凄くやさしい。お前、メスか?」
などと言って、亀を持ち上げる。
 
亀の雌雄は尾の長さで区別できる。オスの尾は長く、メスは短い。また総排泄孔の位置が、オスだと甲羅の縁の外側にあるが、メスは内側にある。しかし太郎はいきなり乙姫のお股を見たことになる!乙姫としては「こんな恥ずかしい所を見られてしまったからには、この人のお嫁さんになるしかない」という気分である。
 
「お前、メスみたいだな。美人だし、人間だったら、いい娘かも知れんなあ」
などと太郎は言っている。
 
(「亀になりたーい」という女子たちの声多数)
 
「お前を食うのは可哀想な気がしてきた。鶴は千年、亀は万年というし。本当は万年生きられるのが俺に食べられちゃうのは可哀想だから、逃がしてやるよ」
と言うと、浦島太郎は亀を逃がしてやった。
 

数日後、また太郎が漁をしていたら、少し向こうの方に小舟が居てそこにどうも女性がひとりで乗っているようである。太郎は驚いて漕ぎ寄ってみる。
 
乗っていたのは美しい女性(坂出モナ)であった。
 
「こんな海の上であなたは何をしているのですか?」
 
「海を渡って自分の国に帰る途中だったのですが、嵐に遭って船が沈み、私は親切な人がこの船に乗せて押し出してくれたのです。激しい嵐で生きた心地がしませんでしたが、何とか無事に生き延びられたようです」
 
「それは心細かったでしょう」
「こんな小さな船はいつ沈むか不安で。あなたの船にご一緒させてもらえませんか」
 
「ああ、いいよいいよ。こちらにおいで」
と言って、太郎は彼女の手を取ってこちらに乗り移らせる。すると、女性が乗り移った途端、船は沈んでしまう。
 
(モナは自分の体重で“船底の蓋”を押さえていた。だからモナが船から退去すると船は沈むように作られていた)
 
「きゃー」
と言って、女性が太郎にしがみつく。
 
(「こら、離れろ!」という声、ネットでは多数)
 
「危ない所だった。乗り移るのが少しでも遅かったら、あなたも沈んでいた」
 

「あのぉ、私を国まで送っていってくださったりはできないですよね?」
「あなたの国はどこですか?」
「小さな島なんです。たぶん10日くらいで着くと思うんですが。御礼は充分しますので」
 
「そうだなあ」
と言って太郎は考えるが、女性はかなり良い服を着ている。結構良い所の娘だろう。だったら送っていってもいいかと考えた。一度自分の村に戻って母に娘を送ってくると言おうかとも思ったが、村に戻るのにも丸1日かかるから、娘が不安がると思った。それで母には告げずにそのまま行くことにする。
 
「方角分かる?」
「西へ西へと行けばいいと思うんですが」
 
ここから西なら、出雲か隠岐、あるいは筑紫の国かその先の壱岐あるいは済州島あたりかも知れないと太郎は考えたが、一度そういう遠い所までの航海もしてみたい気がした。それで太郎は
 
「じゃ送っていくよ」
と言ったのであった。
 
解説者の元原マミが登場し語る。
「こうして太郎は10日がかりで彼女を故郷の島まで送っていったのです。そして送っていく間に、ふたりはすっかり“仲良く”なってしまいました」
 
“仲良く”ということばは、小学生には、お友達になったのだろうと思わせるが、高校生以上の視聴者には「ああ、セックスしたのね」と思わせることばである。もっともネットでは
「アクアは女の子と2人きりでもセックスはしないだろうな」
「まあ女の子と結合できる部品を持ってないし」
という声が多数であった!
 

辿り着いた所は結構大きな島だった。
 
「嬉しい!故郷に帰ってくることができた」
「良かったね」
「本当にありがとうね。私、あなたのこと好きになっちゃった」
と言って、モナがアクアに、じゃなくて乙姫が浦島に抱きついてキスする。
 
(「今のほんとにキスしてない?」「ほんとにした気がする」「こら離れろ!」というネットの声)
 
(ここは寸止めのはずがモナは本当にアクアにキスしている。アクアが「ちょっとぉ」と抗議したが、モナは「いいじゃん。女の子同士なんだから」と平気な顔をしていた。でもさすがに後でルキアから文句を言われた!)
 
