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■偽娘竹取物語(2)

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そして父親の心配は当たってしまうのである!
 
麻呂皇子の家に、誰も知らない姫がいるらしいというのが、どこからともなく噂となってしまう。すると、その姫を一目見ようとする男たちが大量に発生する。
 
「しかし麻呂皇子の家に年頃の姫がいるなどという話は聞いたことなかったぞ」
「おそらくは、身分違いの女に生ませていたのを引き取ったのでは」
「確かに麻呂皇子様には、お子様は男の子1人しかおられないから」
「そのたったひとりの男の子であった石作皇子さまは何でも天竺までの旅に出られたとか」
「そんな旅、生きて戻って来られるかどうかも分からないよなあ」
「それで女の子でもいいから手元に置いておきたくなられたのでは?」
 
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一度は力づくで何とかしようとする男が屋敷に侵入し、女装のまま寝ていた石作皇子が采女に起こされて慌てて床下に隠れて、何とか貞操(?)を守るなどという事件まで起きた。
 
文も日々大量に来るものの、むろんそんなものに返事など書けない。
 
「何だかかぐや姫の気持ちが分かったような気がしてきたぞ」
などと女装の皇子はつぶやいた。
 
その文を寄こす男の中には、かぐや姫の求婚者のひとりでもある大納言・大伴御行(おおとものみゆき)まで居て、皇子は呆れてしまった。
 
そして女装生活も3年をすぎた新月の晩、皇子は腹心の馬係の男1人だけを伴い夜に紛れて屋敷を出る。そして以前から目を付けていた大和国十市郡の古寺に行った。そして寺の賓頭盧(びんづる)像の前に置かれている古い鉢を暗闇に紛れてこっそり盗ると、持ち帰った。
 
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皇子は自宅に戻ると3年間続けた女装を解き、男の姿に戻って化粧も落とし、鉢を錦の袋に入れ、造花の枝なども添え、それを持ってかぐや姫の家に赴いた。
 

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かぐや姫は石作皇子が仏の御石の鉢を持って来たと聞き驚く。
 
「でも本物だったら、あなたそれで女の身体に変われるのでしょう?」
と母の耶穂が言う。
 
「ええ。伝説では曼虎故羅をその鉢で擦り卸すということになっているのですが、都女様が見た古文書によると実は二股の大根(だいこん)でもいいらしいのよね〜」
とかぐやは言った。
 
女の身体になれたら、別に石作皇子と結婚してもいいしと、この時かぐや姫は考えた。わざわざ遙か遠くの天竺までこんなとんでもないものを取ってくるほど熱心な人なら自分を大事にしてくれるだろうしとも考える。
 
それで翁を通して受け取った鉢を見ると歌も添えられている。
 
《海山の道に心を尽くし果てな石の鉢の涙流れき》
 
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「本物であればおのずから光を発していると都女様はおっしゃってました」
と耶穂。
 
「ちょっと洗ってみましょう」
 
それでかぐや姫に仕えている女房に命じて鉢をきれいに洗わせる。それで見てみるものの、どこにも光るようなものは無い。
 
「これ偽物なのでは?」
 
それでかぐや姫は初めて石作皇子に返歌を書いて鉢に入れて返した。
 
《置く露の光をだにぞ宿さまし小倉山にて何求めけむ》
 
それを見た石作皇子は「ばれてる〜!」と思ってため息をつく。それで鉢はもうどうでもいいので、門の所に放り投げた上で、かぐや姫に再度歌を渡す。
 
《白山にあへば光の失するかと鉢を捨てても頼まるるかな》
 

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しかしこの歌にはかぐや姫は返歌もしなかった。翁から「申し訳ありません。姫が返歌もしないと言っております」と聞いた皇子はトボトボと帰途に就いたが、内心は
 
『でもかぐや姫からの返歌をもらったぞ。これ一生宝物にしよう』
 
などと少し得意な気分にもなっていた。
 
それで自宅に戻ると父親が
 
「お前、なんで男みたいな格好をしているのだ?」
と訊く。
 
「私は男ですから男の格好をしていますが」
「お前、女になったんじゃなかったの?」
「女になれるわけないじゃないですか!?」
 
「いや、俺はお前が女として生きていくつもりなのかと思ったから、男の身体でも構わんと言ってきた、清原の中将殿に、代理で返歌を書かせておいたぞ」
 
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「え〜〜〜〜!?」
「今度の満月の晩に婚礼をするから、早く女の服に戻りなさい」
 
「ちょっと待ってください!私は男と結婚したくありません!」
 
「何を言っているのだ。この世には男と女がある。女は男と結婚するものなのだよ。私はお前を自分の跡取りにと思っていたが、お前が女として生きるのであれば仕方ない。女であるなら良き夫に仕えるのがよいのだ。清原中将は本当に凄い男だぞ。あれはその内きっと右大臣か左大臣まで出世する。それを支えてやれ。女の子を産んでその子が帝と結婚すればお前はやがては帝の祖母、私は曾祖父になれる」
 
