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■少女たちの七五三(4)

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「結局、店員さんが千里を見て女の子と思って、女の子の服を用意したってこと?」
と恵香が言う。
 
「でも女の子ですよね?とか確認しないわけ?」
と玖美子が訊くが
 
「店員さんが性別の判断に迷ったら訊くかもしれないけど、女の子にしか見えなかったら、いちいち訊かないと思う」
と蓮菜が言う。
 
「つまり、千里はまさか男の子だとは思いもよらないような子だったのか」
と恵香。
「私は千里が男の子だなんて思ったことないよ」
と蓮菜は言った。
 

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「まあそういう訳で、これがその時の記念写真」
と言って、千里はタマラ、千里・玲羅、ルアナ姉妹、沙苗とその親たちが並んだ記念写真を見せる。
 
「おお、やはり千里は女の子している!」
と声があがる。
 
「それも後でコピーさせて」
「OKOK」
 
「でもタマラちゃんとか、ルアナちゃんたちとか懐かしいね」
と蓮菜は言う。タマラの一家は今年の春室蘭に、ルアナの一家は小学2年生の時に根室に引っ越していった。タマラのお父さんは会社勤めで転勤だが、ルアナのお父さんは漁船の乗組員で、乗っていた船が廃船になってしまったので、新たに乗れる船を求めて移動したのである。
 
そして沙苗は・・・。
 

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「でも実際問題として、私、千里が男の子の服を着ている写真というのを見たことがない」
と恵香が言う。
 
「私も見たことない」
と千里本人も言っている。
 
(本当は見つけ次第全部捨ててしまったので残っていない)
 
「私も千里が男の子の服を着ている所とか見たことないんだよね。だいたい千里といちばんよく接していたタマラやリサたちが、千里を女の子と信じ込んでいたのがね」
と蓮菜。
 
「つまり千里っていつも女の子の服を着ていたんだ?」
「それどころか、タマラやリサたちと一緒に温泉とかに入っているみたいだし」
「まあね」
 
「要するに千里って、小学校にあがる前に性転換していたってこと?」
「さあ」
 
「でも今はもう性転換済みなんだよね?」
という恵香の質問に対して千里は
 
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「内緒」
と言った。
 

「千里ちゃんが赤ちゃんの頃の写真とか、無いんですか?」
と蓮菜は千里の家に遊びに行っていた時、千里の母に尋ねたことがある。
 
「うーん。。。このくらいかなあ」
と言って、津気子は古いアルバムを出してきた。
 
「うちカメラとか無かったし、大半が《写ルンです》で撮ったものなのよね」
と言っている。
 
先頭にあったのが生まれてすぐの、おそらく分娩室で撮った写真なのだが。。。
 
「おちんちんが写ってない」
「それ私も気付かなかったんだけど、ある時妹(美輪子)に指摘されて気付いた」
と津気子。
 
「ちょうど足の陰になっているみたいなのよね」
「千里ちゃんって、生まれた時息をしていなかったと言ってましたね」
 
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「そうなのよ。あの子生まれて来た時、産声をあげることができなかったのよね。心臓も動いていなかったから、一瞬死産かと思われたらしい。でもベテランのお医者さんが心臓マッサージしてあげて、やはりベテランの助産婦さんが身体を擦ったり、ビンタしたり、最後は『先生貸してください』と言って、激しく揺すったら、そのショックでやっと産声をあげて。だから産道を出てから産声をあげるまでに数分経っていたかも」
 
「千里ちゃんの誕生時間の0時1分23秒というのは、その産声をあげた時刻?」
 
「そうそう。あれは肺呼吸を始めて産声をあげた時に、この世の住人になるという考え方らしいね。だから産道から出てきた時刻は3月2日の23時57-58分くらいかも」
 
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「なるほどー」
 
「そんなんで分娩室は超緊張状態にあったから、写真も、生まれて数分経ってから『あ、写真撮らなきゃ』と言って慌てて撮ったらしいのよね。その時偶然千里が足を立てていたから、おちんちんはその足に隠れてしまったみたい」
 
