広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・2年生の春(3)

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翌14日は大学の友人達でビア・レストランに集まり「経済活動するぞ!」と叫びながら、みんなわざわざ高いメニューを集中して頼んだ。
 
みんな、災害を前に日本全体が喪中状態・沈滞ムードになり、派手な催しなどを自粛するムードになっていたのに反発していた。経済活動しなきゃ、日本は沈む! 東北が動けない今こそ、他の地域でその分まで頑張って、お金を動かして、その利潤が東北復興に当てられるようにしよう! などと私たちは叫んでいた。
 
「経済活動」のため、みんながあんまり高いのばかり頼むので、支配人さんが途中で「あの・・・・今お会計がこのくらいになっているのですが」とメモを見せに来た。すると、ひとりの男子が「現金足りなくなったらこれで払うから」
と言って、真っ黒いVISAカードを見せたので支配人も「失礼しました!」と言ってテーブルを離れた。
 
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さすがに私立大学に通う学生ばかりで、お金持ちの息子・娘が多い。私と政子はそれぞれ30万ずつ持ってこの会合に参加したのだが、途中で「大丈夫かな?」と不安になった。
 
最終的な会計は高いお酒を頼んだ人(1人でドンペリ3本開けた奴もいた)はそれの分を個別に出した上で、残りをみんなで割り勘したので、ひとり12万で済んだ(済んだというべきなのか・・・私もステーキに白トリュフを掛けて食べるなんて初めての経験だった)。むろん支払いは全部現金で払った。
 
また、ひとり救援物資運びのボランティア活動をすると言っていた学生に、みんなその場のノリで「支援する」と言って彼の口座に携帯から数十万単位で寄付を振り込んだので、彼の口座には、あっという間に数百万の残高ができて
「俺、このプロジェクト、マジでやるよ」
と彼は真剣な顔で言っていた。
 
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そしてその晩、また政子の実家の方で泊まった私は、政子に近日中に性転換手術を受けるつもりだということを打ち明けた。
 
「去年の夏くらいにやっておくべきだったね、冬は」
「うん。自分でもそんな気はしたんだけど、そこまで一気にやっちゃって良いのかなって、少し不安になっちゃって」
「冬はむしろ高校生のうちに性転換しておくべきだったよ」
「うん。そうかもね・・・・」
 

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震災後に麻央と話ができたのは、大地震から1週間経った18日のことだった。
 
「何だか慌ただしくってさ」と麻央。
「しなければいけないことはたくさんある気がするのに進まないよね」
「全く」
 
「でも、麻央あの時、佐野君に強引に誘われたおかげで仙台に行かなくて良かったじゃん」
「そうなんだよ! あの時、ボクが泊まる予定だったホテルは地震で崩れたらしいんだよね」
「わあ」
 
「それに、ボクが仙台行き止めたので、代わりに東京に来ることになった多田野なんだけど」
「うん」
「彼のアパートは津波で跡形もなくなってたらしい」
「ひゃー」
 
「ノートパソコン持って東京に出てきてたから、大事な写真とかのデータもそのパソコンの中で助かったって」
「良かったね」
「そもそも、そのアパートにその時間居たら、津波にやられて死んでたかも知れないしね。ボク自身も危なかった」
 
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「佐野君、様々だね」
「ほんと。敏春のおかげだよ」
 
私は麻央が佐野君のことを名前で呼んだのをあれ?と思ったが、その点は特に追求しないことにした。
 

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2011年4月3日、私はタイで性転換手術を受けた。手術にはコーディネート会社のスタッフの人が付いてきてくれたし、政子も付いてきてくれた。政子はタイ語もできるので、病院のスタッフとのコミュニケーションにも、とても助けになった。
 
私は昨年の春の段階で、外陰部の形成までやってしまっていたが、その時友人たちから「ここまでやるなら、なぜおちんちんも切っちゃわないのよ?」と随分言われたのだが、あの段階では自分としても一気にそこまでやっちゃっていいものだろうか?という迷いがあった。
 
