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■夏の日の想い出・3年生の秋(7)
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スリファーズのツアーをやっていた最中の2012年11月21日、ローズ+リリーの2枚のシングルが発売になった。というよりも正確には建前上「発売されていたCD」
の再発売をおこなった。『恋座流星群』と『Spell on You』である。
この2枚はローズ+リリーの公式ホームページのディスコグラフィーではそれまで通し番号無しで掲示されていたのだが、一般発売に伴い10枚目のシングル、11枚目のシングルとしてカウントすることにした。
『恋座流星群』は公式には2010年9月1日に発売されたCDで、同名曲のほか、『私にもいつか』,『ふわふわ気分』の2曲と、『明るい水』『ふたりの愛ランド』
の新録音版を収録したCDである。
当時、諸事情で私たちがCDを出せない状況の中で、放送局や有線放送、カラオケなどからリクエストに応えたいとして多数の照会が来ていたので、CDだけプレスして、一般のCDショップなどには流さず、放送局・有線・カラオケ配信元など限定で頒布したものである。一部、ローズ+リリーと交友のあったアーティストなどにも渡している。
曲目としては全てどこかのアルバムなどに収録されているのだが、実はこのシングルそのままのテイクで収録されているのは『ふわふわ気分』のみである。アルバムに収録された『恋座流星群』はリミックスされているし、『明るい水』
と『ふたりの愛ランド』のこのバージョンはどこにも収録されていない。
『Spell on You』は2011年1月14日に発売されたことになっているCDで、同名曲のほか、『神様お願い』『イチャイチャしたいの』『帰郷』が収録されている。
こちらも、このCDに収録されているものがそのまま他のでも聴けるのは表題曲の『Spell on You』のみで、他は無かったり入手困難になっていた。
そういう訳で、この2枚をあらためて一般販売しても、ある程度のセールスが見込めると★★レコードは踏んだのである。10月から私たちがテレビに出演したことで、今まで私たちを知らなかった層がCDを買ってくれるようになって、過去のCDのセールスが軒並み上がっているのも考慮された。
「再発売」するに当たって、どちらもジャケ写は新しいものに変更した。
『恋座流星群』の元のジャケ写は流星を見つめるマリ&ケイだったのを、新しいジャケ写では、ふたりがペンを持って夜空に星座を描いているというものになっている。『Spell on You』の方は、元のはアラビア風のランプの前でふたりが祈る姿であったが、新しいものは、真ん中に背広を着て後ろを向いた人の姿があり、左右に立ったマリとケイがその人の背中を指さして何か念じている構図である。
発売時に「この後ろ姿の人は誰でしょう?」というクイズをした。期限とした発売後1週間以内の回答者が5万人もあった。
がっちりした体格のサトは違うので、似たような体格であるタカ、マキ、そしてスターキッズの月丘さんという回答がひじょうに多かった。★★レコードの加藤課長ではという答えも意外に多く、「私の名前がそんなにファンの間に知られてるんですかね?」と本人がびっくりしていた。ほか編曲者の下川先生という答えもかなりあった。
正解は実は男装した宝珠さんで、この回答をした人は78人だった。正解者全員にローズ+リリーのサイン色紙と「特製ローズ+リリー・トランプ」をプレゼントした。このトランプは非売品である。
元々2年前、2010年夏にファンの方が、お手製の「ローズ+リリー・トランプ」
を作って送ってきてくれたのである。私たちはそのトランプで随分遊ばせてもらったのだが、美智子が「これ面白いね。実際に記念品グッズとして作らない?」
などと言ったりしたものの、当時はなんだかバタバタしていて結局作らなかった。
それを今年の秋に突然政子が思い出し「トランプ作ろうよ」と言ったので、様々な衣装を着て写真撮影などして制作したのである。
今回はそのトランプの最初の放出となった。ハートとダイヤのコートカードに政子、スペードとクラブに私の写真を使っている。ハートはヨーロッパの王家のイメージで王様・女王様の扮装とJはパブリックスクールの制服風、ダイヤは中国風(Jは人民服)、スペードはアラビア風(Jはベリーダンス風)、クラブは日本風(Jはセーラー服)にしている。