「あの子、生まれた時、お医者さんがへその緒と間違って切っちゃったんだよと言っていたこともありますが」
 
「さすがにそれはないと思うけど。おしめ交換の時にはおちんちん付いているの見てるし。だから少なくとも2歳頃まではおちんちんはあったはず」
と津気子。
 
「今は?」
「実は私も確信が持てない」
「ああ・・・」
 
「あの子、ひょっとしてこっそり自分で切り落としたんじゃないよね?と思うこともあるのよね」
と津気子。
「でもさすがにちんちん切り落としたら、出血を自分で止められないですよね?」
と蓮菜。
 
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「と思うんだけどね〜」
 

その週の体育は鉄棒だった。
 
この時期、留萌では外はかなり寒いのだが、この日は小雨が降っていたこともあり、体育館の端に設置されている鉄棒で練習する。下にマットを敷いてから
 
「まずは逆上がりしてみよう」
と先生が言ってやらせるのだが、この時点で逆上がりができるのは男子30人の内の26人、女子(千里を含む)23人の内11人だった。
 
その中の3割くらいの子は補助してもらったり、あるいは前に飛び箱を置いたりすると何とか逆上がりすることができたが、女子5人くらいはどうにもできない。千里もそのひとりである。(千里以外の)男子は全員補助か飛び箱で逆上がりすることができて「後は要領を覚えればいい」と言われていた。
 
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しばらく練習してなさいと言われてみんなやっているのだが、先生が向こうの方にいるとみると、少しダレてきて、適当に遊び始める。男子でグルグルと何回転も後ろ回りしてみせる子がいて歓声があがっていた。すると留実子も
 
「ボクもできるよ」
と言って、やはり何回転も後ろ回りしてみせるので
「すげー!」
と男子たちからも感嘆の声があがっていた。
 
「やはり花和は男子だな」
と言われて
 
「うん。ボクは男子のつもり」
と本人も笑顔である。
 

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ひとりの女子が
「横回りならできるんだけどねー」
と言って、鉄棒にまたがった状態で横にぐるぐると回って見せる。
 
「あ、それ面白そうと言って他に数人の女子がやってみるが、確かにこれは結構簡単に回転できるようである。千里も
「それなら行けるかなあ」
などと言って、鉄棒にまたがり、横回転してみた。
 
「あ、これできる〜」
と言って千里は嬉しくなった。それで何度も横回転してみると
 
「千里ちゃん、それができるなら逆上がりができるようになるのも、そう遠くない日だよ」
と他の女子から言われる。
 
「そうかなあ。少し練習しようかなあ」
などと言っていたのだが、この時、ふと千里は横回りをしているのが女子ばかりであることに気付いた。
 
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「あれ?男子は横回転とかあまりしないのかな?」
と千里が言うと
 
「男子はそれできないんだよ」
と高山君が言う。
 
「え?どうして?」
 
「男子はそれやると、チンコやキンタマが擦れて痛いんだ」
「へー!」
 
「うん、だからこれは女子だけができる技」
などと玖美子。
 
「そうなの!?」
と千里が驚いて言う。
 
「つまり村山は少なくともチンコやキンタマは無いというのがこれで分かる」
などと元島君が言っている。
 
その意見にみんな納得しているような顔である。
 
あははは。
 
「琴尾、お前はチンコ付いてるから、あれできないだろ?」
と田代君。
 
「田代、横回転がしやすくなるように、ちんちん切ってあげようか?」
と蓮菜。
 
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例によってこの2人の会話は全員からスルーされる。
 

2000年の七五三は、10月14日が「学校が休みになる土曜日」、15日が日曜だったので、参拝客はこの2日間に集中した。千里と蓮菜も子供用の巫女衣裳を着て受付をしたり、拝殿で舞を舞ったりしてお手伝いした。4年生ともなれば受付程度は充分できる。
 
