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■夏の日の想い出・眠り姫の目覚め(4)

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「あの彪志さんって子?」
「はい。結婚しようって随分口説かれてます」
「良かったじゃん」
「はい」
などと言ってまた青葉は照れている。私はその彼との関係がうまく行って、そしてその彼氏の御両親にも認めてもらって、青葉が幸せになることを心から祈った。
 
「ところで、青葉とうとう去勢したんだね?」
「あ、それも分かりました?」
「うん。青葉の雰囲気の違うのが何だろうと思って、先にそれに気付いたけど、それだけじゃないなと思って、彼氏との関係かというのに思い至った」
 
「冬子さん、少し霊感ありますもんね」
「そうかな。でもよく中学生に手術してくれる所、見つけたね」
「あ、これ違うんです。自然消滅したんです」
「えーー!?」
 
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7月31日まで全国をキャンペーンで走り回り、最終日は大分・福岡・岡山・広島と駆け抜けた。8月1-2日は休みになるので富山に行き、また青葉のヒーリングを受ける予定であった。今回は和実と淳のカップルも富山を訪れるということで、彼女たちと会うのも楽しみであった。彼女たちは仕事の合間があると東北まで救援物資を運ぶボランティアをしているので、同じ東京に住んでいても、ふだんほとんど会う機会が無い。
 
キャンペーンの強行軍が終了したというので、タカ・サト・マキは繁華街に飲みに行ったが、私はひとり別れて「みっちゃん」でお好み焼きを食べ、その後広島の夜の町を散策していて、老齢の占い師さんを見た。何となく惹かれるようにしてその人の前に立ち鑑定してもらう。
 
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占い師さんは私の「休養期間」について「2010年の7月8日がタイムリミットだった。これを過ぎてから再稼働しようとしても、復帰できなかった」と言った。鑑定を受けた時は、私がUTPと再契約したのが昨年の6月18日だったので、それで間に合ったんだな、と思ったのだが、後で考えてみると、もっと重大な日付があったことに気付いた。
 
それはローズ+リリーが★★レコードとメジャー契約した日である。ローズ+リリーは、高校2年の時は、★★レコードと正式契約しないまま同社からCDを出していた。その後大騒動を経て、2009年1月1日付けで、私と政子の双方の父の承認のもと、初めて正式にメジャーアーティスト契約を結んだ。しかしその契約の有効期限は1年で、同年12月31日で切れていた。
 
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しかし私たちも町添さんも契約切れの件は黙殺して、ロリータ・スプラウト名義で私たちのCDを制作して同社から発売したりしていたし『その時』『甘い蜜』
『長い道』の音源は引き続きダウンロードストアで購入できるようになっていた。
 
しかし2010年春、私と政子はふたりの会社《サマーガールズ出版》を設立し、この会社と★★レコードの間で、ローズ+リリー及びロリータ・スプラウトに関するメジャーアーティスト契約を再締結した。その契約が成立したのが実は2010年5月3日だったのである。7月8日が占星術上のタイムリミットという計算は「ハウス境界」を天体が通過する日時から弾き出されたものだが、そもそもハウス境界というのは、かなり曖昧であり、6月18日というのが本当に期限内だったのかは微妙だが、5月3日なら確実に期限内であったろう。
 
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ローズ+リリーは公式には「休止中」ということになっているが、ロリータ・スプラウトの方はその後も定期的にCDを出していて、毎回10万枚程度のセールスをあげており、それ自体が既に★★レコードのVIPアーティストになっているしサマーガールズ出版の貴重な収入源にもなっていた。
 

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占い師さんは他に「私の子供」が27歳の時にできるとも言った。ハーモニクスとかいう理論で予想できるのだとか言っていたが、さすがに自分の子供ってのは無理だなと私は内心思っていた。
 
私は既に今年の4月に性転換手術を受けていて生殖能力はもう無い。実は高校1年の時に精子を冷凍保存していたのだが、ローズ+リリーで忙しかった時期に更新のタイミングが来て、対応しきれずに放置してしまったので、当然廃棄されてしまったものと考えていた。実際その後病院からの照会は無かった。
 
