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■夏の日の想い出・3年生の秋(4)
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とっても長い曲『出会い』が終わった後は、リズミカルな曲が続く。
『影たちの夜』で大いに盛り上がり『Spell on You』『恋降里』『風龍祭』と続き、上島作品を4つ『甘い蜜』『涙のピアス』『夢舞空』『夏の日の想い出』
と続けてから『キュピパラ・ペポリカ』で会場は興奮のるつぼとなる。
ここでいったん長めのMCをはさんだ上で
「それでは最後の曲・宇宙恋愛伝説」
と言って、12分に及ぶ長い長い曲を歌った。
大きな歓声。それに手を上げて応える。そして幕が下りる。
鳴り止まない拍手。やがて幕が開く。私たちはまたステージ中央に出て行って挨拶をした。衣装は着替えていない。沢山リズミカルな曲を歌って汗を掻いたままである。
「アンコールありがとうございます。一応アンコールの曲まで考えて準備はしていたのですが、有料でのコンサートって4年ぶりなので、ブーイングの嵐になったり、アンコールの拍手も来なかったらどうしようと思ってました」
と私は笑顔で言う。
政子も昂揚した状態で上機嫌の顔をしている。ノエルたちが出ていた間にカツゲン2L飲んだ上でイカの丸焼き2本食べ、アンコール前の小休憩ではコアップガラナの500ccを2本上げて、男爵コロッケ5個食べているから、お腹も満足しているだろう。私の方はお茶しか飲んでいないがまだエネルギーは充分だ。
スターキッズの伴奏が始まる。伴奏を聴いただけで歓声が上がる。私たちは活動休止中のヒット曲のひとつ『恋座流星群』を歌う。カラオケで無茶苦茶歌われた曲である。
演奏が終わって拍手と歓声。そしてスターキッズが退場する。スタッフの人たちが再びグランドピアノを中央に持って来てくれる。
私は歓声に応えてからピアノの前に座る。そして政子もその隣に来る。
前奏に引き続き『天使に逢えたら』を弾き語りする。非常に高い音を使う曲である。PAを切った状態で、ふたりの声がこの大ホールに美しく反響する。コンサート専用ホールならではの響きだ。聴衆は遠慮気味の音量で「ターンタ・タン、タタンタ・タン」というリズムで手拍子を打ってくれた。
そして終曲。手拍子がそのまま拍手に変わる。私たちは立ち上がり、静かにそして大きくお辞儀をして幕が降りた。演奏終了のアナウンスが流れたにも関わらず、10分近く拍手が鳴り止まなかった。
ライブが終わってから、蟹料理を食べに行く。中学生のノエル、高校生の真紅がいることを配慮して「飲む兵衛コース」と「食い気コース」に別れることにした。
「飲む兵衛コース」はスターキッズの宝珠さん以外の4人、美智子、美智子とは旧知の真紅のマネージャー・梅谷美春(元サンデーシスターズ)の6人。こちらは少し上品な蟹料理店のコース料理。お一人様17000円である。
「食い気コース」は私と政子、ノエル・真紅・唯香、宝珠さん、そしてノエルのマネージャー、唯香のマネージャーの8人。こちらは大衆店の食べ放題コース。お一人様8000円である。政子がいる以上、食べ放題に来ないと会計が怖い。しかしノエルや真紅もよく食べていた。
「君たち体重制限とかは言われないの?」
と心配して宝珠さんが訊いたが
「明日からダイエットします」とノエルは言うし、
「来週いっぱいキャンペーンでハードスケジュールだからそれで体重落ちます」
と真紅は言っていた。ノエルのマネージャーも笑っていた。
ノエル・真紅・唯香は3人で並んでライブステージに立ったのは初めてだったらしいが、お互いにテレビの歌番組やイベントなどでよく顔を合わせているのでお互い遠慮はいらない雰囲気だった。
「そういえば、私たちってマリ&ケイ・カズンズと呼ばれてるみたいね」
