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■神様との生活・星編(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-03-31
 
それは理彩と命(めい)の4人目の子供・海が3歳の頃のことである(2030.夏)。朝から海は悪戯をして、理彩に叱られていた。
 
「そんな悪いことしてたら、おちんちん取っちゃうよ」などと理彩が言う。その時、図書館に出かけようとしていた高校生の星が
「ん?おちんちん取るの? はい」
と言ったら、海のおちんちんが消えて、割れ目ちゃんができていた。
 
「あ、おちんちん無くなった・・・・」と驚いたように海。
 
「ちょっと、星!」
「あ、僕もう出るから」と言って星は出かけてしまう。
 
「えーん、おちんちん無くなっちゃった」と海が泣いている。
「もう。星ったら。。。。。ごめんね。海、星お兄ちゃんが戻ってきたら元に戻してもらうからね」
と理彩が慰めている。もう何を叱っていたか忘れている雰囲気だ。
 
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するとそばにいた幼稚園生の光が
「海、別におちんちん無くても大丈夫だよ。私だっておちんちん無いんだから。ほら、私のスカート、穿いてみない? おちんちんあるとスカート穿けないんだよ」
などと言い出す。
 
「スカート?穿いてみようかな」などと海が言い出すので、光は自分のパンティを1枚持ってきて「おちんちんが無い子はこういうパンティ穿くんだよ」などと言って穿かせ、更にスカートも穿かせた。
 
「わあ、海、可愛いよ」と光。
「ほんと? 僕ね、ちょっとだけスカート穿いてみたかった」
「おちんちん無くなったからスカート穿けるね。そうだ。私のシャツも貸してあげるね」
と言って、キティちゃんのTシャツを持ってくる。
 
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「あれ、これなんか可愛くて好き」
「スカート穿いてる時は、トイレもちゃんと女の子トイレに入って、座ってトイレするんだよ」
「うん。僕、おしっこしてきてみる」
などと言って、楽しそうにトイレに行く。そしてしばらくして戻ってくると、
 
「どうやっておしっこすればいいのか分からなかったけど、何とかできた」
と言って、嬉しそうである。
「でも、おしっことびちったから、拭くの大変だった」
「そうそう。おちんちん無い子はおしっこした後、ちゃんと拭くんだよ」
「へー」
 
海はこの「おちんちんが無い」状態が割りと気に入ったみたいで、光と一緒に人形遊びなどを始めた。
 
「ね、ね、あのままでいいのかな?」
などと、理彩が机で作付けのシミュレーション計算をしていた命(めい)に訊く。
 
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「まあ、本人楽しんでいるみたいだし、どうせ星が戻ってくるまでだから、たまにはいいんじゃない?」
などと命(めい)は笑って言った。
「でも、あれ癖になっちゃったら、どうしよう?」
「ま、その時はその時だよ」
 

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この日は、光はお友達と町のプールに行く約束をしていた。10時頃、お友達がお母さんと一緒に迎えに来たのだが、海も付いていきたいと言い出した。さすがに今日はちょっとヤバイかとも思ったのだが、お友達のお母さんが
 
「あら、うちの子も妹連れですし、一緒に面倒見ますよ」などというので、若干の不安を覚えながらも、お願いして送り出した。
 
一行は男女混合で数台のワゴン車に分乗して近くの町のレジャープールまで行った。現地についてから更衣室に入る。お友達のお母さんは着換えている最中にふと、海が光にピタリと付いてきているのに気付いた。
 
「あれ、海ちゃん、こっち入って来ちゃった?」
「いいんじゃないの?子供だし」と別のお母さん。
「そうだね」
「あれ、海ちゃん、女の子水着なんだ」
「うん。光が去年着てたのを貸してあげたんだ」と光。
 
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「へー。あれ?おちんちんが付いてないみたいに見える」
「今、海は女の子だよ。おちんちん、今朝悪いことして取られちゃったの」
「あらあら」
 
その日は光の友達の妹と「同い年の女の子同士」で、とても仲良く遊んでいたらしい。このくらいの子供同士には言葉も不要である。ただ見つめ合うだけで気持ちが通じて、仲良く遊ぶことが出来る。一緒に水遊びしたり、ボール遊びしたり、またボートに乗って流れるプールを巡回していたらしい。
 
かなり泳いだ後で、プール付属の温泉に入ろうということになり、みんなでそちらに移動した。お風呂に入るのに、みんな水着を脱いで裸になる。
 
「あら、海ちゃん、ほんとにおちんちんが無い」
と友達のお母さんは、海のお股に割れ目があるので驚いたようであった。
 
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「今日は海は私の妹だもん」などと光が言う。
「あの家はいろいろ不思議なことが起きるのよ。気にしない気にしない」
と言ったのは、理彩の従妹に当たる人であった。
 

