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■女子大生たちの天体観測(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-10-13
 
2009年7月18日。
 
塾の夏期講師の仕事を終えた千里はいったんアパートに戻ると、講師をする間着ていた背広(貴司からの借り物)を脱いで、普段着の半袖ポロシャツと膝丈スカートに着替え、既に昨日の内に準備していた旅行カバンを持って出かける。
 
普段なら自分のインプレッサを近くの駐車場に持って来ているので、それを使うのであるが、今回は事情で使えない。それでバスで千葉駅まで出て更に電車で東京まで出て、東京駅近くのレンタカー屋さんに入る。
 
「予約していた村山と申しますが」
と言ってレンタカー屋さんの会員証を提示する。
 
「ありがとうございます。エスティマ・ハイブリッドをマンスリーでレンタルですね」
「はい。それでお願いします」
「免許証を拝見します」
 
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それで免許証を見せる。免許証の写真と千里本人を見比べている。免許証の写真はセミロングヘアで写っている。今日の千里のウィッグもセミロングヘアなので問題無く同一人物と認識したようだ。
 
まあ、写真も実物も男には見えないよね?
 
「この春に免許取得なさったんですね。これまでレンタカーをご利用になったことは?」
「マツダレンタカーでRX-8、日産レンタカーでエルグランドを運転したことがあります」
 
どちらもまだ免許取る前だったけどね!
 
「なるほど。免許を取得なさってから何kmくらい運転なさってますか?」
「ちょうど1万kmくらいだと思いますが」
「それは凄い! ご自身のお車はお持ちですか?」
「ええ。インプレッサ・スポーツワゴンを使っています」
「そういう車を運転なさっているのなら安心ですね」
 
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千里がまだ若葉マークで未成年でもあるので、営業所の人もこちらの腕を少し確認したくなったのであろう。こちらの経験が少ない場合は3年程度以上の経験者の同乗を求められることもあるとは聞いていた。
 
「若葉マークはお持ちですか?」
「はい。持参しています。車にカーナビ・ETCは付いてますよね?」
「はい、付いております。ETCカードはお持ちですか?」
「ええ。たくさんお世話になっています。休日の夜間にはよく走るので」
「なるほど、なるほど」
 
お店の人は千里をかなり好感した雰囲気であった。
 

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お支払いのカードは?と訊かれるので、千里がカードを出すとギョッとした雰囲気があった。ANAのマイレージカードも一緒に提示する。
 
「お預かりします」
とお店の人は冷静に言って、貸し出しの手続きをしてくれた。
 
何かこのカードで信頼度が更に上がった雰囲気もある。どこかの金持ちの娘と思われたかも知れないなあと千里は思った。あまりこのカードは使いたくないのだが、エスティマを1ヶ月借りる料金はこのカードでないと決済できないのだ。
 
「お車はこちらでございます」
と言って、駐車場に案内してくれる。車の周囲を一緒にぐるりと回って目立った傷が無いことを確認する。
 
それで千里は書類にサインして、車に乗り込み、ETCカードをセットしてエンジンを掛け、カーナビに最初の目的地を指定して、お店の人の見送りを受けて出発した。
 
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最初に都内某所の駐車場に行き、自分のインプから常備品を移す。非常食、簡単な調理器具やプラスチックの食器・箸、地図、ブースターケーブル、ガラコ、インバーター、ボックスティッシュ、予備の着替え、毛布などである。更に、スーパーに行って長旅用の食料品や飲料水に乾電池なども仕入れた。エスティマの荷室が一杯なので、一部は助手席の座席の下にも置く。
 
そして時計を見て、ジャスト午前0時に中野駅前に車をつける。
 
「お早うございます」
と千里は車を降りて言った。
 
「うん。お早う」
と雨宮先生が言う。
 
「あれ?ドライバーって女の子なんだ?」
と上島雷太が言う。
 
「ああ、女の子に見えるけど男だから」
と雨宮先生。これは浮気性の上島さんから千里を守るために言ってくれた感もあった。千里としても、上島さんと万一のことがあったら、長年のクライアントである春風アルトさんに申し訳ないという思いがある。
 
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「へー!そうなの? ありありなし?」
と上島さんが訊くと。
「ありありありだよ」
と雨宮先生が答える。
 
「なーんだ。まだ付いてるのか」
と上島さんはがっかりした雰囲気。やばいやばい。雨宮先生はバイだが上島さんは男には興味が無いようである。そして女とみたら雨宮先生もすぐ口説くが上島さんの場合は口説かれたと思ったら寝てた!という話もあるくらい素早い。
 

