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■桜色の日々・男の子だった頃(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-04-08
 
進平を7時頃「行ってらっしゃい」と送り出し、それから小学1年生の2人の子供を学校に送り出し、先月オープンしたばかりの、私が店長を務めるレストランに出勤する準備をしていた時、携帯に古い親友の令子から着信があった。
 
「やっほー。元気してる?」と令子。
「うん。今からお店に出ようと思っていたところ」
「お店はどう?」
「凄く順調。予想以上にお客さん来てくれて嬉しい悲鳴。少しスタッフ増やさなきゃと思っている所なのよね」
「良かったね。ところで私、どこから電話してると思う?」
「え?大阪じゃなくて?」
 
「へへへ。なんと内灘なのだ」
「内灘って、石川県の内灘??」
「そうだよー」
「じゃ、すぐそばじゃん!旅行かなにか?」
「実はね。旦那がこちらの病院にこの4月から転勤になったのよ」
「うっそー!」
「やっと、引越の片付けとかも落ち着いたところで。ハルには、びっくりさせようと思って黙ってたんだ」
「わあ、会おうよ!」
「うん。じゃ、ハルのお店に行くよ」
「うんうん。10時半くらいだったら、わりと空いてると思うんだけど」
「OK。じゃ、その時間に行くね」
「場所分かる?」
「ホームページでチェックして、カーナビに入力したから大丈夫」
 
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電話を切って私はとても楽しい気分になり、大好きな桜色のワンピースを着てお店へと出かけた。でも電話の向こうから響いてくる声は相変わらず女っぽい声だったた。ちゃんと、彼女も主婦してるし、「女」してるんだなと思うと安心する。彼女が「女」に戻れなかったら私の責任だったしな、などと思い、私は「あの頃」のことについて、思い起こしていた。
 

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それは、高校3年の秋だった。
 
その頃、私は1年近く交際していた彼氏がいたのだが、ある日曜日に彼とデートしていて、突然「別れよう」と言われた。
 
「なんで別れなきゃいけないの?」
「お互い、受検がこれから忙しいじゃん。恋愛している時間無いと思うんだ」
「負担掛けるようなことはしないよ。デートも月1回くらい短時間でいいし、ふだんも励まし合えばいいじゃん」
 
「ごめん。実はさ俺長男だから家を継がないといけないし、子供も作らないといけないんだ」
「でも、私が子供産めないことは最初から承知じゃなかったの?」
「それはそうなんだけど」
「それとも最初から少し遊んで捨てるつもりだったの?」
「そんなつもりは無かったんだけど」
 
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私たちは30分くらい議論していたが、彼の結論は動かなかった。
 
「ごめんね。ハルのこと、俺今でも好きだよ」
「別れると言っておいて、そんな言葉無いでしょ・・・・」
「ほんとに御免。じゃ、俺行くから」
 
彼が立ち去った後、私はそのハンバーガー屋さんで、泣いた。こんな所で泣いてちゃいけないと思ったけど、身体が動かなくて、ずっと泣いていた。
 

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私は失恋のことは誰にも言わなかったのだが、親友の令子とカオリには、すぐ分かってしまったようだった。
 
ふたりに誘われて、私は川のほとりで胸の内を晒した。そしてまた泣いた。カオリがハグしてくれたけど、私はカオリにハグされたまま、ずっと泣いていた。でもいろいろ話しながら30分くらい泣いていたら、少し落ち着いてきた。
 
「私みたいなのが男の子と交際すること自体、間違ってるのかなあ」
「そんなこと無いよ。きっとハルと真剣に付き合って、結婚してくれる男の子もいるから」
「そうかなあ。だって、私、子供産めないし」
「そんなの気にしない人はいるよ」
「女の子みたいにセックスしてあげられないし」
「そんなの性転換手術しちゃえばいいじゃん。その内するんでしょ?」
 
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「するつもりだったけど、自分が分からなくなっちゃった」
「しないの?」
「だって、性転換手術したって、子供が産めるようになる訳でもないし」
「でも男の子とセックスできるようになるよ」
「そうだよね。でもそれだけだしな」
 
