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■桜色の日々・男の子だった頃(2)

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大学に合格して東京に出る時、私はもういっそ男の子の服で通そうと思った。令子もこれを機会に男装を始めると言っていたが、さすがにフルタイムの男装はできない気がするというので、学校には一応中性的な格好で出て行き、普段の生活を男性化させるつもりだと言っていた。
 
私はフルタイム男装するつもりでいたが、女物の服も全然無いと困るので、少しだけ持って行くことにした。それ以外の女物の服に関しては、いろいろ悩んだあげくカオリに預かってもらうことにした。
 
「自分のアパートの押し入れにでも入れておけばいいのに」
「近くにあったら着たくなるから」
「着ればいいのに」
「うん。それを着ずに頑張ってみる」
 
「無理だと思うけどなあ、ふたりとも。特にハルは絶対すぐに女の子に戻っちゃうよ」
などとカオリは言っていた。
 
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新入生は健康診断を受けなければならず、大学から送られてきた書類に日時と場所が指定されていたので、私は(もちろん男装で)、その場所に行った。
 
受付をして、待合室にいたのだが、ふと気付くと、周囲が女子ばかりである。私はまたまた私の書類が女子として扱われていることに気付いた。
 
そこで受付に行って
「ひょっとして、今、女子の健康診断の時間帯ですか?」
と訊いた。
「ええ、そうですけど」
「あのぉ、私、男なんですけど」
「え!?」
 
係の人は調べてくれたが
「あのお、あなた学籍簿上では女ということになっていますが・・・・」
「私、受験票はちゃんと男にしたはずですけど」
「ではその件は学生課で確認してください。健康診断は、それでは明日再度ここに来て受けていただけますか? 男子は昨日終わっているので、あなたひとりでの受診になりますが」
「分かりました。よろしくお願いします」
 
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そういうわけで新入生の健康診断は私はひとりだけ別に受けたのだが、学生課に行き、学籍簿上の性別を確認してもらうと、本当に女になっていたので、男に訂正してくださいと言うと「性別変更届」を出してくれと言われた。
 
「別に性別が変わったわけではないのですけど」
「いえ、データベースを変更するのに必要なのでお願いします」
 
ということで、私は性別を女から男に変更する届を書いた。この時は2年後に男から女に再変更する届を書くことになるというのまでは、思わなかった。
 

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ひとりだけで受けた健康診断も、けっこう大変であった。
 
身長・体重・胸囲などを測定され、胸部間接X線撮影に行ったら
 
「今妊娠はしてませんか?」と訊かれた。
「え?してませんけど」と答えたが、男でも妊娠するんだっけ?と一瞬考えてしまった。
 
このX線撮影も、その次の心電図も、どちらも女性の技術者がしてくれた。この時点まではあまり深く考えていなかった。
 
お医者さんによる検診を受けるのを待っていたら、看護婦さんに「吉岡さん?」
と声を掛けられる。
「はい?」
「あなた尿検査のコップ、どこに置きました?」
「え?トイレに置いてと言われたので置いてきましたが」
「見あたらないのだけど」
「あれ?変な所に置いちゃったかな?」
 
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といって、私が席を立ち、男子トイレに入ろうとすると
「あら?あなた男子トイレに入ったの?」
「あ、えっと」
「そちら男子トイレよ。女子トイレはこっち」
などと言われ、看護婦さんは男子トイレの中からコップを回収してきた。
 
ここでどうやら自分はやはり女ということになっていることに思い至る。だって昨日、自分は男だと主張して日程変えてもらったのに!
 
お医者さんとのやりとりも微妙だった。
「うん。特に問題ないようですね。生理不順とかはありませんか?」
「あ、えっと特に」
 
自分は男ですけどと言うべきかどうか迷ったが、私も「ま、いっか」と思ってこの健康診断を終えた。
 
後でもらった健康診断結果表で、私の性別はしっかり「女」とプリントされていた。
 
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そんな感じで、私の大学生活は、全然順風満帆ではない状態でスタートした。
 
しかし知っている人が全然いないので、私は完全に猫をかぶって、男子学生っぽく振る舞っていた。1人だけ高校の同級生がいたのだが、別の科なので、あまり接する機会は多くなかったし、彼も私のことを見て
「見ててくすぐったいから、そろそろ男装やめたら?」
などと言ったものの、私のことを進んでバラしたりする様子は無かった。
 