「でも私は子供など産めませんけど」
「構わん。誰か適当な者に産ませて、お前が産んだ子ということにすればいいのだ」
「そんなぁ」
 
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「今後は私もお前のことは皇子(みこ)ではなく皇女(ひめみこ)と思うことにしたから。それで中将の妻になる前に、せめてお前があまり男っぽくならないように、睾丸を取ることにするから」
 
「ちょっと待ってください。睾丸を取るなんて嫌です!」
「少し痛いと思うが我慢しろ。お前があまりに男らしくなってしまったら、さすがの中将も嫌がるだろうから。今日の午後にも、馬の睾丸を取るのに慣れている者を来させるように手配している」
 
「私って馬と一緒ですか?」
「良い妻になるのだぞ。これ、采女、石作皇女にきれいな服を着せて化粧もしてやれ」
 
「はい」
と言って采女(うねめ)が4人寄ってくる。
 
「ささ、皇女(ひめみこ)さま、向こうできれいなお召し物を着ましょうね」
「やめて! 助けて〜〜!」
 
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と言うものの、皇子(皇女?)は采女たちに4人掛かりで連れて行かれてしまった。
 

3年前に時間を巻き戻す。
 
2番目の求婚者・庫持(くらもち)の皇子は、蓬莱山の金銀珠の木を持ってきてくれと言われた。皇子はそんなもの作ればいいではないかと考えた。
 
そこで表向きには「筑紫の国に行き、武雄温泉(*6)で湯治をして参ります」と言い、かぐや姫の家には「玉の枝を取りに蓬莱山まで行ってきます」と告げさせ、難波から本当に船に乗って旅立った。多くの人が皇子が旅立つのを見送る。
 
ところが実際には皇子は3日後、ごく少数の供を連れて小舟で畿内に戻って来る。夜中に暗闇に乗じて上陸すると、山の中に小さな家を作り、三重の柵で囲って人が近寄れないようにし、その家の中にかまどを作って、鍛冶職人6人と一緒に籠もった。ここで、かぐや姫が言ったような「銀の根・金の茎に白い玉が実としてなる枝」を作らせようという魂胆なのである。
 
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皇子と職人たちの作業は千日に及ぶ。
 
やがてかぐや姫が言ったような美しい枝ができあがった。
 
できあがった時、職人たちは長期間にわたる作業の疲れでみんな寝てしまったが、皇子はひとり、その枝を持って密かに難波に行った。そして自宅に「帰ってきたぞ」と使いをやらせる。そして自分は旅の疲れで倒れて苦しんでいる振りをする。そこに屋敷から召し使いたちがやってきて皇子を助け、玉の枝は長櫃に納め持ち帰る。するとこのことが多くの人に知れ渡り
 
「庫持皇子は優曇華(うどんげ)の花を持って帰ってきた」
 
という噂が立つ。それを耳にしたかぐや姫は少し焦った。
 

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「私、どうすればいいのかしら?」
と母の耶穂に相談する。
 
「蓬莱の珠の枝は、それを掲げて女渦娘娘を祭る女化神社に3ヶ月と3日籠もり、その間に女化宣文を3333回書くと女にしてもらえるはずです」
と都女からもらった文書を読んで確認する。
 
「では庫持皇子には3ヶ月と3日待ってもらわないといけないですね」
とかぐや姫はため息をついてこたえた。
 
やがて庫持皇子のかぐや姫の家にやってくる。翁に玉の枝を渡すので、翁がそれを持って姫の所にやってくる。枝に歌が付けてある。
 
《いたづらに身はなしつとも玉の枝を手折らでただに帰らざらまし》
 

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その玉の枝を見ても、姫がすぐには表に出て行って皇子と会おうとしないので翁は姫を諭す。
 
「お前が無理な難題を言ったのに、皇子は男らしく旅に出て、きっと物凄い苦労をしてこの枝を手に入れ持ち帰ったのだぞ。なぜお前は皇子の苦労に報いようとしないのだ?」
 
かぐや姫としてはそんなに熱心な皇子であれば結婚するのはやぶさかではないものの、今すぐ結婚するのは不可能な事情がある。それであれこれ言い訳を言う。それで翁は「お前から説得してくれ」と妻に言うと、自分は婚礼のための寝所の準備を始めた。
 

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かぐや姫が、さてどうやって3ヶ月もの間皇子を待たせておくか、その言い訳を考えようと悩んでいる間に、翁の方は皇子にお酒など出してもてなし、皇子ももうかぐや姫を手に入れた気になって、機嫌良く、この玉の枝を得るまでの長い長い冒険談を話し始める。
 