「でも彼とはHなことってしなかったの?」
「彼のを手でしてあげたよ」
「そこまでしたんなら、実質セックスみたいなもんだと思うな。私も彼氏とそこまでしたことないよ」とカオリ。
「私も彼氏とそういう関係にまで行ったことない」と令子。
 
「彼のをしてあげた時は、彼は満足そうだった?」
「よく分からないけど、気持ち良さそうにはしてた。実際発射したし。自分にも付いてるから気持ちよくなる、やり方が分かるのかなあ、なんて言われた」
「ハル、自分のではしないよね?」
「うん。だって、私のは立たないもん。だからどうすれば男の子が気持ちよくなるかって、実はよく分からないんだけどね」
「偽物だもんね、ハルに付いてるのは」
 
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「ああ、私いっそ男に戻っちゃおうかな」と私は嘆くように言った。
「『戻る』って、ハルが男の子だったことってあったっけ?」
「そっかー。『男に戻る』じゃなくて『男になる』かな」
「いや、それにしても無理だと思うな。ハルってほとんど女の子だもん。おっぱいだってあるしさ」
「小さいけどね」
「そのおっぱいだけでも、男の子には見えないと思うな」
「そうかな」
 
「だいたい、ハルのおちんちんでは女の子とセックスできないでしょ?」
「うーん。鍛えれば立つかも」
「どうやって鍛えるのさ?」
「どうやるんだろうね? なんか見当が付かないな」
 
そんなことを言っていた時、唐突に令子が言い出した。
 
「ね。ハルが男になりたいんなら、私も付き合おうか?」
「え?」
「私、自分がFTMなんじゃないかって、時々悩むこともあるんだよね」
「令子もカオリもバイだと思うけど、令子にFTMの傾向があるようには思えないけどな」
「でも私、男だったら良かったのにね、なんてたくさん言われて育ってきたよ」
 
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「女の子の場合、少ししっかりした性格の子は、みんなそれ言われてるよ」
「うんうん。それ別に普通だと思うよ」
 
「ハルの男の子化大作戦に、私も乗っかって、ふたりで男の子目指さない?」
「ちょっと令子、本気?」とカオリは呆れたように言う。
「そうだなあ。一緒に男の子になっちゃう?」
 
「ちょっと。ふたりが男の子になっちゃったら、私どうすればいいのよ」
「私とハルとでカオリを取り合う三角関係になったりして」
「ひゃー」
 

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そんな本気とも冗談とも付かない話をしてから、私と令子は実際にけっこう「男の子化作戦」を進めた。
 
私は男物の下着を買ってきて、身につけてみた。私は一応何かの時のために男物の下着は持ってはいたが、めったに身につけることは無かったし、しばらく買ってもいなかったが、久しぶりに身につけると、これはこれで新鮮な感じもした。母が心配して「あんた。どうしたの?」と言ったので「うん。私、やっぱり男の子になろうかなと思って」と言うと「ふーん。そうなの?」
と少し残念そうな顔をされた。
 
声の出し方については、令子とふたりでけっこう練習した。私は女の子っぽいふだんの声をできるだけ使わないようにして、男の子っぽい声を出すようにした。授業中に私がそんな声を使うので先生が「なんか喉の調子が悪いみたいだな」などと心配した。
 
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学校の中でも私はほとんど男子制服を着ているようになった。でも先生たちから「なんで、吉岡さん、最近男装してるの?」などと言われた。
 
ただ、この時期、もう受検勉強中心になってきて、そもそも学校に出て行かなくても構わないような雰囲気だったし(但し数年前に多くの進学校で問題になったこともあり、受検で使う科目は出席不足にならないよう言われていた)、点呼は2学期の中間考査が終わった後は、もう行われなくなった)、生活指導とかも適当になっていたので、私のこういう変化はあまり気にされていなかったようでもあった。
 
私は志望校も変更した。私はトランスのしやすさを考えて東京に出るつもりで、東京方面の、比較的女子の比率も高い大学に行くつもりでここまで受検勉強をしてきていたのだが、都内の男子の比率の高い大学に変えた。先生から理由を聞かれたが、レベルの高い大学なので狙いたいと言うと納得された。
 
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私は立っておしっこをする練習もした。長らくやったことがなかったし、そもそも私のは小さくて、ズボンの窓から引きだしておしっこをするのが難しい。そこで、洋式トイレで便座をあげた状態で、ズボンとパンツを下げて練習しようとしたのだが・・・飛び散って、それはできないと判明した!
 