新歓コンパにも行ったが、何だかよく分からなかった。私はみんなにお酒をついであげたり、料理を取り分けたりしてあげていたが、3人いる女の子の中の涼世から「吉岡君、よく気がきくねー。私あんまり気がつかなくて」などと言われた。
「うーん。僕、男ばかりの兄弟のいちばん下で、お母ちゃんの手伝いよくしていたから」などと言うと
「わー、偉ーい。私は女ばかりの姉妹のいちばん下で、お姉ちゃんたちが全部やってくれてたから、何にもせずに育っちゃって」などと言う。
 
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その日は結局、涼世とあれこれ話していたものの、男子の同級生とはあまり話さないまま終わってしまった。
 

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大学に入ってすぐに私は運転免許を取りに行った。バイトを色々するのに必要な場合もあるし、ということで自動車学校に通い始めた。
 
入学手続きをして講習の案内を受け、すぐにその日受ける講習を決める。まずは基本的な講習を受け、シミュレーターで運転操作の練習をして、その後実技を受ける。実技の先生から声を掛けられるのを、待合室で待っていたら、ひとりの男性から声を掛けられた。
 
「あれ、君も◇◇◇◇大学?」
「あ、はい?」
「いや、君のバッグに学章が付いてたから」
「ああ、それで」
 
私は何となく買った学章を何となくふだん使いのトートバッグに付けておいたのである。
 
「何学部?」
「理学部ですが」
「ああ、そうだよね。女の子は工学部とか来ないよな。あ、俺、工学部の金属工学科の田代ね、よろしく」
「吉岡です。よろしく」
と私は挨拶したが、今『女の子』って言われたよな、とふと思う。誤解は早めに解いておいたほうがいいかな・・・と思った時
 
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「よしおか・はるねさん」と教官の呼ぶ声が聞こえた。
 
「はい」と私は返事をして、田代君には「じゃ、また」と言って横に首を傾げる女の子式会釈をして席を立った。つい出てしまった仕草だが、ああ、やはり私って、女の子が染みついているんだなと思った。
 

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大学では、できるだけ男っぽく振る舞おうとして、積極的に男子学生の話の輪に最初は入っていたのだが、彼らの話題にはなかなか付いていけないことが多く、男の子というものについて勉強不足だなあ、などと感じていた。
 
3人いる女子は、こんな男の多い大学の理学部に来るだけあって、全員個性的だった。3人の中でリーダー格っぽい莉子(りこ)は、男嫌いのようで、男の子が話しかけたりしても、しばしば無視していた。難攻不落と見て敢えてアタックしていた男子もいたが、誰ひとりとして莉子とデートにこぎ着けることはできなかった。
 
妃冴(ひさえ)は少し線が細い感じで、男の子と話すのを恥ずかしがっている感じだった。あまりにも純情っぽくて、男の子たちもデートに誘ったりするのは悪いかなみたいな雰囲気になっていた。しかし彼女は授業中は熱弁を振るい、教官の講義内容にミスなどがあると「そこ違います」などと、積極的に発言していた。
 
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私が比較的仲良くなったのが涼世(すずよ)だが、彼女は誰にでもフレンドリーで、私以外にも何人かの男子と気軽に話していたし、デートに誘われるとたいてい応じていた。ただし彼女と親密な仲になることのできた男子はいなかった。
 
「だけどハルちゃんって、他の男子とは雰囲気が違うよね」と涼世は言っていた。
「そうかな?」
「ちょっと女の子っぽいとか言われたことない?」
「え?別に」
「ちょっと女装させてみたいな、とか思っちゃった」
「ああ、してみたい気もするね」
などと私は笑って応じていた。
 

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自動車学校で最初悩んだのはトイレ問題であった。
 
この自動車学校の教室は2つの棟に別れているのだが、A棟には男子トイレ・女子トイレがあるものの、B棟には女子トイレしか無かった。元々、A棟の女子トイレが混むのでということで、B棟を作る時に女子トイレを作って、女性の受講生の便を図ったもののようであった。
 
しかしこういう配置になっているとB棟で講義があった後男性がトイレに行くには、わざわざA棟まで行かなければならないことになる。
 
私はけっこうおしっこが近いので、そういうトイレの配置を見て、ここでは女で通したい気分だなと思ったりしたのだが、とはいっても女装している訳ではないから、ちゃんと男子トイレに入らなきゃいけないかな。。。。と思い、男子トイレに進入したのだが、入口を入ったところでバッタリと、田代君に遭遇した。
 
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「わっ」
「あっ」
「吉岡さん、こっち違う。女子トイレは向こう」
「あ、御免なさい」
 
