広告:まりあ†ほりっく 第6巻 [DVD]
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■少女たちの予定は未定(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-31
 
千里は平成3年3月3日の生まれである。実際には母親の産道から出てきた時は息をしておらず、心臓も動いていなかった。ベテランの助産師さんが身体を叩いたり、最後は振ったりしていたら、心臓も動き出し、産声をあげた。その産声をあげたのが 1991.3.3 0:01:23 であったので、母子手帳に出生時刻は3月3日0時1分と記載された。(母体外に出たのは恐らく3/2 23:57-58くらい)
 
千里の本来の死亡予定日時は 1997.03.21 11:56:35 で、その間 2210日11:55:12だけ生きる予定だった。しかし千里は1994年3月3日深夜に、P神社に巣食っていた悪霊(近所の住人を何人も取り殺していた)を退治して神様が入れるようにしたので、そのご褒美に寿命を倍にしてもらった。つまり千里の寿命は倍の4420日23:50:24 に延びたので、千里の新しい死亡予定日時は 2003.4.9 23:51:47 になった。
 
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沙苗は学生服を着て、中学校の入学式に出て行った。入口で赤い紙と青い紙を渡され、嘗めて下さいと言われた。
 
何だろう?リトマス試験紙みたい、と思いながら嘗めると、赤い紙は変わらず、青い紙は赤くなった。
 
「あなたは女子ですね」
「え?」
 
「男子は青い紙は変わらず、赤い紙が青くなります。女子は赤い紙は変わらず、青い紙が赤くなります。あなたは赤い紙が変わらなくて青い紙が赤くなったので、女子と判定されました」
 
「そうなんですか?」
「女子は学生服は着られないんですよ。ここで脱いでセーラー服を着て下さい」
「分かりました」
 

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それで沙苗は、着てきた学生服の上着とズボンを脱ぎ、ワイシャツも脱ぐ。下着は女物のブラジャーにショーツ・キャミソールを着けていたので「その下着はそのままでいいです」と言われる。
 
ブラウスを着るが、このブラウスのボタンをスムーズに填めることができたので「さすが女子ですね」と褒められた。
 
セーラー服のスカートを穿き、セーラー服の上衣も着て、襟元にリボンを結ぶ。鏡に映すと、女子中学生にしか見えない。
 
「では市役所の方にも書類を回しますので、これからあなたは法的にも女性です」
「ありがとうございます」
 

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それでその格好で体育館内に入り「新入生女子」と書かれた所に座った。
 
「あ、沙苗(さなえ)も、ちゃんと女子中学生になれたね」
と笑顔で言っているのは千里だ。彼女もセーラー服を着ている。
 
「性別試験紙で女と判定された」
「まあ沙苗(さなえ)は女の子だからね」
「うん」
 
「俺も女と判定された」
と笑顔で言っているのは鞠古君だ。セーラー服が似合わない!テレビのバラエティで、男芸人がセーラー服を着ているみたいだ。
 
「セーラー服着て通学できるのは嬉しい。女子トイレも使えるし、女子更衣室で女の子と一緒に着替えられるし」
 
こいつを女子中学生にするのは、ヤバくないか?と沙苗は思った。
 
男子席のほうに学生服を着た花和(留実子)君が来て座った。
 
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「あ、花和君は男の子と判定されたんだ?」
「うん。良かったぁ。これで堂々と学生服で通学できる」
「るみちゃんは男の子だもんねー」
と千里も言っている。
 
「セーラー服着れと言われたらどうしようと思ったよ。良かったぁ」
と言って、頭を5分刈り!にした花和君は笑顔である。
 
5分刈りの頭でセーラー服着るのは問題が多そうだと沙苗は思った。
 

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それで入学式が終わり、一度教室に入ってから、自己紹介する。
 
沙苗は名前と出身小学を言ってから言った。
 
「小学生の間は男の子みたいな格好していましたが、性別判定で女と言われたので、中学は女子として通います。みなさんよろしくお願いします」
 
他に田代君もセーラー服を着ていたが、彼も楽しそうだった。彼は女と言われたら女に見えないこともない。佐藤君も女子と判定されたようで、セーラー服を着ていたが、よく似合うのでびっくりした。凄く男らしい子なのに意外だ。でも本人は
 
「セーラー服とか嫌だよぉ。女になんかなりたくないよぉ」
などと言って泣いている。
 
「いや女子と判定されたんだから仕方ない。潔く女子中学生しよう」
 
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「女子トイレ・女子更衣室使えと言われたけど、そんな所恥ずかしくて入れない」
と佐藤君が言うと
 
「俺が付いてってやるから大丈夫だよ」
と鞠古君が言っている。
 
一方、花和君以外で、琴尾(蓮菜)さんや沢田(玖美子)さん、それに長身の前河(杏子)さんも、学生服を着ていた。3人とも楽しそうである。
「男と判定されたから、他の男に負けないくらい頑張る」
などと言っている。
 
この3人は元々男子を圧倒していた気がするけどね。
 

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クラスでの話が終わった後、全員理科室に行き、生徒手帳用の写真を撮影された。生徒手帳はすぐ渡されたが、自分の名前と生年月日の後に
 
性別:女
 
と記載され、セーラー服を着た自分の写真がプリントされている。
 
沙苗はその生徒手帳を見てドキドキした。
 
ぼく、女子中学生になっちゃった!
 

