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■夏の日の想い出・歌を紡ぐ人たち(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-09-09
 
私たちの恩師とも言うべき、上島先生が属していた(と言ったら叱られるので本当は「属している」と言わなければならない)ワンティスというバンドは、元々△△△大学の学生で作っていたバンドに所属していた、高岡さん(Gt)・雨宮さん(Sax)・上島さん(KB)の3人を中心に2001年6月に結成されメジャーデビューを果たした。
 
つまり△△△大学の学生のまま活動しているローズ+リリーからは大学の先輩にも当たる。
 
ワンティスがメジャーデビューする時、高岡さんたちのバンドのライバルバンドとみなされていた同じ△△△大学の別の学生バンドから、水上さん(B), 三宅さん(Dr)が加わった。また、バンドには属していなかったものの雨宮さんの友人でDTMが得意であった下川さんがマニピュレーターとして加わって、6ピースバンドとしてスタートした。
 
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サウンドに厚みを加えるため、ライブではこれに海原さん(Gt), 山根さん(Tp)が加わり、ボーカル・コーラス担当として高岡さんの恋人であった長野夕香さんとその妹の支香さんが加わっていたが、やがてこの4人も正式メンバーとして加えられ10人編成のバンドになった。
 
男性8人・女性2人のバンドではあるのだが、雨宮さんはしばしば女装していたので、男性7人・女性3人のバンドと思われることもよくあったようである。雨宮さんはワンティスの元になったバンドに加入する前、ビジュアル系のバンドをしていて、それで「女装が癖になった」らしいが、性志向はノーマルだとご本人は言っていた。私は雨宮先生とも、上島先生の御自宅で何度も会っているのだが、いつも高級ブランドの婦人服を着こなし、上品にお化粧をしていて、女声で話すので、最初てっきり女性と思い込んでいたくらいである。
 
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「でもあの頃、僕と雨宮が恋人関係なんじゃないかとよく邪推されてたね」
と上島先生は言っていた。この話をしたのは多分2012年5月頃だ。
 
「高岡は夕香さんと公然の恋人だったから、自然と雨宮と上島をペアで考えちゃう人が多かったんだろうね」と下川先生。
 
「私、男の人には興味無いんだけどね」と雨宮先生。
「と言って、女の子にも興味無いよね」
 
「まあね。あまり興味はないけど、セックスは時々するよ。実際自分はアセクシュアルじゃないかと思ったこともあるけど、性欲自体はあるからなあ。自分自身混乱してた時期もあるけど玉抜いちゃったので、すごく落ち着いたよ。私が女の子とセックスするようになったのも、玉抜いた後からだよ」
 
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「玉抜いたと聞いたから、女になるつもりなのかなと思ったらそのつもりは無いというし」
「ヴァギナは欲しい気もするけど、おちんちんも捨てがたいからね。玉無いとコンちゃん付けずに遊べていいよ。上島もそんなにたくさん浮気するなら抜いちゃったら? これ以上隠し子作ったら、奥さん切れるよ」
「いや、僕はまだ男辞める気無いから」と上島先生が言ったが
「私、既に切れてます」と奥さんはマジで怒った顔で言った。
 
花村唯香を見い出したのも雨宮先生だが、私は一度彼女が男の娘というのをご存じだったんですか? と訊いてみたことがある。すると笑って先生は言っていた。
「あんな可愛い子が、女の子のはずが無いじゃない!」
 

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ワンティスの歌は主として高岡さん(Tenor),上島さん(Baritone)が歌っており、これに女性2人(夕香:Soprano, 支香:Mezzo-soprano)が加わった混声四重唱が基本だったが、高岡さんがメイン、上島さんがオブリガートで、女性2人はコーラスというアレンジも多かった。また曲によっては雨宮さんがサックスを休んで、男声・女声を駆使して歌に参加することもあった。
 
元々はロック寄りのフュージョンが得意なバンドだったが、メジャーデビュー曲『無法音楽宣言』はタイトルに反して、かなりおとなしめのポップスである。ただ「無法」という名の通り、上島さんがノコギリをヴァイオリンのように弾いたり、雨宮さんは水を入れたペットボトルを並べて木琴のように叩いたり、銃声(おもちゃの紙火薬銃)、車のクラクション、チャルメラの音、風船を割る音など、様々な音を加えた作品に仕上がっており、当初はコミックバンドかと思われたほどであった。
 