と言って、私は慌てて飛び出すと、隣の女子トイレに飛び込んだ。
えーん。こちらに入っちゃったよと思い、取り敢えず出来ている列に並ぶ。
 
「あれ?」と前に並んでいた女の子から声を掛けられた。
「はるねさんでしたよね?」
「あ、はい。ゆみかさんだったっけ?」
 
それは同じ日に入校した子であった。何となく彼女としばしおしゃべりをした。結局そういう訳で、私は自動車学校では女子トイレを使うことになってしまったが、ほんとおしっこが近いので助かった。
 
「はるねさん、いつも中性っぽい服装だよね」
「そうかな。でも運転しやすい服装しなさいって書かれていたし」
「確かにスカートよりパンツの方がいいよね、ここでは」
 
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「ゆみかさん、□□大学なんだね。そのマーク格好いいなあ。何学部?」
と彼女がバッグに付けている学章を見て言う。
「理学部」
「わあ、私も理学部」
「はるねさんは◇◇◇◇大学なのね。私も□□大学とどちらにしようか結構迷ったんだけどねー。◇◇◇◇は女の子少なそうだなあと思って、こちらにしたんだよね」
「私も□□は考えてたんだけど、私立は学費払いきれない気がして」
「確かに高いよね」
 
そんな感じで、私は別に女装もしていないのに、自動車学校では誰もが疑問を持たずに女として周囲に扱われてしまっている感があった。それは教官も同じで、実技の時に男性の教官にしても女性の教官にしても、こちらを女と思っている前提で会話が成立している気がしていた。
 
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大学の方では、5月頃になって、同じクラスの寺元進平という男の子とよく話をするようになる。他の男子学生とはなかなかうまく会話が成立しなかったのだが、彼とは何となく話が合うので、あれこれ話をしていた。
 
「吉岡、少し変わってるよね」と進平。
「うん。変人だとは思ってるけど。でも、寺元も少し変わってるね」と私。
「ああ、俺、あまり友だちできないたちなんだけど、吉岡とはなぜかストレス無く話せるから」などと言われていた。
 
私たちはお互いにあまり話せる相手がいないと思っていたところで何となく話が合ったので急速に仲がよくなり、学食などでよく話していた。
 
また、私が涼世とも比較的よく話していたことから、間接的につながりができて涼世と進平の間でも、しばしば会話が成立していた。
 
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「でも寺元君って、ハルと持ってる空気が似ている気もするね」
と涼世は、ある時ふたりで話している時に言った。
「あ、それは感じる。彼と話しているとストレスが無いんだよね」
「ね・・・ふたりって恋愛関係じゃないよね?」
「なんで〜? 男同士なのに」
 
「いや、寺元君がハルを見つめる目がちょっと熱を帯びてるような気がして」
「やめてー、そういうの」
「ハルちゃんって、バイだよね?」
「うん。それは認める。でも寺元とはそういう関係じゃないつもりだけどなあ」
 

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自動車学校では、よく、ゆみかと遭遇したので、けっこう彼女とはおしゃべりしていたし、携帯の番号も交換した。休日などは昼間の講義で会ったあと一緒に町に出て洋服屋さんをのぞいたり、他何人かの女の子と一緒にお茶を飲んだりすることもあった。お陰で、女物の服は大学生活当初は下着1セットとスカート1枚くらいしか無かったのが、少しだけ増殖した。中でも偶然見て、ほとんど衝動買いした桜色のワンピースは、お気に入りの品であった。
 
「私、この色が好きなのよね−」
「何か想い出とかあるの?」
「そうそう。小学1年生の頃に、桜色の服を着せられてお出かけしたことがあって、何かそれが凄く印象に残っていて」
「へー」
 
「小学校の4年生の頃まで、一時期そういう可愛い格好を封印してたから」
「はるね、自動車学校ではいつも中性的な服装だけど、そういうのが好きなのかな? とも思ってた」
「うーん。ちょっと訳あって、去年の暮れくらいから『女の子』封印中だから」
「なるほど、時々そうやって可愛い自分を封印して熟成するのね」
 
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「熟成?」
「そうそう。例えば水泳とかできなかった人が、何年もやっていなかったのに再開したら、いつの間にかちゃんと泳げるようになっていることあるのよね」
「ああ、そういう話は時々聞くね」
「はるね、今女の子らしい服を封印していて、そのうちまた可愛い格好するの再開したら、きっと物凄く女らしくなってるんだよ」
 
「うーん。何かありそうな気がしてきた」
 

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