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■桜色の日々・男の子だった頃(4)

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田代君とは、その後6月に何度か呼び出されてお茶を飲んだりした。彼は6月下旬に車を買ったので、その助手席に座ってドライブしたこともあった。
 
これ、ひょっとしてデートになってないかな?という気がして、もし彼がそういう意図であったら、彼があまり本気にならないうちに、自分の性別のことをカムアウトしなければ、などと思っていたのだが、それは結局しないで済むことになった。
 
7月上旬の土曜日。
 
私はまた田代君に呼び出されて、大学の近くで待ち合わせ、ドライブに出かけた。彼の車は当時は何度言われても名前を覚えきれなかったのだが、思い起こすと、レガシィだったと思う。中古を安く買ったんだと言っていたが、車内はきれいで、彼はタバコも吸わないので、快適なドライブを楽しむことができていた。
 
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その日は彼に遊園地に行こうと誘われ、東京郊外にある遊園地に行った。私は、やはりこれってデートだよな・・・と、思い始めていた。ホテルとかに誘われたりする前にちゃんと言わないとまずいよな、などと少し悩み始めていたのだが、取り敢えず、その日は遊園地で、ジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に入ったり(個人的にはこの手のに強いので怖くなかったが怖がってあげた)、池でボートに乗ったりして、凄く楽しむことができた。
 
正直、私も彼のことが少し好きかも、という気持ちになり、もし彼が私の性別のことを是認してくれるなら、彼女になってもいいかな、と思い始めていた。
 
午前中たっぷり遊び、遊園地内のレストランで楽しく会話しながらランチを食べていたのだが、そこに「あれ?和彰?」と声を掛けてくる女性がいた。
 
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彼女は女の子3人のグループで遊びに来ていた雰囲気であったが、彼女を見た田代君が明らかに焦った様子を見せた。
 
「あ、えっと・・・・」
「和彰、今日は用事があるんじゃなかったんだっけ?」
「えっと、それは、急にキャンセルになって」
「で、誰よ? その子」
 
と彼女は明らかに敵意の籠もった視線をこちらに向けてくる。きゃー、怖いよ。
 
「こんにちは。私、田代君の友だちの吉岡です」
と私は敢えてにこやかな笑顔を彼女に向けた。すると相手はキッという感じの表情をする。こいつ、やる気か? という雰囲気である。
 
「田代君の彼女? 可愛い人ね」
と私はあくまで笑顔で、田代君に声を掛けるが、私があくまで笑顔をしているのは、彼女の闘争本能を相当刺激している感じである。
 
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田代君本人は少しパニックになっているっぽかった。ふーん。こういう場で、瞬間的にどちらを選ぶか、決断ができない人なのね、と私は彼の様子を観察して思った。
 
「私たち、もしかして恋のライバルなのかしら?」
と私は笑顔で彼女に言う。
「あんた、やる気?」
と向こうはもう敵意剥き出しである。
 
「ジャンケンしようか?」
「は?」
「勝った方が、彼とこの後、デートを続けるというのはどう?」
 
「分かった。ジャンケンしようか」と彼女は少し肝を据えたような顔をした。
「じゃんけん・・・・ぽい」
 
私がチョキ、彼女はグーだった。
 
「ああ、負けちゃった。じゃ、後、田代君をよろしくね。田代君、今日は楽しかった。バイバイ。彼女とお幸せにね」
と言って私は笑顔で席を立つと、手を振ってその場を去った。
 
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でもちょっと涙が出た。
 
この事件の後、私の生活の「男性化」は加速し、バイトに行くとき以外はほぼ男の子としての生活を送るようになっていった。
 

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そうやって、私はこの時期、男の子ライフを送っていたのだが、ヒゲを剃るのが面倒だなと思うようになっていた。
 
私のヒゲはあまり伸びないのだが、それでも週に1度くらいは処理する必要があった。基本的には1本ずつ抜いていくので時間がかかる。その時間がもったいないので、脱毛しちゃおうと思い立った。
 
