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■神様との生活・星編(4)

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星はクラブ活動などはしていなかったが、真那は小学5年生頃からずっとコーラス部に入っていて、特に中学生になって以降は、時々帰りが遅くなることがあった。しかしひとりで帰る時も、バス停を降りてから自宅まで、ずっと星と「脳内で」会話していることが多かったので、不安を感じたことは無かった。
 
村は星の「お母さん」が事業を興したおかげで、この時期は朝6時から夕方8時までおおむね1時間に1本バスが走る程度には開けていたのだが、それでも普段は変質者も出ないほどの寂しさであった。しかしこの日、真那が歩いていると背後に足音が聞こえてきた。
 
真那はバスを少し降りる前から(自宅にいる)星に呼びかけて、「脳内会話」
をしていたが、この足音を気にして『ね、星、付いてきてるの知り合い?』
などと訊く。
 
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『見たことない人。この村の人じゃないよ。夏なのにコート着てて変』
『コートの下は裸だったりして?』
『一応ふつうの服を着てるね』
『・・・星って、服の下を見れるのね?』
『うん』
『私が服を着ててもヌードを見れる?』
『見ようと思えば見れるけど、いちいち見ないよ』
『そっか、いちいち見てたらきりがないよね』
 
などと会話をしていたら、足音が近づいてきた。
『星?』
『足を停めて』『うん』『振り返って』『振り返るの?よし』
と言って振り返ると、付いてきた男は一瞬ギョッとした様子であったが、すぐに思い直したように、真那に近づいてきた。男が真那の至近距離まで来た時、星は真那を自宅前に転送した。
 
へ?という男の顔。そして男は「ぎゃー!」と物凄い叫び声を上げて、県道の方へ走って逃げた。幽霊にでも会ったと思ったのだろう。星は、こいつはもうここには来ないだろうね、と思って微笑んだ。真那の方は自宅前にいたので少し驚いたが、気を取り直して、鍵を開けて中に入り「ただいま」と言った。
 
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村はこのようにして神様に守られているのである。
 

ふたりが高校生の頃。それは夏のある日だったが、ふたりは星の自宅で音楽など聴きながらおしゃべりをして楽しんでいた。その日も星は女装だった。真那はわざとべたべた星の身体に触り「星、女の子の時は私よりおっぱい大きいね」
などと言いながらバストタッチしたりしていた。この時期、真那も星もCカップくらいのバストを持っていた。
 
そんな時、星の部屋のパソコンに自動表示にしていたネット放送で南紀勝浦の温泉のCMが流れた。
 
「あ、ここきれいね」と真那が言うと
「ああ、僕も1度行ってみたいって思ってた」と星が言う。
「あ、それなら連れてってよ」
「今から?」
 
「うん。できるでしょ?」
「まあ、できるけど」
「行きたい、行きたい。今、星も女の子だから一緒に入浴できるよね」
「そうだなあ。じゃ行こか?」
「わーい」
 
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お風呂の道具を用意して、着替えも用意して(真那の着替えは真那の家にふたりでチョイと行って取ってきた)出かけようかと思ったところで、海が居間で昼寝していたことに気がついた。
 
「置いてく訳にはいかないよね」
「光ちゃんと月ちゃんは?」
「どちらも友達の家に遊びに行ってる」
「じゃ、海ちゃんは連れてく?」
「仕方ないね。おーい、海、ちょっと起きて」
 
眠そうにして海が目を開けた。
 
「海、お姉ちゃんたち、今からちょっと大きなお風呂に行くけど、海もおいで」
「あれ、今日は星お姉ちゃんだ」
「うん。私も真那も今日は女の子だから、お前も今日は女の子になって」
「わーい。女の子になるの?海、割とあれ好き」
 
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「じゃ、女の子にするよ。はい」
「あ。おちんちん無くなった! えへへ。女の子になっちゃった。スカート穿いちゃおう」
「パンツも女の子のパンツ穿いて」
「うん」
 
