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父が目を丸くしていたが、その父から車のキーを借りて、胡桃が運転して2人で町に出る。そして駅の近くの駐車場に駐めて、少し歩いたところにある神社にお参りした。
「だけど和実、もうすっかり女の子になってしまった感じ」
「あ、時々自分が男の子だったかもというの忘れてる」
「身体はいじってないんだよね?」
「お姉ちゃんと約束したからね。ホルモンも飲んでないし、去勢も豊胸手術もしてないよ」
「手術はしてなくても胸はあるからなあ・・・・」
「最近は少し見栄張ってCカップ付けてることが多い」
「ブラ付けたまま学校に行くの?」
「うん。校外活動とかでは女子制服着てることもあるしね」
「女子制服を持っているのか!」
「夏に買っちゃった。あ、そうか。お姉ちゃんに見せてなかったね。友だちの前では披露してる。先生にも何度か見せた。先生はジョークと思ってるみたいだけど」
「そっか−。和実、そういう冗談とかをしそうな雰囲気持ってて、深刻さが無いから、真剣に男子制服で通うか女子制服で通うかを悩んだりしているとかには見えないよね」
「あ、そういうの、私は全然悩まない。だから平気で学校でも女子制服着てる」
「今の和実見てて思った。あの時約束したことで、男子制服で卒業まで通えってのは、解除してあげるよ。もう女子制服でずっと通いたいと思うようになったら、それで通っちゃってもいいよ」
「取り敢えず、家を出る時と、家に帰る時は男子制服を着ておくことにする」
「なんか、微妙だなあ」
と胡桃は笑った。
「お母ちゃんは、薄々気付いてるよね。和実の性別のこと」
「あ。そんな気はする。でもお父ちゃんは知ったらショックかもね」
「うん」
「お父ちゃんは、自分と同じ電気関係の仕事して欲しそうだもんね。
でも私、ハンダ付けもできないからなあ」
「理学部を志望にしてるのは、そのあたりの妥協?」
「素粒子論とかの話が好きだから」
「ああ、あのあたり私はさっぱり分からないわ」
お参りをした後で、境内の甘味処で、おしるこを食べていたら、ちょうど梓と奈津が店内に入ってきたのを見た。「梓〜!」と言って手を振った。
「和実!なんて可愛い格好してるのよ?」とふたりは近づいてきて言った。
「姉ちゃんに着付けしてもらった。あ、こちら姉ちゃんね。美容師の学校に通ってるんだ」
胡桃が2人に会釈する。奈津は「初めまして」、梓は「御無沙汰してました」
と挨拶した。
「梓ちゃん、すっかり美人に成長したね」と胡桃は言う。
小さい頃は、梓と和実はよく相互の家に遊びに行っていたのである。
「でも振袖凄いなあ」
「あ、これ着付け練習用らしいの。ヤフオクで1万6千円だったって」
「へー。振袖がそんなに安く買えるのか!」
「姉ちゃんが今着てるのも似たような奴だよね。姉ちゃん今年成人式だから、成人式用の振袖は別途買ってるんだけどね」
「あれは本番までは着るなって、母ちゃんに言われてるのよ。汚したら大変だからって」
「こういう人混みに出てくると確かに何かの事故で汚したりする危険あるよね」
「和実、もしかして自分の成人式でも振袖着る?」と梓。
「もちろん、そのつもりだよ」と和実。
「私、高校卒業したら完全に女の子生活するつもりだし」
「ああ、やはりそうだよね」
「性転換もしちゃうの?」と奈津。
「20歳まではするなって、姉ちゃんには言われてるんだけどね」
「高校卒業したらしてもいいよ」と胡桃は笑って言った。
「ねえ・・・和実、私たちと一緒にスキーに行かない?さっき、奈津とふたりで『行こうか』なんて、唐突に計画立てたんだけど」
「いつ?」
「土日は絶対混むよね、ということで5日6日なんだけど」
「あ、それなら行ける。3-4日はお店忙しいけど、月曜火曜なら休めるよ」
「お店はいつから営業なの?」
「一応明日から。でも明日はランチタイムの11時から2時まで3時間限定営業。3〜4の土日は通常営業になる」
「よし。あと照葉は当然引っ張っていくとして、弥生と美春にも声掛けてみるかなあ」
「照葉は引っ張っていくのか」
「当然。和実もそうなんだけどね」
「じゃ私が渋っても強引に連れて行かれてたのね」
「もちろん」
結局スキーに行くメンバーは、和実・梓・奈津・照葉・弥生・由紀の6人となった。美春は年末に体調を崩したということでパスであった。宿は取れなかったらビバークだね、などと無謀なことも言っていたのだが、幸運にも1部屋取れた。和室で、元々2人部屋らしいのだが「女の子6人で寝れますか?」と聞いたら、布団はたぶん4つくらい敷くのが限界ですが、女の子ばかりなら無理すれば寝れるかもということだったので、それでいくことにした。元々ちょうどキャンセルが1件出たのをドロップキャッチしたようで、学生さんでもあるし部屋代は3人分でいいです、などと旅館側は言っていた。
盛岡駅から電車で最寄り駅まで行き、泊まる旅館の送迎バスで旅館に行き、荷物を置いた。早速スキーウェアに着替えて滑りに行く。
みんな子供の頃からスキーはしているので、滑るのは得意である。中級コースに行って滑りまくった。由紀だけが、中学まで九州や四国にいて、高校に入る年に岩手に来たのでまだ初心者で、ボーゲンで滑っていた。
「町から離れていて少し不便なせいかな。人が少ないね」