夏休みは実家に戻らずにずっとバイトをしていたので、少しお金も貯まった。そこで、美容外科に行き、ヒゲのフラッシュ脱毛をしてもらった。ちょっとお金は使ってしまったものの、これで本当に楽になった。
 
足の毛もそんなに生えないし、バイト先では制服はスカートだがストッキングを穿いているので多少生えていても目立たない。そこで、週に1度くらい剃るようにしていた。この処理は大学1年の時はずっとやっていたが、バイト先がガス爆発事故で無くなってしまってからは、かなりサボるようになり、月に1度くらい、けっこう伸びてきたところで処理するようになっていた。
 
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大学2年の夏に、出会い系のバイト先で突然女装することになった時はちょうど前回処理した時から1ヶ月ほどたち、そろそろ処理しようかな。。。と思っていた時であった。
 
ちなみに私のおちんちんは相変わらずどういじっても立たなかった。この時期はかなり心理的には男の子になっていたこともあり、1度だけバイアグラを飲んでみたことがある。しかしそれでもやはり立たなかった。単に気分が悪くなっただけであった。
 
それを令子に言ったら「タマも無いのに立つ訳ない」とあっさり言われた。
 
でもこの時期はそれでも、男の子として、女の子とセックスする様などを想像したりしていた。ただ、男の子に入れられる感覚は想像がつくのに、女の子に入れる感覚というのは、全然想像がつかない感じもした。セックスの場面を想像していると、いつの間にか自分が入れられている側の気持ちになっていた。
 
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ただ、この時期かなり頑張って、おちんちんを刺激していたことで、以前は皮をひっぱっても8cmくらいにしかならなかったのが、最終的に10cm以上まで伸びるようになった。これは結果的に、大学3年の時に性転換手術を受けてヴァギナを作った時に、一応最低限の長さのヴァギナを確保するのに役立った。要するに私はこの時期せっせと自分のヴァギナの材料を育てていたのかも知れない。
 

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そんな感じで大学1年目は過ぎていった。令子の方も大学にはまだ女の子の服で通っているものの、日常生活はかなり男になっていると言っていた。
 
ただ令子は一人称の「僕」は結局使い切れずに「私」と言っているということだったが、私の方は何とか大学の中では「僕」を使い続けていた。
 
そういう生活が一変してしまったのが大学2年の春であった。
 
電話口で父と喧嘩してしまった私は、仕送りを停められたことから、緊急に効率の良いバイトを探さなければならなくなった。しかしなかなか見つからないまま、時が過ぎていき「やはり男としてバイト探すのは無理かなあ。女の子に戻っちゃおうかなぁ」などと思っていた時、進平から出会い系サクラのバイトを紹介してもらった。
 
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男の会員からのメールに「女を装って」返信するという仕事内容を聞き、私は心の中で苦笑した。なーんだ。やっぱり女の子としてしか仕事って見つからないのか。でも、こういうのある意味、天職かも知れないな、と思う。
 
最初、あまり普通に女の子の文章を書いたら変に思われるかなと思い、わざと少し男っぽいところを混ぜると、それを進平に修正された。少しずつふつうに書くようにしたら「君、センスいいね」などと褒められた。
 
女の子のこと勉強しろと言われて、私は押し入れの中にしまい込んでいたセブンティーンやノンノを取り出してきて、読み直してみた。また書店に行って最近の号も買ってきた。
 
こういうのを読んでいると、どんどん昔の感覚が蘇ってくる。女の子復活という感じだった。嵐とかタッキーとかのCDも出して来て流していると、更にあの感覚が戻ってくる。
 
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ああ、やっぱり完全に女の子に戻っちゃおうかな。
 

そんなことを考え始めた頃、バイト先で突然「女装してデートして」ということを言われた。君って、女の子の服を着てお化粧したら女の子に見えるような気がする、なんて言われる。あはははは。
 
でも簡単に女装しちゃったら、変に思われるかなと思い、女装なんてしたことが無い振りをした。着替えを手伝ってくれる女の子と一緒に女子更衣室に入り、服を脱いで、女の子用のパンティを手に取って悩む。
 
きちんと棒を下に向けて穿くべきか、それともと思っていたら、手伝ってくれる女の子から
「そのリボンが付いてるほうが前よ」
と言われた。私がどちらが前か分からないでいると思われたようだ。
 
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「あ、ありがとう」
といって、そのまま穿くことにした。棒は横に向けて収納する。ショーツが膨らんでいるのって、変な感じ!
 
