■クロスロード1(4)

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「しかし、あそこで青葉に会うとは思わなかったな」
と今日の宿舎で桃香が服を脱いで浴衣に着替えながら言った。
今回の東北行きは土日月の3日間なので、千里たちは明日まで仕事がある。 
「うん、それもだけどさっきのメンツは凄かった」と千里。
「結局あそこに何人MTFさん、集まっていたの?」
「えっと、私でしょ、青葉、あきらさん、和実ちゃん、淳さん、ケイさん。6人だね。みんなパス度が高かったけど、特に和実ちゃんのパス度が凄い。青葉に負けない完璧さだよ、あの子」
 
「うーむ。私にはよく分からなかったよ。ほぼみんな女にしか見えなかったし。美容師さんがあきらさんだっけ」と桃香。
「そうそう。あの人はもしかしたらMTFというよりは女装者に近いかも。あるいは少し性別の自己認識が揺れているのか。淳さんもそんな感じね」
 
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「私はあの場で女装者がいるという話のようだと思ってあらためてみんなを見てみて淳さんはもしかしたらと思った」
「あの人、たぶん和実ちゃんの恋人だと思う。たぶんカップルの男役なんで少し男性っぽい雰囲気が出てるんじゃないかな」
 
「ところで青葉は何してたんだっけ?」と千里。
「うーん。あの子、いろいろ霊障相談とかしてるみたいね。あと、行方不明になったままの人の遺体の場所をかなり見つけてあげているみたいよ。毎日だから時には鬱になるとこないだ言ってたし」と桃香。
 
「私、霊障とか、霊感とか、その手のもの信じないんだけどねー。でも青葉がいろいろしてあげて、それでクライアントさんが満足できたら、それでいいんだろうね」と桃香は続けた。
 
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「私も基本的にこの手の仕事って、そういうことだと思うよ。ただ拝み屋さんというのも気休めレベルから超能力者級まで、いろいろあるんだろうけど、青葉はホンモノって気がするのよね」
と千里は言う。
 

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「ありがとうございます。明日にも息子に、そのあたりを探してみてくれるように連絡します」
と鳥畑は青葉たちに感謝していた。
 
青葉は佐竹といっしょに、さらにもうひとりのおばあさんの相談に乗ってあげたが、その後、避難所の管理者さんに、少し鬱気味になっている人がいるので見てあげてくれないかと頼まれた。
 
青葉はとにかくその女性の話を聞いてあげた。青葉の優しい聞き方が女性の心の壁を崩してしまったようで、泣きながら話をしていた。青葉はその女性の手をしっかり握ってあげていた。
 
たっぷり1時間くらいその女性の話を聞いてあげていたら、女性は「なんだか少し気持ちが軽くなりました」と言った。「良かったですね。月に2回、岩手に来ますので、また御用がありましたら、こちらの佐竹さんに連絡しておいてください」と青葉が言い、佐竹が名刺を渡した。
 
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佐竹のライフに乗って避難所を後にする。
「少し遅くなっちゃったわね。このまま仙台まで走るわね」
「すみません。お願いします」
「21:45だったわね、高速バス」
「ええ。でも今から行けば21時くらいまでに仙台着きますよね」
「たぶん。あ、硬くなってるかも知れないけど、おにぎりどうぞ」
と佐竹は片手で後部座席のかばんを取ろうとしたが、青葉はそれを制して自分でかばんを取り、勝手に中に入っていたおにぎりを取り出す。
 
「ありがとうございます。いただきます」と言い、1個を食べやすいようにラップを半分外して運転中の佐竹に渡してから自分でも美味しそうに食べ始める。「食事すると勘が鈍るから食べられないけど、お腹はすくんですよね」
 
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「でもお姉さんとお父さん、残念だったわね」
「いえ、亡くなったのは震災の直後に分かってましたから」
と青葉が言う。実は金曜日に姉の遺体が、土曜日に父の遺体が発見されて、今回の青葉の岩手行きではその遺体の引き取りと仮葬儀もしてきたのであった。「青葉さんの言っていた場所ピタリで見つかりましたね」
「ええ」
 
父の遺体は山裾の深いがれきの中から、姉の遺体は浜辺に打ち上げられたのが見つかった。青葉は震災の直後に、両親・祖父母・姉の遺体は見つかるとしたらこのあたりだと思うので、自分が行けない場合、申し訳ないが代わりに引き取って欲しいと佐竹に頼んでいたのであった。祖父母の遺体は5月に見つかっていた。まだ見つからないのは母の遺体だけである。
 
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「お母さんも海の底だって言ってましたね」
「ええ、母は海岸近くにいて、津波警報を聞いて母の彼氏と一緒に車で逃げようとしたものの、間に合わず、車ごと津波に呑み込まれたんです」
と青葉は語った。「来月くらいかなあ・・・打ち上げられるのは。車のふたがまだ開かないので。そのうち余震のショックでふたが開くと思うんですよね」
 
青葉が悲しそうな顔で語る。佐竹は以前のような能面のような顔で語られるのもぞっとする気がしていたのだが、こう悲しい顔で語られると自分も涙が出てきた。 
「さっきの人にはかなり強いヒーリングしてましたね」
「ええ、あの人、旦那さんと子供を失って生きる気力を失ってましたね。体内の気の乱れが凄まじかったし気の流れ自体が衰弱していたから、その乱れを直しつつ少し活力を与えるのに苦労しました。今回は特に強い乱れの部分と強烈なループができている部分しか治せませんでした。たぶん、連絡あると思うので、場合によっては休日などに電話で直接お話を聞きますよ。一度ヒーリングした人なら電話がつながっている状態でリモートヒーリングできますから」
 
