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■浦嶋子(2)

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宴(うたげ)はとても盛大なものでした。
 
仙歌は清らかな声で聴いているだけで天国にいる気分になります。神の舞は手振りたおやかで惹き込まれてしまいそうです。先ほどの昴7幼女・畢8少女も美しく着飾りお化粧もして歌や舞を見せてくれますし、嶋子は姫の親族たちとたくさん杯を交わしました。
 
並ぶ食事は香り豊かな、見たことも無い料理ばかりで、それが数百品並んでおり、どんどん追加されていました。嶋子は「まあまあ」と言われてたくさん飲み、たくさん食べたので、最後の方は完璧に酔っ払い、お腹もこれ以上とても入らない!という感じになりました。
 
賑やかな宴も、日が落ちる頃には潮が引くようにみんな居なくなってしまいます。嶋子と姫だけが残り、ふたりは手を取り合って寝室に行きました。
 
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邪魔にならないように、髪留めなどの装身具を外して、部屋の隅にある美しい漆塗り(*7)の櫛笥(くしげ)に納めます。
 
そして改めて並んで座りました。
 
「素敵。すべすべとしたお肌になってる」
「全部剃られちゃった」
「人間の世界のものは全部洗い落とさないとね」
「ここではみんな剃ってるの?」
「ふふふ」
 
嶋子はかなり飲んだので、できるかなと自信があまり無かったものの、姫を実際に抱きしめると、愛おしい感情が強く湧き上がってきて、強く抱きしめ、そしてふたりは熱い思いを交わしたのです。
 

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朝起きると、お互いに普段着に着替えることになります。しかし普段着と言ってもけっこう贅沢な服です。姫は絹製の薄赤の小袖に同色の裳を着け、嶋子も緩やかな青色の絹の小袖に同色の袴を穿きます。女性用の小袖は男性用より細身で丈が長く、実際、裳を着けなくても腰の下まで覆っていました。裳と袴は似ているのですが、ここの裳は巻きスカートのような構造になっているようです。
 
「この袴、左右に分かれていないから、穿いている内に回転してしまうことがあるんだけど」
と嶋子ば言いますと
 
「女が穿く裳もそうですね。そのうちどちらが前か分からなくなる」
「やはりそうなるのか」
「あなたも裳を穿いてみる?」
「なぜ女の服を着ねばならぬ?」
「あなたは見目麗しいから、女の服でも似合いそうなのに」
「見目麗しいという言葉は女について言うんじゃないの?」
「あなたの場合はいいのよ」
 
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姫は朝御飯の後、お屋敷の中を案内してくれました。
 
「この宮は春夏秋冬と4つの町から成るのですよ(*8)」
 
それで東にある春の町に連れて行かれると、梅や桜の花が咲き、柳の枝が春風に吹かれて、たなびく霞の中からウグイスの声が聞こえます。
 
次に南にある夏の町に連れて行かれると、春の町との境界付近に卯の花が咲き、池の蓮には露が付着しており、汀(みぎわ)のさざ波に水鳥が遊んでいます。空には蝉の声が聞こえ、夕立の過ぎた雲間から、ホトトギスが鳴いて夏を報せています。
 
西にある秋の町に連れて行かれると、その付近の梢(こずえ)も色づいて、垣根の内側に白菊が咲き、霧が立ちこめる野の果てに寂しい鹿の声が響いています。
 
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そして北にある冬の町に連れて行かれると、梢は冬枯れて、枯葉に初霜が降り、山々は白い雪に覆われ、その麓に炭焼き小屋があって煙が出ていました。
 

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浦嶋子は姫と愛があふれる楽しい生活を続けました。むろん遊んでいるだけではありません。ここでは多くの人が農業に従事していて嶋子も畑を耕していましたが、実に様々な作物が育てられていました。
 
浦嶋子は最初の内はあまり気にしていなかったのですが、ある日気付いて聞きます。
 
「聞いてもいいのかな。姫のお父様って、どこか遠くにおられるのですか?それとももう亡くなられたのですか?」
 
すると姫は悲しい目をして答えました。
 
「遠くの国に行って亡くなったんですよ。もう遠い昔です」
「そうであったか。ごめんね。辛いことを聞いて」
「いえ、あなたに言わずにいた私がいけなかったわね」
 
それからまたしばらく経った日、浦嶋子は別の疑問を感じます。
 
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「この屋敷って、男の人が全然いない気がするのだけど」
「そうですね。うちは女系家族で、それに姉たちの夫ももう既に亡いので、今はこの屋敷で男はあなただけですね。女ばかりの家なので、使用人も皆、女ばかり雇っているのですよ」
 
「なるほど。そうであったか」
 

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ふたりの生活はその後も平穏に続き、やがてふたりの間には子供も2人生まれました。ふたりとも美人の女の子でした。
 