そのあと、一度上半身を全部脱ぎ、ブラジャーを付ける。この時Aカップちょっとあるバストを彼女に見られないよう気を付けた。この時期、2月以来ブラはめったに付けていなかったので、ブラ跡は消えていた。そして、肩紐を通したところで、自分ではホックを締めないで「留め方が分からないから留めて」などと言った。
 
そんな感じで女の子の服を着て外に出ていき
「充分、女の子に見えそうですね」
と言われ、更にお化粧をされると
「凄い美人になっちゃったんですけど」
なんて言われた。こういう言われ方は小4の時に初めて人前で女装した時のことを思い出させた。
 
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デートの際は、女声(のつもり)で話したものの、半年ほど女声はほとんど使わず、ずっと男声でばかり話していたので、あまりちゃんとした女声になっていなかった。声はこの後少し練習してみたが、本来の女声を取り戻すのに少し時間が掛かった。
 
デートを終えた後、トイレに行きたくなった私は久しぶりに女子トイレに入ったが、2月にレストランのバイトを辞めた以降は座っておしっこをしていなかったので、ついスカートのまま、立ってできないかな?などと変なことを考えたりしたが、マジックコーンはいつも穿くズボンの内ポケットに入れたままなので、手元に無い。じゃ、やっぱり立ってはできないじゃん!
 
素直にちゃんと座ってしたら、落ち着く。やっぱりここしばらくの自分の男としての生活って、凄く不自然なことしていたんだなと思った。考えてみると、めったに人と喧嘩しない自分がこの春に父と喧嘩してしまったのも、そういう「男感覚」のせいかもという気もしてくる。しかし父との関係修復はどうしたものか。もう、ついでにこのままカムアウトしちゃうかな、などというのも考えたりした。
 
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このバイト先での「女装デート」を数回した後、私はちょっとしたきっかけで完全女装生活になってしまった。女物の下着はほとんど置いてなかったので、ほんとに最初の数日は、毎日翌日着る服を買って買える日々だったし、最初に女物の服を自分で買いに行った時は、久しぶりだったのと、心がかなり男感覚になっていたので、そもそも婦人服売場に近づくのに「自分は今男に見えてないかな?」などと考えたりして恥ずかしがったりしていた。
 
しかし毎日買っていても服が全然足りない。これではたまらん!と思い、カオリに連絡を取った。
 
「ごめーん。カオリ、私の服の箱を着払いで送ってくれない?」
「ああ、とうとう挫折したか」
「うん、まあね」
「じゃ今夜発送するから。京都から東京なら、明日には届くよ」
「助かる」
「でも何か声の調子がおかしいね」
「しばらく女の子の声を使ってなかったから、何か調子が戻らないのよ」
「ああ、かなり男の子になるの頑張ったんだね」
「でも、無理だった」
「よく1年半も持ったと思うよ」
 
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私は令子にも連絡を取った。
 
「なんだ。もう挫折したのかい?」と令子は男の子っぽい声で言った。
「あ、すごーい。ちゃんと男の子の声に聞こえるよ」
「だけど、こちらも挫折寸前だった。ハルが挫折したんなら、私も男の子はやめようかな」
「じゃ、今度会った時は、女の子同士でお出かけしよう」
「そうするかな」
 

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実際にはこの直後に令子と会った時、令子は男装で来たので、私たちは「デートのまねごと」をした。私はひまわりの大きな花柄のワンピースを着ていった。
 
私たちは令子の運転する車でドライブし一緒に食事をした後、ホテルに行った!
 
