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■夏の日の想い出・2年生の春(2)

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奈緒の実家はそんなに広い訳ではない。そこに友人が10人押し寄せると、なかなか狭かったが、それもまた楽しかった。
 
「え?初美ちゃん、なんでここにいるの?」と仁恵。
「私、奈緒や冬と小学6年生の時の友だち」と初美。
「えー!? 全然知らなかった」
「仁恵ちゃんは?」
「私、高1と高3の時の冬の同級生で、奈緒ちゃんとも一緒に勉強会してたんだよ」
「へー」
 
「仁恵と初美って、大学の同級生かなにか?」と私は訊く。
「うん」とふたり。
 
ということで、ここでも思いがけない出会いが生じていた。
 

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サイダーで乾杯してみんなで奈緒に「おめでとう」を言った。奈緒は全員とグラスを合わせて嬉しそうにしていた。
 
「みんな、所属は?」と理桜が訊く。
 
「千葉大」と仁恵、琴絵、初美が言う。
「△△△大」と私と政子に若葉。
「4月から医科歯科大」と奈緒。
「筑波大」と理桜。
「産能大に在籍してたんだけど、奈緒と同じく仮面浪人で4月から埼玉大」
と紀美香。
「もっとも私は親も承知の上での仮面浪人だけどね」
と付け加えると奈緒が
「てへへ」と照れ笑いをする。
 
「あ、じゃ、紀美香も合格おめでとう!なんだ」「おお!」
みんなが紀美香にも「おめでとう」を言い、紀美香も全員とグラスを合わせる。
 
「でもそしたら、みんな大学生? 私だけかな。専門学校は?」と有咲。「私も専門学校」と夢乃。
「どこ?」
「**簿記学校」
「すげー!マジメ系だ」
「有咲は?」
「私は**アーツ」
「おお、デザイン系?」
「ううん。音響系」
「おっ、すごい」
 
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食べ物はみんなで持ち寄ってきたが、あまり話し合わずに持ち寄ったので、ケンタッキーなどはかぶって大量にあり
「これ食べきれるかなあ」などという声も出たが
 
「あ、大丈夫だよ。政子がいる限り、食べ物が残るということはない」
と仁恵が断言する。
 
「そんなに政子ちゃん食べるの?」と有咲。
「ギャル曽根並みだって言われる」と政子。
「すごー」
 
「でも、政子の大食いは、ギャル曽根やフードファイターの人たちとは違うよ」
と私は笑顔で補足する。
 
「テレビの大食いとかに出てくる人たちって、吸収効率が悪いタイプの人が多いでしょ」
「うんうん」
「政子の場合は食べた分を吸収した上で消費してるんだよ。だからスポーツマンがたくさん食べるのと同じ」
 
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「政子ちゃん、何かスポーツとかするんだっけ?」
「政子の場合、脳みそが物凄く消費してるんだよ」
「頭いいんだ?」
 
「本人は天才だって言ってるね」と琴絵。
 
「政子は食べたカロリーを詩を書くのに使ってるんだよ。詩を書くのに物凄い速度で頭脳が働いている。政子の詩を作るための思考ってすごく深いからね。将棋とか囲碁のプロがタイトル戦とか戦うと、何千手・何万手って先を読むので頭脳をフル回転させるから、盤の前にじっと座ってるだけで体重が3kgとか4kgとか落ちるっていうでしょ。あれと同じ。すごく深い所まで心の索が伸びて行って、阿頼耶識(あらやしき)の果てからイマジネーションを拾ってくるから、それに凄いカロリー消費してるんだよね」
「へー!」
 
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「確かに脳ってのは身体の中でいちばんカロリーを消費する器官だからね」と奈緒。
「お、医学の専門家の意見」
 
「政子がいい詩を書いた時は、体重がそれだけで1kg減ってたりするよ」
「やっぱり、天才なのか!」
 
「うん。私は天才だもん」と政子は笑顔で言う。
 
「だから、うちの食費って、実は詩を生み出す原料費なんだ」
「へー!」
 
「でも、それ経理では原価として認められないよ」と夢乃。
「お、経理の専門家の意見」
「うん。それは仕方無い。スポーツ選手や囲碁棋士の食費が原価として認められたなんて話は聞いたことないから」と私も言う。
 