「美しい姫に似て美しい」
「美しいあなたに似たから美しいのよ」
「美しいという言葉はあまり男には言わない気がするが」
「あなたは女子(おなご)になってもいいくらい美しいわ」
「私が女子になったら、姫と愛し合えないではないか」
「女同士でも愛し合えるわよ」
「そうなの!?」
 
仙境の秘術なら、男を女に変えてしまう術くらいありそうで、ちょっと怖い気分です。
 
嶋子と亀姫はふたりの娘に、蛤姫(はまぐりひめ)、蜊姫(あさりひめ)という名前を付けました。
 

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嶋子が蓬莱に来てから3年ほど経った時、ふと彼は両親に何も告げずにここに来てしまったことが気になり始めました。
 
忘れていた訳ではないのですが、ここでの生活があまりに刺激的で、ついつい放置してしまっていたのです。そしていったん気になり始めると、どんどんそのことは嶋子の心の中で大きくなっていきました。
 
「最近、あなたの顔色が冴えません。どうかしたのですか?」
と姫は心配して言いました。
 
「実は郷里に残して来た両親のことが心配になって。無事でいてくれるだろうか。私が居なくても何とかなっているだろうかと」
と嶋子は言いました。
 
「帰りたいの?」
と姫は不快そうに言います。
 
「私は故郷から離れて、この神仙の世界に来た。それなのに、こんなことを口に出してしまってごめん。でも、どうだろう?一度向こうに行って、両親たちの様子を見てから、またここに戻ってくることはできないだろうか?」
 
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と嶋子は姫に言いました。
 
「つまり私と別れたいの?私はあなたと天地が尽きるまでずっと一緒に過ごすつもりでいたのに」
と言って、姫は泣き出します。
 
「違うよ。僕もずっと君と一緒にいたい。だから1ヶ月だけ時間をくれないか?必ずここに戻って来るから」
 
「ほんとに?ほんとに戻ってくる?」
「もちろんだよ」
 

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浦嶋子が蓬莱に来た時の船はもう朽ち果ててしまい、残っていなかったので、姫が新しい船を作らせました。そして、大きなワニに命じて、嶋子を故郷の村まで連れていくことにしました。また蓬莱の国の服は外に持ち出してはいけないということで、大和の国の男性用衣服を用意して、嶋子に着せてくれました。
 
出発の日、別れを惜しんで、姫はこのような歌を詠みました。
 
『日数経て重ねし夜半の旅衣、たち別れつつ、いつかきてみん』
 
(長い日々、ひとつの夜具を共にして来て今別れようとしていますが、またあの夜具を着られるように来てくださいますか?)
 
※「きて」は「着て」と「来て」を掛けている。
 
嶋子が返歌します。
 
『別れ行く上の空なる唐衣、契り深くば、またきて見ん』
 
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(あなたとの別れが辛く心がここにありませんが、私たちの縁が深ければ必ずや再びここに来て会いましょう、そして一緒の夜具を共にしましょう)
 
姫、姫との間になした2人の娘、姫の母や親戚一同まで出て、嶋子を見送ってくれました。
 
「そうだ。これをお持ちになって」
と言って、姫は嶋子に自分が愛用している漆塗りの櫛笥を渡しました。
 
「これを私だと思って大事にして。でも絶対にこの櫛笥のふたは開けないでね」
「分かった。大事にするよ。これは女が使う道具入れだから、男の私が開けるわけがない」
 
2人の娘が泣くので
「必ず戻って来るよ」
と言ってしっかり抱きしめます。
 
親族のひとりひとりが嶋子と別れを惜しんで握手してくれました。亀姫のお母さんの乙姫さん、亀姫のお姉さんの鰐姫、鯨姫、鮫姫と握手して、鯨姫の侍女?の入加さんまで握手してくれました。
 
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その入加さんと握手した時、何か丸めたものを彼女が嶋子の服の袖の中に落とし込みました。そして小さな声で
 
「向こうの村に着いてから読んで」
と言いました。
 
最後に亀姫と抱き合い、人目も憚らず口付けまでしてから船に乗り込みました。船を出しますが、人々は皆ずっと手を振ってくれました。嶋子は永久(とわ)の別れという訳でもなく、1月経ったら戻ってくるのに大げさな気がすると思いました。
 
浦嶋子の乗る船はワニに導かれて、約7日で、筒川の村まで帰り着きました。
 

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久しぶりに見て懐かしい岩の形などを眺めながら、浦嶋子は船を浜辺につけました。ワニは半月後に迎えに来ると言って帰っていきました。
 