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「あの人に、この子も家族をみんな失ったんですよ、と私言いかけた」と佐竹。「それは言わないほうがいいです。家族を失った悲しみは、その人それぞれのものです。他人が似た体験したと言われて、慰められるものではありません。だって失ったのはあの人自身の家族であって、私の家族ではないから。他人のことまで考えられるようになった頃は、もう心に余裕ができた時なんです」
佐竹は青葉のしっかりした口調に、ほんとにこの子は凄いと思い直していた。 
「でも・・・・青葉さん、自身にヒーリング必要ではありません?」
「だいじょうぶです。友達とおしゃべりしていると自己ヒーリングできますから」
と青葉はにっこりしながら佐竹に言った。
 
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和実と淳が月曜の朝、東京の自宅に戻ると、胡桃が「おかえり。御飯食べる?」
と声を掛けた。「食べる、食べる。わーいハムエッグ。鮭も美味しそう」
「私もいただきます」
 
「でも私、東京に来て良かったのかもしれないな、と最近思うよ」と胡桃。「こっちって刺激が凄いでしょ」と和実。
「それもあるけど、美容室でむちゃくちゃ鍛えられる。技術も接客も」
「競争激しいからね。そうそう、向こうでちょうど美容師さんたちの散髪・洗髪のボランティアしているグループと遭遇したよ」
「ああ、やってるよね。私も応募しようかと思ったんだけど、体力必要だから無理だって先輩に言われた」
「たしかに、姉ちゃんあまり体力のある方じゃないもんね」
と和実は焼き鮭をつつきながら言う。
 
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「それで埼玉の美容師さんで私と同族の人と知り合っちゃった」
「同族って性別が?」
「うん。MTFさん・・・というよりMTXに近いかも。大手チェーンで何年か修行したあと、今はマンツーマン方式の美容室でデザイナーやってるんだって。名刺もらったよ」
と言って和実はあきらの名刺を見せた。
 
「マンツーマンいいよね。そのうち東北に戻ったら私もそういう所で働きたい。わあ、この人、着付け技能士一級取ってるんだ。私も今年受けようかと思ってるのよね。。。ん?この人、MTなんたらなんでしょ。モデルさんとかどうしたんだろ?」
 
「この人、MTFだけど女性と結婚してるんだよね。その奥さんがモデルになってくれたというか、モデルになってもらったのが縁で結婚したんだって」
「新婚さんだから、たくさん、ごちそう様な話聞いたね」と淳。
「ま、私達も結構おのろけ、話してたけどね」と和実。
 
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「へー。でもそういう人で女性が恋愛対象の人もいるのね」
「けっこう多いよ。私もだし」
「あ、そうか」
淳がハムエッグのハムを食べながら苦笑している。
 
「私の感覚では、MTFさんの恋愛対象って実際には男女半々という気もする」
「そうなんだ!」
 

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「青葉、土日は岩手に行ってきたんだって?」
青葉が月曜日学校に行くと、と日香理が寄ってきて訊いた。
 
「うん。当面月に2回くらい往復しないといけないみたい」
「なんか、たいへんね。向こうの友達と会ってきた?」
「今回は全然会えなかったよ。忙しくて」
「夏休みになったら、しばらく向こうに行ってるの?」
 
「ううん。だって私のおうちはこちらだし、コーラス部の練習もあるからね」
「練習に出てきてくれるなら安心安心。ところで何かおみやげないの?」
「えーっと。昼休みに出そうと思ってたんだけどな」
といって青葉は旅行カバンの中から一関の「ごますり団子」を取り出した。「やった!やはり青葉の近くにいると、おやつにありつける」
 
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たちまち近くの女子が集まってきて、あっという間にごますり団子は無くなった。「これ、美味しいね」と美由紀が言う。
「でしょ。ちょっと渋いおやつだけどね」
「また今度行った時に買ってきてよ」
「いいよ」
 
「ところでさ、青葉」
「なあに?」
「私と美由紀のふたりで先週青葉の身体をじっくり観察したと言ったらさ」
「うん」
「私も観察したいという希望者が」
「はい」「はい」「はい」と、星衣良、奈々美、明日香の3人が手を挙げる。「それで、第二回青葉鑑賞会をしようと」
「あはは」
「また、うちのおばさんの温泉宿で良ければ」と美由紀が言う。
「別にいいけど」
「タッチしてもいいの?」と星衣良。
「いいけど、私タッチされたらタッチしかえすからね」と青葉。
「うん。青葉が間違いなく女の子だってのは、美由紀たちから聞いたから、女の子同士なら、全然OK」と星衣良は言っている。
 
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「じゃ、また今週の木曜日に。木曜がいちばんお客さん少ないのよね。おかげで1泊2食付き1500円で泊めてもらえるから」
「それって、限りなく原価だよね」
「うん。でも施設を遊ばせておくよりはいいからって。親戚特別価格」
「じゃ、木曜日に」
と青葉は笑いながら言った。
 
そんな青葉を見ながら、美由紀はちょっとだけ憧れに似た視線を送っていた。私男の子は苦手だけど青葉と話すのには全然抵抗が無いから、やはり青葉って女の子なんだよなあ、などと内心、美由紀は思っていた。
 
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