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翌3月10日は午前中に事務所に出て、明日からの東日本方面のドサ回りの予定や当面のローズクォーツの活動について、打ち合わせした。
 
そして午後からはローズクォーツの4人と美智子でエスティマに乗り、美智子とマキが交替で運転して東北道を走り、仙台まで行った。仙台駅で、連絡していた麻央の友人、多田野君と落ち合い切符を渡した。彼は明日の朝、東京に向かう。
 
そしてその日ローズクォーツは仙台郊外の温泉に行き、東北最初の夜を過ごした。部屋割は男性3人で1部屋、私と美智子で1部屋である。
 
その夜は地元のイベンターさんがその温泉で私たちを歓迎してくれ、一緒に温泉旅館の宴会部屋で酒盛りをした。むろん私は未成年なのでもっぱら烏龍茶を飲んでいた。
 
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「秋に来られた時は『大漁唄い込み』を唄っておられましたね」
とイベンターの社長さん。
「ええ。やはりその土地土地の歌を覚えていきたいということで」
「今唄えます?」
「行けますよ」と私は笑顔で言う。
 
「マキさん、太鼓よろ〜」と言って私は『どや節』から唄い出す。マキが慌てて荷物の中から和太鼓を取り出す。
 
「今朝の凪で〜」と私が唄い出すと社長さんが少し驚いたような顔をしながら
「エーーーエ〜エ〜、ヨーイトコラサ」
と合いの手を入れてくれる。この曲はアカペラで唄う祈りのような歌である。
 
やがてマキの太鼓が入り、曲は『斎太郎節』に移行する。
「松島〜の、サーヨー、瑞巌寺ほどの寺もないとエー」
この歌のいちぱん有名な部分である。社長さんは「エンヤートット、エンヤートット」と、バックコーラス(というよりボイスパーカッションに近い)を入れてくれる。
 
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唄いながら尺八の音が欲しいなという気分になってくる。やがて私は我慢出来なくなって、荷物からウィンドシンセを取り出し首に掛けると、1コーラス、それで吹いてみせた。音階が尺八とは違うがそこはこの際、勘弁してという所だ。
 
私はウィンドシンセで斎太郎節を吹いた後、『遠島甚句』のメロディーを吹き、それからシンセから口と指を離し、ふつうにこの甚句を
「ハアー、押せや押せ押せ」と唄い始める。社長さんの「エンヤートット」は続いている。この曲は『斎太郎節』以上に賑やかな歌だ。マキも太鼓を叩きながら楽しそうにしている。
 
とても良い雰囲気でこの三曲から成る『大漁唄い込み』を唄い終えた。
 
美智子・タカ・サトが拍手する。
 
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「いやぁ、どや節から始めるとは思いませんでした」と社長。
「秋に唄った時は『斎太郎節』から『遠島甚句』につないだのですが、その後偶然仙台の方と話していて、その前に『どや節』があることを知ったんです」
と私は説明する。
「『どや節』自体を唄える人が少ないですから」
 
宴会は楽しく続き、私は『さんさ時雨』『青葉城恋歌』『私の町』『荒城の月』
にベガルタ仙台の応援歌までいくつか歌った。
 
社長さんも上機嫌で
「明日のライブではぜひそういう歌を入れて下さい」
と言っていた。
 

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しかし、その「明日のライブ」は来なかったのであった。
 
私たちは日中仙台のFM局にお呼ばれして行っていて、その放送出演中に東北地方太平洋沖地震に遭遇した。そしてその後、巨大な津波が押し寄せ、放送局は直撃は免れたものの、津波にやられた地域にはさまれ孤立してしまう。
 
ようやく夕方くらいになり、道路が復旧して、私たちはその日泊まる予定だった仙台市内のホテルに移動した。地震と津波の影響で、ホテルは営業していなかったが、比較的被害の小さかった部屋をひとつ開けてくれたので、その部屋(シングル)で5人で寝た。
 