とノエル。
「カズン?」
「ローズクォーツ、スターキッズ、スリファーズ、SPS、ELFILIES、パラコンズ、といったところが、継続的にマリ先生・ケイ先生から楽曲を提供されていてマリ&ケイ・ファミリー。私たち3人は時々楽曲をもらっているから、ファミリーではないけど、それに準じるということで従妹:カズンズなんだって。私たち以外にも山村星歌ちゃんとか、小野寺イルザちゃんなんかも入れられるみたい」
「ああ、なるほど」
「そういうこと言ったら、ローズ+リリーは上島カズンだなあ」と政子。
「ああ。上島ファミリーではないですもんね。でも継続的に楽曲は提供されていますよね」
「そうそう。特に最初は『上島先生の作品ならうちからCD出しましょう』って★★レコードさんには言ってもらったからね」と私。
「確かにメジャーから曲を出すのは、ふつうなかなか出来ないよね」
と唯香が言う。
「私はカラオケで歌っていた所を、雨宮先生に『君、歌がうまいね!』と言われてスカウトされて、君の年齢ならアイドルとして売れるから、それが得意な水上さんに預けてみようと言われて、水上先生から曲をもらえて、やはり水上先生だからということで、★★レコードから出してもらえたのよね」
「水上先生、雨宮先生、海原先生、上島先生、下川先生、といった元ワンティスの友情は堅いみたいね」
「あ、『元ワンティス』と言っちゃいけないらしい。単に活動休止しているだけで、解散した訳じゃないから。『ワンティス』と言わないと、だって」
「そうそう。そうだった」
「私は小学生の時のキャン・フェアリーの活動があったからなあ。木ノ下先生にはその時からの縁だったし」とノエル。
「木ノ下先生もまだ若いしね。精神的に落ち着いて復活できるといいけどね」
「うん。木ノ下先生の歌は男の人から見て可愛い女の子のイメージ。今曲をもらっている伊賀先生の場合は、同性から見て可愛い女の子って感じで、どちらの雰囲気も好きだけどね」
「まあ、でも伊賀先生の曲を歌うようになってから女の子のファンが増えたよね」
と蕪田マネージャー。
「私の場合はうちの父の先輩が木ノ下先生と知り合いだったからね。コネだなあ」と真紅。「コネでも何でも利用して、それで売れたら勝ちだよ」と唯香。
「コネでデビューできても、コネでは売れないからね」と私も言う。
「真紅ちゃんなんか上手いからいいけど、木ノ下先生はけっこうコネで頼まれると、あまり実力が伴ってなくても曲をあげて、デビューさせてた感じね。ただ、あの先生波があるからなあ。真紅ちゃんはいい曲もらえたみたいだけど『えー?』と思うくらい酷い曲もらってた子もいたね」
と蕪田さん。
「その調子の波が下まで行って、そこから上昇できなくなっちゃったんでしょうね」
「ああ、そんな感じだろうと思うよ。ここだけの話だけど、以前、やはりコネでデビューさせた歌手で私の妹と同じ中学の子がいたんだけどね。もらった曲が素人以下って感じの曲で」
「わあ、可哀想に」
「その子のお父さんが木ノ下先生に、すぐにもデビューさせてとか言ったんで伴奏も弟子に打ち込みで作らせてデビューさせちゃったんだけどね」
「アバウトな仕事する先生ですね」と私は苦笑する。
「いや、中にはもっと酷い先生もいるよ。自分では実際何もせずに弟子に丸投げしてる先生とか。その弟子が消耗しきると次の弟子に丸投げ」
「創作の泉って無理して使ってると枯渇しやすいんです。枯渇すると復活させるのが大変」と私は言った。
「でもやはり上島先生が丁寧すぎるんだよ。あの人、どんなに忙しくても、どんな歌手に渡す曲でも手を抜かないもん。いつも全力投球」
「よく体力持ちますね」とノエルが言う。
「ああ、私もいつもそれ心配してます。ただ上島先生はかなり渡す相手を選びますよ。最低限の歌唱力のある人にしか曲を出さない」と私は言う。