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星が高校生の頃、星は先代神様から言われたからといって、突然本家の蔵を調べ始めた。(2029.夏)
 
「ちょっと村の古い資料が入っているはずだと聞いたもんで」
と星が言うと、本家のおじさんは
「ああ。好きなだけ調べてくれ。俺もここには何が入っているのか分からん。もし値打ち物の壺でも見つかったら教えてくれ」
などと言っていた。
 
星の調査は2週間がかりであったが、目的のものが見つかり、星は満足そうであった。神職さんにも来てもらい、本家の人と命(めい)も一緒に見た。
 
「これはね、先代神様がまだ人間をしていた頃に村のあちこちの家の蔵から発掘して、収集した資料なんですよ。自分ちには蔵とか無かったから、友達だった斎藤さんちで預かってもらったんだって」
「へー」
「歴代の神職さんや庄屋さん・名主さんとかが書いたものだけど、300年前に神の子で神職を務めた人が書いたものが、かなりを占めているという話」
「この『鶴龍』の署名がある文書ですね」
「そうそう。鶴龍さん。鶴は千年・亀は万年で、長生きするようにというので名前を付けられたらしいけど、あの人、異様に元気で、いまだに那智でピンピンしてる」
「まだ生きておられるんですか!」
「那智でも最長老の部類だから、大きな神社の神様でも、あの人には頭があがらないみたい。パワーも凄ぇし。あの人きっと本当に1000年生きるよ」
「へー」
 
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「でも先代神様って、生まれて1年で昇天したんじゃなかったの?」
「僕と同じでね、産んだ人や育ててくれてた人が寂しがってたから、神様としての最低限のイニシエーションを終えたところで地上に戻って30年ほど一緒に暮らしたらしいよ。大正天皇が亡くなったすぐ後に産みの親が亡くなったので、その後、自分も天に戻ったと言ってた」
「へー」
 
「今の神様は産みの親から放置されて幼い内に肉体が滅んでしまったんだよね」
「わぁ」
「だから最初は本人、自分の産みの親のことも恨んでいたと言ってた」
「うーん」
「でも、色々辛かったんだろうなと思い直して、サポートするようになったみたい。だから、お母さんの側は幽霊だと思ってたみたいで、水子供養とかされたと言ってた」
 
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「お前って、幽霊じゃないよね?」と命(めい)は星に訊いた。
「幽霊に見える?」
「見えない」
 
「しかし、これはすごいですね」と神職さんが大量の資料を見て興奮している。
「この系図で見ると、この村の神職は元々斎藤家だったんですね」
「斎藤って苗字は元々神職の家系ですもんね。斎く藤原。昔の中臣神道に繋がる家系ですよ」
「でも300年前の神様が辛島家から出たので、その後、辛島家から代々神職を出してたんですね」
「辛島という苗字も神職の家系ですよね。宇佐八幡の辛島とか」
「しかし、こんな家訓があったなんて・・・・」
と神職さんが見たのは、その300年前に神の子で禰宜(ねぎ)を務めた鶴龍さんが書いたものであった。
 
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・壬辰の年には、斎藤家または辛島家の20歳の女子に火祭の踊りをさせるべし。その結果神の子を産むので、みんなで大切に育てるべし。
 
・壬辰の年に20歳前後の子が踊れるよう、壬申・癸酉・甲戌年頃にどちらかの家系で子供が生まれるように努力する。
 
・壬辰の年は、多少年齢がずれてもよいから、どちらかの家の女子(どうしてもいない場合は男子でもよい)に踊らせるべし。ただし男子に踊らせる場合は、その結果子供を産むことになり、一時的に男の機能は無くなることを本人に納得させるべし。
 
「こういう面倒なことは、神職家系である、このふたつの家で出来るだけ引き受けようということなんでしょうね」
「年明けてすぐの時点で18歳ということは数え年20歳ですもんね。たいてい」
「あ、その数え年20歳を満18歳に改訂したのはうちの親父です」と神職さん。
 
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「この家訓がちゃんと伝えられ守られていたら、今の神様が生まれた時のような悲劇は無かったんでしょうね」と命(めい)は言った。
「明治維新の混乱でかなり訳が分からなくなったしね」
「太平洋戦争で更にまた訳が分からなくなってますよ」
 
「ここの神社も一時は中央から派遣されてきた神職がやってましたからね。その人が失踪しちゃった後、うちの曾祖父が申請して神職になることができたんですが。多分そんな時期にこういう資料も忘れられてしまったんでしょうね」
 
「この資料、僕ができるだけパソコンに打ち込んでデジタル化するよ。でも、昔の字が読めないや」
「星君、私が教えますよ」と神職さん。
「お願いします。自分が昇天するまでには全部整理し終えたい」と星。
 