凄まじい自然災害の惨状を目の前にして私たちは何かしたくてたまらなかった。しかし、今の私たちには何もできることがない。
 
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私たちは後ろ髪を引かれる思いで12日の昼、仙台を後にし、美智子・マキ・私の3人で車を交替で運転しながら、翌日朝、東京に戻った。
 
政子が「マンションにいると余震が来た時、揺れが大きいみたいで怖い」と言って(私たちの部屋は21階である)実家の方にいたので、私もそちらに行って、とにかくその日はふたりで抱き合って、ひたすら寝た。
 

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その13日の晩。私は夢を見ていた。
 
私は夢の中でまた大地震に遭って、気がつくとどこかに閉じ込められていた。
 
そばにクーハンがあり、可愛い赤ちゃんが寝ていた。私はそれが自分が産んだ子供のような気がした。
 
脱出しなきゃ・・・・
 
私はそう思うと、クーハンを片手に持ち、脱出経路を探す。どこか建物の地下のようであるが、あちこちで壁が崩れたり、柱が倒れたりしている。私は赤ちゃんを連れて、さまよった。
 
やがて向こうの方に明るい光が見えてきた。あっちだ! 私は嬉しくなって、そちらに歩いて行く。すると広間に出たが、途中が水没していて、壁か何かの上辺という感じの細い通路が向こう岸に向かってつながっている。余震が来たら崩れそうだ。しかしここを通るしか無い。
 
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私は慎重にその細い通路を歩いて行った。
 
その時、目の前に女王様のようなドレスを着た女の人が現れた。
 
「ここは通せません」
「通してください。私は脱出したいのです」
「ここを通れるのは2人だけです。あなたは男と女を兼ねているから2人分。それに赤ちゃんがいるから3人になる。赤ちゃんを置いて行けば通れます」
 
私はクーハンの中の赤ちゃんを見た。こんな可愛い子を置いていけるものか。
 
「この赤ちゃんは通したいです」
「だったら、あなたの男か女か、どちらかをここに置いて行きなさい」
 
「私の女の部分だけ通してください。男は置いて行きます」
「では、あなたの身体の中の、男の部分を捨てなさい」
 
そういって女の人は私にナイフを渡した。
 
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私はクーハンを目の前に慎重に置き、その場に座った。そして自分のスカートをめくり、ショーツを下げる。昨年手術して作ったもらった割れ目ちゃんがあるが、実はこの中に男の印を隠している。私は指で自分の陰唇を開き、その男の印を取り出す。そしてナイフを当てて、一気に切り落とした。
 
物凄い血が出てくる。
 
「その血はあなたが女になった証の血です」
「はい」
 
女の人は下に落ちた「男の印」を掴むと水の中に放り込んだ。下に沈んでいくのを見たら、自分の身体が沈んで行っている。
 
「あそこに沈んで行っているのは『男のあなた』です」
と女の人は言う。
 
「迷わずに自分の道を歩いて行きなさい」
 
そう言って女の人は消えた。
 
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ふと気がつくと、私は屋外にいて、そばにクーハンがあり、赤ちゃんが安らかな顔をして寝ている。私は微笑んで赤ちゃんの頬を撫でた。
 
その時、1人と思っていた赤ちゃんの陰に、もう1人赤ちゃんが隠れていることに気付いた。あれ?
 
クーハンの中で、少し赤ちゃんをずらしてみる。クーハンの中には確かに2人いた!
 
「お前たち、ふたりいることに気付かれなくて良かったねえ」
 
と言って、私はふたりの頬を撫でる。やがてふたりが目を覚ます。
私はふたりを左右の乳房に吸い付かせ、ふたりにお乳をあげた。
 
そこで目が覚めた。
 

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私が目を覚ました時、政子が
「どうしたの?」
と訊いた。
「え?私どうかしてた?」
「だって、何か苦しそうにしてた」
 
「うん・・・・私、赤ちゃん産めないかな?」
と私が言うと政子はじっと私の顔を見つめ、
「そうだね。冬なら産めるかもね」
と笑顔で言った。
 

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