[*
前頁][0
目次][#
次頁]
浦嶋子の活躍をねぎらう宴が開かれ、夜まで続いていましたが、浦嶋子は途中でそっと宴の場を抜け出し、寺の住職と村長にだけ挨拶しました。
「ありがとうございました。ご住職のおかげで墓参りができましたし」
「いえこちらこそ本当にありがとうございました。うちの娘をはじめ多くの娘の命が助かりました」
「私はたぶん、時の定めていたことをしただけです」
それで嶋子はふたりと別れて浜辺に行きました。
海に向かって座り、目を瞑って、悠久の時が流れる蓬莱島のことを思い起こしていました。もう自分の帰る故郷はないのだから、これからは本当に蓬莱島の住人として頑張って行こう。
そんなことを考えていた時、何かが海からあがってくる音がします。目を開いて見てみると、五色の亀があがってきた所でした。もう空は明るくなり始めています。
あれ?そういえば姫と出会う直前に自分はこんな色の亀を獲ったんだった、とふと3年前の出来事を思い出しました。
「亀よ、私を覚えているかい?」
と太郎が言うと
「忘れるものですか」
と亀は言い、姿を変じて、亀姫になりました。
浦嶋子はびっくりします。
「姫があの亀であったのか!」
「あの時は船を用意する時間がなくて泳いで辿り着いたのです」
と姫は言います。
「そうだったのか。亀を食べてしまわなくて良かった」
「あなたに食べられたら本望だけどね。じゃ私の背中に乗って蓬莱島に還(かえ)る?」
「うん」
それで姫は再び亀に変身したので、その背中に乗ろうとしましたが、その時、ふと浦嶋子は村長から頂いた小箱が結構邪魔になるなと思いました。
「そうだ。この櫛笥の中に入れてしまおう」
と言うと、櫛笥を開けてしまいました。
「あっ!」
「あっ!」
と浦嶋子と亀に変身している姫の双方がほぼ同時に声を挙げました。
慌ててふたを閉めたものの時既に遅く、中から出てきた白い煙を浴びて、浦嶋子はたちまち60歳くらいのおじいさんになってしまったのです。
「あんた馬鹿ぁ!?」
と亀の姿から人間の姿に戻った姫が呆れたように言います。
「うっかりしていた。でも猿を倒した時に出た煙で終わりでは無かったのか?」
と浦嶋子も我ながら本当に馬鹿なことをしたものだと思って言います。
「煙が白かったでしょ?」
「うん」
「煙はゆっくり出てくるから。全部出終わるのにけっこう時間がかかる。だから猿を倒した時点ではまだ少し残っていたんだよ。でも残りは薄いから色は紫ではなく、白かった」
「じゃ、あの時、もう少し経ってからふたを閉じれば良かったのか」
姫は頭を抱えています。
「でもどうしよう?」
と浦嶋子は途方に暮れています。
姫は困ったような顔をしていました。
「若い年齢に戻りたい?」
「戻りたい。これではたぶん姫と営みもできないし、早く死んでしまいそうだ」
「そうね。あなたのその見た感じでは、蓬莱島に戻っても、あと10年くらいしか生きられないと思う」
「ごめーん」
「私はもっと長くあなたと居たい。あなたは私と一緒に長く居たい?」
「居たい。何か方法があるの?」
姫は厳しい顔をして、櫛笥を自分で開けて、三段重ねの内箱を出し、一番下の段から、黒い丸薬、白い丸薬、青い丸薬、そして赤い粉薬を取り出しました。
「黒い丸薬を飲めば、あなたの身体に流れる時間の早さを8分の1にすることができる。蓬莱国では地上のだいたい70分の1くらいの速度で時間が流れている。この薬を飲めば蓬莱国と地上との中間くらいの速度になり、櫛笥に閉じ込める年齢も少なくて済む。但し」
「但し?」
「この薬を飲めばあなたの睾丸が消滅する」
「え〜〜!?」
「白い丸薬を飲めば、あなたの身体に流れる時間を更に8分の1にできる。すると、蓬莱国に来た地上の人間と似たような時間の流れになる。するともう櫛笥に年齢を閉じ込めなくても一緒に過ごしていける。但し」
「但し?」
と浦嶋子はおそるおそる聞きます。
「この薬を飲めば、あなたの陰茎が消滅する」
「うっそー!?」
「青い丸薬を飲めば、あなたの身体に流れる時間は停止する。だから、この世の終わりまで、私と一緒に過ごすことができる。実際問題として、あなたが櫛笥を開けなかった場合でも、一緒に過ごすことのできる時間は3000年くらいしか無かった。でもこの薬を飲めば仙境の者と同じ体質になり、永遠に生きることができる。但し」
