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のんびりと御飯を食べ、お茶を飲んでから、部屋に戻った。既に布団が敷いてある。敷布団は4つ、2つずつ向かい合わせで、枕が中央に集まるように敷いてあるが、枕は6つ置いてある。
「真ん中に寝る人は、両側から布団を奪われる可能性があるな」
「けっこう争奪戦になる可能性はあるよね」
「あ、でも私奥側の真ん中に寝たい。奥の右手に和実寝てよ」と梓。
「夜中に夜這い掛けやすいように隣に寝るのね」と奈津。
「もちろん」
和実は自分の身体のことに配慮して、自分の隣に陣取り、他の子を安心させてくれた梓に心の中で感謝した。奈津もうまいフォローである。結局、奥側が奈津・梓・和実、入口側が由紀・照葉・弥生、と並ぶことになった。
「さて、それでは和実を解剖しようか?」と梓。
「あはは」
「みんなで寄ってたかって脱がされるのと、自主的に脱ぐのと選ばせてあげる」
「はいはーい。自主的に脱ぎまーす」
と和実は言うと、まずはセーターとズボンを脱ぐ。
「お風呂でも思ったけど、足のムダ毛とか、きちんと処理してるのね」
「ソイエしてるよ」
「あれ痛くない?」
「痛い。慣れたら痛くなくなるかと思ったけど、何度しても痛いよね」
「やはり美しくなるには涙の努力が必要なのね」
「そうそう。涙が出るよね、あれ」
次に和実はポロシャツを脱ぎ、更にキャミソールも脱ぐ。
「ウェスト62って言ったっけ?」
「60になったよ」
「ひぇー」
「凄いくびれだよね。どうしたらそんなくびれが出来るの?」
「徹底的にいじめるの。ウェストってね、甘やかすとすぐ態度がでかくなるんだよね。だから、ゴムウェストみたいな楽な服を着ない。しばしば少し小さめの服を着て、ボディスーツで締めて着る。ウェストニッパーだとお肉が上下に逃げるだけだから、逃げ場を作らないようにボディスーツを着る。でも最大のポイントはやはりカロリーを気をつけることだよ」
「やはり基本はそれかー」
「ダイエットの失敗はやはり食事をきちんと管理できないことから来るのよね」
「うーん。耳が痛い」
「ということでパッド抜いちゃいます」
と言って和実はブラの中からパッドを抜いてみんなに見せる。
「私、まだバストがAカップではきついけど、Bカップだと余る程度のサイズしかないのよね。だから、パッド入れてCカップ。このパッドはシリコン製だから、触った感触がいいのよね」
「どれどれ」
「わあ、これリアルっぽい」
「でしょ。お店の女の子たちとかなり触りっこしたよ」
「ちょっと待て。他の子は本物バストだよね」
「うん」
「女の子のバストを和実触っちゃうの?」
「触るよ。こちらも女の子の意識だから」
「そうか。和実かなりふつうに女の子だもんね」
「女の子同士なら構わないか」
「ということでブラ外しちゃうね」
と言って和実はブラを外して生胸を晒す。
「ちゃんとおっぱいだよねー」と言って梓が触る。
「私、触られたら触り返すポリシー」と言って和実は梓の胸に触る。
「うっ。まいっか、和実なら。でもこの胸、ふつうに女の子のバストだよ。感触がふつうの子と同じ」
「乳首も大きいよね」と奈津。
「うん。シリコン埋め込んだりした胸だと乳首が誤魔化せないね」
「ねえ、自分のバスト見て自分に欲情したりしない?」
「私、もう男の子の機能は無いよ」と和実は笑って言う。
「ああ、そうなんだ」
「そもそも、女の子の裸とか見ても同性の裸を見てる感覚だから、別に何も感じないしね。ただおっぱいの大きな人とかきれいな形の人見ると、羨ましくなる」
「ほんとに女の子感覚なんだね」
「そして最後、パンティ脱いじゃいます」
と言って、和実は全裸になった。
「隠してると言ったね」
「もう開脚しちゃうね」
と言って和実は布団の上に座り、足をM字開脚してみせた。
「わあ、大胆な姿勢」
「レスビアンでよければ夜のお相手もするよ」と和実は笑いながら言った。
「あ、この割れ目ちゃん、接着してある!」と奈津。
「そうそう。その接着した中に全部隠してるんだよね」と和実。
「うまいねー。ふつうに女の子のお股に見える」