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と思った所で目が覚めた。
 
沙苗は、布団の中で自分のお股に手を伸ばし、ショーツの中に手を入れて触ってみてから、大きく溜息をついた。
 

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春休み中、千里・蓮菜・玖美子・恵香・美那・穂花といった面々は、神社に集まり、ずっとお勉強会をしていた。
 
しかし女子6人で勉強会をしているとしばしば話が横道に入る(その“横道”が実は勉強では大事なのだと玖美子は言っていたが)。
 
数字の入った四字熟語が話題になっていた。
 
「七転八倒って、いつ起き上がるのかが不明だ」
「七転び八起きってのも計算が合わない」
「七転び八起きについては、スタート時点で倒れていたのではという説がある」
「なるほどー!」
などと言っていたら恵香が紙に何か書いている。
 
それをしばらく眺めてから恵香は言った。
 
「ということは、最後は起きてる状態なんだ?」
「そうだっけ?」
 
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恵香が紙に書いていたのはこういう絵である。
 

 
「おお、確かに」
「あまり起きたり倒れたりしてたら、分からなくなる」
「こういうのって、ちゃんと確認してみるべきものだなあ」
 

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「四苦八苦って、仏教から来たことばなんでしょ?」
「そそ。生老病死の四苦に、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦の四苦を合わせたもの」
と小春が解説する。
 
「待って。だったら四苦八苦って合わせて12じゃなくて、合わせて8個なの?」
「紛らわしいよね。四苦が基本の苦しみで更に4個足して八苦」
「四方八方と同じパターン」
「ああ」
 
「ついでに4×9+8×9=(4+8)×9=12×9=108で、除夜の鐘の数になるという説もある」
「それは足しているのがおかしい」
「うん。これは四苦八苦の意味が分かってない人が考えた俗説だと思う」
「108というのは、元々インドで神聖な数のひとつだよね?」
と玖美子が確認する。
 
「ジヴァ神は108種類のダンスをするとかいうからね」
と小春。
「本来はそのあたりから来たんだろうね」
 
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「シヴァって半陰半陽の神様だっけ?」
「それはアルダナーリーシュヴァラ。シヴァと奥さんのパールヴァティが合体した姿だよ」
「合体って意味深だ」
「いやそういう意味だと思う」
「ちなみにアルダナーリーシュヴァラは左が女で右が男。あしゅら男爵は逆に右が女で左が男」
「ほほお」
「ついでにギリシャのヘルマプロディートスは上半身が女で下半身が男」
「ある意味理想型じゃん」
「ところであしゅら男爵ってトイレは男女どちらに入るの?」
「本人に訊いてみて!」
 

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「唯一無二を私最初“ゆいいちぶじ”と読んじゃった」
「その熟語は難しい」
「うん。漢音と呉音が混じっている」
 
(ゆい:呉音、いつ:漢音(呉音は“いち”)、む・に:呉音)
 
「かんおん?」
 
蓮菜が“漢音”“呉音”と字に書いて示す。
 
「老若男女(ろうにゃくなんにょ)とかは全部呉音なんだけどね」
「あ、それも読めなかった」
 
「漢音というのは、遣隋使・遣唐使などが中国で学んで持ち帰った漢字の読み方。唐代の長安の発音がベース。いわばきちんと伝えられた標準語の読み方。それに対して呉音というのは、それ以前に日本に伝わっていたもので、少し古い時代の漢字の読み方を反映しているけど、様々な地域の音が伝わっているから非体系的」
 
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「時代の差違+正式音と俗音か」
「一般に仏教用語など古い時代からある言葉は呉音で読むものが多い」
「なるほど」
 
「礼讃を“れいさん”と読むのは漢音、“らいさん”と読むのは呉音」
「“らいさん”の方が古い気がする」
 
「男女を“だんじょ”と読むのが漢音で、“なんにょ”と読むのが呉音」
「なるほど」
 
「男根を漢音で“だんこん”と読むと男の子のちんちんの意味だけど、呉音で“なんこん”と読むと、男性性の根源の意味」
「へー」
「だから呉音で読む女根“にょこん”というのもある。女性性の根源」
「ああ」
「ヴァギナのことではないのか」
 
「人間はみな男根(なんこん)女根(にょこん)の両方を持ってるけど」
「両方持ってるんだ?」
「多くの男性では男根が女根より強く、多くの女性では女根が男根より強い。でも男性が女根の働きを修行により強めて女根優位にすることもできる。これを転根という」
 