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ふたりを乗せて出発する。雨宮先生が2列目、上島さんが3列目に乗った。
 
「夜通し走りますので、適当に寝ていてください。毛布も適当に使って下さい。先週洗濯しておきましたから」
 
「うん。適当に寝てる」
と上島さん。
 
「私も寝てていいよね?」
と雨宮先生。
 
「はい、どうぞ」
「千里も寝てていいから」
「はい。寝ておきます」
と千里が答えると、上島さんが「え〜〜!?」と言っている。
 
雨宮先生が
「この程度で驚くというのは、雷ちゃん、修行がなってない」
と笑って言っていた。
 

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千里はカーナビの指示に従って道路を南下し永福出入口から首都高に乗り、そのまま高井戸ICを通って中央道に入る。雨宮先生と上島さんは飲んでいたようで、ふたりともすぐ眠ってしまう。それで千里も
 
『じゃ、こうちゃん、よろしく〜』
と言って身体を《こうちゃん》に預けて眠ってしまった。
 
7月19日朝6時過ぎに西宮名塩SAに駐める。《こうちゃん》が少し前から千里に起きろと言ったので、手前10分くらいから千里は覚醒していた。千里が寝ている間に《こうちゃん》と《きーちゃん》が交替で運転してくれたはずである。
 
「休憩するの?」
と少し前から起きていたふうの雨宮先生が言う。
 
「はい。トイレ休憩と給油です」
「もうガソリン無くなった?」
「半分くらいしか消費していませんが、中国道は給油できる場所が限られているので」
「確かにね。ついでに朝御飯食べよう」
「はい」
 
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それで上島先生も起こしてトイレに行った後、朝御飯ということになる。トイレはもちろん千里と雨宮先生は女子トイレ、上島さんは男子トイレに入る。3人とも男なのに、2人が女子トイレって面白い、などと上島さんは言っていた。
 
「だけど実際は、千里、既にありなしなしだよね?」
と雨宮先生は女子トイレの中で訊く。
 
「企業秘密です」
と千里は答える。
 
「まあいいや」
「先生はありなしなしにする予定は?」
「取りたくなることはあるけど、取っちゃうと女の子と遊べないからなあ」
「上島さんとは悪い友だちなんですね?」
「そうそう。同じ女を同時に愛人にしていたこともある」
「困った人たちだ」
「あんた、私に対して遠慮が無いから好きだよ」
「新島さんには負けます」
「私と新島が話してるの聞いて、新島が私の先生だと思ったという奴がいたよ」
「ありそうですね」
 
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SAのフードコーナーで御飯を食べていて
 
「そうだ。名前を聞いてなかった」
と上島さんが言うが
 
「名乗るほどの価値のあるものではないので、少女Aということで」
と千里は答える。
 
「まあいいや。君はモーリーの純粋なドライバー? それとも愛人か弟子かを兼ねているの?」
「雨宮先生の後釜を狙っています。どっちみち雨宮先生、その内セックス・スキャンダルで失脚するでしょうから」
と千里。
 
「私が失脚する前に、雷ちゃんが失脚するわよ。毎年7−8人愛人作っているんだから」
と雨宮先生。
 
「以前より少なくなりました?」
「うん。結婚前は年間20-30人と寝てたけど、結婚したから少し控えてる」
 
ああ。春風さんに言ったら泣かれそうだ。
 
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「あれ?思い出した。君、僕の結婚式の時に歌手の人たちが歌うののピアノ伴奏をしてくれていたよね?」
「はい。裏方ということで」
 
「君弾くのはピアノだけ?」
「ヴァイオリンも弾きますけど下手です」
「ふーん。それって謙遜?」
「私は謙遜はしません。私が下手と言ったら間違いなく下手ですよ」
「ああ、そのあたりが正直な子、僕は好きだな」
 
「この子は龍笛の名手」
と雨宮先生は言う。
 
「へー。今度聴かせてよ」
「では100万円頂けたら」
「ふーん。いいよ。いい音聴かせてくれたら払うよ」
 
「少女A、安売りしすぎ。1000万円ふっかけてよかったよ」
と雨宮先生。
「まだ無名ですから」
「まあ少女Aとしては無名かもね」
 
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「モーリー、この子、やはり有名な子なの?」
「まあ有名な名前もあるね」
 
「だったらさ、少女A君。僕が君の演奏を気に入って100万円払ったら名前も教えてよ」
「いいですよ」
 

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食事中に千里の携帯に蓮菜から電話が掛かって来たので、席を立ちSAの建物から出た所で取って話す。
 