何だか海は嬉しそうに女の子の服を身につけている。しょっちゅう女の子に変えられているので、最近は海専用の女児服や下着も用意してあるのである。真那が少し心配して「あの子をひょっとしてオカマちゃん教育してない?」
などと言ったが、星は「まあ、思春期になったら自分の性別は自分で決めるでしょ」などと言っている。
 
星は命(めい)の所に電話して「真那と一緒に、海も連れて南紀勝浦まで温泉に入りに行ってくる」と言った。
 
「ホテル浦島?」
「そうそう」
「じゃ、こちらから予約してあげるよ」
「お母ちゃん、サンクス」
 
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命(めい)は電話をつないだままネットで操作し、ホテル浦島のチケットを確保、即決済した。予約番号を星に伝える。
 
「じゃ、遅くならないようにしなさいね」
「はーい。帰りは真那を家に送り届けてくる。あと、光が僕たちより先に家に戻ったら、お母ちゃんとこに自動転送するね」
「ほい」
 
電話を切ってから、星は真那と海に「じゃ行くよ」と言う。次の瞬間、三人は南紀勝浦のホテル浦島前にいた。予約番号を言ってチェックインし、中に入る。まずは有名な「忘帰洞」に行った。
 
「わあ、ここ凄い」と真那が本当に感動しているようである。星は海の手を引いて入っていたが、「ほんと、きれいだね」と言って、展望も楽しみつつ、楽しそうにしている真那の様子を見ていた。
 
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真那はせっかくだから、全温泉制覇するなどと言っていたのだが、実際にはもう忘帰洞だけで、充分満喫・満足した雰囲気であった。ふたりは海を遊ばせつつ、たくさんおしゃべりをした。いつも話していて、話題なんて尽きている気もするのに、ふたりで話していると話題がどんどん生まれてくるのが不思議であった。
 
結局、ここに入っている内にけっこう遅い時間になったので、あがり、そのまま真那を自宅に送り届けて、星は自分の家に戻り、海を男の子に戻した。
「星お姉ちゃん、また今度女の子にしてね」
「うん、そのうちまたね」
 

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星たちが帰宅する1時間ほど前、光が友達のお母さんの車で自宅に送り届けられた。灯りがついていないので、「あら?誰もいないのかしら?」などと言いつつ、光を降ろす。光はトットットと走って行き「ただいまあ」と言って玄関を開けた。
 
瞬間、光の姿が消えた。
 
え?と驚いて、お友達のお母さんは玄関の所に駆け寄るが、今いたはずの光の姿はどこにも無い。まさか何か事故でも起きた?と青くなる。
 
が、すぐに携帯が鳴った。見ると、命(めい)の携帯からである。
「あ、どうも。うちの光を送り届けてくださいましてありがとうございました」
「あ。。。えっと、光ちゃんは?」
「はい。ここに居ますよ」
「えっと、今、御自宅ですか?」
「いえ、まだ職場です。ほら、光、ちゃんと御礼言いなさい」
と命(めい)が言うと
「きょうは、あそんでくれて、ありがとうございました」と光の声。
「うん。また遊ぼうね」
と言って、友達のお母さんは電話を切ったが、自分の車に戻りながら
 
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「確かにこの家は不思議なことが起きるのね」
とつぶやいた。
 

その翌日の早朝、真那は寝ていたのだが「真那」と自分の名を呼んで肩をゆする者があった。「星?」と言って真那は飛び起きる。
 
「どうしたの?こんな夜中に」
「朝の忘帰洞を見に行こう。あそこ朝5時からやってるんだよ。日出を見よう。僕たちのチケットは1泊だから、今日のお昼までは入れるんだよ」
 
「うん、行く行く」と言って真那はバタバタと準備をして、出かけた。ホテルに移動したのが5時少し前であった。ふたりは手早く浴衣に着替えてお風呂へ行った。開くのと同時に入る。
 
そして温泉に浸かっていると間もなく、熊野灘に太陽が昇ってきた。真那は息を呑んでその美しい日出を見ていた。
 
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かなり日が昇ってから、やっと真那は口を開いた。
「きれいだった」
「なんか僕も感動した」
 
