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■夏の日の想い出・眠り姫の目覚め(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-06-02
 
2011年7月2日。私と政子は東北に「頑張っている人たちの応援と、疲れている人たちの癒やし」を目的とした第2回ゲリラライブを行った。「目的」というのは実際には友人たちから訊かれた時の言い訳のようなもので、本当はとにかく「何かしたい」という欲求を単純にぶつけたようなものだった。
 
何かしたい。でも何ができるのかと考えて行った時、結局私たちは音楽家だから音楽をすることしかない、という結論に到達した。
 
この2回目のゲリラライブでは演奏の後、10人くらいからサインを求められたが、政子は笑顔でそれに応じ、ひとりひとりと力強い握手をしていた。
 
「大変だけど頑張っていきましょうね」
「復旧作業早く進むといいですね」
などと、政子は相手と会話などもしていたが、最後にサインした20歳くらいの女性と話していて
 
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「日本人は強いもん。東北はすぐ元気に復活しますよ」
と政子が言ったら、相手の女性が
「ローズ+リリーも早く復活してください」
と言った。
 
すると政子は少し考えるふうにしてから
「約束する。今月か来月にはローズ+リリーは復活する」
と言って、握手をしていた。
 
私は「へー」と思った。
 

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帰りの新幹線の中で政子は
「もう私の休養期間はこれで終わりにする」
と言った。
 
「ずっと私の心の中の井戸に水が満ちてきていたのが、とうとう溢れて川となって流れ出した気分なの」
「Overflow and carry up だね」
「うん。そんな感じ。私、もう今までの物事から逃げてたマリじゃない。高校2年の時の成り行き任せで動いてたマリでもない。ケイとふたりで作り上げていった、新しいローズ+リリーのマリだって自信を持って言えそう」
 
「じゃ、ローズ+リリー復活ライブでもする?」
「うーん。。。ステージ復帰はまだあと何ヶ月か待って。でもCD出そうよ。ふたりで歌って。恋座流星群とかみたいにリリースしたけど売らないなんて不思議なことせずに、ちゃんと売るの」
 
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「いいね」
「今月中に作ってさ、町添さんとこに持ち込もうよ」
「そうだね。みっちゃんのペースに合わせてたら、音源作ってもリリースまで10年掛かりそうだから、私たちで動いちゃおう。契約上はこちらに決定権があるんだし」
 
「冬、いつなら時間取れる?」
 
私は手帳を確認した。
 
「18日から20日まで空いてる。でも18日は仁恵の誕生日パーティーに行くから2時間の予定とか言ってたけど多分1日潰れる。だから19日と20日にスタジオ予約しておくよ。念のため21日まで押さえておくかな。それで私がギター・ベース・ドラムス・キーボード弾いて先に収録するから、その伴奏に合わせてふたりで歌おう。私が伴奏録ってる間にマーサは歌の練習してればいいし」
「OK」
 
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それで私は新幹線の中から知り合いの音響技術者、山鹿さんにメールし、そちらのスタジオの、中規模の部屋を19日から21日まで通し(72時間)借りれるかとメールした。速攻で返事があり「格安料金で確保したよ。音源制作するなら録音やミックスは僕がしてあげるよ」ということであった。
 
それでまた私は町添さんにメールし、マリが物凄くやる気満々になっているので、この際、須藤の方は放置して音源制作をしようと思うとメールした。町添さんが電話で話したいということだったので、私はデッキに行き、電話を入れた。
 
「とうとう復活の時が来たんだね!」
「はい。ステージにも数ヶ月以内に復活したいと本人は言ってます」
「楽曲はあるの?」
「ええ。『聖少女』という曲と『不思議なパラソル』という曲。これはマリ&ケイの作品です。それから上島先生から『涙のピアス』という作品を頂いていてこれを《ローズクォーツじゃなくてローズ+リリーのCDに入れて欲しい》という御指定なんです。それでそれを使おうかと」
 
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「なるほど。それならミリオン行くね」
「そこまではさすがに・・・」
 