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「お前、いつ昇天するの?」と命(めい)は訊いた。
「51歳の誕生日、という約束。まあ、神様の世界に転勤するようなものだから、その時は、みんなで送別会でもしてよ」
「そっか。転勤みたいなものか・・・・」
「この世界での実体は無くなるけど、霊体でならいつでも出て来れるし」
「分かった」
 
「なんか物凄い会話を聞いた気がした」と本家の人。
「星君とはこの手の会話をいつもしてますよ」と神職さんは笑って言った。
 
「あ、そうそう。値打ちものの壺は出てこなかったけど、この茶碗は銘品ですよ」
と星が古ぼけた箱を出してくる。
「ああ、それうちのじいさんが大事にしてた。売ったのかと思ってたけど蔵に入ってたのか。高いものなの?」
「そうですねえ。名のある鑑定士に鑑定させた方がいいけど、1億円はすると思う」
「えー!?」
 
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それは命(めい)と理彩が星と一緒に吹田市の家に住み始めた頃のことである(2013.6)。この家はロケーションも素晴らしく、家賃もとっても素晴らしかったが、家が古いのが唯一の問題点であった。中でも、理彩が不満を言っていたのはお風呂である。
 
外釜方式で、家の外に出なければ点火できないし、湯温調整が難しい。誰かが釜係にならないといけないので、ひとりで入浴することができない。
 
「そういえばシャワーも無かったんだよなあ」
「仕方ないよ。この場所・この広さでこの家賃だもん」
「階段、けっこうグラグラしてる板があるよね」
「踏み外さないようにね」
 
育児の手伝いに、週交替で理彩の母と命(めい)の母とが出て来てくれているので、しばしば、そちらに釜の調整をお願いして、命(めい)と理彩のふたりで、あるいは星を入浴させつつ、3人で一緒にお風呂に入っていた。しかし、その日はどちらもいなくて、3人だけであった。
 
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「命(めい)、お風呂入ろうよ」
「今日はお母さんいないから、交替で入らなくちゃ」
「面倒だな」と言って、理彩はお湯を見てくる。
 
「ねー、今少し熱めなんだよね。これなら3人で入っている内はまだ湯温維持できると思うなあ」
「そう?じゃ、一緒に入ろうか」
 
命(めい)が星を抱いて3人でお風呂に入った。水平に仰向けでそっとお湯に浮かべると星は気持ち良さそうにしている。ご機嫌だ。
 
「あ、見て見て。星のおちんちんが立ってるよ」
「へー」
「命(めい)のおちんちんも立つといいのにね」
「今は授乳中だから無理しなくていいよ」と命(めい)は笑って言う。神様からは授乳が終わった頃、男性機能は回復すると言われている。
 
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交替で星を抱っこして身体と髪を洗う。こういう時のふたりのルールは、命(めい)が星を抱っこしている時に、理彩が命(めい)の身体を洗い、理彩が星を抱っこしている時に、命(めい)が理彩の身体を洗うのである。新婚さんならではの流儀である。命(めい)の髪は理彩が洗ってあげたが、理彩は自分の髪は自分で洗うといった。
 
「洗ってあげるのに」
「ううん。いいよ」
「なんで?」
「微妙な問題」
 
しかし、星をあやしつつ、少々Hなことなどもしながら入っていたら、少しお湯がぬるくなってきた。
「命(めい)〜、お湯がぬるくなってきたよぉ」と理彩。
「やっぱり無理だったか。どちらが火をつけに行く?」と命(めい)。
「ジャンケン」
「よぉし。ジャンケン、ポン。勝った」
命(めい)がグー、理彩がチョキである。
 
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「えーん。負けちゃった。でも今夜は雨が凄いんだよお。命(めい)替わってよ」
「今ジャンケンしたのに。それに僕、風邪引いたら、授乳に影響するから」
「私、来週試験だから、今風邪引きたくない」
 
などと押し問答をしていたら、ポッという音がして風呂釜が点火した。
「え?」
「火がついた」
「なんで?」
と言ってからふたりは星を見た。ニコニコ笑っている。
 
「星が火をつけたの?」
「どうもそうみたいね」
「便利な子だ! よしよし、またやってね」
などと理彩が言っているが命(めい)は
「だめだめ。星、こういう時はお母ちゃんたちが困っていても勝手に助けないこと」
と星をたしなめた。
 
「なんで〜?」と理彩は言うが
「神様の力はこういうことで安易に使ってはいけないの。人が自分でできることは、人にやらせなきゃダメ。人知を尽くしてできないことを神様はしてあげるの」
と命(めい)は言った。
 
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