真那は微笑んで
「こんなきれいな日出を一緒に見られるって、女の子同士もいいかもね」
などと言った。
「海じゃないけど、女装が癖になったらどうしよう」と星。
「既に癖になってる気がするけど」と真那はまた微笑んで言った。
 

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ホテルのお部屋にいったん戻って休んでいたら、真那が思いついたように言った。
 
「ねえ、星、ここ1泊のチケットを取ったんなら、晩御飯も付いてたのかな」
「付いてたよ」
「わあ、惜しかった! ここの御飯って凄く豪華だよね」
「豪華だったよ」
「食べたの?」
「真那の分は取ってあるよ。真那んちの冷蔵庫に・・・今転送した」
「わぁい! 帰ったら食べよう。星って、まるでドラえもんみたい」
「ふふ。僕がこの世にいる間は真那のドラえもんになってあげてもいいよ」
「私の恋人にはなれないの?」
 
「ごめんね。僕は120歳になった時に1度だけ、人間の女の子と妊娠するまでセックスすることしか許されていないから。それ以外ではセックスもオナニーも禁止なんだよ」
「神様も不便ね。まだ100年以上先か・・・・私はもう生きてないから、その女の子にセックスの権利は譲ってあげるわ」
「ひょっとしたら真那の子孫かもね」
 
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「ということは私は誰かと結婚しないといけないのかな」
「応援してあげるよ。真那がどんな男の子と結婚しても」
「辛くない?」
「仕方ない。僕、神様だから」
「そうだね」
「でも、真那のこと好きだよ」
 
真那は微笑んでその星の言葉を受け止めた。
 
「ね、玄武洞にも行かない?」
「うん」
 
ふたりはまた一緒に部屋を出て、忘帰洞と並んで有名な天然洞窟温泉の玄武洞に行った。
 
洞窟に白い湯煙が籠もっている。その中でゆったりと入浴する。ふたりはしばし無言で入浴していた。そして真那は口を開いた。
 
「私も星のこと好き」
 
早朝であたりに人影は無い。星は微笑むと、真那のそばに身体を寄せ、すばやく唇にキスをした。
 
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「続きはまた今度」と星。
「絶対、続きしてよ」と真那は真剣なまなざしで言った。
 
「うん」
「約束破ったら、星が女湯に入ったって、言いふらしちゃうからね」
「ふふふ、それ今更平気だけど、神様は約束守るよ」
 
「神様とした約束を人間が破ったら、どうなるの?」
「そんな恐ろしいことは考えない方がいいよ。うちのお母ちゃんが先代神様とうまく付き合っていて、真那が僕とうまく付き合えているのは、ふたりとも誠実だし無欲だからだろうね。自分を利する願いは絶対に言わないし」
 
真那は頷いた。
 
「でも、星はお父ちゃんとお母ちゃんというのを逆に呼ぶんだね」
「月と光と海のお父ちゃんから僕は生まれたから。自分を産んだ人はお母ちゃんだもん」
「家の中でややこしくない?」
 
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「月とか、小さい頃、頭の中が混乱の極致だったみたい」
「そりゃ、混乱するよ」
「月は小さい頃、女の子は女親から生まれて、男の子は男親から生まれるのかと思ってたって」
「それは、星の家じゃなくても、小さい頃そう思い込んでいる子いるね」
 
「でも、もうお母ちゃんは、完全な女に変えちゃったからね」
「海ちゃんの性別、どうするつもり?」
「本人次第だよ」
「神様でも先のことって分からないの?」
 
「未来はね、来るものじゃなくて、選ぶものなの。たくさんのパラレル・ワールドの中から、人が自分で選択するんだよ。希望を持つ人には幸福な未来が、絶望する人には不幸な未来が訪れる。海が男の子として生きて行く未来もあるし、女の子になっちゃう未来もあるよ」
 
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「私が星と結婚する未来もある?」
 
星は一瞬遙か遠くを見るような目をした。そして少し微笑んで目を瞑って言った。
「どうだろうね・・・」
 
真那はそんな星の表情を見て満足した。
 
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