嵐に吹かれ、船が沈みそうになり、食料が尽きて草の根や貝を取って命をつなぎました。ある時は怪獣に襲われ必死で逃げましたし、ある時は船を寄せた島が女護島で島の者が皆女なのです。「ここは女だけの島である。男は来訪者であっても全て女になってもらわなければならない」と言われて女に変えられそうになり、慌てて逃げ出しました。命は捨てる覚悟の旅ですが、女の身に変えられてしまってはかぐや姫と結婚できませんから。
 
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そのような散々な苦労の果てに五百日目に海の中に微かな島の影を見ました。寄せてみると大きな山があります。船を着けて見て回っていたら《うかんるり》(*7)と名乗る天女が現れ、その天女の後を追うように山の中に入ると、金色や銀色や瑠璃色の川が流れ、宝石の橋が架かっていました。その山に多数の素晴らしい木々が生えていたのです。この枝よりもっと凄いものもありましたが、かぐや姫がおっしゃったのと違うものではいけないと思い、この枝を折って持ち帰りました。帰りは追い風となり四百余日で帰ってくることができました。
 
そんな話を皇子はし、翁は皇子の苦労をねぎらって、酒を酌み交わし、意気投合して話に花が咲いていた。
 

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皇子が大きな声で話をしているので、別室にいるかぐや姫にも聞こえてくる。
 
「女護島にいけば女に変えてくれるって素敵。私そこに行きたい」
などとかぐや姫は言う。
 
「でも皇子様がその時に女になってしまわれていたら、私普通に皇子様と結婚できたかもね」
と付け加えると耶穂は吹き出した。
 
「庫持皇子様は身体ががっしりしていますから、実際に女になったとしても女に見えないかも知れませんね」
と耶穂は言う。
 
「そういえば石作皇子様は女になってしまわれたらしいですよ」
「え〜〜〜!?」
「竹子に振られたことで傷心して、もう男としては生きていけないとお思いになったのかも知れませんね」
「気の毒なことしたなあ。でもどうやって女になられたのです?」
 
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「睾丸を取っただけのようですけどね」
「なるほどー」
「あなたと同じね。でも石作皇子様は細くて華奢なお身体だから、女の服を着れば女でも通りますよ」
「そうかも知れないなあ。でも女になってしまわれても、それで幸せになってくれたらいいけど」
「清原中将の妻になられたようです」
「へー!」
「男の身体でも構わないから結婚してくれと言われたとか」
 
「やはり、そういう人居るのね!」
「ええ。竹子もそういう人が現れるといいね」
「はい」
 

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そんな雑談をしながらも、かぐや姫と耶穂は一緒にあれこれ思案した末、皇子の家の繁栄を祈って神の山に籠もって祈祷をしてから嫁ぎたいとでも言うしかないという結論に達する。それで耶穂も付き添って、それを伝えに行こうとした時、家の玄関の方がなにやら騒がしいのに気づいた。
 
何事かと家の者に問わせると代表格の漢部内麻呂なる者が述べる。
 
「私たちは庫持皇子と共に千日に亘って山の中に籠もり、立派な金銀宝石の枝の細工を作りました。皇子は完成のあかつきには褒美も取らせるし官職も約束しようとおっしゃいました。しかしまだ私たちは報酬を頂いておりません。皇子を探していたのですが、皇子はこちらの姫様とご婚礼なさるとのことを聞きました。それではあの金銀宝石細工も姫様への贈り物であったのだろうと思い、こちらの家に参りました。どうか私の弟子共に褒美を下さいますよう、皇子様にお伝えください」
 
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それを聞いたかぐや姫は笑い転げた。
 
「本物の蓬莱の木の枝かと思ったのに。そんな呆れた嘘であったとは」
 
と言って、返歌をしたためる。
 
《まことかと聞きて見つれば言の葉を飾れる玉の枝にぞありける》
 
その歌を付けて玉の枝を皇子に返させた。それをうけとった皇子はバツが悪すぎて、その場にもいたたまれず、といって人が大勢注目している中で帰るのも恥ずかしく、少しほとぼりが冷めた夕刻になってあたりが暗くなってからこそこそと退出した。
 

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なお、かぐや姫は職人たちに「ご苦労様でした」と言って褒美をやったので職人達は喜んで帰ったものの、皇子はその職人たちに八つ当たりして彼らが立てなくなるほどまで打ちすえた。
 
そして皇子は何という大恥を掻いてしまったものかと自分の行動に恥じ入り、そのまま誰にも告げずひとりで山の中に入ってしまった。
 
家人が探したものの、誰も皇子を見つけることはできなかった。
 

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