広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・Xデーと復活(1)

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2022年12月初旬、あまり売れていない女性タレントAが突然死した。警察の調査で薬物の過剰摂取による急性中毒死と発表された。私は嫌な気持ちになった。彼女は、少なくとも一時期、百道大輔と付き合っていた。つまり大輔は政子と実質結婚し、子供まで作っておいて(本当は彼の子供ではないが)一方ではAと浮気をしていたのである。そのAが薬物死したということは・・・・
 
大輔が政子と付き合い始めた時、私は彼に言った。
「政子を辞めるかクスリを辞めるかどちらかにしてほしい」
 
彼はクスリをやめると誓った。だから私は彼と政子の関係を認めた。それなのに・・・
 

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百道良輔・大輔の兄弟はどちらもロックシンガーだが弟の大輔(1981) は高校で生徒会長を務め国立大学に現役合格し大学でも卒業式の総代になるなど、優秀で品行方正な性格で知らている。作成する音楽も明るくポップス寄りのロックである。
 
一方で兄の良輔(1973)は高校を退学処分になり、その後は建設作業員やトラック・ドライバーをしていた(免許取得費用は親が出してあげた)。しかしそういう生活の中から労働者フォークに近いロック作品を発表し始め、一時は高い人気を得る。音楽の品質についてもとても評価が高かった。彼の経歴から収入の低い人たちに特に人気で彼の作品はCD売上は少ないものの有線やカラオケでの収入が凄まじかった。
 
しかし彼自身が裕福になってくると生活が派手になり、銀座豪遊伝説なども出るようになり、やがて女性タレントとのスキャンダルを連発。そして18年ほど前に覚醒剤で捕まって以来、レコード会社から契約を切られてしまった。
 
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執行猶予にはなり、作品は自主制作してディストリビューター経由で販売し、またyoutubeの閲覧数でかなり稼いでいるものの、その後も黒い噂は常にあるので放送局などは彼を絶対番組には出演させない。
 
良輔の書いた曲を聴くと、私の耳には明らかな薬物の影響を感じる。そう思っている人も多いようで、しばしばネットで噂になる。しかし明るくポップな大輔の作品にも同様に薬の影響を私は感じていた。多分良輔から薬をもらっているのだろうと想像していた。
 
それで私は彼に「政子」か「薬」かの二者択一を迫った。彼は政子と交際?している間、かなりの量のタバコを吸っていた。おそらく薬を我慢するのにタバコで気を紛らわせているのだろうと私は想像していた。
 
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それで薬はずっと我慢していると思っていたのだが、タレントAが薬物死したということはその入手先は大輔ではないかと思った。だったら大輔自身も・・・
 

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それで私が大輔と話をしてこようと思い、恵比寿のマンションを出ようとしていたら電話が掛かって来た。千里である。
 
「忠告。大輔さんには関わらない方がいいよ」
「えっと・・・」
「考えてみてよ。大輔さんが薬物で捕まったとする。その時、冬が彼がクスリをやっていたのは知ってたけどやめるように言ってたとか言ったらさ」
「うん」
「冬も犯人隠匿罪。起訴猶予にはなるだろうけど、音楽活動1年自粛。冬が書いた作品が使えなくなり、上島先生の時以上の衝撃。日本の音楽界に大打撃。ローズ+リリーは当然活動停止。★★レコードも、冬が会長を務める§§ミュージック、またあけぼのテレビも大打撃を受ける」
 
「うっ・・・」
 
「だからここは一切関わらないことだよ。警察に何か訊かれても知らない、聞いてないで押し通すしかない」
「うーん・・・・」
「冬は自分ひとつの身体ではない。ポピュラー音楽界・芸能界の重要キーパーソンであるという自覚を持ってほしいね。だからくれぐれも軽はずみな行動はしないこと、下手なことは言わない」
「分かった」
 
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「この事件は行くところまで行くしかない気がするよ。今マリちゃん、大輔さんとどのくらいの頻度で会ってるの?」
「それがほとんど会ってないみたいなんだよ」
「はあ?なんで?」
「知らないけど、マリはデートの約束をことごとく忘れてしまうみたい」
「マリちゃんらしいなあ。でもそれなら好都合だよ」
「それに大輔さんは今アルバムの制作やってて、それでも時間が取れないみたい」
「だったらあまり会えないでいる間に話が済んでしまうといいんだけどね」
「それを願いたいね」
 