この時期、令子も立っておしっこをするのにトライしており、彼女はマジックコーンという女性が立っておしっこできる道具を使ってチャレンジしていた。おもしろそうなので、私も何枚かもらって使ってみた。とても楽に立位でのおしっこができた。
 
「私もこれ常用しようかなあ」
「ハルはホース持ってるじゃん」
「うん。でも短すぎて使えないのよ」
「そんなに短いんだっけ?」
「そのまま見ると付いてないと思われる程度。手で伸ばすと一応8cmにはなるけど」
「だったら伸ばして使えばいいんじゃない?」
「無理。放出口が露出していないと、結局飛び散る」
 
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ふたりとも一人称を変えるのには苦労した。「僕」という一人称を使おうとしても、なかなかうまく使えないのである。ふたりで一緒に「僕さぁ」
「うん僕も」などと言い合ったが、あまりに違和感があって、頭を抱えた。
 
受検勉強の傍ら、そんなことをしつつ、高校3年の2学期も終わった。
 

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私たちは年明け早々にセンター試験を受けた。
 
令子は男装で受検する勇気が無いといって、ふつうに高校の女子制服で試験を受けに行ったのだが、私は思いきって男装で受けに行った。私は受験票が男だから、見た目も男の方が、問題が起きないだろうと思ったのだが、どうも逆のようであった。
 
問題を解いている最中に「ちょっと君」と試験官の人から声を掛けられた。
 
「君、受験票の人物と違うよね。名前は女の子の名前になってるけど、君男の子だよね?」
 
私はキョトンとして試験官を見つめた。
 
「ちょっと外に出ない? 事情を聞きたいのだけど」
 
私は訳が分からない気がしたが、頭を必死に回転させて、ようやく事態を把握した。私は女声でこう答えた。
 
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「すみません。ちょっと寒かったので、兄の服を借りてきたのですが」
 
「あれ、やはり君、女の子か。ごめん、ごめん、服装を見て男の子かと思ったよ。でも、君、よく見たら、顔立ちが女の子だもんね。中断してごめんね」
 
久しぶりに女声を使ったので、少し男っぽい感じの声になってしまったが、それでも、試験官さんには、女の子と思ってもらえたようであった。
 
この話を後でカオリたちにしたら議論炸裂した。
 
「女の子に見えちゃう男の子が男装して受検に行ったら、性別を誤解されたという話?」
「いや、そもそも受験票が女の子だから」
「えっと、私、一応受験票は性別男になってるけど」
 
「ああ、確かに男にマークしてあるけど、この受験票、顔写真も名前も女だもん」
「それにハルは女の子に見える男の子じゃなくて、正真正銘女の子だよ」
「いや戸籍上は男だし」
「この際、戸籍は関係無い」
 
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「だから、これは女の子が男装して受検したんで、本人確認でトラブったというだけの話じゃん、単純だよ」
「そんな簡単な話だっけ?」
「違うよ。受検したのは男の子だけど、受験票が女の子に見えたというだけ」
「それは違うと思う」
 
「戸籍上はなぜか男の子になってる女の子が、最近男装に凝ってるものだから、それで受検に行ったものの、受験票が男にマークしているにも関わらず女の子の受験票に見えたので、受験生と受験票の性別が違うと指摘された、という話だよ」
「それ、わざわざ話を複雑にしてる!」
「いや、やっぱり私の頭では理解できん!」
 
などと言われた。本当に自分でもどう説明したらいいのか、よく分からない事件であった。
 
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「でも、これ、ハルがちゃんと女の子の格好で受検すれば問題無い話」
「男装に凝ってるのかも知れないけど、受検ではやめときなよ。混乱の元」
「そうだそうだ」
 
などとみんなに言われたので、私も確かにそうかなという気がして、2月の大学での本試験の時は、開き直って女の子の服装で行った。すると全くノートラブルであった。やれやれと思った。
 
そうして私は東京の某国立大学、令子は大阪の某国立大学、カオリは京都の某私立大学を受けて、それぞれ合格することができた。(カオリは山陽方面の国立も受けて合格していたが、結局京都の私立への進学を決めた)
 

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