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■夏の日の想い出・2年生の春(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-10-05
 
2011年3月7日(月)。私はローズクォーツと一緒に回っていた西日本方面のドサ回りライブを前日で終え、東京に戻った。6日に鹿児島県の志布志でライブを終えたあと「さんふらわあ」で大阪まで戻り、そこから花枝の運転する車で東名を走り帰京したのだが、ハードな行程でさすがに疲れてマンションに戻るなり倒れ込むようにベッドで寝ていた。
 
政子がいつの間にか来ていて、ベッドに潜り込んできて少々Hなことをする。私のアレを無理矢理引っ張り出して
「ねえ、これいつ切っちゃうの?」
などと煽りつつ、悪戯して遊んでいる。当時それは私にとって単なる肉塊になっていて、触られて気持ちいい訳でもなかったが、こちらも政子のあの付近を刺激するので、結構濃厚なプレイになっていた。
 
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やがて政子が「お腹空いた」などというので、私は起き出して、ストックしている材料でスパゲティ・ミートソースを作り一緒に食べた。
 
そのあとふたりでのんびりとまた少しイチャイチャしながら曲作りをしていたら小学校以来の友人・奈緒から電話が入った。
 

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私は電話を取るなり「合格おめでとう」と言った。
 
「ありがとう。え? どうして知ってるの?」
「いや、奈緒なら間違いなく合格すると思ってたから」
「うん。合格してた。ありがとう」
 
奈緒は昨年、東京医科歯科大学の医学科を受験したものの、試験の前日に風邪を引くというトラブルがあり落としてしまった。それで1年浪人して今年また同大学を再受験したのである。
 
「それでさ、合格したんで、このことを両親に話したのよ」
「どうだった?」
 
奈緒は実は浪人していることを両親には隠していた。一応昨年N大学の理学部にも合格していたので、親にはそちらに通っていることにして、一応籍も置いていたのだが、仮面浪人をしていたのである。アパートもN大学のそばに取った、と言っておいて実は医科歯科大の方にむしろ近い場所だった(N大と医科歯科大は距離的にあまり離れていない)。
 
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両親がとても浪人することを認めてくれる雰囲気でなかったために取った策であったが、今日無事目的の大学に合格したので、このことを両親に打ち明けたのである。
 
「いやあ、なかなか凄かったよ」
「だろうねぇ」
「とにかくも、医科歯科大に行くことは認めてくれた」
「良かったね!」
「それで、母ちゃんが冬と話したいと言ってるんだけど」
「えー!?」
 
奈緒は親に黙って仮面浪人していたので、その間の予備校の学費や模試などの受験料、そしてそもそもセンター試験や本試験の受験料などの捻出方法がなかったし、生活費もなかった。親にはバイトしながら大学に行ってることにしていたのだが、受験生でバイトなどする時間もなかった。それでその費用を私が支援していたのである。奈緒には、医科歯科大の入学金や6年間の授業料・教材費までも出していいと言ってあった。
 
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奈緒のお母さんは、ひじょうに恐縮した様子で私に感謝の意を表した。
 
「でも合格できて良かったです」と私。
 
「いえ、実は私もこの子が実際にはN大学に通ってないんじゃないかという気はしていたのですが、バイトに夢中になって学業放棄してるのかな?くらいに思ってて、まさか仮面浪人だったとは全然気付かなくて」
「奈緒ちゃん、昔から意志が強かったですから。その点、私なんかいつもフラフラしてて」
 
「でもそれでたくさん冬ちゃんに負荷を掛けてしまったみたいで」
「いいんですよ。こういうのは友だち同士、お互い様ですから」
「それで実はとても言いにくいのですが・・・・」
「ああ、返済は出世払い、お医者さんになって研修医期間も終わった後ということにしてますから、気にしないでください」
「はい。本当に済みません。それで実は更にお願いがあって」
 
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私はその言い方でだいたい察した。
 
「ああ、入学金と前期授業料も私が立て替えておきますよ」
「済みません! こういうことになってるとは思いもよらなかったもので、全然蓄えがなくて」
「国立といえども、入学の時に払う金額って馬鹿になりませんものね〜」
 
と私は言った。
 

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私は速攻で奈緒の口座に入学金と1年分の授業料を振り込んだ。奈緒はその日のうちにN大学に行き退学手続きを取って退学証明書をもらい、入学金も振り込みその振り込み票の控え、退学証明書を持って、医科歯科大の入学手続きをした。そうして奈緒は無事、医科大生となった。
 
最初の1年間は千葉県市川市にある教養部で学ぶことになるので、そちらに新たにアパートを借りて、引っ越すことにし、来週くらいにも現地に行ってアパート探しをすることにした。
 
。。。のだが、実際にはその直後に起きた東日本大震災で千葉方面も大きな被害が出て、このアパート探しはいったん保留になってしまう。そして結局奈緒は、教養部の1年間を文京区のアパートから電車で通学したのであった。日暮里から京成本線を利用するコースである。
 
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奈緒の合格を聞いた翌日はJASRACから呼び出しがあり、政子・美智子、そして★★レコードの南・加藤課長・町添部長と一緒に、最近起きたローズ+リリーの海賊版騒動の件できつーいお叱りを受けた。
 
しかしそのことで、ローズ+リリーのアルバムが7月8日までに発売されることが決定した。美智子はそれと同時発売にするローズクォーツのアルバムの制作を急ぐため、作曲作業が遅れているマキに、3月中に頼んでいた数の曲(10曲)ができない場合、もうそこまで出来た曲だけで見切り発車でアルバム制作に入ることを通告した。マキはまだ3曲しか書いていないのである。それでその日の晩に美智子から私の携帯に電話があった。
 