しかし仙台の放送局で体験した巨大地震、そしてその後のとんでもない災厄により、私の心の中で大きなパラダイムシフトが起きた。自分は新しい生き方をしなければならないと思った。そして、1年間にわたって続けて来た性別曖昧な状態をやめて、完全に女になる決断をしたのだった。
 
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おりしも私が通っていた大学では4月を臨時休講にすることになり、今年の前期授業は5月6日から開始するという通知がなされていた。私は授業が始まるまで1ヶ月、ゆっくりと休養することができることになった。
 

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とは言っても、それは実際には、のんびり休養できる時間では無かった。
 
手術の傷の痛みはさすがに凄まじかった。その上、新しいヴァギナの広さを確保するために「ダイレーション」という作業をしなければならないのだが、これがまた苦痛であった。どこかに逃げ出したいほどの痛さだが、自分が選択した道なので頑張ってその作業をしていた。
 
全体的な体調もすぐれず、帰国してから4月一杯はほとんどどこにも出かけていない。といって何もしないでいると、精神的に滅入るので、この時期はお琴のレッスンを、先生に自宅マンションまで来て頂いて受けていた。
 
政子はずっとマンションに居て私の世話をしてくれたが、大学の同級生小春・博美、都内に住んでいる友人の有咲や若葉・倫代・美枝・麻央・奈緒、静岡の貞子、千葉の仁恵・琴絵なども頻繁にお見舞いに来て、おしゃべりをしていき、それでかなり私も気が紛れていたのである。名古屋のリナ・美佳、そして1年前に性転換手術を受けていた長野の泰世までも来てくれた。
 
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「でも、とうとう冬もおちんちん取っちゃったんだね」と麻央は言った。「麻央におちんちんあげられなくてごめんね」と私は返事した。
 
小さい頃、男らしい麻央と、女らしい私とが、よく一緒に遊んでいたので、同じクラスの男子たちから、私のおちんちんを取って、麻央にくっつければいい、なんてからかわれたものである。
 
「そうだなあ。おちんちんって付いてると結構面倒くさそうだから、いいや。ボクも一時期悩んだことはあるけど、自分はFTMではなさそうだし」
と麻央は言う。
 
「やっぱり悩んだ?」
「自分自身の性別認識はけっこう曖昧。人違いで性転換されちゃって男の身体になっちゃったら、男として生きる自信はあるよ。でも積極的に男になりたい訳じゃないし、女としての生活を一応楽しんでるし」
「麻央が男になっちゃったら、佐野君が困ったりして」
「あ・・・えっと、その時は彼とはホモになってもいいや」
「へー」
「男の子って、多分気持ち良く射精させてあげれば満足する気もするよ。冬も女の子の身体になったから、男の子の恋人作るだろうけど、覚えておきなよ」
「ああ」
 
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「それに、ボク、女であることで、明らかに男の子たちから差別受けることも多いけど、女であることで得していることも結構あるからね。でも、あまり男女差の無い仕事をしたいなと思ってる。ボクにはどうせOLはできないよ」
 
「やはりIT関係?」
「うん。あの方面は性別より実力の世界って感じがするからね。特に小さい会社ほど」
「だろうね。大手やメーカー系だと、やはり差別されるよ」
「うん」
 
麻央は東京工業大学に在学している。女子の数が少ないので、少ない女子たちとも仲良くしているが、それ以上にふつうに男子の友人を何人も作っていて、彼らと夜通し飲み明かしたり麻雀卓を囲みながら、あれこれ議論などしていると言っているのがさすがである。
 
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「男の子たちと話してたら、彼ら猥談するでしょ?」
「ああ、ボクはそういうの平気だし、こちらからもじゃんじゃん下ネタ話すから。何と言っても小さい頃から兄貴たちに鍛えられている」
と麻央は笑っている。
「私は、あれが苦手だったのよね〜」と私は言った。
 
「敏春には冬が性転換したこと、言っちゃってもいいよね?」
「ああ、もちろん彼には言っていいよ」
 
この1ヶ月ほどで、佐野君と麻央は、まだ「恋人」ではないものの、その前段階くらいの仲に進展しているような感じであった。ふたりは私の小さい頃のこともかなりネタにして話している風で、佐野君は
 