「ボクも君のことが好きになった」
と太郎。
「こんな広い海の中で偶然の導きで出会ったんだもん。私たちきっと愛し合う運命だったと思わない?」
と乙姫。
 
「そうかも知れない」
「ね。私たち結婚しましょうよ」
「いいの?」
「私の両親に紹介するから、ずっとここで暮らさない?」
「それでもいいかなあ」
 
それで太郎は乙姫との結婚に同意した。それで2人は愛の口づけをした。
 
(ここはちゃんと台本通り寸止め)
 
(御伽草子で乙姫は物凄く積極的に太郎に言い寄っている。おそらく江戸の町文化はこういう積極的な女というのを許容する文化だったのだろう)
 

太郎が乙姫の両親・龍宮の王・王妃に挨拶するシーン、結婚式のシーンと続く。
 
結婚式のシーンでは多数の舞姫たちが登場する。これも○○ミュージックスクールの生徒さんたちである。このシーンにはデビュー予備軍の子たちが使われたのでダンスのレベルが高い。
 
結婚式が終わり、一夜明けたあと、ふたりがこの島の立派な町並み、乙姫の住む邸宅の立派な造りを見て廻るシーンなどが映る。春の庭、夏の庭、秋の庭、冬の庭の様子が映る。このあたりは実は予算の都合でCGである。本当に立派な邸宅を建てて四季の庭を造っていたら、それで億単位の予算が飛んでしまう。
 
やがて赤ちゃんが2人産まれた様子も映る。乙姫(坂出モナ)が幸せそうに赤ちゃんを抱いているシーンなども映る。
 
↓ネットの声
「モナちゃん、いいお母さんになりそう」
「でもルキアは性転換しちゃってるから、女同士じゃ子供できないよね?」
「性転換する前に精子の保存はしてると聞いた」
「だったら、それで子供作ることは可能なのか」
 
このシーンは赤ちゃんはリアルロボットである。2人目が産まれた時にそばにいて赤ちゃんを見ている女の子は秋風メロディーの子供・夕霧(3)である。ちなみに夕霧ちゃんの性別は、源氏物語を読んだことのある人ならご存じの通りである!
 

元原マミが登場して「こうして数年間が過ぎました」と静かに語る。マミはそう語ったあと、悲しむように目を瞑った。
 
アクア演じる浦島が言う。
「ふと思ったんだけど、ボクの両親はどうしてるかなあと思って」
「なぜそんなことを言うの?」
と乙姫が悲しい目で言う。
 
「思えば両親には何も告げずに出て来てしまったから、一度村に戻って、自分が無事で子供も2人できたことだけでも話してまたこちらに戻ってこようかなと思ったんだよ」
 
「太郎様、私を捨てるの?」
「違うよ。君を捨てる訳ないじゃないか?村に戻って両親と会ったらすぐこちらに戻るよ」
 
「いや、いや行かないで」
と乙姫は泣いてしまう。
 
「ちょっと行ってくるだけだよ。ちゃんと帰ってくるからさ」
 
それで乙姫は太郎の一時帰郷に同意したものの、
「龍宮から一時的にでも出る人にはこれを渡さなければならない規則なの」
と言って、朱塗りの箱を渡す。
 
「これは何?」
「私にもう一度会いたかったら絶対にこれを開けないで」
「分かった」
 
それで太郎は新しい船を作ってもらい、それに乗って島を出た。
 

7日ほどの航海で浦島は水江に戻った。
 
ところが上陸してみると、あたりは全く様子が変わっている。
 
太郎は入江や山の形を確認する。間違い無くここは村のある場所の筈なのに、あたり一面草ぼうぼうで、人の影も見当たらない。
 
一体これはどうなっているのか?と悩む。手がかりになるものを求めて太郎は村のあったはずの場所をひたすら歩き回るが人っ子1人居ない。
 
池のそばに出る。
 
2本の杉が立っている。
 
「杉が物凄く大きくなっている」
 
太郎が居た頃、この杉は太さが自分の肩幅くらいだったはずが、今見ると杉は両手を広げても届かないくらい大きくなっている。
 
「物凄く長い時間が経っているんだ」
と浦島は呟いた。
 

浦島がフラフラと歩いていると、古い朽ちかけた庵があった。何かに惹かれるようにその庵の中を覗く。1人の老人がいた。太郎は問いかけた。
 
「もし、翁殿、お尋ね申す」
「何だね?」
「この付近に住んでいた浦島という者のことをご存知ありませんか?」
「浦島か・・・・それは三百年前(*11)の人だな」
「三百年・・・・」
 