ここで“話が済んでしまう”の意味を私は彼の逮捕と思ったのだが、千里は実は別のことを考えていた。
 

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この時期、私と政子はローズ+リリーのアルバムの制作をしていた。コロナの折基本的には伴奏と歌は別録りなので、私と政子はだいたい夕方から深夜2時くらいまで政子の実家隣に作った“小平スタジオ”で録音作業を進めていた。
 
『星の銀貨』を見た後だったから12月11日頃だと思うのだが政子が言った。
 
「12月24日はクリスマスイブだからさ、クリスマスパーティーをするから冬も来てよ」
「私は20日くらいから1月10日くらいまで無茶苦茶忙しい」
「あやめ・大奈・夏絵・かえでと大輔も呼ぶからさあ、冬も出てほしい」
 
大輔さんも呼ぶということで私は結婚式の日取りとかを決めるのかと思った。それでコスモスに打診してみたのである。
「多忙な日に本当に申し訳無いのだけど」
「いいてすよ。いつも忙しくしておられますもん。こちらは何とかします」
「ごめん」
 
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ということで私はその日18時で上がらせてもらい、政子の実家に行くことにしたのである。
 

2022年12月24日(土).
 
私はここしばらく恵比寿のマンションではなく信濃町の§§ミュージック事務所で仕事をしていた。コスモスがかなり多忙なので、川崎ゆりこ副社長はもちろん、川内峰花音楽部長も、更には米本愛心音楽部長代理?までこちらに来てサポートしている。
 
15時頃政子から
「今夜は楽しいガールズパーティー」
というメールが来る。
「ガールズパーティって男性もいるのでは?」
「父ちゃんは今夜はスカート穿くこと承諾してくれた」
 
あまりその状況は見たくないな。
 
「最初妃登美ちゃんに月花ちゃんも連れて亮平も女装させて連れてきてよと言ったんだけどさ、妃登美ちゃんは面白がってたみたいだけど、亮平が拒否と言うのよ。だから代わりに大輔呼んだ。女装やってみてーと言うから」
 
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それで大輔さん呼んだのか!??彼はスリムな体型だし女装行けそうな気がした。
 

私は18時に信濃町の事務所を出るつもりだったが、コスモスが本当に多忙にしている様子なので結局18時半頃に佐良さんの運転するアコードで事務所を出た。
 
この車内で青葉(妊娠中?)から電話が掛かって来た。
「ケイさん、ここ1〜2日中に百道大輔さんのことで警察に何か訊かれるかもしれませんけど、何も知らなかったで押し切ってくださいね」
「あ、うん」
 
「間違っても大輔さんがクスリをやっていたのは知ってたけど、やめるように言ってたとか言わないでくださいよ。そんなこと言ったらケイさん、刑法103条、犯人隠匿罪に問われて、起訴猶予になったとしてもケイさん、音楽活動を半年くらい自粛するはめになりますよ。そしたらマリ&ケイの曲が使えなくなって芸能界が大パニックになりますから」
 
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「それ千里からも言われた」
「さすが姉ですね。ケイさんってその手の“計算”ができないから心配で」
「ありがとう。やはり大輔さん逮捕されそう?」
「分かりません。剣の6が出てるんですよ。もしかしたら海外逃亡しちゃうかも」
「剣の6か・・・」
「ケイさんなら意味分かりますよね」
「うん。旅立ちだよね」
 
「クスリをやってトリップしちゃうという意味にも取れますが、それとは別の意味のような気がして」
「分かった。気をつける」
「くれぐれも軽はずみなことは言わないでくださいね。万一警察に事情を聴かれるような事態があったら弁護士呼ぶ手もあります。でもそれだと疑いを残すことになるから、ご自身で疑いもされないように演技してください」
 
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「うん、ありがとう」
 
しかしこの姉妹は・・・・と思ったのであった。
 

19時半頃小平市の政子の実家に到着した。大輔が20時頃来るということだったので、それまで待っていたが来ない。
 
それで子供たちにはフライドチキンとかローストビーフとかを食べさせ、ケーキだけ切るのを待っていた。しかし21時すぎてもこないのでシャンメリーを開け、ケーキを切って子供たちに食べさせ、そして寝かせ付けた。
 