「唐本って、そんな昔からそんな子だったのか!」
などと言っていたらしい。そして
「だったら高校はもう女子の制服で最初から通学してれば良かったのに」
などとも言ったらしい。
 
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若葉は小学6年の時に同級生になった子で、同じ中学に進学し、陸上部でも一緒であった。高校は私立の女子高に通ったのだが、大学が同じ大学になった。但しこちらは文学部、向こうは理学部で、隣のキャンパスになる(歩いて15分ほどの距離である)。友人間では、小さい頃に男の人から怖い目に遭ったことから男性恐怖症になっている、という噂があったのだが、それなのに大学に入ると同時にメイド喫茶でバイトを始めたので仰天した。
 
「メイド喫茶って男の人にタッチされたりしないの?」
「ああ、うちはそういういかがわしい店じゃないから。お客さんと3分以上話してはいけないことになってるのよね」
「へー」
 
若葉の同僚にMTFの和実がいて、その和実と私はこの2ヶ月後に遭遇して友人になるのであるが、若葉は私にそういう同僚が居ることは話していなかった。また和実にも自分と私の関わりについては話していなかった。
 
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若葉という子は、友人の個人情報をむやみに他人に話すことの無い、とても口の硬い子で、それ故に私は彼女をとても深く信頼している。一方で彼女は何やら不思議なコネを多数持っていて(商事会社を経営している伯母がいるお陰とは言っているが、それだけでは説明出来ない)、随分不思議なもののことを知っているし、変わったものを調達したり、普通なら取れないような予約を取ってくれたりもしていた。
 
「ダイレーション大変でしょ?」と若葉は言った。
「そういうの良く知ってるね」
「私、情報だけは持ってるから」
「でもその情報の出処は絶対言わないのが若葉のいい所でもあり使えない所だね」
「ふふ」
「確かに大変。ってか痛いけど、これやらないと手術した意味が無いからなあ」
「頑張ってね」
 
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「ダイレーターはどんなの使ってるの?」
「見る?」
「うん」
 
というので見せる。これは政子にもまだ見せてないのだが。
 
「ふーん。こちらはロウ。こちらはアクリルかな? これ入れてる間は動けないでしょ?」
「動いたら痛い」
「シリコン製の使ってみない?」
「・・・・なぜ、そういうものに詳しい?」
「シリコンのダイレーターって、おちんちんみたいな感触で入れやすいよ。私自分のに入れてみたことある」
 
「・・・・よく平気で入れるね」
「まあ別にヴァージンじゃないし」
「そりゃヴァージンの女の子が入れたら、それに処女を捧げてしまうよ」
 
「あと、シリコン製で留め置きできるタイプがあるから、それも調達してきてあげるよ。ずっと入れっぱなしにしておくと拡張にいいよ」
「ほんとに若葉のコネって不思議だ!」
 
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「でもやっぱり、この時期になって性転換手術を受けたのは、女として生きていけるメドがついたから?」
 
「それはあるかもね。去年の夏に歌手に復帰したのに、例の事情で自分たちのCDが出せない状況は続いているけど、ソングライターとしてかなり稼働してて、その分の印税がけっこう入って来始めたから、ああ、やはり音楽の道で食っていけそうだな、と思ったのはある。それに若葉のお陰で例の分の収入もあったしね。あれ無かったら正直、経済的な不安から性転換手術受けるのためらってたよ」
「ふふふ」
「去年の秋頃まではホント、私、大学3年になったら背広着て就職活動しなきゃいけないのかな、とかも考えてたんだよね」
 
「ああ、冬は背広着て就職できる訳が無い」
「それ、みんなから言われた!」
 
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「でも結果的に、冬は、ローズ+リリー、ローズクォーツ、マリ&ケイ、を学生しながらやってるのね。ひとり4役って凄すぎる」
「うーん。。。。そういうことになるのかな」
 

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