「最初はガムテープで留めてたんだけどね。あれこれ試行錯誤している内にこのやり方に到達した。これ、後ろの開口部の所にあれの先が来てるから、接着したままの状態で、ちゃんとおしっこできるんだよ」
「凄い」
「でもこれお風呂に入ったりして、ふやけて外れないの?」
「自宅のお風呂に2時間浸かって試してみたし、夏にはプールに行って1時間半泳いでみたけど、外れなかったよ」
「わあ、プールにも行ったんだ」
「もちろん女子更衣室だよね」
「当然。女子水着を着るからね。水着を着る時は水着用のヌーブラ入れてた」
「ああ、うちの姉貴も水着用ヌーブラ使ってた。粘着するやつだよね?」
「そうそう」
「よし、この観察結果を踏まえて、またみんなでお風呂行こう」と照葉。「あ、行こう行こう」と弥生。
そういうわけで、一行はまたお風呂に行き、みんなで和実の身体を接近観察や接触観察しながら、1時間ほどおしゃべりした。
お風呂から戻ると「おなか空いた」と言い出したメンバーがいたので、温泉街の中にあるのを確認していたコンビニまでおやつの買い出しに行ってきた。
「でも女の子に見えちゃう男の子って話では、ローズ+リリーの件はびっくりしたね」
「ほんとほんと。ケイちゃんが男の子だなんて思いも寄らなかったよ」
「でも和実はケイちゃんは男の子じゃないの?って言ってたね。10月頃」
「えー?なんで分かっちゃったの」
「うーん。声を聞いた時、男の子の声にしか聞こえなかったんだけどな。たぶん、私が同類だからだよ」
「ああ、同類だから類推ができちゃうんだ」
「私の場合とは逆だけどね。私は元々こういう声だから、自分のこういう性質をカムアウトする前は、わざと男の子の声みたいな雰囲気の声を作って出してたけど、ケイちゃんの場合は、女の子っぽい声を作って出してる気がした。あれはミドルボイスっていって裏声の一種だよ。たぶんまだ変声期に入るか入らないかの頃から、彼女、かなり裏声の発声を鍛えてたんだと思う。あれだけ高い声は変声期が完全に終わってからはなかなかマスターできないと思う」
「相棒のマリちゃんのほうがアルトで、ケイちゃんはソプラノだよね」
「彼女はアルトボイスも持ってるね。曲によって使い分けてる」
「ケイちゃんのことは『彼女』と呼ぶんだね」
「だって、身体が男の子であったとしても、中身は女の子でしょ」
「そうか。それなら He じゃなくて She でいいのね」
「和実も She でいいんだよね」
「お願いします。でも私ね、ケイちゃん宛に激励の手紙出したよ」
「わあ」
「レコード会社宛に出したけど、届くといいな。自分も似た立場だから、辛いの分かるけど、めげずにまた再起して素敵な歌を聴かせてください、と書いた」
「私もケイちゃんの歌はまた聴きたいな」
「取り敢えず録音だけしてた『甘い蜜』って曲は今月下旬に発売されるみたいね」
「うんうん。私あれ2-3枚買うつもり」と由紀。
「私20枚くらい買うつもり」と和実。
コンビニから戻った後、一同はそのおやつを食べながら22時近くまでおしゃべりを続けて布団に入ったが、布団の中で灯りを消してからも更におしゃべりは続き、結局0時近くになって、1人2人と眠りに落ちていった。最後までおしゃべりしていたのは梓と奈津であったようである。
夜中、和実がふと目を覚ますと、隣に梓が居なかった。散歩でもしてるのかな?少し喉が渇いたので、自販機でウーロン茶でも買って来ようかなと思い、部屋の外に出た。廊下を少し歩いて自販機の所に行き、買ってから帰ろうとした時に、外に人影を見た。
「梓?」
「ああ、和実」
「風邪引くよ」
「うん。戻ろうかな・・・」
「館内に入りなよ。相談事なら乗るよ」
「うん。実はちょっと悩んでた」
「ロビーにソファーがあったし、座って話さない」
「そうだね」
ふたりはロピーに行き、梓は暖かいコーヒー、和実はウーロン茶を飲みながら話す。
「梓が悩み事って何だろうなって思ったんだけど、進路のこと?さっき微妙な言い方してたなと思って」
「和実は偉いよね。自分の意志の通りに生きてるもん」
「えー?」
「だって性別を越えるって凄まじく大変なことだろうし、重大な決断をしたんだろうけど、もう完全に越えちゃったよね」
「うん。けっこう塀の上を歩いていた時期あるけど、完全に女の子側に落ちちゃった。でも私は元々あまり悩まないたちだし」