千里が巫女の衣裳をつけていることについては、もう津気子は気にしないことにしたようである!津気子も千里が小学1〜2年生頃までは男の子用の服を買ってあげていたのだが、千里がそういうのを全然着ないので諦めて、経済的に厳しいこともあり、男物は一切買わなくなった(男物の服は大半を従弟の顕士郎・斗季彦の所に送ってあげた)。それで最近は女の子用の下着を買ってあげたりしている状態である。
 
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津気子は幼稚園の頃も時々気まぐれ的に女の子下着を買ってあげていて、千里は当時はその数少ない女の子下着でヘビーローテーションしていた。どうしても足りない時はやむを得ず男物も着ていたが、それはあくまで例外的であった。
 
。。。。と千里は語るが実態は闇の中である。
 
GIDの子が語る「過去の自分歴」はしばしば“粉飾”されている。
 

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土曜日には玖美子が4つ下の妹(年長さん)と一緒にやってきた。
 
「くみちゃんとこはR神社に行くのかと思った」
と受付をしていた蓮菜が言った。
 
「あそこは混雑するしね。それにこちらの神様は本物みたいだし」
と玖美子は言っている。
 
「なんか娘がそう言うもので、こちらにお邪魔しました」
とお母さんも言っている。
 
「神様に本物とか偽物とかあるの?」
「たとえば旭川のXX大神宮(*2)とか、どう見ても狐か狸」
と玖美子が言うと、近くに居た小春がムッとする。
 
蓮菜はその小春の反応を見ながら
「まああそこは古狸かもね」
と言った。
 
(*2)天津子の祖母が教会長をしている所である。ここの宗教は組織の上では「XX教**教会」などと称しているが、礼拝施設は「旭川XX大神宮」のように称するし、見た目は普通の神社とほぼ同じである。
 
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「R神社の神様は本物ではあるけど、あそこにはいらっしゃらない感じなのよね。あそこは出張所のひとつで、神様は時々巡回してきているだけ」
と玖美子が言うと、小春が頷いているので、どうもそういう神社もあるようである。
 

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ちょうど千里は前のお客さんの祈祷で舞を舞っていたので、蓮菜がそのまま沢田一家のお祓いをしてあげて拝殿の横で待機する。やがて祈祷が終わり、2歳くらいの女の子を連れた一家が拝殿から退出する。千里が記念品の袋(御札、御守り、千歳飴、塩・昆布・米のセット、三尾の狐が入っている)を渡して送り出した。
 
それで蓮菜が誘導して玖美子の一家を拝殿にあげる。千里は交替して受付の所に行った。それで次の祈祷が始まる。蓮菜が舞を舞った。
 

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千里が受付をしていたら、ある人物がやってきた。
 
「“沙苗”ちゃんも7歳の七五三かなあ?」
「それ千里と一緒に済ませたじゃん。うちの笑梨(えみり)が3歳の七五三なんだよ」
「ああ、もうそんな年だっけ?」
「それでこの土日のどちらかに来るつもりだったけど、お父ちゃんが沖縄に出張になってさ」
「そちらのお父ちゃん、よくあちこち出張してるね。さっちゃんの七五三の時にも居なかったし」
「あの時は3ヶ月くらいの長期出張だったからだけどね。今回は数日で帰って来られると思うから、来週くらいに来ようかなと言っていたんだよ。でも来週もここやってるかなと思って、聞きに来た。ついでもあったし」
 
「大丈夫だよ。念のため、記念品セットも確保しておくように宮司さんに言っておくから」
「そう。じゃ予約だけしておくかな」
「笑梨ちゃんは女の子の和服だよね?」
「和服の予定。何もわざわざ“女の子の”とつけなくても」
「さっちゃんは小振袖でも着る?」
 
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「そんなの持ってないよ!」
 
「レンタルもあると思うよ」
と千里は言った。
 
 
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少女たちの七五三(4)

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