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■夏の日の想い出・パイレーツ(3)

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『After 2 years』の録音作業は9月11日から25日まで行われ、26日はお休みだったので、私は「きついから寝てる」と言う政子をマンションに放置してドライブに出かけ、宇都宮のデパートで、あやめという少女とスリファーズに遭遇した。今日はちょっと楽しい日だったなと思って帰宅すると、政子が居間のソファーに寝転がって『あの街角で』を聴いていた。
 
「これ、やっぱりいい歌だね〜。自分で言うのも何だけど」
「えっと、それどうやって入手したの?」
「gSongsからダウンロードしたよ。6曲入ってて1000円だけど、中身が濃厚で凄いお得。いやあ、全然知らなかったよ。スペインでも私たちの曲って売れてるのね。これ、小春から教えてもらったんだよ。でも Rose plus Lily をスペイン語にしたら Rosa mas Azucena になるのか。Lilyじゃないのね」
 
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「Lily というか Lirio はスペイン語ではユリじゃなくてアヤメだね」
と言ってから、私は今日出会った、あやめという少女の顔を思い返していた。
 
「へー。花の名前の対応は私も辞書で確認しないとあやしいや」と政子。
「同じ漢字を書く花や動物の名前が、日本と中国で違ったりするでしょ?桂って中国語では木犀のことだし」
 
「だけど、ちょうど飛び石連休になったからレコード会社の対応が遅れてるね。たぶん明日くらいには公開停止要請が掛かると思うけど」
「え?これもしかして違法なの?」
「うん。違法というか無断掲載。ことしの2月にもPerfumeの曲が勝手に掲載されてた。本来Perfumeの曲はここのストアでは売ってないのに」
「へー!」
 
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「でもこれ、なんか懐かしいね」と政子は言った。
 
「懐かしい?」
「この『あの街角で』の歌い方って、高校3年生頃の歌い方だよね」
「・・・・それ、誰かに言った?」
「ううん」
「もしレコード会社の調査の人とかから聞かれても分からないと答えておいて」
「大丈夫。私、歌ったらすぐ忘れるし、聴いたらすぐ忘れる」
「まあ、マリちゃんがそう言えば信じるだろうね、普段の言動から」
「へへへ」
 
政子はFMに出演していた時、自分が作った曲が流れているのを聴いて
「これ何度聴いてもいい曲だね。これ上島先生の作品だったっけ?」
などと言って、パーソナリティさんを唖然とさせた前歴がある。
 
ネット上にはマリのこの手の「とんでも発言」をまとめたサイトまで存在する。
 
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「でもこの伴奏アレンジ、あまり好きじゃないな。みっちゃんのアレンジでもないし、下川先生のアレンジでも無いっぽいけど、冬のアレンジでもないよね?」
「まあ、とあるお方が、昔取った杵柄で自分でスコア書いて一晩で打ち込みしたのさ」
「へー。あのお方がね」
 
「それも誰にも言わないでよ」
「大丈夫。私、明日には忘れてるから」
「マリちゃんらしいね」
「ふふふ」
 

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2011年1月、FMでまたローズ+リリー特集が組まれることになり、私たちはそれに合わせてまた若干の新曲録音をした。この時に録音したのは『神様お願い』
『イチャイチャしたいの』『帰郷』の3曲で、この音源を昨年の『恋座流星群』と同様の方法で、放送局・有線・カラオケなどだけに提供した。この時、春くらいにリリース予定であった『After 2 years』に収録されている曲『Spell on You』
も一緒に入れて4曲構成のCDにした。
 
そして、そういう限定配布する以上、海賊版対策をする必要があった。
 
私と町添部長、若葉と若葉の伯母さんの4人で、都内の料亭に集まり、対策を練った。
 
「2chでは、また誰かがgSongsにアップしないかな、という期待するような書き込みが見受けられますね。監視チームまでできてる」
「ネットワーカーが臨戦態勢ならうちの著作権侵害対策チームも臨戦態勢です。gSongsだろうと、youtubeだろうと、他のダウンロードサイト・動画掲載サイトだろうと、アップされたら半日以内に公開停止にするでしょう」
「まあ、同じ手を2度は使えないでしょうね」
 
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「臨戦態勢はあちらもそうです。23日の放送を日本国内で高品質録音して、速攻で向こうに送信し、CDをプレスして、一週間以内には日本国内で売ろうと考えてる連中が分かっただけでも5グループあります」
 
「つまり海賊版対策の海賊版を作る場合、彼らより早く、放送内容より高品質のを作らないとこちらが負けるということですね」
「勝負ですね」
 
「放送前に限定版CDをコピーしちゃう所も出るんじゃないですか?」
「ええ。だから、彼らが入手できないものを入れよう、ということで悩んだのですが、『七色テントウ虫』を入れようと」
「音源は?」
「2008年のライブのものを使います」
 
「それはまた貴重な」
「うちの会社にあるライブ音源を使うとまたブートレグ流出問題になるので、一般の人が違法にライブを録音してしまったものを使ってしまおうと」
「そんなデータが存在するんですか?」
 