性別を変更して女として生きるというのは自分で選んだ道だが、子供が作れないというのはちょっと寂しいよな、と思いながら私は夜のカフェに入り、ブラックコーヒーをオーダーした。
 
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コーヒーを受け取り、空いているテーブルを探していたら、奥の方で女の子がふたり、こちらに手を振っている。
 
「おはようございまーす」
と私は笑顔で言って、そのテーブルの所に座る。KARIONの和泉と小風だった。
「おはようございまーす」
 
と向こうも答える。隣のテーブルに座っていたおじさんが、その挨拶に「へ?」
という顔をしてこちらを見ていた。
 
「みーちゃん(美空)は?」
「なんか疲れたから寝てるって。私たちふたりだけで散歩しに出てきた」
「あれ? でも今日は岡山(ライブ)だったよね?」
「うん、でもみーちゃんが広島の牡蠣食べたいと言って、こちらに宿泊することにした」
 
「牡蠣はシーズンオフでは?」
「そそ。だから冷凍だけどね。満腹になるまで食べて、眠っちゃった」
「なるほど〜」
 
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「あ、そうそう。フェス、2年連続出場おめでとう」
「ありがとう。そちらもRQで出るんでしょ?」
と小風が言う。
 
「うん。そちらと同じBステで。実はRPLで出ない?って打診が内々にあったんだけどね。政子に随分たくさん御飯食べさせた上で誘ってみたんだけど、本人かなり揺れてはいたんだけど、まだ数千人とかの観客の前では歌う自信が無い、と言うので辞退した。それで代わりにRQを出すことになったみたい。Bステは歌手、歌唱ユニットが中心だから、バンド形式のRQの出場は変則的なんだけど」
 
「ああ、かなり揺れる状態まではなってるんだ?」
 
「うん。実はRPLの新譜を今月出すつもりで準備してたんだよ。ところが急に『夏の日の想い出』を出すことになっちゃって。それでRPLの方は11月に延期になった。ライブもあと数ヶ月したらやってみたい、なんて本人言ってるから、あとはもう時間の問題になってきている。実は本人以上に大変なのが政子のお父さんなんだけど、そちらもだいぶ軟化してきてくれている」
 
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「いや。。。『夏の日の想い出』自体、クレジットはRQでも実態はRPLのCDだよね?」
「あちこちのFMに出演してて、それだいぶDJさんに言われた」
 
「そもそもCDのサウンドの作りがこれまでのRQと違う。音質にしてもミクシングにしても、ジャケットやブックレットにしても、今までのRQのは凄く安っぽくて素人っぽかったのに、全部一流の作りがされてる」
 
「政子が参加したから、町添さんと話してRPL用の予算を投入したんだよ。だから原盤権も6割をサマーガールズ出版、3割を★★レコードが持つ」
「じゃ、やはりあれはRPLの作品だ」
 
「2chもそんなこと書いてるね」
「実質、RPLの復帰作だね。ミリオン行くでしょ?」
「今の勢いなら行くかも」
「KROにもミリオン行くの書いてよ」
「うーん。。。今年中はさすがに厳しいから、来年中には絶対行かせる。もし来年中にミリオン出せなかったら、サブリーダーはこーちゃん(小風)に譲るから」
「いらん、いらん」
 
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「あ、そうだ。これあげるね」
 
私は『夏の日の想い出』の《先行プレスCD》を3枚渡した。本プレスしたものとはジャケ写が異なり、CD-Rで作られていてJASRAC許諾番号は印刷ではなくシールで貼られている。私とマリの生写真まで入っている。後に結構なプレミアムが付いたものである。
 
「サインしてよ」
「うん。RQのサインでいい?」
「RPLのサイン入れて」
「了解〜」
 

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そんなことをしていた時、50歳くらいの女性が私たちのテーブルに近づいて来た。
 