もちろん、何か変な事をした訳ではないが、ベッドの上で着衣のままじゃれ合った。
 
「でも、ハル、高校時代に彼氏とHした時って、おちんちんはどうしてたの?」
と、その時令子は訊いた。
 
「ぎゅっと体内に押し込んで、アロンαで留めて隠してたよ。好きな人にそんなもの見せられないもん」
「そっか。ハルはタマが無いから、隠しやすかったのね」
「うん。ただ当時のやり方だと、その状態ではおしっこができなかったんだけどね」
 
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「ひょっとしてハルが振られた原因ってさ」
「ん?」
「男の子とセックスできると思ったのに、おちんちんが無かったからかも」
「えー!?」
 
あの「デートの真似事」からもう14年経つ。
私も令子もすっかり女になった。
 

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その日、私がレストランで開店時間から忙しく働き、少し一段落したかな?と思った時、令子はやってきた。私は2人分の軽食のオーダーを入れ、彼女と隅のほうのテーブルに座って話した。
 
「令子はもう男装はしないの?」
「時々やってるよ。ストレス解消にいいし。でも男声はもう出せなくなっちゃった」
「へー。じゃ、そのうち一度男装で会おう。H無しでね」
「お互い既婚者だしね。ハルは男装することあるの?」
「全然。結局大学2年の時のが最後になっちゃったかな。私ももう男声は出ないよ」
「まあ、でもお互い、よく1年半も男の子ライフとかできたよね」
「いろいろ体験するのもいいんじゃない?」
 
「令子のところは子供2人だったよね」
「うん。男女ひとりずつ。ハルの所と同じだね」
「私も、出産は経験できなかったけど、母親になれるとは思ってなかったから何だか今凄く幸せ。子育て自体は大変だけど、充実してるよ」
「うん。子育てって大変だけど、子供の笑顔が最高の報酬という感じだよね」
「ほんとほんと。なんか、じわーっと来ることあるよね」
 
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「でも大阪から金沢に来て、あまり違和感無く生活できてる感じ」と令子。
「ああ、このあたりは基本的に関西文化圏だからね」
「どのあたりに東西の境界線ってあるんだっけ?」
「富山県の呉羽(くれは)山だよ。そこから東が関東、西が関西。天気も変わるから、天気予報では、呉西・呉東って言い方をするよ」
「へー。あれ?呉羽って、クレラップの?」
「そうそう。あそこが発祥の地だよ」
 
「そういえば、環が14年ぶりの同窓会を計画してるんだよ」と令子。
「もしかして6年3組の?」
「うん。やはりあのクラスって団結力あったもんね。もう中学卒業からでも18年たってるけど、6年3組にいた32人の同級生の内25人までメールアドレスを確認できてると言ってた」
 
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「それは凄い。でも女の子は主婦してると遠くには出て来れないだろうなあ」
「一応3D電子会議システム持ち込んで、バーチャルで会話に参加できるようにする」
「なる」
「同窓会自体の開催場所としては大阪かなって言ってる。大阪近辺に住んでる人が多いのよね。男子も女子も。私は離れちゃったけど」
 
「ここからもサンダーバードですぐだしね。車で走ってもいいよ。令子を乗っけてくよ」
「じゃ、その時はお願いしようかな。今、環とカオリと木村君の3人が実行委員みたいな感じで動いているんだけど、ハルの苗字が変わってるのを木村君が見て『あっ結婚したんだ!』と言って、情報が遅い、と言われていた」
 
「えへへ」
「ハルって、小学生の頃から、お嫁さん願望かなりあったもんね」
「うん。でも本当にお嫁さんになれるとは思ってなかった」
「いい人、見つけられて、本当に良かったよね」
 
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「ありがとう。令子もいい人と出会えて良かったじゃん」
「うん。彼も私の性癖を理解した上で、あまり女を強制しないから、楽に奥さんしてられる感じかな。体型が近いから、男装する時、彼の服貸してくれることもあるし」
「そういうパートナーっていいよね」
 
「お互いの性的な傾向を理解しあえるって大事なことだと思うよ。ハルの彼もちょっと、そんな傾向あるんでしょ?」
「少し怪しいとは思う。女装してみない?とか時々唆してるんだけどね。今のところ逃げてるね」
と私は答えて、少し楽しい気分になった。
 
 
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