「いや、ミリオン行かせよう。それにマリちゃんがやる気になってるなら、気分が降下しないうちに、特急で発売しちゃおう」
「ああ、それがいいかも知れないですね」
 
「それと『不思議なパラソル』って、それ夏の歌なんじゃない?」
「はい、確かにそうです」
 
「だったらさ、ちょっと待ってね」
 
と言って町添さんは何かを確認しているようであった。
 
「19日から21日に掛けて音源を作るんだね?」
「はい。一応20日までの予定です。21日は予備で確保しています」
「じゃ一週間後の27日水曜日発売」
「えーーー!?」
 
「もう決めちゃうからね。キャンペーンの日程も入れるからね。頑張って作ってね」
「はい!」
 
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それで町添さんは7月22日から31日に至るローズ+リリー新曲キャンペーンの日程を作った。ここで本当はマリも連れて行けたらよいのだが、マリの精神状態を考えると、まだキャンペーンのステージに立たせるのは無理ではないかというのを10日くらいの段階で私と町添さんで話し合い、キャンペーンは私ひとりで全国駆け巡る方向で計画することになった。
 
私は政子のお父さんに電話を入れた。
 
「じゃ、全国ツアーでコンサートとかやるという訳ではないんですね?」
「ええ。今回はキャンペーンは私ひとりで飛び回るつもりです。録音作業も、大学がちょうど夏休みに入るので、それを利用してスタジオ録音しますので、政子さんの学業にも支障は出ないと思いますので」
 
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「ああ、そのくらいなら良いでしょうね」
 
「コンサートについてですが今の政子さんの口ぶりからすると、年明けくらいから、もしかしたら再開したいと言い出すかも知れません。でもそれも学業とちゃんと両立できる形で進めますので」
「分かりました」
 
「そういう話が具体化した時は必ず事前にお父さんにご連絡します」
「ええ、お願いします」
 
雰囲気的にはお父さんもかなり軟化している感じであった。
 
「ところで冬さんの方はもうお体大丈夫なんですか?」
とお父さんは心配して訊いてくれた。
 
「はい。大丈夫です。4月の手術の時はお母さんにもお見舞いに来て頂いてありがとうございました。先月くらいまでは実は結構痛かったんですが、先月末に偶然凄腕のヒーラーさんに出会って、すっかり痛みが取れました」
 
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「それは良かった。性転換手術なんてほんとに大手術だから無理しないでくださいね」
「ええ、その付近は政子さんが歌手を休んでいるのに便乗して私も休んでます」
「おお、それは良かった」
とお父さんは笑っていた。
 
なお、お父さんには町添さんからも電話を入れて説明してくれたようであった。
 
ローズ+リリーの復帰作『夏の日の想い出』が生まれる前夜にはこのようなプロジェクトが進行していたのであった。あの曲が短期間でリリースできたのは実は元々進んでいたプロジェクトで準備していたものを丸ごと転用したからである。
 

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そして7月18日。朝から政子が「フライドチキンを揚げて手土産に持って行きたい」などというので、揚げ方を教えて作らせた。「こんなに面倒くさいのか」
などと言っていたが、楽しそうにお料理をしていた。何にでも積極的な気分になっているので、お料理もしてみようかなと思ったのであろう。良い傾向だ。
 
仁恵のアパートでの誕生日パーティーは予想通り丸一日、というより徹夜覚悟という雰囲気になって行った。さすがの私も連日の疲れが出て、ウトウトとした時に、突然大きな余震があった。
 
びっくりして目が覚めたのだが、その時私の頭の中に「キュピパラ・ペポリカ」
という不思議なことばが残っていた。
 
「キュピパラ・ペポリカ」
「え?」
 
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「キュピパラ・ペポリカ・・・誰かメモ用紙持ってない?」
「メモ用紙というより、これでしょ」
と言って政子がさっとバッグから五線譜とボールペンを出して渡してくれた。
「ありがとう」
 
私が速攻で浮かんだメロディーを五線紙に書き留めると、政子が「それに詩が書けそう」と言って、何語なのか分からないような不思議な単語(?)の列を私の書いたメロディーの下に書き込んでいった。
 
それでその不思議な曲が出来た時、上島先生から電話があった。
「ちょっと面白い曲を思いついてね。ケイちゃんにちょっと歌ってみてもらえないかと思って」
「わあ、ありがとうございます。じゃ、ちょっと歌ってみてmp3を返送しますね」
 