太郎はショックのあまり崩れ落ちるように座り込む。
 
老人は言った。
 
「太郎殿」
「はい」
「自分を求めている人の所に行かれよ」
「求めている人・・・」
 
(*11)太郎が龍宮に居た間にこちらの世界で経過した年数について、御伽草子は700年と書くが、丹後国風土記は300年と書いている。丹後国風土記で、浦嶋は元々雄略天皇の時代の人と書かれている。雄略元年は西暦458年に相当することが歴史学的には推定されているので、それから700年経つと、もはや平安末期である!そこでこのドラマでは300年説を採用した。
 
風土記編纂は713年元明天皇の詔から始まっており、460年頃に行方を絶った浦嶋が300年ほど後の風土記編纂の時代に故郷に戻ってきたとすると計算が合う。
 

太郎がフラフラと庵を出る。
 
カメラは庵の中を映す。
 
そこには大きな鏡が1枚立っていた。
 

太郎はいつしか浜辺に出ていた。
 
元原マミの語り
「太郎はあらためて景色を見渡しました。この浜辺も昔より海に張り出している気がします。自分が龍宮でほんの数年過ごしていた間にきっとこちらでは三百年も経ってしまっていた。龍宮と水江では、時間の経ち方が違うんだと太郎は考えました」
 
太郎の目に自分が乗ってきた船が映る。
『自分を求めている人の所に行かれよ』という老人の言葉が脳裏に響く。
 
「龍宮に帰ろう」
と浦島は言い、船に乗るために立ち上がった。
 
「あっ」
 
今立ち上がった時、乙姫から渡された箱を落としてしまったのである。
 
「しまったぁ!!!」
 
箱が浜辺に落ちてふたが開く。
 
そこから白い煙が立ち上がり、太郎はその煙にすっかり覆われてしまう。
 
そして煙が消えた時、そこには1羽の白い鶴が居た。
 

「龍宮に帰ろう」(アクアの声)
 
鶴は力強く飛び上がると、一路、西に向けて飛んで行った。
 
たくさんの雲を抜けて、たくさんの島影を過ぎて、鶴になった太郎はひたすら飛び続けた。
 
そしてたくさんたくさん飛んで、やがて鶴はひとつの島影を見る。
 
太郎はそこに降りて行った。
 
乙姫が、太郎が戻ってきてくれますようにとお祈りを捧げていた。
 
鶴はその前に降り立った。
 
「太郎さん?」
と驚いたような声で乙姫が言った。
 
「コー」
と鶴は悲しそうに鳴いた。
 
「あなたなのね?戻って来てくれたのね?」
と言って、坂出モナ演じる乙姫は涙を流して鶴を抱きしめた。
 
鶴も乙姫を抱きしめた。
 
「ずっと、ずっと一緒に暮らそうね」
「コー」
 
そのモナと鶴の会話で、物語は閉じられた。
 

2021年8月29日(日).
 
今年夏の§§ミュージックのライブは、高崎ひろかがラストを務めることになった。
 
このライブの司会は鈴鹿あまめが務めたが、優秀な彼女だけに、そつなくしっかりと進行させていく。それを見ながらコスモスは、この子も早くデビューさせてあげたいけど、デビュー待ちの子が多すぎるなあと悩んでいた。
 
ゲストタイムは水森ビーナの登場が予告されていたのだが、実際には松梨詩恩と一緒にお揃いのドレスで出て来て、詩恩の持ち歌を1曲とビーナのリリース予定の曲『女子高生の味方』『午後の一息』をデュエットした。
 
ビーナは詩恩にそっくりなので、まるで双子の姉妹歌手が歌っているかのようであった。ゲストタイムの終わりには高崎ひろかが後半の衣装で登場し、三姉妹が一緒にステージに居る状態となる。詩恩とビーナは退場する態勢だったが、
 
鈴鹿あまめが
「そのまま、そのまま、記念写真」
と言って、カメラに三人が並んだ所を収めていた。この写真はライブ終了後にホームページに掲載された。
 

ネットを通してライブを観ているコスモスの傍で木取道雄が思い出したように言った、
 
「『浦島太郎』の俺の出演シーンって、あの“特殊メイク”じゃ誰か分からなかったよなー」
「出演者のところに名前も出てなかったね。声もミッチーの声じゃなかったし」
「あれはアクアの声をボイスチェンジャーで老人の声に変換したものなんだよ」
「手間掛けてるねー」
 