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この奇異な曲が、大いに受けていきなりミリオンヒットを飛ばし、ワンティスは人気バンドになった。
 
そして人気絶頂だった2003年の12月。バンドリーダーの高岡さんが中央道を愛車のポルシェで疾走していてカーブを曲がりきれずに防護壁に激突し即死した。時速300km以上出していた上に、高岡さんの遺体からも同乗者でやはり一緒に即死した恋人の夕香さんの遺体からも、高濃度のアルコールが検出された。
 
この事故とともにワンティスは活動停止してしまった。
 
レコード会社はバンドの事実上のサブリーダーであった上島さんに補充メンバーを入れてバンドとしての活動を継続してくれないかと打診したが、上島さんは断ったし、また上島さんに断られたため、続いて打診を受けた雨宮さんも断った。
 
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「だってカレンが死んだあと彼女の代わりに誰かボーカル入れてカーペンターズを継続できましたか?レノンが死んで、代わりに誰か入れてビートルズを再結成できましたか?」
などと上島先生は良く言っていた。
 
その後、バンドのメンバーの中で、上島さん・水上さん・海原さんは各々独立のソングライターとして活動するようになり、雨宮さんはプロデューサー、下川さんはアレンジャーおよびサウンドプロデューサーとして活躍、三宅さんは現役のドラマーとして別のバンドで活動、山根さんはジャズトランペット奏者として活躍している。
 
ある時(2013年1月頃)、私は政子に支香さんのことを話した。
「高岡さんと夕香さんの事故死で、ワンティスのメンバーはみんなショックを受けたんだけど、やはり一番可哀想だったのが支香さんだよ。あの事故でお姉さんと仕事を同時に失ったんだもんね」
 
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「私もあの事故は凄い騒ぎで連日テレビでやってたから覚えてるよ。あんまり派手な事故だったから、謀殺説まで出てたよね」と政子。
「でも高岡さんを殺して得する人なんていないからね」
「まあね」
 
「夕香さんと支香さんって、凄く仲の良い姉妹だったみたいね。1つ違いなんだけど、顔立ち似てるし、ふたりとも身長高いし、双子と思われることもよくあったらしい」
「ああ」
「あの事故のショックでお母さんが寝込んでしまったらしくて」
「気の毒にね−」
「印税とかは入ってくるけど、収入としては激減したから、建てたばかりの自宅を結局売却する羽目になったみたいね」
 
「でもこの業界は基本的に水物だからね。私たちも明日から無収入になる可能性だってある」
「うんうん。それは私も割り切ってるつもりだけどね」
 
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「仕事は結局上島先生や雨宮先生が回してくれるようになって今では歌手として安定した仕事をしているけど、一時期はほんとに経済的にもかなり悲惨だったらしい。その時期、上島先生が個人的に経済支援していて、それを縁にふたりは恋愛関係に陥ってしまったみたい」
 
「それって、上島先生が結婚する前?」
「もちろん」
「じゃ、なぜ支香さんと結婚しなかったのよ?」と政子は訊く。
 
「上島先生の恋人は別に支香さんだけじゃなかったから」
「ぶっ」
 
「上島先生の恋人は私が把握しているだけでも7人はいる」
「仕事だって忙しいのに、よくそれだけの恋人との時間が取れるね」
「子供も少なくとも2人いるよ。認知はしてないみたいだけど」
「えー!?」
 
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「たださ。上島先生の基準で、恋愛関係にあればいい人と、人生を共にしたい人というのは別、という気がするんだ」
「ほほお」
 
「やはり茉莉花さんって、上島先生が人生を賭けてもいいと思う人だと思う。支香さんともし結婚しても1年もたなかったかもね。茉莉花さんだからこんなに長期間、夫婦という関係を維持できるんだと思うよ。あのふたり相性が凄くいい感じだしさ。よく以心伝心してるよね」
 
「ああ、先生が何か言う前に、茉莉花さんには分かっちゃうよね」
「たぶん魂の相性がいいんだと思うよ」
「だったら浮気しなきゃいいのに!」
 
「そのあたりが私にも理解できない部分だけどね」
 

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「ね。冬にとって人生を賭けてもいい人は、私なの?正望君なの?」
 