またジョーカーはマリ版ジョーカーとケイ版ジョーカーの2枚を作った。ふたりとも悪魔の扮装をしている。またスペードのエースとハートのエースには、私と政子がピタリと肩を寄せ合っている写真をマークの中央に入れた。スペードAはミニスカのステージ衣装で、ハートAは振袖である。
「ハートのエースのふたりってほとんど恋人宣言ですね」という反響が多かった。
「しかしこの王様の衣装を着けた冬ちゃんって、男装した女性にしか見えないね」
とサンプルを見た宝珠さんが言った。
「七星(ななせ)さんのジャケ写はばっちり男の人に見えてましたよ」と政子。「まあ、後ろ向きだしね」と宝珠さん。
「でもよく男装の七星さんって分かったなあ。私、冬に言われるまで全然分からなかった」と政子。
「冬ちゃんはすぐ分かった?」
「男装の女性というのはすぐ分かりましたよ。雰囲気で。だから後は誰だろうと思って。こういうのに協力してくれそうな女性で、一応一般にも名前が知られている人と思うと、七星さんがいちばんに浮かんだので。他に考えたのはスイート・ヴァニラズの Susan とか、スリファーズの千秋とか、身長が165cmくらいはある感じがしたから。背の高い人を考えてみて」
「やはり男装女装している人に敏感なのね?」
「私にはそのあたり分からないなあ。正解した人の中にも結構GIDの当事者がいたかもね」と政子。
「でも、マーサは花村唯香を一発で女装っ子というの見破ったよね」と私。
「手を握ったからね。見ただけじゃ分からなかった」
「ああ、触覚が発達してるんだ?」と宝珠さん。
「でも、冬って最初に会って手に触った時、絶対これ女の子だと思ったのよね。それに、冬って、高校時代も、後ろから見たヌードが女の子のヌードにしか見えなかったな」
「ああ、当時もヌード見てるんだ」
「かなりHなこともしてたし。セックスはしてないけど」と政子。
「まあ、インサートはしてない、というのが正確な所かな」と私は訂正する。
「ふふふ。まあ、中高生のセックスなんて、そんなものでしょ」
「でもそういうセックス一歩手前くらいのことしてても、私は女の子とイチャイチャしてる感覚しか無かったのよね」
「なるほどね。でも政子ちゃんって冬ちゃんがいかに女の子らしいかというのを楽しそうに話すけど、元々《女の子の冬ちゃん》が好きだったのね?」
「ええ。私にとって冬は《可愛い女の子》だったから。実際最初の頃は、マジでこの子男装女子では?って疑ってたし。だから私、彼氏が居ても、女の子である冬を好きになるのは矛盾しなかったのよね」
「面白い関係だなあ。。。あれ?このトランプ、裏が楽譜になってるのね?」
「ええ。『遙かな夢』の先頭16小節です」と私は答える。
「これを曲の順序に並べるとですね」
と言って私はトランプの裏模様の楽譜を並べていく。
「これで譜面の順序通りなのですが、こう並べた上でカードをひっくり返します」
と言って私は並べたカードを全部表に返して行く。
「おお!」と宝珠さんが嬉しそうな声をあげた。
「黒いカードを地にして、赤いカードでR+Lという文字が現れるんですよ」
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カードでR+L
「でも私、このトランプの大きな欠陥に気付いた」と宝珠さん。
「何ですか?」と政子。
「裏を見ただけで、何のカードか分かるじゃん!」
「まあ、それはご愛敬ということで」と私は笑った。
ローズ+リリーのふたつのシングルが「再発売」された5日前、ローズクォーツの2枚目のオリジナルアルバムが発売された。ローズクォーツは、昨年夏にファーストアルバムを発売した後、スイート・ヴァニラズとの交換アルバム、それから「Rose Quarts Plays」シリーズで、2月にRock, 4月にJazz, 7月にLatin, 10月にClassic と発売していたが、オリジナルアルバムは1年ぶりであった。
私はアルバム発売後の土日、スリファーズのライブで岡山と福岡に行ってきたのだが、週明けの19日、大学が終わってから事務所に出て行くと、なにやら美智子が頭を抱えていた。
「どうしました?」
「悲惨だ・・・・」
「ローズクォーツのアルバムですか?」
「うん。初動1500枚」
「ああ」
「去年のファーストアルバムは初動2万で最終的に4万売れたのに」
「うーん。比例計算すると最終3000枚ですか?」
「マジでそうなるかも知れん」