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「修行が必要なのか」
「だって男が女になるのは凄い努力が必要」
「確かに確かに」
「沙苗(さなえ)は修行が足りんな」
「同感同感」
「沙苗(さなえ)はセーラー服を着るべきだよね〜」
 

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「でも男はその内消滅するという説もある」
「へ?」
 
「男(XY)を作っているY染色体って損傷しやすい。女(XX)の場合はX染色体が2つあるから、万一損傷した場合は、ペアのX染色体から補充すればいい」
 
「フェイルセーフなんだ!」
「デュアルシステムだよね」
 
「でもY染色体はそれができないから、損傷したら損傷したままになってしまう。実際Y染色体は年々内容が薄くなってきているらしい。そしていづれは消滅する。それは今のペースだと1400万年後とも言われる」
 
「わりと近い将来のような気がする」
「Y染色体が無くなれば男は産まれなくなる」
 
と蓮菜が言う。
 
「男が居なくなったら、恋愛とか生殖はどうするの?」
「女同士で恋愛して、女同士で生殖すればいいと思うけど。大きな問題は無い」
 
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「問題無いのか!?」
 
「長岡秀星の『迷宮のアンドローラ』には人類が男の世界と女の世界に分離されたという話が出てくる」
「ガリバー旅行記みたい」
「すると『迷宮のアンドローラ』の世界では、男世界はすぐ滅亡するけど、女世界は女だけで、ずっと存続していく」
 
「やはり女同士で生殖するのか」
「男は子宮が無いから子供産めないし」
「それって最初から男を消滅させる計画だったとしか思えん」
「まあ男子絶滅計画だね」
 
「男世界では男の娘が凄い人気だったろうね」
「男の娘の取り合いで殺人くらい普通に起きてるよね」
 
「昔の修行場でもお稚児(ちご)さんとか大禿(おおかむろ)は人気だったらしいから」
「おおかむろ?」
「女のような髪型をしている男」
「結局男の娘か」
 
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「男の娘の歴史も古そうだなあ」
「聖書に男が女の服を着てはならないという戒律が書かれているから、戒律に定めないといけないくらい、男の娘は多かったのだと思う」
 
「多分男の娘の歴史は、人類の歴史とほぼ同じくらい長い」
 
「いや多分、人類の発生以前からある。昆虫の中には身体の小さなオスがメスを装ってオスを誘惑する現象なども確認されている」
 
「人間以外でもあるのか」
「きっと有性生殖が始まったのと同時に、男の娘も生まれたんだよ」
「恐らく、性というものは元々、男・女・男の娘の3つあったんだよ」
 

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既に話が脱線してから1時間ほど経過しているが、脱線は更に続く。
 
「よく2人3脚で、協力してやっていきましょう、とか言うけどさ、二人三脚って並列じゃなくて直列だよね」
 
「そうそう。あれは両方うまく行って初めてうまく行く。しかも両者のタイミングを合わせないといけないから、凄く弱い」
 
「つまり二人三脚の体制というのは凄く弱い体制だ」
 
「飛行機の双発機のエンジンが二人三脚だったら恐いね」
「停止しなくても、どちらかのパワーが少しでも落ちて左右の速度が変わったらすぐ墜落するからね」
 
「比翼の鳥とかも危ないよね」
「うん。まず確実に墜落する。そもそも男女のパワーが違うし。同性愛なら何とかなるかも知れないけど。だから男女の夫婦を比翼の鳥にたとえるのは間違っている。夫婦はむしろ重連運転の機関車。つまりデュアル・システム」
 
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「人間も含めて夫婦で子供を育てるというのは、片方に何かあっても他方がカバーできるという、並列システム、フェイルセーフシステムだよね」
 

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「アメリカの大統領制とかはデュプレックスだよね」
 
「というと?」
「アメリカの副大統領というのは、上院議長を兼任する以外には、名前だけで何の権力も無い。だけど、大統領が死んだら、副大統領が大統領に昇格する」
 
「要するに補欠か」
「まさにそれ」
 
「野球とかの補欠もそれだよね。正選手が怪我とかでプレイできなくなった時に代わってプレイする」
 
「世の中、デュプレックスが多いんだな」
 
「逆に実社会でデュアルのものって何かある?」
 
「学校のトイレはデュアルだよ」
「あぁ!」
 
「うちの学校は校舎の東西の端にトイレがある。東西に優先度は無く、通常どちらも使える。万一片方工事とかで使えなくても反対側の端まで行けばいい」
 
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「なるほどー」
 
「そもそも多数の個室があるのがマルチプル」
「そういえばそうだ」
 
「人間の身体もだいたいデュアル。多くの器官が左右一対ある。目耳・手足・脳・腎臓・卵巣」
 
「学校のトイレとか、人間の身体とかは、フェイルソフトだよね」
「うん。機能は落ちるけど何とかなるから、フェイルセーフではなくフェイルソフト」
 

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少女たちの予定は未定(1)

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