「・・・・・その質問に答える必要ある?」
と私は政子の瞳を見つめて言った。私たちは10秒ほど見つめ合った。
 
「無い」と言って微笑んで政子は私にキスをした。
 

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ローズ+リリーと仲の良いユニットは、いくつもあり、スイート・ヴァニラズやスカイヤーズにはホントにいろいろお世話になっているし、スリファーズ、ELFILIES、などは楽曲を提供している縁もあり、個人レベルでの親交も深い。
 
しかし対等な立場で仲の良いユニットというと、何と言っても一番はXANFUSであろう。
 
XANFUSとの付き合いは、高校時代にまで遡る。
 
私たちがメジャーデビューしたのは2008年の9月だが、XANFUSは10月で、こちらが少しだけ早い。その日私たちは午前中に北海道に行ってキャンペーンし、午後から飛行機で九州の福岡まで行ってキャンペーンするという大移動をしていた。
 
そして福岡のCDショップに行った時、控室にお揃いの衣装を着た女の子2人組がいた。
「おはようございまーす」
「おはようございまーす」
と挨拶を交わす。
 
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「私たちローズ+リリー(ローズ・プラス・リリー)というの。私がケイ、こちらマリ」
「私たちはXANFUS(ザンファス)。私が音羽。こちら光帆」
 
私たちはどちらも高校2年生のユニットでデビューしたてだということが分かると急速に親近感を感じた。
 
「わあ。お友だちになりましょうよ」
「じゃ、友情の証にハグしよう」と政子。
「へー!」
 
「私たちがデビューした日に ELFILIES ってユニットの子たちにハグしてもらったのよね。そしたら凄く落ち着いて歌えたんだ」
「ああ、ステージってそもそも緊張するのに、デビューの時って物凄い緊張だよね」
「私なんかもう足が震えて震えて。早く終わんないかなってのばかり考えながら歌ってた」
「じゃハグして落ち着こう」
 
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と言って、最初音羽と私、政子と光帆がハグし、それから光帆と私、政子と音羽がハグし、最後に私と政子、音羽と光帆でハグする。
 
「あ、なんか落ち着ける気がする」
「ね」
「じゃ、今度から私たち会った時はいつもハグ」
「OK、OK」
 
「だけど音羽ちゃん、おっぱい大きいね」と政子が言うと
「ケイちゃん、おっぱい小さいね」と音羽が言った。
 
「音羽はDカップあるもんね」と光帆が言うと
「ケイは実は男だからね。胸が絶望的に無いのよ」と政子が言う。
「えー?うっそー!?」
無論、XANFUSのふたりは冗談だと思ったようであった。
 

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「へー。今日は鹿児島、長崎、熊本、久留米と回ってきたんだ?すごっ」
「えー?そちらは札幌でイベントやってからこちらに飛んできたの?」
 
「お互いハードスケジュールだねー」
「アイドルって体力無いとやってられないね!」
 
「でも高校生だから勉強もしないといけないしさ。私たち一応9時で解放してもらえるから、そのあと夜1時くらいまで勉強してるよ」
と政子が言うと
「偉ーい。私は家に帰ったらバタンキュー」と音羽。
 
「私もマリも成績を絶対落とさないことが条件なのよねー」と私が言うと「私は親からは恋愛禁止だけ言われてる」と光帆。
 
「恋愛かぁ。もう2年くらいしてないなあ」と私。
「私は3年彼氏いない」と音羽。
「私はローズ+リリー始める直前に別れた」と政子が言うと
 
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「事務所に別れさせられたの?」と心配そうに光帆が訊く。
「ううん。浮気の現場押さえたから三行半突きつけた」と政子が言うと
「こんな美人の恋人がいて浮気するって酷い男だね」
と光帆は憤慨したように言った。
 
「でもさあ。恋愛禁止状態で女ふたりでずっとくっついて行動してると少し変な気分になることない?」と音羽。
 
「ああ。私たち何度か裸で抱き合って寝たことあるよ。お互いにあの辺を悪戯したりしたし」
と政子はあっさり、私とのことをバラしてしまう。私は頭を掻く。
 
「わっだいたーん。私たちはまだ下着で抱き合った所までだな。あそこも下着の上からタッチしただけ。キスはよくするけど」
と音羽が言う。「ちょっとちょっと」と光帆が慌てて言ってる。
 
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こんな感じで私たちはお互いの「秘密」をあっさりバラして、それでよけい仲良くなったのであった。
 
私たちは翌日大阪でも同じCDショップで鉢合わせして、またハグしあって「友情の儀式」を交わした。
 

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夏の日の想い出・歌を紡ぐ人たち(1)

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