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「当時ライブ会場で密かに録音していた客を発見して、録音機器を没収して会場の外にたたき出したのがあるのですよ」
「ああ」
「それを何気なく、浦中君が個人的に持っていたんだよね」
「物持ちがいいですね」
 
「そういう訳で今回の計画には浦中君も1枚噛んでるから」
「悪いことするお仲間ですね」
「そうそう」
と言う町添部長は楽しそうである。
 

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「でもマリちゃんの調子はどう?」
「少しずつ良くなっては来ているという感じです。やはり秋からヴァイオリンを始めたのが、結構本人の意欲を高めてるんですよね」
「へー。こないだロシアフェアでの演奏聴いたけど、うまいじゃん」
「でしょ? 地方の楽団にはあの程度のレベルの奏者がけっこういますよ」
 
「いっそ、ローズ+リリー、ピアノとヴァイオリンの夕べとかやる?」
「あ、面白いですね」
 
「君の性転換手術の日程は決まりそう?」
「こないだ、コーディネーターの方と話しました。やはり今年の夏にやろうと思っています」
「ああ、いよいよ完全な女の子になるのね?」
と若葉。
 
「サマーロックフェスティバルにもしかしたらお声が掛かるかも知れないからそのステージを終えた後かな、と」
「もしかしたらじゃなくて、必ず呼ぶから」と町添さん。
「はい」
 
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1月14日金曜日、ローズ+リリーの限定版CDの公開が全国の放送局、有線放送、カラオケで解禁になり、多数のリクエストが寄せられた。予想通り『神様お願い』と『Spell on You』はかなりリクエストが集中したし、『帰郷』は聴取年齢の高いコミュニティFMでかなりリクエストされていた。
 
そして、その日の夕方、大阪や東京の繁華街の路上で、
 
『露図李理/請上帝』
 
というタイトルの怪しげなCDが売られ始めた。
 
ジャケットは訳の分からない幾何学模様で、CDのラベルも黒地に白で簡体字で『請上帝』と印刷されただけの簡便なもの。歌詞カードも付いていなかったがURLを書いた紙が1枚入っていて、アクセスすると海外の無料サーバーにつながりそこに収録曲の歌詞が、印刷・セーブができないようロックされた状態で表示されていた。
 
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販売価格は1200〜1500円くらいだったが、お客との交渉で1000円までは値引いて売るケースもあったようであった。
 
過去にローズ+リリーの海賊版は中国系の場合、『薔薇加百合』『薔薇和百合』
などのクレジットになっているものが多かったため『露図李理』というこの新しい表記にはレコード会社の関係者も最初気付かなかった。
 
それに、レコード会社の著作権侵害対策チームは、今回のローズ+リリーのCDの海賊版が出現するのは、23日のローズ+リリー特集の放送の後だろうと踏んでいたし、ネットへのアップロードの方を警戒していたので、まさか、限定版CDが解禁した日の夕方にもうCDの形で売られ始めるというのは予想していなかった。しかも週末である。ということで完全に対応が遅れた。
 
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彼らが人を動員して、路上で売っている人たちに警告してCDを没収したりする作業を始めたのは結局18日火曜日になってしまった。
 
その間にこのCDは大都市でかなりの枚数が売れ、ファンの間で、表に出さないように、主としてメーリングリストやSNSの限定公開日記・限定ツイートなどで情報が伝わって、それを買うために大都市に赴くファンもあれば、地方のファンの依頼に応えて、大都市にいるファンが代理で買って送ってあげるなどというのも、かなりあったようであった。土曜にはオークションサイトにも掲載されたが、週末なのでオークションサイト側の対応も遅れた。
 
月曜日になると、あちこちのブログにも掲載され、火曜日にはテレビのワイドショーでも取り上げられた。放送局のスタッフが偶然路上でゲットしたものをテレビカメラで映し、実際にCDを掛けてみせていた(掛けたことに★★レコードから抗議がなされテレビ局側も謝罪した)。しかしワイドショーの報道は結果的にこのCDを販促したような形になった。
 
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このCDを路上で売る人たちは火曜日のうちに東京・大阪では消えたが、逆に地方都市にまで広がっていく。週末になるとN*K-FMでローズ+リリー特集が放送されたこともあり、販売する所はかえって増えた感もあって対策チームもお手上げ状態になってしまった。地方の古本屋さんやCDショップなどでは、ふつうの逆輸入CDと思い込み、堂々と店頭で販売していたケースもかなりあった。一時的には大手の通販サイトでも買える状態になっていた!
 