上島先生がメールで送ってきたのは『夏の日の想い出』という曲であった。デュエット曲なので政子に一緒に歌わない?と誘うと、うんいいよと言う。
 
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私は仁恵のキーボードを借りて伴奏を記録し、それを再生しながら私と政子のふたりで歌う。それを仁恵に録音してもらった。mp3に変換して上島先生に送り返す。先生からの電話が速攻で帰って来た。
 
「ケイちゃんって僕の書いた曲の行間を読んでくれるね。僕がイメージした通りの曲になってる。これ君にあげるから、このままCD作っちゃおう」
 
「はい、ありがとうございます。でもそしたら先日頂いた『涙のピアス』はどうしましょうか?」
 
「うん。あちらは予定通りローズ+リリーで歌って。こちらはローズクォーツで歌えばいいよ」
「あ、はい。でもデュエット曲ですが」
 
「そうか。僕も混乱してるな。あ、分かった! マリちゃんがローズクォーツに臨時参加すればいいんだよ」
「は?」
 
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「僕からも町添さんに電話しておくから」
「はい、ありがとうございます」
 
とは返事したものの、ローズクォーツにマリ参加?? それどういうサウンドになるんだ??と疑問を感じる。
 
しかし、ローズクォーツを動かすとなると、須藤さんに連絡しておかなければならない。
 

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すぐに電話を入れる。
 
「何〜!?」
 
須藤さんはワランダースの音源制作の真っ最中でその日もスタジオに詰めていたようであった。しかし上島フォンでローズクォーツのCDをすぐ出してと言われたとあれば、ワランダースのスケジュールをずらしてでも、割り込ませる必要がある。
 
「ちょっと町添さんに電話してみる」
 
そしてしばらくしてから電話が須藤さんから電話が掛かってきた。19日20日にローズクォーツを緊急招集して21日朝までに音源を完成させることにしたということだった。
 
「それでさ、譜面見たけど、これボーカルがふたつあるんだね」
「あ、はい。それで上島先生もマリに特別参加してもらってとおっしゃいました」
「マリちゃん・・・歌える?」
と須藤さんは心配そうに訊いた。
 
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私は政子の顔を見て確認する。
「大丈夫です」
 
「分かった。じゃマリちゃんも一緒に明日13時、△△スタジオに来て。★★レコードさんが緊急に押さえてくれたらしい。高そうなスタジオだけど費用も向こう持ちだっていうし。うちのスタジオならタダなんだけどなあ。でもせっかく★★レコードさんが押さえてくれたんなら、それを使わないと悪いよね」
 
それ私が押さえて料金も私が前払いしてるんだけどな〜、と思ったが、まあいいことにした。ちょうど同じタイミングで私と政子がスタジオを借りていたから、それを転用してしまった方がいいという町添さんの判断だろう。
 

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実際その直後に町添さんから電話があり、スタジオの件で
「ケイちゃんが個人的に押さえていたものを勝手に転用してごめん」
と言われた。
 
「いえ、全然問題無いです。結局私とマリが使うんですし」
「スタジオ代はこちらで払うから」
「いや、いいですよ。今回はサマーガールズ出版の負担ということで」
 
「分かった。そのあたりの出資比率はまた後で調整しよう。それでさ、ちょっと相談があるんだけど、明日の午前中にスタジオに集まらない? 山鹿さんも入れて話した方がいいと思って」
 
「多分悪い相談ですね」
「ふふふ」
 

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翌日午後から音源制作作業は始まった。須藤さんは自分で録音作業をするつもりでいたようであったが、エンジニアの山鹿さんが
 
「こちらで録音作業はやります。料金もその分まで頂いてますので」
と言ったので
「あ、じゃお願いしようかな」
と言って山鹿さんに任せてくれた。その後半日単位で音源はできていくが、そのミックスダウン作業も
 
「料金に入ってますから」
と言って、スタジオのミキサー小栗さんが言ったので、
「まあ、そこまで料金込みならお願いするか」
 
などと言って、須藤さんは小栗さんがする作業を見ていて、時々注文を入れたりする形で作業は進行した。
 
今回の音源制作では、時間が無いことから、最初からマスタリングでの音量のレベルを決めておいて、最初からそのレベルになるようにミックスダウンをすることにし、それができるような水準で録音をすることを、実は事前に私と山鹿さんと小栗さんの話し合いで決めていた。
 
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