「メール送るけど返事無い」
と政子が言う。
 
「アルバム制作中だから何か中断できない作業をしてるんだろうね」
と私は言う。
 
ついに夜23時を過ぎたところで、私が
「取り敢えず先に始めてましょう」
と言って、シャンパンを抜き、私と政子、政子の両親の4人で乾杯し、ケーキやクリスマスの料理を食べながら歓談する。それで24時過ぎに両親にも休んでもらった。
 
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私と政子は徹夜態勢で、ずっとふたりでおしゃべりしながら大輔を待っていた。
 
「大輔、なんかにハマっちゃったのかなあ」
と政子。
 
「何かでホットな状況になってるんだよ」
と私は答える。
 
楽曲の制作をしていると、そういうのは割とよくあることである。どうかすると数日不眠不休で作業を続けて、やっとひとつの曲が完成することもある。途中で食事などにも出られないので、スタッフの人に買って来てもらったり出前を取ったりすることもある。
 

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2022年12月25日の午前4時過ぎ。
 
車が停まる音がして玄関でベルが鳴る。
 
「やっと来たみたいね」
と私はホッとした。政子は少し怒った顔をして玄関へ出て行く。
 
私はてっきり政子が大輔といっしょに入ってくるものと思っていた。ところがどうも様子がおかしい。
 
「どうしたの?」
と言って私も玄関の所に出て行く。
 
玄関の所に立っていたのは大輔ではなく、スーツ姿の男性2人であった。そして政子が私に抱きつく。
 
「大輔が・・・・」
と言ったまま政子は泣き出してしまった。
 
「どうしたんです?」
私は男性2人に尋ねた。
 
「新宿署の者ですが、百道大輔さんと良輔さんが亡くなられたので少しお話を聞きたいと思いまして」
と男性は警察手帳の身分証明書欄を見せて私に言った。
 
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何かあったようだと気付いて出てきたお母さんに政子を預け、代理で私が知っている範囲のことを刑事さんにお話しした。
 
刑事さんたちは「非常識な時間に来訪して申し訳無い」と謝った上で実は遺体の引き取り手を早急に探しているので訪問したと述べた。良輔の恋人が大輔が政子と付き合っていたはずと証言したかららしい。大輔のカーナビにこの家が設定されていたので来てみたという。
 
「私は中田政子とペアを組んで歌手をしております唐本冬子と申します。中田は百道大輔さんと2021年の4月頃から付き合っていたようです。入籍しないまま子供もできちゃったんですが、今日大輔さんがうちに来るから私にも来てくれと政子から言われたので私はやっと結婚することにしたのかと認識しておりました」
 
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「ああ、結婚なさるご予定だったのですか」
「私はそう認識していました。ただこれまで政子本人は結婚するつもりはないし子供も大輔の子供ではないと言っていました」
「中田さんには他にも恋人はおられたのでしょうか」
「そんな気配は無かったですね。それ以前の恋人とは、大輔さんと付き合い始めるより前に別れていますし」
「なるほどですね」
 

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「あのお、百道大輔さんはどのような亡くなり方をしたのでしょうか。お兄さんと一緒に車に乗ってて交通事故にあったとかですか?」
 
2人の刑事は顔を見合わせた。
 
「病死と思われます」
「2人ともですか!?コロナか何かですか?」
 
と私は驚いた顔をした。
 
2人の刑事は再度顔を見合わせた。
 
「実は薬物中毒の可能性があり、現在医師が死因を調べているところです」
「薬物中毒って風邪薬の飲み過ぎとか?」
「いや、違法薬物の過剰摂取の疑いがあります」
「え〜〜〜!?」
と私は驚いてみせた。
 
「あなたは百道大輔さんが例えばコカインとか例えばLSDとかを使っていたような話は聞いたことありませんでしたか」
 
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「そんな話聴いたことないです。大輔さんは他の人にも訊いてみれば分かりますが品行方正なタレントとして名前が通っていました。お兄さんの良輔さんはこれまでも何度か警察のお世話になっていたようですが、大輔さんは兄とは縁を切っていると言っていましたし、よくお金の無心をされていたようですか、一切耳を貸さなかったようです」
 

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