「ローズクォーツプレイズ・シリーズは毎回1万枚程度売れてるのにですね」
「なぜ、こんなに売れないのだろう・・・・」と美智子。
「去年4万売れたのは忘れた方がいいですよ」と私は言った。
「そうか?」
「みっちゃん自身に迷いが無い?」
「うむむ・・・・」
「ローズ+リリーとローズクォーツの路線問題で私たちとみっちゃんが話し合ったのがちょうど1年前だったよね」
「ああ。そうだね。1年経ったね」
昨年(2011年)の11月19日、私と政子は早朝、美智子の自宅を訪問した。
私と政子の恋愛問題で美智子から懸念を表明されていたので、その問題についてきちんと説明するためであった。
私と政子がお互いに深く愛し合っていること。しかし、その愛とは別に各々男性の恋人も作って、そちらも愛していること。そして少なくとも自分たちの心の中では、私と政子の愛と各々の恋人との愛が矛盾しないことを正直に言った。
「ふたりの愛って、ふつうの恋愛とは愛の次元が違うのかも知れないね」
と美智子は言って、私たちの気持ちに理解を示してくれた。
「だけど、あんたたちいづれは各々男の人と結婚するんじゃないの?」
「そうですね・・・・14年後くらいには結婚するかも」と私。
「私も14年後くらいに結婚しようかなあ」と政子。
「随分先の話だね。さすがに結婚したらそれぞれの彼氏と一緒に住むんでしょ?」
「通い婚になったりして」と政子。
「ああ、それもいいね。多分、私と政子って結婚しても一緒に暮らしている気がします」と私。
「あんたらの旦那、可哀想!」と美智子はマジな顔で言った。
そして私たちはこの時言った通りに14年後(2025年)に各々結婚したのであったが・・・・
「だけど、あんたたちが入ってきた時、すごく思い詰めたような顔してたからさあ。私はてっきり、退職させてくださいとでも言われるかと思ったよ」
と美智子は笑って言った。
「あ、その件なのですが、実はちょっとお願いがあるのですが」
と私は言った。
「まさか、本当に辞めるの?」
「辞めはしませんが、ローズ+リリーとローズクォーツの路線の問題で」
「うん?」
「これまでローズ+リリーの音源製作も、ローズクォーツの音源製作も、私たち3人に、星居さん(タカ)を加えて4人で話し合いながら製作してきましたよね」
「そうだね。槇村君(マキ)が何も言わないから、結局星居君の意見を重視することになる」
「その結果、ローズ+リリーと、ローズクォーツの曲のラインナップとかアレンジが似たようなものになっている気がして」
「うーん。。。」
「実際、ローズクォーツの最初のシングルに入れた『あの街角で』とか、あまりクォーツには合わない素材でした。あの時は、ファンから要望の高かったあの曲を早くリリースしたい気持ちがあったので、私も入れてしまったのですが」
「うんうん」
「先日作ったローズクォーツのシングルでも『いけない花嫁』は結構クォーツ向きだと思うんですけど、『夜窓にノック』はどちらかというとローズ+リリー向けだったんですよね」
「ああ、そうかも知れない」
「やはり同じスタッフで作ってると、どうしても混乱しちゃうと思うんです。演奏している人間もほとんど同じだし」
「確かに」
「プロデュースの責任を分担しませんか?」
「ふむ」
「ローズ+リリーは、やはり基本的には私と政子の個人的な活動で、商業的な展開もその延長線上なので、私と政子に任せてもらえないでしょうか?そしてローズクォーツの方は、みっちゃんに基本的にお任せして、私はむしろ方針的なものには口出ししないようにします。技術的なことでは色々言いますが」
「なるほど」
「大きな会社なんかで部門分けして、部門間で競争させたりするでしょ?それと同じで、私とみっちゃんで競争しない?」
「ああ、それは面白いね」
「ローズ+リリーは私が統括して、ローズクォーツはみっちゃんが統括して、各々のセールスを競うの」
「いいよ。面白いじゃん、それで行こう。だいたい、あんたうちの専務だしね」
と美智子は楽しそうに行った。
「私自身、実際時々混乱していたってのはあるよ。特にここしばらくは政子もローズクォーツの音源製作に参加してたからさ。ローズ+リリーの音源製作とローズクォーツの音源製作が、完全に同じ人間、同じシステムで進んでたからね」
と美智子も言った。
「じゃ、お互いに頑張ろう」
と言って、私は美智子と硬い握手をした。
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