「あの、済みません。もしかしてKARIONさんですか?」
「はい、そうですよ」と和泉。
 
「あの、よかったらサインいただけませんか?」
と言う彼女は色紙を持っている。
 
「いいですよ」
と言って和泉はバッグからマジックインキを取り出して、小風に渡した。
 
小風と和泉のふたりでサインを書く時は通常小風が「KAR」まで書き、和泉が「ION」を書く。しかし小風は「KA」だけ書いて、私に色紙を渡し、ニコっとする。私は和泉の顔を見たが頷いている。ま、いっかと思い、私は「RI」を古い《四分割サイン》を書いた時と同様の筆跡で書き、和泉に渡した。和泉は「ほぉ」という感じの顔をして最後の「ON」を書き、名前を聞いて、宛名と日付を入れて渡した。
 
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そして私たちはその女性と握手をした。
 
こうして超激レアな「小風・蘭子・和泉」バージョンのKARIONのサインが誕生したのだが、多分もらった本人はそのことに気付いていない。
 

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和泉たちと24時近くまでカフェで話していて、そろそろホテルに戻って寝ようかということになる。
 
「あ。そうだ。昨日、福岡ライブした後でさ、福岡の郊外のホテルに泊まったんだけど、すごく星がきれいで、この詩を書いたんだよ」
と言って和泉はノートパソコンを開いて、詩を見せてくれた。
 
「『星の海』か・・・。きれいな詩だね」
「曲付けてくれる?」
「うん。じゃメールしといてくれる?」
「OK」
「ミリオン行くようなの書いてよ」
「あはは。行ったらいいけどね」
「朝までにメロディ譜だけでも欲しいな」
「はいはい」
 

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それで和泉たちと別れて自分のホテルの方に向かって歩いていたら、政子から電話が入る。
 
「冬〜、お腹すいたよぉ」
「ああ。食糧ストック無くなってるよね」
「もう、3日前からまともな食事してないよお」
「8月3日には東京に戻るから、コンビニでお弁当でも買って食べててよ」
 
「もう我慢できないから、新幹線の最終便に乗って、広島まで来た」
「へ?」
「今、広島駅にいるの。迎えに来て」
「えーー!?」
 
そういう訳で、私はタクシーを捕まえて広島駅まで行き、駅前にいた政子を拾い、そのまま深夜営業しているお好み焼き屋さんに行った。
 
「美味しい美味しい」
と言って、政子は涙を流しながら食べていた。男性でもけっこう手強いようなビッグサイズのお好み焼きを5枚食べて、お店の大将から
「お姉ちゃん、食べっぷりがいいね」
などと褒め?られていた。
 
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「なんか久しぶりに満足いく御飯食べられた」
「よかったね」
 
「でもここのお好み焼き美味しい! また広島に来た時は寄ろうかな」
などというので、大将が
「あ、これどうぞ」
と言って、店のマッチを渡してくれた。
 
政子は「へー」という感じで受け取ると、マッチを1本取り出して火を点けてしまった。
 
私は注意しようとしたのだが、政子の表情を見て声を掛けるのをやめた。
 
「冬、紙持ってる?」
「うん」
 
私が作業用に持っていた五線紙を渡すと、政子はマッチは火を消してから近くにあった灰皿に入れ、愛用のボールペンを取り出して詩を書き始めた。何だかエロチックな詩だ。半月留守にしたので、政子も少し性的な欲求がたまっているのだろうかと私は思った。どうも今夜はホテルに帰ってからもすぐには作業に取りかかれないようだ。
 
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詩には『蘇る灯』というタイトルが付けられていた。
「冬、これ朝までに曲を付けて」
「はいはい」
 
つまり今日は私は和泉の詩と政子の詩の両方に朝までに曲を付けなければならなくなった! でも何時に作業を始められるのだろう!?
 
「よし、詩を書いたから、お腹空いちゃった。お好み焼き、お代わりください」
と言うと、大将が「え?」と言った。
 
「政子、もう閉店時刻だよ」
と私は言ったが、
 
「ああ、いいよ。お姉ちゃん、食べっぷりがいいから、店の看板は下ろすけど作ってあげるよ」
と大将。
「わーい!」
 
そうして、政子は閉店時刻を1時間オーバーして、それからお好み焼きを3枚食べたのであった。私は時計を見て頭が痛くなってきた。
 
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