「今回のアルバムは、マキの曲10曲、冬ちゃんたちの曲5曲くらいで考えてたんだけど、あちらがどうもそんなに作れないみたい。悪いけど、そちらで10曲程度書いてくれない? マキが仕上げた曲数次第で少し没にさせてもらうかも知れないけど。本当は冬ちゃんたちの曲を使いすぎると、ローズ+リリーとの路線の違いが曖昧になっちゃうんだけどね」と美智子。
 
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「いいですよ。できるだけクォーツっぽいのを書きます。食費は掛かりますが」
「へ?」
 
この頃、美智子はまだ政子の食欲をあまり知らなかったのである。
 

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その翌日、3月9日。1年遅れで大学に合格した奈緒のお祝いをするのに友人たちで集まることにした。集まるのは、小学校の時の友人の有咲・若葉・夢乃・初美、高3の勉強会のメンバーである、琴絵・仁恵・理桜・紀美香、そして私と政子である。
 
会場は奈緒の実家に無理矢理みんなで押しかけるということになっていたのだが、私と政子は奈緒の家に行く前に、東京駅で麻央と落ち合った。
 
麻央は昨年東京工業大学に合格して、1年東京で大学生をしていたのだが、大学が春休みなので、同じ高校の友人で東北大学に通っている人を訪ねるのにその日仙台に向けて出発する予定であった。それで、ちょうど時間も合ったので見送りを兼ねて、お茶でも飲もうということで八重洲の地下街で落ち合ったのである。
 
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「冬の過去を知ってるお友だちとは私仲良くして色々昔のこと聞き出したいなあ」
などと政子は言うが
「そういうのは、本人から聞き出した方がいいよ」
と言って、麻央はあまり昔のことは話さない。
 
「うーん。。。奈緒と言い、麻央ちゃんと言い、口が硬いなあ」
と政子は言うが
「だって、友だちとかから聞くより、政子ちゃん、冬ととっても親密な関係なんだから、本人にいくらでも聞けるでしょう」
と麻央は笑って言う。
 
「それが、なかなか自白しないんだよ」と政子は言う。
 

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やがて30分前になったので、駅に向かう。駅の構内に入り、東北新幹線の乗り場の方に行きかけた時、「よぉ」と声を掛けてきた人物がいる。
 
「あら、佐野君」
「ふたりとも元気?」
「うん。元気してるよ」
「でもまだRPLのCD出さないの? かなり待ちくたびれて来てるよ」
「うーん。まあ、いろいろ事情があってさ。でも7月には絶対出すよ」
「それ、人に言っていい?」
「いいよ」
「よし。広めよう。じゃ・・・って、あれ?小山内がいる」
 
「おっす、佐野」と麻央が男の子式に佐野君に挨拶する。
「あれ?知り合いだっけ?」
「同じクラス」と佐野君と麻央が同時に言う。
「へー!」
 
「でも小山内、このふたり知ってたの?」と佐野君。
「ボク、冬と小学校の時の友だちだよ」と麻央。
「えー!知らなかった」
「佐野は、このふたりとの関わりは?」
「高校の同級生」
「へー!そうだったのか」
 
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「で、小山内、どこ行くの?」と佐野君。
「今から仙台」
「仙台?それより、俺、大和と橋中と一緒に飲みに行くんだけど、小山内も来ないか?」
「いや、だからボク、仙台に行くんだって」
「いいじゃん。仙台なんていつでも行けるじゃん」
「そんな! ボク友だちに会いに行くんだよ」
「友だちって男?女?」
「男だけど、ただの友だちだよ」
 
「そりゃ、女なら恋人かも知れんけど、男なら友だちだろうな」と佐野君。「ボク、ストレートのつもりだけど」と麻央。
「そうだっけ? 小山内はレズかと思ってた」
「うーん。レズの経験は無いなあ」
 
「でもただの友だちなら、また今度でいいじゃん。それに小山内までいれば麻雀のメンツが揃うからさ」
「えっと・・・」
「あ、そうだ!その仙台の友だちにこっちに来てもらえば?どうせ春休みだろ?」
「そりゃそうだけど・・・・」
 
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「あ、分かった。小山内、今から仙台に行って、明日くらいには帰るんだろ?」
「明後日、11日の夕方に戻ってくるよ」
「じゃさ、その帰りの切符を仙台の友だちに送ってあげて、その切符で友だちにこちらに出てきてもらったら?」
「無茶な!」
 
「なあ、一緒に飲もうよぉ。小山内、一応女だし。女がひとり居ると、華やかになるし、酒も美味いんだよ」
「佐野も、少しはお世辞が言えるようになったんだね」
「麻雀も、俺たち4人、いい仲間じゃん」
「うーん。。。。。でも今から切符送っても明日確実に着くとは限らないし」
 
どうも、麻央は、仙台行きをキャンセルして、佐野君たちと遊ぶ方に傾いている感じである。そこで私は言った。
 
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「私、明日仙台に行くけど、なんなら、麻央のお友だちに私が切符を手渡そうか?」
「ほんと? それもいいな。あいつと会いたがってる友人が他にも何人か東京にいるし」
「じゃ持ってってあげるよ」
 
「じゃ、仙台行きやめて佐野たちと飲むか」
と麻央は楽しそうに言って、まずは友人に電話して相手の都合を訊く。向こうはびっくりしていたようだったが、彼は麻央の持っている切符を使い東京に出てくることを了承した。
 
そこで私たちはみどりの窓口に行き、9日の今から東京→仙台、11日夕方仙台→東京の切符を、11日の朝東京→仙台、13日の夕方仙台→東京に変更した。そしてその切符を私が預かった。
 
麻央は佐野君と一緒に山手線の方に行く。私と政子は微笑んで、中央線の方に向かった。
 
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夏の日の想い出・2年生の春(1)

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