「おかげで滑りやすい」
「私も転びやすくていい」
「でも新雪が多いから、みんな気をつけようね」
全員携帯は持っているのだが、ここはかなり電波が弱い。通話がつながらないこともあるので、ショートメールで連絡を取りあってお互いの所在を確認しつつ遊んでいた。和実は梓と一緒に初心者の由紀に付いていた。照葉は元スキー部だけあって、中級コースが物足りないと言って上級コースも1度滑ってきたようであった。
16時半で日没になるので16時で上がることにして予め決めていた集合場所のヒュッテに集まる。弥生が少し遅れてきたが、全員で16:20の旅館街方面のバスに無事乗ることが出来た。
「御飯まで時間あるし、お風呂行ってこよう」
「行こう行こう」
6人で、ガヤガヤおしゃべりしながら大浴場に行く。何気なく全員で姫様と書かれた方の暖簾をくぐり、ロッカーを何となく決めて服を脱ぎ始めた時「え?」と照葉が言った。
「ちょっと。和実、何でこちらにいるの?」
「え?だって、私女の子だし」と和実。
「えー?」
「じゃ、先に脱いじゃうよ」と言って和実は笑顔で「チャラララララ」などと『オリーブの首飾り』のメロディーを歌いながら服を脱ぎ始める。
セーターを脱ぎ、ポロシャツを脱ぐ。キャミソールの胸の所が膨らんでいる。ズボンを脱ぐ。ショーツのところにみんなの視線が集まるのを感じる。無論そこに盛り上がりは無い。キャミソールを脱ぐ。ブラジャーとショーツだけの姿になる。どう見ても女の子のボディラインだ。
「きれいな身体付きしてるね!」と弥生が感嘆したようにいう。
「へへへ」と言って和実はブラの中からパッドを取り出す。
周囲からホッとしたようなため息が漏れたが、続いて和実がブラを外すと
「えー!!?」
という声をみんな出してしまった。
「和実、おっぱいあるんだ!」
「えへへ。小っちゃいけどね」
「ホルモン飲んでるの?」
「それは姉ちゃんとの約束で高校卒業するまでは飲まないことにしてるんだよねー。エステミックスは飲んでるけどね」
「エステミックス?」
「あ、知ってる。プエラリア・ミリフィカが入ってるサプリだよね」
「そうそう。コンビニで買えちゃう。でもエステミックスだけではこんなに胸は大きくならないよ。これはちょっと特殊なやり方で作り上げたの。危険なんで、やり方は秘密」
「へー。なんか凄い」
「さーて。パンティも脱いじゃおう」
と言って、和実はあっさりショーツも脱いでしまう。
「えー!?」とまたみんなの声。
「ふふふ」と和実。
「おちんちん、取っちゃったの?」
「割れ目ちゃんがあるじゃん!」
「取っちゃいたいけどねー。それも高校卒業するまではダメと姉ちゃんから言われてるの」
「20歳までダメと言われてたのをこないだ高校卒業したらOKってことにしてもらったんだよね」と梓。
「そうそう」
「でも、それどうしたの?」
「どうもしてない。隠してるだけ」
「隠してる?」
「ここではあまり見せられないから、お部屋に入ってから存分に観察して。でも、これなら女湯に入ってもいいでしょ?」
「うん・・・まあ、いいだろうね」
「万一の時は警察に通報してもらってもいいから」
「いや、その時はガードして部屋まで連行してあげるけど」
「ありがとう」
他の子も服を脱ぎ、みんなで浴場に入る。取り敢えず和実の性別問題は棚上げにして今日のスキーの話で盛り上がった。
「私今日1日でかなり上達した」と由紀。
「ちゃんとクリスチャニアできるようになったもんね、由紀」と和実。
「和実も梓も教え方うまい。私去年もスキー教室行ったけど、全然覚えきれなかったのよね」
「よし、それじゃ明日は上級コースに行こうよ」と照葉。
「それは無茶−」
「だいたいあの傾斜を下から見ただけでも、やだーって感じだよ」
「怖くない?あんな急斜面」
「そのスリルがたまらないのよ。ジェットコースターより楽しいよ」
「上級コースはさすがにパス」
お風呂から上がった後は、そろそろ食事ということだったので食堂に行き、すき焼き風の卓上鍋の料理にお刺身などの食事を頂きながらまたおしゃべり。
「みんなもう志望校決めた?」
「私はお茶の水女子大とかだめかな〜って思ったんだけど」と和実。
「おお」
「やはり入れてくれなさそうだから、今考えてるのが東工大・△△△・□□」
「和実、成績上位で安定してるもんね」
「うち貧乏だから、私立は厳しいかなと思ってたんだけど、自分で学資稼げる目処が立ってるから△△△か□□もいいかなって思うのよね」
「だよねー。あのバイト、けっこう時間的な効率もいいんじゃないの?」
「そう。それが一番なのよ。物理科志望だから、あまり拘束時間の長いバイトは学業との両立が難しくなっちゃうのよね」
「私も東京に出たいなと思ってる」と由紀。
「子供の頃からあちこち引っ越してきたからね。もう引越ついで」
「由紀も理系だよね」
「うん。東京理科大に行きたいんだけどね。中学の時に尊敬していた先生が東京理科大の出身だったのよ」
「わあ」
「でも今の成績では厳しいのよね」
「それは頑張ろうよ」
「そうだね」
「私も東京に出たいんだけどなあ」と梓。
「でも東北大あたりになるかも」
「私は順当に岩大狙う」と照葉。
「私も同じく」と弥生。
「私まだ何にも考えてない」と奈津。
「いや、さすがに何か考えないとやばいよ」と照葉。