「私、自分では東京に出て、△△△大学あたりに行きたいんだけどね」
「親に反対されてるの?」
「そうなのよね。東京は怖いところだ。女の子ひとりではやれないって」
「怖い所もあるけど楽しい所もあるよ。表裏一体だけどね」
「お金の問題もあるんだよね。東京は生活費高いし、さらに私立は学費も高い。もちろんバイトするつもりだけど、それがまた親としては心配みたいで」
「超危ないバイトしてる私が言うのも何だけど、ふつうのバイトもたくさんあるよ。若い女の子なら」
「だと思うのよね」
「ね。同じ学校に通う友だちがいたら、少し心強くない?」
「え?」
「梓が△△△に行くなら、私も△△△にしようかな。梓も理学部だよね」
「うん。私は数学だけど。情報科学の方にしちゃうかも知れないけどね」
「私は物理だけど、たぶん隣のクラスくらいにならないかな」
「和実と同じ所なら心強い」
「それに東京って昔みたいに一晩掛けて、はつかりで行く所じゃないもん。新幹線で一時間半だよ」
「だよね」
「お金気にしなきゃ日帰りだってできるしね。でもお父さんたちの世代だと東京は夜行列車で行く遠い所という感覚がまだ残ってるんだよね」
「うんうん。むしろ私たちの世代もお金節約で夜行バスで出たりするけどね」
「今度、また梓んちに行こうかな。今度は女の子の格好で」
「えー?」
翌日はまた朝からみんなでお風呂に行き、朝御飯を食べてから、いったんチェックアウトしてから荷物をフロントに預けてスキーに行き、お昼御飯を挟んで14時頃まで滑ってから引き上げた。電車に乗って夕方18時頃各自の家に戻った。
翌日和実は「梓んちに行ってくる」と言って家を出て、途中悠子のアパートで女の子の服にチェンジして梓の家に行った。
「こんにちは〜」
「こんにちは・・・・って、え?和実ちゃん?」と梓のお母さん。
「えへへ。最近実は私、ずっとこんな感じになっちゃってて」
「えー!?」
和実は梓のお母さんに自分がほとんど女の子になってしまっていることを説明した。
「和実、女子制服を着てることもよくあるよね」
「うんうん。最近放課後図書館とか、それで行っちゃってる」
「もう、なしくずし的に女子高生してる感じだし」
「実は親にはそんなことしてるって言ってないんだけどね」
「でも多分お母さんは薄々気付いてるよ。こないだそちらの家に行った時感じた」
「そんな気はするけどね」
梓のお母さんは「でも可愛い女子高生って感じ」などと言って喜んで?いる。梓と並んでいるところを記念写真などと言って撮られた。
「でもこないだからふたりで一緒にお菓子作りとかしてたもんね。和実ちゃんの作ったオムレツとかも、凄く形がよくてきれいで」
「最近、私家でも御飯よく作ってるんですよ」
「偉ーい。梓にも少し覚えさせないと」
「でも最近仲良くしてるから、ふたり、恋人になったのかなと思ってたんだけど」
「私たち友だちですよー」
「女友達だよね」
「そうだったのね」
「それでですね。今日この格好で来たのは、梓の援護射撃したいと思って」
「うん」
「私、大学は梓が行きたいと言ってる△△△大学の同じ理学部に行きたいと思ってるんです。私は物理学科志望で、梓は数学科志望で、科は違うけど、特に1年生の間は学科の区別がなくて、けっこう一緒に授業受けられると思いますし」
「なるほど。昔からのお友達の和実ちゃんが、同じ所に行くんなら心強いわね」
「私たちが男女だったら、よけい心配でしょうけど、女の子同士ですし」
「そうか。ありがとうね。またあらためて話し合ってみる」
「お願いします。今不況だけど、若い女の子のバイトなら、ファーストフードとかファミレスとか、けっこうありますから」
「そうだよねー」
その日は和実は梓と一緒にチョコケーキを作った。
「美味しい!和実ちゃんお菓子作り上手ね!」
「和実はハンバーグとかも凄く上手に、きれいな形でジューシーに焼くのよ。こないだ、和実んちに遊びに行った時ごちそうになっちゃった」
「すごいわね。和実ちゃんを梓のお嫁さんに欲しいくらいだわ」
「ごめんなさい。私、できたら男の人と結婚したいから」
「あ、やはりそうよね」
「一応バイだから、女の子とも恋愛はできますけど」
と和実は笑った。