それで嶋子は自宅に戻ろうとしたのですが、何だか様子が変です。
 
村の様子がすっかり変わっており、道を行き交う人々が顔も知らない者ばかり。それで間違った村に来たのではと思い、通りがかりの人に訊きました。
 
「済みません。ここは日置郷の筒川村でしょうか?」
「そうに決まっている。あんた誰?」
 
「あのぉ、この界隈に住んでいた水江の浦の家の人の行方とか知らないでしょうか?」
「そんな名前の人は聞いたことない」
 
幾人か呼び止めて尋ねたものの、誰もそんな名前は知らないと言います。しかし親切な人が
 
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「お寺に行けばあるいは何か分かるかもよ」
と言ってくれたので、嶋子は道を教えられて、村の奥の古ぼけた感じのお寺という建物の所に行きました。ここは昔、村長の家があった所だと嶋子は思いました。そのお寺という建物の主で御住職と呼ばれている人に水江の浦の人々のことを訊きました。
 
(浦嶋子が筒川村に住んでいた頃、日本にはまだ仏教というものが入って来ていませんでした)
 
住職は自分もそういう名前は聞いたことがないが、昔この村に住んでいたというのであれば、記録が残っているかも知れないといい、お寺の記録を調べてくれました。ここには古い時代の村長の家だった所でもあり、お寺になる前からの様々な記録が残ってるということでした。しかしかなりの量があり、すぐには分からないようだったので、嶋子はその間お寺に泊めてもらいました。そして3日がかりで、ようやく古い記録が見つかりました。
 
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「その人は大泊瀬幼武天皇(おおはつせの・わかたけの・すめらみこと)の時代の人ですね」
 
「大王(おおきみ)が変わられたのですか?今の大王は?」
「昔は大王(おおきみ)と言いましたが、今は天皇(すめらみこと)と言うのですよ。今の天皇は大泊瀬幼武天皇からすると24代後の天皇です」
「え〜〜〜!?」
 
「だから200年くらい経っていますね。その人の子孫は後に日下部の一族となり、この界隈に海運の民として大きな勢力をなしましたが、それもずっと昔の話です」
 
「そんな。。。」
と言ってから嶋子は訊く。
 
「その一族のお墓とかはどこかに残っていないでしょうか?」
 
「それは確か・・・」
と言って、住職は別の資料を調べてくれた。
 
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「その一族の墓所が白幡にあったらしいが、詳しい場所は私も分からない」
 
「行ってみます。あ、色々調べて頂いた上に、寝食まで提供していただいたのに何もお渡しできるようなものがないのですが」
 
「構わん。構わん。村の人々のために奉仕するのが、坊主の役目だよ」
と言って、住職は嶋子に白幡までのお弁当にと干飯(ほしい*9)まで用意してくれました。
 

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それで浦嶋子は3日ほど掛けて白幡の村まで行きました。そこで日下部一族の墓所が無いかと村人に尋ねるのですが、誰も知りません。
 
さて、困ったなと思い、姫から預かった櫛笥を抱きしめて座り込んでしまったのですが、その櫛笥を通して姫の声が聞こえてきました。
 
「浜辺に行ってみて。その場所を私が教えてあげる」
「姫!?」
 
それで嶋子は浜辺に行きました。やがて日が暮れましたが、その暗闇の中で1ヶ所松の枝に灯りが見えます。何だろうと思って行ってみると、その松の根本に古い石碑がありました。
 
「これだろうか?」
 
もう日が暮れてしまったので、嶋子はその日はその松の木の下で寝て朝起きてからあらためて石碑を見てみました。
 
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するとそこにはもう消えかかった文字で確かに
 
《日下部首(くさかべのおびと)一族館跡》
 
と書かれていたのです。ああ!ここが自分の親族たちが住んでいた場所か!と嶋子は思い、手を叩いて、両親に親不幸をしてしまったことを詫びるとともに、一族の魂が安らかなることと、その子孫たちの繁栄を祈ったのでした。
 

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また3日掛けて、筒川の村に戻り、浦嶋子は日下部一族の足跡(そくせき)を見つけることができたこと、その慰霊と子孫の繁栄を祈ってきたことを御住職に報告しました。
 
「御住職、本当にありがとうございました。これで思い残すことはなくなりました。私はあと1週間くらいするとお迎えが来ると思うので、それでこの村から去ります」
 
と嶋子は言ったのですが
 
「あんた死ぬつもり?」
と住職が言います。
 
「え?」
 
「だって思い残すことは無いとか、お迎えが来るって。あんた自分の身内が誰もいなくなったことをはかなんで、命を絶つつもりではないよね?」
 
「まさか!」
 
それで浦嶋子は自分は遠い蓬莱の島で過ごしていて、一時的に故郷の村に戻って来ただけであること。島に連れ戻してくれるお迎えが来てくれる手筈になっていることを説明しました。
 
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すると住職は
「だったら問題無いが」
と言った上で、何か考えているようでした。そして言いました。
 
「あなたが蓬莱の国から来た人であれば相談したいことがある」
「何でしょう?」
 
それで住職はこの村に降りかかっている災難について話したのです。
 

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