各種業界団体等から通知を出してもらい、この海賊版CDの販売を完全にやめさせることができたのは結局、2月も下旬頃であった。
 

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このCDに収録されていたのは『神様お願い』『帰郷』『イチャイチャしたいの』
『Spell on You』『七色テントウ虫』の5曲であった。
 
音源は『七色テントウ虫』以外は、限定版CDと完全に同じもので限定版CDからダビングしたものと推測され、おそらく管理の甘い、どこかの放送局で関係者がコピーしたものと思われたが、大量に配布しているので、流出させた所については、調査のしようが無かった。
 
また『七色テントウ虫』は歓声や手拍子が入っていることから、ローズ+リリーのライブを違法に録音したものからノイズを減らす加工をしたものと推定された。レコード会社に残っているライブ録音と比較して2008年11月23日福岡公演の録音とは断定されたものの、むろん誰が録音したかなどは分からない。
 
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そういうことで今回は音源流出のルートは問題にならなかった。
 
★★レコードの対策チームは2月の中旬に、ようやくCDの販売元を突き止め接触することに成功した。中国広東省の出版社だった。★★レコードはただちに販売を停止することと販売したCDの回収を要求。また、損害賠償を求める予告をした。
 
販売元は知人から委託された音源で違法なものとは知らなかったと主張。また販売ルートは自分のところでも把握していないので回収は不可能としながらも、販売はただちに停止した上で、損害賠償にも応じる姿勢を見せた。結局両者の話し合いで、販売元が得た利益の全額を★★レコードに支払う代りに★★レコードはこの販売元を告訴しないことで和解が成立した。
 
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しかしそれまでの間にこのCDは香港・上海・台湾などの海外市場で推定5万枚、日本国内に持ち込まれたものが推定30万枚ほど売れていた。
 
なお、このCDの海賊版は結局この「広東バージョン」しか出回らなかった。海賊版を作ろうとスタンバイしていたグループのほとんどが、先を越されたことと「広東バージョン」の品質が良すぎたことから、製造を断念してしまったのである。ただ、この「広東バージョン」を更にまるごとコピーしたものは若干、アジア市場で出回ったようである。
 
★★レコードは販売元から受け取った賠償金の中から本来なら支払われるべきであった、アーティスト(ローズ+リリー・ローズクォーツ・スカイヤーズ)、事務所(UTP・△△社・スカイヤーズ事務所)、作詞作曲者(マリ&ケイと吉住先生)、JASRACの取り分を各々に支払った。
 
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またこの騒動は『神様お願い』の放送局や有線へのリクエスト増加にもつながった。そしてこの曲は、その直後に起きた大震災の後、更にリクエストが増えることになる。
 

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2011年3月8日、私と政子に美智子、★★レコードの南、加藤課長、町添部長の6人は JASRAC の幹部に呼び出されて、JASRACの本部に赴いた。
 
「昨年の秋にも似た騒動がありましたが、こういう大量の海賊版騒動はもう勘弁してもらえませんかね」
と幹部さんは言った。
 
「やはり、ローズ+リリーのような人気アーティストを音源だけ作って一般には販売せず、限定的にだけ配布すると、どうしてもこういう騒動になってしまうと思うのですよ。今後は、普通に販売するか、限定盤にする場合は、一般の人の手にもある程度渡るような配布方法にしてもらえませんか?」
 
JASRACがこういう販売の仕方にまで注文を付けてくるのは異例のことである。
 
「ご迷惑お掛けしました」
と町添さん。
「申し訳ありませんでした」
と美智子。
 
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ふたりとも神妙に陳謝する。
 
「ローズ+リリーの新譜は次はいつ出しますか?」
 
「すみません。既に音源制作の完了しているアルバムはあるのですが、ローズクォーツのアルバムと同時期発売というのを考えておりまして、そちらの制作を先月やるつもりだったのが、予定がずれこんでいまして」と美智子。
 
「いつ出すの?」
と幹部さんが厳しい顔で言う。
 
美智子が口ごもったが、町添さんがおもむろに口を開いていった。
 
「今から4ヶ月後。7月8日までにはそのアルバムを発売します。もちろん普通の方法で一般発売します。いいよね、須藤君?」
「分かりました」
 
「うん。約束はきちんと守ってよ」
「はい」
 

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自宅マンションに戻ると、政子は棚から『露図李理/請上帝』のCDを取り出し、居間のミニコンポに掛けた。
 
「それどこで買ったの?」
「先月大学の構内でテーブルの上にたくさんCD積み上げて売ってたよ。1000円で買った」
「堂々と売るなあ」と私は苦笑する。
 
「聴いてみたけど、『神様お願い』にしても『帰郷』にしても、いい曲だなあ」
と政子は言う。
 
「うん。自分で聴いてても、なんか涙が出てくるよね」
「『七色テントウ虫』も懐かしいね」
「これって、私たちが宇都宮のデパートでステージに立って、最初に歌った曲だもんね」
「ふふ。冬のとってつけたような女装が可愛かったよ」
「みっちゃんって、若干ファッションセンスに難があるよね」
「うんうん」
 
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「でも、あの日のこと思い出して、ちょっと懐かしくなった。私も歌を歌うのは嫌いじゃないけどさ、お客さんの前で歌うってのは初めての体験だったからね」
「でも、しっかり歌えてたじゃん。私の歌に三度唱で合わせてたし」
「無我夢中だったからね」
 
「また歌わない?ステージで」
「そうだなあ・・・・来年の春くらいだったらいいかな」
「へー」
 
「と、私が今言ったことは忘れて」
と政子。
 
「いいよ。でも来年の春に、ライブの企画作っちゃうからね」
「美味しいものが食べられる場所がいいな」
「了解」
 
 
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