「お疲れ様。そちらどう?」
「那覇は暑いよ。今から船に乗る。でも私、船酔いするんだよね」
「蓮菜も漁師の娘なのに。でも大きな船なんでしょ?」
「うん。大きな船ってたくさん揺れるんだっけ?」
「そんなことない。大きい船ほど揺れは小さいよ」
「だったら良かった」
「船に乗ったら着くまで寝てれば船酔いしようもない」
「寝れるかなあ」
「ビールでも飲んじゃえば?」
「試してみる!」
 

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食事が終わった後は、お茶を飲みながら一休みしてまた出発する。
 
「君、寝なくていいの?」
と上島さんが心配するが
 
「大丈夫です。私体力ありますから」
と言って千里はエスティマ・ハイブリッドを走らせて行く。西宮名塩SAを8時頃に出発して、車はひたすら中国自動車道を走っていく。
 
「君ちゃんと制限速度守るんだね」
「スピードオーバーしたら雨宮先生の弟子を首になります」
「そうか。偉いね。モーリー、弟子の管理厳しいんだ」
「まあね」
 
後ろで《りくちゃん》は苦しそうにしている。安佐SAでお昼を食べてから、上島さんがせっかくここまで来たら宮島に行きたいというので、予定を変更して広島自動車道を南下して広島JCT/廿日市JCTと通って広島岩国道路の廿日市ICで降り、宮島口の近くの駐車場に駐めた。
 
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雨宮先生は少し寝ておくといいと言ったので、遠慮無く車内で寝せてもらう。その間に雨宮先生と上島さんで宮島を見に行ったようだ。
 

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夕方。蓮菜からの電話で起こされた。
 
「島に着いた。なんか凄いちっちゃい島だよ。なーんにも無い」
「そりゃ何もないだろうね」
「私、何してればいいんだろ? 観光するような所も無いらしい」
「本でも読んでるしかないと思うよ。あるいはひたすら寝てるか」
「携帯でネット小説でも読んでようかなあ」
「電池があっという間に切れると思うけど」
「そうそう。電波が弱いんだよ。だから電池の消耗激しそう」
「携帯は必要な時以外、切っておいたほうがいいかも。ところで、そちらはどこに泊まるの?」
「小学校の校庭に建てたテント」
「暑そう」
「今は夕方なのに暑い」
「頑張ってね。そちらハブ居ないんだっけ?」
「うん。この島には居ないらしい」
「良かったね」
 
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蓮菜と話している内に、上島さんと雨宮先生が戻って来たので「じゃ、またあとで」と言って切る。
 
それで3人で、取り敢えず近くの和食屋さんに入って夕食を取ることになった。
 
上品な感じの作りで、3人は20畳ほどもある部屋に通された。和食の店と雨宮先生は言ったが、実質料亭のようである。女将が出て来て挨拶までする。でも料理は美味しい!夏なので冷凍だろうが牡蠣フライに酢牡蠣もある。上島さんも雨宮先生もよく飲んでいる。調子に乗って千里にまで「一杯飲め」などと言うが
 
「ドライバーは飲めません」
と言ってにこやかに断っておく。
 
「そちらのお嬢さんが運転手さんですね?」
と言って仲居さんが《ドライバー》と書かれた首掛け式の丸い札をくれた。宮島の大鳥居の写真を使用している。これはこのままお持ちくださいということだった。
 
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「ところで仲居さん、クイズです」
と雨宮先生が言う。
 
「今、この部屋の中には男が何人、女が何人いるでしょう?」
「この部屋って私も含めてですか?」
「そうそう」
 
「当たったら、チップ1万円あげるよ」
「え?当たったらって、難しいんですか? 私含めて女性が3人、男の方がお1人に見えますけど」
「その回答でいい?」
 
「待ってください」
と言って仲居さんが悩む。
 
「ひょっとして最近流行りの女の娘さんがいるとか?」
「女の娘はふつうに女なのでは?」
「あ、そうか! なんでしたっけ? 女の男??」
「男の娘かな?」
と上島先生が助け船を出す。
 
「あ、それです!」
と言ってから悩んでいる。
「ひょっとして、奥様、男の方だということは?」
と雨宮先生に訊く。
 
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「さあ、どうかしら」
 
「でしたら、男の方2人、女性2人ですか?」
と仲居さん。
「ファイナルアンサー?」
と雨宮先生。
「ファイナルアンサーです!」
と仲居さん。
 
すると雨宮先生は「はぁ」とため息を付く。
 
「不正解ですか!?」
と仲居さん。
 
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女子大生たちの天体観測(1)

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