「私たちの時も浦中部長に頼まれたもののインディーズから出ていた私たちのCDを実際聴いてみて、ああデビュー曲でこれだけ歌える子たちなら、曲を提供してもいいなと思ったんだって。ただ、その時、まさか私が男の子だなんて、思いも寄らなかったと後で笑ってた」
「私もこないだ同じこと水上先生に言われた」と唯香。
「それなら上島先生の所に行ってたら、件の子は断られてたろうね。結局、その子のCDは200枚くらいしか売れなくて、すぐ契約切られちゃったね。こないだ妹が聞いたのでは、その子、もう引退して結婚して北海道でコンビニのオーナーやってるらしい。いや実は北海道に来たので、思い出した」
私はその経歴に覚えがあった。
「もしかして、その歌手って Akiko さんって人では?」と私は尋ねた。「あれ?知り合い?」と蕪田さん。
「実は Akiko さんと一緒にステージやったことあります」
「へー。でもそれって、ローズ+リリーを始める前だよね?」
「『A Young Maiden』を含む『Month before Rose+Lily』を作ることができたのはその時のステージマネーのお陰です。スタジオ借りたりミキシングの道具を揃えたりとかの資金にさせてもらいました」
「へー。じゃ、彼女なくては、あの名曲は世に出てなかったんだ?」
「ええ。20歳の私とマリが歌っても、あの曲はあそこまで人を感動させてなかったと思うんですよね。16歳17歳の私たちだったから、生まれた名曲だと思う」
「やはり、その年齢年齢で歌える歌ってあるんですね」とノエル。
「そう。だから15歳のノエルちゃん、真紅ちゃんでないと歌えない歌があるから頑張ろう」
「ねえ、冬。その Akiko さんとかいう人との話、私今初めて聞いたんだけど」と政子。
「別に聞かれたことなかったし」
「よし。今夜はたっぷり拷問して追求してみよう」
「また拷問なの〜?」
「なんかおとなの会話だね」と真紅。
「まだ見ぬ世界だね」とノエル。
「年齢もだけど、ケイ先生は、男の身体だった頃と、女の身体になってからと、歌う時の感覚、変わりましたか?」
と唯香。唯香はふだんは年齢が近いこともあり「ケイさん、マリさん」と言っているが、今日はノエルたちに合わせて「ケイ先生・マリ先生」と言っている。
「うーん。どうだろ?それは考えたこと無かった」と私。
「そばで聞いている限りでは変わってないよ。ただパワーがあがった感じ」
と政子。
「たぶん個人差が大きいと思うよ。私の場合は、身体にメス入れる前からかなり体質が女性化していたからね。手術後は男の身体で滞っていたものがスムーズに流れるようになってパワーが上がったという感じ。でも基本は変わってないかも。たぶん唯香ちゃんも、そんなに変わらないと思うよ。パワーは上がると思うけど」
「そっかー」
「唯香ちゃん、性転換手術受けて休養する時は、私が唯香ちゃんの仮面かぶって代役でステージに立ってあげるよ」とノエル。
「あ、私も代役引き受ける。交替でしようか?」と真紅。
「ああ、それいいね」とノエル。
ここ数時間でノエルと真紅はかなり仲良くなった感じであった。
「ありがとう。ほんとにお願いするかも」と唯香。
「私は手術後1ヶ月で復帰したけど、ふつうは半年は休まないと無理だよね」
と私。
「その休んでいる間も冬はたくさん曲を書いてたね」と政子。
「やはりケイ先生って超人的!」
札幌での突発ライブがあった翌日、ローズ+リリーの公式ホームページ上で来年前半のライブの予定を発表した。
「ローズ+リリーは2月23日に名古屋チェリーホール、5月5日に宮城県ハイパーアリーナで公演を予定しています」
と表示し、2月の公演は1月12日発売と告知した。
そして翌週、2012年10月27日(土)の午後、私の姉・唐本萌依が結婚式を挙げた。
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