「アクアの男声の声色を老人の声に変換しても“おばあさん”の声にしかならないから“おじいさん”の声に聞こえるようにコンピュータのプログラムまで組んで変えたみたい」
 
「ああ、大変そう」
 
「でもあの特殊メイクに1時間掛かった」
「それなのに名前も出てないんだ?」
とコスモスは面白そうに言う。
 
「原作の御伽草子で、古ぼけた庵に住む老人が出て来て、浦島というのは700年前の人と語るんだけど、普通に考えたら700年前の一漁師が記憶されているはずがない。それで監督が悩んで出した結論は、あの老人というのは実は浦島自身だったのではないかという解釈だったんだよ」
 
「それを示唆するために鏡を映したのね」
 
「だけど本来の浦島太郎というのは、太郎と乙姫のラブストーリーだったんだね」
「そうそう。それを小学校の教科書には書けないから、恋愛要素を抜いた結果、恩返し物語にしては太郎は割に合わなすぎる物語に改変された。それが現代でも広く知られている」
 
「だけど俺、ラストで泣いた」
「そういう意見は多かったみたい。美しい終わり方だったね」
「あれって、太郎は鶴の姿から人の形に戻れるのかなあ」
 
「どうだろうね。それは余韻として残したんだと思うよ。亀が人型に変化できるんだから、鶴も変化できるかも知れないけど、亀と鶴のままかも知れない」
 
「ふたりとも鶴になったりして」
「それは新たな解釈だ」
とコスモスは笑って言ってから、
 
「御伽草子の作者はそのあたりは読者の想像に委ねたんだろうね」
と言った。
 
「もし仙境に戻るには鶴になるしか無かったのだとしたら、玉手箱は太郎に龍宮に戻る手段を与えるためのものだったのかも知れない。だって最初に船で龍宮に行けたのは乙姫が居たからでしょ?一般人が龍宮に辿り着けるとは思えない」
と道雄は言う。
 
「うん。だから御伽草子のエンディングはハッピーエンドではないかという解釈もあるみたいね」
 

今回高崎ひろかのイベントで、ひろか・詩恩・ビーナの三姉妹を運ぶのに初めてHonda-JetSilverを使用した。
 
この夏購入した2機のHonda-Jetの内の1機である。
 
「この色は初めて見た」
と詩恩もひろかも言ったのだが、同行したひろかのマネージャー月原美架は
「この色の機体は当面君たち三姉妹に使用優先権を付けるから」
と言う。
 
「それは多分事実上、ビーナの専用機になるな」
とひろかが言った。
 
「Redがアクア、Blueがラピスラズリ、Orangeが常滑舞音、Yellowが白鳥リズム、そして、Silverがビーナということかな」
 
「え〜?飛鳥(松梨詩恩)姉ちゃんの方が忙しいと思うけど」
とビーナは言ったが
 
「いや、数紀がいちばん忙しい」
と飛鳥・邦江ともに言う。
 
「まだギャラは少ないけどね」
と月原マネージャーは言っていた。
 
「でも来年までには確実に私たちを追い抜くでしょ?」
 
「今回の『シンドルバッド』でかなり注目度が上がったからね」
 
「うちの事務所は結局アクアが忙しすぎるという所から出発している」
とひろかは言う。
 
「それでアクアであふれた仕事を舞音が受けてるけど、舞音ちゃんもあふれてる。それが数紀の所に流れて来始めた感じがするよ」
 
「あんた高校は中退することになるかもね」
「ひぇー!?」
 

「あるいはもっと緩い学校に転校するとかね」
と月原が言う。
 
「用賀の男子寮の近くなら今井葉月が通った、S学園とかは出席日数に緩い」
「へー」
 
「S学園は女子高だけど、数紀ちゃんは女子高でも通えるよね?」
「女子高!?そんなの入れてくれませんよー」
 
「ちょっと手術すれば入れてくれるよ」
と詩恩。
 
「手術?」
「完全な女の子になる手術ね」
 
数紀は一瞬考えた。それってまさか・・・性転換手術!?
 
「それは勘弁して下さい」
 
「だってあんた既に女子高生になっちゃってるのに」
と2人の姉は言っていた。
 
ちなみに今日のビーナはTシャツに膝丈スカートという軽装である。
 
「別にちんちんとか無くてもいいんでしょ?」
「無いと困るよー」
「ちんちん使っているとは思えないけど」
「使わなくても要るよー」
 
「あんた、いいお嫁さんになると思うけどなー」
 
2人の姉にしょっちゅうこれを言われてたら、女の子になってもいい気になってそれで去勢手術受けちゃったのかな?と月原は思った。
 
(月原はビーナが去勢していると思い込んでいる)
 
 
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【東風】(5)