「但し?どうなるの?」
と浦嶋子はもう苦笑しながら訊きます。
「この薬を飲めば、あなたのお股は女の形になる」
「やはり・・・」
「そして赤い粉薬を飲むと、飲んだ量に応じて年齢が若返る。飲み過ぎは注意ね。40年分若返れば20歳、50年分若返れば10歳だけど、60年分若返ると0歳で消滅してしまうから」
「それは怖い」
(当時の年齢の数え方は生まれた時が1歳なので、0歳は生まれる以前)
「でも但しがあるんだよね?」
と浦嶋子は言います。
「但しこれは飲めば飲むほど、胸が膨らんで女のようになる。たくさん飲むとたくさん膨らむ」
「あはは」
「この薬飲む?」
「それ赤い粉薬だけ飲むってわけにはいかないんだよね?」
嶋子はおっぱいが膨らんでも、ちんちんがあれば何とかなりそうな気がしました。
「黒を飲んでいなければ白の効果は無い。白を飲んでいなければ青の効果は無い。青を飲んでいなければ赤の効果は無い」
「はあ」
と息を抜くように声を出して、浦嶋子は座り込んで考えました。
「ね、ちょっと試してみたいんだけど、後ろ向いててくれる?」
「立つかどうか確認するのなら、私が見ていた方がよくない?」
「そうかも!」
それで浦嶋子はまだ着ている花嫁衣装の裾の間に手を入れ、その下に着けている女物の湯文字の中にも手を入れて、自分のものを手で刺激してみました。
浦嶋子は10分くらい頑張ってみたのですが、全く反応しません。
浦嶋子は力なく肩を落としました。
「ダメみたい。どっちみち姫とできないのなら、できなくてもいいから、ずっと姫と一緒にいたい」
「だったら、薬を飲む?」
「飲む」
と言って、浦嶋子は最初に黒い丸薬を飲みました。すると1−2分ほどで嶋子の睾丸は無くなってしまいました。
「無くなっちゃったよお」
「仕方ないわね」
次に浦嶋子は白い丸薬を飲みました。すると3-4分の内に嶋子の陰茎は
どんどん小さくなり、やがて消えてしまいました。
「男の印が無くなってしまった」
「まあ男ではなくなったということね」
次に浦嶋子は青い丸薬を飲みました。すると7-8分ほど、嶋子のおまたの付近がムズムズする感覚が続きました。
「なんか凄く気持ち悪い」
「まあ我慢するしか無いよ」
落ち着いた所で、自分では見るのが怖いので、姫に見てもらいました。
「ああ。美事に女になっている。これはお嫁さんにもなれるよ」
「お嫁さんは嫌だよぉ」
「だから私のお嫁さんになればいいんだよ」
「それでいいの?」
「うん。私お嫁さん居てもいいよ」
「じゃそうさせて」
それでふたりは口付けをしました。
そしていよいよ赤い粉薬を飲みます。これは姫が正確に分量を量ります。
「どのくらいの年齢まで戻りたい?」
「できたら元の年齢に」
「じゃ、27-28歳くらいの感じ?」
「うん。そんな感じ」
それで姫が量ってくれた量の粉薬を飲みました。するとみるみるうちに浦嶋子は若返っていきます。それとともに胸も膨らんでいきました。
「けっこう大きくなったね」
「胸が重たい」
「蓬莱に戻ったら、乳当てを着けるといいよ。そしたら楽になる」
「そうしようかな。でもこれじゃまるで女の身体だ」
「鯨お姉様の夫の入加さんと似たような状態ね」
「え!?入加さんって、鯨さんの夫なの?だって女の人なのに」
「入加さんのことは、ちゃんと鯨お姉様の『良い人』と紹介したと思うけど」
「仲の良い人という意味かと思った!」
「あの人も櫛笥を開けずに我慢したんだけど、最後の最後で櫛笥を落としてしまって。その時少しだけふたが開いたのよ。急いでふたを閉じたから少ししか煙は出なかったんだけど、やはり年老いてしまったから、あなたと同様にして、男の身体を犠牲にして若返って、永遠の生命を手に入れたのよね」
「あはは。前にもやったことのある人があったのなら、少し気が楽になる」
「お馬鹿さんが時々いるってことね」
それで結局、女のような身体になってしまった浦嶋子は再び亀に変身した姫の背中に婚礼衣装のまま乗りました。
亀は物凄い速度で大海原を進みます。
そして3日ほどで蓬莱島に帰還しました。
「わあ、お父ちゃんだ」
と言って、娘の蛤姫と蜊姫が寄ってきました。
浦嶋子は、良かった。我が娘たちと再び会えたと思い、涙を流しながらふたりを抱きしめましたが、娘達が変な顔をします。
「お父ちゃん、女の人みたいな感じ」
「ごめんね−。女になってしまったけど、お前たちのお父ちゃんだから」
と浦嶋子は言いました。
親族たちにことの顛末を報告すると、少し呆れられたものの、ふたりが夫婦としてやっていくのなら、女になってしまったくらいは些細なことだから気にしないと言われました。
入加さんは
「私と同じような馬鹿が世の中にはいるもんだな」
と呆れたように言いました。
浦嶋子が無事(?)戻って来たことを祝って、そして女同士にはなったものの、あらためて夫婦になることを祝って、宴を開くことになりました。
「しかしあなたももう完全に蓬莱島の住人と同様になったのなら、名前も変えましょう」
と亀姫のお母さんの乙姫様が言いました。
「それはここに戻ってくるまでの間に考えてたの」
と亀姫が言います。
「俗に鶴亀と言うから、嶋子は鶴(つる)ということで」
「ああ。いいんじゃない?」
「鶴姫でもいいけど」
と亀姫。
「いや、姫をつけなくてもいいよ。鶴だけで」
と浦嶋子。
「うん。私も入加姫(いるかひめ)にしようかというのを、姫は付けずに入加(いるか)だけにしてもらった」
と入加さんも言います。
しかしそういう訳で、浦嶋子は鶴になったのです。
なお、鶴が筒川村から持ち帰った鞍作鳥の小箱は
「これは素敵なものだ」
と言われ、この宮の宝とされました。艶紅もとても上品な色合いのものなので、いったん絵姫様に献上したのですが
「このようなものは若い女が使えばよい」
とおっしゃて、まず2つに分けた上で、半分は鯛姫・鮃姫・鮭姫・鱒姫の4姉妹で、半分は鰐姫・鯨姫・鮫姫・亀姫の4姉妹で一緒に使うことにしました。
「入加も使っていいよ」
と鯨姫様。
「いや、私はあまりお化粧しないから」
と入加さん。
「鶴も使っていいよ」
と亀姫。
「化粧はしなくてもいいのなら、しないでおきたい」
と鶴。
「じゃお化粧する時は塗ってあげるね」
なお、鶴は女になってしまったので、服は女性用の小袖と裳、下着も湯文字と乳当てを使うように言われ、すぐに準備してくれました。乳当ては着けると確かに随分楽になりました。それまで重たくて重たくて肩が凝りそうだったのです。
「この湯文字、巻き方は今までつけていた下帯と似た感じだね」
ここ蓬莱流の下帯の付け方は、大和の国の方式とは違い、お股には布を回さず、男の物はぶらぶらして開放された状態になっていたのですが、湯文字は当然腰の周りに巻くだけで、お股を覆いません。ただし、鶴にはもはや、ぶらぶらするものがありません。
「巻き方は同じだけど、湯文字は幅が男物の下帯より広いのよね」
「確かに倍くらい幅があるかな。膝近くまで来るし」
祝いの宴は賑やかに行われました。親戚たちも、浦嶋子が女になってしまったことには驚いたものの、やはり無事生きて戻って来たことを祝ってくれました。この宴では、亀姫も豪華な女性の最高礼服を着ましたが、鶴も同様に豪華な最高礼服を身につけました。初めて裳を付けられて鶴はドキドキしました。なんかおちんちんが立ってしまいそうな気分なのですが、あいにく立つようなものがありませんでした。でも亀姫と一緒にいられるのだからいいか、と鶴は考えました。
当然ふたりともしっかりとお化粧されました。初めて唇に紅を入れられた時は自分は本当に女になったんだなあという意識になり、気が引き締まる思いでした。
宴が終わった後、子供たちは鮫姫お姉さんが見てくれるということだったので、亀姫と鶴はふたりで寝床に行きました。
「女同士でどうすればいいの?」
「鯨姫お姉様から聞いてきた」
「愛し方があるんだね?」
「もちろん」
その夜のふたりの営みは熱く燃えるようでした。しかも男と違って終わりというものが無いのです。鶴はこれって男と女でするよりずっと気持ちいいじゃん!と思い、女になって良かったのかもと考えました。ただついつい朝までやってしまうから、疲れるけどね!